ある晴れた日に
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648部分:悪魔その九
悪魔その九
しかし彼は去った。危機は何とか防いだ。だがそこに動けないままだった。
飼育小屋の前で動けない。その二人のところにだ。
「おい北乃!」
「桐生!」
皆が来た。そしてそのうえで二人に声をかけるのだった。
「無事か!」
「大丈夫だった!?」
「え、ええ」
「何とかね」
その皆のところに顔を向けて何とか言葉を返した。
「逃げたわ」
「僕達はここにいるだけだったけれど」
「御免、動けなかった」
「あいつのあの妖気に」
「私達もよ」
「それはね」
それは二人共同じだというのだ。
「足が竦んで動けなくて」
「身体も震えて」
「そうよね、何あれは」
「こんなのはじめてだけれどよ」
誰もが言った言いながら今になって。顔中から冷や汗が流れ出る。まるで気が尽きたかの様に。もう汗をかく季節ではないというのにだ。
「あんなことって」
「とても」
「けれど本当によかったわよ」
「そうよ」
まずは明日夢のところに茜と凛が来た。それで彼女を抱き締める。
「御免、私とても動けなくて」
「明日夢がそこにいたのに」
「いいわよ」
だが明日夢は抱き締める彼女を抱き返して。それで言葉も返すのだった。
「私だって。動けなかったし」
「だからなの」
「許してくれるのね」
「皆今ここに来てくれたじゃない」
彼女が言うのはこのことだった。
「だから。いいのよ」
「そう、有り難う」
「そう言ってくれたら」
「とにかくだ、よかったよ」
「全くだな」
桐生と同じ中学の野茂と坂上が彼に言ってきた。
「兎も小鳥も無事だったんだろ?」
「何とか」
「うん、それはね」
桐生はそう二人に答えた。
「何とかね、それは」
「よかったよ、本当に」
「何とかな」
それを言ってである。彼等は胸を撫で下ろした。そうしてお互いの無事を確かめ合うのだった。
だが校門では。丁度正道が登校して来ていた。そしてその前に。
彼がいた。丁度正対したのだった。
「貴様は」
「あれっ、僕って有名人?」
彼は正道の言葉を受けて軽い声を出した。
「そんなに目立ったつもりないんだけれどね」
「目立ったつもりはなくてもだ」
正道は明らかに怒っていた。それは確実だった。
その怒りに満ちた声のまま。また言うのだった。
「俺は貴様を知っている」
「そうなんだ」
「何があっても許しはしない」
こう言うのだった。
「それは言っておく」
「何のことかな」
「知らないとは言わせない」
背負っているのはギターケースである。しかしそれは既に剣になっていた。彼が背負っているものはまさにそれだった。そうなっていたのだ。
「未晴のことはな」
「またその名前出たんだ」
全く知らない、気付かないといった言葉だった。
「今日はよく聞くね」
「それだけか」
「他に言うことはないけれど」
あくまでそれだけだというのである。
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