提督はBarにいる。
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磯風に教える、提督流オトコ飯・3
「まぁ、返してみたいなら止めねぇけどよ」
「よ、よし。行くぞ……!」
磯風の奴め、ガチガチに緊張してやがる。あれじゃあ手首の返しもクソもねぇだろうに。どれ、力を抜いてやるか。そう思って、磯風の耳許にフッと息を吹き掛ける。
「わひゃんっ!?な、何をするのだ司令!」
「肩に力入れすぎ。もう少しリラックスしてやれ」
「そ、そんなのは口で言えばいいだろう!?」
「口で言って出来るなら俺だってそうしてるっつの。ただ、お前は融通の利かない所があるからな……って、焦げるぞ?」
「え?うわああぁぁ!」
磯風はワタワタと焼いていたオムライスをひっくり返す。……うん、少し焦げたがこれはこれで。後はもう少し焼いて、皿に盛り付けたらケチャップをかけて完成だ。
「にしても、『わひゃんっ!?』とはなぁ。中々可愛いリアクションするじゃねぇか」
「か、からかうな……私など可愛気の無い女だと自覚している」
「いやいや、姉妹達に美味い料理を食わせたいと習いに来るなんざ、健気で可愛いと思うがなぁ」
「そっ、そういう事を言うから新人の娘達にふしだらな男だと勘違いされるんだぞ司令!解っているのか!?」
「はいはい、わかったわかった」
あぁ、オムライスの方はちょっと焦げてたが普通に美味かったぞ。
「さて、お次は汁物だ。ご飯物と汁物がありゃあ、とりあえず食事としては体裁が整うからな」
「うん、よろしく頼む」
「まずは中華風のクリームシチューを作るぞ」
《中華風クリームシチュー・鶏カブスープ》※分量2~3人前
・鶏肉(モモでもむね肉でも!):300g
・カブ:1個
・牛乳:250cc
・水:1リットル
・中華スープの素:大さじ1~2
・塩、胡椒:適量
・ごま油:少々
・片栗粉:適量
※その他玉ねぎやニンジン、ジャガイモ等を加えても美味しいぞ!
「まずは下拵えだ。鶏肉は一口大に切り、カブは葉と根の部分を切り落としたら皮を剥き、これも一口大に切る」
「カブの葉と根は捨てて良いのか?」
「葉っぱの部分は食べられるから、細かく刻んでスープに入れる。切り終わったら鍋に水を入れて火にかけてくれ」
「了解だ」
火にかけた鍋が煮立って来たら、鶏肉を入れて茹でる。火が通ったらアクを取り、鶏肉を取り出して同じお湯でカブが柔らかくなるまで煮る。
「そういえば、司令はどうしてこんなに料理が上手くなったんだ?」
「あ~……俺の場合はまぁ、美味い物が食いたいってのもあったが、必要に駆られてだろうな」
「? それはどういう事だ?」
「俺がガキの頃は親父もお袋も共働きでな。爺ちゃんと婆ちゃんに育てられたんだ」
「ほうほう」
「だがなぁ、婆ちゃんがとんでもねぇ飯マズでなぁ。肉を焼けば表面丸焦げの中身は生焼け、味噌汁には3回に1回出汁を入れ忘れる、腹を壊すなんてしょっちゅうだった」
「それは……よく生きていたな、司令」
「あぁ、頑丈なのは本当に親に感謝だよ。そんで、婆ちゃんには任せておけねぇと俺が自分で飯を作るようになったのさ」
まぁ、途中からは料理自体が楽しくなってきたってのもあるが。
「お、そろそろ良いんじゃねぇか?」
カブに竹串を刺して、煮え具合をチェック。竹串はスルリとほとんど抵抗もなく刺さる。OKだな。
「んじゃ、鍋に鶏肉を戻して牛乳、中華スープの素を入れてよくかき混ぜて全体を馴染ませてくれ」
ここで一旦味見。塩気が足りなかったら塩、胡椒で調整。味が決まったらカブの葉を加えて弱火でコトコト煮込む。葉に火が通ったら水溶き片栗粉でとろみを付けて、仕上げにごま油を加えて香りを付ければ完成だ。
「さぁ出来たぞ、『中華風クリームシチュー・鶏カブスープ』だ。熱いから気を付けて食えよ?」
俺から器を受け取った磯風は、ふぅふぅと息をふきかけつつスプーンを口へと運ぶ。
「どうだ?鶏肉のダシも利いてて美味いだろ?」
「うむ、これなら私でも出来そうだ」
「よし、お次は味噌汁を作るぞ」
「み、味噌汁だと!?難しいんじゃないのか……?」
「任せろ、今から教えるのは出汁の要らねぇ味噌汁だ」
《出汁いらず!?の味噌汁2種!》※分量2人前
(とうもろこしの味噌汁)
・とうもろこし(生):1本※無ければスイートコーンの缶詰1缶
・水:適量
・味噌:適量
(アサリのミルク味噌汁)
・アサリ:1パック(200g位)
・水:250cc
・牛乳:250cc
・白味噌:適量
・アサツキ:適量
・バター:お好みで
さて、作っていこう。まずは摩訶不思議なとうもろこしの味噌汁から。生のとうもろこしは皮と髭を綺麗に取り除いたら、根本の茎を落として4等分に切る。
鍋に水を入れ、ぶつ切りにしたとうもろこしを入れて火にかける。
「し、芯ごと茹でるのか!?」
「そうだ。不思議なモンでな、実からは甘味が出るが芯の部分からは香ばしい独特の出汁が出るんだよ」
缶詰のスイートコーンを使う場合は、缶の汁ごと入れよう。とうもろこしを暫く煮て、水が濁ってきたら味をみる。汁からとうもろこしの甘い味がしていたらOKだ。一旦火を止め、味噌を溶く。味噌は出来たら赤味噌と白味噌を半分ずつ混ぜ合わせた方が美味いぞ。
味付けをしたら生ワカメなどの好みの具材を入れてひと煮立ちさせれば完成だ。
「ほれ、味見」
「これはどうやって食べれば良いんだ?」
「とうもろこしに染み込んだ味噌汁をチューチュー吸いながら、たまにもろこしをかじるんだ。もろこしの甘味が味噌汁を引き立てて美味いぞ~?」
味噌ラーメンでもコーンは定番のトッピングだからな。相性の良さは折り紙付きだ。お次はアサリと牛乳を使った和風クラムチャウダーとでも言うべき味噌汁だ。
まず、砂抜きしたアサリ同士をこすり合わせてゴリゴリ洗う。そうしたら鍋に水を入れて火にかける。
鍋が煮立ってきてアサリの口が開いたら、火を弱めて牛乳を加える。牛乳を入れてからは沸騰させないように注意だ。
味噌を加える前に味見をして、味噌を溶く。味見の時点で旨味が足りないと感じれば、ほんだしを足すのもアリだ。
器に盛り、仕上げに小口切りにしたアサツキを散らせば完成だ。お好みでバターを入れても、コクが増して美味いぞ!
「ほい、こっちも味見だ」
「……うん、これは美味い。ご飯じゃなくても、パンにも合いそうな味だ」
そう、牛乳でマイルドな味に仕上がっているお陰か、洋食のスープとしてもイケそうな味になるんだよなコレが。
「本当に助かったぞ司令。これで次の食事会もバッチリだ!」
「おう。また新しいメニューが教わりたくなったらいつでも来な」
……と、伝えたのが数ヵ月前。今俺の目の前には浜風と浦風、それに谷風の3人が立っている。それも、涙目で。
「どうにかしろ、ったってなぁ……」
「頼む、提督さん!この通りじゃ!」
「もうアタイ達にゃあ無理だよぉ……!」
「流石に、限界です……」
と涙ながらに訴えられる。と、そこへ涙目になっている『元凶』が現れた。
「皆どうした?昼食が出来上がったぞ。早く食べよう!」
「「「い、磯風……!」」」
そう、磯風の奴は料理が作れるようになったのに気をよくしたのか、毎日作り続けてるんだそうだ。ただし、俺から教わったメニュー『だけ』を、毎日な。始めの頃は浜風達も付き合ってやっていたらしいが、流石に数ヵ月毎日同じメニューじゃなぁ……。
「おい、どうした?何故逃げる」
「「「嫌あああぁぁぁぁっ!」」」
浜風達と磯風のおいかけっこが始まった。……ヤレヤレ、磯風の飯マズ改善の道は遠そうだ。
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