魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第57話 賽は投げられる
「FWチーム集合ー」
「はい!」
気がついたら側まで来ていたなのはさんが号令を掛け、皆が集まる。今日のメンバーはロングアーチ組の4人とまだ帰って来てない2人を抜いた7人。
「さて、いつも通り個々のスキルを上げていきます! で、今日はスバルとギンガ。一度やりあってみようか?」
今日は打ち合うのか。ちゃんと見るいい機会だなーと。
「それじゃあ、今日も頑張ろー!」
「おー!」
掛け声と共にそれぞれがメニューをこなすために散っていく。
で、俺はぼんやり考え事してて残って、なのはさんは。
「ゼロレンジの格闘、見てあげてね?」
「……俺なんかで良ければ」
ちょっと教えようかなって思ってたのが、バレておりました。
――――
現在モニターを開いて見ているのは、スバルとギンガの模擬戦。
ただ、圧倒的というわけじゃないが、戦闘では大体がギンガの優勢だ。空にウィングロードを展開しての、疑似空中戦の中。素早い拳と蹴りのコンビネーションに、スムーズな技の繋ぎ。ここまでハッキリ別れるんだなと改めて認識する。シューティング・アーツに置ける、高速移動中の攻撃の繋ぎを最小にしながら、その速度を乗せた早い一撃。重さ破壊力と言うより、一閃を重視した熟練のそれだ。見ていて好感が持てるなって。
対してスバルは、まだまだ粗っぽいが、それでも攻撃をきっちり防いで、躱している。押されながらもしっかりと一撃を見合う用意もしてるし。
そして、ギンガが必殺の一撃を放つと同時に、スバルがそれを躱す。きっと少し前までのスバルなら防いでいたんだろう、だが、最近はなのはさんの射撃を捌く特訓が生きたんだと思う。
それを切掛に、立場が逆転。入るはずだった攻撃を躱され、わずかに体制をくずした所を、スバルのラッシュが始まる。単純なコンビネーションだが、きっちり魔力を練り込まれたそれは単純故に破壊力は抜群だ。
上手い具合に当たる場所にバリアを張って対応していたギンガだけど、何度か叩かれ破壊される。
何時だったか指摘したことがある。右手にリボルバーナックルつけてんだから、皆それに警戒する。だから、切札の1つとして……。
マッハキャリバーを限界まで加速させ、短いウィングロードを展開させての、加速させた右のハイキック。
それを教えた。だが今回使用したのは。
それの逆。左のハイキック。それはバリアを破壊したその勢いのまま、ギンガに当たる――
筈だった。寸の所で右の拳を蹴りの先端に当てて、わずかに軌道をずらし、盛大に空振り。その勢いのまま前に来た所を、スバルの顔面目掛けた、真下からリボルバーナックルの左のアッパーカット。
……が入る直前にどちらも静止する。これを持ってこの模擬戦は終わりとなった。
てか、気がつけば皆見上げて試合眺めてるし……なのはさんも嬉しそうに頷いてるのが印象だった。
画面の向こうではスバルが悔しそうにしているのをギンガが褒めてる所だった。
だが、ここでさっき逸らされたシーンをもう一度見て……把握。だけど、そうすると、だ。
スバルの強化プランは分かったけど、ギンガのプランが全く想像出来ないなぁと。なのはさんの教導を見ていると得意分野を更に伸ばしていく方向だというのが分かる。
けどだ、スバルは分かりやすいが、ギンガの場合既にある程度の高いレベルで纏まってる……。まぁ、俺が言う問題じゃないけど、今度それとなく聞いてみようかなーって。
『ぅあー、くーやーしーいー、勝ったらこの前の面白い話聞けたのにー』
『ふふふ、残念。また今度ね』
……そんな事賭けてたんかい、あの姉妹は……。
――――
なのはさんがエリオ達の所へ行ってる間に、スバルとギンガにさっきの反省点を伝える。と言っても普通に良い戦闘だった。ギンガは手数での攻勢、スバルは耐えて耐えての一撃を見舞う。本当にいいレベルに仕上がっててあんまり口出す必要はないかもしれないけれど……それでも気になった所は言っておこう。
「で、ギンガ? 最後の一発、どうだった?」
「うん。凄く良い一撃だった。疾くて鋭い。反応がギリギリ間に合ったもの」
……そっか、それだけか。
「で、スバル。最後の一発、逸らされた感想は?」
「……捉えたのにーって言うのが合ったけど、遅かったのかな?」
……なるほどスバルは遅いと捉えたか。
……難しいことになったなぁ。
「さて、じゃあ俺の見解ね。まずギンガについてはアレは満点だ。だけどスバルは……マッハキャリバーを少し重くしても良いかもね」
「……?」
こ、こいつ……首かしげやがった。何言ってるんだろうって感じで。
コホンと、1つ咳払いをしてから。
「あの一撃の速さはもう十分。振り回されること無く、きちんと狙えてたし、間違いなく完璧に限りなく近い一打だ。だけど、見てて思ったのが僅かに軽くて逸らされたようにも見えた」
そこまで言ってギンガが何かに気づいたように頷いた。スバルもなんとなくだけど返事をしてくれて。
「で、スバルの限界がどれくらいかは分からないから。そこんとこはマッハキャリバーと要相談。相談して強化プランを立てるも良し。スバル単独で立てるもよし。マッハキャリバーにまかせても良いかもね」
『let's do it together』
スバルの返答よりも先にマッハキャリバーが応えた。なるほど、スバル以上に、マッハキャリバーの方が現状を理解してるようだ。
「うん、やろう! そしたらマッハキャリバーと一緒になのはさんから指摘受けて、強化プラン考えてみる!」
「おう。頑張りなー」
そのままエンジンふかしてなのはさんが居るであろう場所へ走っていく。
さて。
「……響、私には?」
「へ?」
俺も行こうとしたらギンガに後ろから掴まれる。なんだろうと思って振り向いてみれば、凄く目をキラキラさせてるけど……。
「私には何かないかな? もっとこうしたら良いとか、こういうことがあるとか」
「……あー。そういう……」
キラッキラと目を輝かせて言うギンガを無下には出来ないし……。かと言ってあんまり強化させるのも俺じゃ思いつかんけど……。
なのはさんにも言われてるしな、一応あるっちゃあるけど……教えて良いものか。
ちらりとギンガを見れば、相変わらずキラキラしてるし、まだかなって待ってる感じだし。
仕方ない。……教えるか。
「ギンガ、俺らもこれの理屈はなんとなくでしか覚えてない。で、ギンガなら多分見せたらわかると思うから見せるぞー」
「……うん、うん?」
スッと適当な木の前に立つ。足を肩幅程度に開いて、少し腰を落として左の掌を添えて。
左足を僅かに持ち上げて……。
「フッ!」
踏み込んだと勢いを、足から腰へ、腰から肩へ、肩から掌へ伝達。全身の捻りを左へ伝えて撃ち込む!
「……凄い」
背後からギンガの声が聞こえた。
今したことは、シンプルに衝撃を打ち込んだ。メキメキと木が折れていくが、本来なら幹を文字通り撃ち抜く様にしたかったが、やはり難しい所だ。
さて。
「ギンガは捜査官だろう。何か合った時室内、屋内で戦う事が多いと思う」
「……うん」
「シューティング・アーツはその特性からさ。加速によって距離を詰め、かつ威力を高めた打撃による攻撃が必須となる。
だけど屋内で戦うことを考えると加速を十分に取れないかもしれない。だから、俺が教えられるとしたら、アドバイスできるとしたら。密着してても撃てるこの技しかないんだ」
「それって上手く行けば防御を抜いて攻撃できる?」
「出来るよ。むしろ、防御の上から撃つタイプだよ。これは無手での格闘では中々上位に位置すると思うが、俺は完成出来なかった。別の方を極めたいからね」
「……そう」
静かに左の拳を握って、見つめてる。だけどその表情は何処か嬉しそうで、楽しそうに見えた。
「繋がれぬ拳」
「?」
突然聞こえた単語に首を傾げる。それに気づいたギンガがニコリと微笑んで。
「私達の母さんの得意技。静止状態から加速と炸裂点を調整する撃ち方。極めればシールドもバインドも意味を成さなくなる。防御無効の技」
「……あー、そしたらいらないお世話だったか、ゴメンな」
「ううん。私はこれを左でなら撃てる。だけど右ではどうも上手く撃てなかったけど……」
スッと腰を落としたと思えば、先程の俺と同じように踏み込み、俺の背後の木へ右の一撃を見舞う。
メキメキと音を立てて折れる木をバックに、冷や汗が流れた。
今の一撃。構えたところまでは見えたが、その後の一閃を見切ることが出来なかった。
「ダメだね、これはまだ叩いてるだけ。響みたいには巧く行ってないよ」
「……や、上等だろ。俺はわかりやすく踏み込んであれだったけど、ギンガは普通にやってたじゃん」
「まだまだだよ。繋がれぬ拳の時も映像だけでなんとか物にできたもの。今度も必ずものにしてみせる。それにあまり動かないで撃てるのは貴重だしね。ブリッツもさっきの撮ってくれたでしょう?」
『Certainly sir.』
足にセットされてるブリッツキャリバーがキラリと輝く。ギンガも嬉しそうにその場で軽くシャドーをしてるけど。やっぱスパルと打って変わって技の繋ぎがスムーズだ。流石。
『今朝の訓練はここまで、皆集まって』
そんなギンガを眺めてる内に、既に時間が経っていたらしく、気がつけば訓練終了時刻。
なんというか時の流れは早いですなーと。
――side奏――
帰ってきてからの響を見ていると、正直面白……もとい、何時もと違った響が見れて、新鮮だった。
8日には、戻った日は帰ってきたのが夕方で、すっごく疲れた表情してて、幼馴染一同集めて言われたことに驚いたな-と。まぁ、これは置いといて。
9日には、ギンガがに徹しの打撃を教えてたのが印象深い。しかもスバルに強化プランの案をだしたみたい。
不思議なのが、フェイトさんが、近づく前に避けているようなそんな雰囲気を感じた。
何かあったんだろうな-と思うけど、機密っぽい任務に関係してそうだからあんまり聞けないんだよねぇ。
10日には模擬戦の前に、ずっとビル街のシミュレータを起動して飛んだり跳ねたり、一通り全力行動を繰り返してた。それこそ私でも滅多に見ないような、ビルとビルとの壁を蹴って高速移動だったり、最高速度からの急停止や、その逆を繰り返して……なんというか、感覚を取り戻そうとしてた様に見えるけど、何だったんだろう?
で、今日は響とギンガは先行して陳述会警備に出るんだけど。その前に……。
「……いや、これは……万が一にでも追い込まれてもこいつらは使わんな。お守りで持っておくけどさ」
先行して出る前にシャーリーさんから呼び出されるのを見て、FW組全員で来てみれば。何やら響の実家で見つかったと言われるアームドデバイスを響が受け取ってた。
緋色と黒の二振りの太刀。鞘自体は黒塗りのシンプルな感じなのに、刀身の自己主張と言うか、個性が眩しいし、何より綺麗だ。
だけど響はその二本を手にとって見た時に、凄く渋い顔をして、さっきの言葉を吐いた。
これには皆ビックリ。シャーリーさんもせっかく整備したのにって顔してるけど……。
「だってこれ……いやこの二本、まだ俺を主と認めてないし、斬りたい物は斬れないだろうし。それに―――」
静かに二本を鞘に収めてから、待機形態に戻した後で。
「この二本を扱える気がしない。それほどまでに凄い刀だ。流石、母さんが使ってたっていうだけのことはある」
嬉しそうで、何処か寂しそうにそう呟く響が印象的だった。
で、それからは急いで用意して、ギンガと一緒に行くことに。ただその前に幼馴染組全員集まって相談を1つ。
まず響自身忙しそうにしてたから聞けてなかったけど、響も震離の夢を見たのかその確認を行った。結論から言うと、見たとのことだけど、その夢は私達とは違った夢。小さな震離が泣いていて、成長したかと思ったら、にひゃりと笑っていたとのこと。
これには皆して、ますますわからなくなった。はやてさんからの情報で、震離と流が六課に帰ってくることは分かった。これで六課の守りは安泰だと思う。いよいよ出るって時に、紗雪から御札を2枚手渡されてた。向こうでも会うけど忘れない内に渡しておくとのこと。
それは転移札。紗雪の判断で、札を持ってる人を、対となる札を持つ人、もしくは貼り付けた場所へ転移させる便利な札。ただしキャロの召喚術とは違って一枚あたりのコストは凄まじいけど、用意することができれば紗雪の簡単なアクション1つで転移出来る優れものだ。
今回まででとりあえずFW全員に渡せる程度には作ったらしいけど……時間かかったんだろうなって。
それを受け取って、ギンガと響は出発してった。
で、そんな中で私達はと言うと。
「という訳で、明日はいよいよ公開意見陳述会や」
ブリーフィングルームにて、整列した私達……今回は特別に紗雪も参加して立ってる。そして皆の前に立つはやてさん……いや、八神部隊長がそう切り出す。いつものように優しい感じだけど、部隊長としての威厳もある。
「明日14時からの開会に備えて、現場の警備はもう始まってる。なのは隊長とヴィータ副隊長、リイン曹長とFW6名はこれから出発、ナイトシフトで警備開始」
「みんな、ちゃんと仮眠とった?」
「はい!」
元々聞いてた通り、しっかり仮眠は取りました。ただ私自身寝起きはあまり良くないので、最近は震離居ないし、起こしてくれる人が居なくて……ちょっと寝不足気味。
まぁ、それはそれ、これはこれだから、大丈夫です。一度寝たら起きにくい私ですが、起きてる間は寝にくいんですよ? 本当ですよ?
「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に集合して、現地入りする。それまでの間、皆よろしくな」
「はい!」
皆で部隊長に敬礼をした後、現場へ向かって移動を開始。
その際にふと気になったことがあったのが。屋上に着いた時に、ヘリの近くにアイナさんとヴィヴィオが来てた。眠るには若干早いとは言え、ここまで来るとは、なんか合ったかな?
つつつ、と紗雪がアイナさんの側に移動してこっそり話を聞いて、二人共困った様に笑ってる。一通り話を聞いた後、そっと戻ってきた。
「なんか合った?」
「ふふ、ヴィヴィオがね。お母さんの見送りをするんだって我儘言ったみたい。可愛いね」
「なーるほど、確かに」
ちらりと視線をヴィヴィオに向けると、なのはさんが腰を下ろしてヴィヴィオをあやしてる。もうしっかりと親子してるなぁと感じるよ。
まぁ……ヴィヴィオ来てからはなのはさん夜勤出動してなかったし、始めてだと不安にもなるよね。
「なのはママ、今日は外でお泊りだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから」
「……ぜったい?」
「うん、絶対に絶対。いい子にしてたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから。後1つ大事な大事なお話もあるから、ちゃんと帰るからね」
「……うん」
「ママと約束、ね?」
「うんっ」
小指で指切りげんまんをしてる高町親子を見ながら、皆の方を見る。親子のやり取りを見て皆ほんわかと笑ってる。ちょうどいい感じにリラックスできたなぁって。
(奏、紗雪。聞こえる?)
(ん、平気だよ)
不意に隊舎待機の時雨からの念話をキャッチ。なんだろうと紗雪と顔を見合わせてると。
(まぁ行ってらっしゃいってことを伝えたかったのと、紗雪には煌がちょっと落ち着かないってことだけ伝えておこうと思ってね)
(なにそれ? あの人は……もぅ)
他愛もないことだけど、何処と無く嬉しそうにする紗雪を見てちょっと羨ましい。あの二人……間違いなく出来てるし。私だって幼馴染なんだから見ていれば分かるし。
(ま、こちらには私達が、そちらには響や奏達がいるんだし。まぁアレだねー……気をつけて。それだけだよ)
(勿論。ね、紗雪?)
(うん、それじゃね時雨。煌には寂しいからって慌てすぎって言っておいて)
(はいはい、じゃあね)
念話が切れると同時に二人してまた笑い合う。よくよく考えれば私達としてもフルメンバーで何かに当たるっていうのは久しぶりなんだよね。ちょっとだけ気持ちが盛り上がってくる。
ただし、気づいてなかったけど、私と紗雪以外は皆ヘリに乗り込んでたのはちょっと寂しいなぁって。
―――
「それにしても、ヴィヴィオ、本当に懐いちゃってますね~」
「全く」
本部へ向かうヘリの中で、スバルとティアナが、屋上での光景を思い出したの様に笑みを浮かべながら話す。
「そうだね。結構、厳しく接してるつもりなんだけどなぁ……」
「きっとわかるんですよ。なのはさんが優しい、って」
「そうかなぁ……」
ヴィヴィオの気持ちを代弁するようなキャロの言葉を聞いて、隊長は照れ笑いを浮かべてる。厳しいって言っても、傍から見たらちゃんとお母さんだもんねー。ふよふよとリインさんがなのはさんの近くに移動して。
「もういっそ、本当になのはさんの子供にしちゃうとか!」
「……うん、もうそのつもりだよ」
一瞬ヘリの中でおぉって、歓声が上がった。何時も真面目なヴィータ副隊長もこればかりは驚いたように目を丸くしてる。
「実家に帰って子供を引き取るということの責任を聞いた。厳しい意見も、優しい意見も皆。いい子だもん。幸せになって欲しいよ。だからこそ私の事をママって呼んでくれるあの子を、私が責任を持って育てていくよ。それは絶対。
だから、戻ってきたら伝えるんだ。ちゃんとママになるんだって」
キュッと胸の前に拳を作る。なんというか、この前の休暇がいい感じになのはさんの影響を与えたんだなーと考えてみたり。ちょっと前までは「本当にいいところが見つかったらちゃんと説得するよ?」なんて言ってたのにね。
そんななのはさんの決意を知ってか知らずか。
「よーし。今回も無事終わったら皆でお祝い開こー!」
「おぉー!」
「えぇ~~っ!?」
スバルの一言に皆が手を上げて同意した。勿論私も紗雪もだ。そんな中で小さくヴィータさんも手を上げてるのはちょっといいなぁって感じた。
さ、今日もお勤めしっかりやりましょうかね。
――side響――
「9月ってまだ夏かなーって思ったけど、ミッドの9月は肌寒ぃね」
「そうねー。私には十分温まってるように見えるけど?」
「ほっとけ」
ひんやりと冷たい壁に寄りかかりながら、暖かいコーヒーをちびちびと啜る。安もん使ってるなーとか考えながらその暖かさに頬が緩んでしまう。
まぁ、そうでなくてもようやっと顔の赤みも引いたんだけどねー。だってギンガさんってば、俺の手を掴んでずんずんと進んでいくんですもん。周りからの視線が痛かったなぁって。
「寒くないか、ギンガ?」
「私はコート支給されてるからね。平気だよ、響こそ大丈夫?」
「寒いのは慣れてるし平気だ……っと」
不意に遠くから誰かが近寄ってくるのを感じる。だけどこれは……。
「ギンガ、ちょっとこれ持って待ってて」
「へ、あぁ……うん」
「あ。後は……そうだね。何があっても動くなよ?」
ギンガに飲みかけのコーヒーを渡してこちらから出向く。少し歩いた先には陸士の制服を来た二人組が来てた。
あんまり思い出したくもない面の二人が。
――sideギンガ――
突然響からコーヒーを手渡されたけど、なんだろう? 動くなよって言われたけれど、気になって少し離れて着いていったら。
「久しぶりだな、ヒオウ空曹?」
「お久しぶりですね、えーっと」
「今は准尉と曹長だ。空曹殿?」
……なんというか、大柄な……あ、シュッとした青髪のゴリラのような大男と。おさげでのメガネの小柄な女性。私より小さいんじゃないかなアレ。
だけど、なんだろう……間違いなく良い雰囲気ではないのよね。
「あぁ、失礼しました。アチソン准尉にトバイアス曹長」
スッと敬礼してるけれど……間違いなくアレはやる気のない感じだ。どういう関係なんだろう?
なんて考えてると、准尉が拳を振り上げて響を殴り飛ばした。
突然のことに頭が回らず、倒れた響を見て、駆け出そうとした瞬間。
(来るな!)
(で、でも!)
(いいから、待っててくれ。な?)
倒れて立ち上がる寸前にこちらに視線を向けられ、ビクリと反応してしまう。響と出会ってから見たこと無いような鋭い視線で射抜かれた。
「……なんのつもりでしょうか?」
「とぼけるな。貴様のせいでアヤ三佐はスカリエッティの元へ行ってしまった。どう償うつもりだ!」
……なにそれ? 響のせいでって……そんな、そんなわけない!
「さぁ、スカリエッティの元に行ったのはどういう思惑は知りませんが、自分のせいと言うのはわからないのですが?」
「とぼけるか。やはり魔法もない低能の世界出身は頭が悪くて困る」
「貴様が身を弁えずアヤ三佐に近づき、誑かした。その上で捨てた事。コレが貴様の罪だ」
響の問いに、准尉も空曹も眉間にシワを寄せ、不機嫌だと言うのを隠しもせず吐き捨てるように言う。
「昔から貴様はそうだ。身を弁えず我らに歯向かったと思えば、管理局に評価されたとか何とかで、除隊させられずにのうのうと残り、下らないことばかりしている」
「昔ってなんのことで……あぁ、皆で殴り込んだ日のことですか?」
再び殴られ倒れる。今度はどこか切ったみたいでポタポタと口からは血が流れてる。
だけど正直分からない。響達の過去……艦長代理をしてたと言うのは知ってたけれど、よくよく考えれば、私はその前の時代を知らない。
「……ふん、いいか空曹? 今回のことでそれが明るみとなる! お前は裁かれるんだ!」
「……そういうのは裁判所で行われることですよ。こんな日にわざわざするとは思えませんが?」
「黙れ。だが、まあいい。俺達のアヤさんが戻ってくるかもしれないんだ。精々首を洗って待っておけ!」
「加えてもう一つ。未だにその程度の実力でしたらさっさと地球とやらの辺境の世界に帰るとよろしい。田舎者なぞ、管理局には不要、だ!」
准尉が吐き捨てるように背を向けたと思ったら、今度は曹長が倒れてる響の顔を蹴り飛ばして、その場を離れていった。
あまりのことに私はしばらく呆然として、響が起き上がったあたりでようやく。
「響!」
「ん、あぁ。ゴメンなかっこ悪い所見せちまったね」
口の端から血を流しながら、にひゃりと笑う響を見て、慌ててハンカチを取り出して口元を拭う。
「悪い。血で汚してしまうな」
「いいから! でもなんで……」
やり返さなかったの?と聞きたかったし、なんなら今すぐ追いかけて抗議したいくらいだけど。
「あぁ、あれなー。訓練校時代の同期だ。そして、二世魔道士って言えば分かるか?」
「なっ……だからって……だからって!」
二世魔道士。そのままの意味で、親が管理局のそれなりの地位に居る人達の子供であること。私やスバルも大まかに言えばこれに入るんだろうけど……。
この言葉が意味するのは、親とは似ても似つかないほどのダメな人たちのことを差す。親の七光りで労せずそれなりの地位に行ける。今の准尉だってそうだ。明らかに響なんかよりも下のようなのに、既に准尉と言うのはおかしい。何より、会ってすぐに殴り飛ばすなんてありえない。
「いいよ。あんなの相手にする理由もないし……あ、コーヒー持っててくれてあんがとね」
「う、うん……それは、いいけど」
地面に座ったままの響に持ってたコーヒーを手渡す。そのまま一口含んで。苦々しく飲み込んで。
「痛ってぇ。染みるわ」
「……もう」
ケラケラと笑う響を見て、怒る気も失せてしまう。自然とハンカチを握る手に力が入る。さっきの二人組が言った事を鵜呑みにすることはないけれど……。
何で言い返さないんだろうって。真っ向から否定しないんだろうって思ってしまう……。
「さて、ちょっとトイレに行ってくる。あいつらが来る前に傷は……隠せないから、せめて血だけでも隠さないとね」
「……うん」
くしゃりと紙コップを握りつぶして、立ち上がる。その際に私の手を取って引き上げてくれるけれど。口の端が切れて傷になってる。
「すぐ戻るから、待っててくれなー」
「うん、いってらっしゃい」
後ろ手に手を振りながら、見送るけど……私の内はまだモヤモヤしたままだった。
――side奏――
「さて、皆に改めて連絡を。この札……転移札って言うんだけど。文字通りの転移をすることが可能です。ただし、そのタイミングは私でしか始動出来ないし、念話を貰ってからだと1秒……下手すればもっと長くなっちゃう。
これは私の事情なんだけど……魔力と気の切り替えの都合で起きちゃうラグ。だから……魔力戦闘中とか長くなっちゃうし、気を、あぁいや、私の意思でしか転移は出来ないし、1人1枚1回こっきりの使い切り。しかも、地上本部の敷地内くらいしか範囲はないっていうね。使い勝手悪いけど、これだけは誓うよ。
呼んでくれたら必ず呼び込む。キャロちゃんの様に何度も撃てるものじゃない、だからこそ――
何かあったら、危なくなったら呼んで。高麗流忍術の名にかけて。皆を後ろから護りましょう」
しんと、皆の視線が紗雪に集まる。改めて皆に一枚ずつお札を渡していって、ギンガもその説明を受ける。
流石に警備初めは皆緊張してたし、何より周りの目があったしね。警備が始まって早数時間。時刻も夜中を差してる中での皆を集めての報告会。
紗雪の術の改めて説明をしてる。召喚術に比べると制限も距離も多いし、短いけれど、それでも速度だけは勝る転移術。もう一つ機能はあるけど、多分使えないだろうから省いてるし。
ちなみに響はというと。
「お前も大変だな。そういう奴ら多いんだろ?」
「どうでしょう? 同期とはここに来るまで会ったことも、活躍を聞いたこともないですし」
「で、その様か。相変わらずで嫌になるな」
ヴィータさんと向こうでお話中。私にも皆にもころんだって言ってるけど、間違いなくアレは殴られた後だし。
ヴィータさんも気づいてるけど、響が特にって訳で抑えてるし。
それに……。
「俺達のアヤさんが戻ってくるかもしれない。たしかにあいつらはそういいました。だとすると、何かしらのアクションはあるでしょうね」
「……あたしはここに居れるが、なのはは中の警備に回されちまったしな」
ヴィータさんが言うように、なのはさんを除いた皆で外周警備に当たってる。響の言う通りだとしたら……。
「中の警備しろって言う割にデバイスの持ち込みもできねぇ。今何かあったら真直になのはの元へ行かないとな」
「警備しろって言っといて、中にデバイス持ち込み禁止ってどうなんですかね? まぁそれだけ守りにシールドに自信を持ってるって事なんでしょうけど」
……何かどんどん響とヴィータさんってば愚痴の方面に向かってるようだけど……。交代ありとはいえ、8時間以上警備をしているのに何か起こる気配は今の所は未だ無い。
多分ここの中で必要以上に警戒してる二人だからこそ、今こんなに愚痴ってんだろうなぁって。
「説明終わったよ」
ふと皆の視線が紗雪の方へ向くと、ティア以外の皆の目がえらく輝いてるように見えるのは何でだろう? 紗雪の肩に乗るリインさんも目を輝かしてる。ギンガも心なしかちょっと目が輝いてるし。
「忍者って凄いんだね~」
キラッキラの目をしたスバルを皮切りに、エリオとキャロも大きく頷く側で、気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く紗雪。
……ただ、多分他から見れば、あんまり表情変わってないように見えるかもしれないけど……。
「あ、紗雪照れてますねー? 可愛いですー」
「ん、そんな事ないですよ」
リインさんの指摘で、今度はちょっと顔が赤くなったなーって。それでもわかりにくいんだけど……。
「顔が赤くなってますよー」
「そんなはずはありません」
リインさんにバレたけど。こほん、と咳払いをして誤魔化す。でも、もうアレはダメだね。周囲から茶化すような視線貰ってるし。さてさて、どうなるかなー。
――――
で、この様ですよ。というか機動六課のメンバーが警備を始めてから結構な時間が経ち、現在の時刻は18時少し前のあたり。
再びなのはさんを除いた六課メンバーで集まって、エントランス入り口に集まって報告会。ただし……。
「とりあえずどこにも異常は無し、か。終わり際ほど、気を抜きやすいからな。しっかりやれよ!」
「そろそろ陳述会も終わりですから、ここからは皆で一緒に警備をするですよ!」
「はい!」
ここからは全員で警備にあたる。しかし……。
ふと、空を見上げて思う。
いやに静かすぎる、と。何というかこう……嵐の前の静けさと言うべきかな。そんな感じだ。
「じゃ、エントランスに報告に行ってきますね」
「おう、頼んだ」
はーっと、ため息混じりに響が言うと、ヴィータさんが許可をだす。私もって言いたかったけど……。
「あ、私もついていくよ。コンビで動いたほうがいいでしょう?」
「ん? あー、んー……分かった一緒に行こうか」
ギンガに先を越されちゃった。いやまぁ……コンビ設定してるのはあの二人だもん自然といえば自然だし、ギンガもそういう意図……あ、一緒にいたいだけか。顔が若干綻んでるし。
スバルもティアも小さくガッツポーズしてるし……くそう、先越されたー。
「ドンマイ?」
「……放っといてください」
ぽんと肩を叩いて、紗雪が笑ってる。
何だか眠いというか疲れからかな、報告に向かう響の後ろ姿がぼやけて見えちゃうし。
後はこのまま……無事に終わったらいいなぁって。
そういえば、アーチェが私もいるぜよって連絡飛ばしてくれてたなー。ただシスターって事もあって中の護衛に入っちゃってるけど。
懸念材料は確かにある。
響が聞いたという、本局内部の暗殺未遂。それを企てたのは掴まったが、それを実行した人、それを防いだ人、その狙われた人が分からないということを響は言っていたが。
はっきりと言ったのが。
――紗雪、お前暗殺から誰から守って、誰を守ったの?
決めてかかってたこと。
一応聞いた話によると、その守った人は鬼のお面、般若面を付けていたこと、加えて転移術を何度か使って移動したということで、紗雪だなと確信を持ったらしい。
で、その紗雪も。
――無限書庫の司書長さんを守って、相手は分からない。爪を装備してたよ。
あっさり認めたけど、すぐにその情報が伏せられていた理由が分かった。
無限書庫の司書長さんとは、ユーノ・スクライアさんだ。なのはさん達と関係の深い人物、この人が暗殺されかかったと聞けば、動揺すると分かっていたからずっと伏せられたままなんだと。
紗雪いわく、ホテル・アグスタに来ていた司書長さんの護衛役の、ヴェロッサ・アコースさんと、クロノ提督に伝えていたらしく、それ以降は無事に守られているらしい。
さて、その中でわからなくなったのが……転移札を用いて、潜伏も普通の場所ではないところを選ぶ紗雪の場所をピンポイントで見つけたという黒い狐の面の人。
そう、流の体を奪われたあの日に現れた人物の1人が関わっていたと言うこと。
しかも、こいつが持っている武装も不味いらしい。
対艦戦闘用重機関軍刀。
刃をカートリッジの様に、使い捨て同然に扱うが、一度点火し、斬り掛かれば艦船の装甲を断ち切る刀。
文句無しの質量兵器にカウントされる上に、その試作兵器は……私達がデータごと葬り去ったはず。
その上、これを作成しようと思えば、多大なコストとベルカ時代に使われていたという鉄鉱石を使わないと作れないし、代用品で作ろうにもリターンが見込めない代物というのに……。
そのアンノウンはそれを腰に下げていたということだ。
これがもし、何処かに流れていたオリジナルとすれば、最大出力は使えなくともある程度の出力で装甲に傷を付けれる程度を維持出来るということ。
対人に置いてはそれだけで驚異になる物をそいつは持っていることになる。
敵じゃなければいいが……それは理想論だと分かってる。
しかもこいつ以外にも、アンノウンはまだ本局……下手すりゃ地上に来てる可能性があると考えると……胃が痛いわー……。
ほんと、無事に終わったらいいなぁって。
――side?――
「……そっちは大丈夫そうか?」
「うん、幸い熱も下がったよ。見つけた時には酷い状態だったけど……これなら何とか繋げそうだ。そっちは?」
「安心して眠ってる。今は俺が表に出てるけどね」
「そっか。私もこの子に掛かりっきりだから分からないけど、そっちは上手く行った?」
「あぁ。だけど馴染むまでまだ数日掛かる。そっちも掛かるだろ?」
「うん、譲ったとは言え、ね。私はこの子に酷なことを……あ痛っ!」
「お前もその子も決めたことだろう。お前が救いたいと願った、その子は後の事を言われて考えて決めた。なら後はこの子たち次第だ、違うかよ?」
「そう、だね……でもどうする? 予言の日はもう今日だよ?」
「……大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる……ね。まぁそうなったら仕方ない。それよりもかの翼って……やっぱゆりかごの事だよな。それが心配だ」
「まぁね……賽は投げられた、か。まぁどうなるか見守ろう」
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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