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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第60話 敗戦と次への決断を


――sideはやて―― 

 地上本部を襲ったガジェットが全て排除されたのは、丸一日近く経った後やった。本部の地下の至る場所に湧いて出たかの様にはびこっていたガジェットを殲滅し終わった頃には、既に空に月が登った頃。地上本部が受けた被害は甚大で、怪我人も少なくはない。その上象徴的だった建物も半壊……やけど。
 幸い上層部の人間、重役の人たちに被害が無かったことが唯一の幸い……。

「って、アホな事があるわけないな」

 事後処理の書類の山を、ゆっくりと片付けながら、何度目になるかわからないため息を吐く。

 地上本部の被害の大きさも凄まじい。だが、それ以上に六課が受けた被害はその比ではない。六課隊舎、周辺施設は敵の襲撃で全壊。地上本部と並行して修復すると言われても、2ヶ月……下手をすれば今年中に終わらないだろう。
 ロングアーチのメンバーも、待機組だったシャマルやザフィーラ、ヴァイス君に、優夜や煌、時雨は重症。未だに目を覚ましていない。
 地上本部に来ていたメンバーは……まず奏が全身氷漬けで海上を彷徨っていたと言う。直ぐ様搬送されて、集中治療室へと運び込まれた。何とか解凍することに成功したが、未だに意識を取り戻す気配はない。
 加えて、フェイトちゃんに負けず劣らずだった長い金髪は、襟首の辺りで切れて……いや、お医者様曰く海上に落下した際に砕けてしまったと言う。
 次に紗雪。響と二度戦ったアンノウンと交戦するも、一方的に敗北。意識を刈り取られてしまった上に、左の肋骨骨折。頭を強く打ったせいかまだ意識は戻ってない。

 一番の問題が……。連れ去られてしまった響や。現場には響の血液と、花霞が残されておった。そして、そうなってしまった理由を映した映像を見て絶句してもうた。

 あの時、響は単騎で戦闘機人の1人と相対し、足止めとして戦闘をしとった。勝負は互角……と言うより、手数の面で少し押されていると行った様子。しかも花霞に罅が入る度に修復をしている間は徒手空拳で間を繋ぎ、修復が終わると再び刀を抜いて凌ぐというスタイル。
 最初は間違いなく押されていたが、徐々に徒手空拳で間を繋ぐのではなく、攻めへと転じて、刀を持てば一転して攻めていっていた。
 そして、一瞬の隙を突いて、戦闘機人の懐へ入った時には、いつかフェイトちゃんとの試合で見せた居合の構え。確実に取れたはずの一撃。映像とは言え、これを見ていた皆が声を上げた。それほどまでに研ぎ澄まされ、完璧だと言う一閃を。

 響は放つ直前に、刀から手を離した。
 
 敵の戦闘機人が、あろうことか直ぐ近くに居た銀髪の子を、自身と響の間に引寄せ盾としてしまった。あのまま振り抜けば恐らく勝っていたはず。せやけど、響が取った手段は、銀髪の子を抱きかかえ庇ってしまった。
 その隙を逃さず、敵は銀髪の子諸共響へ殴り掛かる。凶器の様な拳を受けて、銀髪の子からも、響からも鮮血が舞う。それでも響はその子を離さず、庇うように抱きしめて、背中を見せる。これ以上殴らせてたまるかと言わんばかりに。

 それでも連撃は続いた。続いてしまった。気が付けば、響は銀髪の子から手を離して、振り向いて応戦しようとした。だが、既に決着は着いていた。

 片や仲間であろうと関係なく勝つために使う者。

 片や敵であっても保護するために庇ってしまった者。

 無情にもそれが勝敗を分けてしまった。振り返ったと同時に右のアッパーを貰い顎を跳ね上げられた響は、そのまま宙を浮いてしまう。間髪入れずに左のストレートを胸部に受けてしまい、振り抜かれたと同時に壁へと叩きつけられた。この時点で意識を落としてしまったのか、花霞から手を離してしまう。

 渾身の一撃に、響の瞳から光を奪う。口をだらしなく開けて、血を吐き出しながら膝を折る。勝負は着いた……筈なのに。

 倒れることを許さないと言わんばかりに、崩れ落ちる様に倒れる響の顔面を膝でかち上げ、無理やり立たせた。右腕を引いて体を斜めに倒し、頭上から斜めに拳を振り下ろす。既に意識がない響に防御する力は無く、顔面へまともに右拳がめり込み、壁に後頭部から叩きつけられた。

 この映像は今の所、ライトニングの隊長二人にだけにしか見せてへん。せやけど、フェイトちゃんは見てられないと、顔を覆って泣いた。シグナムも悔しそうに血が出るほどに唇を噛んどった。

 そして、バイタルサインが弱まった頃にようやく戦闘は……いや、リンチは終わった。せやけど、ここで銀髪の子におかしな動きが入る。勝鬨を喜ぶように、狂ったように笑う金髪の子に目をくれず、真直に響の元へと行ったと思えば、直ぐに何かを指示を始めて、大きなスーツケースの中に響の体を大事そうに(・・・・・)入れ始めた。戦闘機人同士の通信故に、なんて話しているのか分からへん。

 せやけどハッキリ聞き取れたのが。金髪の子が余計なことをするなと言わんばかりに、拳を振り上げた直後。

『お前を追い込んだコイツならば、ドクターならば使えるはずだろう!』

『……へぇ?』

 血塗れになりながらも銀髪の子がそう叫ぶ。ここで気づいたのが、この時点で響の体はほぼ死に掛けている。医者にこの時の響を見せて驚く回答が帰ってきた。ダメージや出血量から考えると、もう手遅れだと。コレを聞いて目の前が真っ白になった。
 
 せやけど……スカリエッティなら、人体実験を施してるアイツなら話はどうや?
 
 そこで1つの希望を感じた。銀髪の子はそれに気づいたから、響を連れて行くという選択肢を取ったのではないかと。

 純粋にギンガの替わりと言うのもあっただろう。だが、そうだとしたらわざわざ大事そうにケースの中に入れるのだろうか?

 それ以外にも、ギンガとスバルが追跡を掛けている時に追っていた二人が言っていたらしい。

 ―――コイツを助けたけりゃ、ついてくるな。間に合わない。

 そう言って、ガジェットを盾に奥まで逃げていったらしい。残された部屋に紗雪と交戦したその後、血塗れになった銀髪の子を物でも持つように脇で抱えて、上に空いた穴から脱出していったのが最後だ。

 そして、一番の疑問点が響と紗雪の二人が会敵した金髪の少女。0(ヌル)と呼ばれる戦闘機人。この子の能力が分からへん。響の後、紗雪とも戦った映像も残されていて、それをシグナムが見て。ただ一言。

 不自然すぎる、そう漏らした。

 響と最初戦っている時点でも、抜刀からの一閃を放つ前に止めてみせたり、初見であるはずの紗雪の分身3人で足止めからの背後からの一閃も、知っていたかのように対処して見せている。

 だけど、一旦この話もここで終わり。それ以外にも対処しなければいけない事はある。帰ってこなかった震離と流の件もそうや。今でこそ文面がなくなっておるけど、よく考えてみれば……震離が流の事を風鈴と記載するだろうか? うろ覚えとは言え、確か文面にはそう書いてあったはずや。

 煌と時雨を強襲した人物が流のデバイスであるアークを所持、そして震離が登録していた杖を持っていた事を考えると……。

 これは……最悪の事態のことも考慮せなアカン……。

 あれから二人とは連絡が繋がらへんし。エリオとキャロの証言を聞くと、空で奏と戦った人はアヤさんで、その手にはもう一つの流のデバイスであるギルを持っていたらしいとまで言っとった。
 こればかりは直接交戦した奏から話を聞きたいけれど……肝心の奏は未だ意識不明やしね……。

 更に、今回のことで戦闘機人の子たちの詳細も分かった。胸元につけてるプレートに沿っているのなら。地下に居た4人。0(ヌル)5(チンク)9(ノーヴェ)11(ウェンディ)。フェイトちゃんが交戦した名前は分からへんけど、3番と7番。六課を襲った8番と12番。この前の4番と6番、10番を加えれば。

 13人。最低でもそれだけいるということ。1番と2番がいないことが気がかりやけど……それでも、これだけの人数がいること。加えて、陣羽織を着た男に、アヤさん。そして、煌と時雨を墜とした老婆に、召喚士の女の子と、ヴィータと交戦した男と、融合騎の子を、大本であるスカリエッティを加えれば……20人の大所帯。

 ほんまに頭が痛くなってくる。あれだけ大規模に本部を襲っといて、本部襲撃はブラフ。その本命はヴィヴィオ。しかもしっかり襲われるだろうと踏まえた上で対策も万全とはいい難いけど、構えていたのに……この様や。しかも、シャーリー達の報告から、奪ったのは例の召喚士の少女だったらしい。

 しかし、それはまだ良い……とはいい難いけれど、それでもや。攫われてしまったヴィヴィオも、スカリエッティを逮捕する上でもう一度保護する事だって出来る。

 せやけど……。

 喪われてしまった人は帰ってこない。でも、響が生きてるかもしれない。それがかなり低い可能性だということは分かっとる。流や震離だってそうや。もしかすると、二人共何処かに捕まって助けを待ってるのかもしれへん。
 ……生かす価値があるかと問われれば、分からへんとしか答えられへん。スカリエッティが何を考えてるのか分からへんしね……。

「って、隊長の私がこんなんじゃアカンわな」

 あかんあかん、たらればや、反省、後悔してる場合やない。唯でさえ人はおらへん今だからこそ、この後のことを、今後のことを考えていかなきゃアカン。
 入院してる皆の分まで、しっかり踏ん張らへんと……。気合を入れていかへんと、アカンのや。

 ふと、壁にかかった時計を見ると、間もなく約束の時間や。

 さぁ、なのはちゃんとヴィータが待ってるんや、2人にも伝えな……。

――sideフェイト―― 

 ICU、集中治療室。
 そこには私を先輩と呼び慕った女の子がいる。私より少し薄い金髪を靡かせて、何時だったか任務で一緒にいる様を見て、姉妹の様だと言われた時には嬉しかった。

 恐らく一番の重症者、奏が見つかったのは六課の訓練スペースの残骸の近く。そこで満身創痍だったはずの煌や優夜が、必死に解凍を施し、時雨が近隣の部隊へ連絡を取っていた。

 全身氷漬けの重傷者がいる。すぐに来てくれ、と。

 様々な回線を用いて呼びかけていた。その甲斐あってか、海上部隊がそれを察知して、即座に4人を回収。海上にもガジェットは居たはずなのに、無理をしてでも来てくれたことには感謝の気持ちしかない。

 だが、安心したように3人共意識を失ってしまった。もともと限界を超えて動いていたらしく、眠ったように未だに目を覚ます気配がない。

 あの時の私は、何とか戦闘機人の二人を……いや、二人に時間稼ぎをされてしまった。離れた場所で奏が交戦したのにも気づいていたのに、墜ちたということを把握できなかった。

 地上本部の壊滅、および機動六課の壊滅。それに伴う響とヴィヴィオの拉致。未確認情報だけど、未だ帰ってきていない流と震離にも何かあったと言われてる。

 加えてエリオも負傷したし、キャロも暴走しかけてしまった。

 ……ダメだなぁ私は。シグナムにも言われた。今日の業務は自分がこなすから、皆のそばに居てやれ。そう言われたけれど……私の中では後悔しかない。

 何が先輩だ……っ! 
 
 間に合わせることは出来た筈だ。もっと速く、駆けつけられていたら奏を救えた。それだけじゃない。六課に居た皆の援護も出来たはずだ。
 
 なのに、なのに私は……ッ!


――sideなのは――

「……以上が花霞に記録されてた、事の本末や」

 バキンと、ヴィータちゃんが机を力任せに殴りつけ、その拳からは血が滲んでた。

 私自身も悔しくて唇を噛んでしまう。

 あの勝負。誰がなんと言おうと、間違いなく響が勝っていた。だけど……強いていうならば、欲を出してしまった。
 きっと響は足止めをするために戦闘をしていたはずだ。その為の素手での戦闘で間を持たせていたはず。故に勝利を欲してしまった故の敗北……。

 だけど。

 あれを見て誰がそう責められるものか! 誰にも責められない。寧ろ彼は勝利条件を満たしていた。敵の目的はギンガの拉致だった。それに気づいて、即座に負傷していたアーチェと共に転送させた。恐らくこれで彼は気づいたんだろう。ギンガが……いや、2人も戦闘機人だということに。

 だからこそ、咄嗟の盾にされた子を庇い、守ってしまったんだ。

「……もう一つ報告や。六課を襲った老婆。その人が所持してたデバイスがこれや」

「「ッ!?」」

 モニターにその人が現れたであろう時間帯のデータログと、画像が表示される。それを見て気づいてしまった。

 流と震離のデバイスを所持して戦闘に参加していると。

 確かに右手に杖を……いや、剣を、左手に銃を持ったその様はまるで流の様だった。そして、データログには確かに震離と流の所持デバイスだと表示されている。

 つまりこれが意味するのは……。

「……最悪な場合、覚悟を決めといて欲しい。ルヴェラにいる管理局員にも問い合わせておるけど……あまり進捗は著しくない」

「で、でも。直接行って探せば!」

 ヴィータちゃんが立ち上がると同時に僅かな望みを言うけれど。はやてちゃんはゆっくりと首を横にふって。

「……震離と流らしき人がバイクに乗って出発したところまでは掴んどる。けど、そこでパッタリや。その日は雪が降ってたらしくてな。地元の人もあまり出歩かなかったらしい。その上皆防寒着を着ている以上、すれ違ったとしても分からへんよ」

「……でも、はやては……あの2人が死んじまったとかって考えてないでしょう?! あたしは……あまり2人に構ってやれなかったけど。流は自分を盾にするくらい根性ある奴だって知ってる! 震離だって1人で色々出来るやつだって知ってるんだ!」

 声が震えてる。そう言えばヴィータちゃんはあまり2人に……ううん、あの4人とは関われてなかったんだよね。私が出来ない部分を補ってくれてたせいで、しっかり見てやりたいって何時も言ってたのに……。

「勿論、2人の捜索は依頼しておる。流の所属が所属や、クロノ君達も動いてくれとるけど……」

 声が沈んでいく。それもそのはずだ。地上本部の陥落と、行方不明人物の捜索とでは優先順位が違いすぎる。
 
 だけど―――

 今私達よりもショックを受けているのが、あの場を無傷で戻ってきたギンガだ。

 スバルのお姉ちゃんとして、何時も気丈に頼れる姉をしているのに、響を奪還出来なかった時、泣いて謝っていた。無理にでも残ればよかったと。無茶をしてでも追撃を仕掛ければと。

 だが、それならば私もそうだ……ッ。ティアナを抱えていたとは言え、魔力の温存という選択肢を取らなければ、紗雪の救援に間に合ったはず。それどころか、三人で戦闘が出来たのかもしれないはずだった……。

 なのに、なのに‥…ッ!

 ヴィヴィオだってそうだ。元はと言えば、私がちゃんと、ヴィヴィオを守っていたら……。

 六課に残ってた皆もそこまで痛めつけられる事は無かったはずだ。優夜と煌、時雨の三人の主な負傷は至近距離からの砲撃による負傷だった。
 ノイズ混じりの映像で確認した。煌は動けなくなった所をトドメと言わんばかりの収束砲。時雨はシャマル先生と共に防御魔法を張っている動けないタイミングでの奇襲。そして、剣を防いで回避も防御も取れない姿勢での至近距離の砲撃。
 殺傷設定ので近距離砲撃……間違いなく恐怖に駆られていたはずだ。そして、優夜はシャマル先生からの通信を受けて、時雨の救援に入った所を、諸共撃たれてしまい。そのまま海まで叩きつけられてしまった。そのお陰で時雨にはあまり怪我はなかった。
 
 だけど……。結局私は守れなかった。護るって誓ったのに。そのための私の魔法なのに。

 世界中を救いたい。そんな事は出来ないと分かってる。それでも手の届く位の、目に見えるくらいの者は救いたかった。手の届く範囲に、目に見える範囲にいた筈なのに……護れなかった。

 目の前が滲んでくる。悔しくて、悲しくて……、何もできなかった自分が情けない……ッ!




――――


――side?――


 はあ、と息を吐くと、白い煙が宙に舞う。生温かい粒子が空気に溶けて散っていく。けれどそれだけだ。冷え切った指先は少しも暖まらない。
 やっぱり、自分の吐息程度ではそれほど暖まる効果なんて期待出来うるはずもない、か。

 いや、それよりも……。こんなにも寒いのに、少しでも温まりたいのに。私の周りには何も無い。

 それどころかここは……。

 ゆっくりと辺りを見渡すと何にもない。空を見上げても何も無い。雪が降ってるわけでもないのに、私の周辺は雪しか見当たらず、私の周囲だけがやけに明るい。

 ……しかし、これは夢なのだろうか? かと言って直前のことを思い出そうにも頭の中に霧がかかってそれどころじゃない。

 何か大切な事を忘れてるような……そうでもないような。

 さくっ、と雪を踏みしめる音が聞こえて、その方を見ると。

「   」

「え?」

 灰色のローブを纏った、よく知った顔の女の子……震離がそこに居たんだけど。パクパクと口を動かすものの、声が聞こえない。白い吐息が出ていることから呼吸は出来てる……はず。という事は口パクかな?

「震離? 何言ってるか聞こえないよ? なあに?」

 少し離れた場所にいるせいなのだろうと、無理やり結論づける。それならば近づけばいいと思い、足を進めるが……。

 全くもって近づけない。物理的な距離があるから? それとも震離が動いているから? それはわからない。
 けれど、近づけないことが怖くなってきて、徐々に駆け足になっていく。

「震離!」

「   」

 悲しそうに何かを呟いた後、背を向ける。

 待って、行かないで、と声を掛けたくても何かに阻まれるように声を出せなくなる。

 いくら駆けても追いつけない、それどころか歩き出した震離から離される一方だ。途中で足がもつれて倒れてしまう。

 すると、それに気づいたのか、驚いた表情でこちらを振り向いて……こちらに寄ってこようとしたけれど、ギュッと左手を胸のあたりで握って再び背を向けた。

 何で? 待ってよ、震離?

 そう声を掛けたかった。だけど―――

「……ごめんね。もう一緒に行けないんだ」

「……え? なにそれ、どういう……待って、ねぇ! 震離!!」

 そこで意識が途切れた。


――side奏――


「――っ!?」

 目を覚まして、開いた視線の先に見えた白い天井を見て……。何処ここ? 六課の医務室かと思ったけど、違うみたいだし……。

 体をゆっくりと起こすと、あちこちが痛い。バラバラと体から何かが剥がれ落ちていくのを感じながら、ベッドの上に座る。

 ぼーっと、俯いてるとふと気づく。頭がやけに軽いなと。なんとなく後頭部に手を伸ばして直ぐに気づいた。腰のあたりまで伸ばしてた髪が、バッサリ切れて短くなってることに。これはショートボブくらいかな?

 はて、髪なんかここ数年切った覚えはない。だけど何で……。私は一体?

 そこまで考えて、思い出した。

 そうか、私は……元三佐に敗けたんだ、と!

「……それにしても」

 ふと、窓の外を見ると。とっぷりと日が沈んでいる。間違いなく暮れて数時間とか言う話ではない。だけど、だけど圧倒的に情報が不足してる。
 というか、そもそもここは何処だかわからない以上。情報を集めないと! 

 そう考えてベッドから抜け出して。目が丸くなった。自分の素足が見えて、ゆっくりと足を戻しまして……。そっと、布団を持ち上げて自分の服を見て。かぁっと、顔が赤くなる。ワンピース型の入院服を着ているが、一番の問題が……着けてない。

 下着を着けてない……。

 しかも、入院服は丈は短いし……なんか色々な場所が、繋がれてて……、一際太い管が、足の付根についてるのを感じて……oh……。

 色々恥ずかしくなって顔がさらに赤くなる。
 
「奏!」

「ひゃぁああ?!」

 すぱぁん! と扉が開いて、思わず悲鳴を上げてしまい、咄嗟に下腹の部分を抑える。恐る恐ると音の方へ首を向けると。

 直ぐそこまで、黒い影が来て……って。

「きゃああああ?!」

――――

「……先輩。私が起きたって連絡受けて来てくれたことは嬉しいんですが。私自身色んな管がついてるんですよ? 変な所に刺さってるものも多いですし、流石に危険なので抱きつくのはちょっと……」

「……ごめんなさい」

 とりあえず看護師さんに色々管を外してもらって、明日には一般病棟に移る手続きを取った。私自身、氷漬けになったとは言え、言い換えればそれだけだし、これと言った負傷も無かったらしい。

 まぁ、低体温症で、ヤバイ状況だったらしく、一度血液抜いて温めて輸血っていう、手段を取った関係で私は集中治療室に居たらしいしね。

 だけど今晩はここでお泊り……なんだけど。フェイトさんから、六課が敗北したこと。そして、3日も眠っていたこと。そして……。

「……そうですか。そんな風に(・・・・・)捉えてるなら、とりあえず一発殴らないといけませんね」

「え゛!? いや、え、待って……。でも」

「もしかして……先輩()思ってたりします? 自分がもっと早ければとか。自分が遅かったから私が堕ちたとかって考えてませんよね?」

 ……ジトーっと睨むと、申し訳なさそうに視線を落とす。

 すすすっと、フェイトさんの座る場所まで体を寄せて、ぽんっと、肩に手をおいてにっこり笑う。わからないと言った様子で私と目を合わせる先輩を……

「いひゃいいひゃい! かにゃで! いひゃい!」

「センパーイ? 驕ってんじゃないですよー?」

 ぎりぎりと力を加えていく。病院に上官も何も有るもんか。知らないし。

 ぱっと手を離してあげると、両頬を擦る先輩を横目にため息を吐いて……。

「もう一度いいますよ。驕らないで下さい。私が堕ちたのは伏兵に気づかなかったことです。確かに速く来てたら結果は変わったかもしれません。
 だけど、それはもう過ぎたことです。私も、貴女も、ギンガもそうです。次に何を成すか。そうでしょう?」

 先輩の両頬に手を添えて伝える。言いたくないことだけど……敗けてしまったこと、それはもう覆らない。

 そして、ギュッと先輩を抱きしめて。

あの人()がどういう敗け方をしたかわからないですし、攫われた以上取り返せばいい。生きてる可能性が低いのも分かります。だから、どっちに(・・・・)しても取り返すことに変わりはありません」

 ビクリと先輩の体が震えたのがわかった。私だって最悪な事は考えたくない。だけど……考慮しなくてはいけないんだ。

 だからこそ……。

「ここで私達がするべきは後ろを向いて後悔することよりも。前を向いて次を、その先を見つめないと」

 ボロボロと涙が溢れてくる。今更になって悔しさがこみ上げてくる。私も、紗雪も、時雨も、煌も、優夜も……そして、響でさえも負けてしまったんだと。実感したから。下手すれば震離も流も何かあったかもしれない。 

「だからこそ。響とヴィヴィオが帰ってきたら胸を張っていいましょうよ―――おかえりなさいって」

「……うん、うん!」

 2人で抱き合って涙を流す。今のうちに悔しさも何もかもを出して置く。

 だからこそ、次に会ったら必ずリベンジを果たすんだ。仇討じゃなくて、管理局員として!



――sideはやて――

「……嘘やろ?」

『……残念ながら事実だ。9月9日。第23管理世界、世界名称ルヴェラの北部の山中にて起きた火災現場から多数の焼死死体の中に、1つ……すまない。1人のみ遺伝子情報を引き出すことが出来た』

「……せやけど、それでもや!」

 通信越しに思わず大声を上げてしまう。

『……他の部位は遺伝子情報を取れないほど燃えていたが、彼女(・・)の右腕だけが、多少の損傷はあれど確認が取れた。そして、その近くには背丈が似たような遺体もあった。
 叶望震離一等空士は……もう』

「クロノくん! もう、ええよ……。万が一にも可能性は無いんやね?」

『……あぁ。他の遺体から遺伝子情報を出すことが出来たらいいんだが。焼けてしまった上に、元々酷く損傷していたらしい。これ以上は……』

 頭がこの事実を認めたくないと叫ぶ。けれど、どこか冷たい部分で、私は認めてしまっていた―――

『……続報が出たらまた伝える』

「……うん、ありがとう」

 ブツン、と通信が切れると同時に、背もたれに体を預ける。

 感情は不思議なほどに落ち着いているのを感じて、軽く自己嫌悪に陥る。今がこんな事態だからか、それとも職務上か。それとも……私が、こんな人やからか?
 
 この数日にあまりにも多くの事がありすぎて、何故だか余り現実味を感じられない。

 ……何も無い山奥での、地元民曰く、吹雪の日に現れる幽霊屋敷と言われた場所での大規模火災。火災が終わった頃にはほとんど何も残っておらず、犯罪組織が関わっているかもしれないと現地の管理局員が調べた所、中には拷問を受けたように酷い損傷を負い、燃やされてしまった遺体の数々。

 その中に唯一原型をトドメていた腕が……よりにもよって震離と一致してしまった。流の方は未だ見つかっておらへんけど……。

 それでもや……。

「何であんないい子たちが……なんでや?」

 こんなに悲しいのに、涙を流さない自分が嫌になる。未だに生存の可能性が有るとは言え……惨状を考えると限りなく低いということが分かる。

 流も震離もいい子やということは痛いほど分かる。こう、ストレスがたまった時はいっつも震離と流の写真を交換し合ったりしたし、冗談を言い合っとった。
 あの子が人付き合いが苦手やということは、はじめから気づいとった。笑っとるのに、何処か距離があるのも分かってたし。そして、あの2人が恋をしてることも知っとった……。せやけど現実はこれや。

 あの命令もおかしいということを分かっとったのに、あそこで2人を送り出さなければ……きっと。

 流やって……ヴィヴィオの兄の様にぎこちなくても一生懸命接してたのも分かる。せやけど……六課に来てからの流を考えると。痛い思いしかさせてないのではと考えてしまう。

 アグスタの時も、ヴィヴィオを保護した時も、教会から預かったロストロギアを封印した時も、決まって辛い思いを、決して軽くはないケガをさせてた。

 ……最悪やなぁ。私の采配は……。皆に辛い思いしかさせてへんのやから……。


――side奏――

 あれから一夜を過ごして。朝一番にはパタパタと集中治療室から一般病棟へ移動となった。恐らく他に使う人がいるからだろうとかってに納得した。

 一般病棟に移動して同室の人の顔を見て驚いた。紗雪と時雨がそこで眠っていた。既に襲撃から4日目だと言うのに未だに目覚める気配が無いとの事。

 そんな2人を見ながら、昨晩のフェイトさんの話を思い出す。

 現在の機動六課の隊舎の代わりに。時空航行艦アースラに移すことになったと。これからの事を考えると移動できる拠点が欲しいのと、アースラは艦予定なんだから破損してもそう咎められる事も無いと。

 そして、今回の襲撃を受けて地上本部は本局の介入を拒んでいる。まぁ理由は分かるんだけど……それは自分のプライドを守るだけのような気がするし、それではミッドの人が被害に合うだけだと私は思う。
 まぁ、本局の介入を拒むという事は、本局所属の六課も介入出来ない。まぁ、当然だよね。

 けれど、六課はあくまで遺失物管理部。多数のロストロギアを……特にレリックを回収、調査するために、その捜査線上にスカリエッティがいるという理由で、仕方なく(・・・・)対処しようという事。間違いなく危険な物なのでお預け下さいって言っても通じないだろうし。

 まだ色々あるだろうに、話はそれ以上聞けなかった。と言うよりまだ判断に困ってるようにも見えた。

 私達の怪我の具合を見てるんだと思う。今でこそある程度動けてるけど。未だ体の至る所に違和感は有るし。だからこそまだ決めあぐねているんだろう。私達の出撃を有無を。他の4人はともかく……私は行けると思うんだけどなぁ。

 ま、暗いことを考えても仕方ない……ね。 

 時雨と紗雪がちゃんと無事だということも分かったし、後は……煌と優夜のお見舞いに行こうかなと。くるりと翻して、病室を出ようと扉に近づいて、ドアノブに手をかけるよりも先に。

 ガラリと扉が開いた。 
 
 あれ、この扉って、自動ドアだっけ? なんて悠長に考えてると……。

 2人のちびっ子……もとい、エリオとキャロとばっちり目があった。お互いにしばらく固まって、ポロポロとキャロの目から涙が溢れたと思ったら。

「……ッ、奏さん!」

「キャロ、エリオも……無事でよかった」

 二人して抱きついてくるのを、そっと抱きしめる。

 そう言えばそうか。この2人と別れた後に堕ちたもんね。

「心配しました。だって、死んじゃったみたいに白くなって……」

 泣きじゃくるキャロに変わって、エリオが説明する。氷漬けになったらそりゃ肌も白くなるもんねー。
 
「六課に着いて、ヴィヴィオが連れてかれちゃって。私達……何も」

 出来なくて。というよりも先に、もう一度2人を抱きしめて。

「そんなこと無いって、言ってあげたいけれど……。ごめんね。、少し辛いことを言うけど……私達は負けた。それは覆せない事。だからこそ―――」

 2人に目線を合わるように屈んでから。

「次は必ず負けないように、倍返しでぶつけて。ヴィヴィオも響も取り返したらいい。でしょう?」
 
 ……あれ? また2人の目が潤んだと思ったら、ボロボロと……対応間違えたかしら?

 なんて考えるともう一度二人して私に抱きついて。大声を上げて涙を流して……。

 そうか……そもそも言い忘れてたね。

「心配かけてごめんね。私は帰ってきたから……だから平気だから」


――sideフェイト――

「……え? 奏の合流を認めないって、何で!?」

「説明した通りや。そもそも全身凍傷になりかけて、高所からの落下。幸い髪の部分だけが砕けたと言うても、まだどうなるか分からへん。
 仮に時雨達が起きてもそうや。特に重症やった三人が目を覚ましても。そのまま療養に専念してもらう。奏もしばらくは様子見ってだけや」

 はやての言うことはもっともだ。だけどそれじゃあ……。

「ヴィヴィオと響の奪還は……」

「せや、ザフィーラとヴァイス君、そして5人を抜いて行う」

 はやての表情が曇るのが見える。本当は手を借りたいだろうに……。

「幸い、教会からも戦力を借りる手筈や。シスターシャッハとロッサが今スカリエッティのアジトを探し回ってるし。クロノくんも動いてくれとる。言い方が悪くなるけど、抜けた穴は補充できるよ」

「……」

 痛々しく笑うはやてに、なんて声を掛けていいのか分からなくなる。

「……それにな。私の采配のせいで、唯でさえ怪我をしとるあの子たちを出して失う(・・)のが怖いんよ」

 ……? 失う? それってどういう?

「……せや、スバルがエリオとキャロに体のこと話したんやっけ?」

「え、うん。エリオとキャロから聞いたよ。スバルとティアナから教えてもらったって」

 確か二日前だったかな? 自分たちの体の事を話したって言ってたから。最初こそ、2人は驚いたけど、直ぐにそれを受け入れてくれたみたいだし……。今まで一緒にいることのほうが大切で、エリオやキャロにとっては、そちらの方が大切だって言ってくれてた。

「……後はギンガやね。ナカジマ三佐が六課に出向させたままにしてくれたんは有り難いけど……」

「うん、最近のギンガは……ちょっとね」

 ここ数日、ギンガは病院の御見舞に来ることはあっても、奏の場所へは行ってなかった。いや、正確には言えば行けなかったというのが正しいかな。
 何度も足を運ぼうとしていたのを目撃したって皆が言ってた。エリオもキャロも、スバルもティアナも皆が。
 
 だけど、入室直前で何時も悩んで……入れなくなってた。

 そして、普段の仕事っぷりも見ていて痛々しかった。響が、奏が抜けた穴を補うように、何倍も仕事を抱えてたし。 

 きっと誰よりも責任を感じてるんだと思う。あの時響を助けられなかったこと。自分だけが安全圏に飛ばされてしまったこと。手が届く場所に居たはずなのに……それでも手を伸ばしきれなかったことが悔しいんだと思う。
 
「……ギンガにもアースラに来てもらう予定や」

「分かった。それはもう伝えてるんだよね?」

「うん。大丈夫や、了解も得たし……後は皆でアースラに乗り込むだけ、や」

 ……ギンガにも伝えないと。アースラに移ったら、しばらく御見舞にいけなくなっちゃうことを、奏と話す時間を作らないと。

 そうしないと後悔してしまうかもしれないって伝えなきゃ。

 だけど……今回の件を聞けば間違いなく奏は落ち込むだろう。取り返すんだって一緒に誓った筈なのに……。


――side?――

「……ふむ。魔力保有量はD……いや、ギリギリCに掛かる程度、その割には保有容量はS相当……。そして肉体レベルはAで、ランクはA-。アンバランスとは言えど、コレがヌルと渡り合ったとは思えないんだがねぇ」

「映像はお見せした通り。下手をすればヌルは斬られていました」

 あの日の映像を見せつつ、最後の判断を仰ぐ。クアットロ達はどうせ出来損ないのシュバルツのようにしかならないから必要ないと言い放った。

 だが……。

「ヌルの癇癪が原因とは言え、チンクを助けてくれたお礼を兼ねよう。ヌルと渡り合ったのなら、調整如何によっては使えるだろう。彼女らの前に出してやれば少しは効果が出るだろうし」

 ピクリと、体が震えたような気がしたが……いや、気のせいだ。

「……ドクター。感謝する」

 小さく頭を下げて、部屋を後にする。そうして向かう場所は。

「……何故お前はあの時私を庇ったんだ?」

 返事がないのはわかっている。それでも……何度も声を掛けてしまうんだ。医療ポッドに眠る黒髪の男に……名前は確か。ヒビキとか言われてたか。

 不意に扉が開くのを感じて、振り向く。

「……なんだ。シュバルツか。今日も(・・・)来たんだな」

「……お主も来てるではないか。ノーヴェ殿もウェンディ殿もよくここに来てはお礼を言っている。姉を助けてくれてありがとう、とな」

「……失敗したんだ。ああなっても仕方ないさ。すぐに直せるんだからな」

 ……普段は煩いほどの男なのに、何故か運び込まれたヒビキの前だと静かになる。確かアグスタの時から因縁が有ると言ってたはずだが?

「不思議なものだ。この侍が運び込まれた時……拙者は確かに喜んだ。コレで死合が出来る。あの日の決着を果たせると。
 だが、現実は違った。拙者は嬉しかったんだ。この侍が生きていたこと。それが……。アヤ殿も喜んでいたがあれは歪んでいる。ライザ殿は興味ないそうだがな」

「そうか」

 コイツの言うことは全く意味が分からない。2年前からそうだ。死に体で運び込まれた所をドクターがシュバルツプランとやらの実験に、様々な機能を組み込んだ結果このような性格になった。
 気取ったような古い言語に、無駄に熱くなる性格で、独自判断で動く出来損ない……だが。

「気が合うな。私もそうだ」

「そうか。始めて合ったな……さ、ヌル殿のところに行かれよ。またノーヴェ殿とウェンディ殿と模擬戦という名の一方的な戦いをしている」

「チッ」

 思わず舌打ちをしてしまう。妹2人がヌルに食って掛かるのは以前もあった。だが、ここ最近は私ごと攻撃した事に激高して仕掛けるようになった。
 姉妹に感情が生まれたことはたしかに嬉しい……だが。

「すぐに行く。あぁ、後は……ドクターが治すと言ってくれたよ。それだけ」

「そうか。ならば良し! 完治したその後は……久しぶりに此奴と話そう。共に肩を並べるのは久しい(・・・)からな!」

 ……またコイツはおかしなことを言い出す。始めて機動六課とクアットロ達が遭遇した時も。アイツの一撃は熱くて良い。昔っから変わらない!って騒いだと思えば、襲撃の後はライザの婆さんに食って掛かっていたな。
 
 抵抗できぬ相手に至近距離から撃つとは何事か!

 と。勝てばいいというわけではない。だが、仲間相手に食って掛かるのはどうかと思う……いや、思ってた。だが今では……。

 いや、止そう……コレは一時の迷いだ。だからこそ――。

 私は私の役目を今度こそ果たそう……ナンバーズ、フィフスナンバーとして。今度こそ!


――sideギンガ――

 夢を見る。
 
 普通の私が、響やアーチェと一緒に戦う夢を。
 傷だらけになってでも、敵わないって分かっても、援軍が来るまで時間を稼ぐ夢を。
 アーチェだけを転移させて、二人で戦う夢も見た。三人で撤退する夢も見た。
 
 だけど、寝ても覚めても……私には現実が叩きつけられる。
 
 あの時、響が私を前に出さなかったのは……私達の事に気づいたから、あの瞬間、響の中では……私は、共に戦う人ではなく、守られる対象になった。
 その事が、何よりも悔しい。
 
 一言、一緒に時間を稼ごうって、戦ってくれと言われなかったのが、悔しいんだ。
 
 最悪なタイミングで暴露された時、心が締め付けられそうになった。
 もし……もしも、もっと早く私が伝えていれば、結果は変わったかも知れない。少なくとも、あそこで響が体を張る必要はなかった。
 
 ふと、思い出す。
 
 スバルやティアナと行った喫茶店の事を。あの日、占ってくれたサテラさんの事を。
 
 何があっても、1人で動かないこと。単独で動けば怪我ではすまないこと……金髪に翠の目の人とは離れる様にと。
 
 占いだからと、流していた。
 そんな都合よく、起きるわけはないんだと。
 
 ……私は、誰かと一緒に居たから避けられた? 結果、1人になってしまった響が対象になってしまった……?
 
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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