魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:04 世界が違っても、貴女は貴女だと
――side響――
「……あのぅ?」
「なあに響?」
少し離れた場所で震離が腹抱えて爆笑してるのを横目に見ながら思ったことを。
「……何故に俺のポジションは誰かの膝の上なんでしょう?」
「まぁ、いいじゃない」
「いや、でもさ」
それでもと続けようとするけど。
「……エリオとキャロが心配しすぎて泣いてたお話する?」
「あ、ごめんなさい。なんでも無いです」
そう言われたら引き下がるしか無い。
……そうだよなぁ。俺の判断ミスで捕まって音信不通になったわけだし。かなり心配してたんだろうしなぁ。
次にあったら、色々報告することもあるしな。きちんと色々言わないといけないし。
ギンガとフェイトが入れ違いになる時にそのまま引き渡されました……いやまぁ、男なわけだし気になるモノは気になるわけで……凄く気まずいんですよね……。
しかも……。
「……で、どうしたんです?」
「……何でもないヨ」
心なしか俺を抱くフェイトの手が……と言うより全体的に体が震えているようにも感じるのはコレは気のせいなのでしょうか?
フェイトのことだから、さっきのなのはさんのそっくりさんとの試合は、勝ちを譲った物だと考えてたんだけど……実はマジだったりしたのかな?
……まぁ、あまり質問するのも失礼だし今度聞いてみましょう。
で。
「なぁ震離。次の相手って誰とかって決まってるの?」
「いや全然。というかこちらの出場する人数だけ伝えて、後は向こうが立候補した子が出てくるスタイルだから、誰が来るか分かんない」
「へー。ちなみに相手人数は?」
「三人の予定。ちなみにコレがラスのつもり」
シミュレーターの中ではやてさんとギンガが用意してるのを眺めながら、割と珍しい組み合わせだなぁと。そもそも組むのが珍しいのと、はやてさんはその立場上、基本的に前線に出ることもなければ、戦うのも珍しいし。
まぁ、それでも相性は良いと思う。ギンガって視野広く見れるタイプだと思うし。はやてさんの指揮の元で戦うわけだから動きやすいと思う。そのかわり酷使されそうだけどねー。
「……あ、ねぇ震離?」
「んー? どったの奏?」
「……私とはやてさんが最初に出会ったあの人はどういう人物?」
はなを膝に抱えながら、奏が震離へ声を掛ける。そういや、俺達が転移してきた時、誰かが必ず迎えてたね。俺とフェイトは流が。スバルとギンガは震離が。そして……。
「……ごめん。なんて伝えていいかわからない。私が伝えて良いものなのかも分からないし。
だから待ってくれるとありがたいなって」
「……そっか」
顔を伏せて言う震離の様子を察して、奏もそれ以上の質問は行わない。震離がそう言い淀むのはちょっと気になるが……おそらく誰かの関係者かな? 奏達と情報交換をした時に聞いた話だと。白銀のポニーテールの女性と言ってたな。目元は髪で隠れて見えなかったらしいが……。
まだ会ったのが奏とはやてさんだけだから分からないんだよね。ただ、奏曰く。誰かに似てたとの事だけど……。
それにしても銀髪のポニーテールの人……どっかで見たことあるような、どこだっけ?
「響。始まるよ?」
「あ、はい」
フェイトに言われて、一旦考えるのを辞める。情報なさすぎて考えても仕方ないしね……って。
「……っ」
背後から息を飲む声と共に、フェイトの腕に力が入ったのがわかった。
相手側の三人の中に、金髪の……それこそフェイトにそっくりな少女が一人居ること。それ以外は、小さなギンガと……殆ど変わりのないヴィータさんが居る。
やべぇ、ギンガの個性が殺されてるわ……フェイトにそっくりな女の子の出現と、まったくもって変わってない人のせいでなんか……。
『響? 何かあった?』
「……いや何も?」
なんてことない様子でこちらに通信飛ばしてきたんだけど。不思議そうにしてた所を見ると本当に気になってこっちに飛ばしててきたんだろうなぁ。
しかし……てっきり、はやてさんのちっちゃい版が、もしくはそのそっくりさんが出てくるかと思ってたんだけどなぁ。
――side流――
「王もはやても出なくて良かったんですか?」
この選出には私も驚いた。三人ということだけど、経験豊富……と言うよりずっと出たそうにしていたヴィータに。最近始めて、チームアップの特訓も兼ねて参加することになったギンガ。そして、それを指揮するのは王か、はやてかと思ってたんだけど……。
「……嫌な予感がする。我は降りる」
「私は逆に面白そうやと思っとるけど。今回はヴィータとギンガのレベルアップを兼ねとるからなぁ」
……そういうものなのかな?
時間もそろそろ良い頃ですし、この一戦で今日は終わりかな?
「……それにしても」
「言うな。久しぶりの強者に心滾っておる。そっとしてやれ」
ちらりと視線をずらせば、シュテルが先程の試合、そしてレヴィの試合を熱心に観察してる。勿論現在開始されてる試合も見ながらも、心はどちらかとフェイトさんの試合の方へ。
最近は同等になりつつあるとは言え、個人戦は相変わらずシュテル、フェイト、レヴィ、そしてそもそも別格な姉妹の御二方と、シグナムさんって順ですからねぇ。その中で現れた強者の存在が良い影響を与えてくれれば……。
あぁ、ダメだ。意識を落ち着かせようとすると、色々考えてしまう。あの人達の出現の意味。その事を深く考えてしまうこと。もしかすると……。
「……良い時期かもしれませんね」
思わず口に出てしまったけれど、誰にも聞かれていないことを確認してホッと一安心。
さ、一旦それは置いといて、今は……試合を見ることに集中しましょうか。
――sideはやて――
あ……っかーん。
そんな事を思いつつ、攻めてくるちっこいギンガの動きを捌いてるんやけど、ほんま私ってタイマン苦手やなぁって。
「当たらないっ?!」
「いやいや、結構ギリギリやで?」
とは言うものの、ホンマに何とか良い勝負になってるのはしゃあないなぁと。私もコレを気に高町式……はおっかないから止めといて、ザフィーラやヴィータから教えてもらうのもええかもなぁ。
剣のスフィアを展開して、ウィングロードの上を疾走するギンガへ向けて。
「バルムンク!」
「っ、ディバイン……バスター!」
私の剣状の直射弾を、短距離砲撃で迎撃するのは……流石ギンガと言うべきかな。魔力が拡散したのを確認してから、距離を取って。
「ブラッディダガー!!」
「え、あ、早?!」
展開されたウィングロードに合わせてダガーを射出すると共に、ギンガの動きが一気に不安定になる。コレは経験値の差やな。未来のギンガなら、道を展開して行動を読ませる事は箚せへんし、仮に展開してもそれは敵の動きを制限させるための見せ札やし。
せやけど。本当ならば、私の相手に……こちらにまっすぐ突っ込んきたのはきっと―――
――sideギンガ――
やりにくい……ッ!!
世界は違えど、ヴィータさんの一撃は相変わらず重くて早い。だけど、まだコレはいいんだ……。
問題は……!
「ヴィータ、お願い!」
「任せ……ろっ! スキルセット……テートリヒシューク!!」
ラケーテンフォームからの一打が飛んできた。コレは捌ききれない。だけど防ごうと思えば。
「させないよー!」
「……上手いタイミング!!」
こちらの僅かな隙間を狙い、両手の拳銃の射撃を持って、こちらの動きを阻害。被弾覚悟で突っ込んでもいいんだけど、それをしたら。ヴィータさんと真っ向勝負になってしまう。だからこそ、ヴィータさんの一打を見極めて―――
「……いっ?!」
「掴み……ました!」
振り下ろされる一瞬を見切って、グラーフアイゼンの柄を掴んで。そのまま……
「投げ……ます!!」
「おぉおぉおお?!」
狙うはフェイトさんを……幼くして元気な風な子へ目掛けて投げる!
でも。
「直撃はごめんなさい。ゴメンねヴィータ?」
「ひでぇええええ?!」
飛んできたヴィータさんを軽いモーションで躱した後。そのまま見送ってた。
そして、私はウィングロードを展開して、あの子は空を飛んでこちらを見据えて。
「ねぇ! えーと、ギンガ……さん? でいいのかな?」
「へ……はい?」
使っていた銃を収めて、こちらに近づいてくる。それに合わせて私もリボルバーナックルを下ろす。
「あの、えーと……?」
「あれ? フェイトやスバルの大人版が出てきたからてっきり未来から来たと思ったんだけど……違うのかな?」
「えっと……」
始まる前に震離から伝えられたことを思い出しつつ、少し考えて整理して……よし。
「少し異なる未来から来たんです。なので、ごめんなさい。お名前が……」
「そうなんだー。じゃあ名乗りましょう! 私はフェイトのあ・ね・の! アリシア・テスタロッサでーす!」
ん? ……え!?
思わず思考が完全にフリーズしてしまう。フェイトさんのお姉さんがいらっしゃるというのは聞いたことあるけれど……完全に妹さんかなと思ってしまいました。
「流石スバルのお姉ちゃん。完全に上を行く行動パターンだった……上手いなぁ」
「い、いえいえ、そんな……」
うーん……どれくらいの距離で話していいのか分からないからついつい敬語に……。
「あの、戦わなくていいんですか?」
「へ? うん。今回私が出たのは数合わせだし。本当ならギンガ……えっと、こっちのギンガと組んでチームアップの特訓を兼ねてたんだけど。ヴィータが大っきいはやて……さんを見てからいやだーって拒否しちゃって」
まぁ仕方ないけどねと笑うアリシアさんを見て、呆気に取られる。
「それでね! 未来のフェイトや皆のことを教えてほしいなぁって」
パシッと私の手を取って見上げてくるアリシアさんの目は、眩しいほどに輝いて……。
『ダメですよアリシアさん。それはルール違反です』
パッと私とアリシアさんの隣に通信ウィンドウが展開されると共に、流と震離の顔が表示されて、流から注意を受ける
「えー、お話したいのにー」
『アリシアー? それじゃあサプライズの意味がなくなるのと』
『……こちらの皆さんが怒っちゃいますよ? ホラ?』
と、流が退くと背後には羨ましそうにしてる小さなスバルや、文字通りの小さくなったフェイトさんや、先程戦っていたなのはさんと瓜二つの女の子たちがこちらを……モニターを見ていて。
『なので、お話するのはまた後の楽しみということで』
「ぶー。絶対だよー?」
『勿論。それに……皆さんの宿の手配も考えないといけないですし』
その言葉を聞いた瞬間、ビカッと瞳が輝いて。
「わかったー。なら、大人しく引こうじゃないかー! それじゃあギンガ……さん。また後で!」
「はい、また」
……あんまり勝負は出来なかったけど。コレでよかったのかな……? 流のウィンドウが消える中で、震離だけ残って。
『じゃあギンガも戻ってきてもらっていいかな。不完全燃焼だったかな?』
「ううん。この世界でもヴィータさんは強いなぁって。驚いちゃった」
『少し隙が多いけど、それでも火力はそのままな一人だからねぇ』
あははと笑うけど、それは何処と無く寂しそうにも見えて……。
『さ、はやてさんの所もお話フェイズに入っちゃったから帰ってきてね』
「了ー解」
背伸びをしてから軽く息を吐いて。
戻るまでにはちゃんと手合わせをしたい。なんて考えながら、シミュレーターへと意識を戻して。
――side震離――
さ、流石はやてさんと言うべきかなー。なるべく手短に終えてほしいって伝えて、理由まで教えたら……ギンガと無駄に戦闘しないで逆に遠距離タイプの捌き方とかレクチャーしたんだもん凄いわー。
本当は気の済むまで戦ってくれたらなぁって思ってるんだけど……。
時間がそろそろ不味いんだよねぇ。研究所にホームステイをしてる王様達は問題ないとしても、他の子達はそうは行かないし。何より夏休みの頃とは訳が違うし……。
何がいいたいかというと。
もう夕方超えて夜になりそうなんですよねー……。
良い子の皆をこれ以上遊ばせるわけには行かないんですよねー……。
特にそろそろテスタロッサ家のお母さんが動き出す頃合いですし。
私達も研究所の一室借りて住んで二人くらいなら受け入れられるけど……良く良く考えたらちょっと現状は無理なんだよね……強いて言えば、はな位なら泊められるけど、きっと響と一緒のほうがいいだろうし。
「で、震離? 宿の確保ってどういう事?」
「んー。そのまんまの意味だよ。私達のお家と言うか部屋……今人を迎え入れる用意が無いから。ちょっとしたホームステイをしてもらおうかと」
軽い嘘を交えながら、キャハッと言うと。響の顔がスーッと青くなるのが見えて。ちょっと笑ってしまいそうになる。
バチッと響と視線がぶつかって。
―――何とかなりません?
―――無理。諦めて。
―――何とか……この姿で女子のフリは辛いんですよ……。
―――女の子だから問題ないよ。頑張ってね。
フェイトさんに気づかれまいと視線で会話してる私達だけど、傍から見れば見つめ合ってるだけなんだよね。奏もその視線に気づいて苦笑いを浮かべてるし。だけど残念だったね響。
「フェイトさんは、響とはな連れて泊まりますよね?」
「? うん」
奏の質問に、そのつもりですが何か? という様子のフェイトさんの膝の上で。更に顔が青くなってる。いやぁ。皆に合わせる前……デュエルを始める前の響の言葉を思い出すなぁ。
―――あー。女子っぽい男で通したいわー。
いやーリライズアップしたらあんな可愛い格好になるとは私達も想定外だし。一応服装変えられるけど、それはもう伏せておこう。理由は単純で……そちらの方が面白いですし。
というか、こういう時くらい響と奏は一緒にいりゃ良いのにね。
なんて話してたら、映像の向こうではやてさんも戻る用意を整えたらしいし。
さ、今日はこの辺りですかね。
――side流――
「違う未来!? じょ、冗談やろ……?」
この世界の子達……王様や、はやて、この場に居る皆に伝える。それは震離さんが話した内容とは多少異なるけれど、基本的には変わらない情報を。
私達の出身世界とは異なる、「ゲーム」としての魔法を扱うこの世界と、本来の意味での、「戦闘」行為の一環としての魔法を扱う世界ではその意味はぜんぜん違う。
それは捉え方によっては、その違いを暗い物として捉えかねないものだ。
だから、その魔法の違いを知っている博士二人とは異なる説明を彼女たちへと伝えた。
早い話が……。
「いいえ、話を聞いて驚いたのですが。そうしないと説明がつかないんです。例えばシュテルと戦った大人版フェイトは……シュテルと戦った際。初めて戦うような動きを見せました。
ギンガの大人版もそう。アリシアさんとはそれなりに面識があるはずなのに、知らない様子を見せたこと」
「……はー。王様達が留学しないで、T&Hも開店が遅れて、アインスも留学した異なる未来って……じゃあ、その世界の王様達はブレイブデュエルしてへんの?」
「どうでしょうね。話を聞く限りではしっかり海外展開されて、日本だけではないみたいですから。
ダークマテリアルズの名前を出したら反応していたので、きっと居るんだと思いますよ」
我ながら口が回る。良くもまぁこんな偽りを話せるなんて……。
はやての隣の席に足を組んでる王様が視線だけこちらに向けて。
「なるほど。では、我から一つ。あの黒髪とガンナーは何だ? あれも未来からだとすれば、誰の関係者だ?」
「えぇ、あの人も未来からですよ。と言っても巻き込まれたみたいですけど」
王様の言う二人、響さんと奏さんについて聞かれても。
「ふむ……ならば本命は……いや、被害を受けたのは子鴉と、黒ひよこ、ギンガにその妹がメイン……ということか?」
「そうとってもらって構わないかと」
あの人の事を考えたら……きっと本来呼ばれたのは……。
スッと、手を上げた人が見えてその子に視線を向けると。
「ねぇ流? 異なる未来ってことは、未来の私に何かあったから過去に飛ばされちゃったの?」
と、少し心配した様子のフェイト。一応補足を入れておこうかな。多分こちらのフェイトさんはアリシアさんを見て、普通にしていられるとは限らないし。
「何かあったと言うか。この前のヴィヴィオと同じ展開ですね。ただ、ヴィヴィオが来た時代よりも少し前なので……皆さんにはその事は伏せるように。もしかしたらあちらの未来が変わるかもしれませんから。
そして、フェイトの質問にはノーと答えます。ただ、こちらの貴女とは違って、あちらのフェイトさんはアリシアさんとは離れて……あぁ、留学の関係で離れてらっしゃるみたいですよ」
「そうなんだ」
「え、私留学?! バイリンガル!?」
カッと目を見開いて驚くアリシアさんを撫でるフェイト。さらにその光景を見た周りの空気が和らいだのを確認して。
「そ・こ・で。皆に相談です。こんな時間まで引っ張っておいてなんですが……」
改めてのお願いを伝えた際。皆さんの行動の速さに脱帽致しました。
――side響――
「え……な、んで?」
「いや、あの……冷静に考えてね? 俺が俺のままならいくらでも言えたかもしれんけど。今の姿……女子になってる俺を指して。その……恋人っては言えないだろう」
あー、やべぇ言ってて恥ずかしくなってきた。
何とか平静を保てるのは……眼の前のフェイトがすっごく悲しんでるのが分かるからなんだろうなぁ。
「で、でも。家族って言えば何とか……」
「文字通り毛色が違いすぎるし。何より、フェイトのお姉さんを見て平静を保てるの?」
うっと息を飲んで項垂れた。そんな様子だからこそ一緒に居たいけれど。かと言って変な目で見られても困る。
しかし。どうやったら一緒に……あ。
「なら、表向きは師弟関係とかにしておく? それともホームステイをしていますとかでもいいし。それなら話を合わせられ」
「ホームステイで」
「あ、はい」
即答でした。めっちゃ速くて驚いたなぁ。後はコレで何処まで話を合わせることが出来るか。前者なら難しかったが後者ならなんとかなる……かな?
「主、私はどうしたら?」
「ん?」
俺の服の裾を小さく引っ張るはな。その表情は何処と無く不安そうで、その言葉の意味を考えると……。
「あぁ。はなは……そうだね。緋凰はなって名乗っていいよ。花霞って名乗らせてやりたいけど、それだと違和感あるし。デュエルネームは花霞、普段ははなですって」
「え、あの……良いんですか? 私なんかが名乗って……?」
「良いも何も……貴女は俺のデバイスで、これから先一緒に居ること多いんだから。丁度良いと思うけど?」
大事なことだろう。だけど、敢えてそれをなんて無いことのように伝える。恥ずかしいということもあるけど、それ以上にはなを家族の一人として見てるからこそ……。
「はい、主」
「うん。あと表向きは……あー、このナリだと姉妹のほうが通しやすいか。好きなように呼んで」
そう伝えると口元に手を当てて、少し唸った後に。
「……姉上殿?」
「殿はいらんなー」
ちょっと複雑そうに、それでも嬉しそうにいうはなの頭を撫でて。
ふと視線をずらすと……少し屈んだフェイトの姿が。一瞬考えてからフェイトの頭も撫でて。
「嫌かもしれないけど、それでも話を合わせてくれると嬉しいなって」
「……うん、分かった」
――side震離――
「なんというか……杞憂でしたね」
「そうだねー」
離れた席から流と一緒に皆の様子を伺う。
「自己紹介も要らずに……と言っても内4名はそのまま大人に、成長した知り合いですからねぇ。響さんと奏さん、ダークマテリアルズの皆と、アリシアさん位でしたしね。改めて自己紹介したのって」
「いやー早かったなぁ王様が動くよりも先に皆で質問攻めだもんなぁ驚いたよ」
視線の先にはなのはやアリシアから質問攻めを受けてるフェイトさん。ちっちゃいスバルを肩車してるスバルに、抱っこされてるちっちゃいティアナ。恥ずかしそうにはやての背中に隠れながら、成長したはやてさんを見るヴィータ。ちっちゃいギンガは王様と共に未来のギンガに攻め手や展開とか色々聞いてる。
王様も最近ギンガにあまり教えられないからって悩んでたもんねぇ……。
そして奏はアリサやすずかからの質問……あのタイミングの捌き方を、攻め方を教えてるし。
響はレヴィの質問に答えてると、興味を持ったシュテルや、フェイトに質問されてはキチンと返してる当たり流石だなぁと。そして、はなはユーリと凄く仲良しになってるのが微笑ましいって。
「……問題が、あれが収まった後の混沌がどう影響を与えるかって話ですよね」
「……やめて怖い」
「想像しましょう。はやての上位互換に近いはやてさんの出現が王様にどう影響を与え、フェイトを成長させて、かっこよくなったフェイトさんをみたプレシアさんの……テスタロッサ家の皆さんの反応。
中島家の姉妹のリアクション、スカリエッティ家の驚きも凄いでしょうね」
「……うわぁ。胃が痛いわぁ」
キリキリと痛む胃を抑えながら、ただただ願う。全部良い方向へ転がって欲しいなって。
「そう言えば内訳はどうなったの?」
「響さんと奏さん、はな以外はすんなりと。というか未来の自分とお話したいってことで即決でしたね。なのでこれからじゃないですかね」
「そっかぁ。ていうかそろそろ良い時間だから、プレシアさん来るよねぇ」
「そうですねぇ。そしてそろそろあの姉妹もこちらに来るでしょうしねぇ」
はぁ……と二人で重い溜息。後者は良いんだ。明るい姉妹だから特に差し支えないし。問題は前者のお母さんなんだ。親ばかの人に、娘の未来の姿。しかも良い感じで育ってるし。
いや待て、娘二人そこにいるのに増えたってことは、逆に警戒するんじゃね?
まぁ、流石にそれは―――
「アリシアー、フェイトー、迎えに来たわ……よ……?」
プシュンと扉が開いたと思えば、聞き馴染んだ親ばか筆頭の―――プレシアさんの声が聞こえて、皆の視線が集中する。それに対して扉を開けたプレシアさんも真っ先に自分の娘を見つけたんだろう。だからこそ固まってしまった。
それは成長したフェイト……もとい、フェイトさんに視線が止まって。フェイトさんもまたプレシアさんを見て。
「「……っ」」
「危ね!」「不味い」
ふらっと意識を失うように二人共倒れそうになったのを、フェイトさんは響が何とか止めて、プレシアさんは流が止めた。
「……プレシアさんはコレは歓喜の方ですね。凄い笑顔ですし」
「フェイト……さんは、なんというか微妙」
流は困ったような表情でを浮かべ、響は心配そうな表情だけど……。
「す……すごーい!? おっきなへいとまで距離あったのに、どうやったの?!」
レヴィの一言を皮切りに、また盛り上がる室内。
「きゃー?! プレシア!? どうしたんですか!?」
「リニスさん、ちょっと問題がありまして……とりあえず横にしますね」
「もう……またですか。ごめんなさい、お願いしますね流?」
「えぇ」
プレシアさんを抱き上げて、そのまま近くのソファーに横に。フェイトさんも今の響では起こせないからギンガが抱き上げて同じくソファーへ寝かせてる間に。テスタロッサ姉妹がリニスさんへ近づいて。
「リニスー。今日って突然お泊りとかって出来るかな?」
「? 客間ならありますけれど。どうかしたんですか?」
今一状況が飲み込めていないらしく首を傾げているリニスさん。それをニヤリと笑みを浮かべたアリシアが続ける。
「良かった。そしたら3人泊めたいんだ」
更にわからないといった様子のリニスさんの近くで、お願いしますという様子で見つめるフェイト。そのまま部屋の中を見渡して、一気に表情が固まった。自分の妹を抱っこしてる大きなスバルと、その姉である大きなギンガ、そして、はやてさんを見て目を丸くしてる。
スバルとギンガはリニスさん……つまり、管理世界におけるリニスさんを知らないからわからない様子だけど。唯一ある程度事情を知ってるはやてさんは。
「……」
無言で倒れたフェイトさんと、リニスさんの顔へ視線を行ったり来たり。話を聞いてたとは言え、実際に見るのはやっぱり違うんだろう。ちょっと受け入れるまで時間が掛かってる。
でも、先日のヴィヴィオの件を知ってるリニスさんは……。
「なるほど。承知しました。あの御三方ですね」
「え、ううん。違うよ?」
アリシアの否定により再度固まる。確かに言われて見ればあの三人だと思うよねぇ。そのままアリシアに手を引かれて、倒れたフェイトさんの元へ行くと。
「……わぁ。なるほど! コレではプレシアも倒れますね。家の皆も驚きます」
「うん。驚いたでしょう?」
恥ずかしそうに話すフェイトの言葉に納得したように頷いて。でもふと、首を傾げて。
「しかし、三人。あと二人というのは?」
「未来のフェイトのお家にホームステイしてる二人。緋凰姉妹の事だよ」
うわウケる。はなは姉妹って言われて照れてるのに対して、響の目が点になった。多分一緒に泊まることは無いって踏んでたんだろうなぁ。ところがどっこい甘かった。
そんな響を笑ってる奏のもとにすずかが寄っていって。
「奏さんは宿がなければ私のお屋敷へ。歓迎しますよ」
「あ、じゃあお願いしようかな。よろしくねすずかさん?」
「はい!」
おっと、コレで全員の宿が確定したかな……? マテリアルズの皆はちょっと悔しそうだけど。まだ初日だからっていうのがあるからだろうなぁ。
「ねぇ震離ー?」
「ん? どったのレヴィ?」
向こうでランスター姉妹が、ちっちゃいティアナとリニスさんが話をしてる中で、何かに気づいたらしく、不思議そうな顔のレヴィが私の傍にやってきて。
「……響とサトって、関係あるの? 何となく似てるような気がするんだけど?」
その質問に息を呑んだ。だけど―――
「気のせいだよ。何か共通点があるとしたら……そうだなぁ。どっちも男の様な格好するからそれでじゃないかな?」
「んー。そっかぁ」
100%で納得したわけじゃないけど、今はこの程度で良いかな。しかし、やはり感覚型の天才。殆どスタイル違うにもかかわらず寄せてくるなんて、考えてなかったよ。
時間も19時になりそうだし今日はお開きだねー。アミタとキリエは結局来れなかったのか、はたまた違う要件があったか……まぁ、とりあえず。
「さ、皆遅くなって叱られる前に、帰る準備してねー」
はーい、と返事の大合唱を聞きながら、とりあえず私も車を出す用意をしますかねー。中島家って割と距離あるしねー。しかし、研究所の前にテスタロッサ家と月村家の車が停まってる図って毎回すごいんだよなぁ。だってなんか知らんけどリムジンが二台って何処の怪しい組織ですかって話だし。
ま、何はともあれ。保護者達からの鬼電が来る前にちびっこ達を連れて帰らねばー。
――sideフェイト――
この世界に先に来たという二人から話を聞いた時。冗談かと思った。それは私だけではなく、はやてもきっと思ったはずだ。
母さんが、アリシアが、リニスが、皆幸せに生きているんだと。あまりに幸せすぎて、とても優しくて、あり得ない世界。
だけど、隣には響が付いてくれた。震える私の手をなんてこと無いようにとって、視線で訴えかけてきた。
―――平気だ。
姿が変わって女の子なのに、普段の響と変わらないような暖かい笑みを浮かべて側に居てくれて。
そして、私は会った。小さい私とアリシアに。小さな私は遠慮がちに遠目から見ていて、アリシアは……姉さんは大きな私にいろんな質問をしてきた。
未来の私の生活や、何をしたら大きくなったのか、そして差し支えない程度で未来の事を教えてほしいと。
気が付けば小さな私は響の元で色々質問したりしているのが見えてちょっぴりいいなって。今の私と違って、今より仲良くできるから……。
そうして時間が過ぎていく中で、私はあの人と顔を合わせた。
夜天の書の世界に近く……はないけど、それでも笑顔の母さんに。
そこで私の意識が途切れて―――
遠くから誰かの声が聞こえる。
「……大丈夫、フェイト?」
瞳を開けると――
「……母さん?」
夢に見た母さんの姿がそこにあった。心配そうに私を覗き込むその様子から、私は膝枕されているんだと気づく。
「え、あ……ごめんなさい」
母さん。と言い掛けそうになるのを堪えて止まる。慌てて起き上がってその隣に座る。
ふと周りを見渡すと、小さなルームの様に見えるけれど……ちょっと既視感があって……あ、アリサ達が良く乗ってるリムジンの部屋に似てるのだと気づくのにちょっと時間がかかって……。
「その、大丈夫、フェイト?」
「あ、はい。平気です」
心配そうに私を見つめる母さんの視線が、なんというか。嘗て向けられてものと違いすぎて、なんと言ったらいいのかわからない。
それを察したのか、小さく笑って。
「流石私の娘。とてもCoolな美人になったわね」
「……へ?」
サムズアップと共にそう告げる母さん。あまりにイメージが違いすぎて。変な声が漏れちゃった。
「……ごめんなさいね。アリシア達から話を聞いたわ。少し異なる未来の世界から来たって。そちらでは私はアリシアに付いて、一緒に留学先へ行ってしまったって。
分かりたくないけれど、理解できなくもない。きっとリンディが側にいるからという判断で着いていったんでしょうね、そちらの私は」
「……いえ、そんな。気にしないでください」
我ながらぎこちなく笑って応えるけれど、しっかり笑えているのか分からない。
「響ちゃんと、はなちゃんから話を聞いたわ。ホームステイの子を受け入れながら、検察官に向けて日々勉強してるって」
「いえ、そんな事……え、響ちゃん?!」
「? えぇ。あの子女の子でしょう? 私がそう言うと恥ずかしそうにしてたけれど……もしかして違うのかしら」
両手を口元に添え、信じられないわといった様子の母さん。響がそう呼ばれていることも可笑しくて、つい笑ってしまって。
「あぁ。やっと笑ってくれたわ。私のフェイト」
嬉しそうに顔を綻ばせ。私の手を取り。
「未来とは少し異なるかもしれないけれど、それでも言えるわ。おかえりなさい」
涙が溢れそうなのを一生懸命堪えて、母さんの手をギュッと握り返して。
「ただいま。母さん」
心からの言葉を告げた。
――side響――
「ふふ、主……じゃなくて、お姉さん。くすぐったいです」
「我慢しろー」
はなの頭をワシャワシャとシャンプーで泡立てながら、頭をマッサージしてやる。融合騎に効くのかなとかそういうのは置いといて、人の頭を洗う時の手順を一つずつこなして行く。
くすぐったいという感想から、全くもって頭のツボも固くなく、柔らかいはなには、まだこれの良さがわからないんだろうなぁと。
それにしても……。
「くっそ広いわぁ……」
「フフ、フフフ、なんです主?」
「……なんでもない。ちゃんと耳塞いで目も瞑りなよー。流すぞー」
「はぁい」
シャンプーの泡をシャワーで流しながら、改めてハラオウン&テスタロッサ家の浴室を観察する。4人位なら余裕で入れる広いバスユニットに、軽い大浴場だと言われても納得できるほどの洗い場。シャワーもなんか二つ付いてる辺り、この家すげぇと思う。
外見は……以前お邪魔した、ハラオウン宅と変わらないのに、内装はその倍以上あるのは凄いなぁと。
別にはなと風呂入ってるからってそっちの気があるわけではない
先にご飯の前にお風呂に入ってるのは、単純に時間があるから先にどうぞというのを受けて、お言葉に甘えさせてもらった。
しかし、なんというか……俺の知ってるフェイトと、こちらのフェイトって印象が違うんだよなぁと。
というのも、大きいフェイトは人付き合いが苦手な印象で、こちらのフェイトは、知らないからちょっと苦手という印象を持った。
前者は仕事なら普通に会話できるけど、生活に関わると駄目な感じで、後者は慣れればどこでも問題なさそうなそんな感じ。
でもそれはきっと、アリシアという姉の存在が大きいんだろうなぁと。
あ、ちなみに俺のこの世界で通す設定は小5になりました。実年齢18になってんのにね……ミッドの法律に則って飲酒出来るようになったのにね。
はなは小3で通すことに。フェイトは大学生、はやてさんも大学生という設定。ギンガと奏は高校2年で、スバルは中学3年と無難に落ち着きました。
「ほら、次はリンス付けてくからねー」
「はーい」
それにしても、まさか一番落ち着けるのが風呂場になるとは思わなかったわぁ。フェイトは気絶したまま、駐車場に着いても起きないし、プレシアさんが面倒見るって事になったけど……。その後アリシア達に一緒に風呂入ろうって誘われそうになった所を、リンディさんが助け舟出してくれたんだよね。
―――まだ来て初日です。ゆっくりさせてあげましょう。
めっちゃいい人だったなぁと。話を聞く限りだと、いつもチビっ子3人で入ってるらしいし……すげぇ仲いいんですね、と。
まぁ、後は……。
「……あ、流すぞー」
「はぁい」
下のフェイトとそのお母さんがどう転ぶか、だな。はやてさんからもちゃんと見たってって言われたし。きっと何かあるんだろうなぁ。
正直、ミスったなと思う。PT事件。プレシア・テスタロッサ事件、ジュエルシード事件の概要は頭に入ってるけれど、その詳しい内容……つまり、その動機までは頭に入れてなかった事を今更になって後悔した。
……ま、知ってたからって何かが変るわけではないというのは分かってる。こればかりはフェイトの問題だしなぁ。
と言うか、全体的に今回大丈夫かね? 俺と奏とはな以外は……皆、故人に会うわけだし。
「……そう言えば主?」
「脱衣所に、誰の気配もないからいいけど、主じゃなくて姉なー。でどうした?」
「……お着替え……どうしましょう?」
……あ゛。
――sideフェイト――
「話は聞いてたけど、本当に大人のフェイトねー。驚いたわぁ」
「えぇ、私も見た時には驚いて……勢い余って昇天したわ」
リンディ母さん……いや、こちらの世界だと、リンディさんになるのかな。リンディ母さんとはいつもの感覚でお話してしまいそうになる。これも気をつけなければ。
「そして、シュテル曰くまだ本気を出してないって言ってたよ」
「今の私じゃ出来ない突撃もしてたし、凄かった」
アリシアと、小さな私が続けて言う。なんというか、自分がそこに居るというのはなんというか少し落ち着かないし、どうしていいのか分からない。
こんな時に響とはながいた……ら……って。
「あの、ひ……姉妹の二人は何処に?」
「あぁ。響ちゃんとはなちゃんなら……服に埃が着いてたのが見えたからシャワー浴びてる筈よ?」
「あ、そうなんだ。良かっ……え、お風呂?」
着替えは? と質問をする前に。
「はやて……あ、大人の方のはやてから聞いてるよー。男友達に囲まれて育ってるから、ズボンとか履いてるけど、目一杯可愛い格好させてあげてねーって」
「うん、言ってた」
「……へ?」
ギギギ、とアリシアと小さな私の方へ首を向けて。
「そして、服が無いだろうと懸念した私が。嘗てフェイトにーアリシアにーと買ったは良いものの、着てくれなかった服の山から!」
「私が選んで置いといたの。響ちゃんとはなちゃんにーって」
「……えぇ」
イェーイとハイタッチする母さんズを見て、なんというか。出会い方が違うだけでこんなに仲良くなったんだというのと、母さんが違いすぎる事に頭を悩まして。
いや、それ以前に……響がその服を着るのかという問題が……。
「ある……姉様姉様。出てきて御礼言いましょうよ。変じゃないですって」
「いや、あの、待って、ホント待って……」
おや? 遠くではなの声は聞こえたけど、響の声は消え入りそうなそんな声だ。
「……ちなみにどんな服を?」
「フェイト用に買ってフラれた真っ白なゴスロリネグリジェと、アリシア用に買ってフラれた白い上着と赤いレギンスのパジャマよ」
「いい趣味でしょう?」
無言で、母さんズとハイタッチ。それを不思議そうに見てるアリシアと小さな私。
いつかわかる日が来るよ……はなはともかく響の秘密を知ったらきっと萌える筈。
と言うか第一容姿がずるい。だって白い肌に綺麗な黒髪。美人とは言いにくいけど、可愛いという点では間違いなく合格点を軽く超えてるんだもん。
大人しく、それなりの格好をしていたら和風のお嬢様に見えなくもないのに、本人はズボンとシャツだったりと男の子っぽい格好のせいでギャップが凄いし。
そして、はなに引っ張られるように出てきた響を見て、もう一度母さんズ……いや、プレシア母さんと手を組んだ。いつかのキャディさんの所で着た物とは違った女の子らしい格好に顔を伏せて、赤くなってる。はなは……なんというかしっかり似合ってるし、いつもと逆転して、今度ははなが姉のようにも見える。
故に私は宣言しましょう。可愛いは平行世界を超えるって!!
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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