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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:15 続・合宿二日目、嘗ての貴方の言葉を胸に

――sideフェイト――

 震離からの小言から開放された私と奏は、黙って温泉に足を運びました。なんというか、すっごく長くて疲れて……うん。

「……ひっどい目にあったねぇ」

「普段怒らないというか、嗜める言い方しない分。こういう時長いんだよね」

 二人同時に疲れ切ったため息が漏れる。私も奏もすごく怒られたなーって。

 だけど……。

「その割に、嬉しそうなのは何でかな?」

 疲れたように見えるけれど、それ以上に何処か嬉しそうに笑っているのは……。

「知ってて聞いてるなら意地悪で。知らないで聞いてるのなら野獣先輩まじですかってなりますねー」

「や、野獣先輩っていうの止めてよ」

 流石に意地悪だなーっていうのは合ったけれど。その返しは予想してなかったよ?
 
「……まぁ。嬉しいのは嬉しいですよそりゃ勿論。だって、いつ会えるか分からない人に昔懐かしい怒られ方したんですから」

「そっか」

 まぁ、奏が嬉しそうにしてる側で。すごく怒られた私は落ち込みそうだったけど。二人共嬉しそうにしてたのは良かったのかなって。
 ざぶざぶと温泉の中を歩くはやてさんと目が合って。

「あー、フェイトちゃんに奏やー。温泉に来とったんかー」

「あ、お疲れ様でーす」

「おつかれ、はやて」

「……なんや、えらい疲れとるやん。どうしたん?」

 二人してはやてさんに事情を説明した所、思いっきり爆笑されました。

 で。

「なんやおかしいわぁ。フェイトちゃんが、そんな態度取るようになったのはほんま驚いたで?」

「へー。大人しそうとは思っていましたが、そこまでだったんですねー」

「……そんなつもりは無いんだけどなぁ」

 からかうようにはやてに言われると、ちょっと恥ずかしいなって。 

「というか、奏さんや?」

「何でしょうはやてさん?」

 ……あ、はやての目が嫌な光り方した。絶対碌でもない事だ。
 軽く深呼吸してから、奏の目を見て。

「私の事も先輩って呼ーんで?」

「やーです」

 テヘッと、二人で小首を傾げてるのが面白くて。つい吹き出しそうになってしまうのを堪えていると。

「なんでや?! ええやん、私……やなくて、ウチもそう呼んでくれたってかまへんやん!?」

 ザバァと立ち上がって湯船に波が立つけど、気にせず奏の肩を掴んで前後に揺らす。

「えー……だって、今後の上司に当たる人をそんな気安くは呼べませんってー」

 ……おっと?

「えー……その様子やと、なのはちゃんも先輩というかそんな感じで呼んでるんやろー? 仲間はずれはややわぁ」

「呼んでませんってー。先輩呼びしてんのはフェイトさんだけですよー」

「まじかー。ホッとしたようなそうでもないような」

 ……今後の上司って、あれ? 六課が終わったあとに私も奏を誘おうと思ってたけど、遅かったかな?
 なんて私が考えてると、はやてが何かを見つけたようで。

「あ、王様にシュテルー、こっちどうやー?」

「げっ大鴉!」

「あぁ、大妹氏に、はやて氏に、奏さん。見ないと思っていたら温泉に入らしてたんですね」

 片や嫌な顔と、片や微笑んでるという対比が面白い。
 ディアーチェも嫌そうにしながらもこちらに近づいてくるのは、あれは好意の裏返しだったりするのかな?


――side震離――

「やっほー、首尾はどう?」 

「可もなく不可もなく、普通に対戦会ですよー」

 私と流しか入れない待合ルームに入って、全体の確認をして……おっと?

「ありゃ、サトってば、スタイル変えたんだ」

「えぇ、吹っ切れたと考えても良いですかね」

 私が来たことで、流が自分のマッチングを切ると同時に、こちらに体を向けてくれる。

「今日は皆さんあまり参加されてないようで、温泉や周辺の散歩を楽しんでますよ」

「ちょうどいい感じに色々あるもんねぇ。いい思い出作りになるよ」

 ちょっと説教と言うか、お話したせいで私もちょっと疲れたなーって。
 ……さて。

「で、流は何を心配してるのかな?」

 ギューっと抱きしめると、身体を捩って。

「……流石に誰も見てないとは言え恥ずかしいです」

「あっはっは、気にしなーい。で、何か合った?」

 流の手元には4機のデバイスの情報が表示されてるけど、おかしいなーと思う。一つは流のアンサラー、フラガラッハ。もう一つはサトのデバイスで。残りの二つが。

「……やっぱりコレって、今の響達の世界のデバイスになるの?」

「おそらく。まだ確証は得ていませんので、もう少し探りを入れてからになりますが……もしかすると、あの世界には、未だに居るんじゃないかと。予想してみたり」

「……ちなみに何を根拠に?」

「思い出してください。私達を導いた方のサトさんの言葉を。
 私のデバイスの原型を、自分の世界に酷似した世界から持ってきた、と」

「待って、ちょっと思い出す」

 直ぐに目を閉じて。嘗ての……数年前の事を思い出す。

 ―――この世界に辿り着くまでに、俺は二つ、いや。三つ世界を経由したよ。初めてとんだ世界で、お前達に救われて。
 二つ目の世界で、俺と同等に追い込まれ心を閉ざそうとした俺を殴って。
 だけど、それでも見つけられなかった。流の為のデバイスを作成する原型を。どうしようかと後回しにして、ちょっと怪我して飛ばされた先の世界で、少し調べてすごく驚いたっけな。元の世界に限りなく近い世界で、皆生きてて……でも流と震離が居なくなる世界で、そこで流のデバイスの原型を取ってきた。

 あぁ、確かに言ってたなぁと。だとすると、やはり。

「あの響の世界に現れたっていう奏はやっぱりサトで、もしかすると……」

「次の世界に往くための手段を整えてると予想します。だけど、その前にもう一度聞きましょう。その世界に現れたサトさんが化けた奏さんを、見抜いた方法を」

「……ん、そうだね。そうしよっか」

 ぎゅうっと、抱きしめる腕に力がはいるのが分かる。
 
「……そちらこそ、何かありました?」

「なんでも……ない」

 ……サトの言葉を思い出す過程で、もう一つ思い出したことがある。
 今回のこの出会いの後。サトもそう遠くない内に旅立つっていうのを。そして、私と流の出身世界に行くその時まで、再会は叶わなかったって。
 
 裏を返せば、あの人には今後、長く遠い旅路が待つことになる。そして、そこに私達は居なくて……あの人一人になってしまう。
 正直、まだ鞭打つのかと思ってしまうけれど……それでも。

「きっとここからあの人は変わっていったんでしょう。そう考えると、何があったんでしょうねって。今なら頭を抱えられます」

「……まぁ、うん。私忘れない。なんだっけ、サトが言い放った」

「『プライドで金が稼げるかぁ!』って、とっても強い意思を感じました」

 集中線が入る程度に強く言ってたっけなぁ。懐かしいなぁ、当時は何であの人は助けてくれたのか全然分からなくって。困惑してたもんねぇ。
 事情を知って、その上で……。

「もう、6年前だよねぇ」

「えぇ、とても懐かしいですね。お互いに変わってないと思ってたんですが、なかなかどうして、重ねた歳の数だけ説教臭くなりました」

「だねぇ。流が響とサトに怒った時、皆驚いてたのは何でだろうって考えたけど、よく考えたらそうだもんねぇ」

 だってねぇ。流の歳は18歳相当だし、私なんか23歳相当ですよ?

「まぁ、まだお酒は嗜めないのは残念ですけどね?」

「い、いいと思うんだけどなぁ」

 ガードが硬すぎるのもどうかと思うんだけどなぁ。もう十分二十歳以上だって言っても良いと思うし、ヴァレンさんも普通に酒飲んでたって言ってたのにねぇ。
 
「さて、そろそろ良い時間ですし、晩ごはんを頂きに参りましょうか?」

「……フェイトさんと響が、しっぽりしたって言ったら、付き合ってくれる?」

「皆が寝静まった後でなら。今は駄目ですよー?」

 くぅ……くっそ固いわぁ。

 ――――

「……うわぁ、まじですか」

「……まぁ、だって。髪の長い奏がそこに居たんやもん、奏と二人で追っかけたけどロストしてなぁ」

 あっはっはと笑ってはいるけれど、明らかに疲れたような、あんまり考えたくないような様子のはやてさん。
 いやまぁ、無理もないか……?

 はやてさんから、デバイス強奪事件の詳細を聞いたけれど。やはり、髪の長い奏の偽物=サトにつながる物が見当たらない。
 いや? だけど、考え方を少し変えようか。サトにいつか行く世界で、変身魔法を用いて奏になれば、持ち出せると伝えれば……。

 隣の流に視線を向けると。察してくれて、とあるデータをデバイスで表示させる。

「……なんやこれ……って、あぁ。二人の世界にもコレの作成してたんやね」

 一瞬わからないといった様子だったけれど、その詳細を見てすぐに察してくれた。
 そう、このデータは。

「まだ名前も決めてへんし、武装もこれからーって時やったのよね。そかそか、二人の世界にもあったんやー」

 なんか変な感じやわーと笑うはやてさん。さて、話すかな。

「いいえ。私達の世界にはコレは、途中で頓挫しました。機動六課が襲われたあの日に破壊され。私達の世界には存在はしていません」

「……へ?」

「もう一つ。この二機のデバイスは、とあるタイミングで、私達の世界に運ばれ、流の為のデバイスとして改造を施され。そして」

 隣に座る流が懐から白と黒の2つのロザリオを取り出して。

「アンサラー、フラガラッハとして、未完成ながらも今も使用しています」
 
「……マジか」

 驚いたらしく、目を見開くはやてさん。正直そりゃそうだよね、と私達は思う。
 平行世界間の移動って、ドンピシャだったり、思ってた以上に未来に繋がる事もあれば、過去に飛ぶこともままあるらしいし。
 さて、正直返せって言われて返してもいいと、流は言ってたけれど。正直まだ完成されていない上に、既に流専用にカスタムしまくってる以上、返した所でという問題もあるし。どう動くかな?

「なら……しゃーない、何とか穏便に済ませる方向で話を持っていこうか」

「「……はい?!」」

 コレは予想外。いや、こちらとしては嬉しいけれど……いや違う。そうじゃなくて。

「いえ、そのはやてさん……いえ、八神部隊長。お伝えすることが一つありまして……」

 慌てて流が話を繋げる。だって、わざわざこの話にはちゃんと理由が合って。

「このデバイス二機。100%同じとは言い難いですが、それでも当時の完成度を再現して、研究所の方に保管しています。
 いつか帰す日が来ると言われていたという事もありまして。
 なので、よろしければ、と」

 恥ずかしそうに頬を掻きながらそれを伝える。
 当時のデータは合ったけれど、正直それだけで再現するのは厳しいものが合った。そもそも材料足りなかったし。それでも、いつかまた会えるからと、その日に向けて用意して。この世界に来てからようやく当時の完成度まで持っていくことが出来たしね。
 本当は自分のデバイスの開発を進めたかっただろうに……。
 しかし、はやてさんが途中から俯いてそのまま固まってるけど。正直要らなかったのかな? 流も不安そうにしてるし。
 カッと、顔をあげたと思ったら。

「ありがとぉぉぉ! コレでもっと良い方向にやってける!!」

 あ、良かったわ。メッチャ嬉しそうだわ。
 
「そして、それが身内だとすれば、何とか話を違う方向に持っていけるし……あ、でもあかん。確実に数日経過してるはずやから……結局意味は……」

 うわぁ、どんどん闇がはやてさんに纏わりついてってる。
 流と顔を見合わせて。あれ、を言うかどうか悩んで……流が小さく首を縦に振ったのを確認して。よし。

「……はやてさんはやてさん。多分、時間の件は気にしなくて良いかと」

「……んなわけ無いやん。今こうしてる間にも、多分向こうの世界、かなり大変なことに……なってたらええなぁ」

 完全にネガティブになってらっしゃるわぁ。きっと考えたくなかったんだろうなー。でも無理もないよねー。だって、普通はそう考えるだろうけど。それ以上に再会の喜びが勝ったんだと思う。
 だからこそ、伝えよう。釘を刺しておいて、口外禁止にしていかないと。どこからその情報が漏れて、サトに通ずるのかわからないから。

「いいえ。問題は有りません、おそらく経過時間は数分、下手したら飛んだ直後に戻るかもしれません。
 だって、そう聞いてますし。
 これから言うことは、絶対に言っちゃ駄目ですよ。言ったら……サトや過去の私達が困っちゃいますから」

「……あの、その辺りがよく分からへんのだけど。平行世界って、同じ様に時間が流れているんちゃうの?」

 ですよねー。いや、違うな。
 咳払いをしてから、少し空気を締めてから。

「いいえ。おそらくある程度の誤差はあるでしょう。響とサトの世界ならばおそらく時間の差はそれほどないでしょう。でも、それ以外の世界だと、今までとは違うイフや、そもそも違う歴史に積み重ねられたものの違い。
 それらが犇めき合い、それでもなお、限りなく似た未来を目指そうとしている以上、流れは微妙に異なります。
 その上で、私と流、そしてサトは、微妙に異なります。
 私と流は何となくでもタイミングと、それに応じて渡航の魔法を使いますが、サトの場合。その内にあるレリックをオーバーロードさせて世界を渡る。
 それは世界の枠を超えるにはイレギュラーなせいなのか、かなりの誤差、いや、一種のタイムマシンに近い効果を得ています。
 現に、機動六課が開始して少し経った世界、その次はゆりかご戦が終わった直後。そして、私達の世界には、機動六課が設立される直前と……かなり疎らに行っています。
 そして、何より酷なことは……サトは機動六課が襲われる事態を知っていますが、歴史を変える事が出来ない上に、サトは無力だということを突き付けられます」
 
 そこまで言ってようやくはやてさんの表情が鋭くなった。

「何でや? サトは響で、あの子は聡い子や。それならば……」

「サトが響だと知る世界は、2つ目の……この世界であったはやてさん達だけです。それ以外で、サトを響だと分かって。それを信じることが出来るとお思いで?
 私も―――」

 一瞬だけ流の顔を見て、少し心が楽になる。

「流も、最後に会ったっきり、私達を本当に知るサトに会ってませんから。
 3つの世界……もしかするともっと回っていたのかもしれない、それはサトが胸に秘めていたか、本当なのかはわからないです。
 だって……私にも、流にも……いいえ、かつて一緒にいたからと。無条件で私達に手を差し伸べて、六課の皆を陰ながら助ける。アンノウンで、第三勢力とか言われて、自分以外に頼れる人が居ない状況。
 何より、自分が其処に居て未熟な立ち振舞を見ることしか出来なくて。知ってるからこそ助けたいのに、それをしてしまえば、歴史を変えてしまう。自分と同じ歴史を辿らせてしまうんじゃないかって、不安を抱えて。それでもほっとけないからって手を伸ばして」

 ……もっと速くに信じて上げれば。あの人は敵ではないと分かっていたら……きっと。

「だから、無茶して、それでもやらなくちゃいけないって……。
 まぁ、完全なアンノウンなのに逃げ切れたのは流石だなーって変に評価があがってたのは面白かったですけど」

「……ある程度知ってて、機動六課……いや、地上本部からも逃げてたってことやろ? すごいなぁ」

「えぇ。あの人が旅立つ日にいろいろお話しますが、核心には触れずにほとんど独自行動、そして、私と震離さんの局員カードを使って、いろいろ立ち回っていたのは流石というかなんというか」

 あの時は本当に分からなかったんだよねぇ。
 ふと、はやてさんが、嬉しそうに、懐かしむような表情で。

「あんなぁ、二人共?」

「「はい?」」

「誰にも言わへんし。私の胸にしまうから……もっと聞かせて欲しい。
 正直まだ、疑ってるんや。あんなに心折れたサトが、響が……どうやって二人の世界で影響を与えていたのかって。もっと聞きたいんや」

 自然と口元が緩む。遠い過去と言うには早すぎる、けど決して近い思い出ではない。だから……。

「とっても長いお話ですよ?」

「かまへんよ。思い出話なんてそんなもんや。
 それに……もっと二人とお話したかったしな」

 二人で顔を見合わせて、笑い合って……。

「そういうことなら」

「喜んで」

 決して悲しいお話じゃないんだ。だから懐かしく、楽しかった話をしようかな。 

 

 ――side響――

「へ……くしょん」

「……サト、風邪?」

「いや、平気。大丈夫」

 ……誰か噂でもしたかな? しかしまぁ……。

「あの、ある……じゃなくて、姉様?」

「ん?」

 俺の隣に座るはなが不思議そうにこちらを見上げてて。

「大丈夫、でしょうか?」

「……サトも言ってたろ。そのまんまだよ。平気だ平気」

 むしろ、あのくしゃみって本当に意図せずに出たんだろうなぁ。見てると良く良く分かる。
 だーからかー。奏や震離が、誰かに噂でもされた? って聞いてきたのは。
 見てると、俺ってあんなにわかりやすかったんだなぁと。

 まぁ、それはさておいて。

「何で、皆八神さんちのお部屋に集まってんの?」

 隣のはなに、対面の席に座るサトと七緒。起きたら皆居て驚いた。
 掛け布団を畳みながら、それぞれの様子を伺うと。

「ごめんなさい。私はサト様と七緒に着いて来たので」

「……私もサトに着いてきた」

「……アインスが、フェイトさん……あぁ、大きい方を探してたから代わりに来た」

「あ、はい」

 なるほど。それでか……。

「ねぇ、サト?」

「ん?」

 おや、何か空気が変わったと言うか、空気を壊しに来たと言うか……。
 ……なんだろう、七の表情ほんと読めないなぁ。

「今度、家に遊びに来てよ」

 おっとぉ? サトの顔から色が抜けていったわ。
 たしか、七緒って……あれ?

「中島家だっけ?」

 お、ちょうどはなが言ってくれた。

「ううん、お父さん。私、名字、スカリエッティだよ?」

「「……ぁー」」

 なるほど、サトの顔から色が抜けたのはそういう事か、だけど……。
 ふと、頭によぎるのは、この世界に来たばかりのサトの記憶。
 頭では分かっている。だけど、受けた事、そして、辛い記憶が混ざってどうして良いのかわからないというのも分かる。

 この世界のスカリエッティと、俺達の……管理世界のスカリエッティは大きく違う。
 事実、あのメガネ……たしか、クアットロって言ってたっけな。この世界のスカリエッティ一家は揃いも揃って、サトを気に入って心配してるらしいし。

 ギギギ、とすごくぎこちない動きでこっちに視線を向けて……。

 ―――着いてきてくれ。

 ―――はいはい。

 まさか自分同士で、アイコンタクトで会話できる日が来るとは。人生ほんと不思議だねぇ。

「……うん、今度、行くよ」

「うん、待ってる」

 ぎこちなく、それでも一生懸命笑って、だけど。どっか不安そうで。

「そんときゃ、俺とはなも着いてくよ。いいっしょ?」

「えっ?」

 いいんですか、とでも言いたげな顔のはなの頭を撫でて、七の方に視線を向ければ。

「……うん、待ってる」

 嬉しそうに微笑んでくれて、俺もサトもホッとして。顔を見合わせて。

 ―――助かる。

 ―――気にすんな。今度、ガッツリしたもん奢って。つけ麺食いたい。

 ―――あぁ。いい店知ってるから連れてくよ。

 ―――楽しみにしてるよ。

 お互いに笑い合う。だけど、コレはお互いに。

「「変な感じだな」」

 さすが同一人物。考えも一緒だわ。

「……やっぱり似てる」

「そ、そんな事。無いよ、うん」

 ……ごめんねはな。変に気を使わせて。


――side奏――

 先輩とはやてさん、そして、ディアーチェとシュテルと別れた直後にガンナースタイルというか、銃使いの皆に捕まって……。

「すごく、参考になりました!」

「いえいえ、こちらこそ。教えるってのは新鮮だったから、私なんかで良ければ何時でも良いよー」

 ティアナの頭を撫でながら、今回の勉強会と言うか、銃使いの集会を終えまして。

「私も! すごく! 参考になりました!」

「私に勝った人に教えることなんて無いと思うんだけどなぁ」

 元気いっぱいのアミタを見ながら、ちょっぴりため息。
 3on3のランダムマッチで、何度かアミタと当たったり、ティアナと組んだり。三人が組むことも多々合ったけど。
 ほんと不思議な気分だなぁ。ちっちゃいティアナは、私の知ってるティアをちょっと甘くした感じだけど。アミタは高機動射撃型だもの、すごく見てて参考になる。
 私も前衛型のつもりがあったけれど。アミタに比べてしまうと全然駄目だ。というかあれ、瞬間速度だけなら、こっちの世界のフェイトと同じ位じゃないの?
 
「だけど本当に皆すごいなぁと、思ってみたり。さっすが大っきなフェイトの後輩さんだー」

 ―――いやいや、貴女の空間把握能力に比べたら。

 ニッコニコのアリシアさんを見ながら、すごく微妙な空気が流れる。
 全体的に、個人勝率だけならダークマテリアルズの各個人、特にシュテルやレヴィが強かったけれど。それ以外、チームの勝率、アリシアさんが入ったチームの勝率は高かった。
 はやてさんや、ちっちゃいはやて。ディアーチェが入ったチームも確かに勝率は高いけれど。
 あの三人は戦略が似てるから対応しやすかった。だけど、アリシアさんのチームは、文字通り遊ぶための、組んだ子のポテンシャルを最大に引き出し、全力で楽しんできたし。

 何より、全部見て、指示を出せて。且つ戦略を組み立てていくのはそれこそ……。

「ね、ね、それよりも奏に聞きたいことあるんだけど?」

「へ? あ、はい。なんでせう?」

 何やら端末を操作しながら、アリシアさんから質問が飛んでくる。
 そこはかとなく嫌な予感がするのは何でだろう?

「さっきさ、フェイトが侍っぽいユニゾンリライズしてたんだけどさ」

「あー……してましたね、確かに」

「巫女服っぽくて可愛い格好でしたねー」

「そうですねー」

 相槌打つと、そこにいたティアナとアミタが格好を思い出してほっこりとしてた。
 はなの融合騎の格好とはいえ、着る人変わると印象もガラリと変わってたなー。
 問題は、あれははなのカードなのかどうかって問題だけど。 

「響のカードとユニゾンリライズ出来たみたいなんだけど、なんとそこに写ってたのは……じゃん!」

「じゃん! ……て、あれ?」

 あかん、ティアナが被って見えない。しかし、アリシアさんのノリについていけるティアナというのも珍しく見えるなぁ。

「あれ、コレ響と……この髪の長い男の人は……お兄さんですか?」

 おっと、アミタさん?

「どれど……れ、え?」

 アリシアさんの端末に映るカードをみて、絶句……ほどではないけど、写ってる人を見てびっくりしたわ。

「……いや、あのー……それはー」

 今の響、そして、本来の響の背のある二人が背中合わせで刀を持ってるカード。
 何という迂闊なカードなんだろうかコレは。
 と、言うよりも。こういう事態は想定してないって、本当に!

「ね、ね、この人何なの? うちのフェイトが顔を赤らめてたし。そっちの世界にこの男の人いるんだよね? 教えて!」

「え、いやー……あのー……」

 グイグイと来るアリシアさんの後ろで、ティアナとアミタはなんか目が光ってるし。

「ほうほう、なかなかの好青年。そう言えば、大きなフェイトさんも和服を着てたことを考えれば。あれもユニゾンリライズで、何かを知ってる。そして、それは奏にも言えますよね!」

「なのはさんなのはさんの一辺倒だったフェイトさんが、興味をひかれるなんて珍しいです。どういう関係なんですか?」

 うわ、うわぁ……すげぇ面倒くせぇ。

「いや、まぁ……あ!」

 ふと、時計を見るとそろそろ晩ごはんの時間というのが見えて。

「ほ……ほらほら、そろそろご飯の時間ですし。いきましょ、ね?」

 距離を取るように立ち上がろうとしたら。
 
「へ~、STK。その人とっても気になるーのよん」

 上から押さえつけられるように、肩を抑えられて……。

「げ、キリエ」

「げって何よ、げって? それよりも私もその男の人は気になる所よん」

 すぐに横に逃げようと思えば。

「逃しませんよぉ~奏~」

「げ、アミタ」

 がっちり腕をホールドする、面白いものを見つけたと言わんばかりの顔のアミタ。
 しかも前を見れば、アリシアさんが腕を組んで仁王立ちで。

「その様子は知ってる反応だ! キリキリ吐いてもらうよー!!」

「いやぁ、何も知らんってー」

 ―――片思いしてた人です。
 
 なんてとてもじゃないけど言えないし。いったら、ネタにされるし、特にフローリアン姉妹とか、キリエとかそういうの大好きでしょうし。
 だけど、ティアナなら助けて……。

「……」

 メッチャ首を縦に振ってらっしゃる。くそう、くそう……こっちのティアナはまだまだ女の子やったかぁ……くそぅ!
 まぁ、私の知ってるティアも普通に女の子だけどねー。スバルやキャロといる時普通にお姉さんというか、先輩してるもんなぁ。
 時間いっぱいごまかすためにいろいろ考えねば……。いつか、いつかきっと、誰か私を救ってくれる主が、きっと!

「奏さーん、みなさーん、お食事ですよー」

 やった! こっちのちっちゃいギンガ()キタコレ!

「はっ、ここにお姉ちゃんズが揃ったのならば、アリシアさん、端末借りますねー、ギンガサーン、ちょっとこの男の人の話をこれから聞こうと思うんですけど気になりません?」

「ちょっとー!?」

 アミタが端末持ってギンガの元へ、止めようとしたけれど、アミタが抜けるタイミングでアリシアさんが私の腕を掴んで。

「逃さなーい」

 ニヤリと笑ってる、しかもこの目はどっかで……あぁ、はやてさんが宜しくないこと考えてるときとおんなじ目だわ。
 そして、ギンガとアミタの方に視線を向けると。

「……私気になります!」

「やりました!」

 余計な事を……!
 視線の先で、目をキラキラさせたギンガと、一仕事終えたアミタの姿。
 駄目だったかー……メッチャ気になる人なんかなー、くそう、あんまりまだ傷は癒えてないから……塩塗りたくられたくなかったなぁ……。
 いや、まだだ。絶対言わないと心に誓えば……。

「ねぇねぇ、やっぱりこの人って、響のお兄さん……はないか、姉妹兄弟は二人だけって響とはな言ってたし」

 ……あんの二人、余計なことを。

「だけどー。そうすると妙なのが。何でこの人と二人セットで写ってるかーって事。記念用にーって、ことなら私達も何枚か持ってるけど。でもあくまで記念というか、使えないカードなんだけど、コレはしっかりアバターカードなのよねん」

 キリエが不思議そうに響のアバターカードを見て首を傾げてる。

「あー……いや、まぁ」

 だってそれ、どっちも本人ですし。とは言えないしなぁ。
 だけどなぁ本当のことは言えないし、こうなると難しいなー。
 でもでも、と脇から見てたアリシアさんが。

「……大穴でお父さんってことはない? 私の両親や、なのはの所とか見てると全然不思議じゃないよ?
 それに、響ってなんかお父さんっ子っぽいし、寧ろソッチのほうが、私的には嬉しいかなー。可愛いし」

 あーって皆が納得する中、それはそれで異常だと思うんだけどなぁと考えて。
 アリシアさんの考えに納得したギンガが。

「でも分かるなぁ。私もお父さん好きですし」

「娘が父を思う。コレはとっても良いことですよ」

 ギンガの相槌に続いて、グットですとサムズアップのアミタ。この席ってば、なんかお父さん大好きな人多くない?
 ……なんか、久しぶりに父さん母さんの顔みたいなぁ。
 最後に会ったのは、もう数年前か。一応メール出して元気ですって送ってたけど。それだけで、会ってはいないし、顔も見てないなぁ。
 
 響や、煌、震離と違って、私には普通の両親がいて、一番管理局に、魔法という文化に否定的だったなー。
 時雨や紗雪、震離と優夜の家は、裏の世界を知ってるせいか割と受け入れてたし。
 響は琴さんが魔法を知ってたけど、煌は……。
 あ、駄目だ。すごく会いたくなってきた。
 
 気がつけば、皆の会話が響の話よりも家族のお話へ。
 
 正直話がそれて助かったけれど、それよりも皆の……この世界の皆の家族の話を聞いてると面白いなぁって。
 
 だから、よく思うよ。ナンバーズの皆がちゃんと普通に生きていけるんだって事を。
 そして、同時に。この世界は……すごく眩いんだなって。
 


――side震離――

「響のお父さんって、あんなにそっくりなのはいいことねん」

「えっ?」「……えっ?」「……?」

 夕食早々のキリエの言葉で、響とサトの動きが完全に止まって、はなだけは首を傾げながらお吸い物を啜ってる。その様子を見て七も首を傾げてるし。
 慌てて、心当たりのある人をって探すと。
 フェイトさんは目を見開いて固まってる。おそらく知らない反応だわ。
 はやてさんは、何事? って訴えるようにこちらを見てるし。さっきまで一緒に居たから知るわけないけど、こっちも知らないんですよね。
 ギンガは、すごく気になるって顔をしてるけど、ちっちゃいギンガは対称的に顔を輝かせてるし……なにか知ってるな。
 流は……あ、なんか気づいたみたいで目元を覆ってる。
 スバルは……あぁ、ちっちゃい自分や、中島家のちびっ子達と気になるねーって姉ちゃんしてるわ。
 奏は、なにか知ってるみたいだけど、こっちに目を合わせること無く、ただ無心でご飯食べてるし……。
 
(へい流。響のお父さんって、この世界ではまだ確認取れてないけど、何で知られてんの?)

 すぐに事情を話してくれそうな流に念話を飛ばして。話を聞き出そうとするけど……。
 こちらに強い視線を感じて、そちらを見ると。

 ―――どういう事!? 俺のお父さんって何!?

 アイコンタクトで響が訴えているわ。サトもそれなりに気になるらしくて、視線こっちに向けてるし。
 念話が出来たら楽だけど、現時点の響では魔力を上手く扱えないせいで念話出来ないのよねー……。

 ―――あー、落ち着け黒髪ロリっ子。

 ―――うるさいわ。で、お父さんってどういう事?

 ―――少し場を繋いで。流に確認取るから、多分知ってるだろうし。

 ―――了解任せろ。

 すぐに響は、キリエの方を向いて適当に合わせる。同じ黒髪だからねとか、そんな感じで。
 話の感じからはおそらくお母さんを、琴さんをイメージして話ししてるなぁって。
 はなも話をしてるのは、サトが念話で話を合わせるようにフォローしてるんだろう。

(あ、ごめんなさい震離さん。少し忘れてしまってて……)

(いんや、平気だよー。で、何か知ってる?)

(響さんのカードに、響さんのどっちの姿も出てるんですよ。そう言えば渡さないように釘を刺すのを忘れてしまって……)

(なるほど、じゃあ別にお父さんの姿が割れた訳じゃないんだね)
 
 それなら安心と、胸を撫で下ろす。正直響に……この前のヴィヴィオと、覇王(・・)と名乗ったあの子達の存在を知ってると、どう伝えていいのか分かんないのよねー。
 まぁ、それはさておきで。
 すぐにサトへと連絡。そして、事情を伝えるとすぐに把握してくれたようで、はなにもそれを踏まえた上で指示を出すのは流石だ。

 で、こちらも……。

 ―――あー、了解……なるほど、幼い方のフェイトに渡したカード。あれかぁ。

 ―――自業自得だ馬鹿者め。ただ、何でそうなったのかはおそらく奏がなにか知ってるんだろうけど……。

 ―――さっきからこっち見ないもんねー。了解、合わせるわ。

 アイコンタクトで言葉を交わせるこれって、よくよく考えれば頭おかしいよねー……以心伝心出来てるってことなんだろうけど。
 なんかこそばゆいなぁ。
 ふと、また視線を感じてそちらを見ると、 

(震離! 響のお父さんってわからないってことだったけど何で!?)

 すっごい目力でこっちを見るフェイトさん。初めてみたわ……。
 
(あー、まぁ、流れで察してあげてくださいな)

(あと、小さい私が、私と違うユニゾンリライズ……だっけ? をしてたのは、あれは何?)

 うわ、しかもどこから映像見たらしく、情報仕入れてるし。
 仕方ないから、事情を話して……。

 ――――――

(……え、ずるい。私も欲しい!)

(それは本人に言ってくださいよ。それに、その布石はあったでしょうに?)

(……ぅぅ、確かにそうだけど……)

 思い返せば、初手のレヴィ対響の時、最初にフェイトさんとユニゾンリライズして、キリエとの試合は本来のユニゾンというか、ユニゾンリライズしてたしね。
 はなを除いた6人で一番ブレイブデュエルに適応したのって響だったんだよね。
 皆は何時も通りに近くても、響からすれば出来ないことが出来るっていうのはすごく嬉しかったんだろうなぁ。

(ま、その辺のあれは自分でどうぞ。フェイトさんも本来の響を父親って言われているのでフォローして下さいよ?
 多分この後聞かれるでしょうし)

(う、頑張る)

 あとは、完全シャットアウトしてる奏に伝えりゃいいんだけど。さっきから気まずそうにしたままで、目を合わせてくれないし。
 はやてさんにも後で説明するとして……面倒なこと……いや、見方を変えれば面白い事をしてくれたなぁ、本当に。

 それにしても。
 
 こっちの世界のフェイトも、響に興味を持ったのはちょっと意外。
 いや、本能的に気づいたのかな? 大きいほうが意識を向けてるのが分かるのか、それとも別か。
 アリシアじゃないけれど、何時もはなのはー、なのはーって言う子が、違う子に熱心になるとは世の中わからないよねぇ。

 だからだろうなぁ。

「……むむむっ」

 こっちのなのはが澱んだ空気を漏らしているのは、決して気のせいじゃないんだって。
 響が本来の姿ならここまでこじれなかったんだろうけど、ロリっ子形態のせいで、同い年位に見えて変に対抗意識と言うかが芽生えてるし。
 実際、シュテルもレヴィも興味持たれてる相手っていうのもあるんだろうな。
 と言っても、妙な所で大人びて、おとなしかった女の子が、年相応に嫉妬しているのは見ていて面白いし、アリサやすずかも分かってて手を出してないし……やっぱ珍しいんだろうねぇ。

 まだまだ波乱が巻き起こりそうだなぁ。
 あー、天ぷら美味しぃー。


――side流――

「了承した。それならば今回は見送り、後に備えよう」

「ありがとうございます王様。シュテルも、レヴィも申し訳ない」

「いいえ。気になさらないで下さい。万全を期し備えることが出来る。直ぐに出来なくとも、楽しみにできる期間の間にいろいろ対策を置くことが出来ますし」

「そうそう、シュテるんの言う通り。大きい方のフェイト(・・・・)を倒す為にいろいろ用意できるし」

 今回やる予定だった、ダークマテリアルズの三人対、はやてさん、フェイトさん、なのはさんの代理として奏さんの対決。
 王様達はやる気満々だったけれど、問題はこちら側で……フェイトさんの嫉妬というか、響さんにひっつきに行ったり、奏さんがそそくさと姿を消したりで、なかなか足並みが揃わないんですよねー。

「それにしても……シュテル、レヴィ、フェイトにβテストの参加権は要らないと言われるのは想定外でしたね」 

 最終結果を伝えた所で、上位の面々に参加権の譲渡は後日ですと伝える前に。それぞれが辞退したのは驚いた。
 そして、その理由を聞いて納得できましたしね。
 
「……気になるっちゃ気になるよ。それは本当。
 でも、新しいことに意識を向けるより大きい方のフェイトを倒す。倒せなくてもいい勝負をしたいっていうのが僕たちの考え」

 王様の膝の上でゴロゴロしながらレヴィが言う。そんな様子を少しだけ羨ましそうに見てるシュテル。
 本当に仲が宜しくてついつい笑ってしまう。
 三人揃えば最強。そこにユーリを加えれば無敵。ユーリの代わりにフローリアン姉妹を入れれば不敗。6人でのレイドが始まった時、一番楽しみなチームなんですよねー。

「違う世界の未来の者達。我等が先駆者(フロントライナー)である以上、いい勝負をしなければならない。
 というのは建前だ。
 偶には王者ではなく、挑戦者として戦うのも悪くなかろ?」

「えぇ、いい傾向ですよ」

「ま、サトや震離、流が戦ってくれるというのなら話は変わるのだがな」

「でも、サトさんはこれから付き合ってくれるんじゃないでしょうかね。新しい……いえ、元のスタイルに戻すみたいですから」

「あぁ、良き事だ……雰囲気も大分和らいだ。これからが本当に楽しみだ……本当に」

 嬉しそうに、目を細め、膝上のレヴィの頭を撫でながら王様は……ディアーチェは言う。
 最初から、ずっとぶっきらぼうに、壁を作って居たサトさんに、レヴィ達と一緒に声を掛け続けていたのは本当に感謝しかありません。
 人を惹きつける物を持っているサトさん。だからといって、ディアーチェが動くとは思えなかった。
 レヴィも初めは強い人だからっていう理由だったのが、何時からか、それ以外にも遊びたいからって理由で声を掛けたりしてくれて、気がつけば八神堂、T&Hとも繋がりが出来て、少しずつ戻っていったのが。
 今回で完全に戻った……いや、きっとまだ整理は出来てないだろうけど、それでもだ。
 
「じゃあ、僕サトの所行ってくるー」

 王の膝上から跳ねるように起きたと思えば、そのまま軽い足取りで部屋を出ていくのを見送って……。

「相変わらず読めませんね」

「あの明るさには何時も助けられるが……のう、シュテル?」

「何でしょう、王?」

 レヴィが退いたことで、空いた王様の膝の上。今度はそこにシュテルが横になっている。

「さて、王、シュテル。私はお邪魔のようなので、コレで失礼しますね」

「む……」

「えぇ、また。お休みなさい……は、まだ早いですか?」

「フフ、まだ起きてますよ」

 困ったようにくしゃりと笑う王と、目を細めて微笑むシュテルを見ながら私も立ち上がる。

「鮫島さんは、どこで休まれてるかわからない以上……唯一の男ですので、偶にはゆっくりしたいので」

「「……あっ」」

「あって、なんですか? あって?」

 震離さんの前以外では、一応男……で通してるんですけどねー。忘れられがちというか、なんというか……。
 
 まぁ、何方でもいいんですけどねー……。
 
 
――sideリニス――

「分かってることだけど、娘と別れる時。私は泣くでしょうね」

 グラスの縁をなぞりながら、儚げな表情でプレシアは言う。
 それに同調するように、クイントさんも深く頷いてグラスを煽る。

「えぇ、私も。大きくなった二人と別れる時、きっと泣いちゃうでしょうね。
 正直、あの二人を見た時驚きましたし。全然違うって、こんな可能性も有るんだーって」

「えぇ、フェイトを見て驚いたわ。姿は成長した姿で美人だって言うのに、どこか人見知りの……そう、夢で見たフェイトに近かったわ」

 二人の言葉に合わせて相槌を打つように私も頷く。
 確かに、違う未来から来たというフェイトを見て、以前の事情も知っていたお蔭で受け入れることは容易でしたが……。

「……大きなギンガは必要以上に責任感を持っていて、大きなスバルは天然の明るさと言うよりも、何かを隠すように明るくしていた結果あの状態になった様に見えるのよねぇ」

 どことなく悲しそうにクイントさんは言う。
 私やプレシアのように、不思議な夢を見た人の一人でも有る。全てを聞いたわけではないですが、それでも聞いた話だと。
 その世界のクイントさんは子供が出来なかったらしい。そして、ある日、自分にそっくりな二人……ギンガと、スバルを引き取り育てたと。
 だけど、現実の二人とは違い、二人共大人しく、特にスバルに関しては人見知りも加わっていたらしく。
 その夢を見る度に、どこかやるせない気持ちを抱えていたらしい。

「「……でも」」

 二人の言葉が重なって、お互いに微笑んで……。

「先取りとはいえ、未来の姿を見ることが出来た」

「幸せそうに、楽しそうにしているだけで安心出来ました。特にギンガに至っては好きな人も出来たみたいで安心した……けど、振った野郎は許さない」

 メラっと、怒気が漏れ出すクイントさんに、私もプレシアも少し引く。
 だけどまぁ、分からなくはないかなぁ。私もティアナを振るような人とか、黙ってみてられない気がするし……。
 プレシアに至っては。

「一緒に来てたら、何で振ったのか問いただせるのに、残念ね……」

 貴女が言うと、冗談に聞こえないんですよねー。
 というのを堪えて、そう言えば昨日の未来の方のはやてさんが面白いことをぽろりと言ってたのを思い出す。

 ―――こっちのフェイトちゃんは、ほぼゴールに近いですし。うちはまだまだですし。

 二人は酔っ払っていて覚えていないようですが……こちらでいろいろ突っついてみようかなと思うこの頃。
 きっといろいろと面白い……もとい、いい反応を示してくれるでしょうしね。

「そう言えば、そのギンガを振った人の名前は分かるの?」

「ポロって言ってくれたら良かったんだけどねー。結局まだ吐かなかったですし。スバルあたりがポロって言うかなーと思ってるんだけど、まだまだです」

「……せめて名前くらいは知りたいわよねぇ」

「そうですねぇ」

 ……ふむ。こちらのスバルちゃんを見ている限り、嘘をつけそうにないですし。それは大きくなったスバルも同じ事のはず。二人が気づいてないだけで、実は言ってそうなものですが……。
 そう考えると、私から告げるのは不味いかしら? ただ、相手の人がどんな人かわからない以上、なんとも言えないですが。
 いろいろ話題を振って揺さぶって見ましょうか。


――sideアインス――

 昔から、主以外の皆からよく言われていた。

 ―――家族のことが好きすぎるよな、と。

 家族の皆には言ったことはないけれど、それには私の見る夢に関係している。
 朧気で、あまり実感のわかない夢だけれど、その中の私は、何時も泣いて、主だと思われる人たちが傷つき、シグナム達が悲しんでいるのを見ているだけしか出来なかった。

 それは変えられぬことだと、ずっと変えられないことだと私達は諦めていた……が。
 暖かい光を感じた時、それは大きく変わった。
 温かい食事に、居場所をくれた。もう戦わなくてもいいとさえ言ってくれた。
 夢の中だと言うのに、それは心に響いて……初めて見たときは泣いた覚えすら有る。
 ツヴァイと、アギトにすごく心配されたのは懐かしい。そこから派生して、ヴィータやシャマルも心配させて、シグナムも、ザフィーラも珍しくオロオロしていた。
 ただ、主だけは黙って……。

「あれ、どうしたん? アインス」

 振り向くと、そこに居たのは未来から来たという主はやて。大人びた笑顔を浮かべるその表情にドキリと胸が高鳴る。
 他の皆も行きたかっただろうに、偶には羽を伸ばせと送り出してくれて……結果。

「いえ、少し夜風に当たっておりました」

 この主を独り占めできる時間を得ることが出来たのだから。

 ――――――

「不思議な感覚やねー。アインスがここに居るの、くすぐったいようなそんな感じや」

「あぁ、確かそちらの私は、ツヴァイやアギトの代わりに留学していると仰ってましたね」

「そうやー。だからなかなか逢えなくてな、寂しい時も有るんよね」

「うぅ……なんで、そちらの私は……いや、多分連絡を入れたら逆に寂しくなるんじゃないかと思って……あぁでもしかし」

 そちらの私め、何故私がこんな頭を悩まさなければ行けないんだ。

「まぁ、遠い場所やし、想ってくれてると考えてるから問題ないんやけどね。はいどーぞ」

「……いただきます」

 主の酌で、お酒が飲める日が来るとは……シグナムやシャマルが知れば羨ましがるだろうな。
 
「ふふ、ほんま不思議な感覚や。こうして二人でお酒を飲む日が来るなんて」

「えぇ、家だとまだまだ先の出来事ですし、その頃にはきっと皆で飲む事になるでしょうから」

 お酒を一口含んでほっとする。

「主とヴィータはどうされたんですか?」

「ヴィータは遊び疲れてグッスリで。妹はフェイトちゃんをからかいに行ったよー。響のお父さんが気になってたみたいやし……フフフ」

「その割に、楽しそうに笑っていますね」

 怪しげな笑みを浮かべる主を見ていると、何か良からぬ事を考えているような……そんな気がするのは気のせいだと思いたい。

「しかし、周りの父兄を見ていると。皆若くて凄い人ばかりですね」

「……それは言っちゃあかんよ。皆若いし、普通にきれいな人ばかりやもん。ただ、アインス達も美人やと私は思うよー」

「いえ、そんな……」

 火が着いたように顔が熱を持つ。

「主こそ、すごく美人になっておりますとも」

「フフ、ありがとうなー」

 クスクスと笑う主。なんだろう、からかわれているように感じてしまう。

「今日は久しぶりにってことで、私が酌するよー」

「そんな。私がやりますとも」

「いやいや、私が」

「いえいえ、私が」

 お互いに自分がやると譲らなくて、ふと目があったと同時に。

「「フフ」」

 そんな様子が可笑しくて、お互いに笑ってしまう。
  
「今日はゆっくり呑もうなー」

「はい、お互いに。積もる話もたくさん有るでしょうしね、私で良ければ聴きますとも」

「……うん、お願いや」

 今だけのこの時間を噛み締めよう。

 
――sideはな――

「あー……結局響ってばここに来なかったわー……」

「ドントマインドです、ただ、代わりに……」

 向こうでぐだーってお布団に突っ伏しているキリエ様と、それを見下ろすアミタ様の視線の先に。

「私が来ました!」

「今日ははなで我慢するわー!」

「わー」

 突っ伏した体勢から、飛び跳ねるようにこちらに抱きつくキリエ様。
 パチパチと小さく拍手するユーリを見て、二人で笑う。
 主は相変わらず逃げに徹していると言うか、どこに居るか全然わからないんですよね。ついでに言えばサト様も居なくなってましたし。

「それにしても、響ってばお父さんっ子なのねー、本当に驚いたけど……はなはお母さん似?」

 おっと、初手から難しい質問が。一応主からはそういう風に応えていいと言われていますが。

「……えぇ、まぁ。少ないですけど」

 主のお母様と似てるなんて恐れ多いと言うかなんというか。

「こんないい子が二人も居るんだもんねー。キリエとしては、すっごく気になる所よーん」

「あはは、擽ったいですよー」

 ウリウリと頬ずりされると擽ったい。
 そう言えば、こういう事をされたことが無くて、元の世界ではスバル様がティアナ様にしていたのを思い出す。

「でも、何でフェイトさんの所に住んで……あ、八神堂のツヴァイ達のように留学ですか?」

 ユーリの指摘に一瞬ドキリとしましたが、すぐに留学の考えを伝えてくれて胸を撫で下ろす。
 予想をしていても実際に言われると対応に遅れが出てしまう。
 インテリジェンスデバイスの時、AIのときには無かったこの動揺、少しづつ少しづつなれていかなければ。

「はい、二人で……いえ、元は1人だけだったのを、私が追いかけて来たんですよ」

「お、ということははなはお姉ちゃんっ子……だから、アミタとも相性が良いのねー」

「フフ、そうですね~」

 ふと、アミタ様と目があって。
 お泊りの初日に問題起こし掛けましたけどねーとお互いに笑って。

「旅行の最後の夜だし、今日は女子会よー」

「と言っても、男性居ないのでずっと女子会ですよキリエ」

「ほとんどいつもどおりですしねー」

 キリエ様の言葉に続いて、アミタ様、ユーリと続く。
 確かに、男性……と言っても、主は今女児ですしね。仕方ないですこれは。

 ……だけど、話せば話すほど、触れあえば触れ合うほど。私はまだ人を十分に理解できていないんだなと。
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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