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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica51わたしが選ぶ道~Her choice~

 
前書き
どういうわけか、今更ながらにある言葉に打ち間違いがあったことに気付きました。
拳闘騎士フォアストパラディン。アレ、フォアストではなくファオストなんです。
以前、資料としてドイツ語の単語の載っているサイトを拝見したんですが、そこが間違っていたようです。

シャル
「いや。普通にドイツ語の辞書持ってるんだから、そっちを参考にしなよ」

いやだって、ネットの辞書に載ってるんだから正しいと思うでしょ? 

 
†††Sideイリス†††

ミヤビとアイリ、そして今なお本局医療部で入院中のルシルが逮捕したキュンナとグレゴール。あの2人も1日と意識不明だったけど、昨日意識を回復したってことで1日休ませてからの今日から騎士団による事情聴取が行われてる。そんな中、わたし達オランジェ・ロドデンドロンは、プラダマンテの聴取を任されていた。

「――両親を早くに亡くした私を育ててくれた兄に報いたかっただけ。兄の頼みは何だって聞いてきた。剣の腕を磨き、シュベーアトパラディンとして君臨してきた」

取調室でプラダマンテは遠い目をした。リナルド元団長は、子供の頃に存命していた父に連れられてグレゴールと出会い、その思想に染まってからはベルカ再誕を目指していたそうだ。そしてミッドチルダ地上部隊に何かしら思う騎士を仲間に引き込んでいって、最後の大隊を設立した。それが25年前。そんな昔から大隊が存在していたなんて・・・。

「だが・・・兄が、大隊が他者の命を軽んじるような事態が多くなってきたことで、私の中にずっと渦巻いていた疑念が強くなった。確かに悪には相応の罰が必要だ。殺されても仕方のない連中には死を。それについては私も同意した。この手で殺した者も何人もいる。しかし殺すに値しない者を殺害することには疑念があった。果てにはクローンを使って無実の人間に罪を被せ始めた」

その所為で汚名を着せられた人は数多い。でも昨日の本局と聖王教会の幹部による合同会見のおかげで、汚名を着せられた局員や騎士の無実が管理世界全体に知られることになった。元通りとはすぐにはいかないだろうけど、職務に復帰しやすいはずだ。

「そして最終的には、騎士団同士での戦闘を行うように指示を出してきた。ベルカ人を尊重し守るための戦いであったにも限らずだ。だから・・・」

「殺した。騎士団やベルカ人が総崩れになる前に・・・」

正直、今となっては最悪な結果だった。リナルド元団長を裏で操っていたグレゴールも、ベルカ再誕によってイリュリアを、レーベンヴェルトを再興させて女王とするべく生み出されたキュンナも、数時間後にルシルにボコられて、今や檻の中だ。

「イリス。私に自害の機会をくれないか? どれだけの間、牢に繋がれるか判らない今、早々に天へと旅立ちたい。もう・・・疲れた。兄を殺し、パラディンどころか騎士としても生きていけないのなら、私という意味はどこにも無い」

「~~~~っ!!」

フルスイングのビンタをプラダマンテにお見舞いして、胸倉を掴んで「ふざけんな!」怒鳴る。同席してくれてるルミナとアンジェが「ダメ!」羽交い絞めにして止めにきた。

「好き勝手やっておきながら、やる事ないから死に(やめ)ますぅ~ってか! 人生馬鹿にすんのもいい加減にしろ! 死に逃がさないから! 生きて最期まで罪を償ってもらう! パラディンじゃなくなっても、騎士じゃなくなっても! しっかり償って、戻ってきてよ! 剣の先生でもいいからさ・・・。そしていつかまた、剣を交えよう? 今度こそわたしが勝って見せるから」

「イリス・・・」

溢れてくる涙を袖で拭って、「ああもう。いったん休みましょ。わたしも頭冷やしてくる」わたしが席を立ったところで、ガチャっと聴取室の入り口のドアが開いた。

「お疲れ様、イリス、ルミナ、アンジェ。あとは私が引き継ぐわ」

「母様!」

「「聖下!?」」

入ってきたのは母様と、第一聖下秘書官のシスター・ツィスカだった。

「キュンナとグレゴールの聴取は終わったのですか?」

「ええ。先ほど、管理局に預けたわ」

騎士団での取調べの後は、局での取調べを行うことが決まってた。何せキュンナとグレゴールは管理局にも絶大なダメージを与えた犯罪者だ。向こうでもこってり絞られるはずだ。

「そういうわけだから、あなた達はもう休みなさい。いいわね?」

「「「はい・・・。失礼します」」」

母様に一礼をしてから退室して、3人揃って「はぁ」溜息を吐いてから廊下を歩き出した。とりあえず一昨日と昨日と今日の3日は休みで明日から仕事だから、このまま自宅へ戻ることになった。

「ルミナ、アンジェ。もうちょっとフライハイト邸(うち)に居てくれる? オランジェ・ロドデンドロンはまだ解散してないから、しばらくは、ね」

「ん、判った」

「ええ、判りました。ところで、今後の予定はどうするんですか? 2人とも」

「「予定?」」

「一昨日の会見で、聖下は局にも籍を置く騎士に対し、自由に局に戻ってもいい、そう仰っていました」

局と騎士団の両方に所属している騎士は、騎士団の管理局法からの脱退会見と同時に強制的に休職するよう言われ、活動を騎士団1本に絞るようにされてた。でも管理局の人事などを管理する総務部のトップであるリアンシェルトが、合同会見にて騎士の休職命令を取り消すことに同意した。これでわたしもルミナもセレスも、局員として仕事が出来るようになった。

「私はイリスの決めたとおりに動くよ。局員に戻って特騎隊を再始動させてもいいし、このまま騎士団に残ってズィルバーン・ローゼになるため動くか、オランジェ・ロドデンドロンとして第2の精鋭部隊としてやっていくか。どっちでもいい」

ルミナはわたしに付いていくって言ってくれた。わたしが特務零課――特別機動戦闘騎隊に誘ったとき、ファオストパラディンの称号を返上して、騎士団からも除隊してくれた。その恩は一生忘れない。だけど騎士団がこんなボロボロな今、わたしは・・・。

「アンジェ。アンジェはどうしてほしい?」

「私ですか?・・・騎士団のアンジェリエとしてなら、騎士団に留まるべきだと断言します。大隊側に付いた騎士たちについての処遇は、減俸と半年間の謹慎などなど。騎士団の弱体化は目に見えています。それに加え局に戻る騎士もいるでしょう。任務に赴けることの出来る団員の数が著しく少なくなるのです」

その事もあって騎士団はしばらくの間、以前のようにロストロギアの捜査と回収に専念することになった。あと自治領内の事件・事故の捜査とか。

「幼馴染のアンジェとしてなら、留まってくれたら嬉しいです、と思います。オランジェ・ロドデンドロンとしての活動期間は短いものでしたが、幼馴染と、それにルシルさんやアイリと共に過ごせた時間はとても楽しかったですから」

「うん。私も楽しかった。私たち幼馴染が揃って同じ部隊に属するなんてことなかったからね」

「わたしも楽しかったよ。一緒に事件を追って、帰る場所はフライハイト邸(うち)で、共通の時間を過ごしてさ」

オランジェ・ロドデンドロンとして過ごしてきた時間は、チーム海鳴と同じくらい面白くて楽しかった。でも・・・。

「結局は、イリスの思うがままに、ですよ。あなたがどんな決断をしても受け入れます。トリシュ達だってきっとそう言うと思います」

アンジェの優しい声と言葉にわたしは「ありがとう」小さく頭を下げて感謝した。

「あ、戻ってきた。お疲れ様、イリス、アンジェ、ルミナ」

「お疲れ~」「お疲れ様」

事前に決めていた集合場所だった教会本部の中庭で待っていてくれたクラリス、セレス、トリシュと合流。あの3人も、大隊に付いてた騎士や聖職者の事情聴取を行うことになってたけど、どうやら先に終わってたみたいで、わたし達も「お疲れ様」労いの言葉を返した。

「トリシュ、クラリス、セレス、次の聴取は?」

「今日はもうお終い」

「聖下の使いって人が来て、今日はもう帰って休んでいいって」

「私の元には兄様が来て、同じようなことを言われたの。明日からはオランジェ・ロドデンドロンも通常業務が始まるから、と・・・」

「通常業務と言っても、自治領内の秩序管理だけど」

あと、局からの応援要請が入れば、そっちに協力することにもなる。昨日、管理局法への再加入を果たした騎士団だけど、いくらクーデターによるものといえ管理局と敵対して、さらには迷惑を掛けまくった影響は甚大で、仲の良い局員が治めてる部隊(ナカジマ三佐の108部隊とか)じゃないと、たぶん応援要請は入ってこないって思う。

「そんなわけだから、今日はうちで休んでって。車で迎えに来るように連絡はしておいたから」

駐車場へと向かう道すがらトリシュ達にも、ルミナとアンジェにしたような今後についての質問をした。

「局に戻るか騎士団に留まるか、か・・・。ミヤビとの約束を思えば局に戻るのがいいと思うけど・・・」

「アンジェの意見もまた一理あり、ね。弱体化した騎士団もそうだけど、騎士団の象徴であるズィルバーン・ローゼの隊長、シュベーアトパラディンの不在もまた問題かと」

騎士の武器=剣というセオリーに従って、剣騎士こそ騎士の中の騎士ってことになってる。だから剣騎士最強のシュベーアトパラディンが一番偉いのだ。

「イリスはどうするの? シュベーアトパラディンは目標でしょ?」

「でも1度シュベーアトパラディンになったら、局員にはもう戻れないよ?」

「だから悩んでるんだよね~。正直、大隊側に付いていた騎士の大半が、練度の高い30歳より上の連中ばかり。剣騎士に至ってはA級の大半が裏切り者だった」

B級の中からシュベーアトパラディンを選出するわけにはいかない。なら残るA級のわたしがなるしかないわけで。でもそうしたらミヤビとの約束を破っちゃうし・・・。そう頭を抱えてると・・・

「ならミヤビを騎士団に誘ってみれば? 彼女強いし、ズィルバーン・ローゼに入隊にするには十分な実力だって思うけど?」

「そうしたらルミナの騎種と被るのでは? 彼女も拳闘主体の戦術だし」

「ルミナのツァラトゥストラって、腕輪の他にも十字架型に変形するでしょ? アレに刃を付けて斧とか鎌にすれば・・・。私が騎乗騎士、イリスが剣騎士、トリシュが弓騎士、アンジェが打撃騎士、ルミナが斧か鎌、ミヤビが拳闘騎士、槍騎士は・・・セレス?」

「私のデバイスの形状を言ってみてよクラリス」

「あと、いつ私が斧か鎌に騎種変更するって言ったよ」

あーだこーだとみんなが騒ぎ出す。そんな中、トリシュがわたしを肘で小突いて、『ルシルさんはどうするの?』って聞いてきた。そうなのだ。ルシル、それとアイリはきっと局に戻る。リアンシェルトの命令で、あくまで一時的に騎士団に出向していたに過ぎない。彼は内務調査部のエースで重宝されてる。だから・・・。

『ルシルは残ってくれないよ。前々から騎士団と局の両方に籍を置いてくれるように頼んでたけど、結局イエスは貰えなかったし』

『やはりみんなが揃って同じ部隊というわけにはいかない、と・・・』

ルシルが好きっていう同士にしてライバルであるトリシュも、ルシルとは離れたくないだろうけど、こればかりはどうしようもないと思う。

『うん。さすがにもう何かを諦めないとダメだね~』

さらに言えば、ルシルは局を辞めそうな気がする。“エグリゴリ”は残り2体。未だ行方の知れないガーデンベルグって奴、そしてリアンシェルトだ。本局の最高幹部入りを果たしたリアンシェルトの救済となれば、知らない人にとっては殺人と同義だ。

(ルシルの、セインテストとしての存在意義は、今や局と教会に知れ渡ってるとはいえ、リアンシェルトをエグリゴリだって言っても信じてもらえるかどうかも判らない)

となれば、ルシルは局を辞めて、わたし達の元から離れてくかもしれない。わたしにも至れる考えだ。フィヨルツェンがいなくなった今、はやても至っていてもおかしくない。だからと言ってどうすることも出来ないけど・・・。

「まぁとにかく。みんなは自分の思うがままに、往きたい道を進んでほしい。一緒の部隊にならなくても、心はいつも一緒だから」

わたしは答えを出せないまま、そう締めに入った。トリシュ達はパラディンになるって夢を持ったままでいてほしいし、ルミナとセレスは局と騎士団、どっちに付いてもいいし両方でもいい。

「イリスの言うとおりですね」

「うん」

「いま焦らなくても、イリスも30歳になれば騎士団に戻って来るんだし」

「それまでは・・・それまでは?」

「結局、シュベーアトパラディンの問題の解決にはなってない」

「誰がシュベーアトパラディンに相応しいか。難しいところね」

そんな話をしながら駐車場に到着したところで、「お疲れ様。面白い話をしてるわね」って声を掛けられた。声のした方に振り向けば、駐車場に隣接してる休憩所のベンチに座ってる「フィレス!」が居た。

「お姉ちゃん!」

母犬を見つけて駆け寄る子犬のようなセレスに続いて歩き寄りながら「お疲れ様でーす」って返す。そして今まで話してたシュベーアトパラディン問題についてを、フィレスにも話してみた。

「なるほど。確かにB級の剣騎士をシュベーアトパラディンに据えるのは、ちょっとまずいかもね。イリスは嫌・・・と言うより、まだ、って感じなんだよね?」

「うん、まあ・・・。騎士団が今大変なのは理解してるけど、もう少しだけチーム海鳴と一緒に働いていたいんだ」

部署も違うし、同じ任務に就けるわけでもないし、局を辞めても変わらないんじゃないかって思う。だけど局員として一緒っていう気持ちを味わってたい。そんな風に考えてしょんぼりしてると、フィレスが「よし、判った」ベンチから立ち上がった。

「イリスが戻ってくるまでの間、私がシュベーアトパラディンとして、騎士団のリーダーに立つわ」

ニコって満面の笑顔を浮かべたフィレスがそう言った。驚きはしたけど、それしかない、とも思ってしまったわたしは無言になっちゃった。

「た、確かにフィレスさんなら、名実共にパラディンには相応しいと思いますけど・・・」

「私のお姉ちゃんだもん、パラディンになったっておかしくないよ!」

えっへん!て胸を張ってるシスコン(セレス)は放っておいて、アンジェの言うようにフィレスならシュベーアトパラディンに相応しい。部隊を率いた経験も抱負だし、何より強い。

「ただ、イリス。あなたが騎士団に戻ってきて、シュベーアトパラディンになりたいと言っても昇格試験の時、私は本気であなたを潰しにいく。それ位の覚悟は出来てるわよね?」

「もちろん。八百長で譲ってもらおうなんて始めから考えてないよ。あと7年だけ、わたしに時間をちょうだい」

フィレスがシュベーアトパラディンになってくれる。それでわたしの気持ちも固まった。局に戻ろう。残りの時間を局員として過ごし、30歳の誕生日に合わせて騎士団に移る。それがわたしの人生設計だ。

「ま、しょうがないんじゃない?」

「ですね。親友の意思を尊重しましょう」

「それでは私たちは先にパラディンになっているから・・・」

「あとで追い付いておいで、イリス」

「じゃあ私も局に戻るよ。ミヤビとの約束を優先する」

「セレス。あなたも局の特騎隊に戻って。騎士団の活動は縮小されるから、多少の人材減衰でもやっていけるわ」

「・・・判った。お姉ちゃんがそう言うなら」

あとは父様の説得だけど・・・。これが一番苦労しそうだよ。溜息を吐いてると、フィレスは「ところで、ルシルの容態は? 彼、大丈夫なの?」って話題を変えた。みんなが一斉に口を噤んで、わたしへと目をやった。

「昏睡状態で本局医務局に搬送されてから3日経つけど、付きっ切りのアイリからは朝と昼と夜の3回、連絡があるけど・・・」

アイリの話だと、第2無人世界セラタプラの兵器実験施設にてキュンナとグレゴールを撃破したあと、眠るように意識を失ったみたい。そこから起こそうとしても目を覚まさず、アイリとミヤビはすずかとシャマルに連絡して、スカラボのトランスポートによる直通転送でルシルを本局の医務局に搬送した。

「ルシルが目を覚ましたという連絡はまだない、と・・・」

「うん。だから今後の彼についての話はまだ出来なくて」

「でもイリスは局に戻ることを決めたし、ルシルが騎士団を辞めても問題ないでしょ?」

「トリシュは置いてけぼり食らうけどね」

「・・・・・・はぁ」

セレスの言葉にわたし達がトリシュに振り向くと、思いっきり深い溜息を吐いた。トリシュにとっては最悪な展開だよね、これ。恨めしそうにわたしを見るトリシュから顔を逸らす。

「おほん! まぁ私のことはいいとして。離れるのは辛いけれど、ルシルさんが選んだことを尊重するだけ。それに戦闘後に昏睡状態に陥ったということは、それだけルシルさんの体に負担が掛かったということだと思う。ルシルさんと同じ隊で戦いたいと願うより、もう無理も無茶もしないでほしいって願うよ」

神さまに祈るように指を組んで目を伏せるトリシュ。その姿はとても綺麗で、思わず見惚れちゃった。そして自分自身には嫌悪した。ルシルと一緒に働くことを優先して、彼の体のことを心配するだけで気遣いもしなかった。

「トリシュの言うとおりかもね。しばらく休職くらいはした方がいいかも・・・?」

「それも含めて、ルシルの選択の尊重、か」

シュベーアトパラディンの問題が解決した後で起きた、ルシルに関する新しい問題。

「それで、どうすんのイリス? 本当にルシルが局を辞めるようなことになったら・・・」

「変わらないよ。確かにルシルと一緒って言うのも大事だけど、元よりわたしは、なのは達チーム海鳴のみんなと一緒が一番だった。そして大事な後輩、ミヤビとの約束。それが、わたしを局に戻ろうとさせる理由なんだ」

「そう。・・・よし。シュベーアトパラディンなんて面倒くさい、騎士団の象徴なんて柄じゃないって思いでずっと知らん顔していたけど、妹分たちが自分の夢のために頑張っているんだもの。私も頑張るわ」

フィレスはそう言ってわたしやみんなの頭を優しくポンっと触って、「それじゃそろそろ行くわ」って、さっきまでわたし達の居た本部へ去っていった。セレスは最後までその背中に「頑張ってねー!」って声を掛け続けた。
それからフィレスの座ってたベンチに座って、迎えの車が来るまで待ってると・・・

「お、来た来た」

リムジンが1台、駐車場に入ってきた。運転席にはフライハイト家の女中長の1人にして、わたしの義理の姉になる双子姉妹の姉、ルーツィアの姿がある。そんな彼女が運転するリムジンが、わたし達の側に停車した。

「お待たせしました!」

ルーツィアが降りて、後部ドアを開けてくれた。みんなが「ありがとうございまーす!」お礼を言って乗り込んでく中、最後のわたしが「ありがとね、ルーツィア」礼を言って乗り込んだ。そして一路フライハイト邸へと走り出す車の中で、みんなと談笑してるとコール音が鳴り響いた。

「あ、わたしだ。はい。フライハイトです」

通信に出て名乗っても、無言が返ってくるだけ。みんなと一緒に小首を傾げてると、『アイリだけど・・・』ようやく相手が、アイリが声を発した。でもなんか元気がないし、なんだろう、涙声っぽい・・・。

「アイリ、どうしたの? 何かあった・・・?」

胸がざわつき始める。涙声で元気のないアイリ。そんなアイリからの連絡と言うことはルシル関連というわけで・・・。みんなの顔も不安一色になる。

『マイス――ルシルが、ちょっと前に目を覚ましたの』

「うん、良かった、良かったね」

1度はマイスターと言いかけたアイリが名前に訂正しながら、わたし達にとっての朗報を口にした。うん、ルシルがその・・・死んだ、とかじゃなくて良かった。みんなもホッとしてるけど、でも完全に安堵した顔じゃない。

「ルシルさんに、何かあったの・・・?」

『・・・うん。・・・ルシルが・・・歩けなくなった・・・』

アイリの言葉に、わたし達は耳を疑った。 
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