魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:14 合宿二日目、 嬉しい変化
――side流――
「えー……昨日に引き続いて。今日も3on3をやるんですが。
昨日、保護者組に捕まってしまった、大きい方のはやてさんとフェイトさんが二日酔いでダウン。響……は体調不良で今休んでもらってます」
……皆の表情が沈んでいくのが分かる。というのも前者の二人はともかくとして。昨日からのぼせたという響さんがどういうわけか、調子が悪いのと、お腹痛くてだるいとのことで、今は休んでもらってます。
響さんと、フェイトさんの間に、な・に・が。あったかは敢えて聞いていませんし。とある事情で察した震離さんが対応されているので安心していますが……。
こんなタイミングで何をされているのやら……。
「と言っても、普通に見舞いとかは出来ますし、行くなとは言いません。元々旅行ですからね、響も空気を悪くしてごめんね、と言ってましたし」
まぁ、感のいい子には感づかれそうですが……それは自業自得というか、フェイトさんが悪いと言うことにしましょうかね。
「……まぁ、流石に空気が沈んだ所と、今日は三人の欠員を踏まえて……代理で私も参加しますし。響も元気にと言うかまた昼からでも参加できるでしょうしね。ちょっとお待ち下さいな」
カッと、シュテルやヴィータの目が光ったのが見えたのと、今日こそ勝つぞーという声がちらほら聞こえてホッと胸を撫で下ろした所で。
「さ。ご飯前に辛気臭い話でしたね。食べましょうか! では、皆さん手を合わせまして、せーの」
『いただきます!』
……もー、なんかここ数日の密度が凄いなぁと。今更ながら思いました……。
――side奏――
「へぇ、お酒の勢いで眠ってる響の動きを封じるとか……鬼畜ですわぁ」
「……ぅぅ返す言葉も有りません」
三人部屋にて、フェイトさんこと、野獣先輩を震離が攻め立てながら私達は食事をとってる。
うーん、何が合ったのか今一わからないけれど……。
「のぼせた響を介抱した結果、その隣で寝ちゃって響が動けなくなったくらいでそんな怒んなくたって……」
いい加減ご飯時にそんな話は聞きたくないという意味を込めて、それを言うと。
「……むぅ、わかった。さて野獣のフェイトさん。初犯という事で流しますが、あんまり無茶させないこと。わかりましたね?」
「……はい。ぁぃたた……」
震離の言葉に項垂れつつも、未だに頭が痛いのかこめかみの辺りを抑えて呻いてる。
「さ、私達もご飯食べよ。しかし……保護者組と年長組が大体ダウンするというこの珍事、どうかね?」
「さぁ? クイントさんの所には、こっちのスバルとギンガが介抱してるし、プレシアさんは手慣れた様子のリニスさんが。はやてさんにはアインスがついて対応してるのは面白いと思うよ。
きっとプレシアさんの所にはフェイトさんがついてあげたら喜んだろうになぁ。残念ですねぇ?」
……うわぁ、しっかり追撃してるし、その追撃で追加ダメージ食らってるし。散々だね先輩。
まぁ、この様子だと私達の間の賭けも体を成さないから流れるだろうしまぁ良いかなぁ。はなとユニゾンしたであろうフェイトさんを止める手段はどうしても見当たらなかったし。
大体、一回だけこっちのスバルとギンガと組んだにもかかわらず、為す術無く落とされたのはすごおく、すっっっっごく、悔しかったしね!!
「はー……流の料理も美味しいけど、旅館の焼き魚もしっかり美味しいわぁ。ご飯が進むー」
「そうだねぇ……ハッ?!」
おひつからごはんをよそってから気づく。コレで二杯目……だけど、ここ最近の運動を鑑みると。
不味い、全然動いてない。コレは肉になる……。
すーっと、おひつから離れて、ちょっとよそったご飯を食べて。
「……その程度じゃ太らんって」
「大丈夫だよ、奏? 好きなだけ食べたら良いじゃない?」
「……食べても太らない人達に言われたくない」
フェイトさんはわからないけれど、震離ってば昔からそうだ。食べても食べても、全然太らないんだもん。何時だったかずるいって言ったら、私は頭を動かしまくってるから帳尻が取れるんですぅって言われたし。
紗雪は元々少食だし、それ以前にあの子用の日課をしてるだけでカロリーは消費されるし、時雨は食べたら胸に行くタイプだったし……。
なのに、私は食べたらお腹とかにつくしなぁ……もうやだ。
「……私の周りには敵が多すぎるなぁ」
「「あ、あはは……」」
思わずつぶやくと、二人がなんとも言えない表情で苦笑い。
大体さ、運動量が違うとは言え、スバルやギンガ、エリオに、この世界の中島家の食事量の凄さよ……何なのアレ?
やばい、深く考えると涙出てきそうになる。あぁ、お味噌汁がしょっぱく感じちゃうよ。
――sideギンガ――
「……結局はやてさんからは、情報引き抜けなかったんだよね。アイタタタタ……」
「羽目を外し過ぎだよお母さん?」
「そうですよ。もう……」
食後のお茶を啜りながら、座椅子にダラーッと持たれる母さんを見てため息が漏れる。
私達が幼い頃の母さんは、何時も元気一杯……というより、努めて普通の母さんをしようとしているように思えた。
だけど、それがどうだろう?
こっちの母さんは元気一杯で、6人の母さんをしているせいか、いつだってパワフルなイメージ。
だからなんだろうね。父さんみたいに飲みすぎた事を、つい口を挟んでしまった。
「うっふっふっふー。だけど、名前は分からなかったけど、身体的特徴も掴めた。何より……すごい人に恋をしたんだってことに私は嬉しいよギンガ」
突然の言葉に、ドキリとしてしまう。
「まぁ、それよりも。スバルはレスキューの道を目指すことを選んだこと。そしてギンガはお父さんのお手伝いをしてるんでしょう? はやてさんから聞いて驚いたわ」
「「……へ?」」
はやてさんんん?! 私とスバル、普通に学生してるっていう体で話進めてたのにー?!
(ど、どうしようギン姉?!)
(落ち着きなさいスバル。まだ、まだ……うん、なんとかなるよ)
と言いながら、頭の中で色々考えるけれど……上手く行かない気がする。私としては今の話題も気になるけれど、その前の話題も気になってて正直それどころじゃない。
「……さて。ご飯も食べたし、二日酔い対策で温泉はいるかぁ!」
「え!? 二日酔いなのに対策!? また飲むのお母さん!?」
「何で!? 明日帰るのに何で!?」
「こんな時じゃないと、お母さんネットワークを強化できないからよ! あとリニスさんから、ティアナちゃんのお話聞きたくって」
テヘっと笑う母さんを見ながら私とスバルは絶句。いやまぁうん……保護者同士で仲良くなるのは良いかもしれないけれど、それは良いのかな……?
「最近ゲンヤさんもなかなか帰ってこれないしねぇ。こういう時でしかお酒なんて嗜めないし。
色々お話出来る機会なんて本当に無いしね。私は主婦をやらせてもらって、ギンガ達と一緒に居れる。きっと一段落ついたらゲンヤさんのお手伝いに戻るんだろうけど、それはまだまだ先のことだし。
それに、桃ちゃん先輩や、リンディさん、プレシアさんに春菜さん、ジョディさんのコミュニティは敷居が高すぎて」
「「……うわぁ」」
ふっと、陰を落とす母さんを見てなんとも言えなくなった。うーん……あの母さんが、というか母さんがこんなに気にしてるってことは結構深い問題なのかしら?
「ごめんなさい。変な愚痴を言っちゃったわ。さ、お風呂言って家族水入らずで色んな話をするわよ!」
「はいはい。用意するから待って母さん」
また、こうして三人でお風呂につかれる。その何気無いことがすごく嬉しいな。
――sideサト――
眼の前で具合が悪そうに机に突っ伏してる響を見て、正直……申し訳ないなぁと。
別に体を拭くことに抵抗はなかった……んだけど、それでも、相手の体は現時点で女子なもので。抵抗が凄かったんですよね。
……まぁ、それ以上に思い出すことが辛すぎて。手早く終わらせて浴衣も着せるのが雑になってしまったんだよな。
「すごく、具合悪そうだけど……平気なの?」
「あるじ……いえ、姉様大丈夫ですか?」
心配そうにその両脇に七緒とはなが付いてるのがちょっと微笑ましい。
「……色々あってね。大丈夫、昼からは参加できると思うよ。じゃあ響? はなと七連れて行くけど。大丈夫だね?」
突っ伏したまま無言で左手を上げてひらひらと振ったかと思えば、パタリと倒す。
「さ、二人共行こう。今はゆっくりさせてやろう」
「うん、わかった」「……また来ますね?」
二人を手招きして、部屋から出ていく。で。
「……いつの間に君ら仲良くなったの?」
「……えーと?」「すっごく波長が合った」
顔を見合わせながら両手を合わせる二人。コレははながすごいのか。七が自然体であるが故なのかわからんね。
「……一つ気になったんだけど。響とはなは姉妹。でも響とサトは違う人。不思議。すごくそっくりで、すごく仲良し」
隣のはながすっごく冷や汗流してる側で、こちらをじっと見る七。
ずっとはぐらかすことしかして無かったし……うん。
「……憧れた人が同じってだけだよ。それだけさ」
よしよしと二人の頭に手を置いて撫でて……。不思議なものだよなと改めて思う。こうして、自分の世話をすることになるなんて夢にも思わなかった。
自分自身と出会ったらどうなるか? きっと俺が本物だーとかなんとかで戦うかと思ったが、紆余曲折を経てこういう関係になるとは思わなかったしな。
「……あれ?」「あ」
「……ん?」
ふと。二人から不思議そうな声が聞こえて撫でてた手が止まる。
「サト、笑った」
「……へ?」
「あ、せっかく笑顔でしたのにまた戻りましたよー? 笑いましょうよサト様ー?」
思わず口元に手を持っていって隠してしまう。笑った覚えはないけれど……それでも何処か気恥ずかしくて。
「……あぁもう。早く行こう」
「あ、待ってサト」
「待って下さいよー」
早歩きでその場から離れる。久しぶりに顔から熱を感じてることからようやく察した。
あぁ、今顔が赤いんだな、と。
嬉しいような懐かしいような、今はまだわからない。
だけど、何処かでアイツが笑ってるように感じたんだ。
――side流――
「やっぱり、個人勝率はシュテル、フェイト、レヴィになって来ますか」
途中経過の勝率を確認するとやっぱりの順位にちょっとため息。レヴィはともかくとして。上二人は誰と組んでもある程度の成果を発揮できるのはやはり強いなぁと。
まぁ、他にも強い子達、指揮してまとめ上げれる面子が今回はあまり不参加気味なのと、それ以外の上位陣もランダムマッチを楽しんで、チーム戦を楽しむ方向にシフトしてますしね。
それに、転移組は今の所、はなしか参戦してないのも大きい。皆はなと当たるか組むと、一生懸命教えてくれるし、その瞬間だけは初心者を歓迎する先輩たちになるのが見ていて面白い。
特に中島家が見ていて微笑ましい。皆ついこの前初めたばかりだもんね。
……うーん。映像とっといて後でナカジマ姉妹のお二人にも見せましょう。
案外ノーヴェが教え上手だということを。
……私と震離さんは、いつか元の世界に戻った時にやり難いんだろうなーと。ナンバーズの子達の……こういう所を見ているせいできっと違和感を逆に持ってしまうんでしょうね。
本当に変な出会いをしでいるなーと。
そう言えば変な出会いで一つ思い出したのが。サトさんと、震離さんが変なことを危惧してましたねー。
サトさんは、あの人が違うのは分かるのに、本能的に勝てないと思った人だと。震離さんは、あの人には頼まれたら断れないからしんどい、と。
深くは聞いてはいませんし、どの人かは目星もついていますが……言うほど似てる……のは髪の纏め方だけだと思うんですけどねー。
それと。違うデータを立ち上げると共に。それに目を通して。
「……未だ完成率は80%……だったのが、この前の破壊で60%にダウン。だけどコレはこちらの強度が甘かったせいでいずれ来る問題の先取りでした、と」
ブレイブデュエルのデータ取りの最中に、今回発生した問題点の洗い出しをしながらため息が漏れる。
サトさん用のデバイスの作成……もとい、再錬成が正しいかなこの場合は。
元々殆ど破壊されていた5機に比較的マシな3機を掛け合わせてる以上、やはり相性の善し悪しは出ると思ってたけれど……。
思ってた以上に面倒なことになってるなーと。その上、現状で用意できない武装に、後付で武装を乗せられる容量の確保。まだまだやること多いんですよね。
何より今回の無茶のせいで、全部見直ししないといけないですしね……。
『マッチングに成功致しました。了承の確認が取れ次第転送致します。繰り返します―――』
おっと? さて、そろそろ行きますか。今回組むのは誰ですかねー。ブリーフィングルームに飛ばされる前の待合を一人にしたのは失敗したなーと。データの確認とは言えコレはちょっぴりさみしいなーと。
――sideフェイト――
「そう言えば野獣先輩は、元の世界に帰ったらどうするんですか?」
「奏酷い?! ……どうするも何も、まだなんにも決めてないよ」
自業自得とは言え、奏にこう言われるとすっごく落ち込みそう……。
「私もどうするかーって悩んでるんですよね。響が出てくっていうならミッドのお家を実家としてあの部屋残しますし。フェイトさんが越すのなら歓迎しますよ?」
お茶菓子代わりにと、温泉のお土産コーナーにあった温泉まんじゅうとお茶を頂きながらそんな話を。
一応私もミッドにお家はあるんだけど……。
「なのはと一緒のお部屋だからねぇ」
「ルームシェアですよねぇ。あ、そう言えば、この事知ってるんですか? エリオとキャロは?」
「ううん、まだ知らない……はず、その恥ずかしくて」
あははと苦笑い。本当は直ぐに伝えようと思っていたんだけど、そもそもその響がダウンしてる時にそんなお話はどうかなーと考えて止めていたんだよね。
きっと、多分、平気だとは思うけど……二人はきっと……受け入れてくれる、はず。うん。
ふと、奏の方を見ると意地悪そうな顔でニヤニヤ笑ってるのが見えて。どうしたんだろうって首を傾げると。
「ま、頑張って下さい。きっと伝える頃には私も六課に戻ってると思うので」
「む、何か含みのある言い方だ。色々話を聞きたいなー?」
「やーですよー」
上司と部下ではなくて、気の合う先輩後輩……それどころか普通に女友達の様な会話がちょっぴり擽ったい。
「さて、と。昨日からたくさん食べて食べて、今朝も食べて、今もお菓子摘んじゃったから……ちょっと走ってきますね!」
ブワッと涙を流しながら奏を見て渋い表情に。あんまり太いってことはないし、今だって全然問題ないと思うんだけどねー。
こちらの部屋に持ち込んだ着替えを取って、上着を脱いだ辺りで……プニッと脇腹を摘んで。
「ひゃぁ?!」
「うん、コレくらいなら全然大丈夫だよ。やっぱり奏気にしすぎだよ?」
実際にはあまり摘めないし、全然付いてないようにさえ見える。しっかり絞られた体故の柔らかい筋肉だからだと思うんだけどねー。
突っつけば柔らかけど、全然摘めないのが証拠だと、私は思う……んだけど。
肝心の奏はプルプルと俯きながら震えてて……バッと顔を上げたと思えば。
「フェイトさんみたいな、ナイスバディどころか、高レベルのバランスとってる人になんか言われたくないですよ!!」
「へ、あ、ちょー!?」
浴衣の帯を一瞬で緩められて、その隙間に……両脇に腕を突っ込まれて……。
「ほら、ほら! やっぱりだ。私と違って余分な肉無いじゃないですかぁ! わた、私ガンナーで腕振る動作多いはずなのに、最近二の腕に肉ついて困ってるのにぃ!」
「あははっはははは! まって、奏擽ったい!!」
「それで、巨乳で美乳で、クビレもできてるとかメッチャずるいじゃないですか!」
「ず、ずるくないよ?!」
「大体何食ったらそんな、そんな……ずるい!!」
キャーキャーと二人でじゃれ合ってると、スーッと襖が開いて。
「……ようやっと、まともに体動かせるようになっ……た……けど?」
「「あ」」
髪を下ろした響がそこからやってきたけれど、今の私達の格好を見てぱちくりと。
「……ごめんなさい。お邪魔しました」
パタンと閉じられて……。
「待って待って、響誤解!」
「違う違う女子特有のスキンシィップ! 私と先輩にそういう趣味は無いってば!!」
即座に襖を開けて響を追いかけるけれど、時すでに遅く廊下へ通ずる扉がバタンと閉まって。慌てて二人で追い掛けて扉を開けて。
「響待ってー!? ってもう居ない!?」
「嘘ぉ!?」
すぐに周囲を見渡して、外へ出ようとした瞬間。
「野獣先輩ってば、今度は奏を食うんですか?」
「「!?」」
地の底から響く様な声が聞こえて、二人揃って体がビクリと反応する。その声の方を見ると……。
「やっほぉ。奏に野獣先輩?」
笑顔だというのに目が全く笑っていない震離が腕を組んでそこに立っていて、ゴクリと息を呑む。
言葉自体は明るいものなのに、なぜか怖く感じてしまう。
「ちょっと御二方。話あるから戻ろっかぁ?」
「……い、いやぁ。ちょっと響を探そうかなって、ねぇ先輩?」
「う、うん! だからちょっと今手が空いてないかなーって」
今の震離と全く目を合わせられない奏の言葉に合わせて私も言葉を紡ぐ。というより、ある意味本当のことだから質が悪いのは悲しいなと。
「ほぉー……乱れた浴衣と、殆ど下着姿で探しに行くと?」
「「……へ?」」
直ぐにお互いの格好を確認するや否や、奏はボンっと顔を赤くして、私も直ぐに浴衣の前を締める。
だけど、両腕を捕まえられて。
「さ、ちょーっと、お・は・な・し。しましょっかぁ?」
「「……いや、ちょっと」」
「しましょうか?」
ズルズルと出た部屋を戻って行く。ふと視線を向ければ、男性客の何人かがこっちを見てるのに気づいて、更に恥ずかしくなった。
そして、その後の震離の説教は割としんどかったです。後で聞いた話で、奏曰く。怒った震離は怖くて長いから嫌だと半泣きでした……。
――side響――
……うーん。お酒の入ってないフェイトさんなら問題ないと思うけど……それでもなぁ。前科というか、そういうイメージが頭を過ぎって、凄い……複雑な感じ。
昨日、変な感じで力入ったせいか、腕上げてもしんどいし、そもそも体動かすのが本当にだるく感じる。
話しにくい雰囲気というか、朝っぱらから震離と一緒に居るって聞いて、昨日の……仲直りってわけじゃないけど、話す切掛ほしかったから、髪を縛ってほしいってお願いするつもりだったんだけどなぁ。
まさか奏が押し倒してるとは思わなんだ。
しっかし、髪縛るのどうするかねー。温泉入るのはちょっと抵抗あるし、一人で入ってもつまんねーし。サトかはなか誘うのもありかなーと。
「……あら? えーっと、響ちゃん、で良かったかしら?」
「あ、はい。そうですけど……」
ふと、聞き慣れない声に呼び止められて、振り返って―――一瞬だぶってしまった。髪の色も違うし、背丈も違うと言うのに。それでもだぶってしまって……。
「何時も髪を結ってるってイメージだったけれど、どうしたの?」
「ぇ、あ……その」
平気ですよ、大丈夫です。と言いたいのに、言葉が続かない。
声も違うし、背丈も全然で違うと分かるはずなのに、だ。それでも一瞬見えてしまった。
「? どうしたの? 具合が悪いとか……?」
「い、え……平気。かあ……大丈夫」
母さんにそっくりだと。それを強く思って、感じてしまって。思わず。
「え?! 本当に、大丈夫!? ちょっとまってハンカチあるから」
「……あ、いえ。はい」
るーっと涙が溢れて止まんない。うん、背丈は違うし声も違う、似てるのは髪型と……雰囲気? が似てるだけだと言うのに、懐かしくて、心地よくてなんか泣いてしまう。
「驚かせてごめんなさい、クイントさん」
もっと早くに声を掛けるべきだったなーと。今更後悔した。
――――
「しっかし、本当にサラサラねー。ウチの娘達も髪を伸ばしてるけれど、ここまでサラサラじゃないのよねぇ」
「あ、あはは……その、母親譲りなもので」
脱衣所に設置されてるベンチにて髪を梳かしてもらいながらそんな話をしていく。
後ろに陣取ってるお陰で見られていないけれど……ものすごく顔が赤いと思う。
別にコレがフェイトさんや、奏、震離とかなら気にすることは無かったけれど。いかんせん今回は相手が悪い。
ウチの母さんにそっくりな髪型に、雰囲気のクイントさんが相手だと、なんというか恥ずかしいような、なんというか……なんとも言えない状態です……はい。
「せっかく綺麗な髪なのに一人じゃ整えられない感じ?」
「……いえ、その……、出来るんですが。最近は誰かにっていうのが多くて、はい」
昨日色々あって体が辛いんです。なんて言えるわけもなく、それっぽい理由を告げる。
見方を変えれば一人じゃ出来ない人なんですって言ってるようなもんだけど……。
「なるほど。大きい方のフェイトさんと姉妹でお世話になってるって言ってたわね。なるほどなるほど、納得言ったわ。
それにしても……驚いたわぁ。何時も綺麗に纏めてる子が、ちょっぴりボサボサになってるんだもの。それで泣いたのかと思ったわ」
「あはは……」
コレには苦笑いしか返せないのが物悲しい。
梳かして貰おうと思ったのも、体が怠いっていう理由だけど、基本通らないし。
何時もは基本的にリンスしたら問題ないのに……多分フェイトさんとお風呂に入った後ダウンしたからなんだよなぁ。きっと上手くケアをしてなかったんだろうし。少し情けないな、と。
「うーん、つかぬ事聞くけど……あぁ、答えたくないなら別に良いんだけど。ちょっと良いかしら?」
「はい。自分に答えられる事で良ければ」
先ほどとちょっと様子が変わったのは気になるけれど……何だろう? 変なことは……初手にしちまったからなんとも言えないな。
「響ちゃんとはなちゃんは、姉妹……なのよね?」
「えぇ。髪色だけであまり似てないって言われますけどねー」
……聞きたいことはコレか? いや、まだわからん。下手なことを言う気はないけれど、それでもこういう質問されるってことは何か変な動きをしたかな?
「そう。うーん、ごめんね。どうにも私には姉妹って言うより、親と子のように見えちゃって」
「あはは……そんなつもりはないんですけどねー」
痛い所を突いてくるなー。うーん、いかんせん姉妹っていうのをあまり見たこと無いからどうやって、そういう風にしたら良いのかわからないんだよね。
それに、はなとの関係は一応主従関係になるわけだし、何よりまだあの体を得てから日も浅いしなぁ。
今の所変な動作をしてないのは、リインさんの動作データのお陰だろうし。
後でフェイトさん所に言ったらスペックデータとか確認するかね。
「ごめんね。変なこと言って? ウチの子達を見てると、ああいう姉妹も有るんだーってちょっと気になっちゃって」
「お姉さんや、妹と姉妹兄弟の人多いですもんねぇ」
思い返すとそもそも一人っ子という人のが少ないんだよねぇ。アリサさんと、はやてさん位かな? あーでもわからんな。この世界のはやては、ヴィータの存在で一人っ子とは言い難いし。
俺らは皆一人っ子だしなぁ。その辺が甘いのは仕方ないか。
「よし。さ、完成したわよ響ちゃん」
「あ、すいません感謝致します。ありが……とう……ござ」
ぽんと肩を押してもらって。鏡の前に立って軽くぽかんとして。
「ウチの一番上の娘っぽくしてみました!」
隣でサムズアップするクイントさんを横目で見ながら、改めて鏡を見て思ふ。
これ、後で絶対面倒になるパターンじゃーん! 嫌ってことはないけど、恥ずかしいわぁ!
――sideクイント――
眼の前でカァッと顔を赤くする響ちゃんを見て、やっぱりはなちゃんとは似てないなぁと。
いや、似てはいる箇所は有る。根本的に似てないとすれば……。
どうにも女性らしからぬ部分だ。
最初は何気なく観察していたんだけど、女子がするようなスキンシップをあまりしていないのと、動きが男性に近い所だった。
それで判断したらいけないんだけれどね。サトさんの様な女性だって居るわけだし。
それに……。
眼の前でギンガと同じ髪型にしたリアクションを見てると。うん、はなちゃんと姉妹っていうより、サトさんと姉妹っていう方がしっくり来る。
「よっし。この御礼は今度私達の家に遊びに来ることで良いわよ!」
「……はぃ!?」
「はいって言ったわね。よし、待ってるわよー?」
ひらひらと手を振って、脱衣所を後にする。
出ていく直前に、首だけ振り返ったその瞬間、綻んだように笑った顔が見えてちょっとだけ安心したわ。
さて、娘たちを弄って遊ぶかしらねー。
あの二人には今しか私と合う機会は無いかもしれないからね。
――sideサト――
「へ……へっくしょん」
「……サト。風邪?」
「だ、大丈夫……でしょうか?」
「あ、うん。平気。大丈夫」
ムズムズとする鼻を抑えながら、突然のくしゃみに少しだけ驚く。
風邪、というわけはないだろうし、誰かに噂でもされたかな……?
「……それにしてもやはり凄いですねぇ。二刀であそこまで叩けるのは流石です」
「……はなも凄いと思うよ。初めは飛ぶだけで一杯一杯だったのが、普通に飛んで戦えるようになったのは凄いよ」
さすがは融合騎、と言いたいところだけど、それは流石に不味いから伏せておく。
だけど……。
「サトもはなも凄いと思う。フェンサータイプで二刀流って結構レアなのに」
「そうなんですか? でも、私はまだまだですよ。真っすぐ飛んで斬るしか出来ませんし」
「ううん。それでもだよ。初めたばかりなのに、あんなに空飛べるのは凄いもん」
目の前でそんなやり取りをしてるのが微笑ましいなぁと思うのと同じくらいに。いい加減、二刀から離れるべきか、という事を考える。
理由は一つある。現時点のこの躰では……ブレイブデュエルの中でなら嘗ての動きを再現することは出来る。寸分違わずに、何時も通りに。仮想世界でならば。
だけど、なんとなく気づいていた。実践を経た事で予感は確信に。
この躰は自分が考えてる以上に、居合を扱うことは出来ないと。
それどころか、出来ていた動きの半分も発揮できていない。加速減速の速さも、徹しも……何方も不完全だった。
でも、その代りにそれ以外の動作は出来たことに驚いた。
特に銃を扱ってるときは、奏をイメージして動かせば思いの外動かせて驚いたし。
「サト?」
「……へ、あ、ゴメン。少し考え事してた……どうしたの?」
突然服の裾を引っ張られて意識が引き戻される。前に座っていた二人が不思議そうにこちらを見ているのが少し可笑しくて笑ってしまいそうだった。
「私とはな、またブレイブデュエルやるけどどうするのって」
「あぁ……」
少し考える。色々有るけれど……よし。
「うん、自分も入るよ。だけど、フェンサーじゃなくて……」
ホルダーからカードを取り出して、並び替えると共にセットし直して。その様子を見ていた七は柔らかく微笑んでから。
「……懐かしい。最初のカードだね」
懐かしそうにそう呟いたのを聞く。だけど、ちょっとだけ悲しそうな表情を浮かべて。
「もう、フェンサー……お侍の格好は辞めちゃうの?」
七の表情に合わせてはなの表情も曇っていく。前者はともかく、後者は違う意味も入ってるだろうけど……。
「……ううん、辞めるわけじゃない。こちらも私。だけど、こっちも今の私を構成するモノで、今がコレなんだ。だから恥じぬように、大事に抱えて使うよ」
初めてブレイブデュエルをした時に出現したアバターカード。戦闘防護服、白騎士。
騎士らしい槍斧を持ってるけれど、武装を複数所有してる、今の状態と同じモノ。
コレをベースに今のバリアジャケットを作成したもので、ずっと引っかかってて使いたがらなかったモノ。
アイツらのデバイスを……武装を模したモノを使うのが嫌で、使うと皆を思い出すから辛かった。
だけど……。
「いつか私が憧れた皆に胸を張って会って、謝るために。私はコレを練習するよ」
不思議そうにする七の側で、感極まったように涙を浮かべるはな。あの日、あの時、あの現場に居たから知ってるもんね。
だからこそ。
「これではなと同じく初心者に逆戻りだ。だから当たったらよろしくね?」
「……はいっ!」
ぽんと頭に手をおいて、撫でると気持ちよさそうに目を細めてる。
「サト、サト。私もー」
「はいはい。七も当たったら宜しくね?」
「うん、一杯援護するし、当たったら容赦しない」
「うん、お手柔らかにね」
二人を撫でながら、ふと思う。
未だに私を助けてくれた、あの人に御礼を、一言だけでも伝えなきゃいけないなって。
だけど今だけは。
「さ、二人共。今頃再開してるだろうから入ろうか?」
「うん」「はい!」
ケイタークンを手にとって、ホルダーを接続して。いつもの決まり文句を。
「「「リライズ・アップ」」」
ここから、自分をやり直すんだと、心に決めた。皆の武装を扱えるようになって、皆を誇れるように。
いつか、俺とは違う世界の皆に会った時に驚かせるようにって。
――sideディアーチェ――
「何が合ったか知らぬが。良い傾向だ」
「? 何か良いことでもありましたか、王?」
コレまで対戦の映像を拝見していると、何処からともなくシュテルが隣に座ってきた。
「いや何、良い表情で楽しむようになったな、と」
「ふむ……あぁなるほど。サトの事ですね」
流しっぱなしの映像を見て、状況を把握したシュテルが優しく微笑む。
我と同じ考えに至ったのか、流れる映像を見てうなずいておるのが珍しい。
ふと、辺りを見渡して……。
「ユーリやレヴィ、姉妹は何処に?」
「休憩がてら温泉へ。キリエは響を探しに行きましたし、ユーリとアミタははなと七を連れて。そして、レヴィはアインスとサトの追っかけを」
「あやつらは……」
ズキズキと頭が痛む。おそらく温泉宿だということを忘れきってレヴィは騒いでいるだろうし、普段のアミタならいざ知らず。こういう時のアミタは三人を引っ張って振り回しかねない。キリエも響を追い掛けてトラウマを作っていなければ良いのだが……。
「本当に貴重な経験を積めるな」
「えぇ。フリーの戦闘ですが、色々な経験を積むことが出来ますし。何より、あんなに技術の引き出しがあるという事に驚きました。
何よりも王の言う通り、良い表情になりましたね」
映像の向こうでサトが様々な武装を用いてチーム戦をしている。時には挑戦を受け、時には違う武装で戦い、時には新たな選択肢もあると言うことを実践して見せている。
ほんの少し前に比べれば、ありえないほどの変化だが……。
「未来からの転移者がサトの何かを変えてくれたのだろうな」
「えぇ、ありがたい事です」
嬉しい半面、正直少し寂しいというのが本音だ。ブレイブデュエルの元を作り、そのテストを担当した一人。
我等が海鳴に来るまでのたった一年で、完成までこぎつけることに協力した一人なのだが。
コレほど素晴らしい新たな境地のゲームだと言うのに、唯一仕事のように淡々としていた。そのくせ、我等が徒党を組み挑んでも、最初の頃はあしらわれてばかりだった。
仕様を覚え、ロケテストが開始される頃には……仕事は終えたと、そう言ってプレイすることを辞めそうになった。
「あの頃は大変でしたね、王? 流や震離が、ふらりと何処かへ行くサトを探しては引っ張り連れてきて、このテストをあのテストをーと、何度も依頼していましたしね」
「全くぞ。だが……レヴィやお供……いや」
一応周囲を確認して、この場にいるのがシュテルだけなのを確認してから。
「アインスや、アリシアが寂しそうにしているからと、誘っては共に遊んでいたな」
「レヴィに至っては、今度こそ一本を取るという理由でしたからね。勝ち逃げは許さない、と」
その頃からか。ロケテストの期間が過ぎて、ようやく少しずつ瞳が優しく、小さく微笑む様になったのは。
その過去を知っているからだろうな。
「こんなにも楽しそうに空を往くのを見るのはやはり良いな」
「はい。コレでやっと―――」
「「本気で心から楽しむ事が出来る」」
最初に建てた目標を成就する。いつか必ず。サトを含めたあの三人を、現時点の先駆者として。本当の意味でトップを取るために……。
だが……。
「……コレまでの戦略を大きく変えねばなー」
「えぇ。攻略するために色々再構成いたしましょう。今回ので流のスタイルは変動が無いこと。そして、サトのスタイりゅをしっかり研究いたしましょう」
……うむ。
「噛んだな?」
「噛んでおりませんとも」
珍しいことも有るものだと、つい口元が緩んでしまうが。まぁ良い。
「さて、我等も温泉へ参ろうか」
「お供しますよ、王」
「まだ遊んでいても構わぬぞ?」
「流石に少し草臥れました。休憩も大事ですから」
「たしかにな。我も少し根を詰めすぎた。ここらで風景を楽しむのも有りか」
グイーっと背伸びをするシュテルを見ながら、外の景色を見やる。確か近くにコスモス畑があると旅館の方から聞いたのを思い出す。
後でそこを見て回るのも楽しかろう。それにしても……。
「静かよの」
「えぇ。騒がしい面々はそれぞれ散ってしまいましたし。ナノハも妹氏や、チームの面々と散歩に出掛けたみたいですしね」
「まぁ、静かな方が我は好みだがな。最近は騒がしい事に慣れすぎているしのぉ」
「大きな方のハヤテに料理勝負を仕掛ける用意もありますしね」
「……う、むぅ」
すっかり忘れていた事を思い出して、悔しさが滲み出てくるのが分かる。エレノア婦人には未だ及ばずとも、はやてとは良きライバルだと考えている。参考にできるものも数多い上に、その本人が負けたというのだから驚いた。
年相応に味が洗練されているということは予想がついたが、その度合を大きく超えてきたのだろう。今後の為に一度話を聞きたいが……。
何故だろうか。こちらのはやてとは違うのが目立ちすぎて、あまり同一人物に見られないのだ。
だが、その指揮能力に、大きな方のフェイトには勝てないと言いつつもしっかりと一撃を見舞っているのは流石だと思う。
知っていたからというのもあるのだろうが、あの速度を当てるのは、ロード・オブ・グローリータイプでは難しい筈なのに、その機動を予測して空間攻撃を当てれるのは凄まじい。
が。
「……一旦休むか」
「そのために温泉に赴くのでしょう?」
「あぁ。そうだった。いかんな、考え込むと忘れてしまうな」
折角の温泉だと言うのにコレではいかんな。さて、我等もゆっくりとするか。
――sideはやて――
「あっはっはっはぁ……響はほんま逆撫でするの得意やねぇ。アタタタ……」
「逆撫でて……そんなつもりはないんですが」
ズキズキと痛む頭を抱えながら、こちらの部屋に逃げ込んできた響を見やる。
誰にしてもらったかは分からへんけれど、何方のギンガとおそろいの髪型なんて、フェイトちゃんが見たら羨ましがるで。
「しかし……二日酔いなんて珍しいと言うか、はやてさんならその辺りしっかりしてそうなイメージがあったんですけどねー」
「あっはっは……いやぁ。クイントさんがザルすぎて、潰されてもうた」
「……あぁ」
何かを察したような苦笑い。プレシアさんはそんなに飲めへんかったみたいやけど、リニスさんもザルと言うかけろっとしてたんよねぇ。勝てる気がしないわぁ。
「せや、響ー。今度はフェイトちゃんの髪型真似てあげんと、またへそ曲げるで?」
「……今度してみます」
「きっとツインテの方を所望すると思うで?」
「……ツインテ……ツインテは……うーん」
がくんと項垂れるのがほんま見てて面白いわぁ。
……聞いとくか。
「……何で響はサトを斬ろうと思ったん?」
空気が変わったのが分かる。先程までのゆるい雰囲気とか掛け離れた、真剣な空気へ。
項垂れていた響がこちらをゆっくりと見上げて。
「他ならぬ俺からの頼みだったからですよ。何が分岐点か分からない。なのに天と地のような差。
間違いなく、立場が逆でも、俺は頼んだでしょう」
苦々しく、辛そうに話す姿は、私も辛くなってくる。
サトも響も、響が戻ったその日までは同じ道筋を辿っていたのに……何がどうしてそうなったのか分からへん。
「でも、俺だから、自分だからもう何言っても響かないって思ってそれを受けた。
だけど、短い間でも戦っている内に明確に変化が現れたんです。死ぬほど辛いだろうに、死にたいから、俺なら殺してくれると分かってたから、最後に戦って……そして、勝ちたいという欲求が生まれたのが分かって。
だから嬉しかったし羨ましかった。
正真正銘、自分と戦うことが出来たサトを」
にへっと、安心したように。嬉しそうに話すのを見て、今度こそ安心した。
私は響のことはそこまで理解してるわけやないけど、それでもこんなに安心しているのならば解決したんやと。
「そんなら良かったわー」
あははと二人で笑う中でふと。
「そういや、なんでヒタチサトって名乗ってるんやろ?」
「……さぁ? それは知りませんが、平行世界うんぬんがあるんでしょうね。あとは響って漢字のアナグラムですね。よく出来てましたね」
「……どのへん……あ、そういうことか」
一瞬考えればすぐわかることやった。日立郷。響という漢字を下から読んだらその名前になるということ。
「……まぁ、だから外国式にファーストネームを先に置かれるとわからなくなるんですよねー」
「んー……まぁ、そうやねぇ」
はて? サト・ヒタチって名乗った、呼ばれた時ってあったっけ? フルネームでってことは少なかった筈やから……何やろ?
ギンガ達がミッドにも居たって確か言ってたけど、その関係かな?
でもまぁ、ふっかけたのは私やし、この流れを閉じるのも私の役目やし。
「そういや、サトって、響のお母さんに似てるん?」
「いや全然。事情を知らない時には小さい頃の奏と煌を足して割った人の様な。事情を知ってからはそのままにしか見えないですよ。
なんというか、言わなくてもだいたい通じる分。すごく楽ですし」
「フフ、さよか」
私やフェイトちゃん、スバルにギンガは、同一人物と言っても、幼くて違う道を辿ってるせいで、そっくりなちっちゃい子にしか見えへんのよねぇ。
小さい私は、昔の私と比べてもあんなにはっちゃけてへんし。フェイトちゃんもそもそもの出自が違うせいで、完全に違う存在やしなぁ。
この世界の中島家も相当すごいし、ギンガとちょっと話したけれど、ナンバーズの皆があんなに幸せそうに生きてることは、とても良い情報やしね。
……というか、ここは正直眩しすぎるんよね。私達には。
それこそ―――
って。眼の前でコックリコックリ船を漕ぐ響。その頭を少し撫でて。
「こんな状態で抱き抱えた日には、私はフェイトちゃんから怒られてまうなぁ」
起こさないようにゆっくり移動して。ひざ掛けを肩に掛けて……よし。
「さて、私も……いや、ここからはウチも温泉入るかねー。誰かおったらええんやけど」
……それにしても。元の世界のことを……六課の事考えると胃が痛くなってくるわぁ。
やっぱり流か震離に確認取るべきやなー。
帰る時、サトも一緒に来ないかっていう話を。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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