デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~
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第三章【天央祭】
第三十五話「始まり」
「今日は厄日とも思いましたけど吉日でしたー!」
9月8日金曜日。現在夕食を食べ終え自室にて横になっていた時突然上機嫌の美九が彼女の部屋に入って来た。その顔は彼女が見てきた美九の表情の中でも一、二を争う程上機嫌である事が伺えた。
美九はベッドに横になっていた彼女にダイブしてくるが彼女はそれを自然に受け流し自分の横に寝かせる。美九の家に住むようになり既に三か月近く経過した。幾度となく美九に襲われてはそれを彼女は回避し続けており最初は不満だった美九もいつの間にか受け入れ失敗する事を前提で襲ってくる程だ。
今ではこのやり取りに満足しているのか最初の頃あった美九のおねがいも最近は全く聞かなくなっていた。
「それで?一体何があったの?」
美九を自分の横に寝かせ頭を撫でながら彼女は問う。撫でられている美九はまるで姉に甘える妹の様に彼女にくっつきながら笑顔で話す。
「実はー、可愛らしい人と会いましてー。美亜さんの様に奇麗な銀髪の方だったんですよー」
「へぇ、それは良かったね」
「はいー、彼女が空を飛ぶ魔術師さんだったのが残念でなりませんけどー」
その言葉を聞いて彼女が思い浮かべるのは彼女が現界する時に現れるコバエ達。その中で天宮市にいる間に現れる者の中で銀髪の美少女と言うと彼女の脳裏に一人だけ思い浮かぶ。
「(確か屋上の一件の時もいた気がするな)魔術師?一体何を言っているんだ?」
「…ああ、そうでしたねー。美亜さんは知らないんですよねー。忘れてください」
一瞬の違和感を感じつつも美九の言葉に納得する彼女。精霊と言う事が美九にバレていない以上魔術師という言葉をすんなり受け入れるのは怪しまれるだろう。そこで彼女はとぼけ結果美九は何も言わずに引き下がった。
「…ところで、美九は天央祭で歌ったりしないのか?」
「ええー?何でそんな事しなきゃいけないんですかー?私は可愛らしい少女たちに聞いてもらいたのであって男風情に聞いてほしくはないんですよー?」
「…そっか」
美九の言葉に彼女は苦笑する。こうして暮らして初めて気づいた美九の男に対する異常なまでの嫌悪感。初めて見た時は彼女すら驚いたほどだ。
一月近く前に彼女が美九と共に歩いていた時たまたまナンパを受けた事があったのだが声をかけたその男は美九の力によって近くの人たちにボロボロになるまで殴られていた。その時は驚きのあまり彼女もただ見ているしか出来なかった。
「また会えるといいね」
「全くです!あれほどの方なら私のコレクションに加えてもいいですねー!」
「…」
美九がいうコレクションとはお気に入りの者たちの総称である。大半が彼女の近くに構え親衛隊若しくは取り巻きの様な様相をしている。因みに彼女もコレクションに入っており自他ともに認める一番のお気に入りとの事である。
「それにしてもまさか天宮市にはまだあれほどの美少女が潜んでいたとは知りませんでした」
「それは…。美九があまり公に出ないからじゃないか?」
美九は基本的に学園と家以外では曲の収録くらいであまり外には出ない。視線に男が入るのが嫌との事でナンパの一件も彼女が出かけるから一緒について行っただけの事である。
「…そう言えば明日は天央祭の話し合いがあるんでしょ?そろそろ寝ないと間に合わないんじゃない?」
時計を見れば針は大小共に12を指しておりそろそろ寝なければいけない時間であった。
「なら今日も一緒に寝てもいいですよね?」
そう言いつつベッドから降りる気はない美九は明らかに戻る気はないと伺わせた。とは言えこれもいつも通りの為慣れてしまった彼女は手慣れた様子で電気を消し美九の隣に横になる。
すると美九は彼女の体を抱きしめる。
「えへへ」
美九は嬉しそうに彼女の胸に顔を埋める。そんな美九を彼女は抱きしめ返し頭を撫でる。
暫くすると美九の寝息が聞こえてくる。それを見た彼女も目を閉じ襲ってくる眠気に身を任せるのであった。
「…ふふふ、可愛らしい寝顔」
早朝、日が昇り始めた頃美九は隣に寝ている彼女の頭を膝の上に置き撫でながら愛おしげに見つめる。彼女の寝顔は起きている間のクールな表情とは違い幼げな顔で寝ていた。そんな彼女を見る美九は深夜の甘えた顔とは違い母性を感じさせるものだった。
「私は知っていますよ。貴方が精霊である事を。そして貴方が私では止めきれない大きな目標を抱えている事を」
美九は独り言のように呟く。
「いつの日かあなたは私の元を離れてしまうでしょう。ですが、それまでの間はせめて日常を謳歌してくださいね」
美九はそう言うとしばらくの間彼女の頭を撫で続けるのであった。
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