ヘルウェルティア魔術学院物語
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第七話「注意」
「ねえねぇ、エルナンくん」
入学式の翌日、今日から本格的に授業が始まっていくが俺の心はかなり落ち込んでいた。何せ入学式の日に校庭の的を燃やしあわや大惨事になるような騒ぎを起こしたからだ。幸い退学処分にはならなかった。ディートハルト先生曰く「この位で生徒を退学にしていては魔術学院を卒業する者はいなくなる」らしい。つまり卒業生は大なり小なり似たような騒ぎを起こしているらしい。まあ、ここ魔術学院だし気持ちは分かるよ。ただ、入学式でやらかしたのは学院史上でも初との事。こんな事で初めてを飾りたくはなかったな。
そして気持ちが沈んだまま教室に入ると一人の女子生徒に声をかけられた。確かレギーナ・フォン・シュレックだったか?出生地は分からないけど「フォン」が付くと言う事は帝国若しくはその周辺国の貴族の出なのであろう。とは言え魔術学院は基本的に平等に扱われるため貴族の権力など通用しない。というより合衆国にある魔術学園に行く連合王国を除き大陸全ての魔術師の卵がやって来るこの魔術学院では一国の貴族の権力など意味がないからな。
「昨日校庭でボヤ騒ぎを起こしたって本当?」
「え、ええ。少し、やりすぎちゃって。…もしかして結構噂になっている?」
「多分ここの人たちは余程噂に疎くない限り知っていると思うよ」
「そ、そうなんだ…」
自業自得とはいえ噂が広がるのは早いな。俺はともかくルナミスさんがこの件で不利益を被ることがない事を祈るばかりだ。流石に俺の実験で手を握っていただけでボヤ騒動の加害者になるのはかわいそう過ぎるからな。
「何でも魔術学院始まって以来の事らしいね。しかも入学したばかりのGクラスの生徒がやったから他のクラスの人たちは皆悔しがってたよ」
「え?何でですか?」
「だって二年生や三年生のGクラスは別として基本的にGクラスの人は入学段階で実力が低い人たちが入るクラスだよ?それが入学初日で上級魔術を使ってボヤ騒ぎを起こすのだから他のクラス、AやBの人たちからすれば馬鹿にされてると取れるからね」
「…ああ、なるほど」
確かにAやBからすれば入学ほやほやの、言い方は悪いが実力が自分たちより実力の低いGクラスの生徒が上級魔術を使ったなら驚きや嫉妬を感じても可笑しくはないか。
しかし、そう考えるとルナミスさんがかなり心配だな。後で伝えておくか。
「…レギーナ」
「あっ!おはようアンネ!じゃあ、それじゃ私は行くね」
「こちらこそ。早めに知れてよかったよ」
レギーナは友人と思われる少女、確かアンネ・フォン…家名は思い出せないが帝国出身の貴族令嬢だったはず。その少女の元に向かって行った。
「お前ら席につけ。ホームルームを行うぞ」
ちょうどルナミスさんが教室に入ってきたため伝えようと思ったがディートハルト先生がやってきた為後で話すか。そのディートハルト先生は昨日はあまり眠れていないのか目の下には軽い隈が出来ていた。恐らく昨日の件の後始末で眠れてないのかもしれない。…先生、ごめんなさい。
「今日から本格的に授業が行われていく。先ずは月一で行われる実力確認テストに向けて頑張ってくれ。とは言え一月ほどで実力がぐんと伸びるなんて稀だがな」
そう言うディートハルト先生はちらちらとこちらを見てくる。別に入学試験の時から一気に成長したわけじゃない。魔力抵抗のせいで発揮できない本来の実力を使った感じだ。
「んじゃ次の連絡だが…」
ディートハルト先生はそう言って次の内容を話すが特に重要とは思えないことだらけだ。せいぜい研究会についての説明くらいだろう。研究会に夢中になりずぎて退学になった者もいるから気を付ける様にと言っていたな。
さて、そんな事より今はルナミスさんの元に行くか。
「ルナミスさん、少しいいかな?」
「あ、エルナンさん。何でしょうか?」
ホームルームが終わり授業が始まる少しの時間に俺はルナミスさんの元へ向かう。因みに昨日この教室に積み上げられていた荷物は昨日のうちに撤去されたらしく登校して来た時には机といすが奇麗に並んでいる状態になっていた。
「実は昨日の事で一部の人が敵意を持っているみたいなんだ。もしかしたらルナミスさんにも何かされるかもしれないから伝えておきたくて」
「そうだったんですか…。分かりました。私も気を付けておきます」
ルナミスさんはそう言って微笑むが元々俺の事情のせいで巻き込んだみたいなもんだからな。何かしてやれれば…、そうだ。
「ルナミスさん、突然だけど今日の放課後って何か予定ある?」
「…いえ、特に用事はないですけど…」
「ルナミスさんさえ良ければいくつか魔術を教えようかなって」
「ほ、本当ですか!?」
ルナミスさんは若干食い気味で聞き返す。まあ、ルナミスの使えた魔術ってほとんどが下級魔術だったしな。中級魔術の一つや二つ覚えたい気も落ちがあるのかもしれない。俺は自慢じゃないが公国にいた頃にみっちりと魔術の勉強をしてある。使えなくとも教える事ぐらいなら出来る。
「いざと言う時に仕える魔術や他にも護身術なんかを教えようと思うけど…、問題ない?」
「勿論です!ありがとうございます!」
ルナミスさんはそう言って笑顔で手を握ってぶんぶん上下に振る。よっぽどうれしいのか腕が引きちぎれそうだ。
暫くの間そうしていたが漸く正気に戻ったのかハッとした顔をした後に顔を真っ赤に染める。よくよく見れば首や腕まで真っ赤になっている。。恐らく前身真っ赤になっているんだろうなぁ。
「ご、ごめんなさい!私ったら急に…っ!」
「別に何ともないよ。それだけ喜んでもらえるなら教える方としてもやる気が出るよ」
魔術を勉強してから人に乞われる事なんて無かった。公国における魔術とは下等な物であり使う人間も同じく下等と言う風評があったからだ。そんな中で俺に教えて欲しいと言う人なんていなかった。だからこそ、ルナミスさんの行動はとても嬉しかった。
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