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デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~

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第五十話「天央祭・Ⅺ」

「う…あ…っ、けほっ、けほっ」

会場内から放り投げられ、辺りに植えられていた木々に激突したのち地面に落下した士道は、前進に走る痛みと衝撃に激しくせき込んだ。

衝突した影響で数分の間意識を失っていた士道は痛む体を起こしながら周囲の確認をする。士道が飛ばされた場所は天宮スクエアからほど近い公園の一角であった。木々と柔らかい芝生のおかげでこの程度の怪我で済んだらしい。そして、後方に広がる駐車場にぶつからなかったことに心の底から安堵した。

もし、固いコンクリートの駐車場にぶつかっても琴里の精霊の力で死ぬ事は無いだろうが激痛に襲われる事になっただろう。そうなれば暫くの間は動けないだろう、士道は自分の運の良さとここに投げた十香のコントロールに感謝する。

「そうだ、十香…!」

漸く意識が鮮明になってきた士道は自分の置かれている状況を思い出す。そして、未だに会場に残っているであろう十香の事も。

「ぐ…っ!」

士道は痛む体を無理やり動かす。いくら霊力を限定解除している十香とは言え、アンナ状況では無事に済むはずがない。最悪の場合捕まってしまう可能性すらあり得た。

そして、天宮スクエアに目を向けた時、天井から何かが飛び出すのが見えた。

「あれは…!」

その姿に、士道は目を見開き驚愕を露にする。

白銀のCR-ユニットを纏った女性、エレン・ミラ・メイザースが意識を失った十香を抱いて空を飛んでいたのだから。士道が予想した中で最も最悪の状況、それが起きてしまったのだから。

「十香…!?」

十香は意識を失っている様でぐったりとした様子で動かなかった。そんな十香を抱いて飛ぶエレンは周囲を確認したのちに何処かへと飛んでいってしまった。

その様子を士道はただただ、茫然と見ている事しか出来なかった。

「十…香…?」

瞬く間に起こった現実感のない出来事が、次第に脳に染み込んでいき、士道の意識を揺さぶってくる。

「十香…十香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

叫ぶも、その声は空しく空に響き渡るだけだった。

そして、或美島以来の感情が士道に襲いかかる。

何も出来ない無力感。ただただ守られるだけの自分に士道の心は押しつぶされそうになる。また(・・)、何も出来なかった。美九の封印は出来ず、八舞姉妹や四糸乃、琴里は美九に操られ唯一洗脳を免れた十香も今目の前でさらわれていった。

だが、現実は非情である。そんな感傷に浸かる暇さえ士道には与えてくれなかった。天宮スクエアの正面ゲートより現れる無数の人間。ゆらゆらと進み、何かを探すような動きに士道は目的が誰なのかを直ぐに察する。

「くっ!」

士道は未だ激痛の走る体を無理やり動かしその場を必死で逃げていく。十香の努力を無駄にしないために。









「流石は人類最強の魔術師(ウィザード)と言った所か」

彼女は天宮スクエアの天井から先ほど出て行ったエレンに称賛を送る。十香がエレンに捕まる一部始終を見ていた彼女はエレンの予想以上の実力に驚いていた。

彼女が持っていた情報ではあそこまで強くはなかったはずである。せいぜい全力の十香と戦って十分持てばいい方であったはず。しかし、今のエレンは限定解除とは言え精霊の力を使った十香相手に圧勝した。あれなら全力の十香と真っ向から戦えるだろう。

エレンに何が起きたのかは知らない。だが、言えることは()の実力が予想以上に強いと言う事。もし、戦う事になったなら彼女も全力(・・)で全ての力を使い戦う必要がある。手を抜いたら、確実に負ける。

「…美亜さん、彼女は一体何だったのでしょう」

洗脳した群衆に士道を捕まえる様に指示を出した美九が彼女に近づき疑問を口にする。今まで見てきたASTとは明らかに異なる相手。美九ですらエレンの発する圧に気圧されていた。目の前の敵とは、絶対に戦ってはいけない、と。

エレンがいなくなり漸く肩の力が抜けた美九が急いで士道を追うように指示を出したのがつい先ほど。だが、既に遠くへと逃げてしまっているだろう。それだけの時間があったのだから。

「…エレン・ミラ・メイザース。現界する度に現れるASTより厄介で恐ろしい、敵だ。今回は夜刀神十香、だったかが目的だったらしいがもし狙われていたのがこちらだったら負けていた可能性もあった」

「美亜さんも、勝てませんか?」

「…正直、分からない」

あの能力(・・)を使えば比較的楽に倒せるだろうがあれが奥の手の中でも奥の手でありそう簡単に使いたくはなかった。

「…それより、この後はどうするんだ?こんなに騒ぎを大きくして」

彼女は話題を変え今後の事について聞く。彼女が放った天使の力で操られた群衆が士道を探す事に躍起になっている。そうなれば必ず異常として民衆に知れ渡る事になるだろう。

そんな彼女の懸念に美九は特に気にした様子も見せずに笑みを浮かべる。

「そうですね~。折角ステージに立っている事ですし可愛い精霊さんや美亜さんの為に歌おうと思いますぅ」

そんな美九の答えに若干の恐怖を感じつつ彼女は美九に促され精霊たちと共に席につくのであった。
 
 

 
後書き
次から第四章になります。 
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