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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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無印編:トークルームⅠ

 
前書き
トークルームは攻略にも関わってたりするし、こういう雑談にも意味を持たせるのって良い 

 
《食材》


「しまったな…」

何気なく冷蔵庫を開いて気付いた。

ろくな食材が残っていない。

この4人で暮らすようになってからは普段、この家の食事は僕か兄さん、そして新しい同居人となったテーラが当番制で作っている。

僕と兄さんの調理はフェザーの訓練課程の中で身につけた技能だったが、仲間達からの評判も上々であり、僕の数少ない日常的な特技と言えた。

兄さんは基本的に僕と自分だけにしか作らないけど、とても美味しい。

まあ、兄さんの料理が美味しいのは兄さんの紅き雷霆も関係している。

兄さんの第七波動は僕の蒼き雷霆よりも強力で水中…特に電解質を含んだ海水の中で使ってもEPエネルギーの消耗が激しくなるだけ即オーバーヒートはしない。

でも全てにおいて蒼き雷霆より上回ってるのかと言うとそうでもない。

雷撃鱗の威力は高いけど、雷撃の威力が強すぎてハッキングは出来ないし、避雷針が雷撃に耐えられないために基本的にテールプラグをダートリーダーに接続し、ダイレクトに第七波動を放つか、避雷針に雷撃を纏わせたチャージショットと銃口から雷撃の刃を出しての直接攻撃が兄さんの基本的な攻撃手段となっている。

だから兄さんのダートリーダーのカートリッジはチャージ機能があるナーガが基本装備になっていて、避雷針を当てることさえ出来れば何処にいても雷撃を流せる僕と比べて一々狙いを定めなくてはならない。

そして最大の欠点はEPエネルギーの燃費があまりにも悪すぎることだ。

紅き雷霆の能力が体質に関わっているからか燃費が悪すぎて、兄さんはミッションには特殊製法された携帯食のブロック食を携えている。

そうでもしないと長時間のミッションの遂行が不可能だからだ。

つまり短期決戦なら紅き雷霆に軍配は上がるけど、長期戦に向いていて能力の小回りの良さは蒼き雷霆に軍配が上がる…話が逸れたけどテーラの料理もかなり美味しい。

本人曰く、生きるためにお兄さんと共に身につけた技術であると言っていたことと、兄さんにも負けないくらいの無能力者への憎悪からきっと彼女は無能力者からの迫害を受けて生きていたんだろう。

「本当ですね、このままでは夕食が抜きになってしまいます」

テーラが僕の後ろから冷蔵庫の中を見つめながら困ったように呟いている。

「…何か買ってこようか?」

シアンが尋ねて来たが、僕は流石にそれは危険だと判断したが、今度はテーラが立候補する。

「いえ、シアン。ここは私が行きましょう」

「お前達は余計なことはするな、お前達だと大量の荷物は持てないだろうから俺が買いに行く。GV、財布を持って行くぞ」

財布を取り出して外に出ようとする兄さんにシアンは慌てて駆け寄る。

「でも私…お兄さんやGVやテーラちゃんに何でも任せっきりで…私も何か役に立ちたいの」

「シアン…ありがとう。その気持ちだけで充分だよ」

「GV…私…何時か出来るようになるから…料理も…他のことも…」

「……美しい光景です。これもまた愛なのですね」

「愛…?良く分からないが…俺は行くぞ」

「ソウも優しいのですね。シアンが危険に曝されないように自分が向かうなんて」

「ふん、そんなんじゃない。お前達だと帰りが遅くなりそうだからな…皇神の連中が何処に潜んでるか分からない。用心するに越したことはないだろう」

「そうですか…ソウ…あなたの愛は不器用ですが、心地いいです…私もついて行ってもいいですか?」

「好きにしろ」

兄さんとテーラは共に買い出しに向かってくれた。

「GV、お兄さんとテーラちゃん。仲良しだね」

「あ、うん…そうだね。」

驚いたな…あんなにも口数の多い兄さんを見たのは初めてかもしれない。


《ぎゃる☆がん》


「あの、GV…これって…」

もじもじと照れるシアンの手にはゲームソフトのパッケージが握られていた。

あれは…前にジーノが置いていったレトロゲーム…モテモテになった男の子が、迫ってくる女の子を眼力で気絶させると言うちょっと頭のおか…恥ずかしい内容のシューティングゲームだ。

「…言っておくけど、ジーノが置いていったものだからね」

「そっ、そうなんだ…じゃあ、ジーノさんに面白かったって伝えておいて… 後、続編があったらお願いって…」

シアンは僕にゲームを握らせるとそそくさと立ち去っていった。

「気に入ったの…?」

「G、GV!?そ、それは!?」

お菓子を焼いてくれたテーラが僕の握っているゲームを見て興奮していた。

「ああ、これは…」

「そ、それは真実の愛を貫くシューティングゲームとして有名なアレではありませんか?」

「知ってるの?」

一見、ゲームをやらなそうテーラが知っていることに僕は驚いた。

「勿論です。どのような障害があろうともそれを乗り越えてキャラクターの誰かと結ばれる…愛を探究する者としては是非ともやっておきたい作品です。」

「そうなんだ…」

「GV、テーラ…お前達は何をしている…む?それは随分と古臭いゲームだな」

「兄さん…」

「ソウ」

僕達が騒がしいせいか、出てきた兄さんは少し不機嫌だったけど、ゲームを見てそれを見つめる。

「確かそれは実在の事件の内容をゲームにした物だったな」

「「え?」」

今、兄さんの口からとんでもない発言が飛んできた気がする。

「知らないのか?まあ、俺も偶然知ったんだが、この国では突如1人の男が急にモテるようになり、多人数の女から迫られて眼力か玩具の銃らしき物で気絶させていた事件が実際に発生していたらしいぞ。以前潜入ミッションで皇神のこの国で起きた事件を纏めたデータベースで見たことがある」

もし兄さんの言っていることが本当なのだとしたら、昔のこの国はどれだけ恐ろしい国だったんだろうか…。

「残念ですね、私は愛を探究する者として是非ともその事件を見てみたかったです。どのような障害があろうとも乗り越える真実の愛、そしてその絶技を」

取り敢えず事件当時にいなくて良かったと僕は心からそう思った。


《シアンとサイン》


「…あら?」

この家の今日の掃除当番である私が何気なく取ったチラシの裏に奇妙な紋様が描かれていました。

「…あーっ!!」

突如現れたシアンが、顔を真っ赤にして私の手からチラシを奪い取り…くしゃくしゃと丸め、握り潰しました。

「…まさかそれはシアンが書いたのですか?」

「ちちち…違うのテーラちゃん!これは…その…」

チラシに何が描かれていたのかは理解出来ませんでしたが…どうやら、彼女にとって見られたくない物だったようですね。

「気にしなくていいから!!」

彼女にしては珍しい、激しい剣幕で私に言い残すと彼女は自分の部屋へ戻っていき、私は何気なくゴミ箱に視線を移すと丸められたチラシがありました。

開くと、そこには先ほどと同じような紋様が描かれて…いえ、これはよくよく見ればそれは紋様ではなく、かなり崩した筆記体であることが分かります。

C…Y…A…N…シアン…?

Nに続く文字は…文字ではありませんね。

これは彼女の第七波動の蝶(モルフォ)をイメージした記号(イラスト)でしょうか?

「サインの練習…ですか…彼女は皇神の傀儡にされていたとしても歌うこと自体は好きだったようですし、もしかしたらアイドルに未練があるのかもしれませんね…」

私達エデンの目的達成のためには電子の謡精の力が必要不可欠なので、彼女が生きているのはこちらとしては少々不都合…なのですが…。

「せめて生きている時くらい思いっきり歌わせてあげたいものですね」

私はチラシをゴミ箱の中身と一緒にゴミ袋に入れると掃除を再開しました。


《シアンとテーラの好き嫌い》


「そういえばシアン、テーラ…2人にまだ聞いたことなかったけど食べ物の好き嫌いってある?」

「好き嫌い?うーん…辛いものは苦手かも…和菓子は好き…かな。羊羮とか、きんつばとか」

「私は基本的に食べられない物はありませんし、好き嫌いなんて出来ませんでしたから…あ、でもお菓子は好きですよ。タルトやフィナンシェとか」

「シアンは和菓子…テーラは洋菓子か」

見事に真逆だ。

明日の献立の参考にしようと思ったんだけど…まぁいいか…今度買っておこう。

そう思っていたら買い出しに出ていた兄さんが帰ってきた。

「おい、今日は菓子が安かったからお前らの分も買って来たぞ。食べろ」

「わあ、ありがとうお兄さん!!」

「お心遣い感謝します」

袋に入れてあるのは和洋の様々な種類のお菓子だ。

「兄さん…」

「お前もさっさと食べてしまえ」

「うん」

兄さんは何だかんだで本当にこういう気遣いが上手い…僕には出来ないことだ。

「でも基本的に手作りの兄さんが既製品を買うなんて珍しいね」

「洋菓子はともかく和菓子など作れないからな」

確かに洋菓子に比べて和菓子はかなり難しい印象があるし、兄さんも僕もミッションがあるから和菓子に挑戦する余裕はない。

「やっぱり羊羮は美味しい」

「此方のタルトも中々ですよ。まあ、アスロックの手作りに比べれば大分劣りますけど」

「アスロック?」

「あ…私の知り合いで菓子職人を目指していた方でした。ですが、無能力者の迫害で夢を…すみません」

テーラはハッとなって話を切り上げるが、アスロックと言う人物は無能力者からの迫害によって夢を諦めざるを得ない状況に追い込まれてしまったことは僕達も理解出来た。

「ふん、何処の国でも無能力者共は変わらないようだな」

「兄さん…」

「事実だろう、基本的に無能力者は自分とは違う存在を受け入れはしない…そうでなければフェザーのような組織など存在していない…この話は止めるぞ。空気が悪くなる」

兄さんは強制的に話を切り上げて黙々と食べる。

僕は食べている焼き菓子の味が良く分からなくなった。 
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