ソードアート・オンライン クリスマス・ウェイ
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ボス攻略(1)
五メートルほどの体躯、手には骨を模した巨大な両手昆、目にはらんらんと紫色の炎を灯し、頭頂部から赤い一本角を持つ、巨大人型骸骨、第二十一層フロアボス《Wendigo》。
この――ウェンディゴというフロアボスの名前に、俺はおろかアスナも、クラインも覚えがなかった。七十五体のフロアボス名称+フィールドボス名称すべてを即座に筆記しろ、などと言われてもたぶん何体か取りこぼすだろうが、あのアスナも思い出せない以上、旧アインクラッドにウェンディゴという名前のフロアボスは存在しなかったと考えるのが自然だろう。
フロアボス名称としては思い出せなかったが、その名を持つモンスターは他のRPGタイトルではメジャーなので、もしかしたらと思いリーファに邪心級モンスターがうろつくヨツンヘイムに聞いてみたところ《Ithagua》――イタカというMob邪神級モンスターが存在するという。
イタカ、という名前にはまさしく聞き覚えがある。それこそ二十一層のフロアボスの名前だったはずだ。ようするに俺の目の前にいるネームドボスウェンディゴは、ALOに同名のモンスターが存在していたせいで変名を余儀なくされた、一種のかわいそうモンスターであるらしい。まあ、存在そのものが別種になっているフロアボスも存在するので、それよりはいくらかマシなのかもしれないが。
ALOにアインクラッドをつっこんだ事により、偶発的に発生した変名の悲劇にマナ・ポーション一個分くらいの同情を抱きながら、俺は容赦なくスケルトン型ボスモンスター、ウェンディゴの骨しかない脚に《バーチカル・アーク》をたたきつける。上下のコンビネーションで硬直していても使用可能な体術スキルの正拳突きをコンボで叩きつけると、激突部から黄色のエフェクトがぱっ、と咲いて消えていく。
ナックル装備もないので与えられるダメージはほんのわずかだが、そのほんのわずかなダメージが足りず、とどめを刺せなかったなんて思いはしたくない。されどもう一撃ソードスキルをお見舞いすると、今度はヘイトの加算につながってしまう。盾役がタゲとりをがんばっているおかげである程度安心してソードスキルをたたき込めてはいるのだが、ダメージディーラーのヘイト加算だけはどうしようもない。
まわりにいるのが気の知れた仲間だけであるなら「ヘイト増加ばっちこい! ステップ&パリィでノーダメ上等だぜ!」なのだが、こういう集団戦でそれをやらかすと戦線の崩壊につながってしまう。
俺は自らも攻撃に加わりつつ、アスナに向かって手振りを行い戦線から下がることを伝えて、思い切りバックダッシュした。ボスに対して背を向けて逃げる、という愚は犯さない。
下がる俺とは逆に、ヘイトの減少がはじまった何人かが俺の下がるのと同時に走り出した。ボスが時折発動させる、両手昆広範囲攻撃の範囲外まで下がり、手短のメイジにリバフをお願いし、ダメージをポーションで回復させる。レモンと緑茶を混ぜた清涼感あふれる液体をのどに流し込みつつ戦況を見守った。
「いやらしいAIだよな、あいつ」
ついグチっぽくつぶやいてしまう。
スケルトン型モンスターにはバッドステータス系魔法が効かないことが多い。ウェンディゴも基本的にそれを踏襲しているので、阻害系の魔法はほぼはじいている。そうなるとダメージディーラーの物理攻撃またはメイジの魔法が鍵になってくるのだが、イヤらしいことに、ウェンディゴは攻撃に対するヘイトの増加率が高めに設定されていようで、ダメージディーラーが全力攻撃ができない。
しかも――。
人間で言えば瞳の部位に灯る、紫色の炎の強さが増した。眼窩で膨れ上がった炎はさながら花火のように周囲にまき散らされ、円形上に広がっていく。ウェンディゴを中心に攻撃をおこなっていたプレイヤーの何人かが壁のごとく押し寄せる炎の波にまきこまれ、その瞬間、いままで軽快に動いていたプレイヤー達の動きが明らかに緩慢になった。
あの紫色の炎には、ダメージはないものの、軽いノックバックと敏捷力をマイナスさせるデバフ効果がある。
動きをゆるめたプレイヤーに追い打ちをかけるべく、手に持った昆を頭上で回転させ始めるウェンディゴ。この強攻撃準備中にある程度のダメージを負わせれば、広範囲攻撃をファンブルできる――しかし、この即席パーティのメイジ火力ではそれが行えない。炎の範囲外で待機し、デバフを避けた上でダメージディーラーがソードスキルで押し切るのも手段としてあるにはある。しかし、もしもモーションが止まらなければミイラとりがミイラになってしまうので、迂闊に近づけない。
何者にもじゃまされず、ボスモンスターは遠心力を乗せた昆を地面にたたきつけた。薄暗闇色のライトエフェクトが放射線上に広がり、よける、守るもままならず、ウェンディゴの餌食になるプレイヤー達。
これがもしSAO上で行われていたなら、HPを無くした瞬間永久に退場となるので未だにこの光景は、心臓に悪い。
が――。
葬られ、リメンライトとなったプレイヤーに暖かな光が降り注ぐ。メイジによる蘇生がおこなわれ、再び妖精たちに実体が生まれた。一度リメンライト化するとバフがはずれてしまうので、蘇生したプレイヤー達はどこかのタイミングで下がる必要がある。盾役も葬られてしまったため、その瞬間だけは誰かがボスのターゲットを取らなければならない。
よし、ここは一丁俺がダメージリソースぶち込んで、とさっきからボスのヘイト以上に溜まっているフラストレーションを解消しようと一歩踏み出すと――。
「や、あああああ――っ!」
メイジの詠唱やら戦闘音やらでそれなりに騒然としているボスフロアに、涼やかな気合いが響きわたる。
俺よりも早く、白と青の流星がウェンディゴにおどりかかった。
後書き
HPバーのことは反省しています。時間があれば改訂します。
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