デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~
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第三十三話「問答・後編」
「…ご馳走様。一応言っておくわ。奢ってくれてありがとう」
「お、おう。全然大丈夫さ…ハハッ」
口元をナプキンで拭きながら彼女は士道にお礼を言う。一方の士道は真っ白い顔で返事をする。
士道はあれから同じものをお代わりで注文しようとする彼女とそれを阻止する士道との攻防の末デザートを頼む事で落ち着いた。それでも更なる打撃は免れず士道は財布を確認しながら真っ白になったのだった。
「…五河士道。貴方に聞きたいことがあります」
「!」
彼女の真面目な顔に士道は直ぐに表情を引き締める。彼女の顔は殺気こそないものの屋上の時と同じ厳しい目をしており士道はまるで問答という名の裁判を受けている気持ちだった。
「最初にあった時、貴方は精霊の霊力を封印できると言いましたね?その事に嘘はないですね?」
「あ、ああ。本当だ。俺も何でこんな力があるのかは分からないけど俺には精霊の霊力を封印し人間にすることが出来る」
「…成程」
彼女はコップに入った水を一口飲むと次へと移る。
「では、次の質問ですが精霊としか生きられない者がいる時、いえ霊力を封印されたら死んでしまう精霊がいる時、貴方は霊力を封印できますか?」
「…え?」
「例えあのコバエに狙われ続けるとしても精霊としてしか生きられない者を封印できますか?」
「それは…」
士道は彼女の言葉に黙り込む。もし、彼女が言っている精霊がいるなら霊力を封印した先に待っているのは死だろう。霊力を封印した結果が死。士道は答える事は出来なかった。
「…俺は」
「…いえ、答えなくていいです。ですがこれだけは言わせてもらいます。私は、封印されるのなんて真っ平御免です。私にはやるべきことがある。叶えたいことがある。その為にも今封印される訳には行きません」
「…君は一体、何者なんだ?」
士道の問いに彼女は微笑みで返す。彼女が初めて見せた優しい、それでいて悲しげな笑みは士道の心に大きく、深く刻まれた。
「…いずれ、私の悲願が叶った時。貴方が生きていたならその時は答えを聞かせてください」
「え?それって一体どういう意味…」
そう言って立ち上がる彼女に士道は聞き返すが彼女は何も答えずファミレスを出て商店街の人ごみへと消えてしまう。
士道はただその様子を茫然と眺める事しか出来なかった。
「…あ、彼女の名前聞くの忘れてた」
「…少し、話しすぎたかな」
その日の夜、彼女は美九の家にある自室にて士道との一件を思い返す。
本来彼女はあんな事を言うつもりは無かったが気付けばほとんど喋っていた。
「私の気付かないうちに彼に対する心象の変化があったのか、それとも…」
そこまで考えていると扉がいきなり開かれる。扉には両手を広げた美九の姿があった。
「美亜さーん!ご飯の時間ですよー?」
「ありがとう。今向かうわ」
「ふふー!なら一緒に行きましょう♪」
美九は上機嫌で彼女の左腕を両手で抱きしめる。美九の豊満な胸の感触が左腕を通じて伝わってくる。彼女は何時もの事ながら苦笑しながら払う事はせずにそのまま向かう。
「(これじゃ、どちらが姉か分からないな)」
彼女は心の中でそう呟く。当初は美九が姉となっていたが日々の生活を送るうちに今では立場は逆転し百合百合な妹とクールビューティーな姉と言う図式に代わっていた。
彼女は右腕で美九の頭を撫でる。それを美九は嬉しそうに受け入れる。彼女が誘宵美亜となり既に二週間以上が経過しており我ながら随分で慣れたものだな、と彼女は心の中で呟くと食堂の間での道のりの間ずっと美九の頭を撫でるのであった。
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