兄のこと
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第二章
「いいわ」
「そうですか」
「事実だから、あの方も父上も」
教皇であった彼もというのだ。
「誰からも許されないことを多くしてきたわ」
「教皇様も」
「あの方も」
「ええ、そして想いを適えられず」
イタリア統一の野心、それをというのだ。
「倒れられたけれど」
「はい、ご無念だったでしょう」
「あの方も」
「あと少しでしたから」
「そう思いますと」
「私もそう思うわ。私にしてもね」
ルクレツィア自身もというのだ。
「あの方にはね」
「随分と、でしたね」
「色々な目にでしたね」
「ルクレツィア様も」
「そうだったわ」
政略結婚の道具にされてきた、最初の結婚はすぐに別れさせられてだ。二度目の結婚の時はというと。
「愛する人を殺されたりもしたわ」
「あのことですか」
「アルフォンソ様のことですか」
「私は助けたかったわ」
アルフォンソ、二度目の夫であった彼をというのだ。
「それでもね」
「それが適わず」
「そうしてでしたね」
「憎んだわ」
兄、彼のことをというのだ。
「今だから言えるけれど」
「左様でしたか」
「あの方のことを」
「あの時は」
「愛しい人を奪われて。まさに我が道の為なら」
例えそれがどれだけ非道な行いであってもだったというのだ。
「手段を選ばれなかったから」
「そしてルクレツィア様もですね」
「あの方が我が道を歩まれる中で」
「度々そうだったわ、そしてまた結婚をして」
三度目の結婚、それを経てというのだ。
「今に至るわね」
「左様ですね」
「その時からですね」
「ルクレツィア様はこちらにおられますね」
「そしてこの場にいて」
そうなってというのだ。
「私は今とても落ち着いているわ、そしてその中で」
「あの方のことを思い出され」
「お話されていますね」
「今のことを」
「そうよ、色々とあったし。神もね」
彼はかつては枢機卿、教会の中でも教皇に次ぐ地位にある者のうちの一人であった。緋色の法衣を身に纏っていた。
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