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ある晴れた日に

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632部分:桜の枝を揺さぶってその十


桜の枝を揺さぶってその十

「だから気にしないでいいよ」
「そういうことだからね」
「それでだけれど」
 そして先生達はその優しい顔と声でさらに彼等に告げてきた。
「今は薔薇を見るのよね」
「ここを」
「はい、そうです」
 正道が先生達の問いに答えた。その未晴の車椅子を押しながら。
「こいつに見せたくね」
「いいことね、それは」
 田淵先生が彼の言葉を受けて微笑むのだった。
「是非。そうしてね」
「ええ、それで」
 彼はさらに言うのであった。
「その次ですけれど」
「あっ、次よね」
「次何処に行くんだ?」
「音橋、それもう決めてるか?」
「決めている」
 皆に対して一言で答える彼だった。
「もうな」
「じゃあ一体今度は何処に」
「この薔薇園の次は」
「桜だ」
 そこだというのである。
「桜を見に行く」
「えっ、桜!?」
「桜っていっても」
 皆今の彼の言葉には一斉に怪訝な顔になった。
「幾ら何でも桜は」
「そうよね、幾らこの植物園でも」
「ちょっと、っていうか」
「かなりじゃねえか?」
 無理ではというのである。
「それはないんじゃないかしら」
「だから。それは幾ら探しても」
「秋の桜だ」
 しかし彼はここでこう言った。
「それを見に行く」
「秋の桜って」
「ってことは」
「コスモスだ」
 それだというのである。
「そこに行く」
「コスモスかあ」
「そこに」
「いいんじゃないかしら」
 江夏先生は正道の今の言葉を受けて静かに頷いた。
「それで」
「そうですよね。あの花だったら」
「コスモスはいい花よ」
 田淵先生の言葉にも微笑んで返すのだった。その顔は微笑みになっていた。
「見ているだけで落ち着く花だからね」
「だからこそ心にもいいよ」
「そういうことよ」
 まさにその通りだという。
「だからね。コスモスでいいと思うわ」
「わかりました」
 先生達に言われてまた静かに頷く正道だった。
「それじゃあ今から」
「ええ、今からね」
 こうして今度はコスモスの場所に向かう。皆そこに向かいながら未晴の周りにいて彼女にも見えるようにしながら薔薇の中を歩いていく。
 その薔薇の香りは何処までも甘くかぐわしく。皆を包んでいた。
「香りだってね」
「そうよね」
「とてもいいし」
 様々な色で咲き誇っているその薔薇の香りの中での話だった。
 
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