魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第69話 極天爆砕
――sideフレイ――
「……そこまでわかっているのなら。どうしてスカリエッティについた?」
「……」
優夜君の必殺の一撃を受けて居るにも関わらず、ここまで彼女はやって来た。非殺傷とは言えど、それでも全力の一撃。防御を抜かれた筈なのに……。
「貴女が私に勝てる訳ないじゃない……ッ!」
一時的に教導官をした時の、初めての教え子だった。魔力変換氷結を有して、教導隊の高町さんや、優秀な執務官や、自身も艦長についた実績のあるハラオウン家、そして夜天の魔導書を持ち、一騎当千の騎士を従えるはやてさんに、負けるとも劣らないほどの魔力と資質を持っていた。
優秀で、真っ直ぐで、素直な子だった。後の旦那になる子も、ゼスト君の元で修練に励み、次期ストライカーと呼ばれるはずの子だったのに。
ゼスト隊が壊滅したあの日、全てが変わってしまった。
取り憑かれたように階級をあげ、彼女は力を手にした。権力も、魔導士としての力も、その容姿を利用して自身に従う子達を作り、人脈を手にした。
でも、貴女は最後の一線を越えようとしなかった、力を得ようと、何を得ようと、他人を陥れることはしなかったのに、何故? よりにもよって、あの子達を貶めた? 貴女だって楽しそうに一緒に居たのではないの? 復讐の業火を忘れさる事も出来たはずなのに。
『フレイ』
「……あら、ティレット。どうしたの? 浮かない顔してるじゃない」
不意に昔なじみの顔がモニターに現れた。反射で軽口を叩くけど、コレはおそらく……。
『報告だ。レジアスはナンバーズの2番の手で殺されてしまい、ゼストも事切れてしまった。ゼストとレジアスは何も話せず、無念だったろうよ。
最後は六課所属の烈火の騎士が、彼を騎士として見送ってくれた』
「……ッ!」
声が詰まる。そうか、そうか……結局は間に合わなかったのか。年甲斐も無く涙が溢れてしまう。
かつて6人で語った事が頭を過る。あの時は正義について皆で語り合ったっけな。
『追伸。評議会とも連絡つかないのと。ナンバーズの2番が訪れたであろう部屋に3つの脳が転がっていたという事』
「……そう、予想は当たってしまったか。直ぐに三提督と連絡を。話したいことがあると伝えて欲しい」
『あぁ、直ぐに手筈を整えるよ。いいんだな、フレイ?』
画面の向こうでティレットが真剣な眼差しでこちらを見据えている。もちろん返事は1つだ。
「全てを公には出来ない。だが、二度とこのような事が起きないようにする義務が私達にはある。良くも悪くも良い機会と取りましょう。一変させることが出来るって」
『あぁ、そう……だな。手筈は整える。また後でな』
そう言って通信が途切れるのを確認して、思わず頬が緩む。相変わらずの心配性には微笑んでしまう。
さぁ、動けないように拘束もしているし。後は回収の子達に任せましょうか。
ごめんなさいねアヤ。きっと貴女もスカリエッティに利用されていたんだと思うわ。ゼスト君が生きてたと知っていたら貴女のことだから、そっちに着くはずなのに、貴女は終始スカリエッティの手駒として動いていたものね。
もし、私が貴女の裏切りをもっと早くに気づいていたら、もっと早くに彼らと出会っていたら……この結末は変わっていたのかしらね?
――sideはやて――
「現場指揮、誰か私と代わって! 私もゆりかごの内部に行く!!」
今ゆりかごにダイブできるオーバーSは私だけや。状況を一気に変えるカードはもう、出すことは出来へん。
現状、紗雪が遊撃して、落としきれなかったのを奏と時雨で援護、そのまま二人でガジェットの弾幕と拮抗させてる今なら入ることは可能なはず。
それに、あの子ら3人が居るから何とかこの戦線を維持できとると言っても過言ではない。本当、私は良い子達と巡り合ってたんやなって!
『八神部隊長!』
「っ、何や!」
今急いでるから手っ取り早く……。
『突入、もう少しだけ待ってください! 大切なお届け者を運んでますから!!』
アルトからの通信を受けて、そのお届け者の内容を見て目を見開く。ほんま、感謝してもしきれへんわって。
「了解、それまで私が指揮を取ります。代わりの人おらへん!?」
「はっ、私が!」
近くに居た航空隊の隊員の人が名乗りを上げてくれた。即座に情報交換。私はヘリが目標地点まで来るまで戦闘を継続するということ。そして、前で闘う奏達はそのまま自由にさせるよう伝えておいて、そのまま指揮を継続する。
それに……内部へ突入したヴィータの気配というか、魔力が弱っていっているようにも感じる。同時に未だに動力炉破壊の報告は受け取ってない。
こんな時に私情を持ち込むのは間違っとる。せやけど、いまだ突入隊が入れてへん以上、おそらく動力炉に居るのはヴィータ1人の筈。だとすれば……。
このままでは埒が明かない。それに、奏からの連絡で、震離を含めて何人かが中へ入っていったのは確認してるけど、正確な人数も分からへんし。
何より、空間割って出てきたという時点で、只の人やないという事は分かる。そうすると以前、流のときの問題の際に現れた人が関わってるんかなー? そうしたらかなりややこしいことになるんやけどなー。
管理局と聖王教会、そしてスカリエッティ以外の陣営の参戦は混乱させるだけやから大人しくしてて欲しいんやけど、そうは行かへん……か。
願わくば、敵対しなければええんやけどね。
第一、空間ってか……空割る人と闘うとか、どんだけ損害が出るか考えられへんわ。ホンマに!
――side響――
「え、流来てんの!? マジか」
王室への道へ行くために玉座から引き返してる最中に、下位ブロックに居るセインとディエチから連絡が入った。内容は2つ。1つは姉を倒したけど、その解除はスカリエッティが所持しているだろうということ、同時に二人のいる場所から、地上で闘う姉妹たちの制御を解除することは叶わないということ。
2つ、俺の地点とは別のルートで流が王室へ向っているということを今しがた聞いている所。
正直ホッとした、全く情報がなかったし、最後にあったのは俺は流の異動を伝えられた日だから、ちょっと久しぶりだしね。
『うん、その流だと思うよ。だけど、前見たときとは違う灰色のコートを肩に羽織ってる。あとキセルを咥えてるよ』
「……はぁ?」
コートは分かる。黒から灰色に変わっただけだろうが……キセル? 煙管? アイツが? えぇ? 何か数日見ない内に、皆大きくなったというか、大分様変わりしたようで、えぇ。
ヴィヴィオは少し見ない内に、フェイトかなのはさん並に成長してるし、流はキセル咥えてるって。俺もなんかするべきかなぁ?
って、違う。
「もう一人震離……いや、金髪の子が居ないか?」
『あー、居ないと思う』
何やら煮え切らない返事をするセインを見て、少し考える。そして、ふと思い立ったのが1つ。
「もしかして、誰も居ないのに話してるように見えるとか?」
『え、うん。その通り、よくわかったねー』
思わず眉間に皺が寄るのを感じる。という事は、マリ・プマーフが居る可能性が高いこと。ステルスでも積んでるみたいにモニターとかに映らないし。
だが、それでも違和感がある。流の様子の変化だ。もうちょっと根掘り葉掘り聞いておきたいんだけど。
「そうか、ありがとね。また何か分かったら様子を見て連絡くれ。もう間もなくエンカウントするから」
『うん、そちらも気を付けてね』
『じゃ、まったねー』
ディエチとセインの通信を切って、前へと進む。既に斬られたガジェットの残骸が落ちてる事から、おそらくここを通ったのはフェイトの筈。実際まだ斬られて時間が経っていないのか、金色のスパークが走ってるし。何か天井には縦一線のデカイ切込みが入ってるし。何よりも遠くに聞こえてた爆発音が大分近くまで来たし……。
しかし、残骸を見て妙だと思うのが、Ⅲ型は分かる。出力も重量も大きいから、威力の高い攻撃が撃てるわけだし。だが、見たことない虫のような多脚型に、明らかに対人を想定されてるブレードを持ってる事。そして杖が散乱しているという事と、その側には細い人型がくっついたⅠ型。
前者はともかく、後者は嫌な予感しかないわー。
さて、気を取り直して。両腰に差した刀の柄をそれぞれ握ると同時に、瓦礫で出来た壁を乗り越える。そこに居たのは道を埋め尽くさんばかりの大量のガジェットと、その奥には一際大きな扉。玉座の扉を遜色ないほど豪華な作りだ。そして、そのまま視線をずらせば。
「お、やっと追いついた」
眼下にはザンバーを構え、白いコートを纏った何時ものバリアジャケット姿のフェイトが見えた。同時にあちらもこちらを見上げて視線がぶつかる。
―――道を開けます。そのまま待機を。
―――何で、ここに? いや、それよりもなのはは?
―――あちらは平気ですよ。それにしてもコレで話せるとは思わなかったです。
ボッと、顔が赤くなるのを眺めながらガジェットの上を取る。
「二刀流。地薙」
適当なガジェットⅢ型の前に降りると同時に、二刀を加減なしで叩き込むが障壁によって防がれるが関係ない。
更に踏み込む足に力を込めて床を叩き割る。狙いはただ一点。障壁の向こうを薙ぎ払うことのみ。
故に。
「弐の太刀」
斬撃を薙ぎ払うように、衝撃として押し徹す。
瞬間、緋色と黒の二刀を振り抜き煌めいた。目の前のⅢ型がバツの字に斬り落ちると共に、足を踏み出す。AMFが濃い中で、俺では身体強化……どころか、飛ぶので精一杯だ。だからこそ、手加減など不要。
だが……数が多い。
ならば。抜刀した刀を納め、今一度柄を握り、腰を落として。
「二刀居合。砕星」
刃が光ったと同時に刀を収める。
「怪我はないです……ない?」
軽く深呼吸と共に振り返って声を掛けるけど、思わず敬語を使いそうになるのを抑える。また怒らせても怖いし。
「え、あ、うん」
状況が飲み込めてないのか、目を丸くしてるのを見て、思わず吹き出しそうになる。しかも花霞もフェイトのバリアジャケットの胸ポケットから顔を出して目を丸くしてるのが尚の事可笑しくて、ちょっとだけ辛い。
ガシャンガシャンと背後から音が聞こえる。こちらに向かう音……と言うより、崩れ去る音が。
「あの、響、いまのって……?」
「母から教わった、極です。さっくり言えば斬る対象を位置関係に関係無く選べる。という物なんですが、俺はまだまだ未熟なもので、対人には使用できないんです。加減が出来なくて」
「へ?」「え?」
おっと、フェイトと花霞がシンクロしてる。一度ユニゾンしたからかな? 何というか信じられない者を見てるようなそんな顔をしてるけど。
「え、じゃあ待って。響は普段からそれが使えると?」
「えぇ、一応手持ちの技全部に。抜刀の技も使いますけど、実を言うと居合のが得意……です……よ?」
何かワナワナとうつむいて震えてらっしゃる。なんだ? あ、花霞が何かを察したのか、そっとポケットに潜り込みやがった。
うつむいたまま、こちらに寄ってきたかと思えば、フェイトの両手が俺の両頬に添えられたと思ったら。人差し指と親指で。
「……あにすんでふか?」
「な・ん・で、黙ってるのかなぁ? じゃあ、いつかの模擬戦はあれ手を抜いてたの?」
「にゃわけないでひょう」
そこまで言ってようやく手を離して貰った。いやー痛かったけど、それ以上に半分涙目で詰められると何とも言えなくなる。
「段階踏んで、FW陣の一歩上を行きたくて取ってたんですよ。大体、そう簡単に奥義を見せるわけないじゃないですかやだー」
「ずるい。だってあの時私はまだ見せてなかったザンバーを出したのに、響は隠してたなんて、ずるい」
「え、いやだって。あの時六課に持ち込んだ刀でしたし、本気だしたらすぐ折れるっていう二本だったじゃないですか。あれで居合したらもたなくて折れるって、受けてわかったでしょう?」
何というか、いつものフェイトと打って変わって幼い印象。いえ、あの先輩? 王室そこなのにそんな軽い雰囲気なのもどうかと思いますが?
「……戻ったらちゃんと全力で模擬戦しよう。約束してほしいな。ね?」
「あ、はい」
何とも言えない迫力に圧倒されました。だって、何か怖いんだもんよ。まぁ、本気で怒ってるわけじゃないのは分かってたことだけどね。
「とりあえず情報を。王室に向って別ルートで流が向ってます」
「え、流が? 良かった無事だったんだ」
今のでなんとなく察した。流……アイツあの日から戻ってない可能性が浮上してきたんだけど。今聞いたら時間が掛かってしまうから一旦置いとく。
「それともう一つ。地上に居るナンバーズの子達が無理やり戦闘させられてて、おそらくスカリエッティなら解除できる可能性があるという事。あとは……」
ふと、ヴィヴィオの事を伝えようと思ったけれど、コレは伏せよう。間違いなくヴィヴィオとなのはさんが戦ってると聞いたらこの人、本気で金色夜叉になりかねないし。そうなったら止められないだろうし。
さっき押してたろって? 気のせいですよ、ほんとに。
「あとはって、何かあるの?」
不思議そうに首をかしげるフェイトを見ながら、なんて誤魔化すか考える。
「あー……あ。流が向ってるのはともかくとして、問題がどうやら単騎でここに来てる様に見えるらしいんですよ」
「単騎……もしかして、様子がおかしかったりとか、誰も映ってないのに話してるように見えるとか、そんな感じかな? あ、でも待って。何で響がその情報を持ってるの?」
あ、やべ、墓穴掘った。と言うか元々掘ってた穴に落ちただけかこれ。でも下手にごまかしても仕方ないし。
ヴィヴィオのことは伏せて全部話すかー。
――――――
「ってなことが御座いまして。甘いと思います?」
一通りの説明を終えた後、思ってた反応は3つ。呆れられるか、任務として倒すべきだったと言われるか、その両方か。だけど現実は。
「ううん、そういう風に言われたら、きっと私も同じことしていたかもしれない。お陰で分かったよ。保護をして、正しい事を学んだら。元々そんな考えができる子達なんだ、きっと正しい道へ行けるって」
「そう言って下さると助かりま……す」
やー……だめだー。気を抜くと普通に敬語に戻るー。フェイトさんもまたジト目になってるしー。またさん付けたしー。
「や、あの。帰ったら矯正しますんで、本当に勘弁してください。意識したら墓穴掘るし、意識しなかったら敬語になりますし、少し時間を下さい」
むーって、小さく頬を膨らませてもコレばかりはどうしようも出来ないんですって。そのせいでさっきなのはさん相手に、墓穴掘ったんですから。
ゴソゴソと、フェイトの胸ポケットが動いたと思えば花霞がひょこっ顔を出して。
「あ、話を割るようで申し訳ないんですけど。私はどちらについたら?」
「え、そのままフェイト……の所でいいですよ」
「「ふっ」」
……だめだー、何か花霞にまで中途半端な敬語になるー。ちくしょー。
コホンと咳払いを挟んでから。
「花霞。単純な計算の話だ、1を10にするより、10を100にする方が全然良い。この場合、俺を強化してもそこまでだけど、フェイトを強化した方がいいに決まってるしね」
「分かった。それじゃあ花霞はまだ私と共に居るってことでいいんだね?」
「えぇ、お願いします。それに桜の花びらの白い和服を羽織って、黒髪のフェイトなんて、中々見れるものではないですしねー。カッコよかったし」
思い返してもカッコよかったわー。白い着物をなびかせて、双剣を舞うように扱ってたのは格好いいの一言に尽きる。
「う、ありがと」
やー、そこで顔を赤くしてるの見ると何というか、お互いに初心だなーと思うけ……ど。
ふと、フェイトから視線をずらすと。2つモニターが開いてるのが見えて。1つは顔を赤くして少し俯いてるディエチ。そしてもう一つが、ニヤニヤと笑ってやがるセインの姿が見えた。意味深なサムズアップをした後、2つのモニターが閉じてしまい……。
「そうだった、そうだったわ……」
「え、どうしたの!?」
思わずガクリと膝から崩れ落ちる。なんだろう、どんどんセインに勝てる目が加速度的に減っていってる気がする。ちくしょう……。
――――
とりあえず、他にも気になった情報とか、駆動炉にはヴィータさんが向かってる事とかを聞いて情報を共有して。
「この先にスカリエッティが……」
「恐らく……ですけどね。ここまで見たこと無いガジェットの出現を考えると、何が用意されているか分からないですけどね」
豪華な装飾が施された重厚な扉の前で、最終確認を行う。とは言っても、俺は特に変わらないし、フェイトも花霞をそのまま連れて行くことに代わりはないし。強いて言えば気持ちの問題。
だってさっきまでアホなことしてましたしねー。
「さ、お互いに気を付けていこうね?」
「えぇ、もちろん」
隣に立ってたフェイトの手が、俺の手と繋がる。気恥ずかしいとかじゃなくて、何というか安心するなぁと。ふと握った手が離れると同時に空気が変わる。
そして。
「行くよ」
「了解」
短くそう告げたと同時に、勢いよく扉を開けた後に一気に中へと入り込むと、その奥にはミッドの上空を飛行しているゆりかごや、その内部の映像を周囲に展開している巨大なモニターが見えた、そして、その前には1人の男。画像で何度も見たことのある顔……スカリエッティの姿があった。
スカリエッティの姿を確認すると同時に、フェイトの目が鋭くなる。だが、ここで違和感が1つ。スカリエッティが居るのは部屋の中央。そして、ここは王室だと言っていた。
よくよく目を凝らしてみると、巨大なモニターの向こうにも空間が広がっているのが見えると同時に、誰かが居るのが分かった。
スカリエッティは私達が突入時に立てた音に反応してか、ゆっくりとこちらへと振り返ると不敵な笑みを浮かべ、左手を腹部に、右手を後ろに回して、さながら執事のように頭を下げて。
「これはこれは、何とも荒々しい訪問の仕方だが、せっかくのお客様だ。歓迎しようじゃないか。だが、最近の時空管理局員にはマナー教室のようなものは受けないのかい?」
「玄関と呼ばれる場所が無かったので、ここまで突破させて頂きました」
ガチャリとザンバーの切先をスカリエッティへと向けるが、特に反応を見せるわけでもなく静かに笑みを浮かべたままだ。
「ほう、彼女を解放したのか、フェイト・テスタロッサ。予想外のユニゾンに驚いたが……残念だ」
「……え?」
……あの変態学者、俺の方見て彼女つった? やべぇ、意識は無かったけど、その言葉には嫌というほど心辺りがあるんだけど。まさか……。
「どういうことだ?」
まってフェイト、なんとなく察してやめて? というよりも先に。
「彼もあの鏡で一度彼女となったのだろう? 中々可愛らしいじゃないかぁ。ツヤのある黒髪に、無駄に付きすぎず、無さ過ぎずのバランスの取れた肉体。君が怪我をして無ければ色々調べてみたかったんだがねぇ」
やっべぇ、凄く悪寒が走った。そうか……世の女性ってこんな視線もらうことあるんだなぁって……え、いやちょっと待て。
「ヌルに敗けた時、普通に男だったはずだが?」
「確かに。特定の条件を満たすと君の体は変化するのさ。君の場合はアルコールの経口摂取がトリガーさ。しかも分量が多ければ多いほど、アルコールの度数が高ければ高いほどその効果は持続する。そのお陰で治療がかなり楽できたよ」
「あ、はい」
くらりと、倒れそうになるのを堪えてしっかりと見据える。そっかー、俺もう酒飲めないのかー。やだなー。
同い年一同で、ミッドの法律に則って皆18歳になったら飲もうぜって話どうすっかなー。
って、違うわ。しっかりアイツを見据えて。
「まぁ、そんな事はどうでもいいや。治療してくれて感謝するよ」
「おや?」
頭を下げる。あの時、間違いなく死んだと思ってたしな。救ってくれたことに先ずは感謝を。そして。
「そして、お前をどうにかしないと、地上で暴走させられてる子達が不憫でならない。だから、ここで取り押さえる」
「……暴走?」
不思議そうに首を傾げやがった。お前も原因の1つだろうに……。
スッとフェイトが一歩足を踏み出したと思えば。
「広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。 あなたを……逮捕します」
「フフフ……出来るものなら、やってみるといい。娘が望んだ最強を持って、君たちを迎え撃とうじゃぁないか!」
「「ッ!?」」
彼が両手を天へと掲げた瞬間、背筋が凍った。いや、その程度では生ぬるい。目の前で銃口を向けられているようなそんな嫌な感じだ。
そして―――
「会いたかったですわぁ、フェイトお嬢様。そして、ヒビキ! 生まれ変わろうとする最後の私をご覧下さいませ」
瞬きをして、開けた瞬間、俺を倒した金髪の奴がそこに居た。俺もフェイトも気づく間もなくそこに居たソイツはそのまま俺とフェイトの手を取って。
「せ、やああああ!!」
嬉しそうな雄叫びと共に、二人纏めて壁へと投げられる。投げられたと同時に身を翻して体制を整え壁に着地。即座に顔を上げて見えたものは。
「あは♪」
「ッ!?」
ガンガンと頭の中で警告が鳴り響く。投げた直後にも関わらず、アイツはもうここまで来ているということ。同時に、既に攻撃体制を取っているということ。そして、何よりも魔力光が薄暗い虹色となっているという事。
だが、その前に防御を――
「ガラ空きぃい!」
「ぐぅうッ?!」
右拳を逸らすので一杯一杯だった。気を抜けばやられるとかいう話ではない。そもそもコイツの攻撃が見えないのだ。空振った拳はそのまま壁に突き刺さったことから、威力の高さを感じさせられる。しかも厄介なのが、周囲が全くひび割れていないということ。それほどまでに破壊力が研ぎ澄まされているということ。
「響!」
アイツの背後を取って、ザンバーを構えたフェイトが目に入る。それと同時に、真上へと一気に跳躍すると共に、足を振り上げて、勢いをつけて振り下ろす。フェイトもザンバーを横一線に振り抜くようにヌルへと叩き込んだ。
だが。
「……嘘」「おいおいまじかよ」
かかと落としの要領でヌルの頭をめがけて振り下ろした足は、見えない何かに阻まれて止められた。それはまだいい、障壁を使用してる可能性なんて分かってたし、敗けたあの日に知ったのだから。
しかし、一番の問題が……。
「フェイトお嬢様。この程度ではツマラナイですわ。先程見せたユニゾンでいらして下さい」
ザンバーの一閃が止められた。この事実自体別に構わない。だが、問題はヌルがザンバーを止めた方法だ。
ザンバーが振り抜かれる直前、彼女はわずかに振り向いたと思えば左手を前に出して、ザンバーを受け止めた。障壁を張ったわけでもなく、俺のかかと落としを止めた見えない何かではなく。左手の人差し指と、親指を使って、摘むかのようにフェイトのザンバーを音もなく止めた。
フェイトもザンバーを動かそうと空中で力を込めるが、まったく動く気配がない。
そして、にやりとヌルが笑ったのが見えた瞬間。ビスケットでも砕く様にザンバーが砕け散った。
「お二人とも。このままではツマラナイので、もっと本気になって頂けますか?」
肌が粟立つと同時に、ヌルから距離を取る。フェイトも同じように距離を取り、バルディッシュを二刀のザンバーへと切り替えた。背筋を冷や汗が流れる。互いに一定の距離を保ちながら、円を描く様にこちらは摺り足で、あちらは散歩でもするかのように歩きながら間合いを計り、動くべき時を待つ。
この短い攻撃を受けて分かった。気を抜いた瞬間やられてしまうということに。あの時とは比べ物にならないほどの、一瞬の油断も許されない極限の緊張感。ビリビリとプレッシャーを感じる。
そして。
「フェイト」
「うん、響。分かってる」
お互いにそう告げたと同時に。俺とフェイトはヌルへと距離を詰めて、それぞれの獲物を叩き付ける。4本の剣が光を反射させながら、ヌルへと向けられる。緋色と黒、金色に輝く刃が残光を残しつつ振られる。対してヌルは、両手の拳のみで、的確に剣に拳をぶつけて迎撃している。
俺とフェイトの強烈な斬撃と拳がぶつかりあい、目の前を激しい閃光が飛び散る。同時に刀と拳がぶつかる度に凄まじい衝撃が腕を抜け、体へと響く。
体に響く衝撃が痛みに変わると共に加速する。それに呼応するかのようにフェイトの動きも加速し、当然のようにヌルの動きも加速する。更に、目の前の光景を二色に染まるのを感じながら、ヌルの動きを改めて確認して――
その様子をみて絶句した。
こちらは全力の打ち込みをしているにも関わらず、ヌルはまるで遊んでるかのように頬を緩ませ、時折髪の毛を掻き上げているのが見えてしまった。
つまり、ヌルはもっと速く動けるということ。そして、まだ本気ではないということ。
そして、さっきの言葉を思い出してしまった。
――生まれ変わろうとする最後の私をご覧下さい、と。
この言葉がどういう意味なのかまだわからない。だが、コレだけは分かる。彼女の強さにはまだまだ上が有るということを。俺とフェイトの全力よりも遥かに上が有るんだと。
「ぬるいですわぁ」
俺の打ち込みと合わせて、手首を取られ、そのままヌルの方へ引き込み倒される。即座に起き上がろうとするが、その前に背中を踏まれ動きを封じられる。フェイトもまた、一瞬の隙……いや、隙とも呼べない僅かな一瞬を付かれ、首を捕まれ締め上げられる。
ここまでを1秒にも満たない一瞬でしてみせた。
「ぬるいですけど、良いですわねぇ。私を追い込んだヒビキ。雷光と呼ばれるフェイト様の連撃、何とも魅力的ですわぁ」
「ぐ、ぅ」
「てめぇ、フェイト締めてるその手を離せっ……ぐぁ!」
ヌルの足に力を込められると共に、うめき声が漏れてしまう。重りでも置かれてるようで、体を動かすことが出来ない。
「私がここに居る限り、ゆりかごは安泰。ドクター……いえ、お父様にお祖母様、そして、ウーノがいれば安泰。無念のまま捕らえられた妹達を回収すればなんとでもなりますね」
お祖母様? そして、無念のまま捕らえられた妹たち? 何を言ってるんだこいつら?
くっそ、マジでコイツの足をどかせられねぇ。最悪にも程がある。しかも押さえつける足に力を加えやがって。このままだと……。
「まぁ、このまま嬲って、遊んでからでも全然かまわないですけど……ねぇ!」
「ふぐ?!」
拘束が解けたと思った瞬間、横っ腹を蹴られて、壁に叩きつけられていた。衝撃で肺が潰れたような錯覚が起って息が詰まる。同時に、体中に奔る鈍い痛み。ガラガラと砕けた壁の破片が落ちてくる。
震える体にムチを打って起き上がろうとしたと同時に。
「あぁ?!」「ぐぅ!?」
間髪いれずに今度はフェイトが飛んできたのを受け止める。
「……正直キツイどころの話じゃない」
「そうだね。ここまでだとは」
こっちはそれなりに消耗してるにも関わらず、向こうはまだ余裕どころか、巫山戯た提案出来る程度にまだまだゆとりがある。しかも、わざわざここに投げてきたのは……。
「金髪と黒髪の百合も良いですわぁ」
ゾゾゾと悪寒が背中を奔る。百合とか言ってんじゃねぇよ。
「……確かに可愛かったもんね。お酒飲んだら……よし」
「待って、よしって何が?」
ちょっとフェイトさん? 変なこと考えてませんか? だけどまぁ……。
「もっと連携強化して行きましょうか」
「うん、もっと間隔を短くして……きっちり二人で合わせれば、可能性は有るよ。流石に1人でってのは無理かもしれないけどね。ぶっつけでコンビネーションとかしてみようか?」
「フフ、悪くない、やろうか」
ガラガラと瓦礫を退かしながら、立ち上がると同時に二人で笑い合う。目立った外傷はお互いに無い。だからこそ……。
「まだやれる。行くよバルディッシュ」
『YesSir.』
稲妻がほとばしる音と共に、再び二本のザンバーが展開されるのを確認しながら。
「今こそ使いこなそうか。暁鐘、晩鐘よ」
転がってた刀を拾い上げて、切っ先を向ける。
さぁ、色々あがいてみせましょうか!
――side震離――
「はぁ!? 今なんて!? 嘘だぁ!」
「はっはっは、嘘じゃないよ。俺やコイツみたいな存在が居るんだ。それくらい持ってるやつなんて沢山居るって」
目の前でケラケラと笑ってるけど、冗談じゃない……じゃあ、もうひとりの聖王を叩くことは実質不可能ではないかと。
「でもね震離。所詮それは人の物差しだし、ちゃんと弱点と言うか攻略法はあるの」
「そうなんですか……でも、少し待って下さい」
あらあらうふふといった様子で微笑ましく笑ってらっしゃるんだけど、ここで1つ問題が有るんですけど……。
「お二人方早すぎ!? 全然追いつかないんですが、それは?!」
「「ほらほら頑張れ」」
具体的なアドバイスなし!? 嘘でしょう!?
『……震離さん、その……ファイト!』
隣に居る流の励ましを受けて、頬が緩んでしまう。聞いて下さい、この子私の嫁なんですよ? めっちゃ可愛いでしょ? お陰様で、ちょっと元気が出て、私の前を行く二人に追いつく位になりまして!
「あら、震離も馴染んで来てるね。いい傾向だ」
「お、じゃあもっとスピードあげようか。頑張ってついてきなよ」
「は!?」
ドンと、更に先に行く二人の速度が跳ね上がりました。くっそ、片方はキセル咥えて余裕だし、片方こっち振り向きながら移動してるし、何なの!?
しかし……未だ馴染んでないつってんのに、ここまで能力と言うか身体機能が強化されるとは予想外。AMFの影響受けててもこの速度を維持できるもんね、すごいわぁ。無かったらもっと速く移動できるってことだしね。
それにしても、この二人の予想が正しいとすれば、王室に居る聖王モドキってやばいなって。
現時点でも、ヴィヴィアン陛下? をモデルにしているとしたら、おそらく未来予知……もっと言えば、相手がどう行動するって本能で把握するとか、えげつないにも程がある。しかも二人の話から察するに、数秒とかそんな限定じゃなくて、特定の範囲内に入ってる人全員の行動を見れるって……勝てんのかな?
しかも、今はまだなのはさんが、ヴィヴィオと戦っているからこの程度で済んでいるらしいし。
だけど、それも時間の問題。なのはさんは絶対にヴィヴィオを助けるだろう。だけどそうなると、王室に居る聖王モドキが飛躍的に強化されてしまう。なんて言ってたっけなー。
えーと、まずゆりかごに内蔵されてる魔力が使用可能になって、ゆりかごに座った歴代の聖王達の戦闘技術を会得出来て、そして元々持ってる未来予知。その上、ゆりかごの完全掌握出来るって……。
え、詰んでね?
しかも、このゆりかごって主砲というか、極大魔法の砲台も兼ねてるって言ってたから、それを撃てると。しかも動力炉関係なしに放てるとか悪夢にも程がある。
聖王モドキと対決するのは置いといても、主砲に関してはプランがある。願わくば、このプランの使用は無いって、使われることはないと良いんだけど。
そうならないように私が居て、撃たせないために二人が抑えてくれる。
でも……。
あーー。ダメだ、考えが全部悪い方向へ行ってしまう。ダメだコレ。
「大丈夫?」
「へ、あ……」
気が付けば、私の右隣にはストロベリーブロンドの髪を靡かせて、優しそうに、それでいて心配そうな顔をした――
「無いとはいい難いけれど。それでもだ。預言者の著書は予言したものを最低でも5割は達成させなければ、その存在価値を失ってしまう。
だけど、管理局、聖王教会で持ってるこの世界から、その2つを無くすことは出来ない。だからこそ――」
「だけど、それは!」
不意に私の左肩を抱き寄せて。
「いいんだよ。私は十分生きて、後継者を作ることも出来たのだから。ただ貴女が嫌だというのなら、心残りになっちゃうけどね」
「そんな事無い、そんな事……」
ジワッと涙が溢れる。だって、私を救う為に貴女は……。
ううん、コレは二人が元々決めてたこと……なのだけど、それでも。
別れが決まってるなんて、悲しいに決まってるじゃない……。
――side響――
「シィ!!」「はああ!!」
「アハ♪」
アイツを中心に両側から高速の連撃を叩き込む。足を止めずに、ひたすら動き、隙を探して叩き込む。
だが。
一向に攻撃が通る気がしない。俺とフェイトの……それこそ同時に繰り出した電光石火の速攻を、それ以上の速さを以ってほとんど同時に拳で弾き、ずらす。
「ほら、ほらほらほら! まだまだですわぁ!」
歓喜の声と共に、一瞬の攻撃の引き際を見切られ、拳が……いや、衝撃波が飛んでくる。俺は見切って回避を、フェイトは障壁で防御をするも、その風圧で、その威力で後ろへ弾き飛ばされた。
「只の拳撃でコレか……ッ!」
風圧がかまいたちとなり、頬が裂ける。フェイトの方も、障壁に罅を入れられている。
何より驚愕的なのが。
コイツ、未だに魔力付与攻撃を行ってこないということ。つまり只の身体強化だけで俺とフェイトを圧倒しているという事。冗談にも程がある。
同時に違和感が有る。先程から、前もそうだが、こちらの手を読んでる。いや、それ以上のことをしている。俺とフェイトが同時攻撃を捌く事よりも、それ以前に、フェイントと、当てる攻撃を完全に見切っていること。いくらこちらのモーションを知っているからといっても、俺の技も、フェイトの連撃もほとんど人目に晒したことはない攻撃ばかりだ。
かと言って、震離の様に体を奔る電流を見て、行動の予測を立ててるにしても、その精度が凄まじいにも程がある。
震離でさえも予測から選択肢を削るまでなのに、こいつは完全に決め打ちだ。
距離を取って、フェイトの一閃を……いや、無理だ。さっきコイツは、片手でザンバーを受け止めて見せた。
いや、それ以上に。今のままでは間違いなく俺達が殺られる。短い間とはいえ、剣と拳を交える度に、こちらの情報が漏れていっているということ、こちらも、ヌルの戦い方を把握していっているが……。
それはあちらも同じ事。コチラの連携を把握していっている。
今でこそ、楽しむという余裕を持って俺達と相対しているが、その気になれば短い間に二人共討ち果たされるという結果が待ってる。
だからといって一度下がって体制を整えようとも、先程の踏み込みを見れば悪手だ。
いや、でも待てよ?
俺は逃げ切れないが、フェイトなら……。
(響、変なこと考えたら怒る)
(……了解)
ヌルから目を離すことは出来ないからこそ、念話で釘を打たれた。まぁ前科ありですしねーっと、帰ったらきっとギンガに怒られるかなーって。
「フフ、余裕ですわね……ならば、少し本気でいきましょうか!」
「「!?」」
念話の内容を聞かれた!?
俺とフェイトの間に立っていたヌルが、一瞬で俺の前へと現れる。そしてその両の拳にくすんだ虹色が纏わりつくのが見えた。その虹が糸を引くように、その光跡を残しつつ拳が振るわれる。
自然と歯を噛み締めると共に、暴風……いや、雪崩の如きの猛攻を皮一枚で捌く。両拳でコレだ。コレに足技等が加えられると、皮一枚では済まなくなってくる。
拳と刀がぶつかり、刀を持つ手がその衝撃で痺れる。だが、刀から手を離せば、その瞬間圧倒されてしまう。
不意に、目の前で、足を振り上げたと共に、頭上から振り下ろされる。鋭い蹴撃はこちらの反応を僅かに上回る。
が。
「あは♪」
「が、あ……ッ」
間一髪、スウェーで回避することが出来た。
だが、振り下ろされた足は床を砕き、その衝撃で動きを止められる。同時に右肩に走る衝撃。ヌルの掌底が俺の肩へと添えられる様に、それでいて――
「? いいわ、飛んじゃえ」
叩き込まれた。
スロー映像を見ているように、俺とヌルの距離が徐々に離れていき、俺の意思とは関係なく視線が右を向いていく。ぐるりぐるりと、回転していきそして。
「ぁがっ!」
壁へと叩きつけられた。
一瞬何が起きたのか分からなかった。攻撃を受けたという判断を得るまで、数秒あった。遠くで、フェイトがヌルへと攻撃を繰り出しているが、今度は足一本で双剣を捌かれてしまっている。
このままでは勝てない……。
だが、それ以上に1つ気になったことが出来た。
なぜ、アイツは今、俺の肩に当てたのか? 間違いなく、アイツは今俺の胸へと当てようとしていたはずなのに、僅かに……いや、無意識に体をずらしたせいか。攻撃がズレた。
今だってそうだ。コイツ、フェイトのフェイントと、本命の攻撃を読んでいる。だが、時折ヌルの攻撃に焦り、手元が僅かにズレた時、その時に限って防がれること無くヌルへと攻撃が通った。まぁ、障壁で防がれてしまったが。
だが、それでもだ。光が見えた。
ずっと考えてたんだ。地元へ帰ったあの日からずっと。母の手紙、マリ・プマーフの言葉。それらを考えると、間違いなく、何らかの手段で過去と未来を行き来出来る手段があると。
確証は有る、あの手紙の中身の端々には不自然な事が書いてあった。
まぁ、それはいいや。感傷に耽ってる場合じゃないし。
しかし、コレでなんとなくでも予想がついた。
コイツ、こちらの行動を文字通り先に見ているんだと。そう考えれば、色々帳尻があう。いくらフェイントを挟もうと、いくらこちらの回避先を読んでても、無意識だけは分からないと。
なら、なんとかなるかもしれない。瓦礫を退かして今一度立ち上がって……。
「……正真正銘の勝負と参ろうか」
とりあえずでも、行動を重ねて確証を得て、一手叩き込めればいい。そのためにはまず。情報を集めないと。
フェイトと花霞のオーバードライブ……いや、多分なしでも叩き込めれば行けるはず。
その為に、もっと情報を集めないと……右肩はまだ稼働する。なればこそ。
「行くぞ!」
最後の一撃の為に心を滾らせて行こうじゃねぇか!
――sideヴィータ――
ゆりかごに出撃する前に、スカリエッティに啖呵を切った声を聞いて驚いた。その後にノイズにまみれた声もだ。もう聞けないと思ってたから。
その後はやてからの知らせを聞いて、心臓が止まるかと思った。流は情報がまったくなかったけど、まさか震離の腕が見つかったなんて。だけど、はやての言ってた通り、まだ断定は出来ない。でもあの通信を流したのが震離だというのは同意出来た。
六課の皆……いや、何人か気づいてんだろうけど、流と震離がくっついたのは予想外のようで、そうでもない。見てて面白いというか、ガッチリ相性良かったんだよなぁ……。
あいつらが帰ったら全力でいじろうって決めてんだ。新婚旅行はどうだったって。
それに、あたしがはやてに言われたことも果たさなきゃいけない。
あ、はは……。昔なのはを落としやがったクソガジェットに、熱くなっちまって時間掛かっちまった。
動力炉の前にあった、防衛砲台は全部破壊した。人型が乗ったガジェットも全部壊した。だから後は、この動力炉を壊すだけだ!
だから!
「―――ッ、アイゼンッ!!」
『Jawohl.』
グラーフアイゼンから、四発のカートリッジが排出される。
さぁ、未だ無傷の動力炉。一撃で破壊できるか? 否。やるんだ。なのはやフェイト達と出会って、強くなるあいつらを見てて、あたしも強さを磨いた。うちの将の十八番を取るようで悪かったけど、それでもだ。一撃を、全てを打ち砕く一撃をずっと磨いてた。
アイゼンの姿が、基本形態である槌から、破城鎚へと姿を変える。夜天の書の防衛プログラムと戦った時、もっと一撃に特化していれば、なのはやフェイト、はやてに負荷のかかる魔法を撃たせなくても済んだはずだと。だからあたしと、アイゼンはこの形態を得た。
破壊に特化したドリルと、その勢いを加速度的に増やす為の噴射機構。これらを加えて出来たアイゼンの新形態。
身体強化を……いや、足と腕に魔力を込めて、助走を付けて高く飛ぶ。ここに来るまで魔力を使いすぎちまった。だからこそ、この一打に全てを掛ける。
「ツェアシュテールングス!」
天高く飛んで、アイゼンを振り上げる。精神を集中させて、アイゼンへ……いや、ドリルの先端に魔力を集中させて乗せる。
「ハン……マァァァッ!!!!」
振り下ろす。
グラーフアイゼンのドリルと、動力炉を覆う障壁が削りあい、火花を起こす。一度深呼吸して、息を止めて。
「ッ、ブチ貫けェェェッ!!!!」
残った魔力を全てを注いだ。障壁との干渉で、グラーフアイゼンのドリルに走った皹がさらに広がる。
だが、それ以上にあちらも只ではすまないはずだ!
瞬間、爆発、同時に衝撃で弾き飛ばされる。
駆動炉は―――!?
「ッアァ……ッ!!」
傷一つ、無い……?
そんな、そんなぁ……!
アイゼンが砕けて、視界が傾く。体勢を整えることもできず、真っ逆さまに落ちていく。
いや、まだだ。まだやるんだ。
「……くそ、くそぉ」
動かしたいのに、体が言うことを聞いてくれない。目の前で赤く輝く動力炉が滲んでいく。
「はやて、みんな……ごめん」
涙で前が見なくなって、悔しくて目を閉じた。
――クソぉ……!!
「なに言うてんの。謝る必要なんて……何もあらへんよ」
「……ぇ、あ、ぁあ。はや、て……リインも……」
「はいです」
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン……二人がこんなになるまで頑張って」
駆動炉にはやてが目を向けた。その視線を私も追う。
そこに見えたのは、駆動炉に突き刺さる突起物。よくよく見れば。ツィアシュテールングスの先端だ。言葉にならない声が漏れる。それに応じるように罅が広がって。
「砕けへん物なんて……この世のどこにも、あるわけないやんか」
瞬間、赤い光が部屋を包んで、大爆発を起こした―――
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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