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妖精のサイヤ人

作者:貝殻
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第五話:決着!そして決勝戦へ!

 
前書き
あけましておめでとうございます。少しずつ投稿を増やすよう努力しますね。…KAKAROT?…努力しますね!!(ヤケクソ)
まぁ、進みが遅い作品ですけども、今年もよろしくおねがいしますね。
…深夜テンションで書いてたから今回の話も拙いと思います。では、第五話…どうぞ。 

 
『■■■■■■―――――!!グ…オオオオ―――――ン!!!

雄叫び。その獣の雄叫びにより山が揺らぎ、鳥たちは空へと逃げていく。獣の周りには数百メートルのクレーターが出来上がっており、そのクレーターの中心にいるのが雄叫びの主である獣だ。
獣の姿は―――ゴリラ、或いはその動物と似たバルカンというモンスターと似ているが、その獣と近い姿しているというのなら、猿。
猿を強大化させ、さらに筋肉質へと変貌した猿と思わせる凶暴性のある風貌だ。
だがその獣の纏う毛は誰もが知る猿の地毛とは違い――真紅に染まっていた。

『クオオオオオオオオオ――ン!!!!!!!!』

再び雄叫びを上げるその獣の前に、彼女は立っていた。
ただその場を立ち尽くし、そして咆哮を上げる獣―――真紅の大猿に対して恐怖するような表情でもなければ怒りの表情でもない。そのようなマイナスに含まれるような表情ではなく――むしろ逆。
大猿に対してまるで愛おしい者を見つめるような笑みを浮かべているのだ。
対し、大猿は自身に向けられる表情にピクリと止まるような動作をするが、すぐに凶暴さを再度に表す。
女性に向けて森の環境をいとも簡単に破壊可能と思わせるような巨大な腕を振り上げ、その命を無にするために下ろした。
振り下ろされたその拳の威力は周りの山すらも巻き込むような衝撃と風圧を生み、森を破壊する――が、振り下ろされたその腕による被害は衝撃と風圧だけだった。
何故なら、女性がその腕をただの片手(・・・・・)だけで受け止めたからだ。

『!?』

別にこの女性は木よりも太い大猿のような腕をしているわけではなく、誰から見ても細く、白い腕だ。そしてその手足や体つきも、だ。
どこを見ても筋肉質な身体なわけでもなければ特別に鍛えられているような形はしていない。むしろ一般の異性である男がどこから見ても見惚れるような、女性の理想像を詰め込んだようなスタイルだ。だからこそ理性が失っている大猿でさえ、己よりも小さい生物が行った行動に心底理解不能となっているのだ。
女性の身や木よりも太く大きいその腕をただの片手だけで受け止めた(・・・・・)
受け止められた大猿はただその現状に早く立ち直ることができなかった。
そんな大猿に対し、女性は大猿の腕を受け止めながら口を開く。

「駄目ですよ、そんな簡単に理性を失っては」

まるでヤンチャした子供を叱るような、しかし優しく発せられた声音。
この大猿は、女性にとっては子供として見られているのか、それとも―――。

「理性を取り戻してください―――ああ、しかし。そんな姿になっても相変わらず可愛らしい」

淡々と、愛情が籠もった声で大猿に話す女性はただ微笑んでいた。受け止めた大猿の腕をもう片手で撫で始め、自分よりも巨大な真紅の大猿を見つめ―――そしてその姿が消えた。

 『グオオオッ!?』

ドォン!!!!

爆発音と大猿の悲鳴が再び山に響き渡り、その後に巨大な何かが倒れるような音が起きる。真紅の大猿の巨大な肉体は地面へと倒れた―――大のように倒れたその身体の上にさっきと同じように堂々とその女性は立っていた。

「フフ…、もう目は覚めましたよね?」

『グオ…オオン…』

女性の返答に、大猿は力のない鳴き声を漏らした。どこか、泣き言にも聞こえるその鳴き声に女性は色っぽくまた微笑んだ。

「ここからが本番ですよ、ネロ様」


★★★★★★★

互いで放つ本気の攻撃がなかなか攻め手にならない、しかし互いの攻防が決め手にならないことすらも気にせずに少年と男はただこの試合を楽しんでいる。
決勝戦ではないのにも関わらず、後のことすらも考えずに互いの全力をぶつけ合っていく二人に会場内の人たちはその光景は驚愕の一言だった。
今までの試合は実力の差が離れすぎている選手たちによって一瞬で片付けたりされた試合だったため、今回の試合は本当にハズレだったと思い沈む者も居た。だから決勝戦こそ見応えになるものだと思っていた彼らにに本気と本気のぶつかり合いをしているネロとギクリが衝撃になった。

「す、すげぇ…アイツら、互角に戦っているぞ」

「てかどうなっているんだありぁ…」

「なかなか攻め手にならんようじゃのう…しかし、魔力がまだまだだというのにやるものじゃな」

「え、爺さん見えて…」

『ネロ選手とギクリ選手が止まらない!移動の速さが上がってきていて私の目にすら追えなくなりそうです…おおっと!?」

野次馬とアナウンサーの歓声が響いていた会場内に、それらより一際大きく鳴り響く衝撃音が走る。
棒による突きを放っていたギクリの顔にその突きを紙一重に交わして全力の一撃を込めたネロの拳が食い込んでいた。

「ヌゥッ…!?」

「うおおおおおおお…おおおおおおおおおお!!!」

殴ったと同時にネロは己の中にある気を全てギクリの顔へ放った拳へと収束させ、新たな技を生み出す。気を纏ったその拳は威力を更に加速させてギクリの顔へと放たれた拳を完全に振り抜いた。
振り抜かれた拳によってギクリは数メートルまで身体が空中へと飛ばされた。

「ぐッ…まだまだだ…!!」

しかしギクリは体制を整え、舞台に着地した途端にすぐにネロへと突進した。

「帰ってくるの早えよ…!!ぐおおお…!!」

すぐさまネロへと棒を振り下ろすもネロは片手でその攻撃を受け止め、またカウンターの蹴り技をギクリはに向ける。
足による蹴りの連打。しかしそれだけでは対処されるとネロ自身は直感で気づいていた。
そしてネロの直感通りにギクリはその連打を棒で受け流しては避けてネロの顔へとまた棒による突き技を開始する。
棒の先がネロの顔へと近づく時、ギクリは見た。
目の前の光景―――ネロ少年の口が明るいことを。

「…!まさか…!!」

すぐさま距離を取ろうとするが、時はすでに遅く。

「があああああ!!!!」

ネロの口から―――特大な赤い閃光が飛び出た。
その閃光はギクリすらも埋め込み――その中心が爆発した。
だが大きな爆発なわけじゃなく、範囲が舞台だけに留まる。そして閃光を放ったネロはその中心を睨みつけている。

「…やったか…?…ハッ…!やべえ…!?」

無意識的に放っただろうその言葉に気づいたネロはすぐに慌てる。なにせ、今の言葉はある”フラグ”に繋がるかもしれない。
勿論、そういうことは多くあるわけではないが、しかしなんでもありな世界にいると認識しているネロはこの言葉がどれだけ不味いのか、前世のアニメや漫画などで教わった。
そして―――爆発の中心に煙が上がる中、それは飛び出た。
棒を片手に、ネロを標的に定めだ鬼と思わせるような顔をした男が一人、ネロへと突っ込んでいた。

「ち…チクショーッ!こんなときにフラグ回収しなくていいのにィ!!」

「何をほざくか!今!其方の目の前にいるのは某であろう!!!」

ギョッとなったネロに隙かさず棒による攻防戦に入るギクリ。ありとあらゆる、正しく彼が身に付けてきた技、相棒の棒を長年の修練による付き物か我が身体当然のように身のこなしで棒術をネロに仕掛けていく。
ギクリの体力は有り余っている訳ではないが、だが彼が体験してきた武術やあらゆる暴力による経験今のギクリをこの場に立たせている。ネロに話した才能のない身のギクリは、才能のない代わりにあらゆる鍛錬を熟してきたのだ。たかが光線(・・・・・)など、立ち上がれない理由などなりやしない。
そして攻撃を仕掛けられているネロはもうただ必死に直感頼りに避けていることしか出来ない。
いや、カウンターのチャンスはあるが、そのチャンスを直様にギクリの棒術による技が全て潰してくるのだ。

「どうした!?其方ならば反撃はできよう!!」

「無茶…言うなおい…!!」

先程よりも手数を多く、そして速くなるギクリにネロはやはり直感による回避だけで一杯だ。
カウンターすらも困難な今、さっきの不意打ち攻撃も通用しないのだろう。
もし、ネロがギクリよりも上のステージ、或いは身体が勝手に動く御技を会得していたのなら話が違ってくるだろうが…ネロはそんな実力もなければ神の御技を酷使することすらも不可能なのだ。
ただでさえ”あの”強化技を覚えてないのにそんな上に行くような技を彼が覚えるはずがない。できてたのならこんな理性がいつ失ってもおかしくないような状態と直感による野生の勘(ワイルドセンス)を習得しようと思っていなかったのだから。

「――!がァ…ッ!!」

「!むゥッ!!?」

それまで避けていたネロに、変化が起きた。
ギクリの攻撃を必死に避けていたネロの目が、一瞬だけ狂気の色が走った。
気による衝撃波を爆発させ、ギクリを吹き飛ばしてネロはすぐに膝をついた。
さっきの一撃で何されたのかわからなかったギクリだが、目の前の少年に異変が起きているのを感づく。
ネロの目が、黒から赤に変わって実力がアップしただけだと思っていたギクリは、この状態がネロにとってもやはりデミリットになったということに気づいた。だが、一体どんなデミリットなのか?

「グオッ…ォォッ…!」

「…もしや、理性が…?」

唸り声をあげる少年を見て、さっきの幻想を思い出す。あの幻想は―――正しく獣、そして間違いでなければ猿だった。それも、狂気のような真っ赤な目をした猿が。
ならば、今のネロ少年に起きているこの異変は?もしやその猿による影響か?

「…昔、ある話を聞いたことがある。古代から尻尾の生えていたサイヤ人は――先祖が大猿らしき化け物を接収(テイクオーバー)したと。恐らく、ネロ少年はその先祖から大猿の狂気を引き継いでいるやもしれん」

『な、なるほど…では今、ネロ選手は己の中の獣と戦っているということですね…!』

さっきまで聞き流していたアナウンサーの実況に、何故か実況者が増えていた。そして今、その実況が的を得ているかもしれない実況者に目をむけばギクリは目を限界までに開けるほど驚愕するのである。

(な…何故ここに聖十大魔道(せいてんだいまどう)が…!?…いや、今はともかく…かの魔法の天才の一人がこう口にしている。恐らく真実であろう…ならば…)

この試合は、休止になってしまうか?
一瞬この言葉を思い浮かべた。せっかくここまで進んだこの試合を、二人の対決をこんな形で終わってしまうのか?もっと続けたい、もっと闘いたい。もっとこの先を歩みたい。そんな願望が出てくる。
だが、このような事態になってしまうのならきっとこの試合はすぐに休止させられてしまうだろう。
それも、自分よりも遥か上にいるであろう魔道士、あの老人の手によって。

「ここまで、か…」

腑に落ちない思いだ。このような形で決着になるなんて、思いたくもなかったからだ。
アナウンサーがネロを見て、試合中止の声を上げようとしたその瞬間だ。
武舞台の破壊音が周りに響き渡った。

「…其方…」

「…これはすごいわい」

その破壊音の場所に、拳を地面に叩きつけたであろう茜色のサイヤ人。ネロが息が荒いながらも、まっすぐギクリをその赤い眼光で睨みつけていた。

「次で…次で最後だ…まだやんぞ…ッ!」

ネロがその言葉を吐き捨てた時、ギクリは自分の口角が上がるの感じた。
そして次に自分の気持ちが久方ぶりに高揚するのも感じて、棒を突きの型にして深く構える。

「――ならば、自身の最大の技で決着付けるとしよう!そのほうが格好が付くだろう?」

汗が溢れ出て、身体が震えながらもネロは安心するように、そして好戦的な笑みを浮かべる。
一瞬であれ、理性が呑み込まれかけたネロだがある光景が脳に過ぎったことに理性が留まった。
その光景は――初めて大猿となった自分をなんの疲れもなく当然のように倒した姉の時だ。
あれは彼の中ではトラウマであり、そしてこの戦闘衝動を抑えるのに良き薬となる思い出だ。トラウマであるが。
だが、そのおかげでいま成し遂げたい決着をつけられる。今一度、自分に修行をつけてくれた姉に深く感謝しながらネロは自分の中にある理想の人物が得意とする技を構える。
腰まで両手を持っていき、何かを包み込むかのように両手を上下に構える。その両手の中心に、自分の中にあるありったけの気を収束させる。後の試合なんて関係ないと言わんばかりに。残りの力を残さないと言わんばかりに。青い気が収束し、周りをその青い気の輝きが日差しの光を無視するかのように周りを青く照らしす。

「―――!かぁ…!めぇ…!」

「フゥ…ハァッ!!」

ギクリも己の中の全てを引き出さんばかりに魔力の全てを溢れ出す。身体強化を限界なまでに。
命が絶つとまではいかないものの、しかししばらくは起き上がれないだろう力を溢れさせる。目の前の少年に己が磨き上げてきた技の全てを曝け出すために。

「これが…最後だ!!」

「はぁ…!!めぇ―――!!」

お互い正しく全身全霊。後先考えずに自分の力を使い果たそうとする二人。しかしそれを止めようと思う者は観客の中にはいない。ただ二人がどんな光景を魅せてくれるのか。
その舞台に最後まで立った者が誰になるのか。
舞台の上にいる選手の二人は、その目に宿す炎を極限にまで燃やすかのように相手を睨み続け――そして。

「波アアァァァッ!!!」

「雄オオォォォッ!!!」

全身に魔力を惑ったギクリは地面を蹴り、立っていた場所の周りの舞台の一部だった瓦礫を撒き散らすようにネロへと跳んだ。
一瞬。
秒すらも超えた世界の先、そのときにギクリの武器である棒はネロの胴体に突き刺さるだろうと目で追っていたマカロフにはそう確信していた。
一瞬にして一歩が遅かったネロの攻撃。勝負はギクリ・ムースの勝利か。
そんな最後になると思ったマカロフを、次の光景が裏切ることになる。

「負けて…たまるかァ―――ッ!!!」

何故なら、ギクリの棒がネロに突き刺さる瞬間、ネロの両手はもう既にギクリへ向けられていたのだ。
そして―――舞台上すらも巻き込むような大爆発が起きた。

「―――!!」

爆発が観客や控室に届く前にマカロフはすぐさま結界魔法を使い貼り未然に被害を押さえた。
観客の周りや控室になっている建物は魔法陣によって無事だったが、舞台の行方は誰もわからない。
武舞台となっていた場所は爆発によって出来た煙によりどうなっているか誰も目視できていない。

『え、と…ありがとうございます…今の爆発でどうなるかと…」

「いいわいいいわい。それより他の皆は大丈夫じゃな?」

マカロフの問いかけにより観客たちは一斉に頷く。言葉にすらできない様子なのは仕方ないかもしれない。なにせ、あるギルドのマスターが自分たちの中に混じっていたことに対してもそうだが、目の前の爆発が迫ってきていたのだから。
ある者は涙を流しながら感謝の言葉を紡いだりする者、試合の行方を気になる者。そして…。

「…おい、アイツ、無事かョ…!?」

控室で試合の行方を見守っていたラクサスは気になっていた茜色の少年が気がかりだ。なにせ、友達(になる予定)があの爆発に巻き込まれたんだ。心配する筈がない。
そんなラクサスの言葉に続くように落ちた選手やアナウンサーが選手たちのことが気になる中、マカロフが安心させるような笑みを浮かべて言った。

「大丈夫じゃ。ホレ、アレを見てみなさい」

武舞台が――その場は武舞台だったのかと疑わざる得ないような地と化してた。武舞台だった破片や瓦礫が残っているが、これではもうどちらが無事でも二人共場外の可能性があるだろう。
そして、煙が薄くなる中、誰かが興奮するような大きな声を出した。

「おい!!アイツ、アイツが勝ったぞ!!」

「え、誰!?誰だよ!?」

「アイツだってば!ほら!」





サイヤ人の方(・・・・・・)だよ!!」

舞台が完全に見えるようになる頃に――まだ武舞台の形となっている場所に少年は立っていた。
両手を前に突き出したまま、ただそこを立っていた。
対して、男は更地と化した場所で大の字となって倒れている。
手に持っていた棒は灰となり、男の手に残っているが。
その状況を見て、呆然となっているアナウンサーの背中をマカロフは叩く。

「ほれ、仕事じゃ」

「え、あ…は、はい!しょ、勝者ネロ・ハバード選手!け、決勝進ッあっかんだ…じゃなく…進出決定ィ!!」

持っていたマイクを構えるの忘れながら、確かにアナウンサーの男は言った。
勝者はネロ・ハバード。それを聞いた本人は、笑みを作ることすらもできないまま舞台が残っている方へと気絶して倒れた。結果を聞くまで頑張って耐えていたのか、はたまたタイミングが丁度よかったのか。

「…スゲェ…」

最後まで見ていた、金髪の少年は笑みを深める。周りからみてもわかるような、子供らしい笑みを浮かべている。

「アイツ…スゲエ…!はは…ッ!!」

自ずと、ラクサスは己が進みたいと思う道を見出した。そして、自分と進んでくれるだろう、唯一となれるだろう相棒は―――あのサイヤ人しかない、そう錯覚しそうな程に。


★★★★★★★


「…うっ…ここは…?って…試合!決勝戦は!?」

気がつけば、見知らぬ天井が目の前にあった。
頭がボーッとするが、先のことをフラッシュバックするかのように思い出しすぐに起き上がる。
そして頭の中には決勝戦はどうなったかが一杯だった。結果が気になるのもそうだろうが、何よりも闘いたいと思っていた選手の実力をまだちゃんと確認できていないのだと思い出したのだ。

「…まだ始まっておらん。だが其方が目を覚ましたのならいつ始まるか直に決まるだろう」

隣から聞こえた声に顔を向ければ、先まで試合していた選手がベットで寝ていた。それも、包帯ミイラ(・・・・・・)になって。
流石にその状態にネロは一瞬動きが止まり、「お、おう…」としか返せなかった。まさかアニメやドラマで見ていたミイラをこの目で見るときがくるなんて、なんて思いながら「あ、オレも同じ目にあってたわ」と一緒に暮らしていた姉のことをまた思い出し、遠目になるネロ。

「…もう、大事ないか…?」

「あ、はい。…もう気が足りない状態っすけど…身体中筋肉痛で痛いっすけど…大丈夫っすよ。…そっちは…」

「其方の技による暑さで身体中が火傷した。いやはや…もう天晴だ」

どこか爽やかそうにそう答える男を見て、ネロは目の前の男が初印象と全然違うことに気づいた。どこか、スッキリしたような顔…顔すらも包帯で覆われているから見えないが、雰囲気が少し柔らかいと感じた。
この男、最初は堅苦しい雰囲気がこんな雰囲気になるなんて、誰か思うのだろうか。

「…一つ、聞きたいことがある」

「…うん?なんですか?」

男―――ギクリは顔中包帯で覆われているが、目だけは覆われておらず、覆われていないその目で隣にいる少年に力強い視線を込めながら問う。

「…其方…にとって、強さとは何か」

「…え、強さってなにか、だって?」

「うむ」と頷き、ネロの見つめながら答えを待つ。
己は、結局最後まで限界を超え、強敵や理不尽な化け物たちと渡り合うことすら夢に叶わなかった。
どんなに強くなっても、自分では倒せない領域にいる「彼ら」のことを諦め、もうただ自分の棒術を極めることだけを決め手人生を歩んできた。
最初はただ無心に、強くなって強くなって、そして強くなった自分が誰でも守れるような、大切な人たちのための強者になりたかった。
理不尽に出会ってしまえば、もうそんな夢も叶うことは永遠にないだろうと無意識に諦めていた自分に、目の前の少年はぶつけてきた。
勿論、この茜色の少年は何も知らない。ただ、強くなりたい「一心」で闘い、そして自分よりも経験や実力のある己と、対等に闘えるまでに強くなり、そして己の中の衝動すらも最後まで抗った。
別にこの少年を見て苛つきと、憎しみ等を抱いたわけではない…しかし、こうも自分とは違い、そして未来だけじゃなく、強くなろうとするその意気込みが…何故か自分が悔しくなってしまうのだ。
自分の中では経験のために、次の種になるためにとか言い訳しながら、昔の自分のように…いや、自分よりも前向きに生きているこの少年の未来が、気になるようになった。
だからこそ、問いたい。彼にとっての「強さとは」。
そして、強くなったその先に、何を見るのか。

「それを探している途中ですかね」

「…なに?」

探している、だと?どこがだ、其方は某よりも前に、そして目標を持ったように歩んでいるだろ。何故、そこにわからないと答える?
10歳相手に大人が何を問いかけているのか、と誰かが見てたら答えそうな絵図だが、それをツッコム者はいない。
ただ、己の中で整理していない者と答えようとする者しかいないのだから。

「一番の目的は…憧れている人みたいになりたいだったけどさ…でもその人みたいになるにはまだ色々足りないんだ」

「…」

「足りないから…今旅して強くなろうとしている。けど…そう簡単に見つからなくて…けど」

ネロは思い出す。自分がこの世界で今まで出会ってきた人たちを。家族である姉とかローズマリー村にいるエルザや協会の人たち…そして旅で出会った動物や旅人とか。そして――転生させてくれた神。
もう、前世で家族や親友、そして娯楽で得た知識しか思い出せなくなってきている自分だが、そんな自分に最後まで罪を償おうとした神はどこか人臭くて、ドラゴンボールの住人かななんて思ったことがあった。
オレは――強いヤツとも戦いたい、けど。強くなって守りたい人たちがいる。なら、その人達を守れるくらい強くなりたい。

「…ああ、そうだ。オレ…守りたいんだな」

ただ、そんな言葉が零れ出てしまった。
強いヤツと戦いたい、そして大切な人たちを守りたい。簡潔で単純で、なんともまぁ…けどこれが「らしい」でいいのではないだろうか。強くなりたいというのは…単純な理由でいい。

「……そうか」

ギクリは目を瞑り、そして包帯の下で笑みを浮かぶ。この少年は、既に得ていたのだな。守るものが。
理想が、夢が。ああ…なら、どうか、どうか。

「堕ちるなよ、ネロ。…夢を抱き、大切な者を守りながら、困難が続く道であれど、挫けたとしても、堕ちるでないぞ」

「…?はい…??」


首をかしげるネロを微笑ましく想いながら、ギクリはネロのこれから先に幸福を願う。どうか、真っ直ぐな求道者とあってくれることを。夢を叶えれていることを―――絶望と、合わずにいられることを。
真っ黒な、あの翼にどうか…何も奪われないで生きてくれることを切に願うギクリだった。

(…なんでそんな目で見るんだ?…精神年齢が同じくらいのやつにそう見られるのって…複雑だなぁやっぱり…)

肉体年齢、10歳のネロ・ハバード。彼の成長は、まだまだ続く。

★★★★★★★



「えー…ネロくん。決勝戦やれるかい?観客たちがどうも決勝戦が気になっていてね…駄目そうだったら全然言っていいから―――」

「―――あ、大丈夫です。是非やらせてください」

「ね―――えええ!?」

クロッカス武道会、もう武舞台もなくなり、すぐに新しいのを用意ができないからまた別の日に決勝戦をやろうとしたスタッフたちだが、観客にいる者たちが場外ルールなし、舞台なしでいいから決勝戦を始めてくれという要望が多数あった。それでもいいのならスタッフたちは構わないが、ある意味問題なのは選手だ。ラクサス・ドレアー少年は体力に余裕があり、怪我もないことから問題なく決勝戦を行えるが…ネロ・ハバードは違う。先の試合で彼は文字通り全てを出し尽くして第二試合を突破した。
満身創痍、疲労。とても決勝戦を行えるような状態ではない。だからこそ、ネロ選手が回復した日にでも続きをやろうとしたスタッフだが、ネロ本人は問題ないというお達しだ。
だが、本人がそう言っても彼の状態を見てとてもすぐに試合を行えると思えないのだ。
そんな時、ネロはスタッフにお願いしたのである。

「自分の荷物を持ってきてもらって、その後少しドアの外で待ってもらっていいですか?」

言われたとおりにネロ少年が持ってきた旅の持ち物が入ってあるリュックサックを手渡して部屋の外で待つこと数分、スタッフは目を疑うような出来事が部屋から出てきたのである。

「ありがとうございます。これでまぁ大丈夫なんで。で、いつ決勝戦します?」

傷なんてなかった、と無傷になったネロが黒い瞳をキラキラと輝かせながらこちらを見ていることを。
え、この子さっきまでボロボロだったんじゃ?え?あ、よく見たらさっきまで着ていたジャージが破れたままだ…いや…えええええええええ!?

「え?怪我がどうかしたって?…まぁ、魔法なんで気にしないでください」

どこか死んだような目をしたネロ、そして状況が掴めないスタッフがいながら、決勝戦が始まる1時間前であった。―――。 
 

 
後書き
・ギクリについて2
ただの求道者だった男。過去にある絶望を対面し、全て折られてるが、残っていた「強くなりたい」という思いでただひたすら鍛錬続けた男。才能ないと言うが、もし魔法を極めていたのなら聖十大魔道といい勝負ができるようになっていたかもしれない。…え?贔屓すぎないかって?お気に入りオリキャラになったんだよ悪いか()
ギニュー隊長と戦闘力同じ→成長して29万まで上がった。ネロと戦い、気(魔法)を見て少しずつ身体強化の使い方を覚えていったので戦闘力が上がった。才能ない?おっ、そうだな。

・大猿
お前大猿の毛色とか目の色違うやんけ、なんて思った方…次の次の章までお待ち下さい…今年の投稿は速くなる予定…KAKAROTがあるから…うん、お待ち下さい。ほんますんません。

・ネロの急回復
どっかのカプセルのおかげ←

・マカロフ・ドレアー
将来が楽しみなヤツがいっぱいいるのう…おっ、あの二人いいな。先楽しみ(純粋)

・ラクサス・ドレアー
ハバネロォッ!!(マダラスマイル)にしたい。…前は別のキャラクターにしようとしてなかったかって?なんのことです?

戦闘力のランク付、基レベルなどは次の話のあとがきに載せときますね←


★☆次回予告☆★

ハバネロ「やっと…ここまできたか。なあ、このクロッカス武道編、何話まで使う予定だったの?」
モブからオリキャラへ「…ふむ、確か2~3予定だったらしい」
ハバネロ「…え、じゃ今は?」
モブからオリキャラへ「…6」
ハバネロ「倍になってやんけ…ええ…?ちょ、原作開始までいけんのこれ?」
モブからオリキャラへ「そこは根性だろうな。頑張れ」
ハバネロ「頑張れって…一言みたいに」
モブからオリキャラへ「一言だぞ。なにせ某は1部出る予定もないからな」
ハバネロ「…あ、そうなんだ…じゃあ次回予告いい?」
モブからオリキャラへ「うむ…では…某を超え、ついに決勝戦に立ったネロ」
ハバネロ「舞台がなく、もはや相手が降参するか気絶するかで終わる武道会になったが、構いやしない」
モブからオリキャラへ「ただ、相手と本気の戦いを。戦闘衝動を爆発させよ」
ハバネロ「一応また強くなったからな。…負けねえぞラクサス」

「「次回、妖精のサイヤ人」」

「第六話:本気と本気!ラクサスVSネロ!」

モブからオリキャラへ「最近の子たちというのは…凄いな」
ハバネロ「また見てくださいね」

 
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