魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第222話「もう、振り返る事はない」
前書き
途中から普通に戦えている優輝ですが、神界だから戦える状態です。
致命傷を負っているので、“格”の昇華がなくなった瞬間死にます。
「―――やられましたっ!!」
祈梨が焦ったように、そう叫ぶ。
決死の想いで放たれた司の砲撃は、間違いなく結界を破っていた。
「逃がさない……!」
だが、対応は早い。
動揺は走ったが、すぐに逃がすまいと神々が動こうとする。
「逃がすさ」
故に、それよりも早く、優輝は先手を打った。
持っていた魔力結晶を全て砕き、それらに理力を纏わせて打ち出す。
光の槍となってそれらが神々へと降り注ぐ。
「ッ……!」
「おまけだ。これも持っていけ!」
さらに、霊力が込められた御札も全部取り出し、使い捨ての弾幕にする。
そこまで攻撃をされれば、さすがに神々も防御姿勢を取った。
「奏!なのは!」
「うん……!」
名前だけ呼び、それだけで二人は何をしてほしいのか理解する。
奏は優輝の弾幕を抜けてきた者がいないか警戒を。
そして、なのはは……
「受け取って!」
その身に集束させ続けていた全エネルギーを、優輝に譲渡した。
尤も、譲渡という形で渡すには時間が掛かる。
そのため、ほぼ攻撃のような形で、エネルギーの球体を投げ渡す。
「っ、これほどの力、よくその身に留めたな……!」
優輝はそのエネルギーを受け止め、矛先を神々へと向ける。
「僕以外の“可能性”を侮ったな」
「なっ……!?」
さらに、そのエネルギーが優輝の理力と混ざる。
優輝が手を加えた事で、そのエネルギーは神界の存在に通用するようになった。
そして、そこでようやく脅威を感じたのか、何人かの神が後退る。
「“神穿つ破壊の星光”」
だが、遅い。あまりに遅すぎる。
そう言わんばかりに、優輝は拳を突き出し、そのエネルギーを開放した。
本来、スターライトブレイカーは通用しない。
だから神界の神々はなのはの力を放置していた。
しかし、間違いなくそのエネルギー量は神界の神々にとっても脅威だった。
つまり甘く見ていたのだ。優輝以外を。
優輝と、辛うじて司ばかりを警戒していたために、他を蔑ろにしていた。
そのために、対応が遅れた。
「ッッ……!」
祈梨もソレラもイリスも、揃って顔色を変える。
ソレラに至っては眼前に迫る極光に呆けてすらいた。
死を目の前にして走馬灯を見るように、戦闘に長けていない神々は戦慄した。
「くっ……!こんな……馬鹿な……!?」
咄嗟に何人かが防御しようとする。
しかし、その上から極光が呑み込んだ。
「やった……?」
「いや、あれで倒しきれれば苦労しない。だけど、時間は稼いだ」
極光が神々を押し流していく様を見て、優輝は言う。
「さぁ、行け。そこを潜れば神界から出られるはずだ」
「ッ……!」
その言葉に、全員が神界の出入り口を見る。
まさに目と鼻の先。そこを潜れば神界から出られるのだ。
その事に喜びを覚える者が多数だったが……
「……優輝君は、どうするつもりなのかな」
「………」
とこよ含め、何人か鋭い者は優輝の言葉に込められた意味を察した。
「今の言葉。まるで、自分はここに留まるような言い方だったよ?」
「そこまで言うのなら、分かっているだろう?」
「………」
優輝の返しに、とこよは無言になる。
「お兄ちゃん……?」
「優輝、君……?」
「何を……」
代わりに、緋雪や司、奏など、優輝を慕う者達が反応した。
「さぁ、早く。稼いだ時間もそう多くない」
「ど、どうして!?優輝君も……!」
「僕は行けない」
「っ……!」
きっぱりと断言される。
視線は神々がいた場所に向けられたままだった。
「どうして……!」
「理由は三つある。一つは、このまま神界から出れば、僕は死ぬ。致命傷をいくつも負っているからね。治せないし、“格”の昇華も永続じゃない以上、それは覆せない」
「ぁ……」
傷の事を言われ、問い詰めようとした司の瞳が悲しみに揺れる。
何せ、傷つけたのは自分達だ。責任や罪悪感がある。
「二つ目。奴らの狙いは僕だ。……裏を返せば、僕さえ残して皆を逃がせば皆は助かるかもしれない。それに、僕も逃げたら向こうの世界まで追いかけてくる」
「囮になる……って事だよね……」
葵の言葉に、優輝は頷く。
そう。元々の狙いは優輝なのだ。
優輝まで逃げるとイリスの手先はそこまで追いかけてくる。
それだけは避けておきたい。
「……三つ目。僕の“可能性”が既に潰えているからだ」
「“可能性”が……潰えている?」
三つ目の理由だけは、誰もピンと来なかった。
どういう意図の言葉なのかと、何人かが考える。
「文字通りだ。……万に一つも、僕は勝てない。逃れられない。その“可能性”が悉く潰されている。……詰んでるんだ。僕は」
「え……?」
「なら、せめて僕以外が無事になる“可能性”だけは遺す。そのために僕がここに残って、出来得る限りの足止めをする」
悟ったように言う優輝に、司達は息を詰まらせるように何も言えない。
背中越しに振り返ったその瞳に、射竦められたかのようだった。
「だ、だったら私も……!」
「ダメだ。それじゃあ、僕が残る意味がない」
「でも、それじゃあ……!」
悲痛な面持ちで緋雪が食い下がる。
緋雪にとって、両親に続いて兄も喪おうとしているのだ。
洗脳されていた事と合わさり、精神状態はかなり不安定になっている。
「言っただろう。“可能性”が潰えていると。……僕が狙いだっただけある。分かるんだ。どうやっても僕だけは助からないのが」
「そんな……!」
「なのはが魔法で奴らの攻撃を防ぎきるその瞬間まで、完全にイリスの思い通りだった。確かにイリスの想定を上回る事はできたさ。……でも、結果は変わらない」
本来なら、結界が崩れたあの瞬間に敗北が決定したはずだった。
だが、それを覆す事が出来たと優輝は言う。
「でも……でも……っ!」
「緋雪!」
「ッ……!」
駄々をこねるように優輝に縋る緋雪。
だが、優輝はそれを拒む。
「聞き分けてくれ……。もう、これは覆しようのない事なんだ」
「いや、いやっ……!もうお兄ちゃんを喪いたくないっ!」
「………」
緋雪はシュネーだった時の事を思い出していた。
あの時、優輝は……ムートは先に逝ってしまった。
今度もそうなるかもしれないと、緋雪は考えてしまっていた。
「お兄ちゃ―――」
「ごめん」
「ッぁ……」
涙ながらに言う緋雪に、謝りながらも優輝は当身を繰り出した。
精神が不安定だったためか、その一撃で緋雪は気絶してしまう。
「……っと」
「理力を流して無理矢理眠らせた。……悪いな」
「いいよ。……緋雪ちゃんを手っ取り早く止めるには、これしかないしね」
気絶した緋雪を、駆けつけたとこよがそっと抱える。
「優輝、君……」
「……そんな泣かないでくれよ、司」
「だって、だってぇ……!」
自分達のせいで傷ついて、さらには自身を犠牲にしようとする。
そんな優輝を前に、司は泣くのを我慢できなかった。
「ごめん、なさい……!私の、せいで……!」
「司のせいじゃない。……単純に、あいつらが上手だっただけだ。入念に準備していたみたいだしな。……だから、そう自分を責めるな」
「うん……」
見通しが甘かったとしか言いようがなかった。
故に、司が責任を感じる事はないと、優輝はあやすように言った。
「………」
「……椿と葵は……何も言わないんだな」
「……言った所で変わらないもの」
「言うだけ、無駄だもんね」
「まぁ、そうだけどさ」
最早言葉は不要とばかりに、椿と葵との最期の会話はそれで終わった。
他にも、各々言いたい事はあったが誰もが口を噤んでいた。
「誰か緋雪に……いや、これは皆にも伝えておくべきだな」
返事はない。それでも、優輝は一拍おいて言った。
「―――皆に“可能性”を託す。……皆が、倒すんだ」
「………」
後ろ髪を引かれるのを振り切るように、次々と優輝以外が神界から脱出していく。
最後に残ったのは、途中からずっと無言だった奏となのはだ。
「じゃあ、私達も……」
「優輝さん……」
脱出する際、二人は優輝の方を振り返る。
優輝はずっと出口に背を向けたままだった。
その状態で、再び口を開く。
「……後は、任せたよ。なのは、奏」
「……うん……!」
「ッ……!」
それだけ言って、二人は出て行った。
穴のような出入り口とはいえ、神界と元の世界は隔絶されている。
「……いや、―――、―――」
故に、直後に優輝が放った二つの“名”は、二人には聞こえなかった。
「…………………」
数瞬か、数秒か、数分か。
時間が曖昧となり、その中で優輝はしばし佇んでいた。
「ッ―――!!」
そして、唐突にそれは終わる。
刹那の間に迫っていた極光を、創造しておいた刀で切り裂く。
「まったく……初っ端からか」
切り裂いた刀はその一撃で砕け散る。
それだけ、極光に威力が込められていた。
「(“穴”はまだ塞がっていない。……最低でも稼ぐ時間は、これが目安か)」
背後にある神界の出入り口の“穴”に視線を少し向ける。
なのはと奏が出てから、“穴”は塞がり始めている。
しかし、塞がる途中であれば穴を広げる事は容易い。
そのため、優輝は完全に塞がるまで神界の神々を食い止めなければならない。
「(まぁ、尤も……最期まで諦めるつもりは毛頭ないけどな!)」
理力の刀が何本を創造され、優輝の周囲に刺さる。
直後、彼方から再び極光が、それも今度はいくつも迫る。
刺さった刀を引き抜き、一刀ずつ犠牲に極光を切り裂く。
「ふっ!」
「はぁっ!」
そこへ、何人かの神と“天使”が転移してくる。
そのまま攻撃が繰り出され、優輝に直撃―――
「なっ……!?」
「想定済みだ」
―――する事はなく、数歩後退しつつ体を逸らし、回避する。
そのまま体を捻り、極光も切り裂いていた。
「吹き飛べ」
「ッッ!?」
「瀕死の身で、なぜこれほどの……!」
同時に理力で力場を構成、炸裂させて転移してきた神達を吹き飛ばす。
「なんでだろうな?……まぁ、一度人の身に生まれ変わってみる事を勧めるよ。……ここから先は、誰一人通さない」
まさに不退転。
致命傷を負い、瀕死とは思えない程の“力”と“意志”を優輝は放つ。
そして、ようやくイリス含めた他の神々も視認できる位置まで近づいてきた。
「ならば、直接……ッ!?」
「行かせる訳ないだろう?そこは通行止めだ」
一部の神が直接神界の出口を通ろうとする。
しかし、何かに弾かれたように通行止めを食らった。
「……瀕死でありながら、その強さ……これほどの“意志”の強固さ……まさか」
「人の視点での神界における戦い。とこよの固有結界の応用……それで大体は理解出来た。それに思い出した事もある。……刮目しろ、神々よ。かつての同胞達よ。……ただでは終わらんぞ」
一拍おいた瞬間、数えきれない程の武器群が優輝の背後に浮かぶ。
それらは全て理力で生成されており、一つ一つに強い力が込められていた。
「っ、防いでください!」
「行け」
ソレラの叫びと共に、神々が防御態勢に入る。
同時に、優輝の武器群が神々を襲う。
「……我が領域をここに。人々を導く“可能性”を示そう」
その攻撃を対処している間に、優輝は理力を練る。
身に纏い、体の奥底に集束させ、優輝の“領域”を広げる。
「顕現せよ!!」
―――“導きの可能性”
優輝を中心に、世界が切り替わっていく。
否、厳密には神界の出口に覆い被さるように展開していった。
「固有……領域……!」
「その通り。時間を稼ぐにおいても、今の僕が力を発揮するにしても、ここ以上の場所はない」
鏡面のような水面が、地平線の彼方へどこまでも続く世界。
そこには、何かを映し出す水玉のようなものが、そこかしこに浮かんでいた。
「人を導き、または導かれるその“可能性”。その道筋を示し、示される。人々の歩みをここに、僕の歩んできた道筋をここに。……今、神々に刻み付ける!」
「ッ……!」
“意志”が関わり、自身の“領域”を示すのが神界の戦いだ。
その戦いにおいて、優輝は自分の全てを曝け出した。
「……さぁ、刮目しろ。いくら心を挫こうと、僕が僕である限り、絶対に皆の下には行かせない!ここで!全員!食い止める!!」
そう。優輝が展開した結界……否、これは一つの“世界”だ。
その“世界”は、言い換えれば“志導優輝”そのもの。
故に、優輝が優輝である限り、この世界は決して崩れない。
「“穴”に覆い被さる形にすることで、実質的に“穴”を塞ぎましたか……!」
「ああ!その通り!僕を出し抜いて通り抜けようったって、そうはいかない!」
同時に、“穴”が自動的に塞がるまで、“世界”は蓋の役割を担っていた。
「ですが、それは同時に……!」
「諸刃の剣となる。……当然、理解しているさ。ここが僕の領域というのなら、この“世界”が砕けた瞬間僕は敗北する」
裏を返せば、優輝は弱点そのものを晒している事にもなる。
それをソレラが指摘するが……
「でも、それが何か?」
「え……?」
「僕がここで潰えたとして、全てが終わる訳じゃない。可能性は既に託したし、後は繋いでいくだけだ。……僕はな―――」
優輝は揺らがない。
決して退かず、挫けない。
そして、一泊おいて宣言する。
「―――今ここで!命を使い切るためにここに立っているんだ!!」
その言葉と共に、金色の燐光が淡く浮かび上がる。
それらは優輝の展開した“世界”全体で表れており、それに呼応するように優輝から力の圧力が発せられる。
「ッ……!」
ソレラを含めた、一部の強くはない神と“天使”がその力に後退る。
既にこの時点で、瀕死にも関わらず優輝の方が“上”だと察したようだった。
「……無駄死にはしないぞ。……一人でも多く道連れにしてやる」
優輝から放たれる“力”が鳴動する。
膨らみ、集束し、研ぎ澄まされていく。
同時に、いくつもの武器が優輝の周囲に出現していく。
「………ふ、ふふ……あはははははははははははははははははは!!」
「っ……」
そんな優輝を見て、突如イリスは笑い出す。
「ええ、ええ!それが!それが見たかったのです!!貴方のその可能性を示す様を、私はずっと待ち望んでいたのですよ!」
「……ちっ、本性を曝け出したか……」
「もう大人しく取り繕う必要はありません!今度こそ、ええ、今度こそ!貴方の“可能性”を魅せてもらった上で!……堕として差し上げます」
感極まるように、イリスは叫ぶ。
優輝が背水の陣で立ち向かってくる。それを待ち望んでいたと。
誰よりも恋焦がれるように、愛する者の名を呼ぶように。
それらの想いが、刃となって優輝を襲った。
「ッ―――!」
始まりは唐突だった。
優輝がその場から瞬間移動すると同時に、何の前触れもなく“闇”が現れる。
予備動作が一切ないため、完全な初見殺しだった。
「(呑まれれば足が止まる。……今はそれを避けるべきだな)」
捉えられないように宙を駆ける優輝はそう考える。
同時に創造した武器を二つ手繰り寄せ、即座に投擲する。
「ちっ!」
「っ、ぉおっ!」
片方の武器が迫っていた神の一人を足止めする。
もう一人は武器を弾いてそのまま肉薄してきた。
「貫け」
「ぉごっ!?」
「シッ!」
「ぐっ!?」
繰り出された攻撃を、優輝は冷静に受け流し、カウンターを決める。
その勢いで体を捻り、“闇”を躱しつつ回し蹴りを、足止めで少し遅れて肉薄してきた神の顔に叩き込んだ。
「(精神を研ぎ澄ませ。……あと少しで“出来る”はずだ)」
瞬間移動で上からその二人を叩き落とす。
間髪入れずに再びその場から移動し、“闇”の範囲から離脱する。
この時、イリスの“闇”は弾丸や砲撃どころでなく、優輝の“世界”の半分以上を覆う程の範囲となっていた。
普通に避けるだけでは避けきれないため、瞬間移動で移動したのだ。
「っ、ぉおおっ!!」
“闇”の範囲外から、優輝が理力を練る。
すると、抑え込むように“闇”が縮小される。
「“集束”!」
「っ!」
その時、一人の神が“性質”を使う。
“集束の性質”を持つ、洗脳される前の奏を倒した神が“力”を集束させた。
理力が集束し、攻撃や力としての形を保てなくするつもりだ。
「集束か。助かるな」
「なっ……!?」
その算段である程度集束した瞬間。
優輝は瞬間移動でその神の懐に入り込んでいた。
その神は他の神々や“天使”に紛れるように隠れていたため、例え見つけても包囲される危険からすぐには来ないと思っていた。
だが、考えを裏切るかのように優輝は肉薄していた。
「使わせてもらうぞ」
刹那、“集束”によって出来ていた球体を優輝は肘と膝て挟んで叩き潰す。
理力の塊であるそれを叩き潰した事で、円状にその力が放出される。
その際に優輝が手を加え、その力を“衝撃波”に変えた。
「ぐ、ぁあああああっ!?」
「ぅぁあああああっ!?」
集束させた力なため、多くの神々と“天使”が吹き飛んだ。
「ッッ!」
間髪入れずに優輝は瞬間移動する。
吹き飛んだ神と“天使”に一発ずつ蹴りや拳を入れ、叩き落としていく。
「はっ!」
「ッ!」
その途中、重力を操れる“性質”を持つ神がその力で優輝を拘束する。
さらには、横に吹き飛ぶように動かした。
「―――」
その先には極光が迫っていた。
極光は理力によって出来た力の塊だ。
よって、優輝が得意な術式の基点を破壊するという事も出来ない。
「ぉおおおおっ!!!」
その代わり、ごり押しが可能だった。
大きな剣を創造し、全力でその極光を切り裂いた。
「つぉっ!!」
「なっ!?」
切り裂いた事で二分された極光の間に、優輝はそのまま入り込む。
そして、両サイドの極光に向けて片手ずつ掌底を放つ。
凹むように穿たれた極光は優輝の攻撃として近づいてきた神達を呑み込んだ。
「ッ、はっ!」
立ち止まる暇はない。
すぐさま瞬間移動し、イリスの“闇”を回避。
回避を読んで放たれた別の“闇”も、理力の砲撃を相殺する。
「(“性質”による干渉は、理力であれば真正面から対抗できる。……おまけに、導王として生きていた事が影響してか、“導く”という“性質”が再現しやすいな)」
神界の神や“天使”しか持てない固有の力、“性質”。
しかし、その片鱗であれば他の世界の神や人間も持っている。
“性質”はその人物や存在を構成する要素と言ってもいい。
そのため、性格や力、人生などから“性質”に僅かながら干渉できる。
優輝の場合であれば導王であった事から“導き”の“性質”に干渉できた。
「(……本来は、別なんだけどな)」
“性質”の片鱗を持つ事で、干渉を可能にする。
それを利用して、優輝は神界外での戦いと同じ事を再現していた。
即ち、攻防の一連の流れを全て導き、相手に勝つと言う事を。
「(今までならこうも上手くはいかなかった)」
だが、本来ならそれは仕組みを理解した所で出来るはずがない。
神界の存在である神達ならいざ知らず、優輝は人間だ。
だというのに、まるで以前から理解していたかのように振る舞っていた。
「あは、あはははははははは!いい!いいですよ!そうでなくては!そうでなくては困ります!数多の神々で襲ってなお、“倒しきれない”!貴方はそんな存在でなくては困ります!」
「……くそっ……!」
優輝が覚悟を決めてからイリスのテンションは高かった。
同時に、攻撃も激しくなっており、その対処に優輝は終われる。
その上他の神々や“天使”が休みなく襲ってくるのだ。
何とか競り合ってはいるが、このままではジリ貧だ。
「本当に、本当にいいです……その可能性が眩しい……!ええ、だから、だからこそ!それを愛したい、愛したいのです!」
「ッ、あれは……!」
重圧、極光、物理攻撃、概念攻撃。
様々な攻撃を捌きながらも、優輝はイリスの動きを見逃していなかった。
そのため、その“立方体”が目に入った。
「させるか!!」
「ダメですよぉ?」
「っ、くっ!」
即座に優輝は瞬間移動する。他の神々を全て振り切って。
狙うはイリスの用意した“立方体”。
しかし、分かっていたかのように別の神が割り込んでくる。
それでも優輝は即座に弓矢を展開、その“立方体”を射貫く。
「あら、勿体無い」
「(ダメだ!止めきれない!)」
その“立方体”は壊した。
だが、それは一つだけではない。
割り込んできた神は物理的戦闘において凄まじく強く、優輝を逃さない。
優輝がその神に張り付かれている内に、イリスはもう一つ同じ物を取り出した。
「くっ……邪魔だぁっ!!」
「ふふふ……目覚めなさい“エニグマの箱”」
“立方体”……エニグマの箱が起動する。
それは、以前優輝達が見つけたロストロギアと同じ物だ。
幽世の大門を開き、その世界を特異点と変えてしまう代物。
祈梨の言っていた通り、“闇”に属する神であれば作れてしまう物だ。
そして、それは相手の領域を浸食する事も出来る。
「(……分かっていた事だけど、もう勝ち目はなくなったな)」
領域の浸食。つまり、優輝の“世界”が浸食される。
抵抗は可能だ。だが、飽くまでそれは余裕があればの話。
完全な劣勢である今の状況では、王手から詰みに持っていかれたようなものだ。
「……まぁ、いい。一人でも道連れにする事に変わりはない」
「そうか。だが私に勝てるか?」
「戦闘向きの神か……いくら物理的に強くても、勝敗は別だ」
余程戦闘に自信があるのか、割り込んできたその神は優輝を嘲る。
元より圧倒的に不利な状況なため、そう思うのもおかしくはないが……
「ふっ!」
「ッ!」
直接的な戦闘であれば、導王流はかなりの強さを発揮する。
とこよやサーラを遥かに超えるスピードだろうと、優輝には関係なかった。
拳を受け流し、そのスピードを攻撃力に変えてカウンターを決める。
「がっ……!?」
「(……尤も、一人なら問題ない。……一人なら)」
この場には神界に来たメンバーを遥かに超える数の敵がいる。
目の前の神を含め、直接戦闘に長けた神も何人かいるだろう。
加え、その神の“天使”も同じように強い。
「“戦い”、“強者”、“最強”、“無敵”……まぁ、他にも色々あるだろうが……」
相手の“性質”がどんなものか、優輝は推測する。
……が、すぐにそんな思考は捨てる。最早関係ないからだ。
刹那、複数の神と“天使”が姿を消す。
否、そう見える程のスピードで動いた。
間髪入れずに、優輝も同じように動く。
「ぐっ!?」
「がぁっ!?」
「ッッ……!」
姿が現れ、再び消える。
そう見えるような高速の読み合いの直後、優輝達はぶつかり合った。
優輝の四肢の内、片手片足がカウンターを返し、もう片方は防御する。
だが、それだけでは手数が足りずに攻撃を受けた。
「ッッ!!」
即座に瞬間移動して間合いを取り……また瞬間移動する。
相手は直接戦闘に長けた神達だけではない。
他の神も援護射撃をしてくるため、それを躱す必要があった。
「(ここからはダメージは確定だ。………やるぞ)」
心の中で短くそう言って、優輝は再び駆けだした。
「(………もう、振り返る事はない)」
―――僅かばかり、“穴”があった場所へ視線を向けながら。
後書き
神穿つ破壊の星光…SLBを優輝が手を加えて昇華させた技。SLBの恐ろしさがそのまま神界基準になったので、名前の通り神すら穿つ。殲滅力も凄まじく、並以下の神ならこれだけで倒せる可能性もある。
導きの可能性…今の優輝の固有領域。人々を導く、または導かれる“可能性”を内包している。因果操作や運命などを覆す効果を持っている。なお、神界ではその効果はあまり通じない模様。
固有領域…イメージとしては、Fateの固有結界の上位互換。自身の持つ“性質”を領域として定め、それを外部に展開する神界においても切り札となる技。
固有領域は固有結界として扱う事も出来、上述の説明での効果は固有結界としての効果とでも思ってください。せっかくの効果が神界では通じないという何とも言えない無駄感があるので……。
最後の方に出てきた直接戦闘に長けた神や“天使”はぶっちゃけDBのトップ勢とも戦えます。優輝もそれに対抗して神界限定の身体強化で対抗したりしてます。
言ってしまえば神界限定で戦闘力のインフレが起きてます。……一応、戦闘力が絶対的に勝敗に関係する訳ではないので、作中の強さはインフレを抑えています(神界云々の時点でインフレしてるとか言っちゃいけない)。
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