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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第66話 決着、あなたを慕う事

――side煌――

「いい加減、落ちてくれると助かるんだが!?」

「貴様こそ、墜ちろ!」

 空で飛来するブーメランを交わしつつ、攻撃を叩き込む。未だに二人を……ピンクの子と、格闘の奴を倒せずに居る。

 いやいや、ホント……まだまだ己は未熟なんだと改めて認識したよ。人の振り見て我が振り直せって訳じゃないけど、さっきまではただガムシャラに戦闘してたし。ギリギリで被弾こそしなかったものの……情けないな。

 親友が振りたくもない剣を振ってる。そのことに激昂して真っ直ぐ攻めすぎてた。何を馬鹿なことをしてるんだ俺は。

 フェイトさんが、アイツを抑えに掛かった。それを信じないなんて情けないにも程がある。現にあの人は響を打ち破った。いつかのリベンジを兼ねた上で、だ。
 本当に俺はまだまだ未熟だ。

 だけど今は違う。さっきまでの痛みを感じない。アイツが無理やり戦わされていると言う憂いはもう無い。不思議なほど集中している。滾る心が、今はもう落ち着き、静かに燃える。されど、興奮はしている、だが同時に恐ろしく冷静でもある。
 
 俺は俺の役割を果たそうとせず、遠くの親友を心配して無様に負ける所だった。

「おおおおおお!」

 格闘の奴が、高速移動からの大振りの拳を打ち下ろす。先程までの俺だと間違いなく反応出来なかっただろう。だが、今の俺ならば。

 フェルを上空へと投げ、その一打をかいくぐる、その勢いのまま背後に回り。

「フェル。ロード」

『Jawohl.』

 上空に放られているフェルがカートリッジをロード。

 満身創痍のこの状態。敵の一撃は致命と成り得る、同じ愚を繰り返すわけにはいかない。

 この短い戦闘の間にこいつら二人のパターンは大体掴んだ。格闘型が直接攻めてくる時。必ずピンクの奴は、手持ち武器を投合してくるんだと。
 それならば、と両手に魔力を込めて熱く滾らせ、極限まで集中する。
 瞬間的に俺の感覚から音と色が消え、灰色の世界に染まる。そして、その動きが緩慢になる。
 響のようにはいかない、だが俺にもその境地に片足を入れることくらいは出来る。

 そして見えた。俺を捉え、迫り来る二本の刃を。

 ゆっくりと近づく刃を掴み、火を灯して投げ返す。

 ぼたぼたと鼻血が出る。限界に近い集中力の影響なのだろう。やはり俺ではこの世界に長くは居れないんだと。だが、そんな事はどうでもいい。既に勝利への一手を撃ったのだから。

「爆ぜろ」

 世界から音と色が復活し、通常のスピードになる。こちらに向っていた刃が戻ってきていることに気づいた。だが、もう遅い。

「ッ!?」

 恐らくあの子の視点では、何故か軌道が曲がって、突如戻ってきた刃に見えるのだろう。だが、それは間違いだ。なぜなら……。

「ッ、避けろセッテ!!」

 投げ返したにも関わらず、その刃を手に取ろうと、伸ばした瞬間、間近で爆発。衝撃で地面へ向けて落ちていった。
 そして、直ぐ様背後に居る格闘型の背中に乗るように、蹴りを放って一度距離を取る。

『チャージコンプリート。行けます』

 宙を舞っていたフェルを手に取り、その形態が変わる。双刃の斧が、その刃を1つに束ね、赤い炎の刃が展開、巨大な刃を持った鎌へと姿を変えて。

「コレで決着を着けよう!」

「ライドインパルス!」

 互いに高速で飛翔、肉薄し互いの攻撃が奔る。ビルの隙間を縫いながら、高速戦。お互いの攻撃が掠め合い、傷が出来ても止まらない、否。止められれば俺が負けてしまう!

 だが……。

「一つ聞きたい!」

「なんだ!」

 自然と頬が緩んでくる。頭がおかしくなったかと思われそうだが、そうじゃない。一際大きく弾いてもう一度距離を取って互いに見合う。

「俺の名前は、煌! 貴殿の名前を聞きたい!」

 一瞬驚いたように目を見開いたと思えば、わずかに口元を緩めて。

「ナンバーズ、サードナンバー。トーレだ」 

「……トーレか。さっきの子はセッテと言ってたな。そうか」

 ここまでの戦闘で疲弊した体を落ち着かせながら、噛みしめるようにその名を呼んで。

「ならばトーレ。この一打受けてみろ。正真正銘最後の一打だ」

「……来いッ!」

 ギリギリと互いにプレッシャーを掛け合う。そして、その顔はお互いに歯を見せながら、歯を見せながらニィっと笑う。

 合図があったわけではない。だが、トーレが踏み込むと共に、残像を残しながらこちらに接近してくる。今までの中で一番の速さだ。

 目を閉じ、心を落ち着かせて。

 今なら、落ちる水の一滴をも感じ取れる。

 赤い炎ではダメだ。火力が足りない。青い炎には届かない。ならば―――

『Zündung.』

 刹那、フェルの展開してた刃が白炎と共に静かに燃える。目を凝らさねば見えぬほどの薄い炎。だが、その火力は。

 受けて確かめて見ろ!

「「行くぞ!」」

 開眼と同時に踏み込み、高速で鎌を振り抜く。トーレは残像と共に自身の体を螺旋状に回転させ、体を1つの砲弾として突っ込んでくる。

 互いの一撃がぶつかり合い、一瞬拮抗する。鎌の切先と、トーレの展開する手首のブレードが鈍い音と共にぶつかりあう。
 そして、互いにすれ違うも、直ぐに追撃。高速で攻撃と防御を繰り返す。お互いに残像が残るほどの速度で、薙ぎ、払い、突きに対して、蹴り、膝、拳でトーレも対抗する。
 いくつもの型を一瞬で振り、火花を散らす。

 だが、先に動いたのはトーレだった。この一瞬で、こちらの動きを学習したのか、僅かな隙に今まで使わなかった肘をねじ込んできた。交わしきれずに、鳩尾に突き刺さり、たまらず口から血を吐き出した。

「私の勝ちだ!」

「……まだ、だぁああ!!」

 その腕を掴み、離れないように渾身の力で掴む。そして、空いた手をトーレの胸に添えると共に。

「最初に教わって、練度を高めたこの一撃。受けろ」

 トーレ目掛けて、全身全霊の一撃を―――衝撃を通した。
 血を吐き出しながらも、まだ目は死んでない。 
 
 互いに反動で空から落ちる。

 それでも目を離す訳には……と想ったが、既に向こうは意識を無くし、瞳に意思が宿っていないのが見えて。

「……俺の勝ち、だ」

 拳を振り上げたかったけど、もう体が言うことを聞かない。あぁ……この後ゆりかごに行かないと……あ、その前にFWの皆の援護に……行かないと……。

 それで、その後は……ゆりかご行って、雪達の援護に……。


――sideチンク――

『チンク姉! トーレとセッテがやられた!』

「……そうか」

 焦りを含んだオットーの通信を受けて小さくため息を吐く。あの二人の目的は地上本部に残る戦力の駆除並びに、潜入しているドゥーエの回収が目的だった。

 同時にナンバーズとしての力の誇示も含まれている。ゆりかごにはヌルが聖王の器と共に、ゆりかごに侵入したエース・オブ・エースや、お嬢を殲滅。

 だが……ここまでだな。

「オットー、悪いがここで降りるぞ。皆にそう伝えてくれ。皆で投降すると」

『え、チンク姉、何で!? まだここから立て直すことは……』

「立て直したところで。また身内(・・)から撃たれるのは嫌だからな」

『! やっぱり……あの怪我はヌルが』

 あまり感情を出さないオットーが悔しそうな声を上げる。

 ビルの瓦礫に身を潜めながら、ギンガの動きを伺う。ゆりかご内部の響とお嬢の対決を見て、勝負が決した時静かに涙を流していた。私にはその涙の意味が分からない。

 ただ、悲しくて泣いたわけでもなければ。辛くて涙したわけでもなさそうだ。

『分かった。皆にはなんて説明―――』

『ったく。チンクちゃんも結局使えない屑でしたか』

「クアットロ!?」

 音声通信だけで、私とオットーの通信に介入してきた。音声は通らず、オットーの姿は見えるがあちらも突然の通信に困惑している様子だ。そして、クアットロのその様子はいつもの飄々としたものではなく、明らかに不機嫌と行った音色だった。

『どいつもこいつもホントに使えない。トーレ姉様も、セッテちゃんも負けちゃって。留守を任せていたシュバルツも足止め1つ行えない。使えないわぁ』

「私達の読みが甘かった。その結果がコレだろう!」

『だ・か・ら……知ってますぅ? チンクちゃんは丁度治療していたせいで仕込めなかったけどぉ……他の姉妹達、地上に降りて今にも負けそうな屑にはとある機能が入ってましてぇ』

 じわりと、嫌な汗が流れる。とてつもなく嫌な予感がする。

『さぁ、死ぬまで戦いなさい』

『ぅ、ぁぁああああ! うあああああ!!』

 画面の向こうで、突然頭を抱えて苦しそうな声を上げている。そして、オットーが展開しているモニターには地上に居る他の姉妹の映像も見えるが、皆頭を抱えて苦しんでいる。

「オットー!? クアットロ、貴様何をした!?」

『別に何も? あるべき形に戻したまでよん。死ぬまで闘う。私達ナンバーズの目的の為に、ね? あ、ついでにルーお嬢様もぉ、甘い言葉に揺らいでいたので……ついでにちょっと弄りましたぁ』

 一瞬何を言っているか分からず。動きが止まってしまう。

 そして、理解をした瞬間。

「貴様ぁあああああ!!!」

『アハハハ、さぁ、精々時間稼ぎになりなさい。愚妹共が』

「待てクアットロぉおおお!!」

「チンク!? どうしたの!?」

 通信が途切れたと同時に、近くを捜索していたギンガが寄ってきた。コイツは……私が正気でなければ襲われていたのに。

 だが……。

「すまないギンガ。私に力を貸して欲しい。今各地に居る妹達が強制的に戦闘を行うよう操作(・・)されてしまった」

「……操作って、そんな無理矢理に!?」

 一瞬わからないと行った様子が一変、目を見開いた。

 クアットロの愚行に思わず近くの瓦礫を殴りつける。最初からこのつもりだったんだと今更ながら気づいた。

「やっぱり……スバル……えっと、私の妹とその相棒とは繋がらないけれど、もうひとりのエリオとキャロとは繋がったの。召喚士の女の子が突然暴走したって!」

「ルーテシアお嬢様か。セカンド……いや、スバルと言ったな。そちらはオットーが通信を途絶していたはずだ。済まないギンガ、ルーテシアお嬢様を止めてもらえないだろうか? 私はオットーを……こちらの管制を止める!」

「……」

 何かを考えるように、腕を組むギンガ。いや、考えてるのは恐らく……私が信用ならないのだろう。だが、今の私に信用を得られる方法はない。しかし、他に方法も……やはり1人で行うしか。

「いいわ。私がエリオとキャロの元へ向かう。でもその前に1つ。さっきの質問に答えてもらっても?」

「……そんなことでいいのか?」

 予想外の言葉に思わず首を傾げてしまう。だが、それで信用が得られるのならば。

「……目を合わせただけで会話が出来たということが1つ。そして、ヌルの盾にされた時。そのまま私ごと振り抜けばヒビキは勝っていた。だが、それをせずに私を庇い、逆に盾になった。

 その際に言われたんだ。必ず救うからと。少し待ってくれ、と。

 今の今まで殺すつもりで戦っている相手に、だ。どういうわけか胸が暖かくなった、そして、倒された時。いつ死んでもおかしくなくて、それで連れて行ったんだ。
 コイツを死なせては行けないって。そして、ドクターならば確実に救えると考えて」

 そこまで言うと。不意に頭に手を乗せられ、撫でられた。

「……ふふ、響らしい。分かったわ。貴女を信じる」

「コレでいいのか?」

 あまりにあっさりと頷くギンガを見て、逆に怪しんでしまう。

「えぇ。貴女のことは伝えておくわ。ブリッツ、私の回線をチンクへ」

『YesSir.』

 ローラーブーツに内蔵された紫のクリスタルが点滅すると共に、ギンガと通信が繋がったのを確認して。

「何かあれば連絡する。ギンガ、お嬢様をよろしく頼む」

「勿論、チンクも気を付けてね。それじゃあ!」

 ノーヴェと同じエアライナーを展開して、お嬢様が居る場所へ走り去っていくのを見送る。

 さぁ、私も急ぐか。先ずはオットーを気絶させれば、セカン……いや、ギンガの妹達が解放される。その後ノーヴェ達を助ければ、何とかなる。

 行くぞ!



――side優夜――

『インフェルノから連絡がありました。対象二人を撃墜。煌自身も倒れた、と』

「……さすが、やっぱアイツすげぇなぁ」

 近くにいないからこそ、素直に称賛の言葉を漏らす。別にアイツを認めないわけじゃない。俺の実家の流派をベースに、様々な動きを合わせて我流の道を突き進むアイツは、心から敬意に値する。
 
 そして、何よりいちばん身近な超えるべき壁だ。

 槍、棒、剣、弓、忍、体、これらの術をバランス良く取り入れて、なおかつ対応出来うるという事は素直に凄いし、やはり才能なんだろうとさえ思う。
 接近戦しか出来ない、とアイツは言うけど。その意味は、自身を派手な見せ札として戦場で目立たせる為だしな。

 だけど、アイツの本質を考えるとそれは大きな間違いだ。普段が騒がしいけど、アイツの根元は静かに燃える奴だ。俺なんかの数倍も冷静なやつだし。

 さて。

「……アイツの配下の管理局員の数は10人。ゴリラと付添合わせりゃ12人。そして、元三佐を入れりゃ13人、か。俺にやれるのかね?」

『ならば諦めますか? 数の利では不利ですし』

「いや」

 そんなわけあるか。と続ける前に、シルフが嬉しそうに笑う。デバイスの身なのに、まるで人のように。自然と。

 同時に自分が恥ずかしくなる。デバイスとて、武器が心を持つことを、なのに。と捨てたことを。だからこそ。

「全魔力を捧げよう。風は嵐に、そして嵐は――」
 
「『神風へ』」

 瞬間。覆ってた瓦礫が、ビルが空へと舞った。空で待機していた13名には奇跡的に―――いや、敢えて当てなかった。魔力の含めない純粋重量のそれは当たれば怪我をさせてしまう。
 それではダメだ。それでは魔法の意味がない。非殺傷を用いる必要が無い。
 空を舞う瓦礫を足場に、直線的に跳ねる。一度、二度、三度と。途中で激突する者を瓦礫の降り注がない場所へと弾き飛ばし、四度、五度、六度と繰り返す。
 一三対一。この絶望的状況下で俺がするべき事は頭を冷静にさせる事。

 だが、冷静になれる訳がない。数の不利に、仇とも言える敵、昔親友を泣かした屑どもがいて、冷静になれるか。

 宙へ舞った瓦礫が地面へ落ち始める。それを踏まえて、七度、八度、九度、そして、十度目を繰り出す。
 振るう双槍は、もはや何人にも止められず。今ならば寸分違わず相手の急所を撃ち抜ける自信すらある。暴風雨のように降り注ぐ瓦礫は、周囲で土煙をあげている。

 全ての力を以て、敵を叩く。

 残り三人。

 後の事など考えない。茶髪のおさげで小柄な、トバイアスに狙いをつけて。右の槍から薬莢を三本吐き出させる。牽制など考えない。狙いは常に一撃必倒。

 故に。

『SturmSpirale.』

 魔力を風に、風を螺旋に。大きく矢を射るように構えた右の槍を突き出すと共に踏み込み弾き飛ばす。間髪入れずに、左の槍から薬莢をもう三本吐き出させる。同時に体が悲鳴を上げると共に、増大した魔力が血管を伝って体内で荒れ狂っていた。だが、それがどうした? 元々負傷を押して出てきたんだ。コレくらい訳はない。

『OrkanSpieβ』

 風を纏った翠の魔光。暴風雨のような槍の連続刺突が、青髪の大男。アチソンに突き刺さる。十度、二十度と瞬間的に放たれたそれが終わると共に、思い出したかのように大男が空へと舞う。ブチン、と何かがちぎれる音と共に、右の視界が赤く染まり、どろりと口から何かが吐き出る。
 しかし、それでも止まるわけには行かない。最後の1人を見定めると共に、二槍を力の限り、鋭く早く振るうと共に、風の刃を生み出し、最後の1人へ撃ち放つ。
 重ねられ1つの翠の魔光となったそれを、最後の1人は、冷気の盾を以てそれを止めた。翠の魔光が防がれ、飛散し風となる。大気の埃を、瓦礫の煙を吸ったその盾は黒ずみ、汚れていたが、その一撃を受け止めたことにより罅が入り、細かい氷が地へと落ちる。

「驚いたわ、ここまでやる、なん―――」

 先の一撃が受け止められることなど想定の範囲内。そうでなくては困る。俺達を、アイツを苦しめたお前がその程度の筈がない。最後の薬莢の一発を吐き出し。盾の向こうの彼女を―――アヤ・アースライト・クランベルを狙い定める。
 全てを乗せて、踏み込み加速をつけて、二槍を振りかぶる。氷の盾という強固な壁を前にただ一撃を構える。
 拮抗すること無く、相殺されることのない。一撃必倒を。

 空気が破裂する音と共に、全身から血が吹き出した。敵が殺すつもりで来たのなら、俺はそれ以上の不殺を以て貴女を討とう。全身全霊、正真正銘の一撃必殺を、不殺へ転身させたこの一打で。

「絶招、風籟」

『SturmZusammenstoβ.』

 狙い澄ました二槍が、盾を砕きその向こうの彼女の中心を捉え、衝撃を貫き通す。瞬間、彼女の体が吹き飛び、ビルへと衝突したかと思えば、そのまま貫通して次のビルへと叩きつけられた。
 遅れて貫通したビルが崩壊する。

 勝ったとは思えない。コレは不意打ちの果ての結果だから。

 負けたとは思わない。コレは全身全霊、魂込めた一打故。

 だからこそ―――

「まっすぐ故に道を誤ったんだな」

 瓦礫の雨の中で、ビルの壁に埋もれる彼女を見て、気を失ってるのを確認してから静かに目を閉じて、浮遊感がなくなるのを感じて、意識が途切れた。
 

――sideフェイト――

 斬撃の余波で崩れた下の部屋に落ちた響を、憑き物が落ちたように穏やかな表情で、左の頬を私のお腹に向けて、私の膝の上で眠る彼の頭を撫でる。
 ついさっき、花霞とのユニゾンを一度解除して、周囲警戒に当ってもらってる。流石に響を放っといて先へ進めむということは出来なかったし。

 何というか、我ながら無茶をしたと思う。響が攫われたと言うことで、熱くなってしまったのはある。二人(・・)から託されたと言うこともある。

 だけど、それ以上に……。

「……取り返せて良かった……ッ」

 自然と涙が溢れそうになる。響が負けた映像を見たとき、生死の境に居るのが直感的に分かった。下手をすれば処置を施したところで助けられないほど。だけど、巡り巡って彼は生きて、私達の前に立ちはだかった。
 なんて事を、と思ったけれど、それ以上に生きていて良かったと安堵出来た。

 そして、こうして無事に取り返せ―――

「泣かないで下さいフェイトさん。勝者が泣いてちゃ締まらない」

「ッ、ぁ、響!」

 ゆっくりと目を開けて、スッキリとした表情で私に微笑み向けてくれる。そのまま私の顔に左手を伸ばして、涙を拭って、頬に手を添える。静かにその手を取って―――

「ねぇ響。私は貴方に伝えたい事がたくさんあるんだ」

「はい。なんでしょう?」

「私は響の事が―――」

 そこまで言いかけて、私の唇に人差し指の腹をあてられて。

「かっこいい所を見せられ続けらているんです。俺にもいい所を見せさせて欲しいです。それ以上は俺が」

 未だ焦点が合わない瞳で、こちらを見上げる視線にドキリとしてしまう。

「フェイトさん。心から感謝を、ありがとうございます……その上で。俺はかつて心を折り、命を投げ出そうとしました」

「はい」

 彼が繋げるように。

「俺はきっと何も出来ないでしょう」

「……はい」

 少し悲しくなる、だけど、彼の言葉を途切らせる訳にはいかない。

「きっと貴女を悲しませることをしてしまう事があるかもしれない。事実俺はずっと側にいた人に気付かず、傷つけていた」

「……は、い」

 心がざわつく、だけどコレは彼の本心だから。

「そして、逆の立場ならば……俺は間違いなく、切り捨てていました。『1』を切り捨て、『9』を救うという考えを以て」

「……」

 あぁ、コレは……、いや。分かっていたことだ、分かっていたことなんだ……だから。耐えるんだ、私。

「だけど、貴女はそれを覆した」

「……へ?」

 声が震えてる。私の声も、響の声も。

「ドン底に、捕まって尖兵として使われているにも関わらず、貴女を殺そうと刀を向けた俺を、貴女は救ってくれた。
 俺には到底出来ないことを。貴女はやり遂げて……助けてくれたからじゃなくて、ただ純粋に俺は貴女に惹かれました。弱いこの身ですが、守りたい、と。心から共に居たい、と」

「……ぁ」

 思わず両手で口を覆ってしまう。カタカタと口が震える。情けない声が漏れてしまう。

「だから、だから……。貴女に伝えます。こんな俺ですが……貴女を心から慕ってもいいですか?」

 私を見上げたまま、涙を流してる。だけど表情は晴れ晴れしい響を見て、私はただ、ただ頷くことしか出来なかった。

 こんな私でいいのかな? 一度は貴方を疑った。嫉妬でいらない暴力を振るったこともあった。

 何より、貴方を救う為とは言え、全力の一撃を貴方に見舞った私なんかで……。

 だけど……。

「……は、い」

 頷くことしか出来なくて、伝えたい言葉も少しも言えなかったけれど―――

 半ば引き寄せるように彼を抱き起こして、背中に手を回す。間を置いてから彼の腕がこちらの背を回り、腰を回る。でももっと触れてほしくて、深く抱いてほしくて、ずっと貴方の体温を感じたくて、思わず身を捩ってしまう。

「響、呼び捨てで呼んでほしいな」

 そう言って目を閉じた。

「はい、フェイト」

 服と服が擦れた音の後、唇を重ねた。勢い余って歯が当たるけど……全然構わない。ギュウッと力を込めて抱きしめる。
 不思議だなと思う。お互いに歩んできた道は全然違うのに、今こうしてここで抱き合っているんだから。愛おしそうに私の髪を撫でる彼の唇を離して、名残惜しく啄んで。

「私はスカリエッティを捕まえる。今玉座にはなのはが、駆動炉にはヴィータが、そして私が上のフロアへ行く。だから―――」

「えぇ、恐らく下のフロアにガジェットの投下装置というか、恐らく管制している者がいるかもしれません。俺はそこに……花霞!」

「は、はい!」

 ……おっと、花霞? どうしてゆでダコ見たいに顔を赤くしているのかな? もしかして、もしかして……!

「花霞はそのままフェイトさ……フェイトと共に。俺は下を抑えたらすぐに追いますので。ですが、気を付けて下さい。ヌルと呼ばれる子は、恐らく……」

 一瞬考えるように視線を逸らす。これはなんだろう? まだ確証を持ってないから伝えるか悩んでいるのかな?

「多分、もしかしたら俺達の……多分モーションを知っている可能性が高いですので」

「うん、それは平気。響と紗雪が負けた映像からそれを推測してる。だから平気」

 あらま、と呟きながら目を丸くする響を見て、思わず笑ってしまう。

 けど、違う事も考えている?

「うん、響も気を付けて」

「はい、フェイト……もお気をつけて」

 ……眉間に皺が寄るのが分かる。それに気づいたのか、慌てたようにこちらを見て。

「え、あ……の。どうしました、フェイト?」

 この期に及んでまだわからないのか、とため息を漏らす。だけど言っていない以上わからないのも確かなわけで。

「敬語」

「へ?」

「敬語やめて欲しい」

「……ぁー」

 ポリポリと頬を掻きながら視線が泳いでいる。そして、しばらく泳がせた後。目を閉じて観念したように。

「……分かった。徐々に慣らしていくから、今はコレくらいで勘弁して下さいね、フェイト?」

「うん、よろしい」

 お互いに微笑みあって、響を落とした通路まで飛んでから。

「フェイト、花霞。お気をつけて」

「響も」

 一瞬で真剣な表情になり、私達はそれぞれ別れた。私はスカリエッティを捕まえるために、響はガジェットを止める為に。

 さぁ、ここからだ。私の目的は。
 
 
  
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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