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ある晴れた日に

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634部分:桜の枝を揺さぶってその十二


桜の枝を揺さぶってその十二

 コスモスのところに入って。それで未晴に見せるようにそのコスモス達を揺らしてみせるのだ。それを皆でするのであった。この時正道はつい車椅子のハンドルのゴムの部分を外してしまった。慌ててそれを元に戻すがこの時その裏側に病院の名前が書いていることに気付いた。しかしこの時はそのことに何とも思わなかった。だが覚えてはいた。
「ねえ、これで」
「見えるわよね」
「コスモスが」
 あらためて未晴に対して問う。その彼女にだ。
 未晴は反応がない。しかしだ。
 それでも皆でしていく。あくまで彼女に見えるように。
「見えてるわよ、絶対に」
「竹林さんにもね」
 先生達はあえて動かなかった。ただ未晴の左右にいるだけだ。
 正道はその彼女の後ろにいる。やはりそこで動かない。
 しかしそれでも。未晴に対して言うのだった。
「見えるな」
 その返答のない未晴にだ。声をかけていく。
「皆未晴の為にしてくれているからな」
「そうよね」
 それは晴海も見ていた。涙を流しそうになっていた。
「皆未晴の為にここまでしてくれて」
「私はですね」
 医師がここでその晴海に言ってきた。
「今まで見たことはなかったです」
「見たことは」
「ここまで一人の為にしてくれる人達はです」
 こう言うのである。
「今まで。こんなことは」
「そうなのですか」
「私もです」
 今度は看護士も言ってきた。
「娘さんにはきっと伝わっていますから」
「そうですね」
 晴海はその今にも泣き出しそうな顔で二人の言葉に応えた。
「それは」
「だからきっと」
 医師はまた告げてきた。
「娘さんはきっと」
「そうですね。未晴は」
「絶対に、また」
「未晴、見ているわよね」
 神にすがるような、そんな顔になっていた。その顔で娘に声をかける。
「皆貴女の為に。してくれているから」
「見てくれ」
 正道は車椅子を動かした。そうしてその彼女にそのコスモスを全て見せるのだった。コスモスの正面にそれを動かしていってである。
 未晴は動くコスモスの前に来た。そうしてそれを見る。
 相変わらず反応はない。しかしであった。
 ふと何かが動いた。そういう風に見えた。
「えっ!?今」
「ええ、確かに」
「動いたわ」
 最初に気付いたのはやはり五人だった。
「未晴、今確かに」
「動いたし」
「間違いなく」
 それを言うのだった。未晴の何かが動いたのを察したのだ。
 だが何が動いたかはわからなかった。それはまだだった。
 しかしここでまた。未晴は動いた。眉が僅かだが動いたのだ。
「反応がある・・・・・・」
「確実に」
「だったら」
 皆それを確かに見た。そうしてだった。
「未晴、見て」
「もっと見て」
「ほら、コスモス」
 五人が必死に彼女に声をかけていく。
「見えるわよね、あんたの好きなコスモス」
「こうして咲いてるから」
「見て」
 こう告げていくのだった。
 そして正道も。彼女に告げる。
 
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