魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica58いざ挑まん。最強の堕天使~Day Before A War~
時空管理局本局、総務部のオフィスにて日々変わらぬ事務仕事を行っていたリンディ・ハラオウン統括官の元に、「リンディ居る!?」ひとりの女性が飛び込んできた。リンディは声の主の名前、「レティ?」と口にした。フルネームをレティ・ロウラン。運用部人事課の課長であり、艦隊の指揮資格を有する提督の肩書きも持っている。
「ちょっと聞いた? リアンシェルト先輩、管理局を辞めるって話! 本局も支局も大騒ぎよ! 私を次期総部長にするって言う事例も下ったの! しかも昨日! それと、ルシル君も辞表を出してきたんだけど! どういうことなの!?」
レティの話にリンディはキーボートを打つ手を止め、「そう。いよいよなのね」と悲しそうに目を伏せた。
「何よリンディ。リアンシェルト先輩やルシル君が辞めるってこと知ってたの?」
「知っていたというより判っていた、かしら」
リンディは一旦仕事の手を止め、レティを伴ってオフィスを出て休憩室へと向かった。休憩室は幸いにも他に人は居らず、「ここでなら話せるわね」と言ってリンディがベンチに座った。レティは、自販機からコーヒーを2人分と購入し、1つはリンディに差し出した。
「ありがとう、レティ」
「どういたしまして。それで、何か知ってるんでしょ?」
コーヒーを一口含んだレティがそう尋ねると、リンディも「ええ」と頷いてコーヒーを口にした。
「ルシル君が大隊の拠点制圧中、局と聖王教会に通信で語った内容、憶えてる?」
「ええ、もちろん。セインテストの宿命ってやつよね。セインテスト家が造り出した人型魔導兵器ヴァルキリー。それを当時の敵国に洗脳されてエグリゴリとなった。セインテストの人間は、洗脳されたエグリゴリを救済という名目で破壊することを存在意義としている、だったわね」
「そう。その存在意義というものだけどね、まだ隠されていた真実があったのよ」
そう言ったリンディの表情を見てレティは、何か良くない話だということは察することが出来た。かつて八神家の保護観察者だった自分だけが蚊帳の外というわけにはいかないと考えたレティは、「聞かせて」と先を促した。
「2ヵ月ちょっと前に、ルシル君から呼び出しを受けたのよ。まぁ私は海鳴市に帰っていたからモニター越しだったけど。まず、ルシル君の目的であるエグリゴリの救済。これが先輩が局を辞める理由よ」
「どういうこと?」
「先輩・・・リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサは、エグリゴリなのよ」
「・・・え、嘘でしょ!? ということは人間じゃないってこと!?」
驚きのあまり紙コップを落としそうになったレティ。リンディはベンチに座るように促し、レティも頷いてリンディの隣に腰掛けた。
「先輩が年老いたように見える? 私たちが先輩と出会ってからかれこれ30年以上も経っているのに」
「言われて見ればそうだけど。でも、そんな・・・」
「私もそれを知った時はショックだったわ。だけど、先輩から直に聞かされて納得せざるを得なかった」
「いつ知ったの? その、先輩がエグリゴリだったって」
「リンドヴルムの首領スマウグが、本局に攻め込んできたときね。うちのクロノや娘たちが頑張ったのだけど、勝てなかったのよね。そこに先輩が現れて、たった1人でスマウグを殺したのよ。ルシル君からまず聞いて、その後に先輩に確認したの」
「それでエグリゴリだって知ったのね」
僅かな沈黙の後、レティはコーヒーを呷って「それで、ルシル君が辞める理由は?」と話を切り替えた。
「・・・セインテストは、ルシル君は・・・エグリゴリを救済することを宿命としている。だから先輩や残る最後の1体を救えば、ルシル君はその宿命から解放されて、はやてさんかイリスか騎士トリシュタンか、誰かと結ばれて幸せに過ごしていけるんだと思っていた。だけど・・・」
リンディの口からセインテストの真実を語られる中、レティの顔が徐々に青くなっていく。そして語られ終えた後、レティは「何よそれ・・・!」と怒りで強く歯噛みした。
「そういうわけで、先輩もルシル君も局を辞めようとしたのよ」
「でもルシル君が先輩に勝って、すぐにその・・・ダメになるってわけじゃないのよね? だったら辞表はまだ受理しないわ。あの子が生き続けている限り、あの子の場所は残しておく」
レティのその言葉にリンディは「そうね」と嬉しそうに頷き返した。
†††Sideルシリオン†††
俺に残された時間はもうあまりない。このまま黙ってガーデンベルグを救うか、せめてもの礼儀として死期が近いことを伝えるか。俺は後者を選んだ。
本局医務局の入院病棟の1室で今なおベッドの上から動けない俺は、ユーノとセレネとエオスを含むチーム海鳴フルメンバーとクロノとリンディさん、それにトリシュたち騎士にもお願いして時間を作ってもらった。まぁ場所が場所だけに、トリシュ達とリンディさんとクロノはモニター越しでの参加だが。
「それで、ルシル。今日はどんな用事なの? 正直、僕とセレネとエオスまで呼ばれるなんて思いもしなかったから驚いているけど」
「チーム海鳴のメンバーって話だったけど、私とかエオスとかユーノとか、一応籍は置いてるけど・・・」
「正規メンバーっていうより準レギュラーって感じだし、なんか気が引けたよね。私たちも一緒でいいのかな?って」
無限書庫でデートしていたらしいユーノ達がそう言うが、“PT事件”ではれっきとしたチーム海鳴だった。“闇の書事件”では確かにセレネとエオスは居なかったが、1度紡いだチーム海鳴の絆はそう容易く解けはしないだろう。
「そんなことないよ。セレネちゃんもエオスちゃんも、もちろんユーノ君だって、これまでもこれからもチーム海鳴だよ」
「うん。だからそんな寂しいこと言わないで」
「そうそう。なのはとすずかが言ったように、あんた達はチーム海鳴よ」
なのはとアリサとすずか、ユーノとセレネとエオスは、チーム海鳴の1期メンバーのようなものだ。アイドルグループのように卒業なんてものはないからな、解散しない限りずっと仲間だ。
『ところで、私たちはどういう理由で誘われたの? チーム海鳴じゃないけど・・・』
ルミナがそう言って首を傾げたため、「シャルを通してチーム海鳴と仲が良く、俺自身も短いながらも同じ部隊に所属した仲間で、友人だと思ったから、通信という形で集ってもらった」と答えた。するとルミナは満足そうに『ん!』頷いて、トリシュも『誘ってくれて良かったです』と微笑んだ。
「忙しい中、みんなを呼び出した理由。それはみんなにどうしても伝えておきたいことがあったからなんだ。今の俺の状態と、今後の俺について。そして、俺が今まで隠してきたセインテストの真実を伝えようと思う」
そう言うと、思い思いに喋っていたみんなが一斉に口を噤んで話を聞く姿勢を取った。
「まず、第12管理世界フェティギアはサンクト・アヴィリオスの出身というのは、嘘なんだ」
『なに!?』『ええ!?』
クロノとリンディさんが真っ先に驚愕の声を上げた。俺がそう言ったからといって何もせずに信じる愚は起こさないだろうから、リーゼアリアとリーゼロッテのように俺の身の上をちゃんと調査しただろう。そして裏を取れた。だが、俺本人から嘘だと言われた。驚くのも無理はない。
「うそ? うそってどうゆうことや?」
「それを説明するには、俺・・・セインテスト家の、セインテストシリーズの真実を伝える必要がある」
「「『セインテストシリーズ・・・?』」」
「俺は、厳密に言えば人間じゃない。初代セインテストのリンカーコアと遺伝子を基に生み出されたクローンだ。が、実際には魔力で体を構築しているから、シグナム達やエグリゴリに近い擬似生命体だ。ちなみにオーディンを含めた歴代のセインテストもそうだ」
俺の話に理解が追いつかないのかはやて達は呆け、すでに事情を知るシグナムとヴィータとシャマルとザフィーラは目を伏せ、緘口令を強いているアインスは「え? え?」と混乱しているはやてを悲しげに見、アイリは俺の側に寄り添い、「マイスターも・・・?」と目を丸くしているアギトを心配そうに見ている。
『ま、待ってくれルシル。君は成長していたじゃないか。まさか、あれも変身魔法で誤魔化していたのか?』
「いや。この体は魔力で形作られているとはいえ、肉体であることには変わりない。シグナム達には成長が必要なかったから成長しない。俺は人と関わりを持ちながらエグリゴリと闘いをしなければならないから、不自然に思われないよう成長するように設定されて造られた」
『造られたってそんな・・・』
「事実なので、リンディさん。セインテストは、エグリゴリを救済するためだけの生体兵器。俺も、オーディンも、歴代のセインテストはみんなクローンで、両親なんてものは存在しない、対エグリゴリ用の道具としてこの世に生を受けた。フェティギア生まれも嘘。両親や姉や妹がエグリゴリに殺されたと言うのは俺の話ではなく、初代セインテストの記憶を語ったに過ぎないんですよ」
『わ、悪い冗談だよ、ルシル。兵器? 道具? だってルシル・・・生きてる。普通の人みたいじゃん・・・』
シャルが顔を真っ青にして振り絞った言葉に、「人間社会に溶け込めるような処置だよ。単独捜査じゃ限界があるからな」と徹底的に嘘と真実を交えた話を続ける。
『待て、ルシル。君がクローンだというのなら、君らを生み出す施設や協力者が居るはずだ。戸籍や財産などを用意する仲間が・・・』
この中で1番冷静を装っているクロノからの問い。すぐにそこに考え至るのはさすがとしか言い様がない。
「協力者の名前はマリアで、戸籍や財産などは彼女が用意してくれる。施設はどこに在るかは判らない。自我が目覚めた瞬間、自分に与えられた名前、成すべき事、その時代での常識などといった様々な情報が頭に浮かぶ。造られたときには初代の魔術などを会得しているからな。すぐに戦闘行動には入れるんだ」
『マリア・・・。苗字は?』
“界律の守護神テスタメント”となる人間だった頃のものなら、マリア・フリストス・ヨハネ・ステファノス。だが今は「無い。俺と同じで人じゃないからだ。アレは何千年もの間、ずっとセインテストの守だからな」とあながち嘘でもない答えを返した。マリアは俺のために、生きたまま神とも言える“テスタメント”にまで上り詰めたし、今回の契約だって彼女が召喚してくれたからだ。
「まぁこれが、セインテストの真実の1段目、出生の秘密だ。次はセインテストシリーズの魔力構築体について。成長する肉体と言っても魔力で出来ている以上、今みたく歩けないような弊害を負ったり、成長が止まったりする」
これは俺自身もビックリだった。何千回という契約の中で、成長するようなことがあっても必ず人間だった頃の体格まで成長できた。それがまさか155cmでストップなんて・・・泣いたぞ。
「で、入院中に毎日検査を受けていたんだが、約1週間おきに魔力総量が減ってきているんだ。それで計算した結果、魔力消費を限界まで抑えた上で何の対処もしなければ、およそ3年で俺は死ぬことになる。特騎隊として前線に出て魔法戦を繰り返せば、およそ半年から1年。エグリゴリとの闘いとなれば・・・リアンシェルト戦後の状況によるが、1週間から1ヵ月が俺の寿命になる」
『3年・・・?』
『半年から1年・・・?』
「たったの・・・1週間から1ヵ月・・・?」
シャルとトリシュとはやてがうわ言のように呟いた。なのは達も「寿命ってそんな・・・」顔を青くしていた。
『待ってルシル! ま、魔力が減るからその、寿命が短くなってるって言うんならトリシュなら!』
『っ! そうか! トリシュのスキルなら・・・!』
『毎日魔力を補給できる』
セレスとルミナとクラリスが期待に満ちた瞳をトリシュに向け、トリシュも『は、はい! 毎日に通います!』と強く頷いた。
「じ、じゃあ! 私たちも協力するよ!」
「うん! ルシル、相手の魔力を吸収する魔法、というか魔術持ってるし!」
「ルシルにはさんざんお世話になってるし! そろそろ借りを返しておかないとね!」
「そうね! さすがに限界まで吸収されたら仕事に支障出るから無理だけど」
「私は技術職だから、限界まででも大丈夫だよ、ルシル君!」
『僕も! 魔力量は少ないけど、少しでも足しにしてもらえるなら!』
『『私たちも!』』
なのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずか、ユーノとセレネとエオスが嬉しいことを言ってくれた。さらにシャルが『わたしも! 身も心も捧げるって決めたもん! わたしの全部をあげる!』涙を袖でグイッと拭った。
『私たちも、毎日とはいかないですけど魔力を提供します。ね、みんな?』
アンジェがぐるりと見回し、ルミナとクラリスとセレスに確認すると、彼女たちも『もちろん!』と快諾してくれた。
『ルシリオン君。私も提督職を退いて内勤組になって久しいし、魔力ももう必要ないし、私で良ければ使って』
リンディさんやクロノも『僕のも少しくらいは分けられるぞ』とそう言ってくれる。
「ルシル君。全部とは言えへんけど、私の魔力もあげる。そやから・・・私の前から居らんくならないで・・・」
はやてがベッドの側まで来て、その震える手を俺の手の甲に触れた。
『あー! はやてズルい! 私だって本局医務局に居れば、手を触るだけじゃなくて抱きしめるのに!』
『私も、口付けだってします!』
『落ち着きな、2人とも』
モニター画面に顔を寄せて、俺たちにどUP顔を見せるシャルとトリシュの襟首を掴んで引き離すルミナ。俺はそんな彼女たちに、「本当にありがとう。本当に・・・!」ベッドの上だが手を付いて深々と頭を下げた。
「みんなの協力があれば、確かに俺は長生き出来る。ただ、セインテストシリーズにはある機能がある。・・・エグリゴリの全滅がセインテストシリーズの機能停止に直結する、というものだ」
はやて達が「機能停止・・・?」と呟く。シグナムたち騎士には、“エグリゴリ”の全滅と俺の死が同義であるとオーディンの頃に伝えているため、彼女たちは辛そうに目を伏せるだけだ。
「エグリゴリを全機救済すると、俺は・・・死ぬ。セインテストシリーズはあくまでエグリゴリを救済するためだけの装置だ。エグリゴリの全滅が合図となり、俺の生命活動は停止し、以後新たなセインテストが誕生することはなくなる。エグリゴリとの闘い如何によっては1週間から1ヵ月と言ったのは、最後に救うガーデンベルグとのタイミングによって変動するからだ」
俺の死がすぐそこに来ているというショックで誰も口を開かない中、「それで、1つ注意しておきたいことがある」と前置き。
――・・・スター・・・――
「リアンシェルトとの闘いの後、俺はもしかしたら・・・みんなとの思い出を失っているかもしれない。オーディンの世代よりセインテストシリーズが壊れ始めていたんだ。記憶消失という欠陥だ。歴代のセインテストが複製したきたものは、俺たちにとっては記憶に当たるんだ。行き過ぎた魔力行使は体を構築している魔力までも消費し、体が消滅しないために複製したきたもの、つまり記憶を消費して体の維持を図る。それが記憶消失の原因」
「つまり、わたし達とルシルが一緒に過ごした思い出も複製物として貯蔵されているから・・・」
――・・・マイ・・・ター・・・起き・・・――
「・・・私たちと過ごした記憶を失う・・・」
「・・・ああ。みんなとの思い出を失った場合、俺はきっとリアンシェルトとの闘いで消費したドーピング用の魔力を手にするため、局を敵に回してでも行動を起こすと思う。みんなのことを忘れている俺は君たちに酷い言葉を使い、行動をするだろう。もしそんな状況になってしまったら、そんな俺を止めてくれても構わない。一応、謝っておく」
みんなにもう1度深く頭を下げた。ここからは本当にどうなるか予想が付かない。リアンシェルトとの闘いで俺がどこまで壊れるか、その想定すら出来ない今、俺はみんなに謝るしかなかった。
『マイスター! 起きてってば! こんなところで寝てたら風邪ひく!』
頭の中に響く大音声。
「んぁ? アイリ・・・?」
眠りから覚める感覚を得、ゆっくりと視界が晴れていく。目の前には頬を膨らませて、怒ってますよアピールをしているアイリの顔があった。そんなアイリに見つめられる俺は今、八神邸リビングのソファに横たわっており、アイリに膝枕されている状態。
(いつの間にか眠っていたようだな)
背もたれに手を伸ばして体を起こそうとすると、「待って。アイリが起こすから」と、俺の肩に腕を回して起こしてくれた。俺が「ありがとう」を言い終えたところで、アイリは「なんか、夢見てた?」と聞ききながら俺の背中に覆い被さってきた。
「ああ。はやて達に、俺の死が間近だという話をした時のものだ」
「あー3ヵ月前の、医務局でのことだね・・・」
「何か寝言でも言っていたか?」
「うん。謝ってた。誰にかは判らないけど・・・」
「そうか・・・」
リアンシェルトに勝ったとしても、あの子の戦闘能力からして複製物の大半を失うことになるだろう。当契約の記憶と、先の次元世界での記憶を最優先で守ってくれるとゼフィ姉様は言っていたが、それにも限界がある。覚悟だけはしておかないと・・・。
「アイリが守るから。何があっても、マイスターがアイリのことを忘れちゃっても、ずっと最後まで一緒にいるからね」
そう言ってくれるアイリにはベルカ時代からずっと感謝しかない。俺の胸に回されているアイリの腕に触れ、最大限の「ありがとう」を伝える。
「んっ♪」
ソファに座り直してのんびりしていると、「あ、ルシル君、起きたのね。4月になったとは言っても湯冷めしちゃうわよ?」パジャマ姿のシャマルがリビングに入って来た。
「アイリお姉ちゃん、お父さんのこと起こしてベッドに行かせるって言ってたのに。結局そのまま放置したんだね~」
続いて入って来たのは、俺の幼少時と変わらぬ姿のフォルセティ。向かったダイニングでミネラルウォーターを飲むあの子に、アイリは「だって~。膝枕できる絶好のチャンスだったんだもん」ぷくっと頬を膨らませた。
「あ、そうだ。フォルセティ。ちょっと大切な話があるんだ。時間をくれるか?」
「うん、いいけど。明日休みだし・・・」
フォルセティがアイリとは反対側に座り、話を聞く姿勢をとった。俺の雰囲気に何かを察したらしいシャマルもソファに座った。
「今晩、俺はセインテストの使命を果たすため、エグリゴリ・リアンシェルトと闘いに行く」
リアンシェルトはレティ提督に総部長の座を任せ、管理局を辞めた。それはニュースになるほどの大騒ぎだったが、リアンシェルトはすでに手続きを済ませて本局を後にし、今や行方不明だ。そして俺も、レティ提督に辞表を出した。それが2週間前。受理されていれば、俺も規則に乗っ取って辞めることが出来たんだが・・・。
――あなたがリアンシェルト先輩との闘いで確実に記憶を失うというわけでもないのなら、局員としての籍は残しておくわ。局員という肩書きが何か役に立つかも知れないし――
レティ提督のご厚意で、今でも俺は局員だ。
「ちょっ! ルシル君! はやてちゃん達が出張から帰ってくる明日まで待つって約束だったじゃない!」
「それはすまないと思っている。だけど、なんとなくだが判るんだ。おそらく今日じゃないと、俺はまた弱くなる・・・」
すごい形相でソファから立ち上がったシャマルに、右手の平を差し出す。今は透けてはいないが、時折体の一部が霧散しそうになることが何度かあった。本当に限界が近い。
「でも・・・だけど!」
「・・・フォルセティ。お父さんはこの闘いで、もしかするとこの家に帰って来られない体になるかも知れない。だからこそ、お前にはお願いしたい。はやてを、お母さんを支え、守ってあげてくれ。父さんとの約束だ」
「っ! う、うん!」
俺が帰って来られないかも、という言葉に目を見開いてショックを受けていたフォルセティだったが、俺が差し出した小指に自分の小指を絡めてゆびきりを交わした。
「でも! お父さん、それにアイリお姉ちゃんにはやっぱり帰ってきてほしい・・・!」
「大丈夫! アイリがルシルをちゃんと守るから! 2人で帰ってくるよ。そして、ただいま、って言うからね」
「アイリお姉ちゃん・・・」
フォルセティを抱き締めるアイリと、それを見守る俺を見るシャマルが「約束よ? ちゃんと帰ってきて。このままお別れなんて、私が許さないわ」涙を浮かべて、そう脅し・・・じゃないな、願いを口にした。
「俺も、はやてとこのまま顔を合わせずに全てを忘れるなんて嫌だからな。何とかして記憶をそのままに帰ってくるよ。・・・じゃあ行ってくる」
「いってきま~す!」
車椅子に乗リ移り、アイリが押して俺たちは家の外へと出る。あとはリアンシェルトから送られてきた手紙に記されていた指定された戦場へと転移するだけだ。
「ルシル君! せめて通信、メールでもいいから、はやてちゃん達に何か言ってあげて・・・!」
「勝って帰ってくるつもりなんだ。余計なことを言って不安にさせる必要は無いだろ?」
「そうそう! 大丈夫だって、シャマル♪ ルシルとアイリは必ず帰ってくるんだから」
アイリがリアンシェルトの手紙と一緒に送られてきた転送カードの準備を終え、「フォルセティ、シャマル。いってきます!」可愛く敬礼。続けて俺も「いってきます!」手を振った。
「お父さん! アイリお姉ちゃん!」
「ルシル君、アイリ!」
不安いっぱいの表情で俺たちを見送るシャマルとフォルセティ。記憶を失うかもという覚悟はした。そして記憶を失わず、勝って帰ってくるという決意も出来た。さぁ行こう。リアンシェルトの待つベルカへ。
(はやて。いってきます)
光に飲まれ、俺とアイリはミッドからベルカへと転移した。
「ようこそ、神器王ルシリオン。その融合騎アイリ」
辺りを見回していた俺とアイリの名を呼んだ声の主へと向き直る。
「「リアンシェルト・・・!」」
そこには氷で出来たロッキングチェアに座ったリアンシェルト。さらにあの子の側に控えている「ミミル・・・!?」とフラメルとルルスの4機が居た。
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