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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百二十七話 決戦に向けて準備です。その2

* * * * *
旗艦ヴァルキュリア――。

「どうして私を置いていくのよ!?」

 司令官執務室内でアレーナは不服そうにイルーナ・フォン・ヴァンクラフトを見た。彼女の発案でアレーナもまた艦隊を率いて展開することになっていたのだ。

「私が側にいたら邪魔というわけ?それともラインハルトの『御姉様』はあなた一人で充分というわけ?」
「違うわよ」

 やっかみもいいところだとイルーナは苦笑した。

「そうではなくて、あなたには万が一のことを頼まれてほしいの。もし私に何かあった時、ラインハルトを守ってほしいの」
「はぁ?」

 アレーナは思わず甲高い声を出した。

「何を言っているの?あなたは常にラインハルトのそばにいるのよ。そのあなたに何かあるという事はラインハルトにも何かあるという事じゃないの?」
「そうではないわ。ラインハルトの事なら大丈夫。私が守り切るから」

 アレーナはぞくりとした。背筋に何か冷たいものが這う降りたような、そんな気分になった。

「どうしてそんな不吉なことを言うの?」
「不吉・・・そうかもしれないわね」
「盛大な死亡フラグをおったてないでよ」
「別にそう言うつもりで言ったのではないわ。けれど、相手はシャロン。どんな手を使ってくるかわからない。いっそのこと所在さえわかれば私たちの方から斬り込んでいくのに」
「まぁ随分と大胆なご発言ですこと」

 アレーナはあきれ顔でイルーナを見た。どこをどうしたら日頃冷静な彼女からこんな大胆な発言が出てくるのだろう。

「そう簡単に死にはしないわよ。ジェニファーの事もあるし、私が途中で離脱すれば少なからぬ混乱があるという事もよくわかっているわ」
「そう願いたいわね」
「お茶でも飲みましょうか?希少品のシロン産の紅茶が手に入ったのだけれど」
「遠慮しておくわ。急にやることもできたし。誰かさんのせいでね」

 親友の苦笑をよそにアレーナは立ち上がった。そして片手を上げてイルーナに別れを告げると、部屋を出ていった。
けれど、アレーナは後にこのことを後悔することになる。どうしてあの時お茶を飲まなかったのだろう、と。

* * * * *
 第三十艦隊とヤン艦隊。双方の艦隊もまた、ヴァーミリオン星域における大会戦の所定の配置に着くべく、移動行動を開始していた。第二十八、第二十九艦隊も同様である。
 少しだけ自由時間が取れたアルフレートは、カロリーネ皇女殿下と話をしていた。

「いよいよですね。帝国と自由惑星同盟とが雌雄を決することになる・・・・と、月並みな感想が言えればいいのですが」
『ヤン提督はどうしていらっしゃるの?』
「わかりません。表向きは普通にされていますが、僕には元気がないように思えます。ユリアン君の紅茶も上の空で飲んでいるようですし――」
『そう・・・・』
「そうそう、そのユリアン・ミンツの話ですが――」

 アルフレートはヤン艦隊に勤務するようになってから、ユリアンとしばしば会話するようになった。自分は大尉、ユリアンは軍属としてまだ見習いの立場であるが、同じヤン提督に仕える身として、ほぼ同年代という事もあって、色々話をするようになったのだ。
 やはりというか、ユリアンはヤン提督の話題になると目の色の輝きが違った。けれど、その色は時に曇ることがある。なぜかというと、シャロンの名前が出てくる時だ。

 シャロン。今回の騒乱の元凶にして自由惑星同盟に巣くっている悪魔。その悪魔を退治しなくてはならないのに――。
 カロリーネ皇女殿下は俯いて押し黙ったが、暗い顔を上げた。

『アルフレート、私、とても嫌な予感がするの』
「ええ、僕も同じです」
『このままでは、何かとてもひどいことが起こりそうな気がする。普通の戦いでは考えられないようなもっとずっとひどい何かが――』
「カロリーネ」

 アルフレートは、このごろカロリーネ皇女殿下のことをカロリーネと呼ぶようになっていた。

『何?』
「もしも、もしも僕たちの艦隊にまだ一片の理性があれば・・・・そして、万が一の事が起これば・・・その時は――」
『その時は?』
「ヤン提督に帝国軍に味方するように進言するつもりです」
『・・・・できるの!?』
「出来る出来ないではありません。これはやらなくてはならない事なんです。そのためになら、僕の命なんか――」
『軽々しく命を持ち出さないで!!』

 激しい口ぶりにアルフレートの口がつぐまれた。

『本当ならば、こんな戦いの前にヤン・ウェンリーとラインハルト・フォン・ローエングラムを和解させたい。できるならそうしたい。だって倒すべき相手が違うもの。けれど、そんなことはテレパシーやそれこそあの人みたいな能力がない限りできない・・・・・』
「・・・・・・・」
『私たちは本当に普通の人なんだって思い知らされるよね、こういう時に』
「・・・・ええ」
『アルフレート』
「はい」
『もう一度、会いたい・・・・』
「今あっているじゃないですか?」
『ううん、もう一度、今度は直に会いたい・・・・・』

 ウィトゲンシュティン中将の下から離れて以来、アルフレートとカロリーネ皇女殿下は合っていない。こうして空いた時間に通信ができるのが精いっぱいだ。それは先ほど通信を交わしたファーレンハイト、シュタインメッツとも同様だった。二人とはもっとあっていない。
 早く四人で会いたい。アルフレートはそう思った。とりわけ・・・いや、今はやめよう。

「僕もです。・・・・あ」

 突如通信が乱れ、カロリーネ皇女殿下の顔が消えた。慌てて通信回路を回復させようとするも、ダメだった。磁場の乱れか、機械の故障か。
アルフレートにとって不吉な予感が芽生え始めていた。


* * * * *
 ヴァーミリオン星域、新総旗艦移動要塞アーレ・ハイネセン――

 シャロンはカトレーナ、アンジェ、ティファニーを見まわした。

「さて」

 3人は次の言葉を待つ。

「ここまでご苦労様。帝国軍に対して適当に交戦しつつ、適当に損害を『出してやり』つつ、この場所までおびき寄せることは成功できたわ」
『・・・・・・・』
「イーリス作戦の最終段階よ。既定されているプランの修正はIDEA計画に従って行う事にするわ。両軍衝突予定時刻は帝国暦488年8月31日午前10時30分。」

 シャロンの微笑が濃くなる。

「地獄を見せてやる時が、来ましたわね・・・・」

 カトレーナがうっすらと笑う。

「地獄?違うわよ、カトレーナ。そんなに甘いものではないわ。地獄の責め苦には大小がある、けれど、私は永遠に死してなお忘れないほどの地獄(シャロン)という名を彼女たちの魂に刻み付けてやるのよ」

 ククク・・・・とシャロンが笑みを漏らす。アンジェ、ティファニーは無表情でそれを見ている。

「カトレーナ」
「はい、閣下」
「既にこちらの『残存』戦力を向こうが推定できるだけの情報は流してあるかしら?」
「はい、万事手ぬかりはありませんわ」
「結構。では後は手筈通りに」

 3人は立ち上がった。カトレーナはともかく、ティファニーは一刻も早くこの部屋を出たくてたまらないと思っていた。アンジェは多少躊躇いがあったが、それを表にするほど暗愚ではなかった。

「あぁ、そうそう。一つ言い忘れていたわ」

 3人はシャロンを振り返る。

「転生者たち、そしてラインハルト、キルヒアイスに対しては――」

 シャロンの微笑が悪魔的になった。

「手出しは無用。この私自らがとどめを刺すこととするわ」

 戦慄を纏ったオーラを3人は受けた。シャロンが一瞬その力を垣間見えるほどのオーラを放ったのを感じた。並の人間なら跡形も残さず消滅しているであろうが、流石に転生者たち3人は無事だった。
廊下に出た3人はそれぞれ無言で歩いていく。やがてカトレーナが「ここでわかれますわ」と言ってきた。最終情報統制を行う必要があるのだという。

「では、手筈通りに、頼みましたわよ」

 カトレーナはそう言うと、すたすたと歩いていってしまった。アンジェ、そしてティファニーは黙ってそれを見送った。そのまま歩き始めればよかったのに、二人は止まったままでいる。まるでどちらかが何かを話すのを待っているようだった。

「アンジェ・・・・・。」
「何?」
「本当に、いいの・・・・?」

 ささやくような声だったが、アンジェはティファニーが言おうとしていることはわかった。

「何も聞かなかったことにするわ」

 アンジェは背を向けた。これ以上聞けば自分の心が決定的に揺れ動いてしまう。そんなことをしたくはなかった。それでいて一息にティファニーを始末すれば良かったのに、それもできないでいる。そんな自分に腹が立ってきた。

「でも――!」
「裏切りたいなら勝手にすればいいわ。私はあなたとは違う」
「前世からの因縁なんてそんなに大事な物なの?」

 アンジェは振り返った。ティファニーはすがるような眼をしている。必死さが現れていた。

「もう私は嫌・・・うんざりだもの。どう考えてもおかしいのは私たちの方だよ」
「・・・・・・」
「あの人は満足するでしょう。けれど、私たちはどうなるの?ラインハルト、キルヒアイス、そして主席聖将たちを殺した後に何があるの?」
「・・・・・・」
「何もないよ・・・・。終わった後には何も残らない」
「少なくとも、私には残るわ。閣下のために尽くしたというその誇りが。私はそれだけで十分。十分すぎる。何故かと問う?その答えは、私たちは既に何百億という人間の屍で閣下の道を舗装する手助けをしてしまったからよ」

 それだけ言い捨てると、アンジェは踵を返して去っていった。残されたティファニーはじっと唇をかんでいた。

「アンジェ・・・・私は今本当の自分の気持ちがわかった。あなたの言う事に賛同できない。たとえ何百億を殺したからといって今行動すれば助かるかもしれない何百億を殺し続ける理由にはならない!」

 ティファニーは決意すると、踵を返して立ち去った。無機質な薄暗い廊下がその足音を吸収していった。

* * * * *

 首都星ハイネセンに向けて進撃を続けるティアナ、ミッターマイヤーが銀河基準面北方マールヴァラ星域外縁部に到達したのは、ヴァーミリオン星域会戦が始まる2日前、帝国暦488年8月29日だった。
ここまでくれば、ハイネセンは手の内にある。しかし、ティアナの気持ちはここ数日晴れなかった。いくらラインハルト、イルーナが決断したこととはいっても、敵の地の利があるヴァーミリオンという宙域で兵力分散をしていいのか。しかも相手はシャロンなのだ。

「・・・・・・・・・」
「心配しておいで、ですか」

 ミッターマイヤーに話しかけられたことにティアナはすぐには気が付かなかった。

「ごめんなさい。少し考え事をしていたの」
「というと?」
「今回の戦いは、双方が雌雄を決するものになることはわかっているから・・・だからこそ、何かが起こるのではないかと・・・バカね、こんな時にとりこし苦労もいいところだわ」
「いや、フロイレイン・ティアナ。実を言うと私もそれを思っていたところです」
「あなたも?」
「閣下、失礼します。」

 二人の話は中断された。入ってきた士官が、数隻の民間船を拿捕したことを伝えた。臨検時の、積み荷、乗組員の構成、目的地を士官は報告する。残念ながら、民間船の乗員は激しい抵抗を見せたため、数人を除き、殺してしまったということである。ミッターマイヤーが顔をしかめるのをティアナは見逃さなかった。

「待って」

 ティアナが制する。今の報告の中に気になる箇所があった。

「・・・・目的地が、ヴァーミリオン?」
「はい。民間船の目的地はヴァーミリオン星域であると航路設定データにはありました。」
「どういうこと?ヴァーミリオン星域は双方の戦闘予定宙域よ。自由惑星同盟に在籍する船舶なら知っていてもおかしくはない・・・・知らない?」
「情報の遅れ、というべきではないか。あくまでもヴァーミリオン星域の戦場を設定したのは我々だ。」

 ミッターマイヤーが言う。

「けれど・・・・」

 そう言われればそうなのだが、何かが引っかかる。

「積み荷は?何だと言っていたの?」
「お待ちください。積み荷は・・・・メルトイオン水素、精製前の状態です」

 なっ!?とティアナは声を上げた。メルトイオン水素は燃料などに加工される素材である。言い換えればその素材には莫大なエネルギーが含まれている。しかし、それ自体は不安定であり、通常は精製されてから運ばれることが多かった。

「それを、目いっぱい搭載していたの?」
「はい。信じられませんが」
「・・・・・・・・」

 ヴァーミリオン、メルトイオン水素、そして民間船、シャロン。これらのキーワードがティアナの中で一本の線となった。

「ミッターマイヤー提督」
「?」
「首都星ハイネセンへの侵攻を至急中止し、ヴァーミリオン星域に向かうわ」
「?フロイレイン・ティアナ。突然どうしたというのだ?首都星ハイネセン攻略はローエングラム公の御命令である。それを中止してヴァーミリオン星域に向かう理由を説明してもらいたい」
「シャロン教官・・・・シャロンはヴァーミリオン星域に罠を仕掛けたのよ。必ず自由惑星同盟と帝国との最終決戦はヴァーミリオン星域になるように誘導していたのよ、今までの戦いは全部その布石だったのだわ」
「・・・・・・・」
「民間船、メルトイオン水素、この二つが何故ヴァーミリオン星域に向かおうとしているか、ミッターマイヤー提督ならわかるのじゃない?」

 一瞬考え込んだミッターマイヤーの顔に次の瞬間、驚愕の表情が浮かぶ。豪胆な歴戦の提督の頬に一筋の汗が流れ落ちた。

「・・・まさか!?いや、そんな馬鹿なことを――」
「今までの自由惑星同盟では起こりえなかったことだけれど、でも、今の自由惑星同盟の首魁はシャロンなの。言っておくけれど、何でもやるわよ。何でも」
「どうやらすぐにヴァーミリオン星域に向かう方がいいようだな・・・と言いたいところだが、それは駄目だ」
「何故!?」
「ヴァーミリオン星域に向かうまでここから最大戦速で向かったとしても14日はかかる。それでは間に合わない」
「かといって――」
「フロイレイン・ティアナ。忌憚ない意見を聞かせてほしい。ローエングラム公は、ヴァーミリオンでシャロンとやらに勝つことはできるのか?」
「・・・・負けるわ」
「であれば、我々としては負けた時の手立てを考えなくてはならぬ。そうではないか?」

 ティアナははっとした顔をした。ミッターマイヤーの言う通りだ。シャロンのように瞬間転移できればいいのだが、あいにくこの世界でティアナは転移はできない。仮に転移できたとしても自分一人ではどうしようもない。

「ヴァーミリオン星域から撤退するとすればイゼルローン方面かフェザーン方面だが、おそらくイゼルローン方面になるだろう。我々はそこで待機し、敵の攻勢が激しくなる瞬間に躍り出てローエングラム公をお守りしなくてはならぬ」
「ええ」
「時間がない。フロイレイン・ティアナ、俺と卿とで航路を設定しよう」

 ティアナは全身で後悔していた。あの時の作戦会議上、何故もっと強くラインハルト、イルーナを止めなかったのか。相手はシャロンなのだ。それを、宇宙艦隊決戦ということにこだわりすぎて見失っていた。
 相手はシャロン。勝つためになら何でもする。宇宙艦隊そのものを囮にすることも辞さないのだ。
 
「でも、今ならまだ間に合う・・・いいえ、間に合わせて見せる!!」

 固い決意を胸に、ティアナはミッターマイヤーと作戦会議室に入った。

(フィオ・・・・お願い、無事でいて。そしてラインハルトを守って・・・・!!)
 
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