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提督はBarにいる。

作者:ごません
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秋の夜長にホットなカクテルを・1

「フルハウスよ!」

「……残念、フォーカードだ」

「Oh my god!」

 コールしてカードをオープンした瞬間、店のカウンターに対戦相手が突っ伏した。かれこれ7連敗の彼女は、既に涙目の上に顔が赤い。

「うぅ~……」

「まだやんのかぁ?ジョンストン。まぁこっちとしちゃあ儲かるからありがてぇけどよ」

 対戦相手はジョンストン。アメリカから送られてきた駆逐艦の1人。今日は珍しく1人でやってきて、いきなりポーカーでの勝負を持ち掛けられたのだった。

『Admiralって、カードは強いのかしら?』

『まぁ、それなりにな』

『なら私と勝負しましょう?私が勝ったら何か1つ言うことを聞いてもらうわ!』

『お前が負けたら?』

『Admiralに出されたお酒を飲むわ。勿論、支払いはちゃんとするわよ?』

 当たり前だ、ウチは明朗会計。ツケもアリだがキッチリと給料からの天引きで回収するからな。

『よっしゃ、受けた』




 ……と、そんな調子で始まったポーカー勝負。酔い潰れるまでは付き合ってやると豪語してしまった手前、もうやめとけとは言いにくい。

「ま、まだやるわよ!私はまだらいじょ~ぶなんらから!」

 呂律がかなり怪しい事になってるし、目も焦点があっていないが……本人がやるってんなら付き合うさ。

「続けんなら、取り敢えずさっきの負け分の注文を承ろうか」

「コーヒーよ!コーヒーのカクテル!」

「お前ホントコーヒー好きだな」

 まぁ、俺も紅茶よりはコーヒー党だから仲間が増えるのは嬉しい事なんだが。

 耐熱グラスにカルーアを20mlと、タレア・アマレット・クリームというリキュールを20ml。こいつは杏の種……杏仁を使ったリキュールでな、アーモンドに似た香りの『アマレット』とクリームのまろやかさが優しい味わいを醸し出す。そこに暖めた牛乳を注ぎ、全体が混ざるようにステア。これで『ホット・タレア・カルーア』の出来上がりだ。

「ホラよ。熱いから気を付けて飲めよ?」

「……ありがと」

 ふぅふぅと息を吹き掛けながら、チビチビと啜るジョンストン。ホット・タレア・カルーアの味を例えるなら、アーモンド風味のカフェオレといった所だ。アマレットのアーモンドの香りがカルーアの甘味とコーヒーの香ばしい香りを引き立てる。そこにクリームとホットミルクが合わさって、まろやかな口当たりで大変飲みやすい。寝る前の一杯、ナイトキャップカクテルにもオススメだ。

「大体、なんでそんなに強いのよ。私だって、アメリカに居た頃は負け無しだったのよ?」

「ウチの客にも多いんだよ、ただ飲んでるのに飽きて勝負を吹っ掛けて来る奴が」

 大概の奴は料理と酒で満足して帰るが、酒だけ飲んでいる奴は手持ち無沙汰になってくると一勝負、といってくる。勝負の内容もトランプに始まり花札、サイコロ、果ては腕相撲やダーツ、将棋なんかのボードゲームまで。勿論、金を賭けたりする事もあるが大体は『その日の払いをチャラにする』か『俺が願いを1つ聞く』というのを条件に持ち掛けてくる。とんでもねぇ願い事をしてくる奴もいるし、何より俺が負けるのが大嫌いなんでな。負けないように努力した結果だ。

「うぃ~っす、って何々?何の話?」

 ほら来たぞ、勝負を挑んでくる常連が。





「ポーカーで勝負してたんだ」

「あぁ、負けたら1杯、勝ったらお願いって奴?」

「そうだ」

「アタシが仇取ってやろうか?ジョンストンちゃん」

「良いの!?ジュンヨー?」

「勿論さぁ!こう見えてアタシ、空母になる前は客船だったからねぇ。トランプならお手のものさぁ」

 そう言って隼鷹は勝負を引き継ごうと交渉する。

「ダメだね、却下だ」

「え~、なんでさぁ提督ぅ。アタシに負けんのが怖いのかい?」

 ニヤニヤ笑う隼鷹。しかし俺は騙されんぞ。

「アホか。お前、わざと負けてただ酒飲む気だろうが。ジョンストンに払いを押し付けて」

 その瞬間、隼鷹の笑いが固まり、その隣のジョンストンの顔には怒りが浮かぶ。

「あ……バレた?」

「お前の魂胆なんぞお見通しだ、アホぅ」

「サイッテー!Admiral、もう一勝負よ!」

 怒りに任せてホット・タレア・カルーアを一気に飲み干すジョンストン。

「どうせなら、アタシも参加できるゲームにしてよ。ポーカー以外でね。あ、それとアタシにもコーヒーカクテル!」

「へいへい」

 そんじゃあ淹れるとしますかね。用意するのはテキーラ。コリンズグラスに20ml注ぎ、そこに更にコーヒーリキュールを20ml加える。カルーアでも構わないが、そうすると甘ったるくなる可能性があるので注意。酒を両方入れたらそこにホットコーヒーを注ぎ、ステア。仕上げに上にホイップクリームを浮かべれば完成。

「ほら、『メキシカンコーヒー』だ」

 酒+コーヒーという定番の組み合わせのバリエーションの1つだな。メキシコの代表的な酒・テキーラを使っているから、メキシカン。安直だが分かりやすいネーミングだ。

「くぁ~っ、このテキーラの風味がまたイイねぇ♪」

「それで?なにやるか決まったか」

「う~ん、トランプじゃなくて『丁半』ならどうだい?」

「ジュンヨー、チョウハンって?」 

「サイコロを2つ、見えない状態で容器の中に入れるのさ。そんで、出た目が偶数か奇数かを当てる遊びさね」

「偶数が『丁』、奇数が『半』。シンプルだからこそ面白い」

「ふぅん……」

「まぁ、試しにやってみっか」

 ツボ振りは俺がやる。黒いプラスチック製のカップに、サイコロを2つ放り込む。その状態でよく回して、逆さまにしてカウンターの上に置く。

「さぁ……丁か?半か?」

「う~ん……じゃあチョウ!」

「ならアタシは半かな~」

 ジョンストンは丁、隼鷹は半。さてさて……

「グニの半!」

 出た目は5と2。合計7で奇数の半。隼鷹の勝ちだ。

「やりぃ!へへへ~、悪いねぇ1杯オゴリだよ?提督ぅ」

「わ~ってるよ、ったく……」

「今度はなんでもいいから、温かいカクテルがいいねぇ」

「はいはい」

 さて、じゃああまり温めて飲むイメージの無い酒をホットカクテルに仕上げた1杯を。まずはカクテルを作る前の下準備。ホットカクテル用のグラスにお湯を注いで、器を温めておく。器が温まったらお湯は捨てておく。ベースリキュールはカンパリ。ソーダ割りとかカクテルの香り付けとしちゃあ定番だが、ホットで飲むのはあんまりイメージ無いだろ?こいつを温めておいた器に40ml。そこにハチミツとレモンジュースを1tsp。仕上げに『キュンメル』ってリキュールを適量注いでステア。キュンメルってのはキャラウェイ(姫ういきょう)を使ったリキュールでな、こいつがまたイイ香りを付けてくれる。

「ホラよ、『ホットカンパリ』だ」

 そう言って俺はグラスを2つ差し出す。

「おろ?1杯多いよ提督ぅ。酔っ払ってんの?」

「アルコール漬けになってるお前の脳味噌と一緒にすんな隼鷹。これはジョンストンの分だ」

「ほぇ?」

 まさか自分の分まで出てくると思っていなかったジョンストンは、間抜けな声を上げている。

「お前は『負けたら飲む、限界まで勝負する』って約束だったろ?そしてお前はたった今負けた。だから……飲め」

 そう言われて顔が青ざめるジョンストン。とっくの昔に限界なのはこちとら解っていたんだ。これはトドメを刺しに行っている。

「さぁ……景気よくいってみようか?」

「~~~~~~っ!」

 俺がニヤリと笑ってそう言うと、ジョンストンは涙目になりながらギブアップを宣言した。


 
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