クラディールに憑依しました
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がんばって誤解を解きました
「あははははははははははははははッはははははッ!! あはあははだ、だめだあ、笑い死ぬ死んじゃうよぅあははははははははッ!!」
――笑い過ぎだアルゴっ!! 床を転げ回るなッ!! 叫び声や大きな音はドアの向こうまで聞こえちまうんだよッ!!
「リズ、もう大丈夫だから泣かないで、ね?」
「うん、ありがとうアスナ」
リズベットはアスナと一緒にベッドに座り、アスナの胸に顔を埋めて泣いている。
「……あの、この状況は何なのでしょうか……?」
たった今到着したばかりのシリカはこの状況が理解出来ていない――そして俺は現在……アスナに土下座中である。
「……取り合えず、シリカ来てくれてありがとう――そっちの泣いてるお姉さんの隣に座ってくれ」
土下座を止めてリズベットの隣にシリカを座らせる。
「さて、先ずはアルゴ――お前、この子とどんな会話したんだ?」
「――ひひ、ふーっ……ふむ? あの時はお前さんの話を聞きたがってると、手口からして直ぐに判定できたんだ」
「喋り方が素に戻ってるぞ」
「おっト、失礼しタ――そこでサービスで『そいつなら良く知っている同じ手口にあった事があル』と教えてやったのサ」
「泣いてたそうだな?」
「ん? あぁ、目にゴミが入ってネ――そのせいじゃないかナ?」
街中でそんなBADステータスは発動しねーよ……その場に居る全員が同じ事を思ったのか妙な沈黙が訪れた。
「兎に角、俺がそこに居るシリカに酷い事をした様な情報を流すのは止めろ」
「その事か、八百コル」
「買うから止めろ」
「よろしイ、第八層の森で起きた事件は結構目撃者が居てネ、オレンジプレイヤーが睡眠PKを失敗したって噂が出回ってるのサ」
「それが何で俺が酷い事をしたって話しになってるんだ?」
「数人の男に担ぎ出された女の子に、森の中で合流したオレンジプレイヤー……少し考えれば解るだロ? 身体を売って命だけは助けて貰ったと思われてるのサ」
「じゃあ、何で『失敗した』って噂で出回ってるんだ? それなら『身体を売って命拾いした』って噂が広まる筈だろ?」
「牢獄に居る連中が騒いだんだヨ、お前さんの顔が見えなくなったとたんに強気になったんだロ、『無実だ、此処から出せ』とナ」
「……面倒臭い連中だな――今からでも殺しに行くか」
「――駄目ですッ!!」
シリカが涙目になって叫んだ……おいおい、リズベットとアスナがびっくりしてるぞ。
「あ――ごめんなさい、大声出しちゃって……あの後、始まりの街から確認がありました――それでアルゴさんと事情を説明しに行ったんです」
「映像クリスタルと音声クリスタルの両方に記録した奴を渡して置いタ、二度と牢獄からは出られんだろうサ」
「手回しが良いな――俺の証言は良かったのか?」
「映像クリスタルがあるんダ、無用だ――それに、お前さんと連絡が取れると知った瞬間、連中が『大人しくするから呼ばないでくれ』と懇願してナ、思わず映像を撮ってしまっタ」
アルゴが映像クリスタルを操作して、牢獄の中で震える馬鹿どもが映し出される――見事な懇願と怯えっぷりだ、映像クリスタルに残してしまうのも無理ないな。
「……あなたは、彼らに何したの?」
「あぁ、第八層でな――その子を麻痺させて第一層でお前にやった様にメニューを開いて悪戯しようとしてたから、麻痺毒を塗ったナイフで刺して牢獄に放り込んだ」
「わたしがあなたに襲われたみたいに言わないで……『あなたがこの子を襲った』の間違いじゃないの?」
「もしそうなら、シリカが此処に来る訳無いだろ」
「何か弱みを握ってるとか」
「そんな事ありませんッ! この人は良い人です……あたしの為に牢獄コリドーまで使って……物凄く高いんですよね?」
「……た、確かに安い家なら一つ二つ買える程の金額はするけど……とても信じられないと言うか……」
シリカの真剣な眼差しにアスナは何も言えなくなったようだ。
「――話を戻すが、それなら何でこの子に俺がシリカを悪戯したみたいに伝わってるんだ?」
「それカ? 此処から先の情報は有料になル――とサービスを終了したからナ」
「それだと、どう考えても酷い事をされたって考えるのが普通だろ――そんな内容を金を払ってまで知りたがる奴が居るかッ!」
「………………これがそうでも無いんだナ」
「――あぁ、そう言えば聞いた事があるな、探偵って職業が継続できる理由が浮気調査がスゲー儲かるからだって」
「需要と供給は常に持ちつ持たれつサ」
「――話は終わったの? わたしとしては――あなたにはまだ聞きたい事があるんだけど?」
アスナが俺をまだ疑いの眼差しで見てるが――シリカが見ているので強く出られないみたいだ。
「俺の知っている事なら何でも答えるぞ?」
「……じゃあ、何でわたしにフレンド登録を送る事が出来たの? 今ちょっとした有名人扱いで新規のフレンド登録は全部拒否設定にしてるのよ?」
「第一層でPT組んだだろうが、その時のログからフレンド申請したんだよ」
「……そう、それならどうしてリズ――リズベットを探し出せたの? わたしの後を追ったの?」
「いや? そろそろクエストで手に入る武器よりも、鍛冶屋の武器が強くなってきてるからな――美人で可愛くてちゃんと仕事をしそうな子を探してたのさ」
「……本当かしら?」
「そう言えバ、そう言う情報が無いか前々から聞いてたナ?」
「――あたしの情報はそいつに売らないって約束したでしょッ!?」
「もちろん売って無イ――しかし、自力で見つけられたのだから諦めるんだナ」
怯えるだけだったリズベットも調子が戻ってきたようだが――。
「………………んー? という事は――結局俺はその子のお得意さんにはなれないって事か」
「え? あなた――これってそう言う話だったの? リズに武器を作って貰う為に?」
「うむ、女の子に酷い事をするオレンジプレイヤーと言う誤解を解いて、武器防具を作って貰う予定だったのだ――他に鍛冶屋を尋ねる理由が無いだろ?」
「――リズの身体を狙ってるんだと思ってたわ」
「……地味に傷付くなソレ――まぁ、誤解が解けても嫌われてるなら仕方ない――全ドロップ具現化」
メニューを弄り、部屋いっぱいにモンスターからドロップしたアイテムで埋め尽くされる。
「な、何よコレ!? こんなに散らかして何する気!?」
リズベットがアスナにしがみ付き震えだした。
「欲しい物があったら持って行け、残りは全部NPCの店に売る――今回呼んだ事に対する迷惑料だ」
「こ、こんなに!? 全部あなた一人で狩ったの!?」
「この世界で他にする事ねーだろ」
「オー、レア――レア、これもそれもドロップ率が低い物も関係無しに一定量揃ってるな? どうやって集めたんだ?」
「上の階層が開くまで各階層を三周ずつしてる」
「さ、三周!? 睡眠はどうしてるんですか――宿屋で寝ないと危ないんですよね!?」
「三日狩って四日目に寝てるな、そこのアスナと同じだ」
「そんな無茶な狩り方、第一層の頃だけよッ!! 今はちゃんと休んだりしてるわ!」
「『寝てる』って言わない所がミソだな」
「あー、だからあんた等は無茶苦茶強いんだ、うん、納得だわ」
スゲー呆れた声でリズベットがつぶやいた。
「あんた等って、こんな奴と一緒にしないでよリズっ!? ――でも、コレだけのドロップを全部店売りにするって本気なの?」
「重いだけで邪魔だしな、それにコレはごく一部でNPCから倉庫を借りてコレまで狩って来たドロップはそこに放り込んである――近い内に全部店売りだよ」
「――ねぇ、あんた何でそこまでするの?」
「そこまで? どれの事を言ってるんだ?」
「あんたのやる事、成す事、全部よ」
「――ふむ? それは他人に何故お前は生きているのか? なんて聞くのと同じだと思うが、答えよう。
――全ては今生きている事を実感して楽しむ為だ、痛みも苦しみも全て生きる為の糧にしてやるッ!! 俺は今、生きて此処に居るッ!! それを証明し続ける!」
「………………それが偽物でも? あたし達はアバターなんだよ? こんな偽物だらけの世界でなんで生きて行けるの? あたし達の現実は此処じゃないんだよ?
あたし達の本当の身体は病院のベッドの上で眠り続けてるんだよ? こんな世界なんて本物じゃないッ!! 終わらせてよ、あたしの武器が欲しいなら、こんな世界終わらせてよッ!」
ついに涙を堪え切れなくなったリズベットが顔を伏せて泣き始めた。
「――――――それが俺とお前の契約で構わないな? 茅場晶彦を倒す――とまでは行かないけど、攻略組の一人として手を貸して行くってのはどうだ? ――それじゃ駄目か?」
「……そこは嘘でも茅場を倒すって言いなさいよ」
「正直な話、ごり押しが通用するのも下層だけだろうしな、俺の利点――と言うか長所は普通のプレイヤーよりも狩の時間が長い事だけだ。
ボスに通用するかなんて判らない――怖いんだ、攻略組に参加して失敗して誰かの命を危険に晒すのが」
ディアベルやキリトの戦い方……あのボスの攻略法は信頼できる仲間と命を預け合って――それで初めて出来るものだ……俺にはそんな仲間が――信頼できる味方が居ない。
「――それなら、デュエルをしましょう、わたしがあなたを試すわ――血盟騎士団副団長が試すの――悪く無い話でしょ?」
突然告げられた過酷な試練に――俺は戦慄するしかなかった……何故なら、俺は一度も俊敏にポイントを振った事が無い――STR=strengthのみ、力馬鹿、脳筋ステータスだからだ。
閃光のアスナにどうやって勝てと? ――――――取り合えず、罠を考えよう……できれば捕まえてフルボッコできそうな罠を――頭を回せ、知恵を使え――。
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