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ヘルウェルティア魔術学院物語

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第八話「練習」

「さて、教える前にルナミスさんの実力を見せてくれる?」

放課後、俺は約束通りルナミスさんに魔術を教えるために校庭にいた。流石に前回のような事をやらかすつもりはない。あの時は少しやりすぎたと今なら思うしよく教師陣からの御説教だけで済んだなって思うよ。最悪退学になっても可笑しくなかったな。

「えっと、何をすればいいでしょうか?」
「うーん、取り合えずあの的に向かって得意な魔術を使ってみてくれるか?」
「分かりました」

ルナミスさんはそう言うと杖の先を的に向ける。的は少し離れた場所に置いてあり丁度意志を投げて届くくらいの距離だ。
ルナミスさんは杖先に魔力を貯まっていく。やがて杖先には小さな風の塊が現れる。下級魔術の「ウィンドボール」だ。ルナミスさんは風の球体を射出する。それなりに早いが目で追えない程ではないし不意打ちや至近距離じゃなければ避ける事が出来るだろう。
球体は的の真ん中に命中する。基本的に魔術は距離が離れれば離れるほど命中率が下がる。故に上級魔術などは高い威力と広範囲に命中するようなものばかりだ。俺が昨日使ったクリムゾンスフィアも速度や命中率を殺して広範囲に火炎をばら撒く奴だったからな。

「……えっと、こんな感じでしょうか?」
「うん、いい感じだね。ただ、見た限りもう少し魔力を込めても良いと思うよ。そうすれば威力も速度も上がるだろうし。命中させるのは難しくなるかもしれないけど今ので安定しているなら大丈夫だと思うよ」
「分かりました。やってみますね」

そう言ってルナミスさんは再びウィンドボールを放つ。先程よりも魔力が込められており球体が少しだけ大きくなっていた。そして速度は先ほどよりも早く威力は先ほどよりも強かった。そして、命中精度は落ちていなかった。

「うん、いい感じだね」
「エルナンさんは魔力制御が得意なんですか?」
「んー、まあ。そうだね。あのスキルのせいでね」
「あっ、……ごめんなさい」
「大丈夫、別に気にしてはいないから」

そう言って俺は笑う。実際このスキルのせいで苦労はしているが既に何年も付き合っているスキルだ。

「さて、ルナミスさん、次だけど……」
「はい。何をすればいいですか?」
「悪いけどもう一回何か使ってみてくれる?今度は別の魔術で」
「は、はい!分かりました!」

ルナミスさんは再び的に向けて魔術を発動する。先程はウィンドボールであったが今度は冷気が集まっていく。恐らく下級魔術の「アイスボール」だ。やがて拳ほどの大きくなった氷の弾は的に向かって飛んでいき的を粉砕した。木製であった事とそれ程強度があるわけではないため脆くはあったがまさか的を破壊する程の威力があるとは思っていなかった。
とは言え先ほどと同じように速度は大してないため動く相手なら簡単に避けられるだろう。恐らくルナミスさんの欠点の一つだ。

「えっと、どうでしたか?」
「うん、何となく分かったよ。先ずは二つの魔術についてだけど命中精度、威力、共に申し分ないけど速度がない。あれじゃ的は百発百中を狙えるけど変則的に動く、例えば試合とかだと一気に命中率は落ちると思う。厳しい言い方をすれば【練習でしか活躍できない】、それが今のルナミスさんだと思う」
「な、成程。確かに私は他の人より魔術の発射速度は遅いですし……」
「そして次に、ルナミスさんは魔術を使用した後に少し膠着するよね」
「は、はい。魔術を使った後は大体固まってます」
「それだと試合や実戦ではいい的だよ。だから硬直しないようにしないと」
「わ、分かりました!」

その後は速度を上げるように意識しながら魔術発動後の硬直を無くす事を中心に練習を行った。流石に目に見えての変化は対してなかったけどルナミスさんはいい練習でしたと喜んでくれていたからな。
練習は日が暮れ始めるまで行われその後はルナミスさんと別れた。ルナミスさんはそのまま帰ったが俺は暫くの間魔力制御や魔術の練習を行った。その時に如何に自分のスキルが重いデメリットなのかを改めて理解した。
本来ならこのスキルは騎士には向いているのだろう。魔術が効きづらい相手など敵からしたら厄介だろう。とは言え最近は銃の発展により接近戦なんて時代遅れとなってしまっていたがな。

「……賑やかな町だな」

練習を終え帰路につく中俺は所どころで騒がしいベルンの街を見てそう呟く。故郷の公国では夜にこんなに騒ぐことは出来ない。魔獣が出るからだ。
魔獣は魔力を持ったがために暴走した獣たちの事だ。基本的に獣は魔力を持っていない。それが何らかの理由により魔力を体内に有してしまい体が魔力に適合しようとした慣れの果てだ。基本的に理性などなく騒がしいところに出ては見境なく襲う。公国以外の国では国を覆う程の結界により魔獣はほとんど発生しないが魔術後進国である公国は結界などない。だから国中で魔獣の被害が相次いでいる。故に人々は魔獣が最も活発化する夜には家に籠り朝まで出てこないのが一般的だ。
既に見慣れた光景とは言えいつ見ても俺の心を軽くしてくれる。世界には自分の知らないことがまだまだたくさんある。そう思わせるのだから。
 
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