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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:05 他のお家の場合、夢の中の私と


――sideはやて――
 
「……なんか。はやてが二人居るのは……落ち着かない」

 その言葉を皮切りに、ヴォルケンの皆が深く頷いたのが見えて……。

「「あ、あはは」」

 小さな私と二人で笑う事しか出来へんかった。

 ことの発端は少し前に遡るんやけど。
 
 震離が運転するワゴン車に揺られて小さな私とヴィータ、そして私の三人はこの世界のお家へと送り届けられた。
 
 そこは夢の中で見たことのある古書店。古風的な雰囲気のある静かそうなそんな場所。

 トテトテと歩く小さい私の少し後を慌てて追いかけるヴィータ。何度もこちらに視線を向けては、直ぐに逸してるのを見てると。夜天の書が起動して皆と初めて出会ったあの時を思い出すなぁと。

 向こうからやとどう接して良いのかわからないんやろうけど、実は私も難しいんよね。こちらは知ってるのにーというのが強くてなぁ……。

 だけど、そんな事考えは一瞬で吹き飛んだ。

 小さな私を出迎えようと、奥からパタパタと走ってきた銀髪の女性。それは、あの雪の日に別れた―――

「……え、はっ?! 主が……分裂しておっきくなっ……た……?」

「「なんでやねん」」

 ……こんなにポンコツやったっけなーって。

 その後も、シグナムやシャマル、ザフィーラと会って皆が一同に驚く中。小さな私が説明をする。少しだけ異なる歴史を辿った未来の私が事故で来てもうたって。
 だけど、皆の表情が優れなくて話を聞いたら。
 
「……なんか。はやてが二人居るのは……落ち着かない」

 ヴィータのその言葉を皮切りに、ヴォルケンの皆が深く頷いたのが見えて……。

「「あ、あはは」」

 二人で苦笑い。しかし、このヴィータの発言から察するに。

「んー、やっぱり私違う所泊まろうか? なんか皆困っとるみたいやし」

「……えっ?」

 ヴォルケンの皆が固まった。それは言ったヴィータも。

「……せめて一日だけでも、あかん?」

 小さくとも流石私。意思の疎通は完璧や。でも私も小さな私と話を……。

 なんて考えてたら。

「ち、違う。おっきなはやてと話ししたいんだけど、どう言い分けて良いかわかんないだけで、出てけってわけじゃない!」

 半泣き気味のヴィータに。

「そうです! せっかく大きなはやてちゃんが居るなら、色々出来ますし!」

 慌ててそれに相槌を打つシャマル。

「そうですとも! 我ら騎士一同歓迎です!」

 ザフィーラも。

「我ら騎士と同世代の主を先に見れることは良いことです!」

 アインスも叫ぶ。

「……ということなので、是非泊まって下さると我ら騎士一同は喜びますとも」

 苦笑するシグナムが最後にそう締めくくると。皆が大きく頷いて……。

「……平行世界でも皆は皆やなぁ」

 それが可笑しくて。つい笑ってもうた。
 何よりも、もしアインスが居たらこんな風だったんやろうなぁって。

「そしたら……どないしようか、未来の私?」

「どうしようなぁ。ちっこい私?」

 少し考えるけど、私は別になんでもええんやけどねー。ちっこい私にはやてって呼ぶのもちょっと違和感あるけど別に全然かまへんし。

「あ、じゃあ……大姉やんってどう?」

「……どっから姉やんってきたん?」

「王様を、ディアーチェを冗談で姉やんって呼んでるんよ。そこからとって大姉やん。どうやろ?」

 ……少し考えて。ひらめいた。

「なら、私も妹って呼ぼうかな。目指せ打倒テスタロッサ&ナカジマ姉妹&緋凰しま……ブフォ!」

 三組目をいい切る前に、今頃女の子扱いされてる響を想像して、思わず吹き出してもうた。あかんあかん。きっとあっちはあっちで大変な事になっとるはずやのに……吹き出してる場合ちゃうわ。
 コホンと咳払いをしてから。

「まぁ、それは良いとしても。じゃあ私……同じ声やからこっちじゃ私はうちって呼ぶよ。そして、小さな私は……なんて呼ばれたい?」

「んー、あんまり考えたことはないんやけど。妹ーでええんちゃう?」

「雑やねー。でもまぁそれでええか。よろしゅうな妹?」

「こちらこそ大姉やん?」

 お互いに笑い合う。傍から見れば変な風に見えるかもしれへんけど、それでもや。もしも、私に妹が居たらこんな感じにしてたんかなぁって。

 で、や。

「……で、未来のヴィータはナイスバディ?」

「……ノーコメントで」

 あ、ヴィータが膝ついた。あ、泣いた。アインスが慰めてる。

 ――――――

「……海鳴の頃のお家とはえらい違うなぁ」

 カポーンと先にお風呂をどうぞって言われて先に頂くことに。私も手伝おうかー言うたんやけど、初日くらいはお客様待遇でって事で今回はそれに甘える事に。
 それにしても立地場所もぜんぜん違うし、こっちは都市部というか、本屋の都合もあるからビル街の中で、私達が住んでたのは普通に住宅街やったもんなぁ。えらい違いやで全く。

 ゴシゴシと体を洗っていると、トン、トンと、お風呂場の扉が叩かれて。

「はーい?」

「はやて……姉ちゃん。一緒に入っていい?」

「ええよ。おいでー?」

 ふふ、なんやヴィータに姉ちゃん呼びされるとくすぐったいわ。

「お邪魔……します」

「はいどうぞー」

 と、入ってきたはいいものの、コレと言って会話は無くて、自然な流れでヴィータの頭を洗ったりして、そのまま一緒にお湯に漬かって。

「……あの未来の……違う世界って分かってるんだけど。そっちの私達ってどうなってんの……ですか?」

「フフッ」

「?」

 ダメや、堪えきれへんかった。

「好きな口調でええよー。同じ私が居るからあれやけど。楽にしてくれるとわた……あー、うちも嬉しいし」

「……ほんと?」

 湯船の中で首を傾げるヴィータの頭を撫でながら。大きく頷いて。

「ほんまや」

 不安そうにしてた顔が徐々に明るくなって。

「じゃあ、あの……未来の事教えて!?」

「ええよ。何から話そうかなぁ。ヴィータも色々話してな?」

「うん!」

 それからは色々と……まぁ、ある意味本当の事やったり、少し驚いたのが、こっちのヴィータもゲートボールをしてて、今でも交流があること。
 他にもリイン……私達の方のリインフォースツヴァイ。こっちでもリインって呼ばれてるみたいやね。
 リインとアギトが留学してて寂しい事。妹二人が向こうで寂しがってないかいつも心配みたいやね。

 次いでこちらのこと。皆で話し合って突貫でも、こちらの世界の皆を悲しませないという約束をしたから。それに沿って。ちょっと嘘をついた。
 私の世界のアインスは、リインやアギトの代わりに留学をして、そのまま離れてお仕事に努めてるという事。そして、皆はそれぞれ夢を叶えて、ヴィータなんかは学校の先生(戦技教導官)になれそうって事を話した。
 まぁ、こっちのなのはちゃんが病室で暇だからって世間話のついでに誘ってるらしいし、ヴィータもまた満更でも無さそうやから、時間の問題やろうしね。

 それを聞いたヴィータは、不思議そうに首を傾げながらも、嬉しそうに話を聞いとった。

 ……正直ちょっと……ほんのちょっぴりいいな(・・・)と思ってしまった。

 こちらのヴォルケンの皆は「普通」で、「人間」という事。ということは、皆日々成長していること。私達の世界のあの子達が望んだことや。
 皆が私の元で生涯を終えると誓っているのは知っている。そして、私という不安定なコアのせいで皆のシステム面で障害が発生していることも知ってる。
 だからこそ、私の世界のヴィータやザフィーラは怪我の治癒が遅れてるんやし。

 でも、皆それを受け入れて、私と共にあると約束してくれた。

 一人ぼっちの女の子に光をくれて、生きる希望を与えてくれて、そして、私は私の夢を追いかけることが出来てる。それはヴォルケンの皆が支えてくれて、あの子(アインス)も見守ってくれとる事。

 だから、私はこの世界の私の生活をいいな(・・・)と思うことはあっても、羨む(・・)事は無い。

 せやけど……。ちゃんと小学生をしてるヴィータは、こっちにはない可愛さを持ってるなぁって。

 ――――――

「ありがとうなー、妹ー、いいお湯やったでー」

「それは良かったわー。あ、アリシアちゃんから連絡で、黒髪の……せや、響ちゃんの写真が来たんやけど」

「へーどれどれ……ブフッ!」

 全力で吹き出しました。膝下まで伸びるフリルがたっぷり付いた真っ白なゴスロリネグリジェ。スカートの裾を抑えて少しでも下に下にしながら、真っ赤に俯いてる。
 しかも普段とは違って髪も縛って無くて、下ろしてるせいで何時もと雰囲気が異なる。しかも真っ黒の超ストレートのせいで凄く白いネグリジェがよく映えてるのが……。

 ほんま面白くて吹き出してもうた。

 だからこそ……。

「あ、明日から……フフフ……いろんな……ブフッ、服着せようかな」

「? なんで爆笑してるのかは置いといて、ええなぁそれ。皆は学校やけど、私は書店に居るからこっちに来てくれたらええしね。色々用意しておこー」

 ハイタッチを交わす中で、ヴィータだけは、画面の響を可哀想に見とった。

 せやけど……。

「……んー。なんかサトに似てるような?」

 その言葉を聞き逃してしもうたのが痛かったと、後の私は後悔した。
 


――sideギンガ――

 震離から注意点を受けた時、驚いた反面。とっても素敵だなと思えた。

 ナンバーズのあの子達もこの世界では普通に生きて、暮らしているんだと。

 それは私やスバルは多少の換装はあるものの成長(・・)することは出来る。だけど、ナンバーズの子達は違う。多少の生理現象は残っているものの、それでも体の成長は出来ない。多少の違いはあれど、生まれたときからずっと同じ姿で生きるということ。

 だから、こういう可能性もあったんだと頭の隅に入れておいて欲しい、と。

 そして、どうか。この世界の家族の関係をしっかり考えてね、と。

 ただ……スバルには徹底的に何かを教え込んでたのが印象的だったなぁって。

 ――――

「……すっげーっす!!」

「コレは驚いた。ギン姉がすっごく美人な人に。スバルも更にイケメンになってるなんて」

「ギン姉もスバルねーちゃんも格好いい……」

「姉上とスバルであれほど伸びているならば、私の成長期もまだ可能性があるな」

 話は聞いてたし、小さななのはさんや、フェイトさん、ティアナを見てきたからある程度覚悟はしていたつもりだけど……。まさか、ウェンディや、ディエチ、ノーヴェが幼くなってるのは予想外で、皆良い子そうだ。
 ただ、ごめんね。チンク。
 多分きっともう……チンクの成長は望めないかなぁって。人知れず涙が零れそうになった。

「でっしょー? 大っきな私も、ギン姉もすっごく格好いいでしょー? ねぇギン姉?」 

「うん。その上すっごく強かったよ」

 小さなスバルや、小さな私が嬉しそうに話す側で。私達を送ってくれた震離は、お母さん(・・・・)を連れて、お隣へ行ったらしい。何やら事情説明があるらしいけど……なんだろう?

 ふと、視線を横に向けるとスバル―――大きなスバルがプルプルと震えながら俯いてるのに気づいた。
 そして、顔を上げた瞬間。小さなノーヴェとウェンディに抱きついて。

「かっわいいよぉおおお!!」

「わー、スバルねーちゃん。力持ちだー! すげーっす!」

「スバルねーちゃんくすぐったいよー」

 ……可愛いもの好きだもんねぇ。ただ、見てて面白いのが小さなスバルが羨ましそうにそれを見てる事かな。

「あの、その……私……じゃなくてギンガ……さん?」

「はい?」

 小さな私から話掛けられるけど、今一お互いに呼びづらくて。お互いに苦笑い。どうしようかな、と考えてると。

「じゃあ、大っきなスバルねーちゃんは、スゥねーちゃんって呼ぶっす!」

「うん、よろしくねー!」

 ……流石コミュニケーションの高さに驚いたなぁと。ふむ、その理屈で言うならば。

「なら私は……ギンさん?」

「わ、私は姉さんって呼びますよ!」

「フフ、ありがとう?」

 自然と小さな私の頭を撫でて。小さな私も最初は抵抗あったようだけど、直ぐに受け入れて……。

「ギン姉が甘えてるー珍しいー」

「一架姉達と違って正統派の姉だ。ああなるのも当然……だが羨ましいな」

 近くでそれを眺めてたチンクとディエチの頭も撫でて。

 ……すっごく昔を思い出すなーって。なんというか、まだ人見知りの強かった頃のスバルを、何となく思い出して。

「あら、震離ちゃんの言う通りだったわ」

 瞬間、私とスバルの動きが固まって。その声の方を見て。

「流石私の娘たち。すっかり美人さんね」

 懐かしい声で、最後に見た時のままで、何時も見せてくれた笑顔を携えて。

「おかえりなさい」

 想い出の中のままの母さんがそこに居た。

 ――――

「えー、そっちの世界のギン姉ちゃんと、スゥねーちゃんって、パパリンと一緒に離れて暮らしてるんっすか?」

「うん。だから、久しぶりに母さんを見れたなーって。と言っても何時も写真とかもらってるし」

「そうだねー」

 皆でご飯を食べながら、ウェンディの質問に二人で応える。と言っても嘘……になるんだけど、私もスバルもそれは顔には出さない。だって、本当の事を話したら驚くどころか。色々心配させてしまうかもしれないから。

「うーん。ゲンヤさんも居たら良かったんだけど、生憎外国の学会に参加してるのよねぇ。だから写真は一杯残させてね?」

「……うん、私も一杯取りたいし、ね。ギン姉?」

「……うん」

 嬉しそうに頬杖を突く母さんを見ながらスバルと目を合わせて頷く。でも……。気を抜くと泣いてしまいそうだ。

「ぅー、明日学校休みになればいいのにー!」

「スバルー無茶言わないの。終わったら沢山遊べるでしょー?」

 小さなスバルとディエチがそんな会話をしていて。そうか、と思う。この世界の皆は普通に子供で学校に通ってるんだって。
 私達の小さい頃って通信教育だったし、訓練校に通うまではあんまり友達も居なかったなーって。

「それに明日と、明後日を超えれば、待ちに待ったシルバーウィーク。そして、旅行だ。楽しみではないか」

「そうねー。沢山の人と温泉旅行楽しみね」

 チンクと小さな私の会話を聞いて、そう言えばそんな事を震離が言ってたなって。

 曰く、今日戦ったメンツとそのチームメイト合同でちょっとした温泉旅行へ行くことになってるんだーって。

「スゥねーちゃんと、ギンねーちゃんも一緒に行こ? ()も行くって言ってるし」

「う、うん。余裕があるなら参加したいなーって」

 あははと笑って応えるけれど、その中で聞こえた()という人物の事を考えると、ナンバーズの7、セッテの事なんだろう。
 確かナンバーズの大半はいるけれど、セインとオットー、ディードは海外にいるって言ってたっけ。
 何とか写真を見てみたいなぁって。

 気が付けば食事も終わり、小さいスバルや、ウェンディは慌てて宿題に取り掛かってる間に、私とスバルは食器の片付けの手伝いをしながら。

「ごめんね。二人共。それにしてもあのスバルがこんなに大きくなるなんて、母さん感激だわ」

「……うん、一杯食べて一杯体動かしてるから。そのせいかな」

 ぎこちないけど、嬉しそうに母さんと話すスバル。そんな二人を見ながら私も嬉しくて。

「そうだ。チビ達の部屋にって思ったけど、今日は二人共私の部屋で寝ない? 色々……差し支えない程度に未来のお話を聞かせて欲しいわ」

「「喜んで!」」

 些細な会話が嬉しくて、それがとっても懐かしくて……。

「ということであんまり差をつけないからそのつもりでね? さ、お風呂入っておいで。さっき震離ちゃんから、いくつか洋服や下着もらったから着替えは心配しなくていいわよ」

 い、いつの間に……。だけど、洋服とか無いと困るのは確かだし、次あったら御礼言わなきゃね。

「あ、ギン姉さん。我が盟友から写真が送られてきたんだが、この人物を知ってるのか?」

「へ、えーっと……あら、可愛い!」

 チンクの持つ携帯端末の画像を見ると、思わず口から漏れちゃった。真っ白なネグリジェを纏って髪を下ろした響。そして、それを見て隣で爆笑してるスバルと、状況をよく飲み込めていないチンクと母さん。

 私が響の設定……もとい事情を話してあげると。

「フフフ、なるほどそういう事。スバルもひらひらしてるの着ると嫌がるもんね」

「ぅ、まぁ……うぅ」

 笑う母さんに言われて、スバルの顔が赤くなる。確かにスバルもそういう服苦手だもんね。

「さ、チンク達とお風呂入って寝る準備をしなさいな?」

「了解だ母上」

「わかったー。チンク……姉。一緒に入ろう」

「うむ! そろそろノーヴェ達も宿題が終わる頃だろう。一緒に入るか」

「いいねー」

 ……本当に順応が早いなぁ。すっかり仲良しさんに。

「そしたら、ギン姉さんは私達と入ろう?」

「うん。よろしくねディエチ?」


――――


「……いやぁ、お風呂凄かったねぇ。そのあっち(ミッド)のお家と全然違うもんね」

「そうねぇ。なんというか日本家屋の片鱗を見たわ」

 二人で苦笑を浮かべつつお風呂を思い出す。4人も入ったら一杯一杯なのに、それでも何処か面白くて、楽しくて。
 4人で湯船に入ったらお湯の量が増して溢れるか溢れないかくらいになって。

 そんな日常が、少しいいなぁって。

 実を言うと、元の世界のナンバーズの子達との仲はあまり宜しくない。というより、未だに溝がある。海上施設に移動を決めた子達は、まだこちらの方がマシだからという気持ちの部分が強いらしい。
 あの時無理やり戦わされなかった、チンクやディエチ、セインはまだ協力的だけど、他の姉妹の子達はまだまだ掛かりそう。
 特にノーヴェに至っては、私達と……母さんから生み出された関係もあってまだまだぎこちない。

 時間が解決するかもしれない。だけど、仲良くありたいというのも事実で。難しい事だ。

 でも―――

「……仲良く、なれるよね?」

「えぇ、きっと」

 布団を敷きながらスバルの問いかけに、その意味を理解しているからこそ応える。

「帰ったらしっかり話そう。この出来事を、皆に」

「うん!」

 二人で拳をぶつけて―――

「なーに二人で話してるの? 内緒話?」

 襖を開けながらパジャマ姿の母さんが入ってきて。ちょっと驚く私達。そんな様子を見て軽くため息を一つついた後。

「深くは聞かないけれど。それでもあなた達は私の娘で、子供であることは変わらないでしょう?」

「? 勿論」

 スバルがその言葉を理解してるかどうかは置いといて、この問いかけ方は。

「さ、湿っぽいことよりも、色々お話聞かせてもらおうか! ……ところで、好きな人とかって出来たの?」

 カラッと笑ったと思えば、口元を手で隠しながらニヤリと笑ってそんな事を聞いてくる。
 居ないよーと応える前に。

「ギン姉が失恋したんだ」

「ちょ?!」

「ほう、何処の馬の骨よそれ? ちょっと聞かせてもらおうかしら?」

「母さんも……わ、怒ってる」

 一転して怒った様子の母さんにちょっと引きながらも、母さんを真ん中にそれぞれお布団に入って。
 電気を消してから、いろんな事を話した。真っ暗な部屋の中で、他愛も無い事だったり、大変だったことだったり。
 こちらの父さんの事を伝えたり、離れて暮らしてるけどそれでも母さんの事が大好きだって事を話したり。

 電気が消えていて良かったと思う。

 だって、私は……いやきっと、スバルも。静かに泣いて居たから。あの日任務へ参加して、お帰りを言えなかった。元気だった母さんが殉職して帰ってきて、もう話せなくなって……。

 だけど、今そこにいるのがとても嬉しくて。何よりもあったかいって。


――side震離――

「お帰りなさい」

「……ん、ただいま」

 研究所の一室である私達の部屋……いや、この世界におけるお家の扉を開けると。何時も通りの優しい笑みを浮かべたエプロン姿の嫁……もとい、流が出迎えてくれた。
 だけど、足元の靴の数を数えて。

「帰ってきてない、か」

「えぇ、アインスに伺ったんですが。震離さんが二人を移動させた後、目を覚まして外へ行ったと。それ以降は分からないです」

「そっか」

 ナカジマ姉妹を送り届けた後、何となく行きそうな場所を見てから戻ってきたけど、何処にも居ない所から察するに。

「……一番複雑な事情だもんね。私達もまさか来るとは思わなかったし」

「そう、ですね」

 しゅんと、顔を伏せる流。その両頬を両手で包んで視点を持ち上げて。

「今は懐かしい顔に会えたことを喜ぼう。それはきっと私達三人(・・)の共通認識だよ。再会というか、この世界に来た理由はそれぞれ違うけどね」

「……えぇ」

 寂しそうに笑う流の頬をムニムニと揉みながら考える。私達は旅の途中で。あちらは事故で。そして、今回来たのは……。

「どっちか分からない。だけど、きっとこの再会は―――」

「楽しい夢の終わりの始まり……ですね。さ、お食事にしましょう。今日は簡単にぶり大根と、小松菜の辛子和え、お味噌汁ですよ」

「簡……単……とは?」

 思わず声が震える。あれ、私の思う簡単と流のいう簡単に齟齬が生じてる。

 黒いエプロンを片付けながら台所へ戻っていくのを見送りながら、私もリビングへと向かう。
 ふと、流の姿を、背の低いいつもの姿。というか、研究所にいる時は本来の()に少し届かない程度の身長に、茶色の髪を後ろで束ねた姿。
 文字通りの響リスペクトと言うか、真似をしてるけど。お部屋にいるときとか、私と二人っきりの時は元の姿に戻ってくれるのが本当に嬉しい。

 つっても、ブレイブデュエルの奥の手と称してその姿で戦うことも多いけどね。私達は一応開発者側だから滅多に出ないし。ちゃんと姿を分けてるのも理由があるんだけど……って。

「うわ、ブリでっけぇ?!」

「フフ、王から安かったからとおすそ分けして貰ったんですよ。さ、食べましょう」

「うん。あ、そうだ帰ってる途中にね。アリシアから連絡があって―――」

 端末の画面を向かいに座る流へ見せる。

「へー……って、あら。コレは大変そうですね」

 二人でそんなお話をしながら一緒にご飯を食べて―――

 そんな当たり前が嬉しくて。楽しくて。

 それにしても味染みてて美味しいわぁ……めっちゃご飯に合うし、最高だわぁ。

 私の嫁すっごい可愛いでしょうー?

 
――side?―― 

「……何をしてるのやら」

 とっぷりと暗くなった空を見上げながら、何となく呟いてみる。翠が生い茂った桜の木に背中を、体を預けて。

 流達の部屋に帰るのが嫌なわけじゃない。だけど、どうにも心が乱れて仕方がないんだ。瞳を閉じると、蘇るのは暗く辛い想い出。その中でも―――

 ―――死なせてくれ。頼むから、お願いだから死なせてくれよ!!

 ―――なんで、誰も居ないのに生きなきゃいけないんだ!!

 思い出すだけで涙が滲む。

「……しんどいなぁ」

 座り込んで、膝を抱えながら。想い返すは後悔の事だらけ。何も出来なかった、参加すら出来なった無力な自分を思い返して嫌になる。

 だけど、久しぶりに光を見たのは事実だ。
 
 流から送られた内容を見て目を見開いた。フェイトさんや、ギンガまでもがこの世界に来たんだと。そう伝えられたから。 

 嬉しかった。

 心から本当に。
 あの人達が()が知ってる人達と違うのは理解してる。だけど、先に出会った流や震離と同じく本質は変わらないと知ってるから。

 しかし、妙だなと思う半面、なぜか納得できてる自分がいるから困ってる。

 ふと、携帯端末に誰かから画像つきメッセージが入ってるのを見て、それを開いて。

「……ぅん?」

 そっと閉じて……。それを見てから気づいた。

 そういう事か、と。

「……こんなにも、遠いのか」

 心が乱れてくる。分かってるはずなのに、理解しているはずなのに。
 言い難い感情が、暗い願いが燻り始めて。どうしようもならなくて……。

「……ッゥ……ァァ」

 すっかり泣き虫になった自分を何処か他人のように見てた。


――side奏――

「そうなんですか?」

「まだ断定出来ないけれど、きっとそうだと思うよ」

 異様に広い客室ですずかさん……いや、すずかちゃんと談話中。元の世界のすずかさんを知ってるけど、殆ど変わりなくおっとりしてるなぁって。
 そう言えば震離がすずかさんとアリサさんとも連絡をとってるって言った時には驚いたなぁ。

 まぁ、それは置いといて。

「でも未来のはやてちゃん、フェイトちゃん、スバルちゃんに。ギンガさん……共通点が見つからないような」

「きっと共通点になるかはわからないけど、離れて(・・・)暮らしてたっていうのがあるから。もしかしたらそれかもしれないねー」

「ですね」

 それぞれ悲しい別れがあって、きっと私や響はオマケなのかもしれない。だってそれぞれ再会したいって心から願っていただろうし。それに、偶々側に居たから一緒に来たっていうのが一番しっくり来る。

 響も逢いたい人がいるだろうけど、この様子だとこの場所に居ないのか、私達の故郷にいるのかわからないし。

 しかし、亡くなった人に逢いたいという気持ちなら、私達の事を考えると、響と煌が該当するはずだけど、煌はここに来てないし……そもそもまだ目覚めてないらしいし。

 あ、そう言えば……。

「ねぇすずかちゃん? 私は八神堂に飛ばされて来たんだけど……そこに居た、白銀のポニーテールにカーゴパンツ、黒いシャツを着た人が……」

「あ、(サト)おね……さんですね」

 おや、ちょっと変な感じだ。

「私と同じ位の胸だなーと思ってたけど、その人女性扱いされたくないタイプなの?」

「難しいですねー。格好いい方で、面倒見もいいんですけどね」

「ふーん……私会ったら謝らないとなー。何処だここって強く言ってしまったし」

「突然のことですし、仕方ないんじゃないかなって」

 きっと気にしないですよ、と言ってくれるけど……強く言ったどころか、銃口向けたんですよね私。
 あの場に居たってことは、震離達の関係者。つまり魔法を知っている人物なんだろうけど……わからないね。
 
「もうちょっとお話したいですけど、流石にそろそろ寝ますねー」

「うん。学校あるもんね。また明日お話しよっか?」

「はい! じゃあ、おやすみなさい」

 ペコリと頭を下げて客室から出ていくすずかちゃんに手を振って見送って……。

 ちょっとため息。

 しかしお嬢様だというのは分かってたけどこの部屋、実家の私の部屋の何倍あるんだろう……下手したら家よりデカイ……いや、まさか。

『お疲れ様ですねカナデ?』

『今日は色々ありましたものね』

「あはは、まぁね」

 トワイライトとムーンリットの苦笑するようなそんな声を聞きながら、ベッドの中に潜って……うわすっごいやわかいよこれ。
 枕もふっかふかだー。すごーい。

『『さ、御休みなさいませ』』

「うん、おやすみなさい」

 やわくて気持ちのいい枕元に二機を置いてから布団をかぶって瞳を閉じると……あっという間に……。

 ――――

『おーい? 起きてー?』

 遠くから誰かの声が聞こえる。だけど、何だろう? せっかく心地よく眠ってるのに。

『ちょっとー、申し訳ないんだけど起きてー、おーい?』

 エコーが掛かってるような感じだー。しかしうるさい訳じゃないけど、なんというか勝手知ったるこの声は……。

 え?

「は、私の声?」

『あ、やーっと起きた。やぁ私』

 青い空と海の世界。そして、目の前には文字通りの私がそこに居て、困ったように笑ってる。ただ唯一違うのが、私は髪が短いままなのに、眼の前にいる私は髪が長いままだ。

「……どゆこと?」

『いやぁ、それを説明するのは時間がないんだよね。で、相談というか一つお願いがあるんだけど、良い?』

 眼の前の私が言葉を紡ぐ度に蒼い世界に亀裂が入っていく。それに比例するように、目の前の私の瞳が少しずつ緋色に染まっていく。

「え、あ……眼が」

『へ、あぁ。気にしないで……は無理だよね。あー違う。そうじゃなくて。私から私にお願いがあります。もしも、あの人(・・・)が自分を見失った時。私に一時的に体を貸して欲しいんです』

 ……あの人(・・・)って、もしかしなくても響だよね。だけどなんで。

「……話が見えない。見失うも何も、響にはフェイトさんが―――」

 眼の前の私が静かに首を横にふる。それは何処か悲しそうで、辛そうにしていて。

『説明したいけど、もう時間だ。ごめんね私』

 ゆっくりと私から離れていく。いや違う、コレは私が離れていってるんだ。

「待って、どういう事!?」

 世界が砕けると共に、今は真っ暗な空、それも星も見えない程黒い天に、人を呑みこまんとしている漆黒の海。
 そんな中で、髪の長い私だけが淡く輝いて。

『どうかあの人を思い留めさせて欲しい。それでもダメだったら、どうか私に―――』

 体を貸して欲しい。

 そう言ったように聞こえたけど、そこで意識が途切れて―――

 ――――

「……何だったんだろう?」

 気が付けば朝になってた。

  
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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