魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第223話「閉ざされた道」
前書き
視点戻って、司達脱出組です。
「ッ……!障壁が……!」
初めに気付いたのは、澄紀だった。
道を塞いでいた障壁が割られたのだ。
「ぅ、あっ……!?」
直後、突き抜けてきた魔力の奔流に、“穴”の近くにいた者が吹き飛ばされる。
「なんて魔力だ……!確かに、これほどの力なら障壁も貫ける……!」
グランツが肌身で感じた魔力からそう発言する。
実際、“穴”に張られていた障壁は割れていた。
「一体、誰が……」
『この魔力パターンは……司さんです!』
衛星上に待機させていたアースラから観測していたエイミィから通信が入る。
「司さん!?」
「……なるほど、天巫女の彼女ならば、時間さえかければ可能だ」
司の仕業と知って、驚愕はするも納得するジェイルやグランツ達。
「……でも、どうやって……?」
「……そうね。先刻、何かが“変わった”……いえ、“元に戻った”。“格”の昇華とやらがなくなったはずなのよね」
そう。リンディ達が障壁を破ろうとしている最中に、祈梨は昇華を止めていた。
その際、それまでは障壁にぶつけられた攻撃が一切通らなくなったのだ。
すり抜ける訳でもなく、ぶつかると同時に通じないとばかりに消えていた。
それを、司の魔法は貫いたのだ。
『艦長!!再び高エネルギー反の―――』
その時、エイミィの警告の途中で、衝撃が襲った。
「今、のは……!?」
“穴”から離れるように、全員が吹き飛ばされていた。
しかし、建物などへの被害はゼロで済んでいた。
すぐさま状況を確認しようと、リンディはエイミィに通信する。
『……わかりません。魔力反応以外にも反応があって……ですが、なのはちゃんのスターライトブレイカーと似た傾向のパターンです』
「なのはさんの……」
SLBと似た傾向。
つまりあらゆる魔力反応を寄せ集めた反応に似ていると、エイミィはいう。
「彼女……霊力は使えなかったわよね?」
「え……ええ、そのはずね」
そんな中、澄紀が戸惑いの表情をしながらリンディに声をかける。
「なら、おかしいわ」
「え……?」
「今のには、霊力も感じたわ」
『……艦長、その通りです』
今、アースラには霊力を観測できる装置もある。
事前に優輝やジェイル、グランツの他、椿達などの協力の下作っていたのだ。
そして、それでも霊力の反応があった。
『それだけじゃありません。霊力と魔力以外のエネルギーもありました。……おそらく、神界の力です。不自然に、その部分のエネルギーは観測できませんでした』
「……そう……」
エネルギーの集合体に、穴が開いたように観測できない部分があった。
それが神界の力……理力なのだろうと、エイミィは推測していた。
「……ドクター、誰か来ます……!」
「なに……?」
ジェイルの作った戦闘機人の一人、チンクが“穴”から気配を感じ取る。
すると、“穴”から誰かが飛び出してきた。
「キリエ!?アミタ!?」
「皆……!?」
現れたのは、それぞれがよく知っている面々だった。
グランツが名前を呼んだ二人だけでなく、次々と現れる。
「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「司さん!大丈夫!?」
「……いえ、大丈夫、なんかじゃ……!」
息を切らし、その場に膝をつく司にリンディが尋ねる。
司は辛うじて受け答えはするものの、ずっと涙を流しながら歯を食いしばっていた。
「何が……」
「……敗走しました」
代わりに、サーラが簡潔に何があったか答えた。
あまりに簡潔だったため、半分以上がすぐに事実を認識できずにいた。
「……敵の、神の力はあまりに強大すぎました。……いえ、語弊がありますね。罠でした。私たちが先行して乗り込むこと自体が」
「……説明、願えますか?」
緋雪を始めとした、何名かが気絶しており、何名か減っている。
その事を確認したリンディは、一から説明を要求した。
「元からそのつもりだよ。……尤も、気持ちのいいものじゃないけどね」
「とりあえず、疲労している奴らは休ませてやってくれないかい?」
とこよと紫陽も前に出て、代表して説明をする。
その間に、はやて達や比較的無事な面々が、気絶した者と司や椿など精神的ショックの大きい面々を支えながら医療班のいる場所まで歩いて行った。
「さて、まず何から話していくべきかねぇ……」
「そうね、まずは経緯を……」
それを見送った後で、とこよと紫陽がリンディに応える形で説明を始める。
敵の勢力があまりにも強大で、一人一人の強さも尋常じゃなかった事。
“性質”と神界の法則のせいで、碌に倒す事もままならない事。
神界でも敵勢力に抵抗している勢力も存在していた事。
祈梨とソレラが最初から洗脳されていて、罠に嵌められていた事。
脱出のために逃亡を図り、その途中で帝が行方不明になった事。
こちら側も洗脳され、その過程で優輝の両親が死亡した事。
洗脳の力も凄まじく、既存の手段では解けなかった事。
……そして、優輝が足止めのために向こうに残った事。
その全てをとこよと紫陽が事細かに説明した。
「じゃあ、優輝さんは……」
「今も向こうで戦ってるよ」
「おっと、救援はやめておきな」
救助に動こうとした者を、紫陽が止める。
「何故!?」
「言っただろう?相手の力は規格外だと。あたしたちでも歯が立たなかったんだ。今更行った所で犠牲が増えるだけだ」
「そもそも、“格”の昇華がなくなった今、攻撃を通す方法がないよ」
元々祈梨の力を頼りにしていた以上、それがない今はどうしようもない。
それが理解できたのか、突入しようとした面々も立ち止まる。
「私達だって助けに行きたい。特に、緋雪ちゃんや司ちゃん……優輝君を慕っていた子達は皆助けたがってた。……でも、無理なんだよ」
「……逃げざるを得なかった。……いえ、そうでもしないと逃げる事さえ不可能だったという訳ね……」
「あたしたちの中で、神界に通用するのは優輝か司だけさ。今いる司も、一人ではとてもじゃないが敵わない」
司は“格”の昇華は出来るが、理力を扱える訳ではない。
そうなると、どうしても一人では地力が足りないのだ。
「待って。じゃあ、彼はどうやって……」
「……わからない。けど、現に足止めは出来ているよ」
「どう考えたって、何の代償もなしにやってる訳じゃない。あたしたちに掛かってた洗脳を解くのだって、因果逆転染みた代償を支払っていたからね」
実際に優輝が何をしたのか、とこよ達も知らない。
それでも、生半可な代償ではない事は分かっていた。
「……だから、誰も救援には行くな。あいつの、最期の覚悟を汚す気かい?」
「っ……そういわれると、引き下がるしかないわね……」
よく見れば、悔しさからかとこよと紫陽の握り拳から血が出ていた。
二人だって、本当は助けたかったのだ。
しかし、力は及ばずに逃げるしかなかった。
リンディはその悔しさを察し、素直に引き下がる事にした。
「……被害は、死亡者二名と、行方不明者二名……ね」
「戦力差からすれば、破格の結果と言えてしまうのが腹立つね」
「本当なら全滅が当然だった程だから……仕方ないよ」
受け入れるように言うとこよ。
だが、そんなとこよも到底受け入れられなさそうに腰に差す刀の柄を握っていた。
「……人並外れた力を持っていると自負していた。……でも、そんなの関係なかった。神界じゃあ、皆等しく無力だった……!」
「………今は、とにかく休んで。話はその後に……」
「分かった。……とこよ、行くよ」
情報や、気持ちの整理の時間が必要だと、リンディは判断する。
紫陽も同意見だったようで、とこよを連れて司達のいる所へ向かう。
「詰めや読みが甘かった……というだけじゃなさそうだね。あれは」
「……ああ。僕は彼女らと接した期間は然程長くないけど、彼女らはそう簡単に油断や慢心をしない。その上でこうなったと考えるならば……」
「全て最初から仕組まれていたと言っていたね。……思考すら誘導されていたと考えるのが妥当だろう」
ジェイルとグランツが冷静に分析する。
だが、それ以上はどうしようもなかった。
二人共頭は切れるが戦闘や戦術に長ける訳ではない。
何より戦力となる優輝達が為す術なく撤退してきたのだから。
「まずは、帰ってきた彼女達がある程度落ち着くのが先決だろう」
「……そうだね」
なにはともあれ、とこよと紫陽の説明だけでは情報が足りない。
全員から話を聞けるようになるまで、彼らは待つ事にした。
「……っ、ぅ……」
「あ、緋雪ちゃん、目が覚めた?」
しばらくして、アースラの医療室で目を覚ました緋雪。
一部の退魔師と魔導師を見張りに残し、司達はアースラに移動していた。
「司、さん……?」
司は眠っていた緋雪に付き添い、目が覚めた事で念話と伝心でその事を皆に伝えた。
ちなみに、司以外にも奏やとこよと、交代しながら看病していたりする。
「私、何が……?……ぁ……」
「緋雪ちゃん」
目を覚ました緋雪は、何があったのか思い返す。
そして、無意識に直視しないようにしていた事実を思い出す。
「お兄ちゃん……」
「落ち着いて、緋雪ちゃん」
思い出し、顔を青褪めさせる。
そして、動き出す前に……司が止めにかかる。
「離して!お兄ちゃんが、お兄ちゃんがっ!」
「落ち着いて!」
何とか抑えようとする司だが、緋雪の力は生半可じゃない。
幸いにも、神界での戦いが影響してか、今は魔力が使えずにいた。
そのため身体強化はされていなかったが、それは司も同じなので結局身体能力の差で抑えきれずにいた。
「っつ……!?」
「えっ……?」
「司が落ち着きなさいと言ってるでしょ」
緋雪の額に何かが当てられる。
それを見て司が振り返ると、そこには椿と葵の姿が。
椿の手に霊力の残滓がある事から、彼女が霊力の玉を投げつけたのだろう。
「で、でも……」
「気持ちは分かるわ。けど、まずは深呼吸して落ち着きなさい。そうでないと、話も出来やしないじゃない」
「……うん」
言霊を使いつつ、一度緋雪を落ち着かせる椿。
その間に、葵が司に話しかける。
「司ちゃん、さっき事情聴取のために呼んできてほしいってリンディさんが」
「リンディさんが?……あぁ、そっか。“格”の昇華についてだね」
「そうそう」
リンディ達にとって、司は現状唯一神界に対抗できる存在だ。
そのため、話を詳しく聞いておきたいのだろう。
「じゃあ、私は行くね。緋雪ちゃんの事、任せるよ」
「うん。任せて」
緋雪の事は椿と葵に任せ、司はリンディの下へ向かった。
「……少しは、落ち着いたかしら?」
「なんとか……」
少しして、ようやく緋雪は会話出来る程度に落ち着く。
それでも、まだ優輝がいなくなった事を受け止めきれずにいた。
「……あの後、どうなったの……?」
「順を追って説明するわ」
緋雪が気絶した後の事を、椿は順に説明していく。
そして、今は管理局と退魔師が共同で神界へ通ずる“穴”を監視しており、再び向かう訳にはいかないと言う事も伝えた。
「なんで、なんで行っちゃダメなの!?」
「……行った所でどうするの?司以外、私達の攻撃は通じないのよ?」
「っ……」
それは、緋雪にも分かっていた。
故に、たったその一言だけで緋雪の勢いは削がれる。
「それに……」
「ぇ、あぅっ!?」
「私含め、こんなに弱ってる。足手纏いにしかならないの」
椿が軽く緋雪を小突く。
それだけで、起き上がろうとしていた緋雪の体が再びベッドに戻される。
「神界で“格”の昇華がされていた時、いくら意志の持ちようで力を引き出せるとはいえ、それがなくなった今はどんな反動があるかわかったものじゃないわ」
「むしろ、こうやって弱っている程度で済んだのは御の字だね」
椿と葵の言う通り、現在神界に突入していたメンバーは軒並み弱体化している。
洗脳されていた時に同士討ちをし、重傷を負ったメンバーに至っては未だに目を覚ましていない程だ。
「……そんな……」
「回復するにしても、一朝一夕じゃどうにもならないわね」
「とこよちゃんと紫陽ちゃん、鈴ちゃんが霊脈を再利用するつもりだけど、それでも全快までは時間が掛かるよ」
弱った体を引きずって霊術に長けた三人は行動を起こしている。
修行の結界のために使っていた霊脈だが、結界がない今は再び利用できる。
そのため、再利用しようと三人は再び八束神社に降り立っていた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」
「……緋雪」
今はもうどうしようもない。
その事を理解した緋雪は、追い求めるように俯いて優輝の名を呼ぶ。
生きていてほしい、無事でいてほしい、戻ってきてほしい。
そう思う緋雪の気持ちが理解できるため、椿も掛ける言葉が見つからなかった。
「っ………!」
慰めも、同情の言葉も緋雪には無意味だ。
故に、だからこそ、椿は噛み締めるようにその言葉を告げる。
「“―――皆に“可能性”を託す。……皆が、倒すんだ”」
「……え?」
「優輝が最後に私達に伝えた言葉よ」
それは緋雪が気絶した後、伝えておくように言われた言葉だ。
「“可能性”を、託す……私達が、倒す……?」
「……そうよ。私達はただ優輝を犠牲に助けられた訳じゃないの。……後を託されたのよ。あの詰んだ状況で、優輝はまだ全て諦めた訳じゃないのよ」
まるで自分にこそ言い聞かせるように、椿は緋雪に言う。
見れば、椿は無意識の内に握り拳を作っていた。
「まだ……まだ終わってないの。諦める事は、ないのよ」
「かやちゃん……」
「椿さん……」
俯き、声を震わせる椿。
ここでようやく、椿も辛いのだと緋雪は理解した。
「……とにかく、今は体を休めなさい。私達も、そうするから」
「何をしようにも、あたし達にはそれを為す体力がないからね」
「……うん」
まずは休む事が先決。
そう結論付けて、椿達は休む。緋雪ももう反発はしなかった。
「……そう。飽くまで、その時限定だったのね」
「はい。……正直、今は普通に過ごすだけでも厳しい状態です」
一方、リンディに呼び出された司は“格”の昇華について説明していた。
ちなみに、司が行った“格”の昇華は、神界脱出後間もなく終了していた。
「もう一度行う事は?」
「可能と言えば可能です。ですが、せめてジュエルシードの魔力が戻らない限りは神界で行わないと無理です」
現在、ジュエルシードは役目を果たしたかのように沈黙している。
蓄えていた魔力が枯渇し、機能が停止しているのだ。
「聞けば聞く程でたらめね……。神界という世界そのものも、そこに住まう神の力も、“意志”一つで道理を捻じ曲げる法則も……」
「……そうですね」
改めて神界の異常っぷりを確認する司。
神界での戦いは、誰もが本来の力以上を引き出していた。
「理不尽ではありましたけど……同時に、その理不尽さに救われました」
「他の人にも聞いたけど……何度も致命傷を負った、と」
「……厳密には、確実に殺されていました」
斬殺、殴殺、刺殺、圧殺、絞殺……挙げればキリがない程、司達は殺されていた。
だが、神界では死んで終わりではなく、そうなっても意識は残る。
そして、その残った意識で蘇る事ができるのだ。
「意志一つで蘇生ね……想像つかないわね」
「断じて良いものではありませんでしたよ。……諦めない気持ちを保たないと、そのまま意識を失ってしまいます」
それでも、死ぬことはないと司は言外にリンディに伝える。
「神界の存在と同じ“格”を保ちさえすれば、決して殺されることはありません。例え、どんな事があろうと……」
「“死ぬ事は”ではなく、“殺される事は”……ね」
「……優輝君のように何かの代償を支払う時、自身の存在を代償とすれば或いは……らしいです。尤も、受け売りなので信用できない情報ですが」
神界の存在も死ぬ可能性はある。
その事を祈梨から教えられていた事を司はリンディにも伝える。
ただし、結局その祈梨は洗脳されていたので、正確な情報ではないかもしれないと、注釈をつけて。
「それに、“格”の昇華がなくなってしまえばその時点で私達は普通に死ぬようになります。……その結果が」
「優香さんと光輝さん、という事ね」
「はい……」
あの時、敵の極光に呑まれた優香と光輝を司は思い出す。
跡形もなく消し去られた二人は、どう考えても生きているとは思えなかった。
霊術を会得し、天巫女でもある司は魂をある程度感じ取る事も出来る。
だからこそ、そんな司でも“何も感じなかった”……つまり、魂ごと消し去られた事が確定してしまっていたのだ。
「……確か、その時は優輝さん以外洗脳されていたと……」
「……はい」
「結果だけ見れば、洗脳への抵抗は可能と言う事ね……」
「そうなります……」
優香と光輝が洗脳に抵抗した時、既に“格”の昇華はなくなっていた。
その上で洗脳に抵抗したと言う事は、昇華せずとも抵抗は可能と言う事だ。
奇しくも、二人の行動によってそれが証明されていた。
また、なのはも洗脳に抵抗しつつ、神界脱出のカギとなる一撃を用意していた。
その事も抵抗が可能という結論に拍車を掛けている。
「でも、それは……!」
「分かってるわ。……それが無謀な事ぐらい。貴女達は特に身に染みて分かっている事も、理解しているわ」
誰かが出来たから可能。
そんな浅慮な事はリンディも言わなかった。
ましてや、実際に戦ってきた司相手ならば尚更だ。
「……現状、打つ手なしと言う事ね」
「……はい」
「分かったわ。……とりあえず、司さんも休んでちょうだい。ここに来るだけでもかなり疲れている様子だったわ」
司も緋雪達同様、疲労が溜まっていた。
むしろ、“格”の昇華を行った分、司の方が疲労している程だ。
そのため、リンディは休息を催促していた。
「では……」
「ゆっくり休んでちょうだいね」
司が退出し、リンディは司から聞いた話を頭の中で整理する。
「障壁を破壊した力は司さんによるもの……これはドクター・スカリエッティとグランツ博士の推測通りだった。……問題は、その後のエネルギー反応ね」
思い返すのは、司達が脱出してくる直前の高エネルギー反応。
神界との境界を隔てた事で、余波は大幅に減衰していたはずだった。
その上で、周囲にいた面々を軽く吹き飛ばしたのだ。
「……なのはさん、霊力は使えなかったはずなのだけど……」
司の話から、その力を放ったのは優輝だと分かっている。
だが、その力を集めたのはなのはだ。
霊術を会得していないなのはが、魔力だけでなく霊力も、果ては理力すら集束させ、あまつさえそのエネルギーを丸ごと優輝に譲渡したのだ。
それは、今までのなのはからしてあまりに飛躍し過ぎた成長だ。
「いくら“意志”一つで大きく変化するとはいえ、それまで圧倒的差だった神々に対して、ありえない……」
それ以前に、なのはは洗脳に抵抗した上、その直後に集束しておいたエネルギーを以て神々の攻撃を防ぎ切り、さらにその力を再利用して圧倒的な身体強化をしていた。
つまり、最後に優輝が放った極光と同等のエネルギーをなのはは使いこなしていた事の証明に他ならない。
「……これは、直接聞かないといけないわ……なのはさんに、それと奏さんにも」
司曰く、なのはは神界に来て少ししてから調子が良かった。
奏もそうだったようだが、脱出直前の動きはあまりに顕著だった。
故に、リンディは一度なのはと奏からも話を聞く事にした。
「(……尤も、今は二人共眠ってるのだけど)」
さすがに活躍した分、反動も凄かったのか、なのはと奏は他数名と共に休息から仮眠に移っていた。
熟睡しているため、簡単には起きない事もリンディは把握済みだった。
「(情報を聞くにしても、戦力として頼るにしても、今は何がなんでも彼女達を休ませる必要がある。……猶予がある訳でもないのだけどね)」
リンディも、出来るならすぐにでも情報を聞きたい。
だが、それが出来ないと分かる程に、司達は疲弊していた。
先程の司への聴取も、本来ならもっと事細かく聞くつもりだった。
聴取中の精神的に参っている様子の司を見るまでは。
「(皆、取り繕ってはいるけど……自覚している以上に疲弊が激しいわ)」
一番マシに見えたのはとこよと紫陽、サーラだけだ。
他の面々は、取り繕ってはいたが明らかにそれ以上戦えない程に疲弊していた。
「(神界……それほどなのね)」
話を聞くだけでも絶望的な戦力差が分かる。
むしろ、よく帰ってこれたと感心してしまう程だ。
「(……これから、どうするべきなの……?)」
少数精鋭でも全く敵わなかった。これでは人員を集めても烏合の衆でしかない。
加え、要の存在であった優輝や祈梨、ソレラももういない。
祈梨とソレラに至っては、最初から敵の手に堕ちていた。
唯一、司だけでがまだ対抗する手を残しているが……焼け石に水だ。
「……一度、落ち着くべきね……」
一旦考えるのをやめて落ち着くべきだと、リンディは判断する。
一息つき、いつもの砂糖入りお茶を飲み……
『艦長!』
八束神社に常駐している部隊からの通信が繋がる。
すぐさま、リンディは思考を艦長らしく切り替える。
「何か変化が?報告をお願いします」
『はい……』
通信相手の魔導師は、一呼吸おいて何が起きたか発言する。
『神界への道が……閉ざされました!』
「っ……!そう……」
報告を聞き、リンディは目を見開く。
だが、すぐに平静を装い、少し考える。
「……とりあえず、引き続き常駐をお願いします。とこよさんとサーラさんもそちらにいますからね」
『わ、分かりました!』
指示を出し、通信を終わらせる。
再び一人になったリンディは、頭を抱えて溜息を吐いた。
「……これで、本当に優輝さんは戻ってこれなくなった」
神界への道が閉ざされた。
それはつまり神界と行き来が出来なくなったと言う事だ。
向こう側にいる優輝は、もうこちらに戻ってこれない。
また、行方不明で無事だったかもしれない帝も、もう助からない。
「でも、向こうからの干渉は可能」
こちらからは干渉出来ないが、神界からは別だ。
元より、神界での戦いの余波が世間を騒がせていた。
同じようにこちらと繋いでくる事が出来ないはずがない。
「……出来る限り、備えるしかないわね」
出来る事は少ない。
それでも備えるしかないと、リンディは判断する。
「司さん達に関しては、まず休息を取ってもらうとして……一度、報告をしておく必要もあるわね。……嘆いてばかりはダメよ。行動していかなくちゃ」
自分に言い聞かせるように、リンディはこれからの行動を決める。
その行動が、いい結果に繋がると信じて。
後書き
久しぶりのバトルなしの回。
司達はかなり疲弊して、強さが本来の十分の一未満になっています。
最大戦力も歯が立たず、もはや打つ手なし。唯一対抗できる司も、疲弊が激しいです。
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