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ある晴れた日に

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718部分:清き若者来るならばその四


清き若者来るならばその四

「クリスマスの為に」
「新曲を」
「そうだ」
 この問いにも答えたのだった。
「作ってきた」
「そうだったわよね」
「未晴の為に」
「その曲も」
「決めたからだ」
 その言葉には迷いはなかった。決断だけがあった。
「だからだ」
「偉いよ、本当にな」
「そうよね。何があっても迷わないから」
「それはね」
「俺も迷った」
 しかしここで正道はこうしたことも言ってきた。
「最初はだ」
「誰だって迷うさ」
 その彼を見ていた佐々が彼に言ってきた。
「それはな」
「当然か」
「迷わない人間なんていないさ」
 そしてこんなことも言うのであった。
「けれどな。決めたら迷わなかっただろ」
「そうだったな」
「それが凄いんだよ。人間って弱いからな」
「決断しても迷うわね」
 茜も続いた。
「実際にはね」
「茜ちんもそうなのかよ」
 春華は彼女を仇名で呼んでみせて問うた。
「何か迷いそうにもない性格なのにな」
「だから私だって人間よ」
 その春華に少し笑って告げる茜だった。
「迷うわよ、やっぱりね」
「そうか。だよな」
 彼女の言葉を聞くと自然と自分のことにも当てはめて考えてしまった。そう考えてみると自分自身もだということに気付いたのである。
「うちだってな。そうだったしな」
「そうよね。あいつを見た時」
 奈々瀬もそのことを思い出していた。公園であの男を見た時を。
「私逃げて」
「それで戻ってきたわね」
「あのまま逃げたかも知れない」
 恵美に応える時顔を俯けさせていた。
「本当にあのまま」
「けれど逃げなかったわね」
「見たから」
 こう言うのだった。
「音橋が未晴にしているの見たら。逃げられなかった」
「それはね」
 恵美はその奈々瀬に優しい声で告げた。
「奈々瀬が未晴を大切に思っていて」
「それでなのね」
「それで決断したかったからなのよ」
 だからだというのだ。
「未晴を助けたいってね。それで今は後悔してる?」
「いいえ」
 今の問いには首を横に振って答えた。
「もうそれはないわ」
「決めたからよ。あのまま逃げることは出来なかったと思うわ」
「出来なかったの」
「奈々瀬は絶対に未晴を見捨てられなかったわ」
「未晴を」
「逃げたけれど戻って来ることができた」
 こうも言うのだった。
「それが答えよ」
「そうだったの」
「それで戻って来て」
 話が動いていく。
 
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