魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第67話 第二ラウンド開始!
――side――
雪の降る晩だった。日が暮れる前に二人で暖かくて美味しいものを食べて、数時間のドライブ。そしてその道中、私はこう思った。
あれ、これよく聞く実家に紹介します的な。そして、言われるかもしれない。うちの子と釣り合わないわ貴女! って言われるだろう。しかし、誠心誠意伝えればきっと行ける! 筈!
だけど、それは夢幻。甘いものだった。
蓋を開ければ、それは罠だったわけで。
その結果―――私は無様に負けてしまった。
腕をとられ、足を床に固定されて身動きが取れずにいた。最後の絶叫とともに爆発が聞こえて、目を強く瞑った。守りたいものを守れず、私は、私は……。
しかし、何時までたっても熱も爆風も来ない。
なぜ?
ぼんやりと考えながら、瞳を開けると。
「目が覚めた? 待ってなさいすぐに移動するわ、今その用意をしてるから」
誰かが私の前で膝をついてるのがわかる。黒いシスター服を纏ってるのがわかるけど、それよりも、それよりも……っ。
すでに感覚のない左腕を、誰かの足元まで伸ばして。
「私の後方に、茶髪の子が……居ます。私はいい……から」
先ほどまで声を張り上げていたのが嘘の様だ。
いや、違う。誰かがここに来た、それだけで私の体は安心しきってしまった。最後の望みを託せると。
最後に大きく息を吸って。声に力を宿して。
「私はもう死ぬ。持たないんだ。だけど、後ろの子ならば、あの子ならばまだ処置すれば助けられる、だから―――」
助けてあげてほしい。と声を出す前に。
「それは聞けない相談よ」
何も無かったように告げられる。思わず奥歯を噛み締めるが、それは仕方ない。おそらくその発言の意味は、ここに残っているのはもう―――
「泣きながら助けてって、自分も死に体だというのに。その願いを受けて私はここに来たんだよシンリ」
時が止まったように感じた。痛くて仕方ないのに、熱くて辛いのに、その痛みや辛さも無くなったように。
嬉しくて、胸が一杯になって―――
「なら、良かったぁ」
ふ、と体から力が抜けるのを感じる。コレは……あぁ、血を流しすぎたな。まぁ、負傷の度合を考えればコレは適切だね。仕方がない。
だけどもう……思い残すことは―――
「選びなさいシンリ。いえ、叶望震離」
「……?」
やけに周りが静かになったなぁ。まだ爆発物とかあるだろうに、建物が燃える音が聞こえるはずなのに。
「このままならば、貴女は己が命を盾とし人を救ったと、誇り高いまま死ねる。だが―――」
「違う」
何を巫山戯たことを。言うんだこの人は……!
「その理屈は。あの子にこう言っているようなものだ。私がいたせいであの人は死んだって。あの人はボロボロになって死んだけど、それは貴方の為だから私という重みを背負って生きてくれ、と。
冗談を言うな。
そんなの。私が死んだ理由をあの子のせいにしてしまう。私をそんな風にした意味を一生覚えておいてねって。
私が願うはただ一つ。あの子に私の死という影を背負わせたくない。だからこそ、あの子に私に関する記憶封鎖を行って欲しい。
尽くすだけで、誰かの側に居れるなんて、私は最初から思っていない」
「それは……」
驚いたような、戸惑うような声が聞こえる。だからこそ私は。
「あの子を、あの人を心から愛したから。対等で居たいと願った。コレは私の我儘だ、そして、潰えたと思ったものが続いていた。私はそれで満足だ」
そばにいるという報酬の重さを、私は知っている。そして、それがどれ程のものなのかを。
だから、コレでいい……私はここで―――
「―――ならば、私がここで貴女を呪っても、問題は無いわけだ。コレは私の我儘なのだから」
「……そう、なる……ね」
「これから貴女に酷い事をする。いずれきっと私を恨むだろう、憎むだろう。
それでも私は貴女を呪いたいと思った。初めてあったあの日から、私は貴女をこんなにも気に入ってしまった。だから―――
我らが住まう領域へ、貴女を攫いましょう」
――――――――
――sideティアナ――
はぁ……状況は最悪、エリオとキャロは召喚士の女の子と戦闘してる。私はスバルと2対3で戦闘。しかし、その最中に突然苦しみだしたと思ったら。スバルをふっ飛ばして、私は2対1、スバルはタイマン……。
最悪すぎて笑えないわコレ。
目の前の相手、無理して1人で相手する必要はないわ。足止めして削りながら、それぞれ対処。それでも十分、市街地と中央本部は守れる。そう考えて足止めを優先していたし、向こうも不自然なほどやる気が無いように見えていた……のに。
今では力任せに射撃してくるわ、二本の剣で切り込んでくるわ。間違いなく何かあったわね。
それ以上に……。
「ああああああああぁああああ!!」
苦しそうにしているのが、見ていて辛い。スバル達と連絡を取ろうにも、通信は繋がらない……ならば。
「クロス・ミラージュ。行くわよ」
『Yes sir.』
クロス・ミラージュの了解の声と共に、3発、小気味の良い音を鳴らせてロードさせる。
ここで足止めするだけでも別に構わない。だけど……あんなに苦しんでる声を聞いて助けないのは、間違ってるわよね。
それに……。さっきまで中継されてた響だって、きっとフェイトさんが助けたはずだ。何かバインドされて、大きいの受けてたけど……多分生きてる。オーバーキルじゃないかと思ったけど、きっと……うん。
まぁ、心配かけた迷惑料よね、あれは。
さて、行きましょうか。クロス・ミラージュに魔力を込め、周囲に12発のスフィアを展開。いつか誤射しかけたけれど、あれから成長した私ならば。
展開したスフィアと共に、二人の前に飛び出して。
「クロスファイアシュート!」
12発の弾幕、更に追加で生成、即時射出を繰り返す。
正直、自我があった時は上手い具合に連携してきたのが本当に厄介だったけど。その連携も無くなった今では、もう怖くない!
――sideスバル――
「うおおおおお!!」
「がぁああああ!!」
足場にウィングロードを小さく展開して、マッハキャリバーで加速した回し蹴りを、赤い子……ううん。ノーヴェに向って放つ。
だけど、ノーヴェも足のブースターを吹かして同じように回し蹴りを放ちぶつかり合う。
単純な破壊力だけなら、リボルバーナックルと同じスピナーを装備したノーヴェのが上。だけど、マッハキャリバーと一緒に考えた装甲と重量増加のお陰で何とか五分に持ち込める!
互いに弾かれて、一度距離を……って!?
「うがあぁあああ!!」
『Wimg road.』
がむしゃらに突撃してくるのに合わせて、ウィングロードで空へと退避。すると、そのままビルの壁へと激突して、壁を砕く。
やっぱり、突然苦しみだしてから様子がおかしい……見ていて痛々しい戦い方するようになったし。
粉塵の中から黄色のウィングロードが伸びてくるのを確認して。こちらも直ぐに動き始める。私の道と、ノーヴェの道が交差して、すれ違い様に蹴りや突き、射撃で牽制していく。
何度かそれを繰り返してる内に。
「があああああ!!」
黄色のウィングロードから飛び上がって、ブースターを点火と共に、足についてるスピナーを限界まで回転させて、跳び回し蹴りを放ってくる。
回避を選択したい。だが、さっきのように無茶な姿勢で壁に激突すれば……いくら頑丈とはいっても、ダメージは安くない。だから!
「相棒!!」
『Alright Buddy.Protection.』
真っ向から受け止める! ヴィータさんから、ギン姉からもお墨付きを貰った私にとっても自慢の防御! 慢心でも何でもない。私とマッハキャリバーなら、それが出来る!
ガリガリとバリアを削られる。思ってた以上の衝撃で、一気に持って行かれそうになる。だけど、ヴィータさんとの特訓で鍛えられてるんだ、コレくらいじゃ、砕かれないし負けない!
ある程度拮抗した後、大きく弾く。空中に投げ出されたこの隙を逃さない! バリアを解除と共に、一気に加速して。
「リボルバー……キャノン!」
リボルバーナックルでの一撃を見舞う。空中で受け身を取ることが出来ずに、そのまま直撃させて、地面へと叩き落とす。
きっと、自我があればあそこからウィングロードを展開して回避出来たと思う。少なくとも私ならそれが出来るんだ。ノーヴェが出来ない訳はない。
多分、ノーヴェのベースとなった遺伝子は、きっと私達のお母さんのものだと思う。髪の色、瞳の色以外私と同じで、声もそっくり。戦い方も足と拳と言う違いはあるけれど、それでもお母さんの足技に酷似してる。
何より、柄は違うけれど、色違いのウィングロードを展開出来るのが何よりの証拠だ。
だから!
「相棒、絶対助けるよ!」
『Alright Buddy.』
今一度気合を入れて、ノーヴェの出方を待つ。何とかして動きを止めないとね!
――sideエリオ――
煌さんとの模擬戦や、特訓は凄く良いものだし、今の僕のことを考えて指導してくれているというのが分かる。
だけど、それでも……やっぱりシグナムさんと打ち合った優夜さんの槍に強く憧れたんだ。
攻めの挙動で、迎撃に防御、隙を見せたら攻められる怒涛の槍撃。フェイトさんの動きにも憧れてたし、速い事にも憧れて、その為の機能がストラーダには組み込まれていて。突撃突貫の、ガードウィングとしての機動を学んで……。
上を見上げると際限がない事に気づいた。兄さんの速さ、煌さんの速さ、フェイトさんの速さはどれも全然異なる。兄さんは加速減速を、煌さんは連動の高速化、フェイトさんは総合的な速さを。
教えてくれないことに不満があった。煌さんも、意図的に本質を教えようとしなかったし、優夜さんに声を掛けても、またいずれってはぐらかされてたし……兄さんも系統が異なるから体捌きしかって言ってた。
でも、アースラでシグナムさんに稽古をつけてもらって居る時に気づいた。技を盗ませてもらっている事に。
そこからわかった。僕の道を、シグナムさんから盗ませてもらった剣技と付与強化を、フェイトさんからは高速機動と電撃魔法を、ヴィータさんからは近接技術と、同じ推進機を使ったドライブを。
それらをなのはさんが、統合して底上げしていたことを。その技術達と共に、兄さんからは加速減速からのフェイントを、煌さんからは攻撃の連動、更なる高速化。そして―――。
「はぁああ!!」
眼前に迫るガリューの双腕と、背中から生えた触手を突き弾く。ルーテシアに赤い稲妻が走ったと同時に、召喚蟲の自己進化、特にガリューも両腕から骨を武器として発達させて出し、背中から第二の腕とも呼べる程の触手を生やした。
唯でさえ速くて重い攻撃が4つに増えた。だけど……。思い出すんだ、優夜さんとシグナムさんのあの打ち合いを。
ガリューの4つの攻撃を、しっかりと見て、その攻撃の先を真直、只真直撃ち抜く様に弾き流す。何度も何度も、ガリューの攻撃が掠めて血が出ても気にしない。今、この手を緩めれば僕がやられる。そうなれば、キャロが挟まれて倒されてしまう!
だから攻撃を更に加速させる。ガリューの一挙一動を見逃さずに連続に攻撃を続ける。左拳を出そうと右足を踏み込めば、払う。肩を前に出せば突く。回避しようと体をずらせば、それに合わせてストラーダを回転。石突での一撃を追わせて。
回転速度を上げていく。防御が薄いから、攻撃と牽制を繰り返して、コレで防御を行う。距離が開いたらドライブで突貫する勢いで詰めて。ストラーダを弾かれれば、その勢いを利用して逆から攻撃を入れる。
「はあああああああああああ!!」
ガリューの4つ拳が1つへと束ねられ、その一撃とストラーダがぶつかり合う。そして、同時に弾かれてようやく隙を作ることが出来た。左手にストラーダを保持したまま、一歩踏み込んで。ありったけの魔力を右の拳に流し込む。稲妻が奔る拳を構えて。
「紫電……!!」
この一撃で、決める。
拳を槍に見立てて、真っ直ぐ撃ち抜く為に最短距離を突き抜く。ガリューが防御するより先にその身を捉えるも、障壁で防がれる。
だけど、兄さん達と出会ってずっと見てたんだ。衝撃の通し方を、僕なりの答えを!
「裂閃!!」
僕はまだ、拳でしか使えない。煌さんが言っていた、兄さんや、優夜さんは。刀で槍でコレを撃てるって。
でも、今はコレで十分!
懐に踏み込めた時点で僕の……勝ちだッ!
――side煌――
『コウ。少し休んだ方が……』
「流石に無いとは思うが……トーレとセッテをこのまま置いとくのも不味いだろ。数分意識落としたんだ。十分休んだよ」
何とか二人をお米様抱っこ……もとい、ファイヤーマンズ・キャリーと呼ばれる方法で担いで移動中。正直体は死ぬほど辛い。
と言うか何か空気が震えたのを感じて目を覚ましたけど……何というか負傷具合考えると復帰は無理だなぁ。
しかし、空気が震えるほどのものってなんぞ?
「「■■■■■■■■!!」」
うぉ、うるせー。
空を飛ぶ体力も魔力もないから、トボトボ歩きながら遠くで何か凄い音と言うか声が聞こえる。声の方を見るけどビルの残骸で見えねーし。
『あら? コレは……珍しい。白き蟲の王と、アルザスの守護者が出てきましたね。あの二騎を呼び出せる召喚士が居るとは。凄いですね』
「蟲の王と守護者? ……あー、そういやルシエちゃんがアルザス出身とか言ってたなー。そう言う関係かな?」
『あ、コウ。それ以上そちらに行くのは』
「んー?」
何気なく曲がり角を曲がって、ビルもないのに影が出来たことに違和感を感じる。そのまま視線を上に向けると……。
「……わぉ」
『これからぶつかり合うので下がったほうが宜しいかと?』
「……言われなくても!」
何か上空に白と黒のでかい生物が浮いてるんですけど!? 残った魔力を何とか絞り出して、わずかに飛んで移動を開始する。視線の端に小さくモニターが展開、そこに映るのは丁度俺の背後。つまりあのデカイの二騎の映像。
白い方は腹部の水晶体に空気が震えるほどの魔力を集中させて。黒い方は迎え撃とうと魔力を口元に集めている。
二騎の魔力が呼応しているんだろうか。ビリビリと空気が激しく震える。
コレが意味するのは―――
『コウ!』
「わぁってる!」
適当な広い場所へと移動して、二人を下ろし。目の前の地面にフェルを突き刺して。
「最大展開!」
『Panzerhindernis.』
全方位を多面体で構成された障壁を展開して、衝撃に備える。その数秒後に。
「「■■■■■■■■!!」」
両者が同時に魔力砲を放った。両者の間でぶつかり合った魔力は、周囲に膨大な魔力の衝撃波を放ちながら押し合う。
そして、その衝撃波は……。
「きっつい、なにコレ!?」
『辛抱です。守護者の方は安定していますが、王の方は不安定です。この勝負おそらくそう続きませんから!』
「了解、耐える!」
巨大な魔力の暴風が渦巻く。そして、フェルの言う通りその瞬間は直ぐにやって来た。
拮抗していたはずの砲撃が突如、片方を一方的に押しのけ白い方へと直撃。同時に、大きな爆発が起きた。
今一度向ってくる衝撃に備えて、魔力を障壁に回して堪える。既に限界ギリギリまで魔力を使っているせいか、気を抜くと今度こそしばらく目覚めそうに無い。
だから歯を食いしばって耐えてるんだけど……コレは、きっつい!
そして、魔力の暴風がとぎれ、巨体が倒れた瞬間、もう一度衝撃……いや、土煙を纏った風の大波がこちらへ向ってくるのが見えた。
「ここまでか……飛ぶぞ!」
『えぇ!』
すぐに二人を脇に抱えて真っ直ぐ空へと上がる。するとビルの屋上に大きな蟲。それもゆりかごを掘り起こした黒い奴が何体か居るのが見えた。そして、その蟲が囲む中心には……。
「あ、ルシエちゃんと、いつかの召喚士の女の子……という事は。あのデカイ奴のカラーリングから考えると、色のままかな?」
『……話聞いてました? 白い方は蟲の王。黒い方はあれ真竜ですよ? おそらく白銀の竜を従えてる方の守護竜かと』
「あー……じゃあ、ルシエちゃん勝った……? いや、違う。あれは! フェル、行くぞ!」
『了解』
少し離れたビルの屋上に二人を置いて、即座にルシエちゃんの元へと急ぐ。多分黒い蟲と、フリードなら拮抗どころか、フリードなら勝てるだろう。だが……見たこと無いガジェットが集まってる。I型を下半身に、上半身には腕を二本はやして杖持ってるし。
しかも遠目で一瞬しか見えなかったが、あの召喚士の女の子。自我を失ってるようにも見えた。
ビルからビルへ飛び移りながら、フェルを大鎌形態へ移行。だが、切先が赤い炎になってしまうが……グダグダ言ってる場合じゃない。
一際大きくビルから飛んで、鎌を大きく振りかぶる。ビルをよじ登る変なガジェット達に狙いをつけて。
「フェル!」
『FlammeSichel』
「ファイヤ!」
空中で大きく振るって、赤く燃える魔力刃を振るって射出。同時にビルを登っていたガジェットがこちらに気づき、こちらへ集まってきた。
丁度良い。どうせあのデカイの相手にするなんて、現時点……うーん。万全でも無理かなぁ、あれは?
まぁ、どちらにせよ良いや。
「第3ラウンドかな?」
『えぇ、やりましょう』
地上へ降りると、周囲を埋め尽くさんばかりの変なガジェットが現れ、埋め尽くす。ざっと数えるのも面倒になる程だ。
さて。
「残り火でも、十分火力があると証明しようぜ?」
『えぇ、激しく燃え盛りましょう!』
その言葉を切掛に、ガジェット達が踏み込んできた。周囲まるごと焼き払おうと、フェルを振り上げた瞬間。
『Divine Buster』
「……うん? うぉ!?」
深い蒼の閃光が通り過ぎました。
――sideキャロ――
「ルーちゃん、ルーちゃん!!」
「ぅぁあああああ、うあああああ!!」
苦しそうに泣き叫んでる。赤い稲妻が奔るとと瞬間的に魔力も大きくなって……。あの白天王と呼ばれる子も、地雷王も、皆苦しそうに戦ってる。特に白天王はルーちゃんが操られているのに気づいてるのに、どうしようも出来ないのか、苦しそうに悲しそうに……泣いてるようにも見える。
『こちらエリオ! ダメだ、ガリューも、もう意識がないのに人形みたいに立ち上がってくる!』
「そんな!」
エリオ君のモニターには、ぼろぼろになったガリューが、無理やり起きて戦いを継続している様が映ってる。エリオ君もコレ以上攻撃したらまずいって分かってるみたいで、防御に専念してる。
地雷王達だって、苦しんで血の涙を流して……。今はフリードが相手をしてるけれど……これ以上攻撃したら、地雷王達も危なくなる。
せっかく、せっかく分かり合えたのに。一人ぼっちは嫌だって、誰もいないのは嫌だって悲しんでるのに、こんなになるまで使うなんて……酷いよ。
『こちらギンガ! 今、下で変異ガジェットの群れと……って、え、煌!? 何してるの!?』
『こっちのセリフだ! もうちょっと前確認してもらっていいですかね!?』
ギンガさんから連絡が来て、モニターが開かれた。画面に移るのは慌てた様子のギンガさんと、ボロボロになってる煌さんの二人。下に来てるって、何で二人が?
『あ、そうだ。エリオ、キャロ? もう少し、もう少し踏ん張れる? 今、ナンバーズの……チンクと協力して、操られている子たちを助けようとしてるの!』
「……操られてるって、チンクさんって確か」
お兄ちゃんを連れていく様に指示を出した人……だけど、何で?
『詳しい経緯は後で説明するけど。今ナンバーズのチンク……5番の子から下の子たちが強制的に操られてて、多分召喚士の子も操られてるはず。それをなんとかしようって皆動いてる!』
『マジかよ。それならトーレとセッテ。あぁ、いや、3番7番は今気絶させてるから、後は他の場所の子達だけだ。プランは?』
『……大本をなんとかしないといけない。だけど、必ず勝機はあるはず、4番を止めれば、皆解放される!』
画面の向こうで煌さんとギンガさんが話してる。エリオくんもその言葉を聞いて、安心した様子で。
『時間稼ぎをすれば良いんですね!』
『うん! エリオ、キャロ、出来る?』
『「はい!」』
……やっぱり操られてたんだ。だったら……。
「フリード、ヴォルテール! 時間いっぱい、頑張ろう!」
「「■■■■■■■■!!」」
二騎が力強く答えてくれた。ゴールがわかったのなら、まだまだ踏ん張れる。だから、頑張るんだ!
――side時雨――
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。何あれ何あれ? 何か空が割れたと思ったら見知った声で念話が飛んできたって奏が言ってるけど……。
いやいや、冗談でしょう? 魔力が入り乱れすぎてわからない以前に。あんなの人の魔力じゃないって。
はやてさんに相談しようにも、空が割れるとか言う異常な状態に、他の隊員を落ち着かせる方向で忙しそうだし……。
奏は空に罅入れた人物と連絡を取ってるだろうし。他の隊員達も浮足立ってる状態だと一気に押し込まれかねない。ゆりかごの砲門を担当してるガジェットⅢ型が本当に厄介だなー。仕方ない。
魔導運用に反しそうだけど、私は水を流して、それを固めて貰うだけだしセーフだと信じよう。
「紗雪!」
「何時でも、撃ってくれたら私が合わせる!」
ほんっと、心強いねあの遊撃手は。ガジェットを足場にしながら次々と、的確に短刀をガジェットの動力元に挿してAMFを解除。更に内部にスフィアを展開、離れると同時に起爆って言うのを繰り返してるし。偶にチャクラム投げて牽制したかと思ったら、背後取って刻んだり……凄いわほんと。
お陰で空戦部隊が動きやすそうにしてるし。流石忍者。的確に音もなくやってくね。
さて。
「ディーネ。やろうか」
『はい。お手を拝借。いざ!』
梓弓となったウンディーネを手にして、集中、同時に魔力を展開。弓を持つ左手に篭手が生成され、手首の部分に弓が連結。同時にその形態を大きくして行き、今では身長の三倍程度の大弓となった。
『調律開始』
ウンディーネのその声が響いたと同時に、大弓の上下の弦巻が音を立てて調整を開始し張りを調整。
そして。
「参ります」
息を吐いて、弓を打ち起こす。瞬間呼吸を止めて、一気に引き分け絞る。
『弾頭装填。カートリッジ排出』
弦の鳴る音が最大に達した頃に、透明とも言えるほど済んだ水の矢が現れ装填される。4発薬莢が落ちると共に、装填された矢が大きく、そして収束されていく。
同時にカートリッジを使ったことにより、更に張力が増す。ギリギリと弦を引く指と腕に負担が掛かる。が、歯を食いしばって耐える。
思い出すのは少し前の二機からの連絡。優夜と煌の持つデバイスの二機からこう連絡が来た、目的は達成、されど満身創痍、と。
そりゃそうだ、あの二人はブレイカーの直撃を受けているにも関わらず、目覚めたのも一番最後なのに、それでも体に鞭打って参戦しているのだから。
そして何より依頼されたことをきっちりこなして居るんだ、私だって!
遠くに見えるガジェットⅢ型に狙いを見据えて。
「いざ」
離れた。
同時に空気が破裂するような音と共に、空気を揺らした。その速度と、水の矢を用いた事により周囲には青い霧が生じる。
残心をしている間に放った矢が狙ったガジェットⅢ型へと直撃。
そして、息を吸い、吐く頃には白い吐息が漏れた。
「……流石」
なぜなら、放ち砕けた水が、各場所へ張り付くと即座に氷結、凍りついた部分が一瞬にして砕けてしまった。それは周囲のガジェットのみならず、矢が進路上にあったゆりかごの装甲をも砕き、内部を露出させた。
いやー……私も人のこと言えないけど、あの子水があったらそこから凍らせて砕くって言う選択肢を取れるって辺り、ホント凄いよね……。
今は煌というか、着火マンが居ないからそこまでだけど、凍らせて一気に熱した時にはもっと砕くだろうし、凄いよね。
え? 私だって優夜がいれば、優夜の操る風に大量展開させた矢を乗せて、操作するって言うことも可能だし。逆に優夜が巻き上げた水を使って、叩き付けるということも可能ですし、えぇ。魔力変換水って便利なんですよ、えぇ、本当ですよ?
「え、あ、開いた? 待って。震離ダメ、行っちゃダメ! 待って!!」
突然悲鳴のような声をあげる奏に驚く。その声と共に空の罅が大きく割れた瞬間、大きな魔力を持った何かがゆりかごの私と紗雪で空けた穴へと入っていくのを確認した。
「奏、どうしたの?」
「……別れが辛くなるからって、ごめんねって、そう言ってた……だから、追わないと……ッ!?」
奏が踏み出そうとした瞬間、突然ゆりかごの上部区画より砲撃を放たれ咄嗟に防ぐ。今までⅢ型や空戦型とは違う、魔導士のような砲撃。
誰がと考えてその砲撃を放った元を見て直ぐに納得し、困惑した。
カートリッジを装填した杖を持ち、人の上半身を模した機械の体、そして下半身には移動をスムーズに行うための浮遊ユニットの代わりのガジェットⅠ型を装備した歪な新型が大量に展開していた。
それに合わせて私達が空けた穴にはガジェットⅢ型が敷き詰められるように集まり、レーザーの弾幕を展開。
「奏、追いたい気持ちは分かる。だけど、今私達がここを抜けたら……分かるね」
「……うん!」
ごめんね。直ぐに追わせてあげたいけど、また新型……それも知らない動きをする者が現れたというのは私達にとってもショックだし、何より人のような攻撃をするのが現れたというのは戦術的にショックは大きい。だからまだ行かせるわけには行かないんだ。
「紗雪はそのまま有象無象の排除、私と奏で弾幕展開して牽制! はやてさん!」
「もちろんや! ミッド航空部隊、今一度勇気を見せるときや、行くで!」
「「うぉおおお!!」」
フェイトさんが響を倒した映像のお陰で活気は戻りつつある、が……新型の度合いによってはまたひっくり返る可能性が高いし。
何より……今の砲撃、気のせいじゃなければ……いや、まさかそんな。無い無い。基本的によっぽど適正がない限り発動に1分近く掛かるんだ。いくら新型と言えどそんなはずはない。イレイザーなんて、そんな馬鹿な話があるものか。
それにしても……既に先行組……なのはさん達が突入してから割と経ってるけど、内部の情報が全然流れてこない。響の現状もそうだ。フェイトさんの一撃の後どうなったのかわからない。後追いの突入組もガジェットに阻まれてるせいで中々進めないみたい。
それが本当に焦れったい。内部侵入し易いように穴を開けたけど、それは第三者が侵入に使ってしまったし、新型は出て来るし。中々上手くいかないなって。
『こちら楠舞ー、こちら楠舞ー。ナンバーズの4番を見つけ次第、しばいて欲しい』
……うん? 煌からの通信を受けて首を傾げる。無事だったんだねと思うよりも先に内容を聞いても意味が分からない。ナンバーズの子達は基本保護だけど何で4番だけ?
『どうも、地上に降りてる他のナンバーズを暴走、召喚士の子を精神操作したらしくて、その操作をしたのが4番らしい。更に現在他のナンバーズを抑えるためにフィフスナンバーの子……いや、チンクが現在こちら側に手を貸してくれてる。
加えてどこから出てきたのかわからんが、人型が乗ったガジェットⅠ型が出現。並びに、イレイザーの使用を確認、警戒を』
……やだー、最悪な予想が大当たりー。間違いなく殺傷設定だから、障壁も何も無しで直撃した日には何も残らず消えるなー。やだなー。
「了解、そちらも気をつけて」
『あいよ。何とかして優夜を回収したいが手が足りねぇ。最悪だ、すまんな』
「いいよ。気にしないで」
申し訳なさそうにしている煌の顔を最後に通信が終わる。
チクリと、胸が痛くなるけどぐっと堪える。少し前に嫌な連絡が入ったことが関係してる。
准尉率いる小隊3組が何者かの手によって撃墜。全員気絶している、と。
4人で1組の計12人。そして、その小隊が居たポイントと、優夜が居たポイントと一緒なんだよね。元三佐にやられたのならまだ良いんだけど……。
どうも嫌な感じがする。
怪我がなければ、と思うけれど。相手を考えると難しい事は分かってる。だけど、それでも無事を願わざるをえない。
でも、今は目の前のことに……親友の1人がおかしな動きをした以上、何とかしないといけないんだ。
それにしても、罅割れた空が徐々に戻っていくのは……すっごいシュールというか、違和感がすごいなぁって。
――sideチンク――
「IS発動、ランブル……デトネイター!!」
迫りくる翠光の弾幕を躱しつつ、オットーに弾幕を展開し放つ。が、オットーに届く前に撃ち落とされる。
まさか、模擬戦以外で……実践で妹相手に本気で闘う日が来るとは夢にも思わなかった。
暴走しているとは言え、やはりオットー、そしてそのIS、レイストームはやはり厄介だ。
タイプセカンド……いや、ギンガの妹と、その相方、ノーヴェやウェンディ、ディード達を入れているプリズナーボクスを展開しつつ、私を近寄せない為の弾幕展開に、自身を守る障壁、プリズナーシェルの三重展開。
模擬戦でもしなかった高負荷のプリズナーに、限界一杯の弾幕展開。早く抑えなければ、オットーが保たない。かと言って、破壊力ならば私が上だが、取り回しに関してはあちらの方が上だ。
……やはり、リスクを惜しんでは姉の名が廃るな。妹を救うためとは言え、こうして手をあげる姉を許してくれ。
しかし、こうして考えると私もヌルも変わらないな。奴と同じように妹に手を上げているのだから。
さて。
自分のISの爆炎に合わせて距離を詰めているが、もう少しだな。何とかして意識を刈り取れば、ギンガの妹達二人が解放される。そうすればおそらく更なる連携が取れるだろう。
『チンク! 他の姉妹の子達を操ってる人がどこに居るか分かる?』
瓦礫の影に身を潜めながら、ギンガからの音声通信に応える。
「予定ではアジトに待機、だったのだが、通信を受けた時知らない背景をバックに映っていたからアジトには居ない。おそらく……」
『もしかして、ゆりかごに!?』
「可能性は無いとは言えない。すまない、あまり役に立てないな」
『ううん。あともう一つ。人型の乗ったガジェットについて弱点とかって』
「人型? 多脚Ⅳ型の事か?」
『ううん、杖を持って、人の上半身を乗せたⅠ型の事なんだけど?』
「……なんだそれは? 私は……知らないぞ?」
声が震える。私が知ってるガジェットの大まかな型は4つある。カプセル状のⅠ型。全翼機のⅡ型。大型のⅢ型。そして、プロトモデルでもあった、多脚のⅣ型。
だが、ギンガの言う人の上半身の乗ったⅠ型と言うのは知らない。その上杖を所持? 何だそれは?
『今、煌さん……援軍の人に任せて連絡しているんだけど、今までのガジェットに比べて、遥かに強力になっているから。何か弱点があればって』
「すまない。私もそのタイプは始めて聞いたんだ。本当に、済まない……ッ!」
悔しさで食いしばる歯に力が入る。
いつからだ? いつから、私は切り捨てられていた? いや、私達は見限られていた?
妹たちを暴走させたのも予定通りなのか? だとしたら、だとしたら……!
「ドクター。クアットロ……ッ!」
叶うのなら妹たちを暴走させたクアットロに一撃を与えたい。だが、今は……今は。
「オットー、必ず助けるぞ! 行くぞ!」
両手にナイフを展開して、今一度オットーめがけて飛び出していった。
――side響――
ぶち抜かれた穴から下のフロアを目指して移動を開始してから割と経った……んだけど。
見栄を張るんじゃなかったなぁって。
魔力ダメージで撃ち抜かれた、とは言え。やはり体は正直らしく、今更になってガクガクと震えが来やがった。
いや、そもそもこのダメージって、あのヌルとか言う女の子と戦ったときのダメージなんじゃないか?
その辺の壁に寄りかかって呼吸を整える。このまま座り込みそうになるけど、そうしたら立てなくなるし不味い。下のフロアのガジェットの射出口を破壊しに行くんだ。そう、約束したんだ、俺は!
「あ、居た」
「……うん?」
真上から声が聞こえて思わず見上げる。そこにあったのは水色の髪の生首が壁に垂直に生えて。その隣には茶髪の髪の子の首も添えられてて。
うん。
何か久しぶり? に自分の意思で動いてていうのもなんだけど。
緋凰さんってば、幽霊とか怪談話は平気なんですけど……作り物系って、ダメなんですよね。だって、恐怖を煽るように作られてるわけで、そりゃ怖いわけじゃないですか?
えぇ、何がいいたいかと言いますと。
「ヒッ……あああああああ!?」
「「ああああああ!?」」
ゆりかごの通路内で絶叫3つ響きました。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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