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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百二十五話 ヤン艦隊の跳梁跋扈です。

 後世において第二次エル・ファシル星域会戦と銘打たれた戦いでは帝国、同盟に奇妙な共通点が多々あった。
 まず、帝国軍、自由惑星同盟軍双方は互いが敗北したと思っている。実際は互いの総司令官の本隊に甚大な損害を与えあい、それが全軍の損害の半数を占めるという珍しい結果だった。
そして、双方の総司令官が更迭されるという結果もまた共通していたのである。

* * * * *
 エル・ファシル星域会戦の様相を報告し終わったティファニーはしばらく頭を下げていた。報告しながらティファニーは複雑な思いだった。結果的にヤン・ウェンリーの本隊は壊滅状態になったが、それは例の3提督―ビュコック、ウランフ、クブルスリー―への気遣いが背景にあったのではないかと思っている。
 3提督はヤン・ウェンリーの作戦を表立って邪魔はしなかったものの、消極的な抵抗を示していた事をティファニーは知っている。
 そのことをシャロンには言わなかった。言ってどうなるものでもなかったからだ。
 それに、今、ティファニーはそれどころではなかった。自分の身に降りかかろうとしている火の粉をどう振り払おうかと考えるので必死だったのである。長い間返答がなかったので、シャロンの怒りはどれほどなのかと思っていたのだった。

『ご苦労様』

 ようやくの声に恐る恐る顔を上げたティファニーは驚いた。
 シャロンは微笑を浮かべていたのだ。

「結構。敗北をしたとはいえ、敵に十分に打撃を与え、そしてヤン・ウェンリーは生きている。それだけでいいわ。もっとも、彼には責任を取ってもらう事にはなるわね」
「・・・・・・・・?」
「あなたは何か誤解をしているようね。私はヤン・ウェンリーを処断するつもりはないわ。責任を取らせるとは言ったけれど」
「ヤン・ウェンリーを元帥にしたのはやはり失敗だったという事ですか?」
「時期とタイミングの問題よ。彼が順当に昇進して一個艦隊、数個艦隊、そして全軍の指揮をとる機会が与えられていれば、あのように部下たちが離反するはずはなかった。と、いうよりも私の支配の影響力が大きすぎたことが原因。支配の影響によって彼らはヤン個人よりも私の命令を絶対と思うようになった。もっとも、私はそれを解除するつもりはないのだけれど」
「では、如何になされるつもりなのですか?」
「ヤン・ウェンリーを元帥から大将に降格させ、一個艦隊約2万隻を率いさせる。それだけならば、原作のヤン艦隊と同程度。そして幕僚も引き続き原作と同じ編成にする。そしてその部下に対しては私は支配をかけはしない。この意味、あなたにわかるかしら?」
「・・・・・・・?」
「なら結構。あなたに狙いがわからなければ、それで良し。直ちにその処置にかかってちょうだい。ヤン・ウェンリーには追って指示を与えるわ」
「イゼルローン方面総軍の指揮は、誰が引き継ぐのですか?」
「イゼルローン方面総軍は既に大打撃を受けて、引き下がっている。アンジェのフェザーン総軍に合流する形になると思うけれど、さしあたってはあなたが指揮をとりなさい、ティファニ―」
「ですが・・・・私では不足ではないでしょうか?」
「あなたは私と同じオーラを持っている。そうであれば、彼らもあなたに対して反抗はしないはずよ」
「・・・・・・・・・」
「もっとも例の3提督、ビュコック、ウランフ、クブルスリーはあなたに従う事はないと思うけれど。そのことを心配する必要はないわ。彼らには別働部隊として行動してもらう予定でいるから」
「・・・・・・・・・」
「あなたを上級大将に昇進させ、イゼルローン総軍司令官後継者に任命する手はず、カトレーナを通じてすぐに発表させるわ。その前にヤン・ウェンリーを呼んできてちょうだい。彼と話がしたいの」
「承知、いたしました。それから・・・・第三十艦隊の件、いかがいたしましょうか」
「例のお姫様については放っておきなさい」
「カロリーネ皇女も第三十艦隊に所属していますが」
「知っているわ。ティファニー。一つ尋ねるけれど、その二人が加わったところで、私に対して何ができるのかしら?」
「それは――」
「現状でよし。ただし、二人、ヤン・ウェンリー、そしてもう一人の転生者については監視を継続の事」
「承知、致しました」

 通信を切る際、ティファニ―はちらとシャロンを見た。あれだけの大敗北を受けたことに対して、本当に苛立ちを覚えていないのか、気になったのである。

 彼女は正面を向いていたが、その眼はティファニ―を見ていなかったのを彼女は悟った。口元には濃い微笑がうかんでいた。
 その後、ヤン・ウェンリーとシャロンが何を話し合ったのかはわからない。しかし、ヤン・ウェンリーは自部隊の残存艦艇を率いていったん後方に撤退することが決定した。再編と補給を行うためである。

* * * * *
 イゼルローン要塞にいる帝国軍もまた、補給と補充、再編成に余念がない。
 壊滅的な打撃を受けたフィオーナ艦隊はその立て直しに迫られていた。立て直しに当たってフィオーナはルッツの了承を得たうえで、いくつかのオーダーを帝国軍後方総司令部(補給、補充等を機能的に行うべく設置されたもの。総司令官はケスラー。)に出した。それはほどなくして帝国軍本土からきた増援部隊にそれが如実に表れていた。

 第一分艦隊司令ミュイル・リュクセレ少将4,508隻

 第一遊撃部隊司令ティルジット・クレイシス少将5,069隻

 前衛艦隊司令マリア・フレイル准将1,029隻

 いずれも女性士官学校出身者であり、気心の知れた存在だった。特にティルジット・クライシス少将及びマリア・フレイル准将は転生者であり、その能力は高い。約1万余隻の増援を取り込んで、フィオーナ艦隊は約2万余隻の一個艦隊として再編を果たしつつあった。
 一方、フィオーナから引継ぎを受けたルッツは、彼女以下の助言のもと、全軍の編成を進め、合わせて自由惑星同盟の動向を探っていた。

* * * * *
 アルフレートは、ヤン艦隊の一員としてグリーンヒル大尉の補佐として勤務している。先の戦いで、ヤン艦隊は壊滅的な打撃を受けたが、彼にとってそれは衝撃的な事であった。不敗のヤン、魔術師ヤンが帝国軍の正体不明な指揮官に本隊をほぼ壊滅させられたのだから。
 しかし、ヤンの冷静な指揮ぶり、そしてヤン艦隊の敵中枢への一矢報いた動きを見たアルフレートは、流石はヤン・ウェンリーなのだと感嘆したのだった。
 戦いが終わった後、アルフレートは衝撃的なニュースをグリーンヒル大尉から聞いた。
 ヤン・ウェンリーは総司令官から外されるのだと。

「そんな馬鹿な!?」
「ええ、私もそう思うわ。中尉。けれどこれは正式な話なのよ。既に辞令はティファニー・アーセルノ中将・・・・いいえ、シャロン・イーリス最高評議会議長の特命で上級大将に昇進するらしいけれど、その人が閣下の後任になるというのよ」
「閣下は、どうされるのですか?」
「艦隊の再編の為にいったんは戦線を離れるとのことだけれど、そこから先の予定は未定だわ」

 いったいどういうつもりなのだろうと、アルフレートはシャロンの思惑を考えた。ヤン・ウェンリーは自由惑星同盟最高の智将だ。それをむざむざ降格させて前線から去らせるなど、常識的にはどう考えてもありえない。

「閣下はそれを承知なさったのですか?」
「承知をするも何も、従うほかないからね」

 後ろで声がした。振り向くと、いつのまにやら当のヤン・ウェンリー本人が室内に入ってきていてソファーに寝っ転がっている。いつの間に、とアルフレートは思った。ヤン艦隊で勤務するようになってから、司令官の破天荒ぶりを直に目にするようになり、流石ヤン・ウェンリーなのだと折に触れて思わざるを得ないアルフレートだった。

「何故、シャロン・イーリス最高評議会議長は閣下を更迭されたのでしょうか?」

 グリーンヒル大尉が尋ねた。アルフレートもそれを聞きたくて仕方がなかったので、耳を傾けた。

「私の戦いぶりが気に入らなかったからじゃないかな」
『は?』
「こんなことで取引が終わるとは思えない。終わらせるとすれば彼女は私を殺していただろうが、今のところ私は生きている。かといって一度や二度の失敗で放り出すほど短慮だとも思えない。突拍子もないかもしれないが、もっとも可能性がある説だと思う。現に私の後釜は彼女の腹心との噂の人だからね」
「この後はどうなるのでしょうか?」
「さぁね。後の事は彼女が何とかするだろう。そこまで私は面倒見切れないよ」

 不貞腐れたような言葉だったが、そんな感情は一ミリも交じっていなかった。代わりに――。

「ヴィトゲンシュティン中将になんといっていいやら・・・・」

 ヤン・ウェンリーはと息を吐いた。ウィトゲンシュティン中将から預かった第十三艦隊の大半を失ったのだから、無理もない。
 かつてのイゼルローン要塞攻略作戦の際に、かろうじて生き残ったクレアーナ・ウェルクレネード、カレン・シンクレア両提督も死んでいた。
 グリーンヒル大尉もアルフレートも、かけるべき言葉を見いだせないでいた。
 室内の沈滞した空気を打破したのは、一通の命令書だった。シャロン・イーリス最高評議会議長からであり、ヤン・ウェンリーに対する新たな指令が書かれていたのである。

* * * * *
 再編成を終えた両軍は行動を開始したものの、それからの十数日間の戦いは奇妙なものとなった。
 フェザーン方面総軍とイゼルローン方面総軍は、適宜後退を続け、帝国軍がそれを追う形となった。イゼルローン要塞にビューロー、ベルゲングリューン両者の指揮下の駐留軍を残すと、ルッツを総司令として再編された別働部隊も、ラインハルトの本隊も、共に進撃を続けた。
 ローエングラム参謀総長(イルーナ)から、一つの指示があったのである。曰く、自由惑星同盟側から挑発があるまでは、積極攻勢を仕掛けることなかれ、と。
 これには、転生者たちも諸提督も顔を傾げたが、ともかく、帝国軍は進撃を続けた。
 自由惑星同盟側も黙ってみていることなく、自由惑星同盟側から仕掛けられた大小10度の戦いがあったが、之と言って決定打を与えることのないまま、帝国軍は同盟領深くに進撃を続けた。
ラインハルト本隊は、アスターテ、マル・アデッタ、ランテマリオへ。
 別働部隊は、エル・ファシル、シヴァへ。

「どうも、妙だな。」

 ロイエンタールは僚友から感想を聞かれると、言葉少なにこう返しただけだった。

「それ以外の感想はあいにく俺には持ち合わせておらんよ。何しろ敵の意図が分かりかねる。通常であればこのように奥深くに侵攻を続けさせる余裕はないはずだが」
「例のシャロンとかいう者にすべて実権が掌握されていれば、焦土戦術も可能だという事だな」

 ミッターマイヤーがロイエンタールのグラスにワインを注ぎながら言う。艦隊は航行しているが、両者は束の間の休息を取っている最中だった。

「そろそろ何か起こってほしいものだ。ただひたすら待つのは性に合わぬ。かといってこちらから積極攻勢に出ようにも、敵は後退を続ける一方だからな」
「完全に俺たちを誘い込んでいるな。そうは思わんか?」
「それはわかっている。だが、各惑星に兵力を散らせば、戦力分散の愚を犯すことに他ならない。第一星系を一つ一つ攻め落としている時間も余裕もない。補給に関しては今のところ問題はないが、それはあくまでこちらが既定の侵攻計画に沿っている場合なのだからな」
「その補給だが、敵がこちらの補給線を狙ってこないのは、妙だと思わんか?」
「向こうはあくまでも完全体制の俺たちを叩き潰したいのだろうよ。あの女、はっきりとそういったではないか」

 ミッターマイヤーの言葉に、ロイエンタールはワイングラスを揺らした。ヘテロクロミアの視線は揺れ動く赤い液体に注がれている。

「いいか、ミッターマイヤー。この世において女と天候ほど気まぐれなものはないという事を卿に教えてやろう」
「というと?」
「彼奴が言った言葉、あれを額面通りに受け取ると、手ひどい目にあうのではないか、ということだ。俺は――」

 その時、緊急端末が作動した。これは上級将官専用の端末であり、有事の際は即座に連絡が入る仕組みとなっている。

『至急ブリュンヒルトにお越しください。補給線に対して敵が攻撃を仕掛けてきました。現在ケンプ艦隊が現場に急行中です』

 レイン・フェリルの声だった。両将は立ち上がった。

「予感というものは言葉にせん方がいいようだな」

 ミッターマイヤーの言葉に、ロイエンタールは「フッ」と息を漏らしたのみだった。

* * * * *
 自由惑星同盟側(シャロン)側の動きが活発化したのは、十数日ぶりだといえた。イゼルローン方面の帝国軍別働部隊、そしてラインハルト本隊の補給線に積極攻勢を仕掛けてきたのである。
 特に、イゼルローン方面補給線は各所で寸断され、苦戦に陥っているという。ラインハルト本隊の補給線は、ケンプ艦隊が奇襲部隊に応対している他、アイゼナッハ艦隊がその総力を挙げて防衛しているので、思ったほどの損害は出ていない。
 以上が、主要提督たちがブリュンヒルトに集まった時のレイン・フェリルからの報告だった。ところが、その1時間後、ケンプ艦隊が苦戦を強いられているとの報告が入ってきた。敵は補給部隊よりも、救援に来たケンプ艦隊にその矛先を向けたのである。

「やり方が無茶苦茶すぎるわ」

 アレーナはぼやいたが、すぐに「私が行って沈めてくるわ」と言い残し、会議場を出ていった。
 ところが、アレーナ艦隊が到着する前に、敵は姿を消していた。残っていたのは強かに叩かれたケンプ艦隊の四分五裂した姿だけである。
 アレーナは眉をひそめたが、事はこれで終わりではなかった。
 敵の矛先は、今度は先鋒として哨戒行動を取っていたビッテンフェルト艦隊に向けられたのである。不意を突かれたビッテンフェルト艦隊はこれまた強襲されて損害を被り、付近に展開していたカルナップ、クルーデンシュテルン、ウェルナー・アルトリンゲン艦隊の増援を受けてようやく立ち直るというありさまだった。

 敵の動きはまさに神出鬼没であった。そして、その神出鬼没の敵の指揮官がケンプ艦隊及びビッテンフェルト艦隊からの通信により判明する。

 ヤン・ウェンリーだった。

 
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