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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第9話:魔法使いとは?

 
前書き
どうも、黒井です。

今回より週一更新になります。書き溜めがありますので当分は安定して週一更新できるかと。

さて、今回はこの作品における魔法使いや魔法がどういうものなのかの説明になります。独自設定マシマシです。 

 
 互いに再会の挨拶を交わし合った颯人と奏。長い間満足に会うことも出来なかったが故に2人の間に流れる空気に、他の者達は誰も口出しすることが出来ずにいた。

 そんな雰囲気を察してか、颯人は空気を切り替えるかのように両手を叩いた。

「はいはい、しんみりした空気はこれでお終い! 元々今日は奏含めて皆が疑問に思ってることに答えることも目的にしてきてるんだから、気持ち切り替えていこ!」
「…………と言う事は、君が先程から使っている魔法とやらの事も教えてもらえると見て良いんだな?」
「もちろん。つっても質問の内容によっては答えられないのもあるかもしれないけど。とりあえず気になってることは何でも聞いてみることをお勧めするよ」
「じゃあとりあえず、その魔法って力の事を教えてもらえるかしらん?」

 どんな質問もウェルカムと言う雰囲気の颯人に、まず真っ先に質問したのは了子だった。やはり研究者である彼女としては、颯人の使う魔法が気になって仕方がないのだろう。何かを訊ねようとする弦十郎の言葉さえ遮って質問を口にした。

 了子からの予想通りの質問に颯人は満足そうに頷き口を開く。

「魔法ってのは、簡単に言えば全ての人間が持つ隠された力って奴だな」
「全ての人間? ちょっと待てッ!? 全ての人間だとぉっ!?」
「それって、俺たちも使えるって事かッ!?」

 早くも投下された爆弾発言に、司令室に動揺が走る。そりゃそうだろう。あんな能力が実は誰でも扱えるものだと言われれば、冷静ではいられない。

 この短時間でも、颯人は魔法で空間を繋げて離れた位置にある物を取り寄せたり、一瞬で服装を変えてみせたりした。過去に使われた魔法に至っては、瞬間移動に空間を爆発させるなどその力は圧倒的だ。

 誰もがこの力を使えれば、文字通り世界が変わるだろう。

 だが、何事もそう上手い話がある訳がない。

「いやぁ、残念ながら誰でも使えるって訳じゃないんだなぁ」
「え? だって、全ての人間が持ってるって……」
「誰でも持ってるのは確かだよ。ただ大抵の人間はその魔法を使う為の魔力の栓が閉まってるから使えないんだよ」

 より正確に言えば、生まれたばかりの赤ん坊は栓が少し開いており、成長するに従って徐々に栓は閉まっていく。子供が不思議な事を言ったり子供の頃に不思議な体験をしたりすることがよくあるのは、この僅かに開いた栓から漏れ出る魔力の影響である。

 成長するに従って栓は閉まっていき、大人になると完全に閉まってしまう。故に、大人にとって子供の口にする不思議な体験などは思い込みや妄想として片付けられるのだ。

「ただ、大人になっても極稀にこの栓が少し開いてる場合があるんだよ。そういう奴が、俗に言う超能力者とか霊能力者って言われるんだな」
「だが、ではどうやって君や君と行動を共にしていたウィズは魔法が使えるんだ?」

 これも当然の疑問だ。誰もが持っていながら使うことが出来ない力を、颯人やウィズはどうして使うことが出来るのか? 少し魔力が扱えるだけでは、彼やウィズのようなことは出来ないのだろう事は容易に想像できた。

 その質問が出た時、颯人は少し口籠った。いや、この事も話して大丈夫な内容に入ってはいるのだが、ここから先は少し悪い意味で刺激が強いのだ。故に、簡単に口に出すことはどうしても憚られる。

 とは言え、話さない訳にもいかないので颯人は少しだけ考える素振りを見せてから彼がどうして魔法を扱えるのかを話した。

「簡単さ。魔力の栓を強引にこじ開けたんだよ」
「こじ、開けた?」
「そ。サバトって儀式でね。サバトを行う事で人間の中にある魔力の栓はこじ開けられ、魔法を扱うことが出来るようになるのさ…………生き残れればね」
「生き残る? ちょっと待て!? それ死ぬ可能性あるのかッ!?」

 颯人の言葉に奏が喰いついた。案の定な反応に颯人は明後日の方を見ながら引き攣った笑みを浮かべる。

「ま、ね。大昔は違ったらしいけど、今の時代の人間にとって魔力は必要のない物になっちまった。その状態に慣れ過ぎて適応した人間の体は、過剰な魔力に耐え切れなくなっちまったのさ。だから現代人の体は本能で自主的に魔力の栓を閉じちまうんだと」
「魔力が人体に悪影響を及ぼす…………それでも颯人君が魔法を扱えるのは、体が魔力の悪影響を受けないものに変異しているからね?」
「ご名答。噂に違わぬ頭の回転の良さだね。殆ど正解だよ」
「ふふ~ん!」

 流石の了子の理解力に颯人は舌を巻き、拍手を送る。

 実際、颯人が魔法を使える理由は大体了子の言う通りだった。
 サバトを行い魔力の栓をこじ開けられた人間は、素質が無ければ急激に全身を巡る自身の魔力で体が崩壊してしまう。仮に素質があっても、一気に解き放たれた自分の魔力に耐えきることが出来なければ結局待っているのは残酷な死だ。

 魔力を扱える者────即ち魔法使いは、その死の運命を覆し自らの体を魔法が使えるものに変化させることが出来た者の事を指すのである。

「つまり君はサバトを行い、死ぬリスクを冒して魔法使いになったと言う訳か?」
「一応言っておくと、ウィズ曰く俺の場合は死ぬ可能性は低かったらしいけどね」

 魔法使いになる為に必要なものは主に素質と強い精神力が求められた。素質がなければ解き放たれる魔力に耐え切れないし、精神力が弱ければ魔力が解き放たれる苦痛に心が耐え切れず肉体も朽ちる。

 これら全てを満たした颯人だからこそ魔法使いになれたのだ。

 颯人は見た目や態度だけで測れるような人間ではない。その事を理解した二課職員達の彼を見る目が変わった。中には恐れに近い目を彼に向ける者も居た。

 そんな中、彼に近付く者が居た。奏だ。彼女は足早に彼に近付くと、何の警告も無しに彼の頬を容赦無く引っ叩いた。
 颯人はそれを避けも防ぎもせず、大人しく引っ叩かれた。

 突然の暴力に対し、颯人は驚くほど穏やかな表情だった。まるでそうされるのが当然であるとでも言うかのような様子だ。

 引っ叩かれたことで微妙に明後日の方を向いていた彼は、小さな溜め息と共に奏の方に顔を向けた。そのあまりにも穏やかな目に、その異質さに多くの者が息を呑む。

 ただ1人、奏を除いて…………。

「お前──!? 何でそこまでしてッ!?」
「カッ! それ奏が言う? 知ってるよ、奏がシンフォギアってのを扱えるようになる為に、劇薬を過剰投与して生死の境を彷徨ったって事」
「ッ!? お前、どこでそれを?」
「ウィズ経由で。ま、この件に関してはお互い様って事でいいじゃねえか。俺はお前の為に、お前は俺の為に命を掛けた訳だ。おっと、こいつは相思相愛って奴かな? おっちゃんどう思うよ?」
「むっ!? 俺か? いや、いきなりそんなこと聞かれてもな…………そっちに関しては俺も経験ないし…………」

 突然話を振られて狼狽える弦十郎。実際彼には恋愛経験はないので、この手の話を振られても答えることは出来ない。
 尤も今のは別に答えを求めて話を振った訳ではないので、答えてもらえなくても問題はなかった。狼狽える弦十郎の様子に颯人はおどけた笑みを浮かべた。

「はっはっはっ、だろうね。おっちゃんてそういう方面には疎そうな見た目してるし」
「そ、そんなに分かり易いか?」
「これでも人を見る目はある方だと自負しててね」
「おいっ! 話を逸らすなッ!?」

 先程と全く関係のない話を続ける颯人に業を煮やした奏が掴み掛る。胸倉を掴みそのまま壁に押さえつける奏を、翼と響が慌てて宥めた。

「奏ッ!?」
「奏さん、落ち着いてくださいッ!?」
「落ち着けだぁッ!? 落ち着いて、こ、こん、ッ!? く、う…………」

 最初は感情のままに動いていた奏だったが、翼と響の2人に必死に宥められ、更にはあまりにも穏やかな颯人の顔に勢いを失ってしまう。

 動きの鈍った奏を翼と響が引っ張ろうとするが、それよりも早くに颯人が逆に奏を優しく引き寄せた。

「分かるよ、お前の気持ちも。だから後でな。後でゆっくり話そう」

 一切の悪ふざけもなく、真摯に告げる颯人に奏はそれ以上何かを言う事は出来なかった。何かを堪える様に俯き、小さく頷くとゆっくり彼の胸倉から手を離した。

 翼や弦十郎達が見守る前でゆっくりと自分から離れていく奏を見て、颯人は続きを話そうと口を開く。

 その直前に、司令室内に警報が響き渡った。

「ッ!? 何事だッ!!」

 一瞬で頭を二課の司令官としてのものに切り替えた弦十郎の言葉に、警戒の為に持ち場に戻っていたオペレーターの1人がノイズの出現を報告した。

「ノイズ出現! 場所はリディアンより距離500ッ!」
「ええい、このタイミングでかッ! 奏、翼! 響君はどうだ?」
「形にはなってるよ。後は少しずつ実戦に慣らせれば」
「よし、ならば今回は響君も出動だ。ただし、必ず2人の内どちらかと行動を共にするように!」
「はい!」

 弦十郎の指示の下、3人の装者は速やかに現場に急行する為司令室を後にしようとする。あおいを始めとしたオペレーター達も配置につき、彼女らのバックアップの準備は万全だ。

 その様子を、颯人は少し離れた所から暫し眺めると徐に右手の指輪を付け替える。そして司令室を出ようとしている3人の前に立ち塞がった。

「な、何だよ颯人?」
「退いてください。これから出動なんです」

 行く手を妨害するように立ち塞がる颯人に奏は困惑し、翼は不快な様子を露にする。響も突然の彼の行動に不安げな表情を見せている。
 そんな3人を颯人は至って自然に、しかし何処か芝居がかったようなおどけた様子で制した。

「あぁ、あぁ、まあまあまあ待て待て。さっきも言ったろ? 今日は俺の舞台だ。この程度のアクシデントも想定内ってな」
「舞台って、これは遊びじゃないんですよ!?」
「知ってるよ。2年前からね」

 言われて翼は、彼が2年前のライブの時にノイズと一時とは言え戦えていたことを思い出す。確かにあの時、彼は自らの命の危険も顧みず奏を救う為に危険を承知でノイズの蔓延る中に飛び込んでいった。

 だが今の彼からはどうしても戦う者としての気概と言うか、気張った様子が感じられない。それが翼に不信感を抱かせていた。

 言っておくと、翼は颯人には感謝していた。彼が居なければ、奏は2年前の戦いで命を落としていたのだ。それを防いでくれた、彼には感謝しかない。
 だからこそ、軽い気持ちで危険に飛び込んでほしくないのだ。恩人であるからこそ、命を投げ捨てるような真似をしてほしくない。

 その気持ちが一番強いのは言うまでもなく奏だ。彼女にとって颯人は心の防波堤とも言える存在、もしここで彼を失うようなことがあったら確実に彼女の心は折れる。奏本人が自覚しているかは定かではないが、翼はそれを漠然とだが感じ取っていた。

 故に、翼は颯人の行動を咎めているのだが、彼は全く意に介していない。気付いていないのか、敢えて気にしていないのか。

「ま、気持ちは分かるよ。俺が心配だって気持ちは痛いくらい分かる。だからこそ、見てほしい。俺の力ってやつをね」

 颯人の口ぶりから、弦十郎は彼が何をしようとしているのかを察した。彼はこのノイズの襲撃を自分の力を見せる為のデモンストレーションにするつもりなのだ。

 正直、興味がないと言えば嘘になる。2年前の時点で彼は手にした大型の拳銃一丁でノイズに対抗してみせた。
 加えて彼と行動を共にしていたウィズはその魔法を用いてノイズを圧倒している。
 と言う事は、彼はここで2年前以上の何かを見せてくれるだろうと言う確信があった。

 興味はある。それは了子も同じだった。だが果たして、知らないことの方が多い彼に任せてもいいモノかどうか。

 弦十郎が判断に迷っている間に、颯人は行動を起こしてしまった。

「それじゃ、奏達お三方を特等席へご招待だ。二課での俺の晴れ舞台、しっかり目に焼き付けてくれよ!」
〈テレポート、プリーズ〉
「なっ!? おい待てッ!?」

 弦十郎の制止も空しく、颯人は奏、翼、響の3人を伴ってノイズ出現現場へと転移してしまった。4人が消えた場所を見て歯噛みしつつ、弦十郎は視線をメインモニターに目を向ける。

 ノイズ出現現場をドローンで撮影した映像を映すメインモニター。そこには今正に転移したばかりの颯人たちの姿が映し出されていた。 
 

 
後書き
と言う訳で第9話でした。

くどいようですが、この作品のウィザードは独自設定マシマシとなっておりますが、どうかご勘弁ください。仮面ライダーファンの方に怒られないか凄く不安ですが。

さて、次回はお待たせしました。いよいよ次回、颯人がウィザードに変身します。この作品におけるウィザードの初登場&活躍、どうかお楽しみに!

感想その他お待ちしています。 
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