魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:13 合宿一日目、新しい朝が来て
――sideディアーチェ――
昨晩、突然未来からの面々が慌てて話し合わなきゃいけないことが有ると。全員席を外して何処かへ行った。
我としては、確かに気になる所だが……何か不味いことでもあったのだろうと、敢えて置いとく事にした。
何が、とは言わないが……無粋なことは避けるべきだ。
それなのに。
「起きぬか、姉妹共!!」
「「だってー……」」
何時もどっちつかずのような態度のキリエはともかくとして、元気なアミタまでもが机に突っ伏しているのは些かどうかと我思う。
「アミタもキリエも、元気出しましょうよ、ね? 今日だって沢山遊べますし。流や震離が合流していたらきっとブレイブデュエル出来ますよ?」
お、ユーリが気を使って姉妹を元気づけようとしておる。
「……ブレイブデュエルより、はなと一緒に遊びたかった……」
「温泉で、響の髪をまた洗いたかった……」
一瞬ユーリの方を見たかと思えば、呪詛のような言葉を吐いてパタリと顔を伏せて……。
「だ、ダメですディアーチェ~!」
わーんと、泣きついてくるユーリを撫でながら。この後をどうするか、と考えるが……うーむ。
旅館の廊下から何かが駆けてくる音が聞こえて溜め息が漏れてしまう。
コホンと咳払いをして。
「王様~!」
「レヴィ、廊下を走るではない」
「王。驚くべきことが起きました」
「シュテル。お主まで走ってきたのか……旅館の方々に迷惑を掛けるではないわ。で、何があった?」
何時もならば止める筈のシュテルまで走ってきたという事実に頭を痛めつつ、それほどの事があったのだ少し気になる所だ。
「えっとねー!」
――――
シュテルとレヴィの話を聞いて、我も直ぐに動く。
皆の食事の部屋へと急いで、中へ入ると……。
「……あぁ。おはようディアーチェに、ユーリ」
束ねた長い白銀の髪を腰まで伸ばした後ろ姿はそのままで、目元まで伸ばした髪をスッキリとさせ、その下に隠れていた白銀の瞳を露出させた。
「やはり、お主はそちらのほうが似合ってるよ。サト?」
「……そっか。ありがとう」
口元は相変わらず動かない。それは分かりきっていたことだ。だけど、その眼は違う。目は口ほどに物を言うと、誰かが言ったが。まさにその通りだ。
嬉しそうに、そして、優しそうに眼の中の感情が揺らいでるのが、我にはしっかりと見えたからな。
だが、ふと既視感が湧くのだが。コレは一体?
「……うわ。本当に髪切ってる。なんか……って、あ、おはようディアーチェ」
「む、響か。おはよう」
別の入り口から入ってきた響と目が合い気づいた。なるほど。目元がそっくりなのと、髪の色こそ違うが、同じだったら似ているなと。
ふむ。微妙に異なる未来とは言え……もしや。
「……二人は実は姉妹。ということは無いのか?」
キョトンと二人が首を傾げて、顔を見合わせて……ニヤリと笑ったかと思うと。
「「さぁ、どうだろ?」」
二人して笑った顔が、妙に印象的だったと思ってしまった。
――sideアリシア――
「結局、奏も大きな方のフェイトも来なかったねー」
「まぁまぁ。先輩後輩みたいだから、何かしてたかもしれないよ?」
むーっと、机に突っ伏しながら一足先に用意を終えたアリサと、それを宥めるすずか。
そして、視線をお布団の方にずらせば。
「私も奏さんに色々話を聞いてみたかったなぁ。同じ遠距離タイプで話が合いそう。色々教えてもらえそうだもん。あ、フェイトちゃんここハネてるよ?」
「わわ、ありがとなのは……私も、おっきな私ともっとお話してみたかったな……」
向こうでは我が妹となのはがイチャイチャしてるし……お姉ちゃんとしては肩身が狭いですなぁ。
ここには居ない大っきな妹を思い出すと、存外上手くいってるようで、姉としては安心した。
ただ、大っきなはやてと一緒な辺り、もしかすると大っきななのはと一緒に居るんだろうけどねー。
「フェイトー。その言い方だと別れちゃったみたいだよー? まだまだ一緒に居るんだからチャンスは有るよ」
「え、あ……そっか。そうだよね」
同じフェイトの筈なのに、こうも違うのが面白い。おっきなフェイトは隠してるつもりなんだろうけど、緋凰姉妹を預かってるせいなのか溺愛してるのがよく分かるし。その様子はお母さんそっくりで、見てて面白い。
……悲しいのは、男性の気配を感じられないのはお姉ちゃんとしてはどうかなーと思ふ。
なんてことをリニスになんとな~く言ってみたら。
その心配は無い……筈って言ってたなーって。ただ、とてもじゃないけれどお母さんには言えないことだけどねー。
「よし、お姉ちゃんは先に出るから。皆も早くおいでね?」
「はーい」
と4人の声を背中に感じながら外へ出ると。
「あ、奏だー。おはよー」
丁度私達の部屋の前を奏が横切る所でばったりと。
「おはよう。アリシア、よく眠れた?」
「うん、奏は?」
「私もよく眠れたよ。今日は朝からいい仕事も出来たしねぇ」
フフンと腕を組んで胸を張ってる。良い仕事って……何だろ?
「ま、それは見てからのお楽しみという事で。見たら分かるよー、私が何をしたのかーって」
「わぁ。そう言われるとますます気になるー。あれ? 大っきなフェイトは?」
「ん? フフフ、先輩なら……いや、分かんないなー。何処で何をしているのやら」
ニヤリと笑う奏を見つつ、色々考えるけれど今一何も浮かばなくて。
「ヒントってない?」
「……黒髪ロングをどうしたら可愛くなるかって相談中」
「フフ、なるほど。そういう事」
顔を見合わせて二人で笑って。
「奏。今日は一緒に温泉行こうよ?」
「うん。私で良ければ喜んで」
「こっちのフェイトのお話がたっくさん有るんだ」
「それなら是非聞かせて下さいな?」
にーっと二人で笑って、一緒に歩いて。年こそ離れてるのにすごく話しやすいなーって。
――side震離――
「いい湯だねぇ」
「そうですねぇ」
カポンと、二人で個室の温泉に浸かりながら昨日の疲れを癒やす。特に……。
「……腰は平気?」
「とりあえずは。それに直に満月だというのもありますし、丁度良かったなぁと」
湯船に揺蕩う流の茶色の髪を手に取りつつ、その様子を伺うと問題無さそうだ。
「……しっかし、流はともかくとして、響はしんどいだろうねぇ。男性の感覚思いっきり残ってんだもん」
「慣れてしまえば変わらないんですけどね。普通にしてればそういうものだとしか見られないですし」
流の言う通りだなーと。サトの様に割り切って……るかは分からないけど。元々の趣味というか、前と同じ様な格好をしているのもあれば。流の様に何方とも取れる格好をしていたりとか。色々選択肢は有るけれど……。
「フェイトさんがそれを許すかーって言ったら難しいよねぇ」
「フフフ、そうですねぇ」
はー、と二人して温泉の気持ちよさにため息を漏らす。チャポンと天井の水滴が水面と同化するのをぼーっと眺めていると。
「……昨晩。はやてさんから聞いたのですが」
「……んー」
お互いに顔こそ見えないけど、きっとそれなりにマジな顔をしてるんだろうなーと思いつつ。
「……あちらの世界の私達は、おそらく死んでしまったのではないかと」
「……マジかぁ」
なんとも言えない感情が溢れてくる。
というのも、私達の世界でさえも被害があった。外部の要因を加えて、きっと本来なら有り得ない道筋を通ったというのにも関わらずに、だ。
だから、なんとも言えない。今回やってきた響達の世界も何かしらの被害が出てるとは思ったが。まさかそれが。
「私達だとはねぇ……その事は言ったの?」
「いいえ。あくまで可能性ですが。ヴァレンさんと、キュオンさんの協力技に酷似したことをその私達がしたそうなので、おそらく……と思っただけですよ」
「……ならば。多分死んでるね」
口元をお湯に沈めて、プクプクと泡を水面で弾けさせながら考える。
この事を伝えるべきか否かを。
「……事実を伝えるのは簡単ですが。もう少し話を聞いてからその辺りを答えましょう。変な心配を掛けてごめんなさい震離」
くるりと、こちらを見て申し訳なさそうに笑う流。
だけどまぁ。
「仕方ないよ。遅かれ早かれ聞いてたことだと思うし。まぁ、それとなく聞いていこうよ」
そのまま流の脇腹を両手で捕まえてこちらに寄せて。ギューっと抱きしめて。
「……それよりもさぁ。噛んじゃダメかい?」
「夜まで我慢ですよ」
……うぅ。すっごく美味しそうなものが眼の前に有るのにお預けされたぁ……くっそう。
「でも」
「ん?」
―――ちゅっ。
お互いの唇が優しく触れ合って。自然と心が暖かくなって……。
「キスくらいなら、何時でも受け付けますよ?」
「……くっそう。ずるいなぁ」
ゆっくりと流の頬を撫でると、擽ったそうに頰を緩めて、温泉の暖かさとお互いの体温を感じながら何度も唇を重ねて。ゆっくりとそして静かに日頃の疲れを癒しましたと、さ。
……あーあ。おっそいたいわぁ。
ふと、肩越しからこちらを見てるのが見えて。しばらく見つめてると。
ニヤーっと笑ったのが見えて、確信犯だと判って。背後から襲おうとした瞬間。
「さ、そろそろ上がりますよ。今日は試作機のテストなんですから」
するりと腕の中から逃げられました……くそぅ。
あー……頑張ってテストの準備するかぁ。
――sideシュテル――
「基本は3on3のフリーバトルがメインで。出来たら皆には各部屋からだったり、違う場所でやってみたりとか色々して欲しいなって」
「それで、一番勝った人にレイドシステムの先行解禁情報と本当の意味でのβテスト参加権か、もしくは叶えられる範囲のお願いなら私達が叶えますよ」
震離と流の説明が終わった瞬間、皆様が燃え上がったようにも見えました。
勿論私達も負けるつもりはありませんが。一つ気になることが。小さく手を上げてから。
「3on3ということならば、チームを組んでしまえばそれで決着がついてしまうのでは?」
「良い質問です。シュテルの言う通り。チームを組んでしまえばダークマテリアルズが抜きん出てしまう。だからこそ一番勝った人。だからこそフリーバトル。
チーム参加でやるのはまた別の機会。今回するのは、個人参加のランダムマッチ。参加者は30名もいますしね」
ニコニコと笑う流を見ながら、周囲のチームの面々の顔を見渡してふと気づく。29人しかいないが? と。
「そ、29人しかいないので、もう一人は……サトさん。お願いします」
「……えっ?」
流の突然の振りに驚くサト。しかし、流はそんな事を気にせずにサトにケイタークンを手渡して。
「私と震離さんは運営側に回りますが……きっちりテストしてくださいね?」
「……え、あの。その、さ」
「お・ね・が・い・し・ま・す・ね?」
「……はい」
……迫力の有る流の言葉に圧倒されるサトを見ながら、ちょっと楽しみが増えた事。それが私を熱く滾らせているのが分かる。
ランダムということは、なのはやヒビキ、サト。大きな妹氏達とも組むことも、戦うことも大いにあり得るということ。
「……シュテル」
「はい、判っておりますよ。王」
ピリッとした雰囲気が心地よい。王の方を静かに見やると。いつもの笑みとは違う、対戦者に見せる強い笑みで。
「相対した時。手を抜くことは許さぬぞ?」
「こちらこそ。全力で燃やし尽くしてみせますとも」
ビリビリと、普段は出来ない果たし合いができそうで、燃え上がるのがよくわかります。
「ちょい待った。30名ってことは……二人も入ってるの?」
「勿論。それともなにか気になる点でもありますか?」
「……いえ。無いですごめんなさい」
ニコリと流は笑っているものの、その眼は全く笑っていない。ただ思うのが珍しいと思う事ですね。基本的に何時も柔らかい対応をする流が珍しく棘のある対応を二人にしていますし。王も言ってた通り、実はサトとヒビキは何か関係があるのでしょうか?
気になるところですが……。
「さて。話が逸れましたが。とりあえず、他のお客さんにご迷惑を掛けぬようにと、そして、温泉に浸かりながらはしないこと。適度な休憩を挟みつつ、どうか楽しんで下さいな。
それでは。説明会を終了したいと思います」
「はーい!」
皆の声を聞きつつ、受け取ったケイタークンをブレイブホルダーとデータカートリッジと接続して。
いざ。
「リライズ・アップ!」
見慣れつつも、心地よく馴染んだ風景をその眼に捉えました。
――side震離――
とりあえず、初期動で入った面子は21人で……入ってない9人はというと。
視界の端っこで七が動いてるなーなんて考えてると。
「……サトとヒビキは。同じ人?」
「「え?」」
七緒がトテトテと響の側にやってきたと思いきや突然の発言に。響さんとサトさんの二人が固まった。王様が姉妹か? と聞いたのは知ってるけれど、まさかの……。
「いやぁ。だって、髪色も目の色も違いますし、ねぇ?」
「……まぁ。黒髪はちょっと憧れるけれど違うよ。どうしたの七?」
コテンと首を傾げながら。
「昨日、サトにもヒビキにもよく似た人がいたけど。その人見てから、二人が同じ様に見えた」
……うわぁ。響ってば七緒に昨日会ってんのかーい。しかも男の形態やんけーい。
「……他のお客さんと間違えたんじゃないのかな? この子も自分も一応女子だよ?」
「? まだ、男の人って言ってないよ?」
墓穴掘ったぁ! やべぇ、響もサトもすっごい気まずい顔してるー。どうしようかって、流の方を見ると。
「……」
なんとも言い難い表情をしてらっしゃる。フェイトさんや、奏に助けを求めようと思ったら。
「先輩先輩。ユニゾンリライズなるものをしてみたいです」
「うん、私もやってみようか。カード貰うね?」
わぁ☆ メッチャ微笑ましくブレイブデュエルについて考えてらっしゃる。
「はやて様。この試合の場合、どう動きますか? 私としましてはこう動くのがベストかなと」
「お。ええ線や。でも、もう少しひねりがほしいから……わたし……やなくて、うちとしてはこう動くのが面白いと思うよ」
「ギン姉だったらどう動く?」
「んー……わからないことが多いから、牽制しつつ、隙を見て差し込む感じになるかな」
「私だったら。防御を張って、後ろの皆を護りながら前に進むーって感じかな」
あっちはあっちで、観戦モードに突入してらっしゃるぅ。
どうするかなぁ。だけどなぁ。墓穴ほって変に誤魔化すのはなんだかなぁ……。
「でもいいや。仲良さそうだし、またお風呂に入れてねサト。ヒビキも一緒に入ろうね?」
ギューっと、サトと響の間に入って、その両腕を抱きしめる七緒。
それまで気まずそうにしてた二人の表情がほころんで。
「……あぁ」「時間があったらね」
サトは慣れた様子で。響は少し気恥ずかしそうに。いつか聞かれても良いように、いい感じの言い訳を考えないといけないなぁ……。
それにしても。フェイトさんもはなさんもさぁ。羨ましそうに見るくらいなら最初っから手助けすればよかったのに。
……七緒の発言は偶に核心つくから恐いわぁ……。
ま、そんな中でデータを流と二人で取ってると。
「震離さんは……誰がトップに立つと思います?」
「……難しいねぇ」
手元のログを見ながら、現在の試合の様子を見る。安定というか手堅いマテリアルズに、フローリアン姉妹、テスタロッサ姉妹も強いし、T&Hの面々も何をしてくるかわからないから恐い。
中島家の皆も光るものを持ってるから中々楽しそうだけど……。
「大人組がやっぱり抜きん出るかなと思う。流は?」
「ゲームですからねぇ。思わぬ伏兵があるかもしれません。商品でつってしまったのでなんとも言えませんが……普段とは違うランダムマッチを楽しんでくれたらなぁと」
「フフ、そうだねぇ。案外勝ちにこだわるよりも、楽しむ人が勝つかもね」
なんて考えながら、ケイタークンの様子を見守って。ふと昨晩の話を思い出して。
「……流さぁ。響達に負けたのやっぱ悔しいって思う?」
「さぁ。憧れる方達なのでなんとも言えないですね。良くも悪くも水を差しただけですので」
あははと苦笑いしてるけれど、やはり昨晩は出れば良かったなぁと。だけど、そうするとスカさんという現時点での医療関係者を連れていけなかっただろうし。難しいところだけど……。
「……もっと、流の武装は詰めていかないとねぇ」
「えぇ。もっと、私が使いこなせるように、もっと高みへ行けるように。未だに貴女の影を見るだけですからね」
にま~と笑って、流を抱き寄せてからの。
「私に一矢報いる様にならなきゃねぇ?」
「勿論、ちゃんと超えますよ。必ず」
現時点では、流よりも私のが上だけども。それはいつか超えられるだろう。流のポテンシャルは日々成長してるし、体さえなんとかなれば、私なんてあっという間に超えていくだろうし。
「おーい、そこでラブラブしてないで。仕事しろよー?」
いつの間にか七緒から開放されて、手持ち無沙汰と成った響に茶々を入れられるけれど。視界の端で七緒もサトもデュエルに参加してるのが見える。ならばこそ……。
「はん。どうて……じゃなくて、おぼこい子はコレだから」
鼻で笑って手元のログを確認して……二人同時に笑ってしまった。一応今女子だし童貞なんて言えないからね。仕方ないね。
というか手元のログを二度見して。
「……やべぇ。なのは、シュテル、リインフォース対アリシア、ティアナ、王様って、結構な好カードじゃんか」
「わ。それは面白いですね」
「……え、戦力差あるんじゃね?」
私と流はいい試合と取る中で、響だけは難しいんじゃないかと考えてるけれど……。
「いんや。アリシア王様のコンビは、自分が何をすべきで、どうするかを指示なしで行けるからねぇ。なのははまだ判断が甘いし、リインフォースは慣れないチームアップであたふたしてるし、シュテルくらいが平時と同じ能力発揮してる。
ティアナも、そんな二人を見ていい感じに動くから面白いと思うよ」
「あー……なるほど。こちらの世界のなのはさんは、まだ甘い点が多いのか」
「えぇ。何方かというとアバターの特性にまだ引っ張られていますね。そして、一番ゲームであることを理解してるというか……何をやらかすのかわからない人というか……って」
映像の向こうで。力技で突っ込んでいくなのはとリインフォースに追随するシュテルを見て苦笑い。
「……鉄壁と呼べる防御に一撃粉砕出来うる火力。セイクリッドの特性を十全に使ってのなのはを先頭に突撃なんて……知ってる分、しんどいでしょう?」
「……うん。絶対なのはさんがしない戦闘だわコレ」
ポカンと口を開けて映像を見る響。それは向こうで座ってるフェイトさん、はやてさんも同じらしくて……。
「……なのはちゃんらしいけど、コレは……なんというかなぁ」
「……うん。懐かしいような、そうでもないような……うん、なのはらしい」
「「え?」」
……おっと、幼馴染の二人からとんでもないこと言い出したけど? 嘘やん。最近はコレに慣れてきたからあれだけど、元の世界の高町教導官知ってるせいで、なおのこと嘘でしょって思ってしまう。
ちらりと他の試合を見ると。他にも面白い対戦カードが組まれてて色々気になるところだけど。
「さぁさぁ。観戦してないで、そろそろ参加しないと。そろそろ皆に参加してないってバレますよ?」
「せやねぇ。そろそろ行こうかぁ。ほな、あたって負けても恨みっこなしで……というか、一つ賭けへん?」
ピタリ、と転移組の動きが止まって、はやてさんに視線が集まる。
「こん中で、一番勝った人は好きなことを出来る。そして、指定された人は拒否できへん……ってのはどうや?」
「乗った」「やりましょう」
フェイトさんとギンガが乗ったし……で、響ははなの様子に気づいたみたいで。
「はやてさん。はなが涙目なんで、はなは除外で良いですか?」
「わ、わた……勝負なんて、そんな」
そう言えば、花霞ってまだ融合騎に成って稼働日短いって言ってたねぇ。経験値が増えていけば、リイン曹長みたいに戦えるんだろうけど、今はまだ無理だね。
「あー、せやねぇ。じゃあこの6人でやろかー。負けへんで?」
にこぉと笑うはやてさんと、キリッとした表情のフェイトさんが面白いなーって。絶対フェイトさんってば、碌な事考えてないだろうし。
……はて、そう言えば気になることがあるんだけど。この世界のフェイトさんと響って、何時から付き合ってるんだろう?
キスくらいならしてるだろうし、響の弱い点も知ってるんだろうけど……大丈夫かな?
ま、それとなく聞くとして。今は……。
「ほらほら、頑張ってくださいねー」
「全試合記録してるので、後で観戦出来ますよ。どうか楽しんでくださいね」
「ほな、私が勝ったら、皆の胸を揉む! リライズ・アアァァップゥウウ!」
……一人テンションがおかしい人がいますが、皆楽しんでね。
しっかし。
「見てるだけも暇だねぇ」
「慣れっこですよ」
パタリと流の膝の上に頭を乗っけて、時間が流れるのを待ちましょうかねぇ。
――side響――
『あ、あかぁぁぁん!? ちょお待って、ちょお待って?! 何なんあれ? 何なんあれぇ?! ライオットザンバーで、カラミティの二刀流とかあかんって?!』
『まだまだ、行くよはやて!』
『大っきいフェイト、火力上がりすぎでしょー?!』
『凄いっす! あんなん振り回してるのに、疾いって凄いっす!!』
……わぁ。映像の向こうで、はやてさんが、アリサとウェンディ抱えて全力でフェイトさんから逃げてる……。
次の試合のマッチングまで暇だから、マッチングルームで観戦してるけれど、コレはコレで面白いな。
しかも、携帯機でVRに意識を向けることが出来るのはちょっと良いなーって。俺が子供の頃にブレイブデュエルに出会っていたら嵌まり込んでヤバかったかもしれんわ。
にしても、フェイトさんや。ディエチと七緒の後方支援を信じてるからって、単騎突撃って……大人げないわぁ。
「……大っきい私のあれって、ユニゾンリライズ? バリアジャケットの服装が響っぽいけど?」
いつの間にか、隣に小さなフェイトが座ってる。言おうか、言うまいかちょっと悩んで。
「ユニゾンリライズだけど、あれは自分じゃなくてはなの方だね。こっちの世界で最近わかって、適性もあるってわかったけれど。ついこの前までは知らなかったけどね」
「……ふうん」
おや、食いつくかと思ったけど、そういうわけじゃない。なんだろう? と考えながらフェイトの方を見ると。こちらをじぃっと見ていて。
「……なら、私も出来るの? 響のカードとユニゾンリライズが?」
「あー……」
それは考えてなかったなーと。俺の場合は、ゆりかごで行ったフェイトさんの魔力を得た特殊ユニゾンで、本来のユニゾンは昨晩のアレだけだしね。
だけど。確かに言われてみれば気になるところだ。
よし。
「良いよ。俺も気になったし。良ければ貰ってくれ」
ホルダーからカードの予備をフェイトに渡す。
現時点でカード本体は出力されないけれど、後日協力してくれた報酬で今回の戦闘で得た実物カードをプレゼントするらしい。
だけど、プレゼントしたこのカードはどうかはわからないし、あくまでデータだから渡せるだけだしね。
「ありがとう……あれ?」
「ん?」
じーっと俺のカードと、こちらを何度も視線を往復させては、首を傾げてる。
「……どったの?」
「う、ううん。何でもないよ。ありがとうね響」
若干顔が赤い気がするのは気のせいだとしても、なんかあったかな?
手元のホルダーを開いて、改めて自分のカードを見ようとすると。
『マッチングに成功致しました。了承の確認が取れ次第転送致します。繰り返します―――』
電子音声が響くと共に俺とフェイトの前に参加確認の画面が現れて。
「……ま、いっか。相対したら楽しく勝負を。味方になったら」
「うん。よろしくね響」
拳を持ち上げて、フェイトの拳と軽く合わせてから参加の了承ボタンを押した。
――side震離――
「「うーわぁ……」」
流と二人で深い溜め息が。一応データで知ってたとは言えだ。フェイトさんとはなのユニゾンリライズの圧倒的な能力差が見受けられた。
しかもあれ、制御をバルディッシュさんに任せてるから、ギリギリを維持できてるけれど……本来の、本当の意味でのユニゾンだとしたら……凄まじいというのは考えなくても分かる。
真・ソニック並の機動力を有しながら、インパルス並の装甲。加えて、ザンバーの二刀流……いや、ライオットザンバー・カラミティと、花霞の刀身をベースに、カラミティと同等の魔力刃を構成している。
そのせいで、速い連撃を撃てる。しかも、連撃とか言うけどその一振りは必墜の一撃。
更に……。
『はやて。コレがとっておき! 雷霆・万鈞!』
『Jet&Sprite Zamber.』
……コレはアカンって。スプライトザンバーと、ジェットザンバーの同時発動。現時点でこそ威力が疎らだけど、本来ならば二機の制御有りきでの発動だろう。
だけど、スプライトは対魔術寄りの魔力斬撃。ジェットは対物理寄りの魔力斬撃。その同時発動ってことは、だ。
あれ?
「……ブラスターの、ビット有りきのスターライトブレイカー並の防御無視じゃないあれ?」
「ですねぇ。アレを攻略しようと思えば。発動の瞬間の斬り掛かる瞬間に割り込むか。発動される前に、高速戦で捕まえて撃墜。後は……純粋な力比べで撃ち抜くくらいですね」
「……はなのポテンシャルの高さと言うか、頭痛くなってきた」
万人受け出来る融合騎。あの響の世界は知らないけれど、私達の世界では結構な人とユニゾンしてたもんなぁ。私や流はユニゾンしてないからなんとも言えないけれど。
それでもだ。
緋凰響に特化させたユニゾンと言われてたけど、ある程度底上げするだけで、フェイトさんのようなケースも発生する。別に響が弱いわけじゃない。この前キリエに負けたのも、本当の意味でユニゾンしてないからだし。
響とはなのユニゾンで得られる効果は……。
『あー?! フェイトちゃーん?! それあか』
あ、映像途切れた。あ、フェイトさん、ディエチ、七緒チームが勝った。
よし。
「レギュレーションでアレ。制限時間か、禁止するか話し合おっかー?」
「えぇ。そうしましょう」
あー、でもなぁ。間違いなくコレを見て、一部のトップ勢は燃えてるだろうしなぁ。シュテルとかレヴィとか特に。アミタもキリエも興味を持ったろうし……。
フェイトさんも、相手が知ってる方のはやてさんだから、決めに行ったんだろうしなぁ。だって、あっちもユニゾンリライズした状態だったし。
「……あれ?」
ふと、隣の流が不思議そうに首を傾げて。映像を見てるのが見えた。でも見てる画面が違うから私も何を気にしてるのか分からなくて隣から覗き込むと。
「……あらま」
ちょっと微笑ましい光景が見えてちょっとびっくり。
響、すずか、小さいギンガ対小さいフェイト、ユーリ、ヴィータという試合が開幕してる。
ただ、面白いのが。響ははなとのユニゾンリライズを初手から使用してるのに対して、フェイトもユニゾンリライズを用いてる事。
しかも……。
「響さんってば、譲ったんですねフェイトに」
バルディッシュの形態が日本刀寄りの刀身で、ライオットザンバー・スティンガーに近い。しかも格好が、はなの騎士甲冑というか、和服に近い巫女服のような紅白で可愛らしい。
だけど……。
「響ってば何で自分から地雷にちょっかい出すのかねぇ……」
画面の向こうで、フェイトと斬り合ってるのを見てため息が漏れる。多分それをフェイトさんに見られたら嫉妬の炎が再燃するはずなんだけどなぁ。
「……あれ。何か忘れてるような……何だろう、思い出せない」
むーっと、眉間に皺を寄せながら唸る流。珍しい、何か忘れたって中々無いはずなのにねー。
「あんまり差し支えない事じゃない? 今は置いといて、大切なことならまた思い出すよ」
「んー……了解です。一旦置いときましょう」
イマイチ納得できてない表情だけど、上手く流すことが出来……たから良しとしよう!
でも駄目だー。フェイトさんを説得できる材料がないー。
――――――
で、結局。
「駄目よー……大っきいフェイト、大っきいはやてを引いたチームが基本的に勝つじゃない……」
机に突っ伏しながらアリサが愚痴を言う。他の休憩してる面々も疲れこそ見えるものの、現状にあまり納得行ってない様子。だけど、その納得行ってない理由が。
「経験値が違うけれど。それでもフェイトさんも、はやてさんも。見ていて参考になる動きばっかり。スバルさんもギンガさんも、方向性が違う分対応をいっぱい学べるし。
頑張ろうよ、ね、アリサちゃん?」
そのとなりでアリサの頭を撫でるすずか。この子らって妙に所帯じみてると言うかなんというかねぇ。そう言えば成長した方もすっごく仲良しだったなぁ。
「勿論よー。温泉入ったら、今度こそ大っきいフェイトに一撃見舞ってあげるわ!!
……所で、温泉入りながらやっちゃダメ?」
「「ダメー。行儀悪いからダメー」」
小首をかしげながらお願いしても駄目ですー。というか。
「……それ認めたら温泉宿の方に迷惑かけちゃいますし、何よりのぼせられても困る。あくまでテストだからのめり込まないで、ちゃんと温泉や周辺を散歩したりして楽しんでほしいっていうのもあるしね」
「んー……わかったわよ。よし、すずか、行きましょ? なのは達も先に行っちゃったみたいだしね」
「うん! それじゃあね流、震離さんも」
「「はい、またね」」
パタパタと出ていく二人を見送って。
うん!
「制限掛けるの面倒っちいからやめよっかぁ?!」
「……もう少し様子見てからにしましょう、ね?」
ものっそい渋い顔の流。というか、皆が想像以上に受け入れてて面白い。
特に驚いたのが……。
「ダークマテリアルズの三人が思いの外受け入れてることに驚きましたね」
「そうだね。GMモードを行った3人は特にだね。はやても方向性の違いに驚いてたし」
試合結果を見ると本当に凄い。現時点でインターバルを挟みつつもフェイトさんが全勝してる。だけど、この結果には皆納得してその上で、どう攻略するかという方向にシフトしてるのが面白い。
こういう事がしたくてレイドシステムを考えたけど、上手く行きそうで良かった。
あの三人も、現状の自分達の遥か上を往く人に合ったせいか、久しぶりにいろんな戦術を試してるのが面白い。
実際王様から言われたのが。
「我等……シュテルとレヴィ、そして我を加えた三人対、大鴉と黒大ひよこ、あとは……奏を加えた3人と、可能ならば試合をしたい。勿論時間が空いた時、現時点のランダムマッチ中でなくて良い。出来るか?」
と、久しぶりに王様が本気の眼をしてたのが良いねって思う。フロントライナー故に、後進を育てることもしてるけれど、それ以上に彼女らも上を目指してる子達。一筋縄で行かない相手に心を踊らせているんでしょうし。
ただ、もしなのはさんが居れば、三隊長対マテリアルズという好カードが組めたけどなぁ。
現時点のちっちゃい三隊長ズではまだ甘い。なのはもしっかり強くなったけれど、まだまだ伸びしろはあるしね。
にしても……。
「皆散っちゃって寂しいわぁ」
「中島家の皆さんは先にお食事に。マテリアルズの皆さんは作戦会議しながら散歩しに。サトさんは分からない、響さんも分からない。テスタロッサ家の皆さんはお風呂に行っちゃいましたしねぇ」
「そうだねぇ。あとは、はやてさんが悔し涙を流してたのは面白かったなぁ」
「あ、あはは……」
思い出すのははやてさんの戦績。フェイトさんに負けるのは仕方ないとして。接近戦に自身のある面々……レヴィや響、サトにことごとく詰められて負けてたんだよね。
「ま、まだまだベストカードは残ってるし。皆の分も見ないとね。中島家の皆のレベルアップも見張るものがあるし。昼過ぎからは楽しみだー」
「博士の元に後でデータを送りましょう。きっと喜びますよ」
「よっしゃぁぁ……さ、なんか変な動作してないかちょっと洗い出そうかー」
「はーい。それが終わったらまた温泉入りましょうか。流しますよ?」
「がんばるぅぅあああ……」
半分溶けながらも持ってきた機材のキーボードを叩いてデータの修正だったり、入力をやってく。
さぁぁあ、頑張ろぉおお。
――side響――
「……」「……」
ふーっと、息を吐いて温泉で温まって……うん。
凄い気まずいと言うか、なんというか。チビっ子達の目を盗んで離脱して、3人部屋のお風呂に入ろうなんて考えていたんですが。一緒に同伴で入ってる人が問題で。
「何で俺と入ることにしたの。サト?」
「……さっきも言ったろ。一人部屋は魔導士組の休憩室にするって。大浴場には……行きたくないからここに来たんだ。その辺りは同じだろう?」
「……まぁ、うん。だからって……まぁいいか」
浴槽の縁に、前からもたれ掛かりながら温泉を堪能する。やはり気持ちいいわぁ……。
「……なぁ」
「……ん?」
ふと、あちらから声を掛けられて首だけ向く形に。あちらも縁に背を預けて気持ちよさそうに浸かってるのが見えたが、少しだけ顔を伏せながら
「……俺は全部、記憶が流れてきて全部見えてしまった。でも所詮は記憶で、その時の感情までは測れない。
後悔なく、お前は」
「日和んな馬鹿」
パチャンとお湯が波打つ。
「後悔なんて一杯あるよ。あの時こうすれば、ああすればって。リュウキがいなくなってからだって、あんなに心折れるまで行ったのを忘れたのかお前は?」
「……」
「いつだって支えてもらえて立ってるんだ。なら、後はそう進むしか出来ないじゃないか、俺も、お前も。でも今はゆっくり元に戻って、それからでいいんじゃないか? そもそも、結論を出すにゃ早すぎるよ」
ぷらぷらと縁で手をぶらつかせながら言う。本当はどう言ってほしくて、何が欲しいのかは分かる。
だけど……。
「それに、それを欲するほどお前は馬鹿じゃないだろう?」
フフンと鼻で笑ってやる。キョトンとしたかと思えば、表情が和らいで。
「フフ、悪いな。変なこと聞いて」
「ホントだよ」
互いに笑って……と言っても、あちらはまだ口元が少し綻んだ程度だけど。
そう言えば……昔震離に言われたなぁと。あんたは目で表情が分かるって。こういうことかと今更ながら理解して。
「後は女性らしくを覚えるか?」
「……お互いにな」
コレは痛いわぁ……。
ふと、部屋の方からパタパタと足音が聞こえて。耳を澄ませば……。
「主、マスター。お風呂入ってもいいですか?!」
パァンとお風呂に通ずる扉を力いっぱい開けた人物は。
「「裸で言うな、はな」」
タオル片手に半泣きのはなが其処にいるんだけど、何でこの子ってば泣いてるの?
「……アルフ様や、ユーリ様、アミタ様の誘いを無下にして私は、私はここに来ました。何で主達一緒に入ってるんですかぁ~」
「あーはいはい。流れで一緒に入ってるだけだよ……で」
ちらりと後ろに視線を向けると、サトが小さく微笑んで。
「なら、体洗ったりするよ。それで良いかい、はな?」
「お願いしますー」
はなを木で出来たバスチェアに座らせて、その後ろにサトが座ってるのを見てると。
「あ、そうだ。あるじ主?」
「んー? 頭洗ってもらってる最中に喋ると口に入るよ?」
「へーきですよ。そう言えばフェイト様が、探してましたよー? 一緒に入ろうって」
「……へぇー」
何だろう、今暖かい湯船に居るはずなのに冷や汗が流れたような。いや待て。変なことしてないし怒らせることもしてないはずだけど……。
「……付き合った、というか、通じ合ってから数日しかたって無いのに。何で日和ってんだお前は」
「……ぅ、ぐ」
意趣返しと言わんばかりにサトから言われるけれど、何も言い返せない。いやだってさ。
「……今まで普通に付き合うなんてわかんねぇし。煌や紗雪、優夜に時雨がそういう仲だというのは何となく察してたけれど……よくわかんねぇ。
それに、こんな風に変わる奴なんて、普通はおかしく思うだろうよ」
恥ずかしくて、サトから目をそらして思ってることを言う。だけど、その後の反応が無くて、そちらに視線を向けると。
何いってんだお前は?
という目でこちらを見てた。ワシャワシャとはなの頭を洗う手はそのままに、こちらを見据えて。
「……フェイトさんが男が好きでお前を好きになったなら、あんなに好きだよって態度に出さないだろうよ。お前という個を好きになったから、どっちになっても好きなままなんだろう?」
「……ぅぐ」
意趣返ししたはずが、更に意趣返しを受けました……。
「それに、流や震離を見てると普通にうまくいくと思うけどな」
「……何で其処であの二人出てくるんだよ?」
「震離の衝動に流が付き合う関係で、そういう事してることがあるんだよ」
「……ゑ?」
……風呂の空気が止まる。強いて言えば、いつの間にか背中を洗うサトの手は止まらないし、はなは気持ちよさそうにしているのは変わらないけれど。それでも。
「……え、あ、マジ、で?」
ボッと顔が赤くなったのが自覚できた。まじかよ。
「……うん。残念ながら事実だ」
い、妹分のそういう話は、なんだかなぁと。いや、イインダヨ。イイんだ。だけど、なんか……こう、ぐるぐると……。
あれ、なんか、目の前が……暗く……。
――sideサト――
はなの背を洗い終えて流してる最中に水が跳ねる音が聞こえて、何気なく湯船の方を見てみると。
顔を真っ赤にぐったりと、ちっちゃい響が突っ伏してるのが見えて……。
「はな、すまないがフェイトさんに連絡。こっちはアイツ着替えさせるから」
「へ、あ、はい!」
直ぐに湯船から抱き上げて、はなに指示を出す。
話を聞いていて、嘗てそうだったことを思い出す。見た目相応に精神も幼くなっているんだなぁと。それと並行して、普段の限度を知ってる分まだ大丈夫だと思えば、容易に幼い体の限界を超えてくる。
その差がまだわからないんだろうなぁ……。
そう言えば、この躰で、この世界に来た時も……色んな人に迷惑かけたっけなぁ……。
さて、体を拭いて浴衣を着せ……ぁ、下着どうしようか?
――sideはやて――
……あかんわぁ。
なんて考えながらグラスの縁をなぞって、目の前の光景を見ると変な意味でため息が漏れる。
何でかって言うと……。
「あら、将来のフェイトさんってば、中々いける口ね。どんどん行きましょー!」
「そんな事ないれすよー、えへへへへへ」
「それよりも何時もリンディってば、私の癒やしの時間を奪うんだけどどう思う?!」
「それはプレシアが仕事をサボっていくからですよ……自覚して下さいよ」
……はいぱー飲んだくれの渦中に巻き込まれております。
うーん……フェイトちゃんがお酒飲むことに異論はない。20になったわけやし、そのへんは人の判断に任せるし。
私も20になった時、守護騎士の皆が飲みやすいお酒をプレゼントしてくれて、いっぱい飲んだ。なんかあってもシャマルおるし、はじめてのお酒で羽目外しても家族内やから問題なかったしで、同時に自分の限界値もわかったわけやけど……。
フェイトちゃんの限界値が全然分からへん。ただ言えるんが、あんまり容量は多くないということや。
他のお母様方。クイントさんは清酒、プレシアさん、リニスさんはワイン、そしてフェイトちゃんはカルーアミルクで、私がシャンディガフのジンジャーエール多めを飲んでる。
で、お風呂上がりから飲んでるせいで酔いも回るのが速いにしても、や。
フェイトちゃん酔っ払いすぎやろう……。
そういえば、20になってエリオやキャロがプレゼントの用意してるのは知っとるけど、お酒を嗜んだって言う話は誰からも聞いてへん。多分本人はなのはちゃんが20になった時にって思ってたやろうけど。
ここまで低かったかぁ……。
まぁ、ええ。ここでフェイトちゃんは潰れたも同意義や、そして私はまだまだ酔ってへんし。この後の試合にも参加出来うるだけの余力は残しとる。
つまりは……この勝負、貰ったでぇ。
詰められればたしかに負ける。せやけど、私の分析力を侮ってはいかへん。誰がどういう攻め方をするか判ってきたし、現時点での術の発生タイミングや、その間の対応等など色々組み立てた。
まだ、全員と組めたわけやあらへんけど、皆の好みの攻め方も判ってきたし、それに合わせた戦術も組めるし……。
後半戦は、いい方向に持っていけそうやで。
ふと、それまでニコニコ笑っとったフェイトちゃんが一瞬だけ、目を鋭くしたと思ったら。
「……ん、ごめんなさい。ちょっとお手洗いに」
なんや、お手洗いかい。てっきりなんか連絡でも受けたかと思ったんやけどなぁ。
温泉宿のバーから出る際に、一瞬私と目が合って……おや?
(はやてごめん。はなから連絡で響がのぼせちゃったみたいだからそっちに往くね。母さんたちには上手く言っといて)
(……へ?)
ガラガラとプランが崩れるのが分かる。今このタイミングでフェイトちゃんが居なくなるということは……。
あかん。
(待ってフェイトちゃん。私も心配やから行くよ?)
(大丈夫だよ、私居るし。それじゃあね、切るよ)
(フェイトちゃーん?!)
そこからは何度呼びかけても反応が無いことから本当に切られたんやなと。
……そして、一人残った私はと言うと……。
「所ではやてちゃん。ギンガとスバルから話を聞いたんだけど、ギンガを振った男の話。誰か知ってる?」
「……へ?」
ギラリとクイントさんの目が光ると共に、プレシアさん、リニスさんの目も光った。
「それは気になるところね。愛娘を振ったなんて、親としては気になる所。どんな馬の骨かしら、ねぇリニス?」
「はいプレシア。私も妹が振られたなんて話を聞いたらとても気になりますねぇ」
……あかん。
「いやぁ……私はちょっと分からへんです……よ?」
その相手というか、その人もこの宿に居ります。なんてとてもやないけど言えへん。そして今女の子やし余計に。
「大学生、高校生と年齢を気にしないチームで居るんでしょう? ならば、知らないってことは無いはずよねぇはやてちゃん?」
「……は、はは」
機動六課をチームと隠す事にしたのがまさかの結果に。私でさえも忘れかけてた設定やったのに。
「それに、色恋沙汰も色々あるんじゃない? 色々聞かせて欲しいわって」
「フェイトってば色々声を掛けられてるんじゃないかしら、気になるところよ?」
ジリジリとプレシアさんとクイントさんに詰められて……逃げ場がないのが判って……。
凄いしんどい事になりました……。
結果的に一日目の私はここで終い。ブレイブデュエルに参加することは叶わんかったなぁって。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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