魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第59話 その日、機動六課
――side煌――
『煌! スターズ05と06の……流と震離のデバイスの反応がそちらに近づいています! 援軍です!』
「マジか、よっしゃ!」
右手にポールスピア、左手に杖を持って、弾幕生成と共にその辺のガジェットを突き刺し、他のガジェットの群れへと投げ飛ばす。
こちらはオレ一人、隊舎側は優夜、ヘリポートには時雨がそれぞれ援護射撃を行ってる。
だが、一番の問題は……。
六課の正面玄関。シャマル先生とザフィーラさんの所だ。さっきから翠の閃光が何度も光っていうのが分かる。その上途中から時雨の援護射撃が正面玄関に集中しだした事から、割りと不味いことになってるんだろう……が。
援護に行きたいけどこちらも中々手を離せないから困った。やっぱり三方向だけでは足りなかった。現に六課は火の海。なるべくいかせないようにしていても、やはり守っていない場所から抜かれてしまう。
最終防衛ラインにはヴァイスさんがいるから、問題は無いと思う。ただし、俺達が倒れたらここに留めてるガジェットが流れ込んじまうけどな!
「あら、B程度の魔力保有量でよくやるわね」
「―――ッ!?」
気がつくと背後に誰かが立っていた。振り返ると同時に槍を突く。
だが。
「あらあら、慌てん坊ね」
再度俺の背後を取って、そう呟く。一旦距離を取ったと同時に振り返る。そこに居たのは何というかお婆ちゃん。それもニコニコと優しそうな笑みを浮かべて、孫にでも会おうってするようなそんな感じの。
だが、その目を見て、ゾッと悪寒が走り、杖を直してスピアをしっかりと構える。コイツ相手に手数では誤魔化せない。きっちりと一撃一撃気合を入れて叩き込まないと、一瞬で持っていかれる。そう察してしまった
「……何者だ?」
「こんな所に来ててそれを聞きますかねぇ?」
ガンガンと俺の本能が警鐘を鳴らす。敵意も何も無いはずなのに、向けられてすら居ないのに、コイツは一体……。
そして、よくよくコイツの持ってる……腰にマウントしているものを見て、絶句した。
「……待てよ、オイ。その背中に背負ってる長杖と長銃は何だ?」
「あら、杖は管理局支給の物よ。銃は……私が作ったものだし」
バツの字になるように腰にマウントしてる銃と杖を手にとって、こちらに見せるように、杖をつくように地面に立てる。
だが、その二本は……。
「そうじゃねぇ……その二本を持ってたやつを……震離と流をどうした!?」
「あら、関係者だったの……いけないわね。まぁいいわ。この銃。私が作った代物なの」
長銃を、アークを見せつけるように掲げて、一発空へと空砲を放つ。
「なんでも撃てる、なんでも込めれる。どんな場所でも戦えるように、どんなものでも撃てるように。ずっと戦い続けられるということよ」
「震離は! 流はどうしたって聞いてんだ! 答えろ!!」
つまらなさそうに俺の全身を眺めてため息を1つ。
「貴方には……炭でも見に行く趣味でもあるのかしら?」
―――ッ。そうかよ。
「……アサルト2より、ロングアーチへ」
『煌! そこにいる流と震離と一緒に』
「……ここには流も震離も居ない。あの二人からデバイスを奪った敵しか居ない!」
『え、な……それ、どういう……す……確……』
ノイズが大きくなってきやがった。まさか……。
「無粋な人ね。私と話をしてる最中に他の人と話すなんて」
「報連相は大事だろうが。伝えただけだよ」
長槍を剣を持つように両手で持ち構える。
「変わった構えね」
「うるせぇ……よっ!」
銃口をこちらに向けたと同時に、踏み込んだ。
――side優夜――
『何とか、何とか煌の所に援護を』
「そうしたいのは山々なんだけど、そういうわけにもいかないんだよな」
二本のポールスピアを両手に構えて、空を睨みつける。そこに佇むように浮いてるのは、黒い仮面に全身真っ黒の陣羽織を纏った南蛮侍。
「斯様な槍兵に用はない! 侍か、あの時の焔の騎士と相対を所望する!」
「……はぁ」
何だコイツ、と思ったのがまず一つ。映像越しで見たことあるとは言え……実際に間近で見ると、なるほどこれは……リュウキそっくりだな。
「まぁ、侍は地上本部、焔は反対側でアンノウンと戦闘中。手が空いてるのは俺だけだ」
「ならば、奴と替われ! 一度目は侍に敗れ、二度目は焔の騎士に土をつけられた! 3度目の正直なのに……お前のような斯様な槍兵と戦うのは我は嫌だ!」
……嫌だってお前……何だコイツは本当に。
だが。
「アサルト1よりロングアーチへ。こちらもアンノウンと接敵した。こちらの援軍は何処か反応した?」
『え、あ……はい! 地上本部からライトニングが戻ってきます!』
「そっか、そいつは重畳だ。それまで足止めする。皆は避難しておくんだよ。じゃあね」
ブツリと通信を切って、精神を集中する。軽く槍を振って、双槍を交差させアイツに向ける。
というかさ、大体なぁ……。
トン、と。軽く飛んで。
「あんまり俺を侮るんじゃねよ」
「ヌッ?!」
風に乗って、やつの眼前まで踏み込んで双槍を振るう。こちらは二本、あちらは刀一本。
槍の連撃をアイツの全身に叩き込むように、空中駆動を駆使して、上下左右から連撃を刻み込む。
たまらず一度距離を取った所で、こちらも一度踏みとどまって。ため息を1つ。
「天双流槍術、有栖優夜だ。自慢じゃないが……同期の中では一番極みに近いと自負してるぜ」
右の槍を持ち上げて、切先を突きつける。すると、プルプルと震えだして、刀を天へと掲げて。
「何という僥倖! すまなかった斯様な槍兵などと言って! 貴公も相当な騎士であったか!」
「訂正、俺は騎士ではない。槍兵で合ってるよ。さぁ、時間いっぱい付き合ってもらうぞ!」
「フハハハ、行くぞ、有栖ぅううううう!!」
直後。俺とアイツの軌道の線が激突した。
――side奏――
それは突然だった。不意にこちらに向かって高出力の魔力弾が発射されるのと同時に、それに合わせて上下から何かが飛来するのを見て。
「奏!」
「はい!」
『sonic move.』
空を行くエリオとキャロ、そしてフリードの前に出て、フェイトさんが盾を張る。その後ろで、私は上下に銃口を向けて直射砲を放つ。シールドに着弾し、煙が上がる中で。上下に飛来してきたものが砲撃に直射砲に当たって戻っていくのを目で追う。
そして、煙が晴れるとそこに居たのは。
「戦闘、機人……」
それも二人居る。だとするとここは……。
「……お願いできる?」
「! 了解。エリオ、キャロ行こう」
「でも……フェイトさん一人でなんて……」
「……わかりました。フリード!」
一瞬渋るキャロを、その後ろに座るエリオが分かってくれた様でフリードに指示を出してくれた。フリードと戦闘機人の間を飛んで、警戒をしながら、ちらりとフェイトさんに視線を向けて。
―――先輩、お気をつけて。
―――うん、そちらもね。
短くアイコンタクトで会話を終えて、何時でも迎撃出来るよう二丁を構えながら空を往く。
「エリオ君、どうして……?」
「アウトレンジから狙える相手がいるのに、空戦のできない僕たちがいたらフェイトさんが全力を出せない。だったら当初の目的を完遂することを優先するのが僕たちのやるべきことだよ」
フフ、正解だよエリオ。ごめんね、その通りって褒めてあげたいけど、何時こちらに敵意を向けられるかわからない以上、私も警戒を解くことは出来ないんだ。
ある程度距離を取ったのを確認して、警戒を向けて。
「流石、なのはさんからの教えが効いてるね。キャロもその考えも悪くないけど、エリオの言う通り、出来ないことを無理してするよりも、出来ることを優先するようにしたらいいよ」
「……はい」
「まぁ、先輩ってば、何時もあわあわしてる感じだから、私もちょっと心配だけどねー」
「……フフッ」
あ、エリオが吹き出した。
「先輩に言いつけてやろー」
「え、あ、待って下さいよー!」
「アハハ」
うんうん、いい感じにキャロの緊張も取り除けたかなー。この子は本当に優しいというのが分かるし、まだまだこれからだしなー。
後ろに意識を向けると、フェイトさんが二人を相手に押してる様にも感じる。と言うか、AMFのせいで五分に近いけど、無かったら圧倒してるよねあれ……。
さて、もうそろそろ海上に出る。六課まではもう少しだけど……やはりこの季節、雲を中に入ると、ちょっと肌寒くて、氷がちらついてるなぁって。
……氷? 雪じゃなくて? まさか……ッ!
「二人共、防御魔法展開急いで!」
「え?」「奏さん?」
間に合うか? いや、間に合わせる!
「カートリッジダブルロード! スフィアプロテクション、サークルプロテクション!」
『Load cartridge.Two shots.Sphere Protection & Circle Protection』
手動でカートリッジを回して、魔力を供給、両手の銃でロードしたのを確認して。フリードと二人を囲うようにも球状の少し硬めのバリアを。私の周りに球状のバリアを薄いバリアを展開したと同時に。
「う、くぅうう!!」
全方位から何かが降り注ぐ。よくよく見ればそれは氷。まるで鋭利な刃物の様に鋭くなった氷柱が全方位から降り注ぐ。エリオとキャロの方は問題ない。その為に強い方を選んだのだから。
だが、私の方は……何かが小さく弾けるような音が聞こえる。パキパキと、静かにゆっくりと。
そして気付いた。一箇所だけ氷柱の弾幕が薄い場所を、よくよく目を凝らしてそこを見れば、何かが接近しているのが分かる。そして、それがよく見えた瞬間。
「はぁい。こんばんは天雅さん?」
「……アヤ・アースライト・クランベル!」
どこからか取り出した大剣を振るって、私の方に斬りかかる。元々弾幕で弱ってたバリアが音を立てて砕け散ると共に、咄嗟に右手の銃を、砲身を剣代わりとして剣を受け止める。
突然のことすぎて、応戦が出来なかった事が悔しい。そのまま剣を受け止めていると、気づいてしまった。
私はこの剣を、大剣を知っていると。
それが致命的だった、それが私の集中を乱したと同時に、魔力強化が一瞬乱れ、銃の砲身に刃がめり込んでいく。不味いと判断し。即座に手を離すと同時に内部のカートリッジの魔力が暴発し爆発。
爆煙から抜け出して、直ぐに二人の元へと行くと同時に。
「ごめんね。二人にお願いがあるの。六課に向かってフェイト隊長が来るまで持ちこたえてくれる」
残った1丁を構えて、弾幕を張っていく。だが……圧倒的に手数が足りない。
「……わかりました。奏さんも直ぐに来て下さいね! 行こうフリード!」
「お気をつけて!」
空いた右手を横に出して、サムズアップをする。後ろを向いてあげたいけれど……それをしたら三人もろとも落されてしまう!
「……つれないわ。あの2人も居たなら、私が居なくなった後の貴女達の様子を聞けたのに。残念だわ」
「それなら応えてあげるよ。お陰様で冤罪って分かって過去の実績も開放された。色んなとこから声を頂いてますよ。クランベル三佐!」
月下の元で。私達を……かつて響を追い詰めたアイツと相対した。
聞きたいことは色々ある。管理局を裏切ってスカリエッティの元へ行ったこととか、何故お前が大剣を……ギルを、流のデバイスを持っているのとか色々ある。
だけど今は……。
「……ここで……墜とす!!」
この激情を貴様にぶつけてくれよう!!!
――side紗雪――
地面を蹴って、曲がり角では三点飛びの要領で、壁を蹴って響のいる場所へと向かう。
どうも嫌な予感がするし、何よりも……。響が居るであろう場所に近づくに連れて、胸が締め付けられてくるように感じる。
「紗雪! 待って、速い!」
私の少し後ろを走るギンガの静止を聞かずに駆ける。
この感じを私は知ってる。あの日リュウキがいなくなった日とおんなじだから。船が無くなった時と同じだから。
「ッ、邪魔だぁ!」
時折現れるガジェットを薙ぎ払って行く。だが、近づいてきたせいなのか、異様に数が多い。
なるべく勢いを途切れさせたくないが。
(紗雪、コチラで落とすから先行して!)
(了解!)
なのはさんからの連絡を受けて、中央のガジェット数体を斬り落として、突き抜けていく。
後ろからレーザーが飛んでくるのを、体を振って回避して、落ちた勢いを戻していく。
神様なんて信じちゃいないけれど、それでも祈ってしまう。私達の将が無事でいて欲しいと。そう願ってしまう。そして、曲がり角を曲がって、地下にしては明るい場所が見えた。
そこはいくつかの地下通路が合流する場所で、地下とは思えない程に開けた場所。
力を振り絞って、その場所へと飛び込んだ。
そうしたら、きっと響がいつものように笑ってこういうんだ。「遅かったなー」って。きっと何時もの様に!
そして、中へと入ってまず見たのが。
「……あら?」
背中を見せたまま、恍惚とした様子で、空でも見上げるように横顔をこちらに向ける金髪の女性。そして、その正面には血塗れになってる銀髪の女の子。俯いてて顔は見えない、だけど……重症だということは分かる。
「……ノーヴェ、ウェンディ! 速く連れて行け! 間に合わない!」
「で、でもチンク姉!」
「いいから! 姉なら平気だ急げ!」
俯いてる銀髪の……チンクと呼ばれた女の子が激を飛ばしてる。だが、この状況はなんだ? 同じスーツを着ているようにも見えるのに、こいつらは敵対してる様に見えるのは何故だ?
だが、それよりも……。
一番奥に居る赤髪の女の子がボードに乗ったかと思えば、何かの大きな箱を後ろに積んでいるではないか。そして、その周囲には大量の赤い液体……これが意味するのは。
「……やっと追いついた!」
2人が到着、否、コチラの援軍が到着した瞬間逃げるように赤い子達が去っていくのを見て、察してしまった。
「ッ、ギンガにスバル。お願い、あの一番奥の子を全力で追って! 速く!!」
「わ、分かった!」
「了解、そっちも気をつけて!」
赤髪の女の子二人が行った道を、私達が来た道とは反対の入り口へ向かって、ギンガとスバルがそこに向かって走り出した。
即座に懐から、誰とも対をなしてない札を取り出して、周囲に貼り付けると同時に。金髪目掛けて突撃。更に分身を3人出現させて斬りかかる。
「……全部実体? いや、これは……魔力ではないエネルギー……あら、面白いじゃない! ヒビキも良かったけど、貴女もいいじゃない!」
「「黙れ!」」
二人の私が左右から同時に苦無を手に斬り込む、が、当然のように防がれる。それもただ防ぐのではなくて、苦無を持った手を取って防いだ。それを見てから、正面からもう一人の私は両手にスフィアを展開して、叩き込むように突っ込む。
けど、本命は―――
背後に設置した札から現れて、音もなく一気に接近。そして、両手に持ったこの苦無を、背中から叩き込む。
だから、死なない程度に刻まれろ!
そう、捉えたはずだった。僅かに首が左を向いたと思えば、ギラリと赤い瞳が輝いて―――
「これは始めて見る物だ――な!」
「ッ、きゃああ!!」
自分を軸に、私二人を振り回し、前後の私へぶつけられ、その衝撃で私が三人消えた。
比率を私に近づけていたせいで、ダメージのフィードバックで、体が一瞬硬直する。
でも、嘘、馬鹿な! 何故コイツは後ろに私が居ると、本体が居ると読んだ!?
硬直のせいで、衝撃を殺しきれずに、壁に叩きつけられる。
「がはっ! げほげほっ!」
衝撃にせき込み、背中からくる痛みに一瞬体が痺れてしまう。
すぐに体制を整えなければ……ッ!
床に足がついて、体が前のめりになった瞬間、そこには膝が顔まで来ているのが見えて―――
「がふっ!?」
のけぞってそのまま背中から壁に叩きつけられる。顎を下から叩き上げられて脳が揺れてしまった。急激に意識は混濁していくにも関わらず。
上着を左手で捕まれて上体を持ち上げられる。そのまま、空いている右拳が腹部へとねじ込まれて。
「あ……はっ!? ぁあ――」
そこから連続で顔、腹部、胸部へと拳が飛ぶ。衝撃から逃げようにも上着を捕まれていてそらせない。衝撃を流すことも出来ない。
「……こんなものか。つまらない……なっ!」
そして、トドメと言わんばかりに、上着から手を離したと思えば、左腹部に一際大きな衝撃を与えられ、そこで意識が途切れた。
――side煌――
銃を槍のように扱い、杖には魔力刃を取り付け剣のように扱うその様は。何というか流とは違って効率よく人を殺す為のものだと分かる。やりのように突き出したかと思えば発砲。刃を振り下ろしたと思えば、鍔迫り合いになった直後にわざと暴発させ、衝撃を与えてくる。
嫌らしいことこの上ない。
だが、これらはあくまで格闘戦の延長。だからこそ対処はできる。
一番の問題は……。
「……5年程度じゃ図れない。とは思ってたけど……アンタのそれは一体何だ?」
一撃一撃は重くはない。全然受けきれるし捌ける。だが、一番の疑問点が攻撃の連動。その速度だ。
響のように加速減速の様な物でもなければ、フェイトさんや優夜の様な元々速いタイプとは違う。
明らかに挙動が早すぎる。空気抵抗や重量等を無視した高速駆動。何というか、まるで映像を早送りしているようにみえる。それに加えて高速移動の術式を用いてるせいで、まるで一瞬消えたようにも見える。
格闘技術なら五分に持ち込める。だが……。
「フフ、ここまでギアを上げているにも関わらずまた持ちこたえるとは、私もまだまだねぇ」
それに気づくまでにダメージを負いすぎた。これだけでも厄介だと言うのに更には……。
「ッ!」
正面に立つ老婆とは真逆の背後から刃が現れ、それを左に飛び込む様に回避。
だが、その後の追撃……銃口を向けられてることまでは気づかずに。
「ファイア」
その声とともに、鈍い紫色の閃光が奔った。
「ぐ、あああああ!!!」
背後から砲撃をまともに受けて訓練スペースの施設へと叩きつけられる。
バチバチと機材からスパーク音を聞きながら、震える体を持ち上げようとするが、体が痺れてそれどころではない。
そして、何よりもまたやられた。砲撃を叩き込まれた時とほぼ同じタイミングで、正面から単発の二連射撃。一発目は頭、二発目は心臓を目掛けれ撃たれたそれを、ギリギリで回避した結果、一発目はなんとか首を振って躱せたが、二発目は砲撃を受けながらもギリギリで体を捻ったことで肩に逸れた。
さっきからこれの繰り返し。幻術と、不可思議の速度を織り交ぜた、効率よく人を殺すための技術。これのせいでかなりのダメージを負ってしまったんだ。
だが、今のこれは不味い。直ぐに体を動かさないと。いくら考えてもいくら体を動かそうにも、手ぐらいしか動かせない。
不意に空が淡く輝く。耳鳴りがする。気を抜いてしまえば即座に押し潰されそうなほど強大なプレッシャーに体が震える。
眼前の空に輝くは淡い紫の星。全てを飲み込まんとするようなそんな光。
「……ちっくしょう」
「久しぶりに楽しかったわ。さようなら」
紫色の光が、臨界点を迎える。光の放流が、雪崩のようにこちらに迫ってくるのが見えて―――
――side時雨――
訓練スペースの方から、大きな音が聞こえた。即座にそのポジションで防衛ラインを敷いていた人物へ、煌へと連絡を入れる。
「煌! 返事をして、何があったの!?」
ノイズが入って通信ができないとわかっているのにもかかわらず声を荒げてしまう。もしかしたら通信が回復してひょっこり声を掛けてくれるかもしれない。
反対側では優夜が押してるとさっき連絡があった。ならば、直ぐに優夜を動かせば……いや、それでは唯でさえ押されてるラインに更に穴が開く。
その上……!
「たった三人でよく頑張った。だけどそれも、もう終わり。僕のISレイストームの前では抵抗は無意味だ」
体にフィットしている蒼のボディスーツにズボンと上着を着ているだけの装備の子がそう呟く。その子が手を上にかざすと、今まで見たこと無い魔法陣が浮かび上がった。
これは……いけない!
『時雨!』
「勿論!」
シャマル先生の声と共に即座に魔法陣を展開し。六課に向けて打ち出された翠の閃光を防ぐ。二人がかりでもこの圧力……本当に勘弁してほしい。
唯でさえ少ない魔力がどんどん削られていくのが分かる。だが、これを乗り切れば―――
「―――二人がかりなんて、相手は単騎ですよ?」
突然頭上からの声に、集中力が乱れる。真上を見上げると巨大な魔力刃を天へと掲げながら急接近。そして、そのまま一気に振り下ろしてくる。
「くっ!」
咄嗟に両手に持つリボルビングライフルを、頭上で交差させてそれを受ける。だが、叩きつけられた一撃は重く、膝が曲がってしまう。防御魔法を向こうに回してるせいで、こちらに張ることは出来ない。今それをしてしまえば、すべての負荷がシャマル先生に向ってしまう。
そこで気づいた。いや、見えてしまった。右手一本で杖を構えて、空いた左手には一本の長いライフル。その先端に今にも放たれようとしている紫の淡い光の玉が。
どうする? ここで防御を私に回すか? それともこの一打を何とかして躱すか? だが、どちらにしても―――
ならば!
「……シャマル先生、後をお願いします」
『時雨!?』
出力を自動で維持出来るように切り替え、ギリギリまで粘ることを選ぶ。
「……辞世の句はいらない?」
ニコリと笑う老婆の顔を見て、ふん、と鼻で笑う。
「次に繋ぐのに、辞世の句なんている訳ないじゃない!」
「そう。じゃあいいわ」
不遜に笑ってみせるけれど、全然通じた様子は無いらしく、短くそう斬られる。
銃口が、光が私の前で更に輝く。
でもちょっと待って。こんな……ゼロ距離で撃たれるのは生涯で一度あるかなとは思ってたけど……待って。流石に恐いんだけど。
明らかな殺傷設定。直ぐ側で収束させているせいか、チリチリと肌が痛む。
……あーあ。優夜と今度デートにいく約束いれたのになぁ。ミッドでも美味しいって指折りのカフェに行って、二人でお茶して、他愛もないことお話して。今後のことを話し合ってさ……。
あぁ……恐いなぁ。
つい、そう思って目を瞑った瞬間。
バキン、と同時に音が聞こえた。
「―――っ、時雨ぇええぇえええ!!!!」
「っ、ぁ……優夜!」
目を開けたはずなのに、映るのは真っ暗な世界。そして、遅れて何かが私を覆い被った様にも感じる。それが何かという事に気づいて、安心と、それを守ろうと意識をこちらに向けてしまった。
直後覆われているにも関わらず光に飲まれた。
――side奏――
儚げな月明かりのもとで、互いに向かい合う。しかし、ただ立っている訳ではない。それぞれ左方向へ向けながら、こちらは銃口を向け、あちらは剣の切先を向けて円軌道を描いていく。
既に速度は最高速だ。その中で撃ち合う。こちらは直射砲を、あちらはスフィアを連射。時折急激な加速や、減速を加えて射撃を回避する。
「流石、元ガードウィングって事はあるわね」
「お世辞は結構です!」
ニヤリと笑みを浮かべる元三佐を睨みつける。何が元ガードウィングだ。こちらは既に1丁紛失している上に、カートリッジを収納しているポケットを撃ち抜かれて、残弾が少ない。今装填している6発と、リローダーが1つ。12発しか無い。
そして、何よりも……自身の魔力変換資質「氷」を活用した弾幕が鬱陶しい。雲の水分を圧縮してそれを射出。足を止めれば容易く貫かれてしまうほどの鋭利な氷柱の弾丸をノータイムで撃ってくる。流石に消費が大きいのか、今のように高機動に切り替えてからは撃っては来ない。
だが、こちらは銃。今でこそ銃口を合わせられているけど、狙いをつけてない訳ではない。少ない魔力を考慮すると、しっかり狙いをつけてからトリガーを引く。それだけでも、どうしてもタイムロスが生じてしまう。
だけど、そんな事今更だ。だからこそ昔のスタイルを持ち出して、照準から逃れて反撃しているのだから。こちらは一瞬とは言え線で攻撃しているのに対して、あちらはどうしても連射しているとは言えど一発づつ放っている。それだけで、回避できる隙間は出来るし、角度もたかが知れている!
進行方向のあらゆる方向から弾幕が降り注ぐ。正面を躱したと思えば、左右から。それを躱したと思えば上下から。
しかし、それは許容範囲。響の様に止まって見える……訳ではないが、それでも対応範囲内だ。直線的すぎて話にならない!
すべての攻撃を躱して、空へと上がる、ふと元三佐を見るとニヤリと笑っているのが見えて。
「かかった!」
こちらの動きを読んでいた、と言わんばかりの嬉々とした笑顔で。こちらに向って手を掲げた。
突然周囲を氷柱が全方位に現れ、その切先がこちらに向いている。こちらの避ける道を完全に読んだ上に、多面的かつ効果的な包囲陣。
そして、グッと手を握る動作と連動して全ての氷柱がこちらに向って飛び込んでくる。瞬時に撃鉄を引いてカートリッジをロードして。
「放て」
『Shining moon.』
機械的な音声を聞きながら、銃を刀を振るように振りかぶったと同時に、トリガーを引いたと同時に―――
「……馬鹿な、あり得ない……でしょう?」
粉々になった氷の粒が、ダイヤモンドダストのように舞い散る。
「冗談。砲撃を撃つタイミングに合わせて振り抜けば一瞬剣の様になるでしょう? それだけだよ」
勿論多少の防御魔法を使ったとは言え、大多数の氷柱を薙ぎ払ったことは事実。願わくばこれで……。
「アヤお姉さま~それでは。第二ラウンドと参りましょうか~」
「ッ?!」
どこからか声が聞こえたと同時に、私の上下に航空型ガジェットが現れると共に。AMFが展開され、今まで浮いていた浮力が無くなり徐々に落ちていく。そして、間髪入れずに
「しまっ……ぅうあああ!?」
蒼いスフィアが体の至る場所に着弾。その衝撃に絶えきれず、くるくると錐揉み状に回転しながら頭から真っ逆さまに落ちていく。とっさのことに盾も何も出せずにもろに受けてしまい、激痛に顔を歪める。
速くリカバリーを!
そう考えても未だAMFの領域から抜け出せず、空中で体を悶えさせることしか出来ない。そうしてる間にも。7本の人の拳程度の太さの氷柱が真っ直ぐこちらに向ってくるのが見えて。
即座に銃口を向けて迎撃。カートリッジを一発消費させての弾丸を正確に当てていくが……それが仇となる。結果5発しか装填されていなかった故に、2本氷柱が残ってしまい―――
「あぐっ!? ぐっ!」
体を捻って回避するも、それぞれ右肩、左足に直撃。だが、氷柱は私の体を貫くのではなく、へばりつくように形を変えている。が、それでも衝撃と痛みが奔る事に変わりは無く顔を歪ませながらも、左に構えた銃は手放さず。震える右手で直ぐにカートリッジを入れ替える。
だが。
「悪いわね。詰みだ」
何を馬鹿な! そう叫ぶよりも先に貫かれた部位が異常に熱い……いや、冷たい事に気づいた。視線を左足へと向けると。足先から凍っていくのが見える。右肩は未だ始まってはいないものの、明らかにへばり付いた時以上に氷の面積が増えている。
「海に着くまでには凍るのでは辛いでしょう。さて、ここで授業を変換持ちが全く気にせず、魔力コントロールをせずに、対象を閉じ込めたらどうなると思う?」
「何を……っ!」
瞬時に私の周りをバリアが囲んだ。それと同時に気温が下がるのがわかり、自然に体が震えだした。ガクガクと震えて止まらない。奥歯もカチカチと鳴って、凍らないように、と力を込めるほど音が大きくなった。
「これだから変換持ちって大変なのよね。普段は気を使わないと……護る対象を凍らせてしまうんだから。あぁもっと―――」
パキンと、音がなったと共に意識が途切れた。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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