| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第65話 空で煌めく雷光


――sideチンク――

『あたし達はオレンジと鉢巻を落とすけど、チンク姉は……』

「案ずるなノーヴェ。姉はギン……ファーストの相手をする。既に私の進路上にいるからな。直に接敵するさ。
 それよりも、だ。ノーヴェ、ウェンディ。お前たちの方こそ……」

 画面の向こうでノーヴェが心配そうな顔をしているが……姉としてはノーヴェとウェンディの方が心配だ。ここ数日、私の負傷の原因を知ってるが故にずっとヌルと戦っていた。盾にする必要は無かっただろうと。

 私がいくら気にしなくて良いと言ってもそれでもだ。他の姉妹に事の真相を伝えることを封じられても、尚。

『平気ッスよ。一応ドクターが動ける程度に直してくれたし。あ、後はちびっこたちの相手はルーお嬢様がしてくれるみたいっすから』

『僕が後方支援。ディードはノーヴェ達とセカンドと幻影使いと交戦する』

 ウェンディと、オットーがそう告げる。これ以上は不要だな。

「分かった。姉の心配よりも、皆、自分の心配を優先してくれ。ではな」

『チンク姉様もお気を付けて』

 最後にディードの声を聞いて通信が途切れる。

 気をつけて、か……。

 私は分からないんだ。ドクターの目的が、外部から人を呼んだことは分かる。管理局に恨みを抱いている者を味方につけて襲撃の情報を完璧に仕上げたのも、理由としては分かるんだ。いくら内部にドゥーエが潜入しているとは言え、限界もあったわけだ。

 だが、もう1人の老婆は……ライザの婆さんが分からない。ドクターとライザ、ヌル、ウーノ、クアットロの5人で何かをやろうとしているが詳細を明かすことは結局なかったしな。

 ヌルが私達の事を何とも思っていないということは薄々気づいていた。だが、まさか私を盾にするとは思わなかったわけだが。

 妹達には悪いが、ここまでだと思った。事実あの時のヌルの拳は完全に殺すための、破壊するための連撃だった訳だしな。

 しかし、私は救われた。目的にも入っていない侍に、ヒビキに。

 様子を何度か見ている内に、シュバルツが言っていたな。コイツは敵味方関係なく救う男だ、と。

 そして、私は……負傷で済んだ。だが、ヒビキに関しては防御を抜かれ、ヌルの連撃を為す術もなくすべて受けてしまった。その際に命が消えようとしていたが……。何故か助けなければ、と考えあのようなことをしてしまったんだ。

 今までいなかったタイプの人間。だからだろうか、胸の内が暖かくなったのは……。

 私達3人が話せなくなったとは言え、私の負傷の原因を知っているのはもう一人いる。そして、2人で話して決めたんだ。もし、この戦が、私達が負けることになるのなら。その時は―――

「……タイプゼロ・ファースト。いや、ギンガと呼んだほうが良いか?」

「どちらでも。チンク……でよかったよね?」

「あぁ、私の名だ」

 ノーヴェと同じ青いエアライナーを起動して、空に佇むギンガと相対する。ドクターからの命令は、ギンガとその妹。そして、プロジェクトFの子供を捕らえること。だが―――

「チンク。1つ聞いても良いかしら?」

「あぁ、構わない」

「なぜ、貴方が響を助けたの?」

 短く問われたその質問に、一瞬言葉が詰まる。

 偶々だ、そう答えようと思ったのにそれを言うことができなかった。その代わりに。

「……それは私に勝ってから聞くことだ」

 12本のナイフを展開し、何時でも放てるように固定する。

「……分かった。私が勝ったらちゃんと聞かせてね?」

「あぁ、約束しよう。往くぞギンガ! IS発動!ランブルデトネイター!!」

 勝っても負けても、その頃にはきっと答えは出るだろうから。今は役目を果たそうではないか!


――sideギンガ――

 12本のナイフが投合……いや、射出されるのを、弾道を見切って回避。そのうちの何本かは私の直ぐ側で爆発される。

 だけど。全身にバリアを張りそれを回避。コレは前に戦った時に見ていたことだ!

 ウィングロードの展開数を増やして、チンクへと至るルートを絞らせないようにする。ブリッツの高速移動と撹乱を加えながら、チンクの乗っているガジェット目掛けて、踏み込んで!

「悪いなギンガ。ナイフだけ、と思うな」

 リボルバーナックルの一撃が当たる直前に、ガジェットを簡単に乗り捨てた。何故? と考えるよりも先に。乗り捨てられたガジェットが淡く輝きだして―――

「IS発動、ランブルデトネイター」

 瞬間、目の前で閃光が瞬いた。

 だけど!

『Tri Shield!』

 カートリッジを使用して、強度を高めた盾を展開し、コレを防ぐ。

 なるほど、鉄というか、爆発できるものはナイフだけではないと、そういうことね。

 再び距離が開く。こちらはウィングロードの上に、チンクは道路の上に立って、互いを見る。

 何というか、こんな時に不謹慎だけど……頬が緩んでしまう。チンクとの勝負はシンプルで分かりやすい。近づけば私の、離れればチンクの領域。一撃、二撃で勝負が決するわけではないけれど。それでも分かりやすいんだ。

「……ギンガ。お前たちがこちら側にいたら、良い姉妹になれていたのかもな」

「それは違うよチンク。まだ私達はやり直せる筈よ。人を救おうとした貴女と、助けようとしたあの2人も、まだ!」

「……そうか。だがな、私達にもやらねばならぬ事がある。それが人に仇なす行為であってもだ」

 静かにチンクが右腕を上げると、背後に16本ものナイフが出現。その切先がこちらを向いているのが分かる。それに合わせて私も、チンクへ至る道を多数展開させる。

「そう。ならば止めます。止めて話を聞きます!」

「来い!」

 瞬間ナイフがこちらに向って射出される。それを射撃魔法で迎撃しつつ、防御体制。流石にさっきの爆発で少し削られてしまった、正面から往くのは分が悪すぎる。
 だからやることは1つ。派手に爆風を起こしながら、煙に紛れて移動を開始。そして、彼女の背後付近に回ってから。飛びかかり、左足を前に、飛び蹴りの姿勢へ。

「はぁ!」

「甘い!」

 ッ!? 完全に背後からの奇襲だったのに、コートを翻して防いだ!? あのコート硬すぎる!! 即座に蹴りから、拳に切り替えて、右拳をチンク目掛けて叩き付ける。

 しかし、届く前にその拳を、手首を取られてそのまま―――

「甘いと言っている!」

「きゃああ!?」

 投げられ道路へ叩きつけられる、肺の空気が外へ吐き出してしまう。

 直ぐに体制を立て直して、少し反省。

 ……なるほど。中距離型だと私の認識が甘かったということね……。問題はあのコート。間違いなく、加速からの一撃を叩き込むには、あれで防がれてしまう。次に下手な大振りは捉えられて投げられてしまう。
 今の一打だって、もう少し遅ければナイフを射出することが出来たはずだ。それが出来なかったというのは、奇襲が上手く行ってたからだと……思いたいな!

 さぁ……コレは、不味い……かな?

 そう考えていると、私の近くで突如モニターが展開して……え?

「……嘘?」

「強いというのは知っていた、だが……ここまでだったか!」

 チンクの側にもモニターが展開されている。そして、同じ物を見ているんだろう、だからこそお互いの顔色が悪くなった。



――side優夜――

 パチリ、と目が覚めると……そこには近すぎる天井、というか天蓋があった。

『生きておりますか、アリス?』

「……なーんとかね」

 深いため息が漏れる。現在地はビルの瓦礫の中で横たわってる。幸い大の字になって横になっているせいか、何とか人1人入れるスペースが確保されてることかな。

 ズキズキと全身が痛むのが分かる。束の間、意識を失っていたらしい。戦いの中で気絶するなど、本当に随分と久しぶりのことだった。

「何分経った?」

『2分程。速い回復で驚きましたよ?』

「防御は薄いが打たれ強さはあいつらにも負けないよ」

 ケラケラと笑って応えるけれど。正直思ってた以上に最悪な状況だ。脱力した全身に、意識は戻っても力は戻らない。それほど打ちのめされていた。体のあちこちに魔力弾の被弾跡に、背中のダメージ。

 決して軽くはない。身体を動かそうと思えば軋み、痛みが奔る。願わくばこのまま眠り直したい……が。

「……アイツは何処にいった?」

『まだ上空におります。申し訳ない、接近していたことに気づいておりましたが、アリスを撃つとは考えておりませんでした』

「気にすんな。あのゴリ男と、その付添はあんなんだしゃーない。元三佐のファンクラブに入ってるくらいだしなー」

 元三佐が裏切った日から、アイツの周辺を調べて驚いたっけなぁ。ファンクラブがあるのは分かってたけど、それに入ってる人の数と、少し調べただけど出て来る人たちを。その中に懐かしいけど嫌な名前が入ってるって気づいた時には笑っちまった。

 まぁ、いいさ。今更味方ごと撃たれたって気にしない……訳は無いけど、今はそんなことよりもだ。

「シルフ。アイツが動いたら直ぐに追う。準備だけお願いしてもいいか?」

『はい、六槍から合体させ、二槍へと切り替えます。なので防御は期待されないで下さいね?』

「あぁ、勿論いいさ。元々防御は苦手なんだ。次は決める。必ず叩く」

『えぇ、やってやりま……お待ち下さい。全チャンネルで映像が流れてきます、出しますね』

 なんだろうと考えながら、首を横に向けて、出された映像に目を通して……。

「……最悪だな」

 その映像を見て、ふつふつと怒りが湧いてくる。酷すぎる上に……あんな望んでいない事をさせられてるなんて、考えたくもなかった。

 だけど、シルフだけは……。

『……アリス。この黒髪の人は一体?』

「ん? あぁ、そうだったな。緋凰響。俺達の将だよ……今は操られてるせいで悲しい太刀筋だけど、普段は綺麗な筋のやつなんだよ」

『……ヒオウ、ヒオウ。かつての記憶データを失った私ですが、その名前とあの方の姿が……懐かしくて、なんと言えば良いんでしょうか? 不思議な気持ちになります』

「……そっか」

 響見て懐かしいっていうのは、あれかな俺達が船に乗ってた時期に見たから……じゃないよな。だけど、そりゃ一体どういうことだ? 製作時期も不明な代物とは言え、響と関わりがあるとは思えないし。やべぇ、全くわからんなコレ。

『あ、それはそうとアリス。上空でも動き始めそうです。用意を』

「あぁ、分かった」

 考察は後回しだ。今は俺のやるべきことを済ませて、元三佐を落とす事。それだけに意識を向けよう。あちらに行きたいのは確かにある。だが、それを言い訳にして手は抜けない。俺達にチャンスをくれた人の頼みだ。何とかしないとな。


――sideディエチ――

 今、このゆりかごにあの子の母親が乗り込んできている。理由は勿論あの子を救うために。

 そして、あの侍……ヒビキを抜いた以上、もうすぐここに来る。

 正直……あまり気乗りしない。この前の襲撃の後から、私達の中でも空気が変わった。チンク姉が大怪我をおって帰ってきた時、それをあの侍がしたと言った時、まず思ったのが怪我をさせたという怒りだった。

 だけど、直ぐに違和感に気づいた。チンク姉と直前まで行動してたノーヴェとウェンディがあまりにもヒビキに対して関心を寄せていないこと。特にノーヴェなんて、チンク姉と仲がいいのに、それでも怒らないのは何か有ったと思う。

 実際、確信……とは言えないけど、察することが出来たのは、さっきまでここにいたセインの質問だ。

 間違いなく、違う要因でチンク姉は怪我をしているということ。そして、それは恐らく……

 いや、止そう。もうすぐここにあの子の母親が来るんだ。事情はどうあれ。

「あなたに恨みはないけどここで落とす」

 銃口を視線の先へ向け、砲撃をチャージ。彼女が通路に入ってきた瞬間に放った。

「IS、ヘヴィバレル」

「エクセリオン、バスター!!」

 お互いの砲撃が均衡する。チャージなしの抜き打ちの上に、このAMF状況下でここまで……。舐めてかかったわけじゃない、だけど。

「ブラスターモード、リミット1、リリース!!」

「ぃっ!!!」

 威力が……いや、コレは魔力が跳ね上がった!? AMF状況下だと言うのに!?

「ブレイク、シュート!!」

 押し込まれ、砲撃の直撃を受ける。
 
 一瞬意識が飛んでいたらしく、気がつけば目の前まで来ていた。

「何て威力、本当に人間……?」

「あなたを、拘束します。ここで大人しくしていてください!」

 倒れた私の上を通り過ぎると共に、バインドを掛けてそのまま飛び去っていった。
 まぁ、セインが居るし気付いて戻ってきたら追いかけるか、それともドクターの護衛に回るか……来てから考えようかな。

 ……そう言えば、始めてあの子を確認した時。庇ったあの茶髪の子はどうなったんだろう? ライザさん曰く、合流した時に虫の息だったから、放っといても死ぬとはいってたけど……そもそもあの時の砲撃を直撃して何で普通に動けてたんだろう?

 ま、考えても仕方ない。おとなしく待つかな。幸いというか、ヒビキ対フェイトお嬢様の戦闘見れるから暇ではないし。


――sideなのは――
 
 砲撃の子を抜いて、ようやく着いた王座の間。ここにヴィヴィオが………!

「ディバインッ……バスター!!」

 砲撃で扉を撃ち抜く。ここまでの消費はかなり来ていたが、そんな弱音は言っていられない。すぐに保護してフェイトちゃんと響の元へ戻らないと。

「いらっしゃ~い♪ お待ちしてました~。こんなところまで無駄足御苦労さま。さて、各地で貴方達のお仲間はた~いへんなことになってますよ~?」

 私を出迎えたのは玉座に縛り付けられたヴィヴィオと、眼鏡をかけた戦闘機人。 
 
「……大規模騒乱罪の現行犯で、貴方を逮捕します。速やかに武装の解除を」

「……フフ、娘のピンチにも、貴女の大切なご友人の危機にも顔色一つ変えずにお仕事ですか? いいですね~。その悪魔じみた正義感!」

 にやにやと、嘲笑うかのように笑う彼女が、ヴィヴィオに視線を移した。

「でもぉ、これでもまだ冷静でいられますかぁ~?」

 彼女が指を鳴らすと、それに反応したのか、玉座から電撃が奔った。

「う、う、あああ!!!」

「ヴィヴィオ!!」

「あらあら必死になっちゃって、ならこれはどうかしら~?」

 彼女の手がヴィヴィオに近づく。その様子を視界にとらえた私は即座に砲撃を叩きこむも朧気に消えてしまう。この現象には覚えがある。ここにいた彼女は……幻影。

『ふふ、いいこと教えてあげる。あの日、輸送トラックとガジェットを破壊したのはこの子なの。あの時の失敗作(・・・)が身を挺して防いだディエチの砲撃。あのくらいじゃあこの子はびくともしない。それが、古代ベルカ王族の固有スキル『聖王の鎧』なのよ~』

 なおも勝ち誇った笑みを浮かべ、彼女は話し続ける。

『レリックとの融合を得て、彼女はその力を完全に発揮する。古代ベルカの王族たちがその身を作り変えて完成させたレリックウェポンとしての力を!』

 彼女が話を終えたと同時、虹色の閃光を伴った衝撃波がヴィヴィオから放たれる。

「ママぁ!」

「ヴィヴィオ!!」

 苦しむヴィヴィオに何とかしてでも近づきたいが、あまりの魔力の密度にその場に踏みとどまるのが精一杯だった。

『すぐに完成しますよ。私たちの王が。ゆりかごの力を得て、無限の力を得た戦士が!!』

「いやだ、ママ、ママぁ!!!」

「ヴィヴィオ……ヴィヴィオ!!!」

 一際大きな閃光と共に、ヴィヴィオから放出されていた魔力の奔流が終わった。踏みとどまる足の力を抜いて、ヴィヴィオが居た玉座を見て……。

 私は言葉を失った。

 あまり私と変わらないくらいまで成長した自分と同じぐらいの年の女性。だけど、まだヴィヴィオ何だというのが分かる。だけど、一番わからないのが、彼女の―――ヴィヴィオの向ける視線が、いつもの私に向ける好意の視線ではなく、敵意の憎悪を込めた視線だからだ。

「ヴィヴィ、オ?」

「………あなたがヴィヴィオのママをどこかに拐った……」

「違うよ!? 私だよ! なのはママだよ!!」

「嘘だ……私のママは、あなたじゃない!」

 シンプルな言葉だからこそ、深く私の心に突き刺さる。故に反応が遅れてしまった。一瞬ヴィヴィオの姿が揺らいだと思えば、そのまま消え、突然目の前に現れた。虹色に輝く魔力を拳に込めた、莫大な破壊力を持ったそれがこちらに向ってくる。

「このぉっ!!」

「きゃあっ!」
 
 とっさに拳の到達点に盾を張る。それでも私の体を吹き飛ばすほどの威力。直ぐに空中で体制を整えて地面へと降りて考える。

 今のモーションに見覚えがあるから。だって、今のフェイントを込めた移動法は……!

『そうだ~、今あちらが面白い事になってるのでどうぞ~』

 ここには居ない彼女の声が玉座の前に響くと共に、壁や扉、玉座に多数のモニターが展開される。そして、そこに映し出されているのはただ一つ。

「フェイトちゃん!?」

 丁度フェイトちゃんの盾を突き破り、そのまま地面へと叩き落としている場面。突然の事に思わず叫んでしまった。

『使えない使えないと思っていたんですが、貴女の親友をこんなに追い込むなんて良い拾い物でした~。偶にはゴミ拾いもしてみるものね~』

 違う! と反論する前に、響が刀を振り上げ、倒れているフェイトちゃんへ止めを刺すために突っ込む。

 画面の向こうのフェイトちゃんは未だ動けず、防御体制も取れていない。あのままじゃ……。

「わぁあああ!!」

 突然の叫びに、体がビクリと硬直してしまう。

「ヴィヴィオのママを、返してぇっ!!」

 ヴィヴィオの身体から再び虹色の魔力が迸る。その余波に吹き飛ばされそうになるのを堪える。だけど、その間にも……。

『とっても良い拾い物。フェイトお嬢様に勝てるなんて思わなかったわぁ』

「っ……やめて、響ぃ!!!」

 聞こえないとわかっているのに叫んでしまう。このままではあの2人が……。だけど、そんな思いも虚しく、フェイトちゃんの元へ突っ込んだと同時に白煙が上がった。

 そして、察してしまった。直前まで見えていたフェイトちゃんは、響の姿を捉えていたようには見えなかった。もっと言えば、攻撃されることにも気づいていなかったのかもしれない。

『あらあらまぁまぁ! あれは死んじゃいましたかねぇ?』

「……そんなことない! 絶対に無い!!」

 足元がふらつく。声が震える。頭がこの事実を認めたくないと叫ぶ。 

 けれど、どこか冷たい部分で、私は認めてしまっていた。あれは躱せないって。

『お嬢様が死んでしまったのはここに居る悪魔のせいですねぇ。防御の薄いお嬢様ではなく。硬い防御をお持ちの貴女が居たら、ねぇ?』

 足元から崩れて行くような錯覚が、私を襲う。あの人の言うとおりだ。何が……守るための魔法。

『我が身可愛さか、はたまたお嬢様に死んでもらいたかったのか。どちらにせよ貴女が残るか、二人で戦えば……こんなことには。
 どちらにしても、貴女はお嬢様を死なせて、あのゴミに上官殺しを、仲間殺しという消せない罪を着せてしまった……あは、あはははははははは!!』

 胸が締め付けられる。私は……私は!

 不意に映像の向こうの煙の中から響が飛び出た。そして、フラフラと歩いたと思えば刀を落として……。

『ぁぁ……ぁあああ、はぁっ』

 朧気な目のまま、声を上げている。よろよろと自分の顔を手で覆いながら、膝をついて。やがてゆるしを乞うよう、天を見上げて。

『う、あ、ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 慟哭が、一つの部屋に響き渡った。

『あのゴミも、今の陛下も、お嬢様も、貴方がちゃんと守っていればこんな事にはならなかったかもしれないのにね』

 心が凍る。言い返したいのに、言葉は出ない。私がもっとしっかりしていればフェイトちゃんは死ななかったかもしれないし、ヴィヴィオだって攫われずに済んだかもしれない。

『ほーら言い返せない。結局は今の状況も貴方の責任だって分・か・る? 陛下がいなければこのゆりかごは動かなかった訳だしぃ。貴女が一緒にいればお嬢様は死なず、あ、でもぉ。あのゴミは死んじゃいますねぇ。強い暗示を掛けていますしぃ。
 私も驚きの連続ですわぁ。貴方は様々な人を巻き込んでいって例外無く不幸にしているんですからぁ』

 それ、は―――けど、そうしないとヴィヴィオが、時間が―――

『そうやってまた言い訳をして、貴女は本当に―――』

 ガタガタと体が震える。心が割れる。私は……私は……。



 こんなにも……!





『行くよ、バルディッシュ、花霞!』

『勿論!』『Yes Sir.』

 モニターの向こうからの声を聞いて、心が熱くなったのが分かった。

 白煙をかき消した同時に、人影が現れた。黒い雷を纏った二本のライオットブレード。濡れたような艶やかな黒髪に金色のメッシュが髪先に入ってる。何時ものバリアジャケットとは違って、白いコートの代わりに、桜の花びらの柄が入った白い着物を羽織った……。

「フェイトちゃん!」

『……何故!? それにあの姿は……?』

 心から安心して、思わず涙がこぼれそうになる。だけど、彼女の言う通りあの姿は……。

 ううん、少し前に言ったことを思い出す。確かにフェイトちゃんは、こういった。響のデバイスである愛機の名前を、花霞って!

 だとしたら、あれは……。

『まさか……ユニ……ゾン? そんな、ミッドチルダ式の融合騎なんて……それにあれは一体?』

 はやてちゃんは誰ともユニゾンが出来ると言ってた。だけど、明らかにあれは……。

 ううん。それは後でいい……今は、今私がやることは! 響に強い暗示を掛けたと言っていた。だったらそれはきっと!

「レイジングハート、ブラスター、リミット2!!」

「ッ……!!」

 虹色と桃色。2つの魔力の光が玉座を包む。

「ヴィヴィオ、助けるよ!」

「煩い! ママを、返してぇえ!!」

 光が見えたのなら、何とか出来るのなら! 何も守れない私だけど、コレくらいは押し通して見せる!!



――sideフェイト――

 響の一閃を受けて、バリアを貫かれた時。時間が止まった様に世界がゆっくりに見えた。

 バリアを抜いた刀が私の首筋に当てられる。初めての経験……というわけではない。なのはと全力全開で戦った時。初代リインフォースと戦ったときも感じたことがある。
 
 響の動きがゆっくりとなる。でもそれはそれは本当に動きが遅くなったわけではなく、死に瀕した私の集中力が限界を超えた結果だった。
 私は今、死ぬ一歩手前って状況……ってことかな。本当ならここで走馬灯とかが見えるんだろう。

 だけど、私が見たのはただ一つ。

 涙を零した響の顔をしっかりと見えたこと。無意識なのかは分からない。それでも、心まで持って行かれていない事が分かった。
 
 そして何よりも。バリアを砕いた後。そのまま斬れば響の勝ちになるはずなのに、彼は刀では無く、刀を握った拳を使って私を叩き落とした。丁寧にバリアジャケットの上に当てるように。

 地面へ叩きつけられる。確かに痛い……でも!

「フェイト様。今のは?」

「……うん、響も必死に抵抗してるんだ。だけど、花霞、私とバルディッシュだけでは無傷で抑えるのは厳しい。
 だから……今一度お願いしたいな。力を貸して欲しい」

 倒れたまま、空に浮かぶ響を見る。きっと本当の意味で操られていたら……即座に追撃を掛けるはず。なのに、刀をわざわざ振り上げて突っ込んできた。

「畏まりました。私なんかで良ければ……行きますフェイト様、バルディッシュ様。ユニゾン・イン!」

「うん!」

 その瞬間、響がこちらに突っ込んでくると同時に瓦礫を斬り、白煙が上がる。

 それを目眩ましとしている間に、私と花霞が重なり合う。ここまでの戦闘で失った魔力が急速に回復していくのが分かる。それと同時にバルディッシュがその形態を切り替える。

『Riot Zamber Stinger』『魔力変換・雷、安定。魔力放出、出力安定。いつでも行けますよ!』

 力が溢れる。胸が暖かくなる、ユニゾンなんて始めてなのに、それでも安心して任せていられる。

「行くよ、バルディッシュ、花霞!」
 
『勿論!』

「オーバードライブ……真・ソニックフォーム!」

 黒い雷が周囲に溢れる。禍々しいはずのその色は、とても優しく、黒曜石ように煌めいてる。バリアジャケットの装甲を薄くする。だけど、今は花霞とユニゾンの影響で、全身を黒いボディースーツで包まれる。その上に桜の花びらの柄が入った白い着物を羽織った。

 白煙をかき消しと同時に、着物が魔力によって生み出された風になびく。

 何時もなら防御を無視したこの形態。だけど花霞とユニゾンしている今の私は……。

『フェイト様の速さを少し削りますが、それでも私の全霊を賭けて、硬く強固に貴女を守ると誓います』

「うん、お願いね」

 思いを胸に秘めながら双剣を握る力がこもり。

「響。必ず助けるよ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああああ!!」

 響を中心に赤い稲妻が迸った。なるほど、あれで響を操ってるわけか。

『……プランは2つ。主を縛って魔力ダメージでノックダウン。もしくは私が強制的にユニゾンすれば……』

「でも、後者はタイミングを見誤れば、花霞も取り込まれるかもしれない。だから―――」

『Get Set.』

 切先を響に向け真っ直ぐ見据える。

「私が助ける。絶対に救う!」

『Sonic Drive.』

『お願いします。参りましょう!』

 あまり時間は掛けられない。だから……本気で行くんだ!

 ガクガクと体を震わせている響目掛けて踏み込み、バルディッシュを、右の剣で薙ぎ払うように振る。

 しかし、咄嗟に右の刀で防がれた。そのまま揺らぎ消えたと同時に、バルディッシュが空を斬る。

 右目の端に影が映る。瞬時に判断し、右を払いつつ、その勢いのまま反対へ切り抜くために左手の剣を横一線に薙ぎ払う。

 振り抜く直前、背後から肉薄するために、再度踏み込んでくる。操られているとはいえ、その踏み込みの鋭さには本当に関心する。

 だから私は―――!

「!?」

 完璧に捉えられていた。だけど、コレは……二度目(・・・)で。私はコレを知っている。だからこそ!

『Lightning Bind』

 バルディッシュを払われる事をトリガーとして、ライトニングバインドをセット。響の四肢を固定し、距離を取って。
 二本の双剣を、連結し、大剣へ……ライオットザンバー・カラミティへと形態変化させる。

 目を閉じて、心を落ち着かせて。ゆっくりと呼吸を整えて丹田に力を込め、大剣を振り上げて―――

「疾風・迅雷!」

『Sprite Zamber.』

 開眼、それと同時に大剣を振り下ろした―――


――side奏――


 いつぞやの模擬戦の再現してたけど……何というか、先輩。

 それ響死んでないよね? 何かバインドで縛ってからの高出力の斬撃でドーンってしてたけど……まぁ平気かな。

 あ、ライブ映像途切れた。あ、何か目に見えてガジェットの数増えた。

 だけど……。

「執務官が勝ったぞ!! 俺達も続けー!!」

「うぉおおお!!」

 ……間違いなく響の存在って敵だと思われてるんだよなー。どうするんだろ?

 だけどまぁ……。

「時雨。弾幕で圧倒したい。手を貸してくれる?」

「……勿論。弾丸と矢の雨霰。見せつけましょう」

 ゆりかごの出撃ハッチから今もガジェットが次々と姿を表してくる。

 だけど、AMFがあろうと、敵が大量に存在していようとも。

『カナデ。総数は100。ウンディーネと同期して既に狙いをつけてますよ』

『当方に迎撃の用意有り。何時でも』

 オクスタンと、パルチザン……いや、正式名称は違ったね。AI復活して始めて名前を聞いて驚いたなぁ。オクスタン、パルチザンは長銃形態の名称で、本体名称は。

「行こうか、トワイライト、ムーンリット!」

『『Alright.』』

「行くよ、ウンディーネ!」

『参りましょう!』

 銃口を構え、時雨は矢を引き絞って狙いを定める。同時にカートリッジを消費して、私の周囲に白銀のスフィアを展開、時雨の周囲にも青白く輝く矢が展開される。

 そして、トリガーに指を掛けて。

「ヨーイ! 撃てっ!」

 時雨の合図と共に、それぞれのスフィアと矢が、風切り音と共に対象目掛けて奔る。

 私のスフィアを先頭に、矢がその後をピタリと追従し、それぞれのガジェット目掛けて突き進み光が瞬いた。

「久しぶりに合わせるけど、なんとかなるもんだね?」

「ふふ、そうだね。私としては吹っ切れてくれて何よりだー」

 遠くで時雨が、フフフと憎たらしく笑う。

 うるさいやい。気にしてるのは気にしてるけど……それでもだ。

 先輩が帰ってきたら……伝えなきゃなー……。

 あ、ヤバイ。思い出したら泣きそうになってきた。行けない行けない。切り替え切り替え!

 なんて考えてると―――

「え、なにコレ。揺れてる!?」

 空にいるにも関わらず、揺れているのを感じた。慌てて時雨の方を見ると、あちらも揺れに驚いてるのか、耐えるように周囲を警戒している。

 ふと、ゆりかごの上空から強大な魔力の反応を感じて、そちらに視線を向ける。

 空の一角に罅が入り、そこから灰色の魔力が溢れ出ている。罅から漏れ出す魔力は僅かにもかかわらず、全身の産毛が逆立つような。得体の知れない者が来ると本能的に察する。
 だが、あちらに行こうにも……空間に罅が入るなんて始めて見るような現象。どうしようも出来ない。対処の方法を知らない。

 空間の罅が増えると共に、空の……空間のかけらが落ちては消える。

 更にここで気づいた。向こう側には何かが複数居ると。よーく目をこらせば何かが動いているようにも見える。

 そして、割れる直前に―――

(あ、奏ー。突然で何だけど、ゆりかごに入りたい。どっか穴とかって開いてないかな?)

(……うん!?)

 久しぶりに聞き馴染んだ幼馴染の声を聞いて、変な声が漏れちゃった。



――sideアーチェ――

 ……痛い。体が痛い。拳が痛い。足の付根が凄く痛い。そして、木とかがすっごく重い。

 左手と顔は外に出てるけど……それ以外の体は木々に挟まれて動かせないし……ってか。あの赤い宝石って何さ? 出てきて殴りつけたと思ったら爆発したし。お陰でリュウキが何処行ったか見失ったし。眩しすぎるんだよ。

『オ……嬢? ヤリ……マシタね?』

「うん、ミーティアもありがとう。何とかなったかもしれない」

『自分……ハ、ナニモ。しばら……く、お暇を……モラいます』

「うん、いいよ。後はなんとかなるから」

『御……意』

 その声を最後に、シャットダウンしたのか反応が無くなった。全部終わったら必ず修理に出すからね。

 さて、何とかここから抜け出さないと。ゆりかごは飛んでったわ、地形めっちゃ変わるわで、シャッハさん達が心配―――

 そこまで考えて、目の前からレーザーが飛んで来るのが見えて、咄嗟に左手を掲げて盾を張る。だが、もろく小さい故に、容易く貫き、肩へと突き刺さる。

 痛みで声をあげようにも、その体力すら残っていない。加えて逃げようにも体は倒れた木々に挟まれて動けないし、ミーティアも損傷して先程眠ってしまった。
 レーザーが飛んできた場所を見ると2機のガジェットⅢ型と、10機以上のⅠ型。それらが私を取り囲むように展開している。

 ―――敵のアジトの前なのに、戦力なんてあるって分かっていたのに……ミスったな。

 ゆっくりと迫ってくるアームを、眺めながら目を閉じる。

 だけど、仕方ないね。全力を出してこの様だ。もう抵抗もできないなら、せめて一思いに死にたいなぁ……。
 最後に名前を呼んでもらえたんだ、悔いはない。でも、痛いのは嫌だなぁ。








「うおおおおおおおおっっっっ!!!」

 上から声が聞こえ、思わずビクリと反応してしまった。
 
 何? と声を出す前に。

「アーーーーチェェエエエエ!!!」

 空からの砲撃がⅢ型の1つを捉え、圧壊させる。加えてもう一つ影が落ちてきたと思えば、もう一つのⅢ型が真っ二つに割れる。

「邪魔だ、どけぇぇぇええええっっ!!!」

 裂帛の咆哮と共に、残りのI型も斬り落とされ、撃墜されていく。

 陣羽織を着ているけど、その姿は間違いなく……。

「リュウキ……!!」

「あぁ、またせたな! 直ぐに助けるから。もう少し待っててくれるかい?」

「……うん。うん!」

 みっともなく涙が溢れる。背中越しに語る彼の姿が眩しくて、昔のままの口調で語る彼の声が嬉しくて!

「さぁ、歓迎するぞ、盛大になぁあああ! 行くぞかっこいい銃刀!」

 ……相変わらずダサいネーミングだわー。
 
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
 作者のマイページのHPリンクが、ウェブ拍手へと繋がっておりますので、押して頂けるとより一層励みになります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧