魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第68話 不屈のエースと呼ばれる所以
――side響――
「で? ナンバーズが二人……いやまぁ、1人はバインドされてるから実質1人な訳だが。邪魔をするなら……容赦はしないけど?」
「待って待って。バインドで縛られたディエチ連れて戦えないし。ヌルを抑えた人と戦って勝てるわけないし」
両手を上げてやれやれといった様子の水色の子。その背中におぶられているのが、茶髪の女の子。この子はディエチって言うのか。
しかし、このタイミングでこの二人の出現。しかも片方は封じられてるし。
水色の子の感じから察するに。敵対の意思は無いと見える。騙すにしても、俺なんかを騙すメリットが無い。
……悪い子ってわけじゃなさそうだしなー。さてさて、どうしたものか?
「相談なんだけど……いい?」
「あぁ。モノによるけど」
水色の子の背中に居るディエチの表情は、どことなく暗い。というよりもコレは何かを心配しているようにも見える。
「私達二人を……その、破壊してもいいから。他の妹達を解放させて欲しい」
「……? 意味がわからん。解放とは?」
「そのまんま。今、地上に降りてる妹達がクア姉……ううん、クアットロに無理やり暴走させられているの。信じてもらえないかもしれないけど、その為にクアットロを倒して欲しい」
……うーん。とりあえず。
「1つ目、破壊はしない。2つ目、言われなくても下位ブロックのガジェット諸共誰かが居て、ジャマをするなら倒して保護。3つ目は……」
不意に近寄って、水色の子の顔に手を添える。一瞬赤くなったけど……そのまま人差し指と、親指で。
「いひゃいいひゃい、にゃにすんの?!」
「破壊って、お前ら十分人だろ。馬鹿言ってんな」
出来る限り力を込めて抓む。と言うか触った感じ全然人じゃんか。ディエチも何とも言えないような表情してるし。そう言う顔が出来る時点で十分人だって。
ある程度つねった後、指を離して。
「まぁ、どっちにしてもまずは名前だ名前。俺は響。そちらの後ろの子がディエチっていうのは聞いたけど、お前の名前はまだ聞いてない」
「……いってー。くそう妹を背負う姉に対して何たる仕打ち……あ、セインだよ。宜しく」
「改めて、ディエチだよ」
……こちらに協力する意志があるとは言え、ヤケに素直に答えてくれるな。なんだ?
「なぁ? これ俺じゃなくてもいいんじゃ? 状況があまり分かってない俺が言うのもなんだが、何故俺に協力を求めた?」
「チンク姉を助けてくれた。だから」
間髪入れずにそう告げるセインの言葉を聞いてようやく納得。そういう事か。
「でもいいのか? ヌルや、クアットロは君たちの姉だろ? それを今からしばく事になるけど?」
「……それは、正直嫌だ。さっきも言った通り地上に降りた妹達が無理やり暴走させられてるんだ。チンク姉と相談して決めてた。もし負けることになったら。私とチンク姉で、下の妹達を保護してもらえるよう頼み込もうって。
もちろんしでかした事を考えると許されるとは思ってないし。そう言う指示を受けたからって逃げるつもりも無い。だけど……妹達位は守りたいって思ったんだ。
それに、私達は姉だと思ってるけど、向こうはそう思ってないみたいだしね」
……ちょっと予想外。いや、そうでもないな、チンクと戦ってるときもあんまり乗り気じゃないっていうのは分かってた。だけど……そうか。
こんなにも情を持っているのに、な。
「分かった。セインちょっと後ろ向いてみ。ディエチも下手に動くなよ?」
「うん、分かった」
「え、何すんの?」
すげぇなこの子。半信半疑なのに言われた通り、反転してくれたし。ディエチも普通に受け入れてるし。
まぁ、いいや。なのはさんには悪いけど……暁鐘を抜いて縦一閃に振り下ろして。バインドを斬る。
……最悪な場合後ろから撃たれるかもしれんけど、それは仕方ないと諦めよう。我ながら博打してるなぁと思うけどな。
「「……」」
バインドが解けたのに、何か凄く気まずそうなお二人。なんだ? こういうのも目的じゃ無いのか?
「……あの、響? 解いてくれて嬉しいんだけど……」
「おう、どうした?」
小さく手を上げながら、申し訳なさそうに進言するディエチを見て、なんとなくいい感じではないと悟る。
「……私のIS。ヘビーバレルって言うんだけど……その」
凄く言いにくそうにしてる。しかしちょっと待てよ。いつか流を撃った時、この子ってば確か大砲を所持してたよなぁ……で、今はそれが無い。という事は、だ。
「……今の私。あんまり戦えない」
「マジかよ」
「ついでに言うと私も隠密・潜入がメインだから、あんまり強くない!」
「嘘ーん」
片や申し訳なさそうに、片やどうだと言わんばかりに。何だこいつら……あー、でもだ。確かこの子壁から抜けてきたよなって。
「そしたら、俺をピンポイントで連れていけたりする?」
「うん。ただ、それがクア姉にバレたら私も操作される可能性がある」
一瞬表情が曇った。感情がハッキリしている分。直ぐに分かるなって。
「……なるほど。じゃあそいつがいる部屋の前まで連れて行ってくれ。後は俺がなんとかするから」
「うん、それでいいなら請け負うよ。クア姉に勝ったら、下位ブロックのガジェットの射出は私とディエチで止める。その前に」
「地上に降りたチンク姉達に投降するように呼びかけるし、暴走してる他の子達も止める。多分クアットロの事だから、ルーお嬢様にも何かしてると思うんだ」
ある意味でここで二人協力者を得たのは大きいと思いたい。コレで裏切られたら悲しいことこの上ないけど。
「了解。じゃあすまんがそこまで連れてってくれ」
「オッケー。そしたら、ディエチはさっきと同じように背中に着いてもらって、響は私が抱えて。あ、こっちじゃなくて背中から抱きつく形になるから宜しくー」
……俺、セイン、ディエチという順で並んでるのが凄くシュールだなぁって。
あと、この子達の親というか、スカリエッティって。やっぱ変態じゃなかろうか? 何で戦闘服をこんな……スーツにしたんだ? 目のやり場に困る。
絶対表情には出さないけどな!
「よし、IS発動、ディープダイバー」
宣言されると共に、ずぶりと足元から沈んでいく。何というかこう……ちょっとテンションが上がるなぁって。
疑うわけじゃないけど、願わくば嘘じゃなければいいなぁ……。
「あ、お嬢以外の生身の人は初めてだから、目を閉じて息も止めててねー」
「そういう事先にいってくれません!? って、ちょっと、あ、待っ」
――side――
体が悲鳴をあげている。もう動けない、と。だからどうした? 私には私のやるべきことがある。
かつて憧れた隊長の為に。私を好いたあの人の為に。
動かねば。
何のためにここまで汚い真似をして生きてきたと思っている? 何のために犯罪者と笑いあって生きてきたと思ってる?
今、この機会を逃せばもう二度と来ない。訪れない。
今しかないのだ。今しか私には時間がないのだ。
己が親友を切り捨ててでも、正義だと嘯いたあの者を打ち砕く為に。知っては成らぬことと言われ、殺されたあの人の為に。
「居たぞー! 瓦礫の下に埋まってる!」
「ラートゥス隊長! この首都防衛隊の面々は如何しましょう?」
「縛りあげて拘束! 隊長とその付添も見つけ次第拘束! フレイ中将もコレには驚くだろうな。良かれと思った援軍が敵に回るなんて……糞ったれ!」
……騒がしい奴らが来てしまったか。だが、混乱に乗じて逃げることは可能だ。
「ラートゥス隊長、報告です。機動六課のシグナム二等空尉のラインが破られた模様。現在追ってると連絡がありました!」
「チィッ! 流石元ストライカー。伊達では無いか……。いよいよもってレジアスの身が危ないか。分かった、俺が本部へ戻る。お前たちのやるべきことはわかっているな?」
「はっ! 緋凰と天雅、叶望の3人の同期の救出、ここに居た小隊の捕縛を完遂後。地上部隊の援護に周ります!」
「宜しい。頼んだぞ!」
……誰のことを差している? その人物があの者へと接近しているのが分かった。
スカリエッティの作戦プランでは、地上本部へ向かうのは、戦闘機人と私だけのはず。もう一人誰か居たというのか?
しかし、烈火の将を躱して行ける人間……そして、元ストライカー。いや、まさかそんなはずはない。
それにしても何故ここに? 本局第6武装隊が……それも、そこの部隊長であるティレット・ラートゥスまでが来ているのかそれが分からない。
だが、それがどうした? 中将が本部に居る。ティレット・ラートゥスも本部へ戻った。おそらく守りを強化するためだろうが。
それがどうした?
既にこの身は死神に売り渡した。未来を見ることを捨て、過去を振り向いて生きているのだから。想いは何一つ色褪せず。涙と共に奏で続けた。恨みを抱き、怒りを持って、仮初の正義を打ち砕くために。
「待っていて下さい。ゼスト様。あなた方の無念を、私が……私達が必ず……果たして見せます」
もう少しだ、もう少しなんだ!
――side震離――
「予想は大当たり。聖王の反応が、玉座に1つ。王室に1つ、現時点の接続先は玉座だが……コレはおそらく」
「万が一、いえ、コレすらも想定しているんでしょうね。あの白い魔導士さんは強いんでしょう? 負けるって分かっていてこんな事するなんてね」
ゆりかごの中の迷宮区に入ったと思えば迷わず1つの部屋に入るわ。そこからアクセスして情報集めるわ……やっぱこの人達凄いわー……うん、冗談抜きで。
『……震離さん、私……この方々のやっていることの半分も理解できてないのですが』
「あー、うん。私も私も。やってることは分かるけど、知ってるから出来るんだろうってことだね。正直すごいわ」
私の隣で浮遊している流の唖然とした声に同意する。目の前に展開される情報に目を驚くばかりだし。
玉座の間には、なのはさんと……多分ヴィヴィちゃんの成長した姿と戦闘している映像。王室に向かう道中には和服を着たフェイトさんが、大量のガジェットと交戦していて、動力炉にはヴィータさんが単騎で破壊をしようとしている。
そのせいか皆さん既にボロボロだ。特にヴィータさんなんて、血まみれになってる。
そして、一番わからないのが、響がナンバーズの子達と行動を共にしているという事。六課に帰れなかった私が言えることではないけど、何かトラブルが起きて、響が攫われて精神操作でもされたかな?
だからフェイトさんと戦っていたのか? 色々気になることはある。特に奏なんて、何があったの? って聞きたかった。
長い髪が好きだ。という響の言葉を聞いてずっと伸ばしていた髪を何で切ってしまったの? って。
でも……。
『震離さん、あの』
心配そうな表情を浮かべる流に、にやりと笑みを見せつけて。
「へーきへーき。コレは私の意思だもん。私としては生き延びれてラッキーだしね」
『……そう、ですか』
ごめんね。コレは嘘なんだ。そうしないと流の事だもの。気に病むだろうし。私がこうなった理由、この領域へ攫われてしまったという事はいずれまたの機会に話すとして、だ。
ちらりと、背後に転がるガジェットの山を見て、冷や汗が流れる。私はガジェットには何もしていない。デバイスを借りてるとは言え、腕一本では戦いにくいだろうと言われた結果私は後方支援。二人の少し後を追随するように言われた。
イレイザーを使う人型モドキのついた魔力攻撃に特化したガジェットに、ブレードを持った物理攻撃に特化したガジェット。そして、大きいゆえの高出力のいつものⅢ型が通路を埋め尽くすかのように展開した時には不味いと思った。
ゆりかごに入った時点でAMFの濃度は高く、加えて更にその効果をあげるガジェットの出現。コレは二人であってもと考えたけど、私はこの二人を舐めていた。
たったのワンアクション。
片やそれもタバコでも吸う様に、払う様に拳を叩きつけて、衝撃波を作り破壊した。
片や、デバイスが無いからって通路に仕込まれた鉄板をめくり上げて、それをベースにした1つの大剣をその場で作って射出。
たったの少しの動作でこの二人はガジェットに何もさせること無く瞬殺してみせた。よくよく考えればそれもそのはずだ。ミッドに来るために、わざわざ次元を拳で割って来たのだから。コレくらい出来て当然なのだろう。
「……玉座のこの子は、白い魔導士さん。遺跡で会った事あるけど、やはり強いな。戦いながらも聖王を操ってるやつを探してる。
そして、その先に響も向ってるからこっちは問題無いだろう。
鉄槌の騎士も、援護してやりたいが、ここからでは時間がかかるのと、もう1人の聖王の度合を考えると無理だな。
そういや、オリヴィエ様の写し子……ヴィヴィオちゃんって言ってたっけ?」
『えぇ、ヴィヴィオです。今戦ってるなのはさんを母と慕っていますよ』
「……最悪だな。わざと親子対決させてんのか。コレは思ってた以上に最悪だ。こちらは手を貸さなくても問題は無い。だが……チッ」
イライラしているということを隠さず、舌打ちをしてる。しかも殺気まで漏れ出してるしやばすぎる。
「やっぱりだ、予想は大当たり。赤黒い魔力と聞いてたから、何らかの原因で未完成だったんでしょうけど、ゆりかごを正規の手段で起動させて、その主が倒れた時に、もう1人の聖王をバックアップとして使用。同時に真に聖王として完成させる手法かな。
どうする? ゆりかごという無尽蔵の魔力タンクをバックに、おまけと言うか本命と思われる、ゆりかごに収められた聖王の戦闘技術も取り込んで。いよいよ持ってもう片方が面倒な事になるけど?」
「だからわざわざここに来て、王室の防御を抜ける用意してんだろうが。全盛期ならいざしらず、色々落ち込んでる今の俺達では正直骨が折れるとかいう話じゃないだろう」
いやー、全然何の話かわかりたくないなぁ。ここ、コントロールルームだとは思うけど。普通は玉座と王室に機能を集めて起きそうだけど……。二人の操作の具合から、ある程度ここからいじれるって言うことを考えると、この部屋は最終的なサブコントロールルームなのかな?
そう考えると、スカリエッティがここにもガジェットを集中して置いてたっていうのが分かる。
って、何か映像の向こうでなのはさんが、ヴィヴィオをバインドで縛ったと思ったら、変な方向……しかもレイジングハートさんの切先を下に向けて……あ。
そうか、あの操ってるやつ。確か4番の居場所見つけたんだ、流石なのはさん! ……って、違う、そうじゃない。待ってなのはさん、もしかして、もしかして……。
しかも、あ。響達が4番の居る部屋の前に着いちゃったし。
あれこれやばくね?
――side響――
「なんだー響ってば泳げないの?」
「……うるせぇ」
くっそ、大口開けて爆笑してるセインをぶん殴りたいけど、絶対その程度じゃやめないだろうから、ここはぐっと我慢。それよりも、体が強張ってしまって動きにくい。ディエチは何かセインの後ろでオロオロしてるし。
セインのISの効果によって、壁の中を通過してきたわけなんだけど。まるっきり水の中にいるみたいで凄く嫌でした。
こうして考えると俺ってば魔力でディスアド持ってる上に弱点多すぎだろうに。ハサミが顔のそばに来たら、動悸がすごくて、耳元でハサミの斬る音なんて聞いたら落ちるし。流石に戦闘中は耐えるけど、かなり気分悪くなるし。そして、水中は死ぬほど苦手だし。別に顔くらいは洗えますよ。当然だ。
風呂桶に顔着けるのは苦手だけどな!!
「……あの、響? 目が死んでる、平気?」
「あ、うん。キニシナーイキニシナーイ……うん」
凄く申し訳なさそうに、ディエチが気を使ってくれたのかそっと、裾を掴んでくれた。何というか癒やされるわって。
あそこで未だに爆笑してるやつとは大違いだ、と言うか。姉と妹絶対逆だろ、この子のが姉だろ絶対。そういや、潜る前に何か聞こうと思ってたけどなんだったかな? 覚えてないわー。
さてと。空気を切り替えて、暁鐘と晩鐘を腰に差して戦闘態勢を取る。
「よし、今から行ってくる。セインとディエチはちゃんと隠れているように」
「うん、クア姉をお願い」
「分かった、お願いね?」
寂しそうな顔をする二人を見て、軽くため息。おそらくこんな顔をする理由は……。
「心配すんな、しばく事に変わりはないけど、それでもだ。俺だと無傷ってわけじゃないけど、基本は保護するんだ。間違っても殺さないよ」
ほっとした顔を確認した後、セインがディエチを抱いて壁の中へと潜っていくのを見送って。
本音を言うと、多分俺だと無傷は難しいんだよな。魔力量が少ないし、AMFが濃い影響で、唯でさえ身体強化に振ってる魔力が減ってしまってるし。負けない自信はあるけれど、完全無傷は難しいかなぁ……。
まぁいい。扉を開けたら即座に掻い潜って突破、クアットロを撃破してコントロールを奪って、残りをセインとディエチに預ければ、勝てるな。でも幻術系の人だろ? はてして俺に……いやいや弱気になるな俺。
今こそ第六感を覚醒させて……。おっしゃ扉開けて、一気に踏み込む!
「あ……あぁぁあああっ!」
「……ん? ん!?」
扉を開けてまず目に入ったのが、涙を浮かべてこちらに向って走り出してくる人。セイン達から聞いてたイメージと全然違うじゃねーか。おさげにメガネじゃなくて、ストレートの人やんけ。
次に目に入ったのが、その背後からピンクの極光。それもよく見知った色が走ってくるのが見えて……。
即座に扉を締めて、振り返って走る。
「セインさん、ちょっとぉおおお!?」
「手掴んで、手!」
狙ったかどうか分からないが、明らかになのはさんの本気の砲撃が来るのが見えて、壁の中に待機してるセインを呼び出し、厚い壁の中へと退避。同時に距離を取ってもらって。
透過しているにも関わらず振動を感じる。目を開けたいけど、開けられないし、水の中っぽいから怖いしで最悪。
振動が収まった後に、元いた場所へと浮上というか、戻った所で。
「やべーやべー、あれクア姉死んだんじゃない?!」
つい先程まで扉があった場所が無残に瓦礫と化してました。だけど……。
「……大丈夫?」
「……だいじょぶ、へーき。きにするな」
カタカタと体が震えております。向こうで無駄にテンションの高いセインは放っといていいとして。ほんとディエチはいい子やわ……精神的ダメージ負ってるし、あまり接点の無いはずの俺に優しくするんだもん。優しさが染みますわ……。
って違うわ!
「俺はいいから、とりあえず操作出来るか試してくれ。ここを抑えたんならゆりかごの中でもある程度通信出来るだろ? あと、ディエチには俺の通信コード教えておくから何かあったら連絡くれ。俺はなのはさんの所に行ってくる」
「了解、行こうセイン」
「あいあい、じゃあ待たね。あと、ありがとね?」
瓦礫に埋もれた白いケープを纏った4番にバインドを付けて……まぁ、そんなことしなくても多分しばらく動けないだろうけど。なのはさんの本気の砲撃の直撃を受けてるし。
しかし……。
「こっから砲撃地点見えないんだけど」
「……こりゃ勝てないわけだよ」
お? 何かディエチさんが凄く遠い目をしてらっしゃる。そう言えばなのはさんのバインドの跡があったということは、なのはさんと戦ったはずなんだけど。
この反応から察するに……そうか。勝負にならなかったのかな?
「まぁ、後は二人に頼むよ」
「響、その……信じてくれてありがとう! 必ず止めるから!」
「あぁ、吉報待ってるよ。それじゃね」
後ろ手に手を振りながら、砲撃で撃ち抜かれた穴を通って上を目指す。
ふと、フェイトさ……じゃない。フェイトの方が無事なのか、少し心配になってきた。俺が目覚めて簡単に話を聞いたとは言えど、外の状況がわからないし、そもそもだ。
何であいつらの内、誰も着いてきていない? 流と震離もいい加減帰ってきてる筈なのに、ここに来ていないということ。なのはさんと、フェイト、ヴィータさんだけで突入なんて突貫作業なんてレベルじゃないし。
なんだろう? 真綿で首を絞められるような感覚になっていく。戦術的考えると、あいつらも防衛に回されてる考えられるが、それでもだ。皆を心配してしまう。
まぁ、連れてかれて、操られてた俺が言えることじゃないんだけどね!
それにしてもなのはさん、超遠距離射撃じゃないですか……こんなAMFが凄いのにまた無茶したんだろうなぁ。そして、顔合わせたら無茶した罰って撃たれそうな気がしなくもないけど、それは仕方ないと割り切るかね。
――sideセイン――
「だ、ダメだ……セイン。コレじゃノーヴェ達を解放出来ない。助けられない!」
「大丈夫、落ち着いて。他に方法が無いか探そう、ね?」
普段あんまり感情を出さないディエチから悲痛な声が漏れる。正直予想外だなーって。私達はてっきりドクターと共謀して下の妹達を操ったり、ルーお嬢を暴走させているんだと思ってた。
だけど、違った。
もちろんコレはクア姉の暴走。独断で意識を奪って暴走させたことに代わりはない。おそらくドクターは関与してない……って考えたいけれど。
うちの姉様は余計なことをしていたようだ。暴走させたボタンはここにある。だけど、そのボタンを解除するための権限を持つのがドクターだけだ。
ここから考えられるのは……えーと。多分、私達も最悪な場合暴走させられる予定だったということ。
他に方法がないか詮索してるけど……コレは多分無いはず。しかもガジェットの指揮権はウーノ姉さんに譲渡されてる上に、さっきの砲撃を受けて破壊されたからなのか、ガジェットの出撃口を今度は上部ブロック、背部ブロックからガジェットを出撃させている。
ここからじゃ……止められない。最悪だ。
唯一ここから外せる制限、いや緩和出来ることを使ってそれを響に伝えよう。だけど悔しい。二人がかりで出来たのがゆりかご内の通信制限の緩和だけって言うことが。
「ねぇ、セイン。コレって……」
「ん?」
不意に私の視線の端に小さなモニターが展開される。そこに映るのはゆりかご内の通路を飛ぶ茶髪の子。ドクターと合流する前に老婆が倒したと言っていた人物で、名前は確か……。
「流。私があの時落とした子だ」
「あぁ、そうだそうだ。流だ……って、よくここまで来たねって、コレ王室ルートじゃない?」
「うん。まだ距離はあるけどね」
モニターの中で勢い良く駆け抜ける流を見て、ふと違和感が。
口元をよく見ると、誰かと会話しているように動いてる。念話や通信といった物を展開しているわけではなく、まるで誰かがそこにいるように話しているみたいだ。音声は拾えないから何を話しているのか分からないけどね。
しかし、大人しそうな子だと思ってたのに、表情がハッキリしているというか、ギラギラしていると言うか。凄く違和感があるなぁって。格好も黒いオーバーコートを着てたのに、今は灰色のコートを肩に羽織ってるし、何かキセルを咥えてるし。
まぁ、それはいいかな。流って子も王室へ向ったってことだけ報告しよう。幸い今は1人みたいだし。
「あ、ダメだ。セイン。今は響のところに通信入れられない。陛下とあの子のお母さんとの戦闘でノイズ凄くて通らない」
「……調整して頑張って伝えよう!」
「了解、頑張る」
……あのお母さんマジおっかねー。クア姉を遠距離から狙撃と言うか、長距離砲撃した時もそうだけど、ホント怖いなーって。
――side――
足元がおぼつかない。踏み出す足に力が入らない。だが、もうここまで来たんだ。もう少しで、もう少しで私の二重の望みは果たされる。1つは憧れた人の無念を晴らせる。1つはコレが成功して、戻ることが出来れば……!
「止まりなさい。アヤ・クランベル。此処から先は通せませんよ」
「……何? 何故、貴女がここにいる? フレイ・A・シュタイン!!」
目の前に子供と見間違うような背丈に、赤茶の髪を伸ばしたかつての上司がそこに居た。この侵入経路はバレていないはずなのに、何故?
「抜け道があるとすればここだと思った、だから私はここにいる。アヤ、私は貴女を傷つけたくない」
「黙れ! 私はあの人達の無念を晴らすんだ!! 地上のストライカーだったゼスト様を犬死させ、私の想い人と、その部隊に無茶な任務を押し付け殺したアイツを!」
既にデバイスは砕かれてしまった、だが、まだコアは生きている。まだ戦える!
「……優夜君は依頼をきっちりこなしたようね。ここまで来ると予想できなかった私に非があるわ。アヤ、それは違うわ」
「違わない! ならば何故アイツは私を地上に縛り付けようとした!? 私が調べ回ってると気づき、口封じをするかのように地上へ落とそうとしたのは何故だ!?」
「管理局最高評議会。彼らの命を受けて、レジアスはその任務を指示した。騎士ゼストに関してはお互いのすれ違いゆえの悲しい結末。
だが、貴女の旦那さん、そしてその部隊に関しては最高評議会からの命が関係してるわ」
管理局最高評議会……? 名前は確かに聞いたことがある。だからなんだというのだ!
「レリックウェポンの実験素体として、評議会が直々に提示した部隊、それが貴女の旦那さんの部隊。だけど結果は……」
「最高評議会に言われたからだろうと、指示を出したのはアイツだ! そのせいで皆死んでしまった!!」
「えぇ、皆死んだ。だからこそレジアスは貴女を守るために自分の近くに置こうとした。自分の近くにいれば評議会に言い訳ができる。優秀だから私の部下として動かすと」
「私を守った? そんな見え透いた嘘が何になる!?」
独自の捜査を進めて、ゼスト様とその部隊の方々が死んだ切掛を掴めそうだった、まさにその時にアイツの部下になるよう指示が来た。どうせアイツは己の悪事が公にされるのを恐れたからだろう。その地位を守るために己の親友だと言っていた人を殺して。汚点を見せないようにするために!!
「しかし、頑なに拒まれた以上、レジアスが次に打ったのは当時ほとんど表舞台に居なかった第13艦隊に送るという手を取った。調べ回っていたなら何故気づかない? 本局を嫌っているレジアスが、次元艦の、ほとんど独立しているような部隊に送ったという意味を」
「えぇ、嫌がったのなら裏に近い部隊へ送って死ねという意味でしょうよ。だが、そこで私は幸運に出会った。とある人から言われたんだ。言う通りにしてくれたのなら、貴女の想い人に会わせようと」
「……だからあの子達に切り替わった瞬間、壊滅させたと?」
確かに苦悩した。あの子達と仕事をしている時は楽しかったし、充実感もあった。
だが。
「無念の内に死んでしまった人たちの想いを果たす為に。私はその道を取った。あの子達には悪いけど……コレは私達の復讐劇なのだから」
「そう。ならこれ以上言葉は要らない。アヤ・クランベル。貴女をここで取り押さえます」
「やって、見なさいよぉおおお!!」
支給された杖を展開して、フレイさんが構える。新人だった頃は遠く及ばなかった。その上、満身創痍なこの体。でも、あの頃に比べて強くなった私ならば、貴女を超えられる!!
――side響――
出来る限りの速度で撃ち貫かれた空洞を通って、射撃点を目指して進んでるんだけど。
すっげぇ長いです。なのはさん本気出しすぎでしょうよ。
だけど、それももう少し、何か虹色となのはさんの魔力光の桃色が入り混じってるのが見えて。
「なのはさん、ご無事で?」
突入と同時に刀を構えて、現状確認……ってなんだこれ?
「……え、響!?」
うわ、一瞬目が合ったと思ったら、一瞬間が合ったよ。悲しいわぁ。
「響、あの、体大丈夫? 私本気でやったけど?」
「え、どっちの方ですか? 今の砲撃なら間一髪躱しましたけど、突撃の方は……痛いけど耐えれる程度なので問題ないです……って、人の心配よりも!」
刀を抜いて、峰打ち出来るように持ち替えて、金髪のサイドポニーの女性へ斬りかかる。ゆるい会話で流しそうだったけど、よくよく見ればなのはさんの防護服が凄くボロボロになってる。考えるまでもなく、コイツがやったということ。
もっと言えば、なのはさんを追い込めた可能性があるという事。というか。
「最近オッドアイの人に合う回数の多いこと! ヌルに引き続いて、お前もかよ!」
「あ、響、その子ヴィヴィオだよ」
懐まで踏み込んだ所で体全身が止まった。今なんて?
なんて考えてると、左腕が絡め捕られて、そのまま回転、その勢いのまま壁へと投げつけられる。壁に叩きつけられる前に、体を翻して、壁に着地するように衝撃を殺す。
正直な所だ、二重の意味で驚いた。まずヴィヴィオ、少し見ない間に大きくなって……ちょっと感動と戸惑いが。寝る子は育つということかな? もう一つが、今の投げ方、まんま俺の投げ方じゃないですか、やだー。
「ごめんなさい、ごめんなさい、響さん!!」
「さん!? え、ヴィヴィオ?」
泣きながら構えを取ったと思えば、そのままなのはさんへ殴り掛かる。その様子はとても痛々しくて、なのはさんも砲撃撃った反動なのか、どことなく動きが悪い。
「ヴィヴィオを操ってると思ってたナンバーズの子を遠距離から落としたんだけど。意識は戻せたけど!」
「体はまだ操作されっぱなし、ということですね。最悪だコレは」
思わず地面に拳を叩き付ける。だが、操ってたはずの4番は倒れてるし、後はセイン達の操作で解決出来るはずだが……。
もしかして、何かあったのか? だけど、このまましておくのもなのはさんも持たないかもしれないし……何より、ヴィヴィオの心が保たない。やりたくもないことをやらされてるし、コレ以上は。
「なのはさん―――」
隙を作ります。と言おうとした。だけど。
「大丈夫」
ヴィヴィオの攻撃を上手い具合に逸して、一度距離を取ると同時に、こちらに振り返って力強く微笑んだ。
「助けてって言われた。大丈夫プランはあるし、色々試してみる。ヴィヴィオ? まだ大丈夫だよね?」
「……うん!」
ぐしゃぐしゃな顔になりながらも、あちらも力強く頷いた。お互いに辛いだろうに、それでもだ。
「だからこっちは平気だよ。それよりも、フェイトちゃんを追ってくれる? この船にスカリエッティも居るし、響を倒した子も居るはずだよ」
「……ぁ」
今ほど、この人がエースだと呼ばれる所以を見せつけられた。自分も一杯一杯……という事はないかもしれない。だが、それでもだ。この局面でこんなに力強く、優しく笑うなんて事を、何事もないように出来るということ。心から凄いと思った。
なるほど、だからこの人は―――。
ならば。俺のやるべきことはただ一つ。
「わかりました。なら、ちょっとフェイトの所へ行ってきます」
「うん、お願い……え、フェイト?」
あ、やべ、墓穴掘った。
「じゃ、そういうことで、行ってきますわ!」
「あ、待って響?!」
「響兄ちゃん待ってー!?」
脇目も振らず、玉座から飛び出す。それと同時に、ヴィヴィオさんったら余裕そうじゃないですか、やだー。
それにしてもお兄ちゃんね。さっきはさんだったのにね。
さぁ、俺は俺の役割を果たそう。そもそもだ、俺がなのはさんの心配をするなんておこがましいにも程がある。失念してた。
俺はストライカーには成れないし、エースにも成れない。わかりきってたことじゃないか。
何はともあれ急ごう。そして俺を倒したヌルに、リベンジを掛けようじゃないか。今度こそ勝つために、ぬかること無く、全力を持って行こうじゃないか。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
作者のマイページのHPリンクが、ウェブ拍手へと繋がっておりますので、押して頂けるとより一層励みになります。
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