魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第58話 終わりの始まり
――side響――
「機動六課担当区分以上はありませんでした。引き続き警備に当たります」
「委細承知。この後もよろしくお願いしますね」
とりあえずの報告を終わらせて、振り返って、来た道を戻る。流石本部って言うほどあるよなー。エントランスルームくっそ広いもん。
「何か言われた?」
「いんや、何も。この後もよろしくねってさ」
「そう、このまま何も――」
けたたましく警報が鳴り響くと共に建物が揺れた。瞬時に真上を見上げると、大量の瓦礫が降ってくるのが見える。
側に居たギンガを右腕で抱き寄せて、後方に飛んで……。
「怪我はないか?」
「大丈夫! でも道が!」
エントランス入り口の方へ向かう道が塞がってしまい、思わず舌打ち。背後では他の局員が慌てて行動を開始するけれど、どうやら本部との通信が繋がらないようだ。周囲を見渡すと他の局員が突然のことに動けずに居るし。
「ギンガ、通信を」
「やってる。だけどダメ、全然繋がらない」
「本部の方も繋がらないし、敵戦力も読めない。だけどこのタイミングで仕掛ける馬鹿なんて」
「うん。スカリエッティ一味だね」
はぁーっと深いため息が出る。最悪の展開予想してたとは言え、本当に来られるとまた違ったショックを感じるわー。とりあえず外へ出て奏やヴィータさん達と合流したいけれど。
突然目の前のシャッターが閉じられた。窓の方もシャッターが閉じられ、完全に閉じ込められてしまう。
「……しゃーない。ギンガよ緊急時のルートは分かるね?」
「勿論!」
フフンと微笑みながら、力強く頷くギンガを見てちょっと一安心。他の局員みたいに慌ててるかと思えば余裕じゃないか。
「結べ花霞」
『了』
「ブリッツキャリバー」
『Yes.sir.』
同時にデバイスを起動して、バリアジャケットを纏う。さて。
「よし行くか!」
「うん!」
ルートを確認して、廊下を蹴って走り出す。結構な遠回りだけどその間に事態の好転は十分ありえるし、まだまだ悲観するには早すぎる。
どっちにしたってもう、あり得ないは通じないんだ。だからこそ。
「これ終わったらなのはさんとヴィヴィオのお祝いもあるんだ。しっかり捕まえて全部終わらせよう、な!」
「うん!」
――――
遠回りルートを通って早数分。ギンガと共に通路に現れるガジェットを蹴散らしていく。小型を手早く片付けた後、二人同時攻撃にてⅢ型を破壊。よしよし、訓練の成果が良く出てるね。
そのまま移動を開始しようと踏み込んだ瞬間に。
「あっ!」
「どうした?」
突然のギンガの声を聞いて慌てて振り返る。すると懐に右手を入れて何かを探すようにしたかと思えば、何かを取り出して。
「響、これ! 転移札! これで皆の所に……」
「通信も何もつながらない状況でか? 俺らでこれってことは向こうも同じだろうし、何よりそこまでピンチじゃないだろう?」
あっはっはと笑いながら言うと、恥ずかしそうに俯くギンガを見て。ちょっと罪悪感。
まぁ、転移札あるってわかってると頼りたくなるのは仕方ないけどねー。刀を鞘に収めて、空いた手でギンガの頭を撫でてやる。
「でもありがと、我ながらちょっとテンパってたみたいだ。ありがとな」
「うん、そのごめんなさい」
「気にすんな。さ、行こう」
再び足を動かす。奏達もこんな状態だろうし、同じように合流地点を目指してるはずだしね。
ただ、この先って図面じゃ確か開けた場所だけど……。多分きっと。
「予想はしてた。悪い予想はとことん当たるのが嫌なところだな」
「そうだね」
広い空間となっている場所には1人の少女。エリオやキャロと同じ位の眼帯をつけた女の子。ただし、その服装を見て1つ気になった点がある。
インナーというか、中に来ているのは、この前見た奴らと同じ青いボディースーツ。だけど、その上にオーバーコートを纏っているのを見て、不意に流の姿とダブってしまう。
アイツも防御に比重を置いたコートを羽織ってたからな。
「あー……つかぬことを聞きますが、俺らここを通り抜けたいんだけど、ダメ?」
「すまない。私にも役割があってな。それは聞けない相談だ」
突然の雑談にギンガが目を丸くするけど、ちょっと放置。今は……。
「左様で。じゃあ名乗りを、機動六課ライトニング所属の緋凰響だ。そちらは?」
少し考えるように視線をずらした後、こちらをしっかり見据えて。
「ナンバーズ、フィフスナンバー、チンク」
「そっか、チンク……さんって呼んだほうがいいか?」
「どちらでも構わん。お前は……そんな温い話をしたいのか?」
明確な敵意を持ってこちらを睨みつける。金色に輝く瞳がギラリと光る。
だけどね。
「温い、か……。それなら質問、何故ガジェットと共に攻めずにここで待ってた? 実力に自信があるのは大いに結構。ここで大人しく待ってることに、誰も倒れていないことに俺は不自然さを感じるんだ」
「……そうか。いや、それもそうだな。失礼した」
……うーん、やっぱりコイツ敵意はあるけど、何ていうか……。まぁ、管理局員としての責務は果たすか。
「さて、チンク。ここまでやられて言えるセリフじゃないけど。大人しく投降してくれると嬉しいなって。今ならまだ軽くで済むし」
「それは聞けない相談だ。こちらからも1つ。その隣の……名は?」
ちらりと視線がギンガに向いたのを確認して。こちらも視線をギンガへ向けて――
――sideギンガ――
こうして直に見た時、心が締め上げられる感覚に陥ったけど、響と……チンクの会話を聞いてると、徐々にほぐれていった。
何というか勝手にこう考えてたんだ。戦闘機人と出会ったら戦わないといけないって。こちらの言い分なんて関係なく戦って止めなくちゃって。
だけど、実際は……普通に会話している。そして、こちらの方を見てから。
「ギンガ……ギンガ・ナカジマ」
一瞬名字まで言うかどうか悩んだけど、響も名乗ってたし私も同じように名乗る。
「……そうか。ならばギンガ。私と一緒に来てくれないか?」
ドクンと心臓が跳ね上がったような感覚を覚えて、一瞬立ちくらみを起こす。けど、ギュッと右手を握られて、その先を見ると。
優しそうにこちらを見守る響が居た。それを見て深呼吸を1つしてから。
「ごめんなさい。それは聞けない相談です」
「……だ、そうだ」
チンクと名乗った少女は残念そうに視線を泳がした後で。こちらを見据える。
「……そうか。すまないが手荒い方法になるが、多少無理をしてでも連れていく」
「それを許すと思うか? こちらこそ、貴女を保護する。強襲を掛けたんだ2対1で対応するが問題ないな?」
「あぁ、構わないぞ。出来る限り加減をするが……許せよ?」
チンクが手元にナイフを何本も出現させる、それに合わせて響も刀を抜いて、私も構える。
一瞬の静寂。そして、どこからか小さな瓦礫が落ちた音と共に。
「「行くぞ」」
チンクと響が同時に呟いたと同時に、チンクが手にしたナイフをこちらへ投げつける。その狙いすまされたナイフを響も私もその場から離れて回避。
だけど、ナイフが地面へ着いたと思いきや、爆発した。もしもあのまま盾を使って受け止めていたらと考えると背筋が凍る。明らかにナイフに仕込める爆発物の量を上回る威力だ。
「危ねぇ……どういう仕掛けだよ、このナイフっ……!?」
「私の力だ」
意外にも、響の独り言に答えが返ってきた。
「そう、IS発動――ランブルデトネイター!」
飛んでくるナイフを刀で弾き飛ばし、その先で爆発が起きる。明らかに多数のナイフを投げられて、それを弾いているにも関わらず。こちらには一本も飛んでこない。
チンクの視線が響に向けられている間に、背後に回り込んで――
「はあああああ!!」
「チィッ!」
カートリッジを使って魔力を上昇させて、左のリボルバーナックルをチンクへ向けて叩き込む。強力な盾が現れるが関係ない。このまま!
「ッ! ギンガ、直ぐに防御!」
「え! なっ?!」
突然の怒号に集中が切れる、だが、そのお陰で周囲が一瞬見えた。私をぐるりとナイフが囲んでいるのが見えて。
『Protection&WingRoad.』
周囲をバリアで覆った後に、ウィングロードで上に道を作ってそこへ逃げる。前後左右に逃げては意味がない。ならば上にと思ったけれど……。襲い来るナイフの爆発でその判断が正しかったと痛感した。
わずか数本のナイフが当たっただけでバリアに罅が入る。あのまま足を止めていては危なかった。
そのまま響の頭上まで移動して、降りてから。
「……これは、お互い無事に遂行できそうにないな」
「……そうだね」
改めてチンクを見据えて、構える。一筋縄ではいかないけれど、しっかりやらないと!
――side奏――
「こんんのおおおお、うざってえええええ!!」
「どっちが」
スバルを赤髪にしたような女の子の蹴撃を躱して、紗雪が一撃一撃を的確に当てていく。だが……。
威力が低すぎる。
だけど考えてみればそれもそのはずだ。現在の紗雪の魔力出力はBランク程度、本来の保有量、出力を考えると大分下げられているし、何よりも。
今の私と紗雪の目的はティア達が、なのはさんの元まで向かうまでの十分な時間の間の足止めだ。
きっとヴィータさんが居たら、もっと手早く済んだろうけど、生憎ヴィータさんとリインさんは外でのお掃除の最中だし。それに私も。
「この……ちょこまかと!」
「そんな大きな獲物じゃ避けきれないでしょう!」
二丁のライフルを、大きな大砲のような、盾を持つ女の子へ向けて射撃。その間もあちらから撃たれてくるけど、弾道予測がわかりやすくて、回避しやすい!
だけど、そろそろだ。紗雪の方を見ると、ちょうどあちらも察してくれたようで。印を結んで、3人に分裂したかと思えばそのまま1人が私の元へ、もうひとりは盾を持った子の元へ、最後の1人はそのままスバルのそっくりさんと戦闘を継続して。
「奏、お願い」
「うん、分かってる!」
二丁の銃を真上に向けて白く輝くスフィアを作成して、そのままトリガーを引いて。まばゆい閃光弾とする。あちらで二人が怯んだのを感じながら、私と紗雪も合流地点へと足を進めた。
時間をかければ何とかなったかもしれないけど、こういう状況だし、私達の役割は既に果たした。ならば後は合流を目指すのみだ。
―――
本来進みたかったルートを遠回りをせざるを得ないとは言え。数分程移動してから。
「皆大丈夫かな?」
「さぁ、デバイスの直接通信も効かないとなると……転移札も使いにくいし。正直最悪だ」
懐から出した転移札をギュッと握りしめながら悔しそうに呟く。予定じゃ合流地点までまだ数分掛かるとは言え、少し妙だなと思うのが。
「……追ってこないね」
「うん、分身もさっさと片付けられたのにね、なにかあるのか、下がったのか分からないけど…‥」
二人してため息を吐いて、色々予想を立てるけど……わかんないなぁこれは。そして、アラートが点滅する。この先に通路にはガジェットが何機かいるようで……。
「合流まで後10分かな?」
「多分、じゃ私が前を張るから、後ろ頼んだよ?」
「任せて」
曲がり角を曲がったと同時にガジェットの一斉射をそれぞれ交わしつつ、再び戦闘を開始する。今は出来ることを一つずつこなさないと行けないしね。
――side響――
やーまいったねどうも。遠くから何かが壊れるような、重い音を感じながら。
「うおらぁ!!!」
「よっと」
スバルのそっくりさんの一撃を回避しつつ、偶に飛んでくるナイフを弾くだけの簡単な作業。くっそー、名前伺ってもダメだったしなぁー。ボードに乗った子は素直に名乗ってくれたのに。
―――ウェンディっすー。
―――名乗ってんじゃねぇよ馬鹿!
いや~仲良さそうで何よりなんだけど……3対2って辛いわーって。正確には2対1とタイマンで別れてるのか。俺がチンクとスバルのそっくりさんと交戦している中で、ギンガはウェンディと名乗った女の子と戦ってるけど。
中々うざいというか何というか、ガジェットのI型を連れてそれを弾幕を張らせて近づけさせないようにしてやがる。それに気になることも言ってたしな。
―――さっきの分身野郎の分まで蹴り砕く!
分身に心あたりがあるのはフェイクシルエットを使うティアか、それとも文字通りの分身を行う紗雪か。はたまた知らない局員さんか。どうかわからないけれど、恐らく二人のうちのどちらかだな。
という事は割りと近くに居たということだけど、ウェンディのボードを見てると分からなくなるし、スバルのそっくりさんもウィングロードみたいなものを展開できるから、移動速度は思ってる以上に高いはずだからなー。ここに来たときだって、チンクがここに来たであろう穴からそれぞれ来たわけだし……。
実際はどれくらい近くにいるのかわからないし……それに、さっきから聞こえる音も徐々に近づいてきてるし。なんだろうねこれ、足元……いや下のフロアまで来たのは分かるけど。よし。
「なぁ、赤い子よ?」
「なんだクソが!」
……口悪いわー。まぁいいか。
「お前らの中でよ。重い武装振り回して来るやつって居るの? あと名前教えて?」
「知ってても言うかバーカ!」
「あぁ、この子の名前はノーヴェだ。そして、その質問の答えは居ないな」
「ちょ、チンク姉!?」
ほー、この子はノーヴェって言うのか。なるほど。そして、こいつらの仲間に居ないとなると……じゃあこれって。
なんて考えていると……。不意にチンクがその場から離れたと思いきや。
「は!?」
真下から何かが床をぶち抜いて、そのまま天井まで上り詰めた。粉塵が舞う中で、ジャラジャラと鎖がぶつかる音がする。そして、よーく目を凝らして天井に打つかった物……いや、めり込んだものを見ると。黒く大きな鉄球。そして、鎖が穴の中まで入ってるのが見えて。
「……戦闘が始まってんのは、知ってたが……合流に手間どったよ。私が来たよ響!」
「……おいおい」
粉塵が舞う中で何者かが穴から這い上がってくるのが見える。ゴリゴリと何かを引きずる音と共に、天井にめり込んだ鉄球が落ちた。それが床へと落ちた振動を感じながら、その人物を見て、ため息を1つ。
「……業者じゃないんだから、回ってこいよ。アーチェ?」
「近道かと思って、ね?」
シスターらしからぬノリと勢いで、アーチェが鉄球を持ってそこに現れた。
あまりのことに皆の行動が止まる。俺もギンガも、チンク達も。ガジェットでさえも、銃口をアーチェに向けている。
だが、これで……。
「アーチェ!」
嬉しそうにアーチェの名を呼ぶギンガに、嬉しそうにサムズアップを決めてるアーチェを見て、ちょっと苦笑い。
君等もうちょっと緊張感持とうよ?
「やっほギンガ。久しぶり!」
「良かった……久しぶりって、どうしたのその格好?」
「私の防護服。あんまり表に出せないんだけどね-」
ゴスロリ服の様なバリアジャケットのスカートの裾を指で持ちながら、頭を下げるアーチェに思わずスカートも履いてないのに同じように返事を返すギンガを見て……吹き出しそうになるのを必死に堪える。
スカート履いてないじゃんとか言ったら殴られる可能性あるしねー。
さて。
「これで対等かな? 3on3になったわけだが……。ギンガはノーヴェを、アーチェはあの板を持った子を。そして、俺は――」
短く指示を出した後で、あちらも三人集まっている。その中で1人……チンクを見据えて。
「チンクを抑える。だから、頼んだ」
「了解!」「任せて」
俺とギンガは真っ直ぐそれぞれの相手へ突っ込む中で、アーチェは両手の小さな鉄球を飛ばしていく。
さて、第二ラウンドと洒落込もうか!
――side時雨――
もう少しで公開意見陳述会も終わると言った時にそれは起きた。管制室でリアルタイムの映像を受信しつつ、地上本部ビルも私達は監視……というか、そこも映す。何かあれば動きはあるからという理由で。
嫌な予感というのは的中するものだと改めて実感した。一瞬だったからよく見えなかったけれど、砲撃のようなものを打ち込まれたのを皮切りに、地上本部ビルから上がる黒煙、加えて本部への通信が途切れたことをルキノが報告する。
そして、映像越しでも分かるほどのガジェットの大量召喚。それはあっという間に本部を取り囲み、全方位から本部のバリアへ突撃する。幾つかバリアの圧力にやられ爆発したが、それでも無理に突破して内部へ侵入していく。
そこでライブ映像が途切れた。唇を噛み締めて思うよ。鮮やかに、そして、効果的に襲撃を成功させたなと。
だが、配置を見て変だと思う。恐らく内部からも侵入はされているだろうが、それでもだ。わざわざ外部から食い破ると言った方法を取る必要があったのだろうか?
派手すぎる。力を見せつけるなら、内部を無力化させて蹂躙させるだけでもいいだろうに……いや、待て。
そこまで考えて気づいた。
「直ぐに周辺の索敵を! 優夜、煌!」
グリフィスさんの激が飛ぶ。一応ということで二人には外の警戒を当たってもらっている。その二人へ連絡をつなぐと。
『こちら訓練スペース側担当の煌より! あぁ、見えてるよ。最悪だ六課の周辺全部囲まれてる』
『隊舎後方担当の優夜より、現状は最悪。こいつら……狙いは六課だったみたいだ!』
ギリッと拳に力が入る。ならば私のやることは。
「時雨。優夜と煌の指示をお願いします。貴方の場所はヘリポート付近からの二人のサポート。出来ますね?」
「えぇ、委細承知。……プランの1つが潰えましたね。最悪な場合私達でヴィヴィオを連れて逃げる策が」
「……えぇ、残念ですが。お願いしても?」
管制室をぐるりと見渡すと、皆の視線が私に集まっているのが分かる。現状を六課で戦える人間の1人だし、何よりも。
「任されました。六課の本命はシャマル先生とザフィーラさんです。それまでやってみます。じゃあ行ってきますねー」
モニターに映し出されてる優夜と煌は既にガジェットとの戦闘を開始している。現時点では優勢だが……。
「皆も危ないと思ったら直ぐに逃げること。シャーリーさん……いえ、シャリオも。響達3人のデバイスの避難は済ませた?」
「当然! 大事な大事な3機だもの。平気よ」
声が震えてる。誰だってここが襲われるなんて思いたくなかったんだよね。万が一があるかもしれないと思ってたけど、それが当たるなんて考えても居なかったし。
「……! 更にガジェットの出現と高エネルギー反応2、戦闘機人です!!」
悲鳴の様なアルトの声が聞こえたと同時にため息が出た。
「じゃ、いってくる。あ、そうだ」
再び視線が私の元へ集まった。それを感じ取りながら。
「奏と連絡を取った時にね。言ってたの。なのはさんがヴィヴィオを正式に引き取ってママになるって」
キョトンとする皆を尻目に、今できる笑顔を見せて。
「だから、明日は皆でなのはさんとヴィヴィオをお祝いしよう、ね? じゃあ、また明日ねー」
くるりと背を向けると、いつもの皆のように、明日はお祝いだって声が聞こえる。明日への希望を、私達が守り抜くというビジョンをイメージして。深呼吸。
―――よし!
直ぐに廊下へ出ると共に、二丁のリボルビングライフルを手にとって、いつもの管理局のローブの様なバリアジャケットを纏う。現在二人の位置を考えると、私が行くべき場所はただ一つ。
中庭に駆け込んだと共に、飛翔し、ヘリポートへと降りると共に。二人に通信を繋いで。
「こちらアサルト3! これより、支援射撃を開始します!」
『了解!』『無理すんなよ』
煌は元気な返事を、優夜はこちらを気遣ってくれた。それに一瞬頬が緩むけど……直ぐに引き締めて。
「それは皆もだよ、じゃあ行くよ!」
『『おう!』』
さぁ、時間稼ぎを初めましょう!
――side響――
3on3が始まって早数分。現状はと言うと。
「くっっそおおおお!」
「甘い!」
視線の端で、ギンガとノーヴェがぶつかり合う。拳では分が悪いと察したのか、加速をつけた蹴撃。それもギンガやスバルがつけてるリボルバーナックルの様な機能を持ったブーツ型のデバイスでの一撃。
普段なら重くて当たると不味いと思える代物。
だが。
その一撃を完全に見切って、拳のその軌道をそらして、空いた所に。
『Divine Buster.』
「シュート!」
「ぐ、ああああああ!!?」
上手いもんだと感心する。チャージに時間がかかるということを考慮して、その時間の間を防御と見切りに集中したかと思えば、一切手を出さず相手が痺れを切らして大振りの攻撃に合わせて撃ち込んだ。
あっちは問題ないな。
アーチェの方も取り巻きのガジェット潰しきってるし、後はウェンディだけを抑えるだけか。手早すぎて見て無かったよ。
で、俺の方はと言うと。
視線の先でチンクは再びナイフを取り出したのを確認。下段の構えをとりつつ、自然と花霞を握る手に力が入る。右手には鞘を刀に見立てて使ってる。
息を飲んだと同時に。再び飛来するナイフを振りあげて斬り、一気に最高速でチンクの元に踏み込む。刹那、目が合ったのを確認。
―――お互い損な役割だな。
―――あぁ。
アイコンタクトで会話できたことに驚きつつ、そのまま鞘を振り下ろした。コートからバリアが出現し、防がれるものの。直ぐに左の刀を下段から振り上げつつ、その勢いのまま、右手の鞘をバリアへ突き立てる。
流石に不味いと察したのかチンクが距離を取ろうと下がったのを確認しつつ、直ぐに右手の鞘を逆手に……鞘としての機能を使うために持ち直して、そこに刀を収めて。
再び踏み込み、突進。だが、さっきと違うのは抜刀からの正面へ、斬りつけ1つ。その勢いのまま背後に回ってもう1つ。
海鳴で見た恭也さんの連撃を参考にした動きだ。本来なら二刀ですることを一刀で、それも一撃ずつだ。威力は落ちるが速度ならそれなりに早い。
が、切り込んで距離を取って。ため息を1つ……。
「硬いね」
「今のは……なるほど、侮る事はしないが、良い一撃……いや、連撃だな」
無傷だということを強調しているようで嫌になってくる。
……ふと、懐に入れているデバイスが振動したように感じた。暁鐘と晩鐘。始めてみた時凄い刀だと思った反面、握った時に、手に持って構えた時に痛感した。今のままでは扱えないと。これでは不味いと。
恐らくこの二本ならば俺の全力を受け止められるかもしれない。だが……。
「花霞。少し本気で斬り込む。バリアジャケットへの魔力を最低値に、刀の修復に全力を注いでくれ」
『了。しかしそれでは当たれば怪我を』
「しゃーない。ある程度は抑えないと行けないし、ここで三人保護できたら、後が楽だろう? 今、全力を尽くして俺は後方指揮に回ればいいよ」
事態は好調だが、チンクの能力を考えると……ここで何とか拘束しとかねーと不味い。ナイフの数も無尽蔵みたいだし。何よりナイフを一点に集めて撃たれた日にゃ……大惨事程度じゃ済まされねーし。
わざとそうしないのか、それともただ俺達の実力を図っているのか。それとも……。
ちらりと赤毛ーズをそれぞれ見てから、視線をチンクへ戻して。なんとなく察する。
妹に当たる二人に気遣ってるのかね? まぁいいか。もう一度刀を構えて、今度は当てるつもりで―――
「ッ! ウェンディ! そこから離れろ、速く!」
お? 突然の怒号に思わずウェンディとアーチェの方を見る。そこはノーヴェとウェンディが現れた穴の付近だが。
そこまででようやく気づいた。高速で何かが接近してることに。慌ててその付近で戦うアーチェに声を掛けようとした瞬間。
赤黒い魔力を纏った何かが二人を弾き飛ばした。ウェンディは背後から、アーチェは正面から左横腹を蹴られて、体がくの字に折れ曲がって吹っ飛んだところ見てしまう。
直ぐに飛んで、アーチェが吹き飛ばされる射線に割って入って受け止める。
「ぐ、ゲホ……ガハッ!」
「大丈夫……鉄球重ッ?!」
直ぐにアーチェを下ろして横にする。蹴られた部分のバリアジャケットが焼け落ち、肌が露出している。だが、それ以上に……。
左の肋骨が折れてることに気づいた。ゴスロリかとと思うほどのバリアジャケット。つまるところ防御に比重を置いている証拠なのに、それを抜いて骨までいってる。
手当をしてやりたいけど……それは叶わない事を知ってる。だからこそアーチェの前に出て構える。
「何者だ?」
背後からの強襲を考えるとチンク達側だとは思えない。だが、こちらは通信が使えない状況で、あちらが先に気づいたということは……下手するとあいつら側かも知れない。考えたくないけども。
「ヌル! ウェンディごと巻き込むなんて!」
「あらチンク? こんな所で何をしてるの? 3人も居るにも関わらずに、ねぇ?」
小麦色のローブを纏ったそいつは、嫌になるほど見覚えがある。
ホテル・アグスタで、ヴィヴィオを保護したあの日と。嫌になるほどに。
そんな事を考えてると、不意にこちらを値踏みするように眺めてから、一言。
「貴方の目的はタイプゼロの捕獲。なのに何故まだ五体満足で居るの? やる気あるのかしら?」
口を開き、不機嫌そうに声を漏らす。
ただそれだけ、別に攻撃をしてきた訳でも、殺気をぶつけられた訳でもない。
それでも感じた。矢張りコイツはヤバイ、と。
同時に考える。ホテル・アグスタ、ヴィヴィオの時とこいつが現れた理由を。
そして、こんなに不自然なまでに見た目が……ヴィヴィオと瞳の色が一致するのか? と。
ふと、嫌な考えがよぎる。戦力をここに傾けているのは、ギンガに用がある。前者2つは、スバルとエリオが居たから?
そして、もし……同じ目をしたヴィヴィオも対象だというのなら。
「……アーチェ、鞭打つようで悪いが、ギンガの援護出来る?」
「ゴフッ……何とか。良いのを貰った、でもまだ立てるし、動けるよ」
震えるアーチェの手を取りながら、苦しそうにしながらもニヤリと笑ってるのを見て申し訳なる。
「……そうか、悪いが二人でチンク達三人を抑えてくれるか。俺があのローブを抑える」
「響待って、それなら三人でチームアップで戦えば……」
「ダメだ」
いつの間にか俺達の側まで来ていたギンガの提案を直ぐの却下する。
「で、でも……」
「……チンクの言葉と、今のやつの発言で。敵の狙いがギンガがなのに。メインで戦わせるわけにはいかんよ」
とは言ったものの……ギンガが狙われてる以上、アーチェと二人で戦わせてもギンガが狙われるのは明白なわけで。かと言ってローブのやつの……ヌルと呼ばれた奴の実力は、嫌になるほど知っている。
ギンガとアーチェなら、もしかすると不可思議防御を撃ち抜けるかも知れないが、負傷したあーちぇ、狙われてるギンガを前に出すわけにはいかない。
視線をあいつらに向けると。チンクが倒れたウェンディの側に駆け寄って、その隣にノーヴェが二人を護るようにヌルとチンクの間に立ってる。
だが、ノーヴェ自身もギンガからの一撃を受けたせいかダメージは軽くないように見える。
そして、あの図を見れば仲が悪いのは察することが出来る。
ということは、だ。時間稼ぎをすれば―――
『主!』
「ッ!」
花霞の声を聞いたと同時に、自然と体が動いた。
「久しぶり、ねぇ……ヒビキ?」
「……おいおいまじかよ。ギリギリまでわからんかった」
拳と刀がぶつかり合う。割りと距離を取ったにも関わらず、一瞬で詰めてきやがった。しかも……。
「お前、ギンガに向けて来ただろ?」
「えぇ。私を前に、他の女の話? つれないわぁ……それは、ある程度原型を留めておけばいい、そう言われていたので……そのつもりでしたけど?」
ギギギッと花霞の刀身から嫌な音が聞こえる。こいつ、今の反応出来てなかったらギンガに怪我どころの騒ぎじゃない。それこそアーチェの時の比じゃない。首折るレベルだろうし……。
クソッ!
「あら?」
刀を引いて体制を崩した後。手首を引寄せ、そのまま襟元を取って。
「うらぁ!」
ローブを剥ぎ取る勢いで、投げ飛ばす、空へと投げ出されたアイツ目掛けて。苦無を二本投げ込む。
だが、一瞬赤と緑の目を輝かしたと思いきや、ニヤリと笑みを浮かべて両手を振って苦無を弾く。
そのまま着地をしたのを確認して。改めて思うのが……コイツ、ヌルとか言ってたか。
コイツの姿を見ると……どうもヴィヴィオを思い出す。胸元に0と書かれたプレートをつけて、青いボディースーツ。
そして、はやてさんのバリアジャケットのような、青い縁取りのされた上着と腰には裏地が赤の黒いマント。
何というかヴィヴィオが成長したらこんな感じになりそうだなと思う。
ただ、こんなに性格の悪そうにはならないと思うけど、な。
「大胆ねヒビキ? 見えてたのに、反応が出来なかったわ」
「……?」
見えてた? 何を? ……考えられるのは手首を取った時のことか、はたまた投げられたことか。
まぁどっちにしろ、だ。完全に殺意向けられちまったし。
「チンクとその愚妹共。タイプゼロを捕まえなさい。私はあの人と語り合うわ」
後ろにいるチンクに達には目もくれず。淡々とそう告げるのをみて、気分が悪くなる。コイツ完全に……妹に当たるであろうあの子たちに興味を持ってないということが分かるから。
「……行くぞノーヴェ。ウェンディ、動けるか?」
「だ、大丈夫っす。ギリギリ受け身とれたっすから」
「……チンク姉。さっさと捕まえて戻ろう」
あぁ、最悪。この後どうするかも告げられないまま、戦闘が始まりだすしよ……。
ちらりと視線をずらせば―――
「よそ見はダメよ」
「っ、―――だよな」
迫りくる右拳を刀を抜いて、受け、流す。流れるように左拳が向かってくるのを、鞘で受け止め弾き返す。そのまま体を右にずらして、がら空きになった背後から一撃を振り下ろす。が、体制を崩しているにも関わらず右の拳が最短を走って来るのを見て、それを躱す。
それからはその繰り返し、迫り来る2つの……否、乱舞の如く繰り出される連撃を、横から統べるように刀で鞘で弾いて流す。
鈍い鉄の音が辺りに散らすのを感じながら、刃が、拳が触れ合う度に飛び散る火花も、音も一瞬たりとも掻き消えることはない。
短い時間で、何百、いや何千と到達しそうなその斬り合いを、紙一重で捌いていく。
徐々に歓喜の笑顔を見せるヌルを見て、舌打ちする余裕すらないことに気づく。あちらは十全な魔力と、鉄の拳でこちらに向けてるのに対して、こちらは花霞一本。それも……。
一撃を受ける度に罅が入っては、即時に修復を繰り返してる状態だ。
いや、これは良いわけだ。分かってたじゃないか。花霞では……脆いという事を。それでもこの子を使い続けたいと願ったのは。皆がわざわざ作ってくれたこと。せっかく綺麗な刀身に可愛らしい鞘。
なによりも。
―――全身全霊を持って、あなたに御使えいたします。
AIだから、そういったのかもしれない。だけど、こんな小さな子がこんなに嬉しいことを言ってくれたんだ。使い手がそれを使いこなせずなんだと言うんだ。俺の魔力が少ないことを考慮して作られたデバイスに報いる為に、何よりお前は弱いデバイスではないと証明したいんだ!
だから。
「あら?」
大きく弾いて、距離を取る。
「花霞。行くぞ」
『了』
刀を鞘に収めて、腰に差して居合の構えを取る。そして、踏み込んだと左右にフェイントを入れて撹乱。そして、不意に接敵したと同時に鞘を走らせ、抜いたと同時に振り抜く―――
「……マジか」
「……見えててもこの速度。やっぱり……最高よ、ヒビキ!」
完全に捉えたはずだった。だが、現実は振り抜いた直前で止められた。
が。コレでなんとなくわかった。考えたくないけど……コイツは。
……なら、俺の勝利条件は。
もう一度大きく弾いたと同時に距離を取る。そして、懐に手を突っ込んで、札を握りしめて、全力で気合を込めて。
(紗雪!)
(え、あ、響?! 良かった無事だったん)
(5秒後に二人を転移! 急げ!)
(了解、でも何)
握りしめた札を取り出すと同時に苦無を取り出して、その切先に札を突き刺す。そして。
「アーチェ、伝言!」
「何? 痛っ?!」
「一刻万金、疾く疾く御退候」
「は? 何? とくとくおのそうろう!? なにそれ!?」
持ち手の部分を先にして投げつける。札がついてるのを確認すると同時に、再びヌルがこちらに踏み込んだのを感じ取って迎撃する。
「ギンガ! 5分だ、5分持たせるから……頼んだよ?」
「響、何を?!」
背後から声が聞こえる。だけど、振り返って笑みを見せることが出来ない。安心させることが出来ない。それほどまでにアイツの連撃が重く、隙が無い。
攻撃を見切って捌けるとは言え、こちらの想定上に早いのと、こちらの防御が薄い部分を的確に抜いてくること。もっと言えば。コチラが攻撃をした直後に出来る隙間に通してくることが出来る。正直最悪な状態だ。
「まぁ、なんだ……頼んだよ」
「ちょっ」
背後に蒼白い光が発光したかと思ったら直ぐに収まったのを感じる。さて、と。
「……何を? 一瞬魔力が切れたかと思えば、何も感じずに二人が消えた。何をしたのかしら?」
「じゃぱにーずニンジャですよ。ニンニンっと」
人差し指と中指を立てて、片手でニンジャのポーズを取る。ほんとビックリだよね忍術って。
さて、と。
「どうする? 追いかけるか、それとも撤退してくれるか……個人的には後者を進めますけど?」
「……ふふ、気が変わったわ。チンク、しばらくそこに居なさい……5分と言ったわね。さぁ、私と遊びましょうか!」
「あぁ、来いよ!」
あの三人が動かないというのなら、そいつは重畳! 安心してお前の足止めを出来るんだからな!
――side奏――
「居た、皆ー!」
なのはさんから指定された合流地点に私と紗雪が遅れて到着。何か既になのはさんとフェイトさんも居るし、シスターシャッハも居る。という事は、だ。デバイスを届けるという事は完遂したわけで。ホッと一息。
「遅れて申し訳ないです。スバル達から報告は?」
「うん、聞いたよ。赤い女の子二人を相手にしてくれたんだよね? 大丈夫聞いてる。その後は?」
「あの場で取り押さえる事ができず、一時撤退を選択しました。力及ばず申し訳ないです」
「ううん、大丈夫。後は響とギンガが来れば……」
ちらりと視線をスバルに向けると、心配そうな顔で、色んな回線を使ってギンガと響と連絡を取ろうとしている。
「……ティアナ」
「襲撃が合って以来連絡がつきません……何かあったのは間違いないかと」
ティアの報告を聞いて、なのはさんとフェイトさんがそれぞれ思考する。こちらに向かう途中でノイズ混じりの通信が届いた。内容は現時点で六課も襲撃を受けているということを。
なのはさんが、何かを決めたようで。隣に立つフェイトさんへと視線を向け、お互いに頷きあい、スバル達の方へと視線を戻して指示を告げる。
「分散しよう。スターズは響とギンガの救援と、襲撃戦力の排除。ライトニングと紗雪は六課に戻る」
……六課に戻るということは、襲われているのか。最悪じゃあないか。
「え、な、ごめんなさい。ちょっと待って下さい!」
突然紗雪が声を上げたと思えば、札を持って青い陣を展開。という事は……。
「連絡がついたの?」
一瞬表情が明るくなったフェイトさんの言葉を聞いて、紗雪が首を横に振って一言。
「5秒後に転移させろってだけです。来ます!」
紗雪から少し離れた先に札を2枚投げつけたかと思えば、札を中心に魔法陣が展開。そして、一際光が集まって―――
「と待って!」
え? な、え? 何でここにアーチェが居るの?
「アーチェ、何故貴女が……それよりも怪我が!」
「ギン姉! 良かった!」
……いや待って、という事は……。
最悪なことが頭をよぎる中、ギンガがスバルの顔を見て、辺りを見渡す。そして、直ぐになのはさん達の方を見て。
「報告します。現在4人のナンバーズと響が交戦しています! 直ぐに救援を!!」
「待って、その前に響から伝言が。なんか、いっこくばんきん? とくとくおのそうろう……? なんかそんなこと言ってたよ」
懇願するように悲鳴のようなギンガの声と、分からない様子のアーチェの伝言を聞いて、分かってしまった。
立ちくらみのような感覚に襲われ、後ろに倒れそうになる―――。
が、寸前の所で止められる。視線を向けると紗雪がニコリと笑みを浮かべた。
だけど、その手は震えている。紗雪もまた、この言葉の意味が分かった。だからこそ。
「高町隊長、ハラオウン隊長。ご決断を。響を切り捨て、六課に向かうかどうか。ご決断下さい」
地に膝と拳をつけて、決断を促す。
「かな、で? 何言ってるの? これから別れて、助けに行けば」
「おそらく。響、いえ、緋凰は六課が襲われていることに気づいた。加えて、他に何か理由があって、私達を近づけないようにしています。
シスターアーチェの伝言は一つ。時間はありません、急いで為すべきことを為して下さい。緋凰は伝言にそれを乗せて伝えてきました」
空気が凍る。分かってる。皆心配しているというのは強く分かってる。
一刻万金、疾く疾く御退候。
私達の中で決めた撤退の伝言だ。
目の前が涙で歪む、だけど、それを言わなきゃいけないほどの何かがあったという事だ。
事実、アーチェの負傷、それも決して軽くないものに、ギンガもジャケットに傷はついているが、ほぼ無傷だと言うのに、送ってきたということ。
これを考えれば。おそらくギンガに何か関係している可能性がある。
「5分もたせるって、頼んだよって。響は言ってた!」
「……文字通りの時間稼ぎに、頼んだっていうのは、行けない自分の代わりにって意味だよ」
「絶対違う!」
右脇に手を入れられ、立たされると共に。
「敵が4人居て、今から急げばまだ間に合うかも知れないのに!」
涙目のギンガと視線がぶつかる。
「なら詳細言える? 私達と交戦した程度の子達なら、響なら負けはない。なら、貴女達を送り出すことは絶対にしない。
でも、それでも2人送り出したってことは……想定外のアンノウンが居たんじゃないの?」
「それは……!」
やっぱり居たのか。
ということは、ギンガをこのまま下げるのがベストだろう。そして、響はきっとこう考えたはずだ。
なのはさんとフェイトさんは、揃わない可能性が高いだろうと。
だからこそ。
「隊長。ご決断を。真直六課に向かう事を。もしくは――地上に強い面子で最短を急いで行くか。どうか、ご決断を」
私達が出来るお願いは。
「もし、アグスタで現れた、あのアンノウンの何方かがいるのなら、間違いなく響が危ない。
ですが、この場に隊長は2人居ます。何方も簡単な道では無いと分かっています。だから、だからどうか」
声が震えそうになる。それでも真っ直ぐに2人の隊長へ伝えれば。困ったような笑みを浮かべたなのはさんが。
「可能性があるのなら。勿論。なら少し編成変えよっか?」
すぐに紗雪が軽く手を上げて。
「なのはさん。響の救援に私も行きます。空を飛ぶより、地を駆けたほうが早いですし」
「許可します。そして……」
ちらりとなのはさんが、地に伏せてるアーチェに視線を向けると。体を震わせながら、よろよろと立ち上がる。
「……勿論私も行きます。あの人に響に頼まれました。5分持たせるから頼んだ、と。だから」
私も行くというと同時に、アーチェの手をシャッハさんが取った。
「ダメです。その怪我では行った所で足手まといになります。貴女は私と共にカリムの元へ行きます」
アーチェの目が見開いたと同時に。
「断わります。助けられてばかりでは」
「だからその怪我ではダメだと!」
「ッ、あの人の手がかりを! やっと、やっと手に入れられそうなんです。それに」
私と紗雪に視線を向けて、直ぐにシャッハさん見据えて。
「これで進展すれば、やっと彼らと彼女らの重荷を取ってあげられるんです。だから!」
重荷と聞いて、一瞬心が締め付けられる感覚に囚われる。アーチェが何を差しているのか分かるから余計にだ。
だが、思いが通じたのかシャッハさんの表情が和らいだのを見て、私も安心する。だけど……戦術的に考えると今のアーチェを連れて行くのは……。
「わかりました。そこまで言うのなら仕方ありませんね」
「っ! 感謝します、シスターシャッ……」
……一瞬安心させたかと思えば、目に止まらないほどのスピードで、アーチェの腹部に重い一撃を与えて意識を刈り取った。
「……皆さん。健闘を祈ります。では!」
そのままアーチェを抱えて走り去っていった。
……ごめんなさいアーチェ。今度必ずお礼をするからね。後は……。
驚いてるギンガの、右手を取ってギュッと握りしめる。やはり責任を感じているのか、何処か怯えたような目で私を見る。
……そう言えば、私ってばあまりギンガとお話して無かったんだよね。そう考えると、やっぱり恐いとか思われてるのかな。まぁ良いや。
「ギンガ。響をお願いしますね。私は六課へ戻るけど……きっちりあの人を救って、ぶん殴って下さい。もっとうまい方法が合ったでしょうとか。もっと選択肢はあったはずだ、とか戻ったら皆で叱り飛ばしましょう。
そして、あいつのポケットマネーで御飯でも食べましょう?」
「……え、あ……」
「大丈夫。響を残したからって責める訳はないから。だから安心して、ね?」
ぎゅーっと手を握る。本当は私も行って救けに行きたい。だけど……それをすると今度はフェイトさん達が困ってしまうし、何より六課が大変な状況でそれは出来ない。
「……分かった。ちゃんと叱る為に行ってくる!」
「うん、お願い」
ちらりと紗雪を見れば、無言で胸を張ってのサムズアップ。こちらも安心できるね。
さて。
「よし先輩……じゃない、フェイトさん行きましょう!」
「うん、皆も気を付けて!」
地上へ上がる道をライトニングの皆で進んでいく。きっとフェイトさんも行きたかったろうけど……。
「かっこいい役はギンガ達に譲りましょう」
「うん、私達は六課の皆を助けるために、エリオもキャロも頑張ろう!」
「はい!」「帰ってお祝いするために!」
キャロが両手を上げてそう言うと、皆が笑ってしまう。
そうだったね、明日は……なのはさんやヴィヴィオのお祝いがあるんだ。だからこそ―――
明日をいつも通りに迎えるために、私は行くんだ!
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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