ある晴れた日に
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633部分:桜の枝を揺さぶってその十一
桜の枝を揺さぶってその十一
「未晴にもこの色と香りは伝わってるし」
「そうよね」
「絶対にいいよな」
ここで花だけでなく未晴も見るのだった。
「ねえ未晴」
「見えてるわよね」
「感じてるよな」
彼女の周りにいて離れない五人の言葉は必死だった。その緑の葉と茨の中で咲き誇る様々な色の美しい薔薇達の中を進みながら。薔薇達は彼女達に笑顔を向けているかの様である。
「薔薇、好きだったわよね」
「お花だったら何でもだったよね」
「だから今も」
見えていて欲しい、感じていて欲しい、これが彼女達の想いだった。その切実な想いは彼女達の顔にもはっきりと出ているのだった。
「それだからね」
「次はコスモスだからな」
「あれも好きだったわよね」
「昔から」
「そうか、好きだったんだな」
未晴の車椅子を押し続けている正道が今の五人の言葉に問うた。
「コスモスよ」
「ええ、そうよ」
咲が真剣な顔で彼に答えた。
「コスモスも好きだから、未晴は」
「じゃあいいな」
それを聞いてまた頷く彼だった。
「余計にな」
「それじゃあ今から」
「行くんだな」
「ああ、今からな」
こうして皆でコスモスのところに向かう。すると野外のそのコスモスが咲き誇っている世界の中に入って。皆そこでまた話をするのだった。
「これが未晴が好きな世界なのよ」
「コスモスがね」
好きだと。また言う五人だった。細長い緑の枝にピンクや白のコスモスが咲き誇っている。皆その楚々と咲く花を見ながら話すのだった。
「ねえ未晴」
「見える?」
「見えるわよね」
また皆で話すのだった。
「コスモスな」
「好きなんだろ?」
「だったら」
「ねえ」
ここで奈々瀬が皆に言ってきた。
「皆いいかな」
「どうしたんだよ、急に」
春華が彼女の言葉に問うた。
「ここでまた」
「ちょっとね。考えがあるのよ」
こう話すのである。
「それをしたいけれど」
「そうなの」
「ええ、それでね」
言いながらコスモスの一つに入って。そうして言うのだった。
「コスモス動かしてみない?」
「コスモスを動かす?」
「どうやって?」
「こうしてね」
言いながらそのコスモスの花のところを軽くもって。ゆっくりと左右に動かすのだ。その動かす様子を皆に話してさらに告げるのだった。
「どうかしら、これで」
「コスモスを動かす」
「そうなの」
「どうかしら、これで」
ここでも皆に告げる。
「このお花をこうしてね」
「揺らして未晴に見せるの」
「そうやって」
「未晴が見るようにね」
そうだというのである。
「ゆっくりとね」
「わかったわ。それじゃあ」
「俺もな」
「私も」
皆一人、また一人と前に動いた。そうしてであった。
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