ある晴れた日に
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615部分:やがて来る自由の日その五
やがて来る自由の日その五
「ねえ少年」
「何?」
「有り難う」
彼女に対して礼を述べたのである。
「おかげでまた元気を貰えたわ」
「だから御礼はいいわよ」
「いえ、けれどよ」
それでもだというのだ。そして自分が持っている皿の上の桃を食べてから彼女のところに近付き。そのまま強く抱き締めたのであった。
「本当に有り難う」
「凛・・・・・・」
「未晴も大事だけれど少年も大事よ」
抱き締めながらの言葉である。
「何かいつも助けてもらって」
「私も。凛にはね」
「私も少年を助けてるの?」
「いつも困った時助けてくれるじゃない」
明日夢も凛を抱き締める。背は凛の方がずっと高いがそれでも強く抱き締め合っている。
「同じよ。私もね」
「そうなの。私もなのね」
「自分では気付いてなかったのね」
「ええ、それは」
凛は自分がしているいいことにはあまり気付かないタイプなのだった。ただし自分がしている悪いことにはかなり注意はしている。そうした意味で悪い娘ではなかった。
「ちょっと」
「じゃあ今気付いたのね」
「そうなのね」
「よかったじゃない。けれどそれは私にだけじゃないわよ」
「少年にだけじゃないの」
「未晴にもよ」
ここでまた彼女の名前を出す明日夢だった。
「未晴にもね」
「助けているっていうのね」
「その時の未晴の言葉楽しみにしていて」
明日夢は凛にだけ言っているのではなかった。
「きっとね。楽しみにしていてね」
「ええ。だったら」
「絶対にその日は来るから」
彼女自身も確信している言葉だった。
「絶対にね」
「そうね。絶対にね」
凛も彼女の今の言葉に応えた。
「来るわね、その日がそうよ。だからね」
「わかったわ。じゃあ本当に未晴の前で悲しい顔を見せないから」
そのことも決めたのだった。皆その未晴の為に必死になっていた。
そしてここで。最も必死になっている彼が来たのだった。
正道はそこに来てだ。まずは皆に対して静かに告げた。
「早いんだな、今日は」
「ああ、ちょっとな」
「今日はタイミングよく来られたから」
「だからか」
皆のその言葉を聞いて頷いた正道だった。やはりその背にはギターを入れてあるそのケースを背負っている。それは常であった。
「俺は今は」
「どうしたの?今日は」
「御前の方が遅かったけれどな」
「植物園に行っていた」
その植物園である。
「未晴を連れて行くことで話をしていた」
「あっ、そうか。入院してるから」
「入るのには許可が必要なのね」
「だからなんだな」
「そうだ。それで許可を貰ってきた」
それはもうだというのだった。
「許可をだ」
「じゃあ今週の日曜にいよいよ」
「未晴を」
「連れて行く」
ギターを自分の前に置きケースの中から出しながらまた述べた。
「本当にな」
「じゃあ俺達もな」
「一緒にね」
「言っていいよな」
皆ここで彼に告げてきた。
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