魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第70話 星の光
――side響――
殺気を全身に受けながら、今考えられることを試していく。足を止めて打ち合い。いや、この児戯が加速していく。
フフ、ヌルさんや。明らかに攻撃の比率が俺に向いてきているのが丸わかりですよ。
俺とフェイトの攻撃は通らない。否、フェイトはヌル本体へ当てるために攻撃してる関係上通ることは無い。だが、俺の方は話が違う。俺の攻撃は防御を引き出すための攻撃。もっと言えば、一手で、防御を引き出し、且つその防御の一手を攻撃するという方法。
やってみて思うのが、この攻撃方法欠点しかねぇや。一回攻撃するために、先行して防御される攻撃をしなきゃいけない。二手打ってようやく一手になるのだから。更にこの一手は即席のもので、未だ俺もあちらも慣れていない。
まさか、あの日の続きをするはめになるとは思わなかったけど。
だが、明確な差が出てきてるのも確か。ヌルはどうも格闘技を知らないと見える。
確かに速い。今でも気を抜けば一瞬で防御を抜かれて拳が飛んできそうだ。
確かに硬い。刀と拳を叩き合ってるのに、こちらの腕が痺れるのだから。
だが、それだけだ。もっと言えば、只の格闘初心者程度の動きしか出来てねぇ。多分、格闘技術だけならナンバーズの子達でもノーヴェに届いてないのではないかと思うほどに。
俺が負けた時、ギンガにノーヴェは負けてたけど、それでも普通に筋良いなーって思ってたしな。
もし、ここでノーヴェの持つ格闘技術をヌルが獲得していたらおそらく詰んでいた。きっと愚妹と呼んでる以上、他の姉妹の技術をコイツは貰おうとしていないんだろう。
馬鹿だよなぁ。形はどうあれ家族みたいなものなのに、共有しないなんて。
まぁ、そのお陰でこのチャンスを紡ぎ出せたのだから。
逆手での打ち上げ、柄打ち、突き、払い。逆手へ持ち替える際の刀を回転させての一打。それに加えて、角度変更、浅く打ったり、流れに身を任せての一打等、攻める手札を変えていく。
相手が格闘初心者のブンブン丸でも、こちとら、小さい頃からずっとずっと積み重ねて、何千、何万と打ち込みと素振り、型の確認とかで、身に仕込ませてる。故にその場しのぎではない技の連携を可能とする。
ヌル本体を狙うのではなく、攻撃を防ぐ過程でヌルに届くようにすればいい。
だからこそ。
「倍にしようかっ!」
「遠慮、したいですわ!」
「そう言うな。付き合いなよ」
文字通り手数を増やす。今の今まで二手で一手の攻撃を、文字通り一手ずつに切り替える。
コイツのパターンは読めた。刀を握った拳を起点に、柄打ちを起点に、腕を振り抜く前に肘を、肩を先の攻撃として放ってから、本命の一撃を叩き込む。
あぁ、今ほど自分の積み重ねた物を信じて良かったよ。どの姿勢からでも、攻め手を切り出せる。放ち続けられる。
「やはり、貴方は凄いですわ、フェイトお嬢様よりも!」
「冗談言うな。俺じゃ逆立ちしたって勝てない人だよ」
―――だが、悔しいかな。
コイツと拮抗できても俺では倒せないんだと、刀を叩き込む度に分かってしまう。きっと暁鐘、晩鐘の力を引き出すことができれば斬れるのだろう。弐の太刀を使えば勝てるのだろう。居合を使えば押し通せるのだろう。
だが、それはコイツを殺してしまいかねない。それでは意味がない。殺さず保護する。そう約束したから。
だからこそ。ヌルの向こう側に居るフェイトと視線をぶつけて。
―――花霞を!
―――うん!
深い言葉はいらない。コレだけで十分だ。フェイトの合図と共に、花霞が胸ポケットから飛び出る。それと同時に、俺とフェイトの立ち位置を変える。ヌルを突っ切らせるのは博打すぎる。だからこその行動。
そして、花霞がいる場所へ立ち位置を切り替え、到着したと同時に。
「結べ、花霞!」
「はい、ユニゾン・イン!」
――sideフェイト――
ヌルと呼ばれる少女を、響と二人で斬り合っていた。けど、気が付けば、響の方に意識が向いていってるのが分かった。
だけど同時に、チャンスが増えたと捉えたけど。そうじゃない。
彼がしようとしていることは、一撃で決めるための布石づくり。だけど、それを行うためには彼だけでは足りない。だからこそ。
「結べ、花霞!」
「はい、ユニゾン・イン!」
その瞬間響を中心に黒い光が収束する。黒い和服に黒いマフラーが一転。いつもの赤い和服に黒いインナー、カーゴパンツが構成される。
だけど、黒いマフラーはそのままに、そして、黒かった髪が白銀へと染まって。
「意思疎通は完了した。後は手筈通りに」
『把握!』
「あら、綺麗な髪が台無しですわ。赤く染まりやすくなりましたね!」
あれ? 何処かで見たことがあるような……?
「あらあら、ダンマリですか!?」
あれ? 何か凄く違和感が……花霞とのユニゾンは上手く機能しているし、完全にシンクロしているのが分かるのに。ヌルを圧倒……は出来てないけど、明らかに拮抗まで持ち込んでるのに。
「……ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
すっごく辛そう? ううん、と言うより戸惑ってるのは何でだろう?
でも、黒い稲妻が走ってるのは何でだろうって。
――side震離――
「ん? んん? オイ!」
「うん、気づいた。コレ……琴の魔力だ。でもなんだろう……何か違うものが混じってる? 悪いものじゃないからいいけどね」
何の話ですか!? って聞きたいけど、前を行く二人が早すぎてもう……。しかもさっき後ろで凄い魔力の暴発を感じたと思ったら、今度は前方、少し距離が有るけど大きめの魔力を感じる。
というかさ。
「遠すぎません王室!?」
「「ゆりかご大きいし」」
「そ、それにしたって!」
くっそぅ、泣きそう、遠すぎて泣きそう。訓練かよって言うくらい高速飛行をずっとしてるせいであんまり余裕がない。
前を往く二人曰く。あんまりゆりかご内部を壊して進むのはちょっと嫌だと言ってた。別に遺跡に近い何かだからとかそういうわけではなく。壊した結果、ゆりかご内部に置かれている他の兵器。早い話が過去のやばい遺物が目を覚ますかもしれないと言う可能性を考えてのこと。
サブコントロールルームで調べたのはそれも兼ねていたらしい。そして案の定予想が当たったと。
スカリエッティはゆりかごの全容を把握していないと。確かにその通りだった。動力炉に玉座、王室は、天井デッキ、下位ブロック。普通に歩いていける場所と、サブコントロールルーム。コレだけは抑えていたものの。それ以外は全く手を付けた痕跡が無かったと。
外壁はガジェットの関係で改造を施してても、ゆりかごにある武器庫は封印されたままだし、その中に有るものに気づいていないと言っていた。
それがなんなのか私は分からない。だけど、間違いなく不味い物だということだけは分かる。
まぁ、武器庫の存在関係なしに、壊して進めばゆりかごの防衛システムが稼働するのが面倒だからっていうのが一番らしいけどね。元々聖王の魔力ありきの代物。それは聖なる魔力らしいから、私達にとっては面倒らしいし。
それにしても、この2人も琴さん……響のお母さんの知り合いだと言われた時は死ぬほど驚いたなぁ。だけど、琴さんの魔力を感じたと言うのはどういうことだろう? しかも何か混じったって言ってるし。感知能力やばすぎ。
「そろそろ玉座と王室の分かれ道だ。もう間もなくだし、あのお母さんが助ける前に到着しないと……って」
ドン、と大きな魔力が渦巻くのが感じた。それこそ遠くに感じてた魔力が霞むレベルで。
「……あのお母さん、腹を決めたのか。それとも」
「レリックを砕くための一手だと考えたいね。さて、ますます持って時間が無くなってきた。どうする?」
「決まってる」
スパッと吸った煙を吐き出してから、キセルを手にとって懐に仕舞うのが見えて。
「じゃあ、震離。悪いが先行く。ゆっくり急いで来なよ」
「ごめんね?」
あー……なんとなく予想はしてたけど、コレまた悲しいなぁと。だけどまぁ。
「えぇ、お気をつけて」
「「じゃ」」
『震離さん。行ってきます』
「はい、いってらっしゃい」
流とそう告げたと同時に、更に二人が加速していったのが見えた。いやぁ寂しいわぁ。
だって、現時点でここに居るのは私1人だもん……あぁ、本当に寂しいな。
――sideなのは――
ヴィヴィオを操っていたであろうナンバーズを倒した直後、ヴィヴィオは戸惑って、そして言った。
―――この船を飛ばすための、ただの鍵で……玉座を守る、生きてる兵器、だと。
―――私は、もうずっと昔の人のコピーで……なのはマ……なのはさんもフェイトさんも、ほんとのママじゃ、ないんだよね、と。
きっと、覚醒した時に知識が流れ込んだんだろう。
―――本当のママなんて元からいない……守ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人を探してただけ。
そんなこと無い。例えそうだとしても、私は……。
だけど拒絶されることは辛い。だって、コレはヴィヴィオは自分にまつわる全てを知ったことによる拒絶。自分が要らない子だと認識してしまった事による拒絶。
でも、それは違う。もっと速くに私は貴女に伝えるべきだった。もっと速くに貴女の居場所を、絶対になくならない居場所を、ここに居ていいんだってことを伝えるべきだった。
私はまだ弱くて、お母さんになるという決意が足りてなかった。孤独も悲しみもを全て包み込んであげる覚悟が足りなかった。
だから!
「違うよ。生まれ方は違っても、今のヴィヴィオは、そうやって泣いてるヴィヴィオは、偽物でも作り物でもない。
甘えんぼで、すぐ泣くのも、流に引っ付いて困らせるのも、転んでも一人じゃ起きられないのも、ピーマン嫌いなのも、私が寂しい時にいい子ってしてくれるのも、私の大事なヴィヴィオだよ!
私はヴィヴィオの本当のママじゃないけど、これから本当のママになっていけるように努力する。だから! いちゃいけない子だなんて言わないで! 本当の気持ち、ママに教えて?」
お互いに涙が溢れる。嘘偽りのない、私の本当の気持ちをヴィヴィオに伝えて。
そして。私の目を見て、大粒の涙を零して。
「私は、私は、なのはママの事は……大好き。ママとずっと一緒にいたい! ママ、助けて!」
嗚呼、この言葉が聞きたかった。
ずっと、磨き続けたこの力。壊す為じゃなく、守る為の力。
助けてって呼ぶ声があるなら、一直線に行くためのこの力!
「助けるよ、いつだって! どんな時だって!」
だから、そのためのプランを形成して、ヴィヴィオを助けるプランを練っていた。一番いいのがスターライトブレイカーを当てて、ヴィヴィオの中のレリックを砕く事。だけど、響の動きをベースにしているせいか、今一バインドに捕まらない。
なんて考えていたら。
「なのはさん、ご無事で?」
「……え、響!?」
撃ち抜いた穴からの突然の来訪者に思わず私もヴィヴィオも、手が止まってしまった。そう言えばACSで突撃して当たってたのを思い出して。
「響、あの、体大丈夫? 私本気でやったけど?」
「え、どっちの方ですか? 今の砲撃なら間一髪躱しましたけど、突撃の方は……痛いけど耐えれる程度なので問題ないです……って、人の心配よりも!」
刀を抜いて、峰打ちの体勢を取って。
「最近オッドアイの人に合う回数の多いこと! ヌルに引き続いて、お前もかよ!」
「あ、響、その子ヴィヴィオだよ」
一瞬でヴィヴィオの懐まで入った所で止まってくれた。その響をヴィヴィオが半泣きの状態で掴んで……あ、投げた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、響さん!!」
「さん!? え、ヴィヴィオ?」
そんなこんなで、色々説明とかしている内に、フェイトちゃんを追ってほしいということを伝えた。ふと、ヴィヴィオの方を見ると、涙でぐしゃぐしゃだけど、それでも可笑しくて笑ってくれていた。六課にいるときみたいで、いつもの雰囲気だったからかな。
そして。
「わかりました。なら、ちょっとフェイトの所へ行ってきます」
「うん、お願い……え、フェイト?」
あれ? 響ってフェイトちゃんをさん付けで呼んでたはず。一瞬思考が混乱している内に。
「じゃ、そういうことで、行ってきますわ!」
「あ、待って響?!」
「響兄ちゃん待ってー!?」
響の姿がブレたと思ったら、玉座の間から飛び出ていったのが見えた。ふと、ヴィヴィオの攻撃を捌きつつ、ふと。
「なのはママ! あれって、その、あの。フェイトママ大勝利?」
「かなーって。なのはママとしては嬉しいような何というか……コレは帰ったら二人を問い詰めないと、ね?」
「うん!」
ヴィヴィオの動きを見ていると、やはり響の動きをベースしてるのが分かるのと、今改めて本物の方を見たおかげで、対処法が見えた。
だからこそ。
「ヴィヴィオ、もう少し待って。今助けるための準備をするから!」
「……うん!」
力いっぱい頷くヴィヴィオを見てると、頬が緩んでしまう。さて、もう一度締め直して、行ってみようか!
仕掛けは十分。足を止めたと同時にビットを動かして捕縛。だけど、もっと突き詰めれば……。
いや、でも……。
「大丈夫だよ」
ヴィヴィオが笑いかける。姿は違うのに、それでも子供の姿の笑顔を彷彿とさせるような、そんな優しい笑顔を。
「私は大丈夫。体が痛いのは大丈夫、だけどこれ以上ママを殴るのが嫌なの。だから――」
部屋の中央にセットしていた仕掛けの上に、自分から進むように立ち。構えを取る。
「強くなるって約束したから。だから、大丈夫!」
声が震えてる。だけどそれ以上に。
「うん! 助けるって約束。したもんね! レイジングハート!」
『Alright.』
いつもの返事を貰うと同時に、ヴィヴィオの足元をバインドが固め、ビットのバインドで止まって貰って。
「スターライトブレイカー、いけるよね、レイジングハート」
『Yes.』
チャージが始まる、周囲魔力を集める、魔力が拡散するこの環境。ふと、ヴィヴィオの顔が目に入って。
「ちょっとだけ我慢してね、ヴィヴィオ」
「うん。大丈夫!」
笑顔で応えてくれる。これから痛い思いをさせてしまうのに……いい子本当に、ヴィヴィオ。
正直、これは賭けでもある。バリアを抜いての魔力ダメージ、それによるヴィヴィオの体内のレリックの破壊。それまで、私の体が持つかどうか……私とレリックの耐久レース。私の体が耐えきれずに、先に力尽きるかもしれない。
その上、ビットを使っての……それもそれをこんな大きな大威力砲撃を5つ。
深呼吸をして、心を落ち着かせて―――
「スターライト―――!!」
魔力が臨界点に達する。
片手でレイジングハートを振りかざして―――
「ブレイカーー!!!」
――side響――
「動きが悪くなってきてますわよ!」
「う……る、せぇ!」
バチバチと、体の中で魔力が暴れまわる。昔懐かしいとかそんな事考えてる場合じゃない。気を抜けば、一気に持っていかれるこの局面。
動きが悪いのは花霞のせいじゃない。魔力が暴れまわるのも、俺の責任だ。
コレは……。
「ふ、は、は」
「?」
やばい、つい笑ってしまう。なるほど、花霞……いや、母さんは凄いものを残してやがった。
コレは……。
いや、それはいい。今なら、花霞とユニゾンした今なら!
「は、なぁぁああ! 霞!」
『はい!』
呼吸をいう機能を肉体から削ぎ落として。目の前の敵を見据える。俺の顔を見て、何かを察したのか、ここに来て初めてヌルが下がった。それはフェイトからも離れるということを意味する。
いい流れだ。この一打を撃った後、ユニゾンを解除してフェイトに回そうと考えていたから。
間髪入れずに踏み込んだ。虹の残光を追いかけるように。下がると行っても、傍から見ればまるで瞬間移動のようだが。それでも今の思考速度、機動力を考えれば行ける。
目指す先は前方十メートルの位置に再出現したヌルの懐──!
感謝しろよ。後にも先にもフェイトに譲るはずの手柄を俺が掻っ攫う上に。コレは、俺とフェイトの合わせ技なのだから。
己の存在を、殺気も呼吸も存在も、お前からの認識を極限まで薄めただけの、この疾走は音を超える。
現れたヌルを視界に、否。存在を捉える。刀を鞘に収めるとともに、体を地すれすれへと屈ませながら真直に、雷鳴の如く駆け抜ける。
砕星は、両手の居合の中でも手数に重みを置いた多数を斬るための斬撃。地薙は、居合からの抜き身の抜刀術。居合の速度を持った直接攻撃。絶波は、二刀を持って波を断ち切り居合の弐閃。そして、最後の1つは――
ヌルが驚いた顔をしたのが見えたと同時に、守りに意識を向けたのを確認して。彼女の背後へと逸れ降りる。その直後地を蹴って切り返すと同時に、右腰にもう一本白い刀が出現する。それを即座に抜いて閃かせる。
背面から一打を放つが、それでも足りない。すかさず左側面から二打。なおも切り替えして、右側面から三打。
──まだ足りない、まだ届かない。
体を走る黒い稲妻が弱くなるのを感じる。それに伴って動きが僅かに淀んでいく。だからコレは正真正銘の最終打。
刀を、花霞を鞘へと収め空へと放る。同時に最後の疾走。コレを持って決める。あれだけ硬いなら死ぬ心配はない。意識を飛ばせばいいのだから。だからこそ。
腰に差した二刀の柄を逆手で握る。遠い昔から思い描いたこの一打。きっと最初で最後のこの一打。
瞬間、更に加速する。二刀を鞘で走らせると共に、二刀の斬撃は音を超える。二刀を閃かせる間も無く。寸分違わず同じ場所へ斬撃を放つ。そして、空へと舞って、刀を、花霞を手にとって。真直に斬り落とす。
これぞ。
「割天三段」
花霞を腰に差したと同時に、ヌルが倒れたのを確認した。そして、体を纏っていた黒い稲妻が弱々しく消えると共に、体の中で暴れまわってた魔力が鳴りを潜めるのを感じて。
「響!」
『やりましたね!』
気が付けばフェイトがそばにいて。俺の中から花霞が喜びの声をあげている。ぶはっと、呼吸を再開させて、荒い呼吸のままフェイトを見据えて。
「ありがとう――、フェイトのお陰で勝てた!」
感極まって、そのまま抱きしめる。あの黒い稲妻の正体。中で暴れまわっていたのは、フェイトの魔力だ。母さんの魔力を感じながら、同時にフェイトの存在を強く噛みしめることが出来た。
だからこそ、一時的に雷の如きの機動性を獲得できたし、思考速度の加速も出来た。あれがなければ勝てなかったのだから!
「あの、響、あの?」
「え、あ、ごめん。勢い余ってごめん」
腕の中で真っ赤になってるフェイトの声に気づいて離す。それと同時に花霞とユニゾンを解除と共に、三本目の刀が消失した。
「主、良かったです!」
「フフ、ありがとうサポートしてくれて」
スリスリと俺の頬に頬ずりする花霞の頭を指で撫でる。いやほんと、この二人居なかったら勝てなかった。と言うかよく勝てたわ俺。
「フェイト様も感謝です!」
「うん、こちらこそありがとうね」
俺と同じようにフェイトの頬に頬ずりしてる。
さ、後は―――
「ぇは♪」
音もなく何かが鳩尾に突き刺さったると共に、壁へと叩きつけられ崩れ落ちる。突然の事に、呼吸が止まる。いや、それ以上に何が起きた?
間髪入れずにフェイトが俺とは真逆の壁に叩きつけられ壁が砕けている。
呼吸が出来なくて苦しい。酸素を―――
「きゃは♪」
全身が痛むと共に、気が付けば宙を舞ってる。視線が定まらない、そもそも何が起きてる?
ふと、部屋の中を鮮やかな虹の奔流で埋め尽くされてるのに気づいた。それは先程までのくすんだ色ではなく、鮮烈な虹色。
そこで悟った。俺がしたのは、彼女のスイッチを入れただけなのだと言う事を。
――sideなのは――
レリックが砕けると共に、巨大なクレーターが出来て、その中心に幼い姿に戻ったヴィヴィオはいた。
「ヴィヴィオ!」
「来ないで……」
先程のものとは違い、まだ少し舌足らずな、いつものヴィヴィオの声。ヴィヴィオはうつ伏せの状態で倒れていて、起きるために必死に手足を動かしていた。
「1人で、立てるよ――」
息を飲む。この子は……。
「――強くなるって、約束したから」
「ッ!」
たまらなくなった。痛む体を無視して駆け寄って、その小さな体を抱きしめる。
ああ、ヴィヴィオだ―――
ちゃんとここに居る。居るんだって。
「じゃあ……帰ろうか」
「うん」
ヴィヴィオが、確かに頷いてくれる。そのままクレーターから出ようとして―――
『コレより聖王女より、聖王陛下へと権限を譲渡されました』
え? 突然の無機質な放送を聞いて、動きが止まってしまった。
「ママ……?」
「大丈夫」
思わず空を見上げる、それと同時に。
『が、ぁああ!? ぐぅっ、ぐそ……追いきれ……ぁああ?!』
鮮血と共に響が吹き飛ばされるのが見える。コレは一体?
画面の奥で、黒髪となったフェイトちゃんが何かから必死に護るように防御を張ってるけど、直ぐに砕け、また直ぐに防御を張り直してる。
そして、よくよく目を凝らしてようやく見えた。
虹色の光を纏った何かが高速で機動していることを。直接目にしているならばともかく、モニターのせいでそれが何か判断がきかない。
「なのはちゃん!!」
「はやてちゃ……え!?」
突然背後から……ううん、私が砲撃で開けた大穴の方から声が聞こえて振り返る。そこに居たのははやてちゃんなんだけど、それ以上に。
何故かガジェットⅡ型の上に座ってた事に驚いた。
驚く私に気づいて、直ぐに。
「この子らのお陰や」
はやてちゃんが振り返る方に視線を向けると、そこにはもう2台のガジェットⅡ型。そして、そこに居るのは水色のショートカットの女の子と……。
「あ、さっきの」
「……どうも」
私と打ち合った茶髪の女の子。そして、よくよく見れば、ガジェットⅡ型の空きスペースにはバインドで簀巻にされたヴィヴィオを操ってたであろう4番の子が。
「この子ら響と一緒に動いてたっていうのと、面白い情報持ってたから一緒に行動し始めたんや」
「え、あ、でもそれだけで?」
「私がこっちに来る途中にな、この子らガジェット操作して他のガジェットと戦闘してたんよ。それもあるかな」
はやてちゃんがそういうと、気恥ずかしそうに。
「私達って今あんまり戦えないから、うん」
「響と約束したのに何もできなかったから少しでもガジェット減らそうと思って」
そう言う彼女たちを見て、少し警戒が緩むのと共に。
「セイン、ディエチ!」
「へーか。戻って良かったぁ」
「やっぱり此方について良かった」
何よりヴィヴィオが二人に懐いてることが決め手だった。
って。
「はやてちゃん、あれ!」
「ん? ……なんやあれ!?」
違う違う、それよりも先に見せなきゃいけないことが合った。私達が話をしてる最中にも、後ろで響が何かと戦ってる……いや、蹂躙されている様子が流れてる。
「……なのはちゃんはヴィヴィオと、この子らを連れて離脱。私とリインは援護に行くよ!」
「待って、それだったら私も!」
「アカン! なのはちゃん、スターライトブレイカーを撃ったってことは、ブラスター3も使ったんやろ? そんな状態じゃ連れてかへん!」
「でも!」
響達がいる部屋がどれくらい離れているかは分からない。だけど、こんなの見せつけられて動かないわけはない。
だけど。
『ぁ、ぉ』
弱々しい響の声が聞こえたと同時に、皆がモニターに視線を集めた。
そこに映るのは一際大きく打ち上げられた響。そして、その真下には金髪の、騎士甲冑を纏った女性。そして、フェイトちゃんは絶え間ない射撃に晒され、動けずに居た。
『コレで終幕です、わ!』
響が重力に引かれて落ちる直前に、金髪の女性は虹色の魔力を集め収束させる。あれはまるで……。
「スターライト……ブレイカー?」
私がヴィヴィオに向かって撃ったように、周囲4方向に巨大な虹の球体が出来て、今にも破裂しそうな程だ。
そして―――
『滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ!』
拳を振り上げた―――
『仮にも王を名乗るなら。滅ぼすなよ』
その声が聞こえたと同時に、虹の極光は掻き消され金髪の女性が弾けるように吹き飛んだ。
一瞬の静寂と、着地する足音。
さっきまで女性が居た場所に居たのは見覚えのある茶髪の髪の毛に赤と蒼のオッドアイ。慣れた様子で懐から何かを取り出しそれを口に咥えて火を灯す。
そして、落ちてくる響を盾を使って受けとめて。
『お初にお目にかかるな三下。さっきは悪かった。なんて名乗っていいのか分からなくてな。
改めてこのゆりかごを打ち砕きに来た。
第13番聖王騎士団が1人。ヴァレン・A・L・シュタインたぁ、俺のことだ。
今の時代じゃ、ヴァレン・アルシュタインと名乗ったほうがいいかな?』
いつか遺跡で出会った、流と同じ顔をした人がそこに居た。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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