魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
無印編
第8話:再会のパフォーマンス
前書き
すみません、予約投稿しておくのを忘れて更新が遅れました。
どうも、黒井です。
今回より本格的に颯人がシンフォギアのストーリーに絡み始めます。まずはその出だし、彼と二課との出会いになります。さて彼は二課を相手にどのように接触するのか。
奏達が司令室に戻ってくる十数分前────
弦十郎が席を外している間も、オペレーターの朔也とあおいは端末の前でノイズ出現などの異常がないか計器やモニターに注意を向けていた。と言っても有事と言う訳ではないから、そこまで張りつめているわけではない。
2人から少し離れた場所にある端末では、技術主任の了子が装者達のデータと睨めっこしている。
彼女が特に注目しているのは響のデータだ。
響のシンフォギアは奏と同じガングニールだが、物は奏や翼の物と違い心臓付近にあるガングニールの破片からなっている。2年前の事件で、戦闘中に砕けた奏のガングニールの破片が響に力を与えているのだ。
所謂融合症例と言われるもので、現時点でこれが確認されているのは響だけである。それ故に、今後どのような事態になるか全く想像できない為、こうして細目に異変がないかチェックしているのだ。
今回も特に大きな問題はないと一度モニターから目を離し、椅子の背もたれに体重を預ける。長時間座っていたからか、背骨がボキボキと音を立てた。
「う~~、ん。うん?」
背筋を伸ばした瞬間の得も言われぬ感覚に浸っていた了子。彼女が何気なく視線を端末の脇に向けると、一体何時の間にそこにあったのか淹れたてのコーヒーが入ったカップが置かれていた。
はて、何時からこれはここにあった?
見たところ淹れてからまだそう時間が経っていないようだが、誰かが近付いてきた気配は感じなかった。それが出来る人物を1人知ってはいるが、今この場にはいない。
視線を周囲に向ければ、朔也とあおいの端末の脇にも同様に湯気の立つコーヒーの入ったカップが置かれている。その様子に違和感を覚えていると、了子と同じくコーヒーの存在に気付いた朔也が当たり前のようにカップを口に運んだ。
中のコーヒーを一口飲んだ彼は、その熱さに思わずカップから口を離す。
「熱っ!? あおいさん、今日ちょっと熱いですよ?」
「え? 何が?」
「あったかいものですよ。今日のはあったかいものと言うより、熱いものですけど」
「だから何の話?」
「え? これ、あおいさんが淹れてくれたものじゃないんですか?」
朔也の言葉に、了子も試しに自分の端末に置かれたコーヒーを一口飲んでみる。確かに熱い、正に淹れたてだ。普段人に出す飲み物の温度管理が完璧なあおいが出すものとは思えない。
「ちなみに友里ちゃんの所にもあるわよ」
「へ? あっ!? ホントだッ!?」
「い、何時の間にッ!?」
ここで司令室に詰めている他のオペレーターも異変に気付いた。淹れたてのコーヒーは現在司令室に詰めている者全員に用意されていたのだ。
幾ら何でも誰にも気付かれずにこんな事が出来る者居る訳がない。
いや、一応居ることは居る。だが繰り返すがその人物は今この場には居ない。
つまり、このコーヒーはこの場の全員が知らない何者かが淹れたという事であり────
「あ~、すみませんねぇ。俺、コーヒーとか熱いものはゆっくり冷ましながら飲むのが好きなもんで」
突如司令室に響く男の声。了子らがその声が聞こえてきた方に目を向けると、そこにはカジュアルなスーツ姿の青年──颯人が扉の近くに佇んでいた。
颯人の登場に、彼以外の全員が一斉に身構える。
「誰だッ!?」
「友里ちゃん、すぐ弦十郎君に」
「はいっ!」
朔也たちが颯人を警戒している間に、了子の指示で弦十郎に連絡を取ろうと通信機を手にするあおい。
だが通信が繋がるよりも早くに、颯人の右手がベルトのバックル──ハンドオーサーに翳された。
〈コネクト、プリーズ〉
音声が響いた後颯人が右手を上げると、その前に赤い魔法陣が現れる。彼がその魔法陣に手を突っ込むと、あおいの直ぐ近くに同じ魔法陣が出現。
そこから魔法陣に突っ込まれた颯人の手が飛び出し、あおいが手に取ろうとしていた通信機が持っていかれてしまった。
「なっ!?」
「ごめん、それちょっと勘弁して。気持ちは分かるけど、別にこの場の人達に危害を加えるつもりはさらさらないからさ」
ね? と笑みを浮かべながら告げる颯人を、朔也達は警戒していた。何の気配も感じさせずに部屋に入った事は勿論、訳も分からぬ能力を見せられて冷静でいることは難しい。
そんな中で、颯人の事をつぶさに観察していた了子はここで漸く彼の事を思い出した。
「あら、あなた……もしかして、明星 颯人君?」
「え? …………あっ!? そうだ、この顔ッ!?」
「言われてみれば見覚えが……」
「あら、俺って有名人? いや~、日本じゃまだ無名だった筈なんだけど、なんか照れるなぁ」
了子の言葉に朔也達は2年前の事件の後監視カメラの映像に映っていた颯人の姿を思い出す。
あの頃に比べてさらに大人びてはいるが、それでも全体的に大きな変化はないので言われてみればそれが彼であるという事に気付く事が出来た。
だがだからと言って警戒は緩めない。彼が敵ではないだろうことは2年前に奏を助けたことで分かっているし、また彼が奏にとってどれほど大切な人物であるかと言う事も嫌と言うほど理解している。
だが彼がこうして不法侵入していることは事実。その彼に対し、何の警戒もしないなどと言う事は出来なかった。
そんな彼らの心情を理解しているからか、颯人は通信機を返すと徐に両手をパンと合わせた。
「イッツ、ショータイム!」
そして次の瞬間、合わせた両手を離すとそこから数羽の白い鳩が飛び出した。突然の手品に、面食らう司令室に詰めていた二課職員達。
彼らが手品に驚いている様子に颯人は楽し気に笑みを浮かべると、続いて何も持っていなかった筈の手からトランプのカードを1枚取り出した。ハートのQだ。
「ん~、そうだな…………よし。そこのお兄さん」
「え? 俺?」
「そうそう、こいつをどうぞ」
颯人は周囲を見渡すと偶然目が合った朔也を呼び寄せ、手に持っていたハートのQを渡した。
朔也は突然渡されたトランプのカードにどうすればいいのか分からず困惑した様子を見せるが、颯人はそんな彼を宥めて落ち着かせると取り敢えず渡したカードに何もおかしなところがないことを確かめさせた。
カードに何の仕掛けもないことを朔也が確かめると、颯人は彼にそれを両手でしっかりと挟ませた。その状態で彼には下がってもらう。
朔也が元居た場所にまで下がったのを見ると、彼に向けて一度指をパチンと鳴らし、次いであおいに向けて指をパチンと鳴らす。
「ん。お兄さん、もう手を開いてもいいよ」
「え? おぉ…………ぉおおっ!?」
完全に流れを掴まれながらもとりあえず言われた通りに両手を開くと、確かに両手で挟んでいた筈のカードが影も形も無くなっていた。思わず落としたかと足元を見るが、カードは影も形もない。
驚き慌てる朔也の様子を眺めつつ、颯人はあおいの上着の右ポケットを指さし自分の上着の同じ部分をポンと叩いた。
彼のジェスチャーにまさかとあおいが上着の右ポケットに手を突っ込むと、そこから先程確かに朔也に手渡されたはずのハートのQのカードが出てきた。
「えっ!?」
「あらぁ~」
「をぉぉっ!?」
何をどうやったかも分からないが、テレビなどでよく見るものと寸分違わぬレベルの手品に先程までの警戒はどこへやら、職員たちは突然始まったマジックショーに完全に目を奪われていた。
彼らからの警戒が少なくなった頃合いを見計らって、颯人は本題を切り出した。
「さってと。いい感じに楽しんでもらえたところで…………ちょっと頼みたいことあるんだけど」
突然そんなことを切り出した彼に、職員達の顔に再び緊張が走る。彼の手品にすっかり夢中になっていたが、思えば彼の目的をまだ聞いていなかった。その事を思い出し、彼が一体何を口にするのかと身構える。
再び警戒の色を露にし始めた彼らに颯人は苦笑すると、再びコネクトの魔法で魔法陣に手を突っ込むとビニール袋を取り出した。彼がそれから取り出したものは────
***
弾ける火薬の音、そして飛び交う色取り取りの細い紙テープに目を奪われる奏達。
そんな彼女たちを見やり、颯人は満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
「いよぉ~ぅ、ひっさしぶりだな奏! 約束通り、戻ってきたぜぇ!」
「は、颯人────!?」
司令室に入るなり鳴り響いたクラッカーの破裂音。上を見上げれば『ただいま奏 & 初めまして特異災害対策機動部二課』と書かれた横断幕が掛けられている。
その光景に響は、自分が初めてシンフォギアを纏いそしてここ二課の本部に連れてこられた時のことを思い出す。あの時は訳も分からぬまま手錠で両手を拘束されたまま連れてこられて、そうしていきなり歓迎されたことに目を白黒させたものだ。
あの時は弦十郎が仕掛け人だったが、今度はその弦十郎が仕掛けられる側となっていた。まさかの事態に今度は彼の方が目を白黒させていたが、二課の司令としての立場が心を律し平常心を取り戻させる。
今はとにかく聞きたいことが色々とありすぎる。ありすぎて軽く混乱するレベルだが、それを堪えて弦十郎は差し当たって今一番気になっていることを訊ねた。
──────────了子達に。
「了子君。それに藤尭に友里達まで、一体何をやっているんだ?」
弦十郎達が部屋に入った瞬間、クラッカーを鳴らしたのは颯人だけではなかった。あの瞬間、司令室に詰めていた者全員が手にクラッカーを持ち鳴らしていたのだ。
特に責められているわけでは──いや、翼は呆れと非難が混じった眼をしている──ないが、さりとて無視することはできない。
弦十郎と翼、2人からの視線に居た堪れなくなった朔也が冷や汗を流しながら口を開いた。
「いや、あの~、なんて言うか……」
「ノリに乗せられて、と言いますか……」
「面白そうだったから」
しどろもどろになりながらも弁明しようとする朔也とあおいに対して、了子はいけしゃあしゃあと面白そうだったからと口にする。全く本心を隠す気もないその様子に弦十郎と翼は揃って溜め息を吐く。
その一方で、奏は颯人に詰め寄っていた。
「颯人ッ!? お前こんなところで何やってんだよッ!?」
「見りゃ分かるだろ? サプライズだよサプライズ。久々の再会が普通に会うだけなんてインパクトが少なくて面白くないだろう?」
「いや普通でいいじゃんかッ!? 了子さん達まで巻き込みやがってッ!?」
「馬鹿野郎、俺はエンターテイナーの息子だぞ! んな面白味の無い真似出来るかッ!!」
「また変な意地を……」
颯人のエンターテイナーとしての拘りに、奏は思わず呆れの溜め息を吐いた。
再会して早々に口喧嘩する2人に若干話し掛け辛さを感じながらも、何時までも放置するわけにはいかないので弦十郎は意を決して話し掛けた。
「あ~、ちょっといいか? 君は──」
「あぁ、あぁ、まぁまぁまぁお待ちなさいって。気持ちは分かるけど、今は俺の舞台だからさ。大丈夫、ちゃ~んと段取りは考えてあるから」
弦十郎の言葉を遮って、やや芝居じみた様子で颯人はそう告げると、彼は両手を広げて司令室の中央へと向かっていった。ちょうど二課職員や装者達が作る輪の中心に立つ形だ。
二課の者達の視線が自分1人に集まったのを見て、彼は右手に指輪を嵌めてハンドオーサーに翳した。
〈ドレスアップ、プリーズ〉
音声と同時に彼はその場でくるりと一回転。次の瞬間には彼の恰好はカジュアルなスーツ姿からシルクハットを被ったタキシードに変わっていた。手にはステッキすら持っている。
早着替えとかそんなレベルではない光景に目を見開く弦十郎達の前で、颯人は軽快にステップを踏みながら自己紹介し始めた。
「さてさて、俺の事を知ってる人ばかりみたいだけど、様式美ってことで傾聴願うよ。俺の名前は明星 颯人。世界的天才マジシャン明星 輝彦の息子さ」
話しながら彼は徐に朔也に近付くと、手に持っていたステッキを両手の中に消し代わりにソフトクリームを出して朔也に手渡した。
渡された物が本物のソフトクリームであることを少し食べて確認した彼は、驚愕に目を見開く。
「日本じゃまだまだ無名だが、こう見えても海外じゃそれなりに名が知れててね。その内こっちでも有名になる筈さ。サインが欲しくなったらいつでもどうぞ」
颯人はそのまま隣のあおいの前に来ると、何もない筈のハンカチの下から小さめのテディベアを取り出しそれを彼女に手渡した。この短時間に既に何度も颯人の手品を見ているあおいだが、やはり目の前で見事なものを見せられると興奮するのか子供のように目を輝かせながらテディベアを受け取った。
「今日ここに来たのは奏との約束を守る意味もあるけど、それとは別にもう一つ。今後は俺もあんたら二課に協力をと思ってね。その方が奏と長く一緒に居られそうだからさ」
今度は了子の前に来た颯人は、彼女の手を取りその上にハンカチを被せた。彼がハンカチを取り去ると、そこには一輪の花弁の多い桜色の花、ダリアと言う花があった。
「そう言う訳で、今後はお世話になるんで、以後宜しく」
最後に彼は弦十郎の前に立ち、シルクハットを手に優雅に一礼して見せた。
自己紹介を終え、満足そうにシルクハットを被り直す颯人。
対する二課職員達は誰も言葉を発さない。理解が及ばないとか引いているとかいう訳ではなく、純粋に圧倒されていたのだ。威圧されたという訳でもない。
ただただ単純に、一つの舞台が終わった直後の様な雰囲気に動いたり言葉を発したりすることが無粋なように思えたのだ。
誰も何も言葉を発さない中、まず真っ先に口を開いたのは奏だった。
「…………とりあえず言いたい事や聞きたい事は色々ある。もちっと普通に会いに来られなかったのかとか、事前に連絡の一つも寄越せとか」
「普通は無理。さっきも言ったけど俺はエンターテイナーの息子だ。連絡の方も、折角の再会なんだしインパクトあった方が良いかなって」
「まぁそこはもういいよ、お前に普通を求めても意味がないって事は昔から分かり切ってたことだし。だからこれだけは言わせろ」
奏はそこで言葉を区切った。本当はもっといろいろと話をしたい。彼と離れ離れだった間に起こった出来事が沢山あるのだ。
だがそれは今ではない。今後は彼と話す時間はこれでもかと言うほどあるのだ。
であるならば、口にすべき言葉は決まっている。奏は万感の思いを胸に、今までずっと言いたくても言えなかった言葉を口にした。
「お帰り…………颯人」
「あぁ。ただいま…………奏」
ずっと言いたくて、ずっと言われたかった言葉を交わした2人。
漸くその言葉を互いに言い合えた2人は、どちらからともなく柔らかな笑みを浮かべるのだった。
後書き
今回は以上です。
多分この展開をやる人は誰も居ないと思う。弦十郎を相手に逆にサプライズを仕掛ける主人公は、多分シンフォギア二次創作界においては彼が初めてかもしれない。
次回はこの作品におけるウィザードの設定の説明が主になります。原作仮面ライダーウィザードとは大幅に変更している点もあるので正直受け入れられるか不安が大きいですが、楽しんでいただけますと幸いです。
それでは来週のこの時間にお会いしましょう。
感想その他お待ちしてます。それでは。
ページ上へ戻る