魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
閑話18「いざ、倒れ逝くその時まで」
前書き
サブタイトルは某弾幕ゲーから。
優輝がずっと戦闘する回なので、閑話扱いです。
「ッッ……!」
優輝の体が宙を滑るように動く。
あらゆる動きが音速を超え、神々の攻撃を受け流す。
「はぁっ!」
迫る拳を受け流し、跳び蹴りを蹴りでかち上げて逸らす。
同時にその反動で僅かに動き、“天使”の蹴りを躱す。
そのまま体を捻り、援護射撃の極光を逸らし、その上を滑る。
その際に極光の表面から理力を掠め取り、光弾としてばら撒いた。
「ッ!!」
「ぉおおおっ!!」
“ドンッ!”と、拳を受け流したとは思えない音が響く。
瞬間移動を繰り返して攻撃が当たらないようにする優輝だが、条件自体は相手の神々も同じと言える。
むしろ、戦闘に長けた分、瞬間移動しようとも追いついて来る。
「くっ……!」
多数の攻撃を受け流しつつ、直撃しないように動き続ける。
だが、それは永遠に続く訳ではない。
息をつかせる暇がないためか、徐々に受け流せなくなる。
「だりゃぁああああああ!!」
「はぁああああああああっ!!」
「ぐ、ぅ……!」
挟撃され、動きを止められる。
瞬間移動しようにも、先に攻撃を対処しなければいけなくなった。
僅かな、ほんの僅かな間、拳と蹴りの応酬を繰り広げる。
「っづ……!」
二対一。手数では優輝が負けている。
そのために、一撃貰ってしまった。
「ッ」
「読めています!」
「ちっ……!」
瞬間移動で離脱し、その直後に祈梨含めた複数の神から極光が放たれる。
掌で受け止め、何とか受け流す。
「ッッ……ぐぁっ!?」
同時に肉薄してきた攻撃を瞬間移動で躱し、それを読まれる。
ダブルスレッジハンマーで叩き落とされ、優輝はまともにダメージを受けた。
「ッ、はぁっ!」
「ぐっ!?」
叩き落とされた所を、体勢を立て直して着地する。
直後に回し蹴りを繰り出し、追撃に来た“天使”を吹き飛ばす。
「ッッ……!」
まさに息をつく暇もない。
すぐさま飛び退き、別の追撃を躱す。
間髪入れずに瞬間移動し、理力を溜める。
「はぁっ!!」
刹那の間で理力を溜めきり、結界を展開する。
同時に攻撃を受けて吹き飛ばされるが、その甲斐はあった。
「隔離か……!」
「先に片付ける……!」
そう。直接戦闘に長ける神と“天使”、そして優輝自身を隔離したのだ。
援護射撃がある状態では碌に反撃も出来ない。
そのため、こうして隔離したのだ。
「(と言っても、結界もそう長くは保てない)」
援護射撃をしてくる神と“天使”はそれこそ数えきれない程いる。
そんな数の一斉攻撃を受ければ、たちまち結界は瓦解するだろう。
「(故に、短期決戦……!)」
それでも、僅かな時間分断する事は出来る。
その間に決着を付けようと、優輝は構えなおす。
「ッッ……!」
「ほう……!」
今まで受け身だった優輝が、攻勢に転じる。
それを、“戦いの性質”を持つ神が大胆不敵に受ける。
「ッ!」
「っりゃぁっ!!」
貫手が躱され、反撃の膝蹴りが繰り出される。
その膝蹴りに手をつき、反動で優輝は跳び上がる。
同時に刀を手にし、斬撃を飛ばす。
……が、それは手刀によって打ち消される。
「ふっ!」
即座に追撃。今度は躱されずに受け止められた。
そのまま拳と蹴りの応酬だ。
「はぁっ!」
「ッ!」
そこへ、その神の“天使”も参戦する。
飛び蹴りを優輝目掛けて繰り出し、ペースを乱そうとする。
優輝は咄嗟にその蹴りを受け流し、上手く神へと当てる。
「隙を見せたな」
「しまっ……!?」
だが、それを狙っていたように別の神が優輝の背後を取る。
繰り出される拳を受け流そうとするが、僅かに間に合わない。
「がっ……!?」
体捌きのおかげで威力を殺せたが、それでも大きく吹き飛ぶ。
すぐさま体勢を立て直そうとするが……
「ふん!」
「ごっ……!?」
その前にまたもや別の神が懐に入り込んでいた。
そして、放たれた回し蹴りが腹に突き刺さり、優輝は再び吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
いつの間にか存在していた岩壁に優輝の体が叩きつけられる。
そこへ、間髪入れずに“天使”達が次々と襲い掛かる。
「……はっ」
……優輝は、それを待っていた。
「ここは僕の世界だ。僕の領域だ。……そう簡単にいくかよ」
優輝が叩きつけられた岩壁から、剣や槍が突き出してくる。
勢いよく優輝に向かっていた“天使”達のほとんどがそれで串刺しになった。
「はぁっ!」
「っづ!?」
間髪入れずに瞬間移動。
串刺しにならなかった“天使”の一人を背後から蹴り、別の“天使”が襲い掛かって来た所をカウンターで吹き飛ばす。
「ふっ!はっ!はぁっ!!」
次々と襲い来る“天使”達を、優輝は寄せ付けないように吹き飛ばす。
だが、多勢に無勢だけでなく、相手の連携も上手かった。
「捕まえた」
「ッ……!」
ついに背後を取られ、優輝は羽交い絞めにされてしまう。
そうなってしまっては、導王流を使うどころか殴り合いも難しい。
「くっ……!」
「遅い」
「が、はぁっ……!?」
力で無理矢理羽交い絞めをする“天使”を投げ飛ばそうとする。
しかし、一瞬遅かった。
肉薄してきた神の拳をまともに受けてしまう。
「……っ!」
「ちっ……!」
「ぉおおっ!」
痛みに堪えながらも、優輝は理力で武器を創造してぶつける。
それは神によって全て砕かれ、碌なダメージはならないが、隙を作り出す。
その僅かな隙を使い、羽交い絞めにしている“天使”を投げ飛ばす。
「(離脱―――!)」
「させん」
「がっ……!?」
だが、一度ペースを崩されたためか、上手く事を運べない。
まず間合いを離そうとした所を、別の神によって殴られる。
脳天からの一撃に、優輝は地面に叩きつけられる。
「(結界が……!)」
同時に、結界が破られる。
破られるのを待っていたのか、周囲の神が一斉に攻撃を放ってくる。
「っ、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
それを見て、優輝は防御じゃなく、攻撃に転じた。
自身の展開する“世界”に干渉。一気に理力を広げる。
“世界”の形を変え、それそのものを武器として攻撃にした。
「ッ……!逆手に取ったのか……!」
そこら中から“棘”が発生する。
それは地面や壁から生えたものだけでなく、空間そのものも“棘”になっていた。
故に、回避はほぼ不可能。
宙にいた神達も防御せずにはいられなかった。
寸前まで戦っていた神も、虚空から伸びてきた“棘”を掴んで止めていた。
「言ったはずだ。ここは僕の領域だと」
それだけで優輝の攻撃は終わらない。
創造した剣が飛び交い、反撃に転じようとする神達を牽制する。
「(とはいえ、手数が足りないか……。やはり、無駄をなくすしか……)」
余裕を見せている優輝だが、実はそうではなかった。
元々敗北は確定している戦いなのだ。
既に満身創痍で、質も量も足りない。
先程の肉弾戦で創造した剣を飛ばさなかったのも、結界を壊されるのをできるだけ先延ばしにしようと、結界外で放ち続けていたからだ。
「はぁ……ふぅ……ッッ!!」
息を整え、優輝は再び動く。
優輝の“世界”に出現した“棘”は足場にもなる。
それらを足場に跳躍し、一気に加速する。
「ッ……!」
“ジリジリ”と、優輝は何かに侵される感覚を味わう。
毒や熱に侵されるようなものではない。
もっと、根本的な“何か”だ。
「(もう影響が出てきたか……!)」
エニグマの箱による、世界の浸食。
それは優輝の領域をも侵していた。
そのため、領域と繋がっている優輝にも影響が出る。
「ちぃ……!」
理力による光弾をばら撒きつつ、殴りかかってくる神の攻撃を捌く。
空間そのものも変形しているためか、一部の援護射撃は遮断出来ている。
入り組んだ構造になった事で、優輝にとって戦いやすくはなっていた。
「っ!」
「ふっ!」
「ぐぅっ……!」
だが、それ以上に浸食の影響が強い。
決して消えない異物感が、延々と蝕んでくるのだ。
しかも、それは徐々に大きくなってくる。
その気になれば抑え込める程度だが、戦闘は激化している。
そのため、抑え込む事に気を割けず、どうしても押される。
「はぁっ!」
「がっ……っづぁあっ!!」
受け流しきれずに後退させられた所を、間髪入れずに横から蹴られる。
そのまま“天使”達にお手玉のように吹き飛ばされそうになる。
……が、そこで優輝も反撃に出た。
逆にカウンターで吹き飛ばし、瞬間移動。お返しとばかりに蹴りを神に叩き込む。
「ごっ!?」
蹴り飛ばした直後、今度は優輝が上から蹴られ、地面に叩きつけられる。
ギリギリで体勢を立て直し、ダメージを軽減。すぐに構え直す。
「(立ち止まる……事は出来ない!)」
イリスの“闇”を飛び退いて避ける。
空間及び座標を指定して発生させているのか、必ず優輝に直接当てに来ていた。
回避のタイミングを僅かにでもずらすと回避不可になるほどだ。
「はぁっ!」
「ッ……!」
“闇”を避け、拳と蹴りを捌き、支援射撃を瞬間移動で避ける。
どれもが僅かにでも失敗すれば敗北に繋がる程だ。
しかも、それに専念しても攻撃を凌ぎ切れない。
故に、優輝はダメージ覚悟で反撃を続けていた。
「ふっ、っづ……!」
直後、瞬間移動後を狙った拘束系の“性質”によって優輝は捕らえられる。
回避は間に合わないと即座に判断し、領域を操作して“壁”を作る。
領域を使ったソレはただの障壁よりも遥かに丈夫だ。
そのため、次々と突き刺さる攻撃を悉く防いだ。
「ぉおおっ!!!」
「ッ……!」
……気合と共に放たれたその剛腕以外は。
「く、そっ!」
油断していた訳じゃなかった。
だが、立ち止まっているために“闇”の対処に理力を割いていた。
それが関係し、“壁”を貫く程の威力を想定しきれなかったのだ。
「ッ、ぐぉっ……!こ、のっ……!」
再び瞬間移動するも、すぐに重圧によって動きを鈍くさせられる。
それに抵抗して領域を操作しようとするが、それも鈍い。
「(思ったより浸食が早い……まさか……!)」
優輝は僅かにイリスに視線を向ける。
そして、息を詰まらせる。
「……ふふ……」
「……くそがっ……!!」
エラトマの箱は、一つではない。
あろうことか、イリスはいくつものエラトマの箱を起動させていた。
優輝の予想より浸食が早かったのは、単に数が多かったからだ。
「(抵抗するのは止めだ!最低限領域を維持すればいい!)」
浸食を抑え込む事は不可能と判断。
領域の維持だけはそのままとし、優輝は戦闘に集中する。
「どこを見ている」
「自分の行く末だ……よっ!!」
肉薄してきた神に対し、優輝はカウンターを放つ。
同時に、身を捻る。
「ぐぅっ……!」
別方向から飛んでくる拳や蹴り、砲撃が掠る。
だが、その代償としてカウンターを当てた神は大きく吹き飛び、壁にぶつかった。
「(もっとだ……!)」
次々と殺到する武闘派の“天使”達。
それらを悉くカウンターで吹き飛ばしていく。
手数は足りず、優輝はダメージを蓄積させていくが、それでも倒れない。
確実に反撃を当て、僅かにでもイリス達の戦力を削ぐ。
「(もっと、研ぎ澄ませろ……!)」
もはや大規模な術は使わない。使う暇もない。
優輝は理力のリソースを領域の維持と身体強化、そして僅かに光弾として使う分に限定し、強化の密度を上げる。
「ッ、ふっ!」
「こいつ……!」
紙一重で発生した“闇”を避け、攻撃してきた“天使”をカウンターで返す。
優輝の攻撃は放つ度により重く、より鋭くなっていた。
そのため、一撃一撃が“天使”の体を別つ。
「(意識するな。ただ深みに往け。極致はそこにある)」
広範囲の砲撃のみ、優輝は瞬間移動で避けた。
それ以外の殲滅力が比較的低い攻撃は、全て僅かな動きでいなす。
一つ一つ、攻撃を掠らせながらも拳を交える度、動きが洗練されていく。
「調子に乗るな……!」
「ッッ……!」
拳が波打つように動き、繰り出された拳を僅かに逸らす。
それだけで優輝に直撃はせず、僅かに身を削り取って掠っていく。
その時には、既に優輝のカウンターが攻撃してきた相手に決まっていた。
「がはっ……!?」
「ぐ、っ……!」
しかし、近接戦を仕掛けてくるのは一人ではない。
“天使”達の攻撃を、優輝は最小限にダメージを抑えるだけで、全て避けきる事は出来ずにいた。
「ふ、はっ!!」
拳や蹴りが身を削り、優輝の体力を削る。
すぐさま優輝は反撃に転じ、“闇”を回避しつつ周りの“天使”を蹴り飛ばす。
「(“天使”はともかく、神が厄介だ。……導王流があまり通じない)」
戦闘に長けているだけあり、武術の心得もあるようだった。
“天使”はそこまでではないが、神の方は優輝の強みである導王流すら大して通用せず、カウンターも度々受け止められていた。
その上で吹き飛ばしてはいるが、倒すには遥かに至らない。
「(……武術関連の“性質”なら、そもそも導王流も使えるはずだ。……つまり、相手は飽くまで直接強さに関わる“性質”。……なら、徹す……!)」
それでも、“心得がある”程度と判断。
導王流は通じにくいだけで、通じない訳ではない。
故に、無理矢理押し通す。
「っ、っと……!」
立て続けに出現する“闇”を、ステップを踏むように避ける。
回避先を狙った“天使”の攻撃も同じように避け、または受け流す。
「っ!」
「はっ!!」
「がっ……!?あ、主……!?」
そこへ、さらに神も仕掛ける。
だが、多人数相手に慣れてきた優輝は“天使”を盾にした。
まさか主である神にやられると思わなかった“天使”は驚愕する。
「射貫け」
「っづぅ……!貴様……!」
そして、その“天使”ごと優輝は理力の槍で神を貫く。
“天使”を盾にされた事、さらにはその死角からの攻撃に動揺したためか、神はその攻撃を躱しきれずに貫かれる。
「ちっ……!」
しかし、優輝の攻撃はそこまでだった。
すぐさま回避行動を起こすと、寸前までいた場所を“闇”が覆う。
追撃の援護射撃もあり、優輝は再び回避に移った。
「(単なる速さや瞬間移動ではイリスや後方の神達に辿り着けない。その前にこいつらに捕まる。……必然、誘導するか倒すしかない訳か)」
前衛と後衛に分けた戦法。
それは基礎的且つ、原則有効な戦法だ。
であれば、後衛を先に倒すべきなのだが、今はそれが出来ない。
故に、優輝はこのまま戦っていくしかなかった。
……徐々に体力を削られるだけの戦いを。
「本当……絶対的な戦力差っていうのは嫌になる」
「その割によく耐えたと言っておこうか」
数十秒、数分、数時間。
既にそこに時間の概念はないも同然だった。
戦いは未だに続く。優輝が倒れない限り。
「(……何とか“天使”は減らしたけど……消耗が先か)」
優輝や対峙する神の周囲には、多くの“天使”達が倒れ伏している。
ここまでに優輝が身を削りながらも倒した“天使”達だ。
「(それに、領域の浸食も問題だ)」
数を減らしはしたが、同時に優輝も追い込まれていた。
多くの神を包むように展開した優輝の“世界”が、所々黒く塗り潰されている。
エラトマの箱の影響だ。
「っ、くっ……!」
そうこうしている間にも、優輝は“闇”と攻撃を躱す。
だが、“闇”は攻撃後消える訳でもなく、溜まっていく。
今までで溜まった分、回避する場所がなくなっていく。
「そこだ」
「ッ、ご、ぁ……!?」
そして、ついに優輝は攻撃をまともに受けてしまった。
それも、今の今まで真正面から殴り合う事が出来ない程強い神に。
「っぁ……か、はっ……!」
瞬間移動したかのように吹き飛び、壁に叩きつけられる。
優輝の想定を上回るその威力に、思わず息が吐きだされる。
「し、まっ……!?」
さらに、そこへ“闇”の追い打ちだ。
避ける事さえままならずに、優輝はその“闇”に包まれる。
「ォオッ!!」
「そこです!」
容赦も慈悲もない。
戦闘に長けた神による拳、そして後方にいた神達の射撃のラッシュが始まる。
既に洗脳された神達にとって、“闇”は意味がない。
故に、優輝は“闇”に包まれたまま攻撃の嵐に呑まれる。
「ぉ……ァ……っ……!」
物理的な威力がそのままダメージに繋がる訳ではない。
そのため、優輝は倒れずに踏ん張る事は出来た。
……否、実際には倒れる事すらままならずに攻撃に晒されていた。
「っ……!」
体を揺さぶられるように攻撃を食らい、優輝は身動きが取れない。
さらに、ノーダメージではないため、優輝にダメージが蓄積する。
攻撃の衝撃も相まって、徐々に優輝は意識を薄れさせる。
「――――――!」
瞬間移動で離脱しようにも、拘束系の“性質”によって逃れられない。
そのため、万事休す……
「(―――掴んだ)」
……そのはずだった。
否、否だった。優輝は、それを待っていたのだ。
「な、ッ―――!?」
変化に気づいたのは直接殴っていた神だった。
しかし、気づいた時には既に吹き飛ばされていた。
「……まだ、手を隠していたのですか……」
「…………」
その様子を見て、イリスが呟く。
対し、優輝は無言のまま……
「抜けられた!?」
攻撃の嵐から、すり抜けるように消え去った。
拘束をしていたはずの神が、驚愕に声を上げる。
「……いい、いいですよ……!もっと、もっと見せてください……!」
イリスはさらに歓喜する。
まだここでは終わらないのだと。
まだ“可能性”を魅せてくれるのだと。
喜び、体を熱くさせ、恋焦がれるように、愛を謳うように。
「もっと、もっともっともっともっともっと……!!さぁ、さぁさぁ!!貴方はそうこなくちゃ。そうでなくては困ります!足掻いて、足掻いて足掻いて!どこまでもその可能性を見せてください!」
「…………」
「あは、あはは、あはははははははははははははははははははははは!!」
狂気的なまでに、イリスは声を上げる。
だが、優輝はそれでも無言を貫く。
否、分かっているのだ。
「(……やはり、か)」
それでも、決して勝てない事が。
「(極致に至ってなお、足りないか)」
「ッ―――!?」
そう思考しながらも、ごく自然と“天使”の一人の後ろを取る。
“天使”が気づいて振り返った時にはもう遅く、回し蹴りで吹き飛ばされていた。
「(……いや、分かっていた事だ。なら、力の限り足掻くのみ)」
優輝の思考はクリアになっていた。
どこまでも研ぎ澄まされ、自身を俯瞰するような感覚だった。
「……導王流奥義之極“極導神域”」
それはかつて大門の守護者に対して発動した導王流の最終奥義。
あらゆる攻撃を“導き”、勝利を掴み取る一種の“武術の極み”。
自然体のように脱力し、理力によって構成された右手を前に出し、構える。
そして、一拍おいて優輝は言い放つ。
「―――破れるものなら、破ってみろ」
「是非に!是非ともやってあげますよ!!」
ここでイリスが能動的に動いた。
今まで動きを妨害するように放っていた“闇”とは違う。
物理的威力も伴った攻撃的な“闇”だ。
「(今まで手札をほとんど見せていなかったのは、初見にするためか)」
雨霰のように“闇”が降り注ぐ。
一発一発が速く、鋭い。
まともに食らえば優輝はたちまちハチの巣どころか粉々になるだろう。
それを、優輝は隙間を縫うように動き、一発も当たらずに受け流す。
「ッ!」
同時に優輝を中心に半径100m程の地面から“闇”が吹きあがる。
刹那の間に跳躍し、それを避けるが今度は頭上から“闇”が迫った。
だが、それすら分かっていたかのように瞬間移動で範囲外に避ける。
「はぁっ!」
「……ふっ!」
“天使”と神が今までと同じように仕掛ける。
直接戦闘に長けたその攻撃は、今までならダメージ覚悟じゃないと対処できない。
だが、今度は違う。まるでふわふわと飛ぶ羽毛が掴めないかのように、決して拳や蹴りが優輝を捉える事はなかった。
それどころか、一瞬の隙に放たれた拳が神の胸を打ち、瞬時に吹き飛ばした。
「止められ、ない……!?」
「神界でなければ、こうはいかなかっただろうな」
重圧や、概念的拘束で一部の神が動きを止めようとする。
しかし、優輝はそれでも止まらない。
まるで気にしていないとばかりに、優輝は拘束の下手人に蹴りを放つ。
「(無意識下の行動を伴えば、“性質”すらすり抜ける……か。神界だからこそ出来る事だが、相性がいい)」
最終奥義なだけあり、完全な劣勢だったのが僅かに覆る。
「(尤も)」
「ォオッ!」
「はぁぁあっ!!」
攻撃が受け流されると分かったからか、神が二人掛かりで襲い掛かる。
しかも、ただ攻撃を放つ訳ではなく、直接拘束するのを狙っていた。
「捉えた!」
「ぐっ……!(それでも劣勢だけどな……!)」
一瞬、肩を掴まれる。
完全に捕まった訳ではないとはいえ、それだけで“流れ”が狂う。
よって、カウンターは返せたものの優輝はダメージを食らった。
「はぁっ!!」
「ッッ……!」
「ぐぅぅ……!」
即座に二人を振り払うように殴り飛ばす。
直後に飛んできた砲撃も避け、その上を滑るように撃った相手に肉薄。
「ッ……!」
それを阻むように飛んできた光弾を、これまたぬるりと避ける。
さらに後ろから光弾を殴り、別方向にいる神へと飛ばす。
「ッッ!!」
その時、膨大な“闇”が優輝に迫る。
瞬間移動でそれを避けるが、その先でさらに挟むように“闇”が迫る。
「はっ!」
「くっ……!」
回避しても迫る“闇”に加え、直接的な攻撃。
イリスが攻撃的になった事で、結局優輝は無傷で切り抜けられなくなる。
「……まったく……」
決して変わらない絶望的な状況に、優輝は溜息を吐く。
だが、その顔に悲壮感はない。
「目標達成だ」
なぜなら、優輝の目的は既に達したからだ。
「……間に合いませんでしたか」
「ああ。もう“穴”は塞がった。……後は、戦力を削るだけ削らせてもらおうか」
そう。元々優輝は神界の出口が塞がるまでの時間稼ぎが目的だったのだ。
そして、その“穴”は今塞がった。
「もう重荷はない。……来いよ、イリス」
「ええ、存分に行かせてもらいますよ!」
どこまでも足掻き続ける姿にイリスは狂気的な喜びを見せる。
そのまま、二人は再び力をぶつけ合った。
「いざ、倒れ逝くその時まで……抗わせてもらう!!」
―――優輝は足掻き続ける。その命の灯火がある限り……
後書き
“戦いの性質”…分かりやすく言えば某サイヤ人気質。この“性質”を持つ神は総じて戦闘が好きで、尚且つ単純に強い場合が多い。
極導神域は実質DB超の身勝手の極意と同じなので、体が勝手に動いて対処している節があります。そして、“体が勝手に動く”現象が“性質”による干渉を無視しているので、すり抜けるようになっています。同時に、イリスの“闇”の影響もある程度無視できます。
尤も、これは神界だからこそ出来る事であり、元の世界で重力魔法とか使われると普通に動きが止まります(導王流の弱点)。
実は重力魔法は導王流の天敵になりえます(司も特訓の際に知った)。
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