ある晴れた日に
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714部分:冬の嵐は過ぎ去りその十四
冬の嵐は過ぎ去りその十四
「久米宏も嫌だったけれどね」
「筑紫哲也もな」
「そのお仲間か」
正道は両親の言葉を聞きながらぽつりと言った。
「あいつも」
「さてと、それじゃあ」
「ドラマで面白いものがあればいいけれどな」
こんな話をして母親がテーブルの上にあったテレビのリモコンを取ってそれのスイッチを押す。するとテレビの画面に出て来たのは。
「えっ、近所じゃない」
「ああ、そうだな」
ニュースだった。しかし二人の嫌いな顔触れは出てはいなかった。だが二人はそのニュースを見て驚いた顔になって言うのだ。
「同じ神戸市で」
「こんな奴がいたのか」
「神戸?」
神戸と聞いてだった。正道も何事かと思った。
それで画面を見るとだ。吉見がそこにいた。そして彼がほんの少し前までそこにいたあのマンションもテレビに映っていた。部屋の前の扉もである。
そこで徹底した家宅捜査が行われだ。恐ろしいものが次々と出て来ていたのだ。
何と毛布に包まれた女の子もいた。どうやら監禁されていた女の子らしい。誰が監禁していたのかはもう言うまでもないことだった。
「女の子を拉致して監禁していたのか」
「しかも虐待に暴行か」
「こんな奴が本当にいるのね」
二人はこう言ってその顔を顰めさせていた。
「本当にいるなんて」
「呆れた話だよ、全く」
「それによ」
「ああ、そうだな」
二人はニュースを聞きながらさらに話していく。
「あの弁護士、今連行されている」
「そうだな、よくテレビに出て来る」
吉見の父であるあの男だ。彼も逮捕され連行されていた。何かしきりに喚いているのが聞こえるが正道にはそれが何を言っているのかわからなかった。
「前から色々おかしな噂のある人だったけれどな」
「やっぱり悪い奴だったんだな」
両親の顔はさらにしかめさせられていた。
「麻薬をやってたのね」
「みたいだな」
今度はテレビに覚醒剤の粉や注射針が出て来ていた。やはりこれも一体何なのか説明するまでもないものであった。充分過ぎた。
「家から出て来たってことは」
「これでこいつも終わりだな」
「そうか、終わりか」
正道は両親のその話を聞いて静かに呟いた。
「あいつもこれで」
「わかってると思うけれどね」
ここでその高木美帆に似ている母が彼に言ってきた。
「あんた麻薬はね」
「わかっている」
彼女が何を言いたいのかはわかっていた。それは既にである。
「それだけは絶対にしない」
「そうよ、何があってもね」
「麻薬はするな」
父も真面目な顔で言ってきた。
「煙草も駄目だけれどね」
「酒はいいけれどな」
「酒はいいのか」
正道は未成年である。しかし両親は何故か酒はいいというのだ。それはだ。
「それはいいのか」
「酒は百薬の長よ」
「それなら悪い筈がないだろう」
「だからか」
やはりこの街ではこうだった。酒はいいのである。
「酒はいいのか」
「はい、わかったらよ」
「どんどん飲め」
また酒を勧める両親だった。
「お酒はどんどん飲んでいいからね」
「好きなだけ飲むんだ」
「今日はクリスマスだしね」
「飲んでいいからな」
こう言いながら我が子に酒を勧めていくのだった。正道はそのワインを飲み続けていた。
それからケーキを食べてだった。全てが終わった一日を終えた。風呂にも入った彼は全てをやり遂げた顔で眠りに入るのだった。
冬の嵐は過ぎ去り 完
2010・2・5
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