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クラディールに憑依しました

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好き勝手やってみました

「お、オレンジカーソル――コイツHPカーソルがオレンジだ!!」
「レッドギルド!?」
「あー、黙れお前等――死にたいのか?」


 毒を塗ったナイフを左右へお手玉して見せると、その場に居る全員が黙った。


「――さて、お嬢ちゃん、コイツ等殺して良いか? ん? どうした? 黙ってちゃ時間切れで全員死ぬぞ?」


 俺の台詞にシリカは震えながらも声を振り絞った。


「だ、駄目です……殺すなんて――絶対駄目」
「おーおー、心優しいね? コイツ等はさっきまで君が死ぬよりも辛い、とーっても辛い気持ちを味あわせようとしてたんだぞ?」
「それでも……人を殺したりするなんて駄目です」
「そうかそうか、お嬢ちゃんの気持ちは良く分かった――では、お前等に聞こう このまま死ぬのと、牢獄に入るのと――どっちが良い?」
「ろ、牢獄ってなんだよ!?」
「死にたくない!! 助けてくれ!!」
「助けてくれるんじゃないのか!? その子が逃がしてくれるんじゃないのか!?」
「お前等――都合の良い解釈をしているようだが、俺が殺さないと何時言った?」


 アルゴから買い取った牢獄に繋がるコリドーを発動させる――『お人好しメ』などと笑われてしまったが、俺の勝手だ。


「十秒やる、喚くと時間切れで全員死ぬぞ?」


 出来るだけ低い声で、静かに急かしてやると、麻痺毒で動けなくなった男達は牢獄を選んだ――SAOは表情が過剰でいかんな。

 あぁ、牢獄とは始まりの街に居る最大のギルドが管理しているゴミ箱だ、囚人の世話代で結構な金額を強いられるが。
 モンスターと戦って死ぬ可能性が無くなるのだ、まぁ、自由も無くなるが……ある意味究極のセーフティゾーンだな。


 牢獄に設定されたコリドーを使って男達をゴミ箱に送った後、俺は一人残された少女に振り返った。
 色んな事が起こり過ぎて理解できない――そういった表情でシリカは暫く虚空を見つめていた。


「チーズケーキまだあるけど食うか? そろそろ耐久値がヤバイから食ってくれないと困るんだよな、あんま甘い物好きじゃねーし」


 その声にシリカは俺の顔とチーズケーキを交互に見ると、安堵して泣き始めた。


「あー、怖かったろ? とりあえず食っとけ、水もあるぞ?」
「……はい、ありがとうございます」


 麻痺状態も回復したようで、俺がケーキと水を渡すとゆっくりと座り直した。


「まずは何があったか聞かせて貰おうか? 大体は把握しているが……俺に会った後はどうしたんだ?」
「あの後、宿屋に泊まろうと思ったんですけど、安めの宿屋は全部埋まってて高い部屋しかなかったんです」
「観光客が多かったからな、宿は数日から十日間は空きが出ないだろ――攻略ペースもそれくらいだし」
「はい……第八層まで、殆ど一週間から十日もすればクリアしてましたから……宿も空いてると思ったんです」
「始まりの街から出てくる人も増えて来たからな……でも、それだけじゃないだろ? 俺が売ったチーズケーキ。 アレで宿代が無くなったんだ――違うか?」


 シリカが食べかけのチーズケーキを置いて俯く。


「……はい、それで、一晩くらいなら外でも大丈夫かなって、馬小屋で藁を敷いて眠ったんですけど……」
「お前さんが宿屋周辺を何度も往復してるって目撃情報があったからな、それで目を付けられたんだろ」
「……でも……それだけで――あたしの寝てる場所まで判るものなんですか?」
「アルゴには見付けられてたろ? 大体のゲームじゃ村人全員に話しかけたり。
 クエストのヒントを探す為に徹底的に捜索するからな……街が石畳じゃなかったらスコップで掘り返してるぜ」


 そうやって探索してた連中――アルゴやあの男達に寝ている所を見つかったんだろう。


「あの……アルゴさんからお金を頂いたんですけど――貴方ですよね? チーズケーキをあたしに売った人って貴方しか居ませんから」
「あぁ、チーズケーキの代金を貰う時にコルが少なくなってるのがチラッと見えてな、こう言う事が起きそうだったから頼んだんだが――」
「あたしの無駄遣いのせいで知らない人にまで迷惑を掛けたくなくて……あの時、アルゴさんに『お金を戻して欲しい』ってお願いしたら」
「『返却されたら全額貰う契約になっていル』だろ?」
「……はい、それで受け取る事にしたんです、別料金も貰ってるって言ってましたから――お金は今度会った時に返そうと思ったんです」


 アルゴに頼んだお使いは――シリカに宿代を届ける事だった。

 幼い女の子が夜を明かそうと確保した寝床に男が立ち寄り金を渡す……誤解では済まない事態になるのは目に見えてる。
 シリカが少々高めの宿代を受け取らなかったら貰って良いと言っては置いたが――結果はごらんの有様だ。


「……けど、どうしてこんな所に居るのか判らなくて……確かに宿屋の裏で寝てた筈なんです」
「街から寝ている人間を街の外に連れ出すなんて簡単な事だ、担架とかに乗せれば簡単に運び出せる――今回は寝袋だったな」
「あの、どうして判ったんですか? あたしが連れ出されるって」
「子供のプレイヤーなんて珍しいからな、始まりの街から出て最前線まで出て来てる女の子となれば更に目立つ」
「あたし……このゲームが初めてで、何が目立つ行為なのか全然判ってなくて……」


 あー、相当凹んでるな……気分転換でもするか。


「初めてのゲームがコレか……でもそれだけじゃないだろ? SAOは確か十五歳からの推奨だったよな? お前いくつだよ、どう見ても十五歳には見えない」
「……十二歳です」
「――小学校六年?」
「はい……二学期でした」
「寅年?」
「はい」
「俺も寅年だ」
「――え?」
「干支が一周してるんだよ、同い年じゃないからな?」
「あ、そうですよね――びっくりしました、クラスメイト以外の寅年の人って親戚のおじいちゃんしか知らなくって」


 うむ、気が紛れて笑顔が戻ってきたな。


「ほれ、手が止まってるぞ、チーズケーキを食い終わったら街に戻るぞ、宿屋ならロックを解除される事も無いし、こんな事にはならないからな」
「はい。 ……でも信じられません……寝ている人を勝手に街の外に運び出すなんて」
「それよりも今回の件は大変なんだぞ? ――まず、寝てる人間の指を使って他人がメニューを開く事が可能だ」
「――ッ!?」
「完全決着デュエルを了承させて殺す事も可能だったんだ、実際麻痺状態になって動けなかっただろ?」
「そんな……」
「金やアイテムも奪う事だってできる……何か無くなってるアイテムとかないか?」


 シリカがメニューを開き色々と確認する。


「……大丈夫です、何も無くなってません」
「そっか、それであの連中がやろうとしていた事だが――ハラスメントコードが発動してなかったろ? 寝てる間に解除されたんだろうな」
「そんな事――出来るんですか!? どうやって!?」


 シリカの顔が真っ青になり急いでメニューを確認しようとするが、俺はシリカの手を握って止めた。


「――何するんですか!?」
「んー、助けてやった報酬を貰おうと思ってな」
「ほ、報酬!?」
「それと授業料な、よく見てろ……これが倫理コードだ、これを解除すればエッチな事をしても――つまり、こう言う事も可能な訳だ」


 シリカを押し倒して抱き枕のように抱え込む。


「嫌ー!?」
「ふむ、抱き心地に関してだが――抱き甲斐がないな――色々無い」
「――酷いです!! これでも色々、少しは成長してるんです!!」
「無いものは無いからなー」
「とにかく離して下さい、もうッ!!」
「ガタガタ騒ぐな、こっちは牢獄コリドー買ってとんだ散財だったんだぞ」
「あ……ごめんなさい……牢獄コリドーって高いんですよね? 聞いた事あります……」


 シリカが大人しくなった所で後詰めをするか。


「……お前さ、このゲームがどれくらいでクリアされるか予想した事あるか?」
「……早くクリアできれば良いなとは思いますけど」
「俺は最速でも三年半は掛かると思う」
「三年半ですか」
「あぁ、三年半後にクリア出来たとしてだ、同級生はとっくに中学卒業して高校に入学してるだろ」
「……留年ですか」
「それだけじゃない、今みたいな連中がゲームクリア後、何もしてこないと思ってるのか?」
「え?」
「顔を覚えられたら現実世界でも襲ってくるぞ? 数年間の留年扱いになるんだ、調べりゃSAO経験者だってバレるだろうしな」
「そんな……」
「さっきみたいな連中が現実でもストーカーしてくるだろうな――出来れば殺したかった、面倒臭いから」
「でも、……それでも、人を殺すのは間違ってると思います」
「ならせめて、ゲームの中だけでも強くなれ、あんな連中を返り討ちにする程度にはな、俺も誰かを殺さずに済む」
「……はい」
「まぁ、そう言う訳で、明日の朝まで抱き枕になれ」


 改めてシリカを抱き寄せる。


「そ、それは嫌です!!」
「んー? これくらいは役得がないとなー、反抗的な態度だと服の下に手を突っ込むぞ?」
「や、止めて下さい!」


 メニューを開けさせないようにシリカの指を固定したまま、冗談半分で開いた右手を這わせ様として手を止めた。


「――アルゴ、もう来てるんだろ? 出て来いよ」
「やっぱリ気付いてたカ」


 茂みの中からアルゴが出て来た、俺が手を離すとシリカは急いでメニューから倫理コードを探し出してロックを掛け直した。
 これで異性が体に触れたりすると『牢へ送りますか?』が復活した訳だ。


「いやはヤ、どうなる事かと思ったガ――意外とまともに終わったナ」
「オメーは儲かったから好き勝手言えるだろうけどさ……あー、面倒クセエ……散財だぜ」
「底抜けのお人好しが見れて楽しかったヨ」


 アルゴと無駄話をしてると、茂みがガサガサと揺れ始めて一匹の小竜が姿を現した。


「おー、レアモンスターか?」
「珍しいナ? A級食材の類カ?」


 武器を構えようとするアルゴに合図を送って止めさせる。


「――っ!」


 小竜はシリカに近付いて頭を摺り寄せたり、翼を広げてアピールしている。


「あの……この子は?」
「餌が欲しいんだろ? くれてやれば?」


 シリカがナッツを取り出し小竜に与えると、メニューが開きネーム登録が表示された。


「これって?」
「ペットに出来るみたいだな、SAOもそう言うシステムがあるんだな」
「コレは凄い特ダネだネ――どうだイ? この情報を売る気は無いかナ?」
「使い魔なんて攻略組でも持ってる奴は居ないからな、この情報は上から数えられるくらい重要かもしれないな」
「え? でも、情報を売るってどうしたら良いんですか?」
「どうやっテ使い魔にしたかを聞かれたラ、情報屋のアルゴに売ったから答えられないって言えば良いのサ」
「でも、それでお金を取るんですよね? そんなお金なんて要らないです」
「おやおヤ、頑固なのは相変わらずのようダ」
「せめてこの階層で仲間にした事だけは黙っておけ、この辺りのモンスターが狩り尽されて混乱を招くぞ」
「……はい、そうします」
「で、どうするんだ? そいつの名前」
「えっと、ですね……」 


 シリカがメニューを操作して名前を決めた『ピナ』


「ウチで飼ってる猫の名前なんです」
「そっか、大事にな」
「そろそロ、街へ行こうカ――キープしてある宿泊施設が埋まるかもしれなイ」
「おー、見つけられたか、さて、帰ろうぜ」
「――はい」


 街の入り口まで来ると俺はNPCの衛兵に囲まれた。


「ふむ、やはりこうなるか」
「え!? どうして!?」
「あいつ等を麻痺させるって傷を負わせたからな、オレンジ判定――犯罪者って奴だ」
「でもアレは、あたしを助ける為に!!」
「良し悪しじゃない、システム上での判定だ、その辺りはアルゴにでも聞いて勉強しろ」
「もちろん料金は頂くがナ」
「んじゃ、此処でお別れだ、カルマ回復クエストは一日二日掛かるらしいからな、ちょっと行ってくらぁ」
「では予定通リ、この子は宿まで連れて行くゾ」
「あぁ、任せた」


 衛兵に連行されながら片手を上げて別れの挨拶を送る。


「あの、あたし、シリカって言います。 後でフレンド登録を送って下さい」
「――気が向いたらな、あ、そうそう、結婚を申し込んでくる奴には気を付けろよ? 倫理コードの事を知ってて近付いて来てるからな?」
「――ッ! わかりました!」

 こうして、俺の第八層での長い一日が終了し、カルマ回復の為に更に二日程潰れたのだった。 
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