ソードアート・オンライン クリスマス・ウェイ
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ボス攻略(6)
デバフの炎の有効時間と範囲を正確に見きり、俺の後ろにしっかりとついてきたアスナが、俺の背を蹴り細剣高位五連撃|《ニュートロン》をウェンディゴの赤角につきさした。
物理ダメージはそれほど高くはないものの、聖属性の属性ダメージをあたえることができるこの《ニュートロン》はその全弾をクリティカル・ポイントに決めた。弱点属性を弱点に叩きつけられたウェンディゴは頭上でまわしていた両手昆を取り落とし、
ふぉぉぉぉぉん……
もの悲しい断末魔をあげながら、真四角いポリゴンの固まりになっていく。
ソードスキルの硬直から解放されたアスナがポリゴン片のプリズムの中に降り立つ。髪がマントのようにひろがり、短衣の裾がはためき、地面に降り立つ。
かつ、とブーツの音がボス部屋になりひびいた。
「やった……」
アスナのすぐ後ろで剣を納める俺くらいにしか聞こえなかったろう、達成の手ごたえと聞いてるこちらが胸を締めつけられるような思慕の念を含んだ呟きだった。むき出しの肩が少し震えている。
その背中に声をかけようとした瞬間、アスナがボス部屋の出口に向かってかけだした。
まだポリゴン片を完全に消失させていない、屍型ボスモンスターの残滓を蹴り飛ばすように――。
目の前をなびいていく水色の髪に見とれそうになった俺の意識を、
「キリト!」
と叫ぶリズの声が引き戻した。
俺は隣にいたリズに答えるよりも早く駆け出し――、
「おにーさん!」
一歩分駆けだした後、すでに慣れ親しみさえ覚えはじめた無邪気な声に振り向いた。例の白コートが鞘ぐるみの片手剣を振りかぶり俺にむかってぶん投げてきた。俺は素早くアイテム欄を開いて格納する。どうやら本気で、思い切り、全力でぶん投げたらしく、フードがめくれ上がった。濡れ羽色の髪がこぼれおち、赤いカチューシャがあらわになった。残念ながらふたたび、ずぼっ、とフードが下りてしまったので顔までは確認できなかった。
そのまま片手をあげて返事を返した。いまはアスナを追いかけたい。出口に向かって振り向くため視線を切るほんのコンマ数秒前に、白コートアバターがはじけるような明るい声で叫んだ。
「ありがと! たぶん! また――今度!」
不思議な言い回しに頬が緩む。何百人ものユーザーを抱えるALOで名前もしらないアバターと再会するのは正直に言ってかなり厳しいが、なぜかそのうち――もっと別の場所、別の形で出会うような気がしていた。
俺は片手を振りつつ、おつかれ!と心中で返して、すでにボス部屋を飛び出してしまったアスナを追いかけはじめた。
ちなみに、この謎の白コートアバターとは年明け早々にデュエルを行い、俺は盛大に負けることになる。
もしも彼女がSAOをプレイしていたなら、ユニークスキル《二刀流》は彼女のものだったはず、と俺に確信させるほどの超絶反応力をみせた彼女と、その彼女の仲間、そしてなによりアスナのために、俺とクラインは三十人近い人員と剣を交えることになるのだが、もちろんこのときは予想すらしていなかった。
のちにALO中に、否、ザ・シードネクサス中に名前をとどろかせる彼女の二つ名は――
《絶剣》という。
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