ある晴れた日に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
604部分:アヴェ=マリアその四
アヴェ=マリアその四
「校門に待ってたのよ。雨だって降ってたのに」
「雨もね」
「それでも待っていてくれたの。傘をさして皆も呼び止めてくれて」
「未晴がなのね」
「そうだったの」
まさにそうだったと。話をしていく。
「未晴。私の為に」
「・・・・・・・・・」
「その未晴が大変なのに。未晴があんな状況なのに」
声が泣いてきていた。そうしてそれが次第に止まらなくなっていた。
何時しかそれ目にも移って。涙が溢れていって。
「・・・・・・逃げようとした。未晴から」
「逃げようとしたのね」
「・・・・・・うん」
「けれど今はどうなのかしら」
恵美はここで泣く奈々瀬に対して言ってきた。
「今のあんたはどうなのかしら」
「今のって」
「何で今ここにいるのかしら」
言葉が少し具体的なものになっていた。
「あんたは今。どうしてここにね」
「どうしてここに」
「そうよ。今ここにいるのはどうしてかしら」
「それは」
「それで未晴のことも話してるわね」
このことも言ってみせたのだった。彼女に対して。
「それはどうしてかしら」
「どうしてか」
「未晴のこと好きよね」
「ええ」
これは答えられたのだった。素直に。
「好きよね、それは」
「嫌いになったことはないわ」
それがなのだった。
「そんなことは一度もね」
「それで素直に言ってみて」
「素直に?」
「今はどう思ってるの?」
あらためて彼女に問うたのだった。
「未晴を。どう思ってるの」
「できることしたい」
俯いたままだったが確かに言った。
「私のできるだけのことをして未晴を助けたい」
「言ったわね」
ここで微笑んだ恵美だった。
「そのこと。言ったわね」
「・・・・・・うん」
また恵美の言葉に頷いた彼女だった。
「やっぱり。未晴の為に」
「飲みなさい」
これまで以上に優しい言葉だった。
「この紅茶。お代わりもあるから」
「有り難う」
「お茶はね。何の為にあるものか知ってるかしら」
「何の為?」
お茶を飲みはじめたところで恵美の言葉に応えた。
「それって」
「お茶は飲む為だけにあるのじゃないの」
こう言うのだった。
「飲むことで自分の心を開く為にあるのよ」
「心を開く為に」
「心が開いたわね」
その奈々瀬と紅茶を見ながらの言葉だった。
「今。開いたわね」
「ええ。じゃあ」
「明日。学校に行きましょう」
ここでも優しい言葉だった。
「明日ね」
「ええ」
恵美の言葉にこくりと頷く。まだ涙は流れたままだった。しかし顔は上がっていた。そうしてその顔で紅茶を飲んでいくのだった。
その朝咲達はそれぞれのテーブルにいた。そのうえで沈黙を守っていた。
しかし野本達三人は一つに集まっていた。その彼等に桐生と竹山が声をかける。
「そっちは」
「いいみたいだね」
「へっ、踊ったらなおったぜ」
野本が三人を代表して笑って言ってみせたのだった。
「一昨日までの俺と同じだぜ。そう思っておきな」
「俺もな。何か気が変わった」
「俺もだ」
坪本と佐々も笑って言ったのだった。
ページ上へ戻る