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ある晴れた日に

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610部分:アヴェ=マリアその十


アヴェ=マリアその十

「少し考えていることが」
「外に出ていることじゃなくてなのね」
「はい、そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「花、見せたいです」
「お花を」
「皆で」
 皆もだというのだった。彼は。
「それは駄目でしょうか」
「お花をなのね。未晴と皆で」
「皆と一緒なのがいいですから」
 また言う正道だった。
「近くの植物園で」
「八条大学のあの植物園かしら」
「そこで、って考えてます」
 具体的な話になる。まさにそうなのだった。
「俺は」
「それもしてくれるのね」
「駄目ですか、それは」
 ここまで話してあらためて晴美に問うのだった。
「それは」
「そこまでしてくるの」
 これが今の彼の考えに晴美が最初に返した言葉だった。
「未晴の為に」
「そこまで、ですか」
「こうしてお外に連れ出してくれるだけじゃなくて」
 その言葉の中にあるのは感謝だった。それであった。
「そうしたことまで」
「はい、今は考えているだけですけれど」
 今はそうであるがだった。これからだというのだ。
「それで」
「御願いできるかしら」
 また言う晴美だった。
「そのことも」
「それじゃあそれで」
「未晴の為にそこまでしてくれるのね」
 立ったままずっと娘を見続けている。その視線の先は変わらない。
「この娘の為に」
「決めましたから」
 だからだというのだった。
「俺はそうするって」
「本当に有り難う」
 ここでまた礼を述べた晴美だった。
「そこまで考えてしてくれて」
「それは」
「未晴の心にもきっと届いているから」
「そうです。ですから俺も」
「ここまで想ってくれて」
 晴美の言葉はさらに続く。
「未晴は幸せだわ」
「いえ、まだ幸せじゃないです」
「まだなのね」
「こいつはまだ起き上がっていません」
 だからだというのだった。
「ですから」
「だからなのね」
「絶対に幸せにします」
 言葉はさらに強いものになっていた。
「何があっても」
「私も」
 そしてそれは晴美も同じ決意だった。
「未晴をまた幸せにするわ」
「そうですか」
「皆も同じ気持ちなのね」
 そのことにも思う彼女だった。
「咲ちゃん達も」
「あいつ等も絶対です」
 そうだというのだった。
「こいつと一番付き合いが長いですから」
「そうね。だったら」
「皆同じです」
 また言う彼だった。
「本当に」
「そうね。それじゃあ」
 こう話をしてそれで行くのだった。正道も晴美も。向かっているもの、目指すものは同じだった。


アヴェ=マリア   完


                 2009・12・7
 
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