蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第四話 紅雷
私はパンテーラ。
皇神に不本意ながら所属する能力者狩りの部隊長の1人です。
この幼い見た目では信じられないかもしれませんが、私は自分の能力である夢幻鏡(ミラー)で大人の男性と女性の愛らしい姿を使い分けているのです。
因みにこの私は能力で生み出した転写体(コピー)です。
その私が転写体とは言え本来の姿で夜の街を徘徊している理由…。
それは紅き雷霆の能力者であるソウ…量産した蒼き雷霆の能力者を生体ユニットにすることで強力な戦闘兵器を量産すると言う“プロジェクト・ソウ”と言う生命の冒涜とも言えるおぞましい計画の名を与えられた彼に良く似た人物がこの辺りに姿を現すと聞いたからです。
あの電子の謡精の事件からしばらく経ってようやく落ち着いたので捜しているのです。
仮の姿ではどちらも部隊長として知られていますから、この姿で捜しているのですが…やはり簡単には見つかりませんか。
彼はフェザーに所属していますが、行動原理は私達エデンに近い。
皇神のデータに残っている彼のミッション中の姿を見ると、敵対する無能力者を1人残らず殲滅していました。
資料によると彼は他の実験体と比べて強い帯電体質を持っており、それが蒼き雷霆を紅き雷霆に昇華させることに繋がったらしく、皇神からは非人道的な実験を繰り返された結果、あまりにも強力過ぎる故に廃棄されるところを能力で研究員を皆殺しにし、同じオリジナルを基にしたデザイナーチャイルドにして、同じ血の繋がりを持つ弟のガンヴォルトを連れて脱走し、フェザーに拾われたようです。
フェザーに拾われるまでの暮らしはとても過酷なものであったであろうことは、衣食住がなかったストリートチルドレンであった私には痛い程に分かります。
蒼き雷霆を上回る攻撃能力は敵対すれば脅威ですが、味方につければ頼もしい。
もし、彼と会えたら…エデンの理想成就のための力になってもらいたい。
能力者の未来のために。
しばらく進むと鈍い音が聞こえる。
呻くような声が聞こえてそちらに向かうと、愚かな無能力者が能力者の少女を痛めつけていた。
「(能力者相手とは言え多人数で1人を…!!やはり無能力者は排除しなければなりませんね)」
あまり騒がしくしたくはないのですが、傷ついている同胞を見捨てたくはありません。
「お止めなさい、それ以上の愚行は許しません」
「ああ!?何だてめえは!?」
「そこの彼女が何をしたと言うのです?見たところあなた方よりずっと幼いではありませんか?」
本来なら一息に消し去ってやりたいですが、私は愚者である無能力者とは違うので話し合いに持ち込みます。
「はっ!!こいつは化け物なんだよ!!」
「化け物が街を彷徨いてるなんざ迷惑なんだ!こいつは化け物退治だぜ!!」
「化け物がいなくなれば清々するからな!!」
無能力者達の言葉に私の心が急激に冷えていくのを感じました。
やはり無能力者は何処でも同じです。
能力者を恐れるために多人数で攻撃する。
例え相手に攻撃の意思は無くとも!!
「そうですか。では、あなた方に慈悲を与える必要はありませんね…めくるめく!愛の宴!愛の姿は万華鏡!惑い見えるは走馬灯!ここはそう、境界なき鏡界!ファンタズマゴリア!!」
夢幻鏡のSPスキルを使い、天地を逆転させて第七波動を光弾と言う形で写し出し、無能力者達の息の根を止める。
私は急いで暴行を受けていた彼女に駆け寄ると、息がまだあることに安堵しました。
出来ればエデンで保護してあげたいですが、今は皇神のスパイである私にそのようなことは出来ません。
どうにかフェザーの施設近くにまで連れて行くことが出来れば…。
「化け物がああああっ!!」
「!?」
声に反応して振り返ると無能力者が鉄パイプで私に殴り掛かろうとしていました。
避ければこの女の子は死に、私が受けても転写体である私が砕け散り、結果として彼女を死なせてしまう可能性が高い。
それでも振り下ろされる鉄パイプに私が彼女を抱き締めながら庇った時でした。
「俺達能力者が化け物ならば貴様らは害虫だ。しかも数が多い分、質が悪い屑共が」
突如目の前に紅い雷撃が迸り、無能力者は一瞬で塵にしてしまいました。
その威力に私は驚きました。
モニターで見ていましたが、これが紅き雷霆の力…。
そして、その能力よりも私の目を惹き付けるものが映りました。
たなびく銀色の髪、明かりに照らされる白い肌、中性的な顔立ち、そして宝石のガーネットを思わせるような紅い瞳。
モニターで見るよりもずっと綺麗で思わず魅入ってしまいました。
「おい…お前と…そいつは無事か?」
冷たい声ですが、何処か私達を案じるような言い方にもしかしたら不器用な人なのかもしれないと思いました。
「はい、彼女の怪我は酷いですが…息はあります」
「そうか、チッ…無能力者共が…」
その声には無能力者への嫌悪感が込められており、私も同意したいくらいでした。
「無能力者がいるから能力者はこんな目に遭うんです…さっさと消し去ってしまいたいです」
「そうか…俺はこいつを知り合いのフェザーの連中に連絡を入れて迎えに来させる…能力者は保護するのも俺の仕事だ」
そう言って安全な場所に移動してフェザーに連絡を入れたソウは私に視線を向けてきた。
「お前、住む場所は何処だ?」
その問いは多分、私を家に届けようと言うことでしょうか?
出会って間もない私のためにそこまでしようとするところを見ると態度や声は冷たいですが、彼の本質は優しい人なのでしょう。
ただ幼少期での過去によってそれが表面化しないだけで。
ここで私は彼に興味を覚えました。
「私には帰る家はありません。家族はお兄様がいますけど、この国には…」
「そうか……騒がしくなってきたな。お前、来い」
「え?」
彼は私を抱き上げて一気に加速した。
これが紅き雷霆の身体強化…!!
私を守るように紅い雷撃の膜を張りつつ、一瞬の溜め動作の後に超高速で飛んでいく。
目まぐるしく景色が移動するのを私は呆然と魅入ってしまい、しばらくソウが空と地を駆けていると、恐らく彼の拠点らしき建物の前で足を止めた。
「あの、ここは?」
「俺と弟の隠れ家だ。帰ったぞ」
「お帰り、兄さん。何時もの時間になっても帰らないから心配していたんだよ?」
扉を開いて出てきたのはソウと同じ顔立ちをした少年だった。
彼がソウの弟のガンヴォルトだ。
「…悪かった。無能力者のせいだ。」
謝罪する彼の姿に私は思わず顔が綻びました。
「ところで兄さん。彼女は…?」
「無能力者の屑共にやられそうになっていてな。送ろうとしたら帰る場所もない上にいた場所が騒がしくなってきてな…保護して連れてきた。1人くらいなら増えても平気だろう」
それだけ言うと、ソウはリビングに向かっていった。
「そう…そのごめん。兄さんが…無理矢理」
「いいえ、彼は彼なりに私の身を案じてくれたのです。不器用ですが、優しい人ですね彼は…」
「……っ」
その言葉にガンヴォルトは嬉しそうに微笑んだ。
きっと他の者は彼の表面上の態度を受け取って冷たい人物だと思っているのでしょう。
しかし、ちゃんと彼の一挙一動を見れば分かります。
私を抱き上げてくれた時も、移動する時も、降ろす時も私のことを気にかけてくれたのですから。
「GV…お兄さん帰ってきたの?」
眠そうに目を擦りながら1人の少女が姿を現した。
「シアン…」
「(電子の謡精!!ここにいたのですね…出来ることならここで彼女を確保しておきたいところですが、恩を仇で返すつもりはありませんので、しばらくはそっとしておきましょう)」
「あの、あなたは?」
私の視線に気付いたシアンは私に尋ねてきた。
「私は……テーラと言います。あなたは?」
「あ、私はシアン…よろしくねテーラちゃん。」
自分で言っておきながらもう少し良い偽名は思いつかなかったのかと自分に呆れましたが、この偽名なら渾名(テセオ曰く親しい間柄で使われる愛称とのことですが。)としても使えそうですしこれで良いかもしれません。
「僕はガンヴォルト…呼びにくいならGVと呼んで欲しい。実際にシアンや兄さんはそう呼んでるしね」
「分かりましたGV…しばらくお世話になります」
何故か彼らと共同生活を送ることになりましたが、これはこれで面白そうです。
ソウのことも良く知りたいですし、丁度良いかもしれませんね。
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