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ある晴れた日に

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649部分:悪魔その十


悪魔その十

「別にね」
「だが俺はある」
 正道の目はいよいよ怒りを増してきていた。そうしての言葉だった。
「それは言っておく」
「話がさっぱりわからないままだね」
「わからなくともだ」
 今にも何かを抜きそうだった。だがそれをあえて抜かずにであった。
 言うのであった。
「貴様は絶対に許しはしない」
「別に構わないよ」
 首をゆっくり左右に動かしながらの言葉だった。
「じゃあ僕はこれでね」
 彼は正道の横を通り抜けていった。その動作は左右に揺れてやはり正常なものを感じさせない。しかもその時も妖気を放ち続けていた。
 彼が教室に入るとだ。皆おし黙っていた。咲の机の周りで項垂れる様にして座っているだけだった。もう気力は残っていなかった。
 だが正道は自分の席に着くとだ。ギターを静かに奏ではじめた。
 その音色を聴くとだった。皆不意に顔をあげた。そうしてであった。
「音橋・・・・・・」
「そのギターは」
「聴くか」
 ギターを奏でながらの言葉だった。
「この曲」
「ああ、そうだな」
「聴いていいか」
「その為に奏でている」
 そうだというのだ。
「だからだ。聴きたいのなら」
「わかった、それじゃあな」
「聴かせて」
「是非ね」
 彼のその言葉に乗った。そうして。
 彼のギターを静かに聴くのだった。それで彼等の心はかなり救われた。
 そしてその日の見舞いで。彼はその曲を未晴にも聴かせた。今日は病院の外の公園で。その曲を静かに。木々の落葉の中で奏でた。
 黄金や茶色の落葉が静かに降りてくるその中で。奏でるこの曲は。
 春華がその曲を聞いて。言った。
「思い出したよ」
「そうか」
「カヴァレリア=ルスティカーナだよな」
 それだというのだ。
「その間奏曲だったな」
「知っていたのか」
「だから今思い出したんだよ」
 このことは実にはっきりと話した。
「姉貴が持っているCDでな。あるんだよ」
「そうか」
「静かな曲だな」
 その曲を聴いての言葉だった。
「静かだけれど。それで奇麗で」
「この曲は好きだ」
 正道はまた言った。
「聴いていると。心が落ち着く」
「だからか」
「ああ、今朝もそして今も」
 彼は話した。
「奏でてみた。どうか」
「未晴にもいいと思うぜ」
 春華ははっきりと彼に告げた。今もベッドの上に半身を起こしてその中にいる未晴を見ながら。そのうえで彼に対して話したのだ。
「こいつもやっと動いたからな」
「この曲は」
 正道は曲についても話をはじめた。
「オペラの曲で」
「だから間奏曲なんだな」
「そうだ」
 今度は野本の問いに答えた。
「これはな」
「オペラがどんな内容かはよく知らないけれどな」
「それでも曲はいいか」
「ああ、いいな」
 いいというのだ。
 
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