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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Duel:06 一晩経って、実感する違い



――side響――

「……じぃー」

「……ぁー」

 朝食のトーストを頂きつつ、向かいに座るフェイトさん(・・)からのジト目から顔を逸らす。

 と、言うか本当に勘弁してください……。俺のHPというか、精神ポイント既に枯渇してるんですよ……。

「大っきなフェイトがいるのに学校なんてー……もー」

「お姉ちゃん? 大きな私や、響から色々お話聞きたいけど、学校にはいかなきゃ、ね?」

「わかってるけどー、もー」

 隣に座るフェイト(・・・・)が、アリシアを宥めるけど、それでもまだ唇を尖らせている。ちなみに俺の反対側に座るはなはと言うと。

「……! ……!!」

 夢中でご飯を食べていました。フェイトさん(・・)曰く、まだまだ融合騎として活動の日が浅いせいか、食事を凄く感動して食べるらしいとの事。
 冷たいこと考えるけれど、今までデバイスというかAIだったのもあるんだろうなぁ。食に感動することは良いことだ。

「……じぃー」

 ……うーん。フェイトさん(・・)の視線が凄く刺さる……。
 理由は分かってるんだ理由は。他の家というか、小さな自分の呼び方はまだ分からないけど、フェイトと小さいフェイトの分け方はシンプルでした。

 小さなフェイトから、フェイトさん(・・)には、普通にフェイト姉さんと。逆にフェイトさん(・・)からは、シンプルにフェイトと呼び捨てるようになった。
 唯一アリシアだけ、大っきなフェイトと読んで、プレシアさんや、リンディさんはフェイトさんと呼ぶ。

 で、問題が俺なんだけど……。小さなフェイトを、普通に呼び捨てに。そして、大きなフェイトを、さん付けで呼ぶように戻した。
 その結果が……。

「……じぃー」

「……あのー、フェイト……さん(・・)?」

「……む」

 ……すっごい不機嫌になってしまわれたんですよねー。いや、心当たりはあるんだ。

 多分、昨日客室で一人で寝た事なんだろうけども。俺も本当はそちらで寝たかったんだけど、昨日殆ど寝間着に着替えてから恥ずかしいという記憶以外殆ど覚えてないんだよね。気がついたら寝てて、起きたら朝でっていう感じだし。
 ただ、何をどうしたのかわからんけど、小さなフェイトと、アリシアの部屋ではなを含めた4人で寝てたのは何故だろうって。

 そして、朝起きて着替えつつ、髪縛ろうとしたら、早番だと仕事に行く前のプレシアさんが結ってくれたのは正直驚いた。
 丁度着替えるのに手間取ってたときだったので……すげぇ助かったし。

「ごちそうさま。お姉ちゃん。行こう?」

 食器を片付けながら、未だに唇を尖らせてるアリシアに声を掛けるフェイト。その声を聞いて、重い体を動かすと、何かを思いついたらしく顔をあげて。

「あ、響もフェイトもはなもさ。今日はお家にいるの?」 

 フェイトさんに顔を向けて質問を投げる。フェイトも気になってるらしく、そわそわした様子でこちらを伺って。

「ううん。一度飛んだ皆で集まる約束してるから。昨日の研究所にいると思う」

 そう伝えると、話を聞いてた二人の顔が明るくなって。

「じゃ、夕方予定を空けててね? 色々準備したいものがあるから、ね!」

「うん。フェイト姉さんも響も一緒に準備しようね。それじゃあリンディさん。行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい。車には気をつけるのよー?」

「「はーい!」」

 元気よく手を振る二人を見送りながら、色々準備という言葉が分からなくてフェイトさんと顔を見合わせて首をかしげる。そのままリンディさんの方を見ると。にこやかーに笑って。

「フフ、まだ秘密……と言っても、直ぐに分かると思いますけどね。それじゃあ私もお仕事に行ってきます」

「あ、はい。いってらっしゃいです」

 ちょっとぎこちないフェイトさんが、リンディさんを見送る。なんというか、癖でリンディ母さんと呼びそうになる辺り、まだ慣れてないんだろうねー。今まで呼んでて突然変えろって言われても難しいよね、そりゃ。

 そんなリンディさんが出ていったのを確認してから。

「……所で、フェイトさんはなぜ怒ってらっしゃるの?」

「……知らないです」

 ……唯一の理解者が何故怒ってるのか分からなくて、大変だな……と。


――sideギンガ――

 久しぶりに聞いた音だった。母さんが朝食の支度をする穏やかな音で目を覚ました。時折聞こえる母さんの鼻歌を聞きながら、寝起きだと言うのに胸が暖かくなるのが分かって。

 ふと、視線をスバルの方へ向ける。そこには嬉しそうにはにかんだ顔をしながら眠ってる。その目元は涙を流した後がついてたけど、それは悲しくて泣いたわけではなくて、懐かしくて泣いたんだと分かる。
 私も昨日の晩眠る時に泣いちゃったしね……。 

 ただ、ちょっと変だなーと思うのが、小さなスバル達の事を考えるとそれなりに騒がしそうな筈なのに、全然静かなのがちょっと驚きで……って。

「……え、8時前?!」

 慌ててスバルを起こしました。

 ――――

「「母さん、ごめんなさい」」

「気にしない気にしない。さ、食べましょ」

 全然気にした様子がない母さんと共に、居間で朝食を取る。震離から貰った蒼いジャージをスバルが、私は紺色のジャージを着てる。と、言うのも。後々買うから居間はコレでごめんねと先に言われている。
 
 ただ、本当は朝起きて一緒に朝食を作ろうと決めてたはずが、まさか寝坊するなんて……。朝の訓練の感覚で起きれるはずが、なんで今日に限って……。

「……朝起こそうかなと思ったんだけど、二人共泣きながら笑って、気持ち良さそうに寝てたから声かけれなくって、ごめんね?」

「「……う」」

 私もスバルも赤くなってしまう。まさか見られていたとは……。

「フフ、今日はちび達が皆日直とかで速く行っちゃったからねー。ゆっくりご飯が食べられるよ」

 ……なんというか、本当に昔を思い出すなって。まだ母さんが生きてて、父さんが忙しくて中々帰ってこれなかった頃、こうして三人で食卓を囲んで食べてたなって。

「それにしても、ギンガはともかく、スバルはしっかり女の子らしく出るとこ出るようになって、お母さん嬉しいわー」

「そ、そんなことないよー」

 照れるスバルと、からかう母さんを見て、私もつい笑ってしまう。

「ランスターさんを連れてきた時を思い出すと、すっごく進歩したなって。そっちではどうか分からないけど、スバルってランスターさんを勘違いさせちゃって……」

「え、そうなの?」

 カクンと、首を傾げるスバルと、私も分からなくて首を横にふる。ちょっと驚いた様子の母さんは少し考えた後で。

「そうか、出会い方が違うって言ってたわね。こっちのスバルとランスターさんの出会いって、スバルをボーイフレンドと勘違いさせちゃったのよ。ランドセルも青っていうのもあってね」

「母さん、もうちょっと詳しく」

 あ、スバルの顔が悪い顔に。コレは帰った時にはティアナを弄ろうってことなんだろうけど……変なことにならなければ良いんだけどねー。

 ……後で母さんの料理のレシピを聞いておこっと。


――side震離――

「結局一晩経っても戻ってきませんでしたねー」

「そうだね~。お味噌汁が染みるわー」

 流と二人で朝食を取りながら、帰ってこなかった事に頭を悩ませてため息一つ。

 まぁ、心配してないわけじゃないけど、変なのに襲われても平気だから問題はない。それでも気になるものは気になるしねー。

 あ、そう言えば。

「流ってば今日バイトの日?」

「えぇ、もう少ししたら行きますけど。震離は皆さんを集めるんですよね?」

「……ん」

 ごくんと、ご飯を飲み込んでから。

「改めて状況の説明と、皆の服の調達かな。でさ、流には悪いんだけどバイトが終わったら、プロフェッサーの家や八神堂でデータ収集してもらっていいかな?」

「それは良いですけど。しっかり説明しないと大変な場所が多いですが良いのですか? プロフェッサーと中島家の関係とか」

「……ぁー。そういや無害ってことは言ってるけど、そう言えばそこまで言ってねー」

 眉間にシワが寄るのが分かる。やっべー、ある程度違うって説明したとは言え、そこで驚いたら不味いしなー。

「ごめん。先に出るねーごちそうさま」

「えぇ、行ってらっしゃい。お気をつけて」

 めっちゃ後ろ髪引かれながら、上着を羽織って外へ出て……深くため息。私達でさえも最初驚いたのに、ギンガやスバルだともっと驚くだろうしなー。でも、それをされたら困るし……。

 さっさとレンタカー借りて行こう……。皆に逢えたことは嬉しいけど、本当にそのへんが大変だなーって。またため息が漏れたし。

 あ、そう言えば。今回来た皆は温泉旅行へ行くんだろうか? そうすると色々服を買う事を考えないといけないけど……。
 ま、いいか、その辺は各家庭の事情を聞けばいいだけだし。

 さぁ、今日も忙しくなるぞー……って、あぁ、太陽……がめっちゃ眩しいわぁって。



――side響――

「さ、着替えにくいだろうから、手伝うよ?」

「あの、フェイトさん。ちょっと……」

 ジリジリと、フリルをふんだんに使った白いワンピースを見せながら近づくフェイトさん。もう少ししたら、震離が迎えに来るので、それまでに準備を……着替えをするだけのはずが。

 現在、フェイトさんに部屋の隅に追い込まれております。 

 ……いやあの別に着る必要性は皆無なんです。リンディさんも既に出勤して居ないし、アルフもはなと一緒に散歩に行ってしまったし。仲良くなったことは良いことだなーと。ちゃんとアルフと留守番するようにって伝えてはある。
 だから、デバイスである暁鐘と晩鐘を起動してバリアジャケットを纏えば良いんですよ。だって、不必要に女性者着る必要ないし。現状女児の姿でも根っこは男だし! 昨晩はどうしようもないから着ただけですし!!

 それなのに!

「……暁鐘と晩鐘を返してもらっても?」

「だ・め」

 ものすごく良い笑顔で言われました。くそう、デバイスをフェイトさんに抑えられてしまったのは予想外。朝起きて、手元にないのは、はなが持ってるからかなーと考えてたらコレですよ。
 しかも、今でこそまだ距離があるとは言え、気を抜いたら一瞬で詰められそうだし。

 いや、落ち着け俺。なんか手は無いか? 何か……何かフェイトさんを一発でご機嫌に出来る何かが!

 ……そもそもなんで機嫌が悪かったのか理由が全然わかんないんだよねコレが。

「あのー?」

「何かな響?」

 いつもの様な優しい笑顔のフェイトさんを見てホッと胸を撫で下ろす。後は対応さえ間違わなければ。

「だ、誰も見ない訳ではないですし(・・・)。流石にそういうのはちょっと。なのでフェイトさん(・・)。デバイスを返して頂けると」

「さ、覚悟決めよっか?」

 なんでや?! さっきよりも圧が強くなったんだけど。しかも隙も完全に無くなったし。
 しかも、前髪で目が隠れて若干怖いし。

 何、なんなんだ? そんな事を考えながら。

「フェ……フェイト、さ―――」

 目にも留まらぬ踏み込みで距離を詰められて。

「いただきます」

「え、あ、ぁ……あ―――待って待って待って着替えるから着替えるから待ってぁーーー!!」

 すっごく、目が妖しく輝いておりました。


――side震離――

「……はい? 自分の夢、ねぇ」

「そう、そして。体を貸して欲しいという事を言われたよ」

 すずかさんの家の正門に立ってた奏を助手席に乗っけて車を奔らせる。その次に向かうのが中島家なんだけど、その道中に変な夢を見たと相談を受けた。
 他にも何かあったんだけど、夢の中とは言え自分と会話したという事のインパクトが強かったらしく覚えていないらしい。

「ま、それは……なんとも言えないけど。嫌な感じだったの?」

「いや、全然。まぁ私の夢は置いといて……それ以上にすずかちゃんの家凄かったわ。私の実家が丸々入るレベルだった」

 フッと、遠くを見ながら笑う奏を見て、なんとも言えない気分に。皆そうだよって言いたいけど、時雨の実家くらいじゃないかなー。すずかさんと、アリサさんの屋敷とタメ張れるのって。

「そう言えば流はどうしたの? てっきり一緒に来るかと思ってたんだけど?」

「んー。あぁ。バイト」

「……」

 助手席側で首を傾げて私を見てるであろう視線を感じながら運転を続けて。

「……嘘でしょ?」

「本当なんだよねぇ」

 信号に差し掛かったと同時に視線を隣に向けると。目を丸くした奏がいて。
 
「……人見知りの激しい流が……成長したんだねぇ」

「あ、あはは」

 苦笑いで誤魔化しながら青信号になったのを確認して車を出して。ちょっと考える……そうか、奏からしたら、いや。今回飛んできた皆からしたら、私達って六課に居た間しか知らないんだ。
 コレは……結構な時間一緒に居て、色々やってますよ、とは言えないなぁ。

「まぁそれは置いといてさ。皆合流したら服を買おうかなって考えてるんだけど、どう?」

「……ぁー」

 おや? なんか思ってた反応とは違うものが帰ってきましたよ? 奏はなんかバリアジャケットをちょっと私服っぽく変更を施してるけど、それで事足りるなんていう()じゃないし……。
 
「ごめん。夕方にすずかちゃんらと一緒に服を買いに行こうって誘われててさ。ただお金無くて……」

「……それはこっちで出すから」

「いやいや、流がバイトするくらいにお金ないんでしょ? 良いよ……」

「流は趣味と実益兼ねてるだけだよ。翠屋とT&Hのフードコートで料理作ったり応対したりしてるだけだし。ちゃんとお金ならあるから」

「……それなら、ごめん。甘えさせて下さい」

「いいよ。気にしない気にしない」

 どうせ日本円つってもこの世界でしか使えないしねー。使う時はどんと使わなきゃね。

「お、気がつけば住宅街。この先のお家は……」

「中島家だねー。その隣がプロフェッサー……もとい、スカリエッティのお家」

「……あぁ、スカさんって言われてる人かー。というか、お隣さんがそれって大変だねー」

「いやー。そうでもないよ。だって中島クイントさんと、スカリエッティ……もといジェイルさんって、この世界では兄妹だし」

 ピシッとラップ音と共に空気が凍ったのが分かった。まぁ、ゆりかご戦を終えたばかりだとそうなるよねー。私達も話を聞いた時驚いたし。

 更に奥さんの事聞いたら驚く……あー、でもどうだ? あんまり接点無いんだよねー六課に居た頃の私達って。

 まぁ、それは聞かれた時に言おうかな。

「それ以上に、家の形で驚くと思う。多分それはスバルやギンガも……って、そろそろ着くから用意してね?」

「へ、あぁ。はいはい」

 間に合ったら良いなーって。変に取られても困るから……そこからボロがでなければ良いんだけど……。


――sideギンガ――
 
「……ねぇねぇギン姉?」

「……言いたいことは分かるんだけど。何だろう。私も頭が痛い」

 母さんから二人で洋服を借りて、震離が迎えに来るからと家の正面の道に出てるんだけど……。

 特徴的すぎるお隣のお家から目を離せません。
 この世界の母さん達の家が、よくある日本の家で、周囲には住宅とかあるのに、真隣のお家は何処の研究所? と言うほど特殊なデザインだった。

「……あぁ。そっか。二人は離れて暮らしてたって言ってたわね。お隣変な家だけど、兄さん(・・・)達の家なのよねー」

「「え、兄さん(・・・)?」」

 なんてこと無いように母さんは言うけれど……母さんに兄なんて居なかったはず。

「あらやだ。携帯置きっぱなしだわ。二人共ちょっと待っててね」

 パタパタとまたお家の中へと戻ってくの見送りながら考え込んでしまう。

 確かにこの世界違うところは違いすぎると、震離から説明を受けたとは言え……そんな所まで違うんだと。

(ギン姉は誰だと思う?)

(ダメ、全然思いつかないわ。スバルは?)

(私もー。もしかしたら母さんの部隊の関係者なのかな?)

 なんて念話で話をしていると。

「―――おや、そこにいるのは……なるほど。やはりクイントの娘達だ。よく似ている」

 心がざわついた。私達がこの声を最後に聞いたのは、ほんの数日前だから。

 ゆりかごを復活させた時。全周波に無理矢理割り込んで全てに宣戦布告を行ったあの時だ。ヴィヴィオを縛り付けて、高らかに狂い笑っていた声が印象的だった。

「ふははははは、いい表情だ。だからこそ分かる。我が陣営が世界に牙を立てたのだと!」

(スバル!)

(うん!)

 ―――いけない。コイツは私達のことを知っている。私達が何処から来て、その世界の自分が何をしたかをコイツは……ジェイル・スカリエッティは知ってる!

「聞かせてくれないかい? 我が陣営が何を為したの―――ガァっ!?」

「「……え?」」

 瞬間私とスバルの間を何かが疾走したかと思えば。眼の前で笑っていたスカリエッティが勢いよく吹き飛んで。数メートル程転がったと思えばスッと立ち上がり。

「な、何をするんだいクイント?!」

 さっきまでスカリエッティの居た場所には掌底を叩き込んだような姿勢で母さんが立っていて。

「人の娘怖がらせるんじゃないの。あっちとこっちで微妙に異なってて、ゲンヤさんの単身赴任についていった世界の未来? らしんだから」

 ……あれ?

 スバルと二人で顔を見合わせて首を傾げる。すると母さんがこちらを振り向いて。

「全く……ごめんね二人共。覚えてないかもしれないけれど……ほら、私の兄のジェイル兄さん。兄さんもちゃんと挨拶して」

「「え?」」

 母さんの言葉の意味が分からなくて、私もスバルも固まる。そんな私達を他所にスカリエッティも服についた埃を払ってから、仰々しく咳払いを一つ。そして。

「では、改めて名乗ろうか! クイントの兄のジェイル・スカリエッティだ。そして驚かせて悪かったね。流君や震離君から話を聞いていたんだが、ちょっと驚かせてみたかった―――待ち給えクイント。流石に拳だと私も無傷ではすまないんだ」

 途中から母さんが拳を構えると、スカリエッティは笑いながら後ずさっていく。
 その様子に満足したのか、母さんが構えを解いて。

「で、珍しく早起きね? どうしたの?」

「あぁ。翠屋にいるであろう流君にデータを渡そうと思ってね。何かの役に立てば良いんだが」

「それならもう少ししたら震離ちゃんが来るからそっちに渡したら? 兄さんってば流君見つけたら延々話すんだもん。アルバイトの邪魔よ」

「ぐっ」

 ……なんというか、母さんも遠慮なく話してるし、スカリエッティもまた普通に、柔らかい表情で、正常な人のように話してる。

「あ、スバルーギンガー、おはよう……って、うわ。何その状況?」

「……うわぁ。何となく状況察したわ。あれは……驚くよね」

 スカリエッティの家とは正反対の道から震離と奏が歩いてくる。でも、私もスバルも挨拶を忘れて、無言で母さんのスカリエッティの方を指さして……。

「「……本当なの?」」

「あー……保証できるレベルで善人な、通称スカさんよあの人」

 困ったようにクシャッと笑う震離を見て、そうなんだって理解できた……。
 

――side奏――
 
 ―――ジェイル・スカリエッティがここにいる。

 そう伝えられた時、皆の顔が固くなったのを私は覚えてる。

 正直、私自身もいい思い出は無いし、良くない印象しか持っていない。
 地上本部を襲撃し、機動六課を壊滅させてヴィヴィオの誘拐、響の洗脳、そして私達の世界の流と震離が遠くへ行ってしまう理由の一端の一人。

 私でさえ嫌な思いを持つんだ。響や先輩はもっと嫌な感じがしたんだろう。

 だからこそ。

 震離は強く言っていた。もし、この世界のジェイル・スカリエッティを悪だと、敵だと言うのなら。私達は皆と敵対し、滅ぼします。
 
 表情こそは柔らかいものなのに、強い言葉と。それは脅しではないというのが伝わってきた。
 しかし、そう言うって事は、接触はない……と思っていたのに、蓋を開ければ、この世界の中島クイントさん? スバルとギンガのお母さんと兄妹だと言われて、呆気に取られたなぁと。

 まだ分からないけど、おそらく震離の口調からまだ驚く人間関係が残ってそうだけど……それは聞かないでおこう。胃がいたくなってくるし。

 でもまぁ……。

「流石に伝えたほうが良かったんじゃないの?」

 眼の前で固まるスバルとギンガ視線の先で、スカリエッティとクイントさん?という方が話している。

「……まぁ、素直にぬかったのが一つと。クイントさんいるなら問題ないかなーって」

「その結果が戦闘態勢になりかけた二人だと思うけど?」

 私の隣で気まずそうに頬を掻いてる震離を見てると、ちょっと呆れる。でもそれ以上に……。

 ―――何故、こんなにも信頼を置いているのだろうと。

 それが分からない。

 でもまぁ……。

「響と先輩とはやてさんには……まだ伏せた方が良いよ」

「……うん。今はまだ、ね」

 まだ、か。
 何を隠しているのかわからない。でも、私が知ってる(・・・・)震離の何倍も上手だ。流とも少ししか話してないけどそれでも分かる。

 あの二人は何倍も経験を重ねているという事を。震離はそのままな振りをして、更に鋭く、更に視野を広くして。流は更に優しさに磨きを掛けている気がする。

 嬉しい事と捉えるべきか、旅が長引いてる弊害だと悲しむべきか……。

 それは分からないけど。

「あ、クイントさーん、プロフェッサー。おはようございまーす」

「あらおはよう」「やぁおはようだ。震離君」

 普通に会話しているから警戒しなくて良さそうだ。

 ――――

「で? クイントさんとあんまり会話出来なかったんだけど?」

「まぁまぁ」

 あれから震離の行動は流れるように早かった。クイントさんと、スカリエッティと何かを話した後、スバルとギンガを連れて車に乗せて直ぐに出した。
 何かをスカリエッティから受け取ってたようにも見えたけど……まぁ、触れないでおこう。

「ねぇ震離?」

「んー?」

 ワゴン車の三列目に座る二人は表情が優れない。
 無理も無いと思う。だって、世界は違えど実の母親と、歴史に名を残す様な奴が兄妹だと伝えられたのだから。

「私達……どうしたら良いかな?」

 絞り出すようにスバルが言う。ギンガも辛そうに俯いたままだ。

「……信じろとは言わない。この世界のスカさん……ジェイル・スカリエッティは私達がそういう物だと知っているから。
 だから、なんと言えば良いんだろう。この世界のナンバーズの子達と話はした?」

「「……うん」」

「なら、あの子達が伯父さんと慕うスカさんを無下にはしないでね。おそらく顔には出してないだろうけど、スカさんは……もう、コチラから乞われない限りは皆には近づかなくなったから」

 静かにそう告げる震離の顔は、何処か悲しそうだった。だけど、直ぐに明るさを取り戻して。

「ま、それはさておきスカさんってばクイントさんには勿論頭が上がらないけど、それ以上にクイントさんと結婚してるゲンヤさんにはもっと頭は上がらないし。悪人ぶってるけど、ガチの善人だから。
 世界征服だーって言うけれど、それは自分の所の所属がブレイブデュエルで世界を取るという意味だし。子供が好きだっていうのも分かる。グランツ博士と共にゲームを開発して、楽しませたいからって。ま、方向性違うらしいから最初期は一度離れたけどね。
 それに何より、私も流も頭上がらないのに気にしてないって言う人だし」

「……え?」

 それはどういう意味? と聞くよりも先に。

「さ、はやてさんところまでもう少しだ。ちょっと飛ばすかー」

「え、飛ばす意味なくない?! ちょっとー!?」

 一気に車が加速して驚いたのと、一気に荒くなったなぁと。


――side震離――

 受け入れられない物だというのは分かってる。世界を渡ってきた私と流でさえも、初めて見たその時は顔を見て敵だと考えてしまった。

 だけど。

 ―――私はいいから。彼を、グランツ君を助けてやってくれ! 頼む!!

 心からの叫びを、昨日のように思い出せる。
 だからといって信じたわけではなかった。だけど、その後の行動を見てせめて(・・・)私達はスカさんを信じようと心に決めた。だから流はスカさんの研究所で色々してるわけだしね。

 何よりも……私達の運命を変えたのは、その根源がこの人だと理解したから。

 まぁ、何とか帰るまでには説得出来たら良いなぁー。特に響とフェイトさんを。だけど一番は、あの人とスカさんを何とかお話させてやりたいんだ。

 
――sideはな――

「いい天気だねぇ」

「そうですねぇ」

 ポカポカ陽気の下で、アルフと一緒に日向ぼっこ。なんでももう少ししたらリニスさんが来るから何時もこうやってお出迎えをしてるって。
 ただ、今日は私も居るしちょっとした案内くらいなら出来るとの事で何時もより早い時間で散歩に出た。

「はなはあれかい? 私と同じ様にフェイトやアリシアみたいにお姉ちゃんのこと大好きなのかい?」

「そりゃ勿論ー。私のある……姉ですからー」

「私と同じだー」

 ポカポカしてて心地よいなーと。私が知ってるアルフ様と、この世界のアルフはこうも違うんだなーと実感するなー。
 元の世界のアルフさんは、体こそ小さいけどもう10年も使い魔をしているせいか、面倒見は凄く良かったし。何よりエイミィ様と、クロノ様のお子様の面倒を見ていたのは凄まじかったですし。

 主曰く、一日付き合っただけで疲れたのに、アルフさん何時もコレしてるのかーと。

 遠い目をしながら言っていたのが印象的でした。しかし主。フェイト様と想いを繋げた以上、関係を持つことになったんですよね。私もお供するつもりですが、頑張らないと……。

「お? サトだー」

「サト……様?」

 アルフさんが視線をずらすと、道を往く銀髪の―――アレ?

「おーい。おはようーどうしたんだ?」

「……ん、あぁ。おはようアルフ……と、その女の子は?」

「昨日からうちに泊まってるんだー。新しい友達になったぞー?」

「……そうか。良かったな」

 一瞬ダブって見えてしまった。腰……いや、お尻の辺まで伸びた白銀の髪を纏めている。声も女性なのですが、どちらかと言えばハスキーボイス。胸も奏様と同じ位の大きさ。
 ひと目見れば違う、というのが当たり前なのに……。

 何故か主とダブって見えてしまったんです。

 それも、流様と震離様と通信をしたあの日の様に悲しんでいる姿で。

 ですが……。

「え、その……はじめまして。はな、と申します」

 会釈をして、サト様の顔を今一度見上げると。
 やはり気の所為でした。髪で隠れて見えにくいですが、主とは違う銀色の目。それに輪郭も似ていると言えば似ていますが……どちらかと言えば、主よりも、奏様に似ているようなそんな印象を持ちました。

「……は、な……。そうか、はなか」

「はい! ……ぁ、フフ」

 自然な手付きでアルフさん共々頭を撫でられたのですが、心地よくて驚きました。

「……昔、声は違うけど、性格がそっくりな子が居て……悪かったね。突然撫でたりして」

「いえ、とんでもございません。また……お願いしたいです」

 申し訳なさそうにそう告げるサト様の声は何処か寂しそうで、それでいてどこか懐かしい表情でした。

「すっごい眠そうだぞー? どうしたんだー?」

 アルフさんが下からサト様の顔を覗き込むと、クスッと笑って。

「……ちょっとね。さ、そろそろリニスさんが来る頃だと思うよ? いかなくて良いの?」

「あ、そうだった。行こうかはなー?」

「え、えぇ?! あ、それではサト様、またー! ああああ力強いぃいい!?」

 アルフさんに引っ張られるまま、サト様に手を振ってその場を強制離脱。
 控えめに手を振って私達を見送るその姿は、やはり似ているなと考え―――

「アルフさん、早いぃですぅうう!?」

「アハハハ!!」

 アルフさんが……リニス様に出会うまでずっと暴走を止めることが出来なくて、力不足を痛感致しました……もっと頑張らねば。

 一息をついた時にふと思いましたのが。カーゴパンツ、黒いシャツというのが、主のバリアジャケットに似ていると思ったからなのかなと、一人物思いに耽って考えてしまいました。
 
 それ以前に、そう言えばミッドチルダの喫茶店に居た人と同名なのは偶然なんでしょうか?
 

――side震離――

「だから、大姉やんの服代はこっちで出すよ? だって未来の私やし、先行投資ーってことで」

「せや、だから私……やなくて、うちはそれに甘えよう思うて。夕方に皆で出かける事にしたんよ」

「あー、まぁ……はやてと、はやてさんがそれでいいなら」

 車に皆を置いて八神堂にいる大きい方のはやてさんを迎えに来たらまさかの展開。
 近い内に始まるシルバーウィークの旅行に向けて、夕方には買い物に往くという展開自体は問題ないんだけど。
 コレで3組目か……中島家も行くみたいなニュアンスのこと言ってたし、奏もすずかとおそらくアリサとも行くだろうし。
 この感じだと、テスタロッサ一家もだろうなー。いや、確実にそうだ。今回の引率の一人にプレシアさん居るから絶対そうだ……。

「んー、まぁ。一晩経ったわけだし、ちょっとお話したいことあるからはやてさんを借りて行くねー」

「了解やー、じゃあ大姉やん。また後でなー」

「はーい、ほな行ってくるわー。じゃあ行こうか震離?」

「えぇ、では参りましょう。後はフェイトさんと響だけですし」

 車に向かう途中で色々と話を。と言っても中島家も八神家も、家族の未来の姿を受け入れることの速さには驚かされる。えーと。中島家では、スゥ姉ちゃんと、ギンガおねーちゃんで、こっちでは、はやてさんを大姉やんって。
 テスタロッサ家は……こちらのフェイトの事を考えると、普通に呼びそうだから期待出来ないわぁ……。

「……この世界のあの子らは楽しそうやなーって思うんは、私が老けてるってことなんかなぁ」

「いやぁ、どうでしょう。まだまだだと思いますよ。若いうちに自分が老けてるなんて、まだ甘いって証明ですし」

「……え、あの震離? 私よりも年下やん……ね?」

「……」

「……」

 なんとも言えない空気が漂う。けど。

「あ、車が見えましたので乗ってくださいね?」

「聞いて?!」

 ――――

「そうなんや。ナカジマ家ではクイントさんがおるんやね……時間見てどんな人なんか話してみたいわー」

「偶に父が母の事話してましたもんね」

「そうなんよ。せやから一度会ってみたかったんよね」

 後ろの席でそんな話をしているのを聞きながら、ちょっと思い出す。知らないのに挨拶されて、変なところから穴が開いて、変に将来が変わっても嫌だからね……。
 
「えっと、震離? 皆集めて何をするつもりなの?」

「んー……本当は服買うつもりだったんだけど、それは各自で何とかなるみたいだし。中島家もこっちで出すからって言ってたしね。
 だから、改めて帰る手段の説明と、ついでにこの世界の……まぁ平行世界のざっくりな簡単な説明かなー。もしかすると影響あるかもしれないからねー」 

 車を運転させながら、ちらりと隣を見ると、不思議そうに首を傾げてる。後部座席組は違う話題で盛り上がってるからちょうどいいね。
 
「平行世界……って言っても接触することあるの?」

「いや……あんまり無いかもしれないけど、知って損は無いよ。後は……まぁ、ボロが出ないようにブレイブデュエルの復習とかかなぁ。色々各ルールとか覚えてもらわないと」

「……まぁ程々に頑張るよ」

 苦笑いを浮かべる奏を見ながら、私もつい笑ってしまう。

 一晩経って、コレが夢ではないと改めて実感できた。こうして隣に奏が居るのも、今は姿が変わってるとはいえ響も居る。
 どうして急に飛んできたのかわからないし、呼ばれたのか事故なのかは分からないけど、再び巡り会えたこの縁を大切にしたいし。

 さ、もう少し走ればテスタロッサ&ハラオウン家が見える。もうちょっとだねー。

 ――――

「……笑えよ」

 テスタロッサ&ハラオウン家の側のコインパーキングに車を停めて迎えに来た所。マンションのエントランスにはえらくにこやかなフェイトさんと、顔を真っ赤にしつつ、淡いピンクの肩出しワンピースを着て何処か遠くを見てる響の姿が。

 だが、残念だったな……。

「ウチの流の方が可愛いし!」

「いや、張り合う所違うやろ」

 はやてさんからのツッコミを受けつつ、視線を皆の方へ向けると。スバルは爆笑しすぎて息が出来てないし、奏とギンガは可愛いものを見てるみたいにちょっと喜んでる。
 そして、はやてさんは。フェイトさんとサムズアップしあってるし……。
 って、違うわ。問題はそこじゃなくて。

「そうなると夕方までには皆を返さないとなー。まさかそこまでシルバーウィークのことを楽しみにしてるとは思わなんだよ。まぁいいや、さ、研究所行って色々話すことがあるから行こうかー。
 あと、スバルそろそろ息しないと死ぬよ?」

 はーっとため息が漏れる。実を言うと、元々シルバーウィークに合わせて3チーム+αとその保護者会で旅行に行く予定があった。
 というのも、ブレイブデュエルのシステムに新たな追加機能の基盤とメンテをするのと、常に各ショップの名物プレイヤーとして活動してる皆に御礼を兼ねての事だ。

 最近は各チームと、初心者勢のお陰で全国までブレイブデュエルの噂が駆け巡ったからねぇ。海外展開も目指して色々動いてるし。
 だから、コレを開発したグランツ博士の元に色々資金が来るらしく、ブレイブデュエルを広めてくれた各人に御礼をしたいという事で今回の旅行の話が持ち上がったんだけど。

 自然に平行世界組も参加することになってるのは面白いなって。
 
 いやぁ、まぁ良いんだよ。それは……私たちも遅れて参加するつもりだったけど、ジェネレーターに負荷が掛かった関係で調整しないといけない訳だから良いんだけど。
 しかし、響はあのままなのかなということと……明らかにフェイトさん怒ってるけど、何かあったのかな?
 皆、それに気づいてるせいで余計に響を見て笑ってるけど……明らかにフェイトさんの事には触れてないしね。特にはやてさんなんか、一目見て察して完全に流す構えをとったのは凄いなって。

 しかし、妙だなと思うのが一つ。

 なんで響ってば、あんなに恥ずかしがってるんだろ? 今更なのに(・・・・・)ね。


――side流――

「いやー。昨日見せてもらいましたが、私もとても熱くなれました!」

「って、学校でも言ってたから。キリエ凄く疲れたわー。KSTよー……」

「フフ、なら。今回は私が奢りましょう。私の知り合いが迷惑を掛けたということで」

 白いカチューシャに、腰まで届く赤い髪を三つ編みにしたアミティエ……通称アミタと、ふわりとした腰まで届く桃色の髪のキリエの、フローリアン姉妹に私から紅茶とシュークリームのセットをプレゼント。
 昨日、本来ならこの姉妹もテストプレイに参加する予定が、学校の中間テストと被っていたらしく、今回のテストは涙を流したらしい。
 そして、テスト勉強を終えて戻ってきた時には入れ違いで皆さん帰った直後だったみたいですしね。入れ違いになったとは言え、まだ興奮冷めやらぬ様子のシュテルや、打倒響さんを掲げたレヴィ達から話を伺った結果……。
 この2人、というよりアミタに火が着いてしまったらしいです。

「わぁ。良いんですか? アルバイト中なのに?」

 眼の前に並べられるシュークリームセットに視線を釘付けにしながらアミタが言うけれど、

「気にしないでください。私も丁度お休みをって言われたので。
 所でブレイブデュエルの先駆者の一角である2人からは皆さんはどう見えましたか?」

 上品な様子で紅茶を頂くキリエの瞳が光ったと思えば。

「それは勿論、とっても」

「何時も以上に楽しみですよ!」

「「早ッ?!」」

 バンッと効果音が着くほどの勢いでガッツポーズを取るアミタの手元からは、既にシュークリームが無くなっていて……キリエと二人で驚いてしまった。

「……おねーちゃんは、まぁいつもどおりか……コホン、あたし的には、レヴィを倒した黒髪のキュートな子が気になるかしらねん」
 
 アミタになんとも言えない視線を送りながら、キリエの意見を聞いてちょっと納得。ということは……。

「私は白いガンナーが気になりました! 何より、今まで居なかった種類のガンナーですよね、あの方は!」

「「いや、そんな事ないと思う」」

 すかさず二人で突っ込んで、不思議そうに首を傾げてる。
 同時に突っ込んだ辺り、流石にキリエは気づいてますね。スタイル的には一番アミタに近いですからね。

「え、そう……なんです、か?」

「そうよー。だって、おねーちゃんと同じ二丁拳銃型で、武器の換装も出来るし、何より撃ち合ってみたいって思ってるでしょう?」

「勿論。T&Hのアリシアさんとティアナとは似ている様で異なるスタイル。同じガンナーとして燃えるじゃないですか!」

「と言ってもおねーちゃんはインダストリーで、アリシアもティアナもミッドだけどねー」

 熱弁するアミタを他所にサクサクとシュークリームを食べるキリエを見ながら苦笑い。普段だったら乗ってきそうなものだけど、疲れた様子から察するに昨日から同じことを繰り返してるんだろうなと、ちょっと同情してしまう。

「そう言えば流? 流や震離からしたら、あの黒髪の子や、白いガンナーとはどういう関係になるのかしら? キリエ、とても気になるのKTKよー?」

 ……あ。

「……一応同郷の方ですね」

 コレで時間を稼いで何とか考えねば……。

「なるほど、二人からすると後輩にあたる方になるんですね」

 アミタに心から感謝を。正直どう言うものか悩んでいた所を補完してくれて有り難い。キリエもそうよねーと納得してくれたみたいですし。
 
 後で、震離さんにそういう風に誤魔化しますと伝えないといけないな……。

 さて、と。

「私はそろそろ休憩が終わりますのでコレで失礼しますね」

「こちらこそ、未来からいらした方々の情報を仕入れることが出来て満足です!」

「おねーちゃんってば、テストが終わってからずっと同じこと繰り返してたもんねー……お陰ですごく疲れたわ……」

 生き生きとするアミタとは対称的にダラーッと机に伏せるキリエを見ながら何度目か分からない苦笑いが漏れる。

「さ、キリエ。早速帰って準備をしますよ!」

「はいはい。それじゃね流? 王様が今晩は一緒に食べようって言ってたわよー」

 元気よく走ってゆくアミタに引きずられるキリエ。相変わらず元気いっぱいだななんて考えながら。

「……あの人がちゃんと帰ってきたら、食べましょうね」

 一晩経っても帰ってこなかったあの人に思いを馳せながら、私も仕事に戻りましょう。

「あ、流ー。なんかエイミィから写真送られてきたんだけど、この子誰ー?」

「え……わぁ、傷が広がってますね……」

 入れ違いで休憩に入った美由希さんに写真を見せられて頭を抱えました。

 響さん、どんまいです……。
 
 

 
後書き
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